ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
第七節 性の世界 その2
「……いいにおい……いいにおい……すごい、アリシアさんのは……こういうにおいがしたんですね……」
股間に顔を伏せたアキトは陶然とした面持ちで、声をせつなげにしてしきりに訴えかけてくる。
しかしどんなに愛でられても、こうして言葉にされるのはセックスの経験の浅い女にとってはむしろ陵辱となるもの。
アリシアは赤面した顔を両手で覆って辱めに堪えていた。
「いわないでっ……いわないでください……羞しい……ううっ……」
「どうしてですか? こんなにステキなのに……ボクがずっと想っていたとおり……いいえ、想っていたよりももっとずっとステキです……こんなにきれいな女の人が……ステキな女神さまがこんなにいいにおいをさせているなんて……ボク、キミのことが愛しくておかしくなりそう……」
少年の言葉は、そのまま思いのこもった行為になって舌と唇が潤んだ襞に寄り添い、哀しい尖りも柔らかな熱い粘膜の中に包まれる。いちばん敏感な部分が少年のお口の中で愛情たっぷりの歓迎を受けると、もう身も心もとろけてしまいそうだった。
「ああ……あたしっ……」
やがてアリシアは自分が再びたどりつくことはないだろうと思うほどの高みへと誘われ、そして深い淵へと突き落とされた。
二度、啼いて、二度、涙した。
体の奥から熱が産まれて何かが溢れて流れだしていくような不思議な感覚に怯えながら。
初めて知った女の歓びと、そして哀しみ。
それを少年の口の中で迎えたのだった。
十四歳の男の子の顔前にあられもなく大きく脚を開いて、女の秘肉をさらけだしたままの、その恥ずかしい姿で。
愛撫の余韻にわなないて起伏する胸と腹のやさしい曲線。
男の手の上でふっくら張りきった若々しい尻がピクピクと愛くるしく痙攣している。柔肉に浮きたつ肋骨と蝶の形をした腰骨のラインが、少女のようにかぼそく痛々しい。
少年はねぎらうように、いまだ歓びの熱のさなかにあるアリシアのなめらかな下腹部をゆるりと撫ではじめた。ふんわりした黄金色の和毛の中に幼い鼻先を潜り込ませて、しくしく嗅ぎまわりながら、また熱っぽくて柔らかいものがひそやかな襞の間を上下しはじめる。
これが、セックス――?
男の子と愛し合うっていうこと?
こんなに恥ずかしいことをして、みじめな気持ちになることがそうなの?
アリシアは瞳を潤ませて心細げな声で少年の名を呼んだ。
秘密から顔を離して傍らにきて欲しい、と。
もう自分だけが孤独に導かれるのは嫌だった。
が、開かれたままの股間で少年はアリシアの不安をさらにかきたてるようなことを言う。
「もうすこしだけ、このままだともったいないですから」
言葉の意味を怪しむ間もなく、アリシアの悪い予感はすぐに的中する。
不意にじゅるっと水っぽい音が奏でられ、そこがすっかりしどけなくなっているのがわかって泣きたくなった。
「ああ、ひどいっ……あたし……」
「そんなことありません、ボク、本当にうれしくて。アリシアさんの体がこんなに凄かったなんて……女のコの蜜だってとっても量が多くて、おいしくてお口がとろけちゃいそう……」
「いわないでっ……ああ、どうして……あたしっ……」
女の体の脆さ、肉の身のあさましさがうらめしかった。
三度目となる長い辱めの末にようやく解き放たれたアリシアはアキトの腕の縛めから逃れて開かれたままだった両脚を閉じ合わせた。
夕暮れの睡蓮のように優雅なしぐさで長い内腿を重ねる。
けだるい体をごろんと返して横臥した。
が、添い寝になったアキトに顔を覗き込まれると、すぐにひしっと抱きついて胸の中に逃げ込む。
なんだか自分が小さくなってしまったようだった。子供だとばかり思っていた相手の男の子をずっと大きくたくましく感じている。
もう彼の顔が眩しくてみられない。その幼い顔がいままで自分の秘処と接していたと思うと恥ずかしくてたまらなかった。
それ以上に少年が纏った移り香がやりきれなくさせている。
ほかならぬ自身のものに違いない淫らな臭いを感じると、とりみだしてしまいそうになるのだった。
清められていない女の陰部の、みにくい秘臭――。
そうしたきわどい事情を含めて何もかも相手に知り尽くされて、取り返しのつかないことをしてしまったようで悔しくて哀しかった。
女の矜持を奪われて自分が空っぽにされたような気がしている。
「かわいい……アリシアさん……」
「………」
少年はしきりに彼女の髪に顔を埋めて、そこにもキスを落としていた。
「やっぱり泣かせてしまったみたいですね……」
頬をあてた肌ごしに彼の言葉が胸に響く穏やかなハイバリトンになって聞こえている。
「……なんてひどい……あなたが、こんなに悪い人だったなんて……」
恨み言をうったえた。
「ボク、ワルいですか?」
けれども少年の両腕にぎゅうっと強く顔を抱きしめられていると、胸の奥からいろんな気持ちがこみあげてきて気が遠くなりそうなのだった。
哀しみや怒り、悔い、嘆きや諦めといった負の感情が、あふれだした熱い思いによってひとつひとつ燃えていく。
「……あんなに……いけないことして……もっと、いい子だと思っていたのに……」
「そうですね、ひどいですよね、アリシアさんのやさしさに甘えて、いきなりクンニリングスをするなんて……でも……本当に欲しかったから……ゴンドラに乗るキミの姿を初めて見た時からずっと、ボクの夢だったから……アリシアさんのにおいとお味を知るのが……」
「いやぁっ――」
アリシアは露骨な物言いを聞くまいとするように強く頭を振る。寝乱れた金髪が乱れて、ほつれた髪が数本、汗ばんだ額や頬に貼りついて常とは違う表情になっていた。
男のお腹あたりで乱れた息つかいに合わせて豊かな胸が、肉の柔らかさもあらわにはちきれそうになっている。
頤に指をかけて顔を上向けようとするアキトの手を拒んで、拗ねた少女のように肩を頑なにする。
胸の中に身を寄せて篭城する耳許に、またとても淫らなことをささやきかけられて、途端にアリシアは驚きに目を見開き、再び恥ずかしさに顔を真っ赤にするのだった。
「イヤよっ――!……そんなことっ……」
少年が口にしたのは女にとって無慈悲な辱めであり、デリカシーのかけらもない散文的で露骨な感想、彼女の性器のなりたちについての賛辞を含む猥褻な提案だった。
それはアリシアがこれまでずっと無垢であったが故に誰にも知られることなく、肉うろにひっそりと守られた本人にすら自覚されていなかった分泌物などの残滓についてのこと。
たとえアキトの言葉に嘘や偽りはなかったとしても、心からのものであったのだとしても、それでも彼女は傷ついていた。
女であれば当然感じる激しい羞恥と後ろめたさに。
きっと彼はそれが判っていて、こんなことを言っていじわるをしている――と、恨めしく思う。
女の機微に通じた利発な少年が気づかないはずはなかったからだ。
「バカ……」
「だってアリシアさんがボクに
「イヤよ……ぜったいにイヤ……」
少年がそんなものを欲しがることが理解できなかった。
恥垢――を集めたいだなんてっ!
「どうして必要なんですかっ!?」
アリシアの抗議は半ば悲鳴になっていたかもしれない。感情を乱して、どこまでも素の自分をさらして。
「だって一生に一度の……女のコの時のアリシアさんのにおいのするものだから……」
唖然とさせられる物言い。
でも――。
もちかけるアキトの胸も不安なためなのかドキドキと脈拍っている。
お腹のあたりに骨のように固いものがあたっていて、少年の感動がはっきり伝わってくるのだった。
やがて自分を貫くことになる男の子の体。
今とは違う自分に作り変えてしまうもの、運命の楔――。
そして、二人だけの絆……。
この子が……わたしの……最初の男のひとになる。
一生でたったひとりの、特別なひとに。
でも既に今だってもう特別だった。
この子はもうみんな知ってるのよね……あたしのことを……いけないところをみんな……。
「ひどいわ……」
切なくなって少年の胸に甘える。頬をこすりつけてなじった。
「……そんなことを言うあなたなんて、きらいよ……大っきらい……」
「はい……」
すなおな返事。だけどもう騙されないわ、と心にきめる。
この子はなんでも知っていて、なんだってできるのだから……。
それなのに肩を撫でるやさしさ、うなじから髪の中に差し入れられてくるしっかりとした手の感触にアリシアは肩をふるわせて嗚咽した。
男の無情さと、情の深さとが剥き出しにされた女の肌にしみるのだった。接した肌の温もりが傷ついた気持ちを癒してくれている。
イヤだと言っても、逃れようがないことも分かっていた。
彼がこうしようと思って、もうそれを拒むことが自分にはできないことを……。
「やっぱり恥かしいですよね……」
「………」
「でもボク、これからアリシアさんに、もっとひどいことしますよ」
女をいたわりながら、少年はやさしげな口調でドキっとすることを平然と言うのだ。
「もっともっとずっと非道いことを……」
「イヤ……イヤよ、もう……」
薄い女の柔肌の下で体がきゅんと身を竦めている。
けれども性器をじっくり舐りとられて、仔細にわたって検分されたあげくに膣内のおりもののサンプリングまでされてしまうのだとしたら、それよりも酷いことなんてあるのかしらと、なぜだか好奇心のようなものを感じていることが不思議なのだった。
きっとどんなに酷いことでも、彼から痛いことや苦しいことをされるわけではないことがわかっているからなのだろうと思う。
また溶けてなくなってしまうような甘い世界へと連れて行かれることになるのかしら……。
アリシアが初めて口にした官能の果実は、あまりにも甘美な経験として心と体に深く刻まれていた。
「イヤだなんて言わせませんから――」
「そんな、アキトくん……」
真意を確かめようとおずおずと顔を上げて少年を盗み見た。けれども目が合うとすぐに胸にしがみついて顔を伏せてしまった。
もっと暗ければいいのに……。
初夜の
目を閉じた。
チョコレート色をした胸に耳をおし当てる。仄かに石けんの匂いの残る男の子の胸を、自分だけずるいわ、と思いながら。
少年らしいなめらかな肌は異性というよりも同性に通じる等質感があって、きめの細かいアリシアの肌に馴染むのだ。
トックントックン、心臓の音が聞こえる。それがだんだんゆっくりになっていく。合わせるようにアリシアの胸のときめきも穏やかな調子へと変わっていった。
アキトの手がゆったりとしたリズムで頭を撫でていた。慈しむように。
やさしい人……。
自分がとても大切に愛されたのはわかっている。
でも……。
「……だいっきらいよ……」
また拗ねてみた。まるで駄々をこねる女の子のようにふるまっているのが、自分でもちょっとびっくりで面白くなって。
「そうやってボクをけしかけるんですね」
「……?……」
「みんなアリシアさんがいけないんですよ。そんなに可愛い顔をされたら男は誰だっておかしくなっちゃいますから」
顔を覆っていた長い金髪をかき分けて羞恥の名残をとどめているアリシアの横顔を覗き込みながら少年は言った。
少年の表情にも、また大人びた官能の翳が差している。
「でも、もしボクがいまもゲストルームに居たら、きっと本当におかしくなっていただろうな……」
言外に仄めかした、別の男性と抱き合っている場面を想像してアリシアの肌は軽く粟だってくるのだ。
アキトと巡り逢ったこと、それがどれほどの奇蹟であることか。
可能性とか確率といったつきなみな表現をはるかに越えて、運命という大仕掛けな言葉さえも陳腐に思えてくる。
AQUAに暮らすおよそ三千万人の男性の中のたった一人の男の子。
自分が信じて選んだ人――。
やっぱり神さまはいる……。
切なそうにする少年の顔を見ながらアリシアは思いを深めていた。
「アリシアさんがさっきボクがしていたようなことを他の男の人としていたら……」
「アキトくん……」
それ以上言おうとする少年をやんわりと制する。
キスを求められて、今度はアリシアは頤をあげ従順に唇を差し出した。
かすかに感じる潮の味わいに驚いて、また頬をパッと薔薇色に染め上げて。
アキトも頬を染めながらうれしそうに微笑みかけていて、アリシアは少年に自分の心の裡を見透かされているとわかってさらに顔を赤くするのだった。
大きな瞳を眩しげにしばたたかせて小声でうったえる。
「羞しい……」
「嬉しいな、恥ずかしがってる女の子って、すごく可愛いから」
「いじわるしないでください……」
「ねぇアリシアさん、教えてくれませんか……」
「……?……」
「大好きなアリシアさんのことを……キミの心と体を……」
真顔で口説かれて切ないため息をついた。少年は添い寝のアリシアを仰向けにして組み伏せる。
長い口づけ。
キスは自然に舌をからめるディープキスになっていく。好奇心いっぱいの舌が潜り込んできてアリシアの口の中をなぞり、探っている。
ひそやかな部分にしたのと同じように、はじめは用心深く、やがてはわがもの顔で。
「あ、アキトくぅんっ……はぁっ、あ……うふぅ……」
少年は女の口中にあふれる唾液を貪っていた。怯える舌を吸い上げて懇ろにしゃぶりとると、口の中に深く唇を差し入れてきて喉の奥の方まで舌をのばしてくる。
経験したばかりの淫らな性技と同様にアキトの気が済むまで、アリシアはなされるがままで居るしかないのだった。
互いに息を乱しながら情熱のまなざしで見つめ合う。
「ご本のつづきが読みたい……」
濃い接吻が済むと今度は幼児語を交えて甘えてきて、アリシアを翻弄する。
「ご本の、続き……?」
「ボク、アリシア・フローレンスという美しい物語のほんの数ページ、まだプロローグを読んだだけだから……すごくステキなお話だってわかったから……」
少年はアリシアの形の良い鼻先を唇で軽くついばむようにキスを落としながら言った。
これ以上、わたしを、どうするの……?
不安と怯えと戸惑いと、そして密かな期待の兆した大きな瞳で少年の顔を見つめ返した。
もう少年の前で丸裸にされてしまったように感じていたからだった。
「アリシアさんのからだのすみずみまでくまなく、知りたいな……まだ朝まで時間はあるから……」
壁の蝋燭は半分以上も燃え残っていた。