ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
第十一節 朝、夜の儀の終わり その4
温かい湯に浸かり事後の心地よい疲労感を解きほぐしながら、アリシアはお風呂があるのならちゃんと体を洗ってから儀式に臨みたかったと思うのだった。
浴室は問診が行われた部屋のすぐ隣にあったからだ。
時間が押していた所為で仕方がなかったのかもしれないが、軽く湯を浴びるだけでも気持ちは違っていただろうと思う。
きっと彼にはたくさん嫌な思いをさせてしまったのだろう――。
それが気がかりで、心残りなのだった。
豊かな胸の膨らみをなぞる。ゆっさりと持ち上げるようにして乳房の下の汗のたまりやすいあたりを丁寧に洗いながら指をすべらせた。そうすると肌がいつもとは違ってとても敏感になっているのが判って、驚いたように大きな目を
わたしの体……。
両の乳房がアキトの手に包まれている時のことが蘇ってきて、今はそれが自分一人だけのものではなくなっているのを意識させられている。
プライベートな部分はもうどこにも残されてはいなかった。
みんな彼の知るところとなって……。
その一方でアキトは結局最後まで、こちらが彼の体に触れることを許してはくれなかったのだ――。
「ずるいな、アキトさんは……自分ばっかり……」
つい愚痴が口から
自分ですら触れることに躊躇いを感じるデリケートな部分が、すっかり彼のものにされていくのを思い返すととても恥ずかしくて、なんてことをしてしまったのだろうと身が竦む。
でも彼はすごくやさしくて……。
本当に神さまみたいにやさしくしてくれた。
体をゆっくりと撫でられて彼の手の温もりが肌に直接伝わってくるのを感じる時のスリルとときめき。
他人に……大好きな人に触れられるのがあんなにも心地が良いものだったなんて……。
本当に痛いことや辛いこと、苦しいことなんて一切、感じることはなかったのだ。
どこまでも甘くて、身も心もとろけてしまいそうな歓び。
そして、自分の体があんなふうになって――。
あたしって……やっぱり、いけない子なのかしら……。
ギリギリまで引き絞られた弓が解き放たれる時の、その開放感。
まるで堰を切ったように体の中から熱いものが流れ出していく感覚と、罪の意識。
それなのにあの子は少しも嫌な顔なんて見せずに、幸せそうな満ち足りた容子で居てくれた。
泣きたいくらい嬉しかった……。
あのとき彼の胸に甘えながら、この子のためならどんなことだってするし、できると思ったのだ。
だから――。
もしも求められて、自分に与えられるものがあるのなら、なんでも捧げようと思ったのだった。
この体……あたしの体……みんな彼に、アキトさんだけのものに……。
そう思うと、自分の体がとても尊くて愛おしくなる。
「愛してるわ……」
ひとりごちた。
恋をするというのがどういうことか、それがどんなに素晴らしいものであるかを知って、目に映る全てが光を放っているようだった。
「幸せよ、とっても……ありがとう……」
脳裏に彼の別れしなの笑顔と後ろ姿が浮かぶと、また目頭が熱くなってくる。
「……大丈夫よアリシア、きっとすぐにまた会えるから……ちゃんと約束、してくれたんだから……」
自分に言い聞かせた。
洗い場に上がると、丁寧に体を洗い、長い髪も洗うことにする。
女の子のエチケット――。
今度、彼に逢うときにはきっといちばん綺麗な自分を見せたいと思う。
着ているものだって仕事着の制服じゃなくて、きちんとお洒落をして……。
お洋服、何を着ていったら喜んで貰えるのかしら……。
アクセサリー、どうしましょう……。
次のデートのことを想うと胸がときめいてくる。
十四歳の男の子にあまり派手な装いはかえって逆効果になるわ。
きっと、ふだん彼の周りにいる同年代の女の子たちのように、素朴で可愛らしいものがいいわね……でも、あまりやりすぎてしまうと無理をしているみたいに思われてしまうかも……。
そういうことを、誰に訊いたら……そうだ、灯里ちゃんの普段着を参考にさせてもらおうかしら……うふふっ……あーあ、あたしが灯里ちゃんぐらいの歳だったら良かったのにな……。
あれこれと思いを巡らしていると、だんだん楽しくなってくる。それとともにアリシアはいわゆる恋バナをする相手が身近にはいないことに気がついたのだ。
肝胆相照らす仲である幼馴染の晃とも、そしてアテナとも、ハイティーンになってもまだ、これまで不思議にそうした話題にはならなかったのだった。
三人とも一人前のウンディーネになるために一所懸命で、またプリマになってからは一層、日々の仕事と鍛錬に追われて、そうした脇目をするような気持ちにはならなかったというのもあったのだろうが、考えてみれば気になる異性の一人も目に入らなかったというのもおかしなことだった。
ミッドスクール時代のクラスメートの女の子たちは、年頃になると寄ると触るとその手の話題で持ちきりになるようで、彼女たちからすると全くその気のないアリシアの無頓着さが逆に不自然に映るらしくて訝しがられるほど。
「あの頃のみんな、今どうしてるのかな……」
◇ ◇ ◇ ◇
「いいわねぇアリシアは、対策なんて考えなくても、オトコなら誰でも放っておいてくれないんだから――」
「あたしはそんな……」
「傾向と対策はいつだって重要拠点の攻略には必須でしょ、何もなしで突っ込めば累々たる死体の山を作るばかりになるんだからサ」
「まぁあんたにホンキ出されると、ウチらがその分ワリを食うことになるから、そのままの眠り姫でいてくれた方がいいんだけど」
「おおっ、傾向と対策? 期末試験対策か?」
廊下を通りかかった男性教師が足を止めた。
「違いますよ、先生」
「女の子の会話に
「いや、我が校の花、アリシア・フローレンス嬢がそんな内緒話に加わっているとなると、ますます気になるじゃないか?」
「あ、それセクハラですよ、教師による生徒のプライバシーへの尋問は職権濫用です、百条委員会案件になりますから」
女子生徒の一人が挑発する。
「百条委員会って、いったいどこでそんな物騒な言葉を仕入れてきたんだ、全く近頃の女子中学生は……」
「ブーッ、女子中学生って一括りにするのもハラスメントですっ、ポリコレ違反ですのでっ」
「ヒロ先生は頭が古いから、火星開拓時代のまま時間が止まっちゃってるんじゃないですか?」
「手厳しいなぁ……」
若い男性教師は当惑顔で頭をかく。
「あの、あたし、練習に行かないと……」
教師を囲んで言葉の
「またゴンドラの修行? アリカンに行くの?』
「うん」
「あんたホントにウンディーネになるつもり?」
アリシアは首を縦に振る。
「ただわたしがそう思っても、簡単になれるものじゃないから……」
「でもさぁ、あんただったらどこのハイスクールにだって進学できるのに、もったいないと思わない?」
「勉強は、やる気になればどこでだってできるから……それにウンディーネになるために勉強しなければいけないこともたくさんあるし……」
サンマルコ広場の大鐘楼が三時を告げる鐘の音が聞こえてくるとアリシアはそそくさとなって
「じゃあ、また明日ね、アメリアちゃん、アニマちゃん、アカネちゃん……立花先生、失礼いたします」
教師に一礼をして、友人たちに手を振る。
「そう、またね」
「ハイさよなら、気をつけてな、うっかり変な男にくっついてっちゃダメだぞっ」
「先生っ、それもセクハラですよっ!」
「えーっ、これもなのか? 教師が生徒の身を案じちゃダメだなんて、おかしくないか?」
「男の先生が美人の女子生徒の身を案じるって、なんかヤラシー」
背後でまた女子生徒たちが教師に集中砲火を浴びせかけているのが聞こえるが、アリシアは振り返らずに足を速めた。
残った女子たちは長いツインテールにした金髪が小走りになって揺れる後ろ姿を眩しげに見送る。
「あの子、本当にウンディーネになるつもりなんだね……」
「まあアリシアならプリマにだってなれるよね、きっと」
「プリマの資格って不文律らしいんだけど、容姿端麗ってところで大抵の女の子は諦めちゃうから……」
「その点ならアリシアは文句のつけようがないし」
「実は僕のところに彼女宛にサン・ベルナルディから推薦案内が来てたんだけどね、成績もトップクラスだから……でも彼女、断っちゃったんだよ、幾つかの科目では飛び級だってできる成績だっていうのに……」
「うわー、もったいない、あたしだったらもー、一も二もなく食いついちゃってるワ」
「美人で頭が良くって、それなのにちっとも偉ぶらないっていうか、あたしらからマウント取られてもいつもニコニコしてるんだもん、張り合おうって気にすらなれないのよね、次元が違いすぎるっていうか……」
男性教師を囃し立てていた勝ち気な少女が顔を和ませていた。
「きっとあの子なら何やったって一番になれるわよね」
「自分の将来の夢がはっきりしてるのって、さすがっていうか……うちらなんてサッパリだもん」
「未来のプリマ・ウンディーネのアリシアか……」
「あの子が漕ぐっていうなら、僕も乗せてもらおうかな……」
「ブーッ、セクハラですっ、教師が生徒の女の子に乗るって、もう一発アウトじゃないですかっ」
「僕はそんなこと言ってないでしょっ」
「あー、先生、本当に顔赤くしてるっ、やだもうっエッチっ」
「先生ってアリシアのこと、そんな目で見てたんですかぁ、キモーっ」
少女たちはさらに悪のりして、オロオロする男性教師を困らせていた。
◇ ◇ ◇ ◇
身綺麗にしてサッパリすると気持ちまでも新しくなったようで、またいつもの温和な笑顔が戻っていた。
「どう、少しは落ち着いて?」
脱衣所にアイリーンが現れたのは、入浴を終えたアリシアがちょうど用意されていたバスローブに袖を通したころだった。濡れた洗い髪をタオルで拭う手を休めて「はい」と、こっくりする。
その容子を見てアイリーンも口角を上げて笑顔になった。
「何か欲しいものはある?」
アリシアは驚いた子供がするように首を細かく横に振りながら「いいえ」と応じた。
「じゃあ、用意ができてからでいいから隣に来てもらえるかしら? お披露目の儀になる前に、あなたにはまだしていただく事があるのよ。また嫌なことをお願いするようで気の毒に思うんだけど……でももう少しだから我慢してね」
「嫌なこと、ですか……?」
「うん、ルールだから、あともうちょっとだけ辛抱してちょうだい」
アリシアは少し心配そうな顔をするが、素直に頷いた。
髪の湿り気を拭い、身繕いを終えて隣室の問診室に戻った。
すると、すぐにアイリーンが言っていた、嫌なこと――の意味を察したのだった。
部屋の隅に置かれていた診察台の左右に、今はアームのようなものが取り付けらているのが目に入ったからだ。
アイリーンは既に両手にゴム手袋を付けている。
「ごめんなさいね、嫌だとは思うけど、これもやらなくてはいけないことなの……」
「………」
「儀式がちゃんと行われているか、それから万が一、避妊が失敗していた時の対応のために……アフターピルを服用してもらわないといけなくなるし……もしもウンディーネのお腹が大きくなるようなことがあっては、後々いろいろと困ったことになるから……」
「……そう、ですね……でもやっぱり……これはちゃんと……お伝えしないといけないかもしれないので……」
「伝える? 伝えるって何を?」
アリシアは視線を床に落とした。
「……その……あたしたち……」
私たち――という言葉の選択にも驚かされていた。こうした場合に通常なら決して使われないものだったのだ。
そのまま言い淀むのを見たアイリーンは、アリシアの顔をまんじりと見て、さらに言葉を失うほど衝撃を受けていた。薄暗い浴室から照明の明るい部屋に現れて、にもかかわらずアリシアの瞳が儀式の前に見た時よりも深い碧色をしていることに気がついたのだ。
夜、この部屋を出る前はきっと儀式へと向かう極度の緊張と警戒感から瞳をさらに白っぽくさせていたが、その時とは違って今はどこか遠くを眺めているように潤んで輝きを増している。
戻ってきた時の女たちの多くは、事態になんとか折り合いをつけようという葛藤もあらわに、表情からも緊張が拭えずにいるもの。しかしアリシアからはそうしたものは感じられず、その愁いの表情の底には歓びや期待すらちらついているようである。
まさかこの子、恋をしているのっ――!?
予想外の成り行きに、しばしその場に立ちつくした。考えをまとめようとして。
たった一度、閨を共にした相手に心を開くなんて、果たしてそんなことがあり得るのだろうかと思う。同性である自分に対してすら体を触れられるだけで拒絶を滲ませていた美少女が、見知らぬ男に抱かれて、それで初花を散らされることになって、恨みに思うことはあっても心を許すだなんてことができるものなのかと。
ストックホルム症候群という被害者が犯罪者に共感するケースもあるが、ことセックスに関して女は保守的な生き物、心を開くまでには時間もかかるし必要な手続きだって幾つもあった。どの一つが欠けても本能が拒絶する。不満や抵抗感が影を落とすものなのだ。
見ず知らずの男に抱かれて、その間に恋するようになるなんてことがあるなどとは、とても信じられなかった。せいぜいがなんとか受容できる言い訳を探すか、あるいは甘受しようとして自身の主義、アイデンティティを宥めようとするので精一杯になるもの。
それなのに――。
「あの……アイリーンさん……」
気づくと今度はアリシアがまんじりと見つめていた。所在なげな顔をして。
「ちょっと呆っとしちゃって……ごめんなさい……えーと、なんだったかしら? そうだ、あたしに伝えることがあるって言ってたのよね」
「はい――」
「なぁに? 言いにくいこと?」
「あたし……わたしたち……その……セックスを、しなかったんです……だから……」
愕然とさせられた。
「どういうこと? 儀式をしなかったというの? それは夜の儀の大きな違反よ……これまで積み重ねてきた先人たちへの裏切りであり、歴史への背信……もしそれが本当ならもう一度、やり直さなければいけなくなるんだけど……」
「いいえ……神さまの顕現もあったので……きっと裏切ってはいないと思います……」
「神さま?」
「黒い髪の、とっても美しい若い男女の姿をしていました……」
「あなたも見たのね……そう……それなら……」
アイリーンの前には未だ顕れたことはなかったが、歴代のウンディーネのうちの何人かは儀式の最中に神々との邂逅を遂げていて、彼女たちが出会った存在とアリシアの言葉との間に矛盾は無かった。
「じゃあ、何があったの……? 詮索するつもりはないけど、一応、伺っておきたいわ、あなたの世話役として、今宵の儀式の責任者として……まさか、相手の男が不能だったとか?」
「そういうんじゃないんですっ、アキトさんは――」
うっかり口を滑らせてしまったことに気づいて口をよどませている。
「今のは聞かなかったことにするから安心して……ここだけの話よ」
アイリーンがそう言うと、アリシアは自分はそのつもりだったが、アキトからはついに最後まで求められなかったことを、できるだけ婉曲な言い回しをして訴えるのだった。交わりこそ果たさなかったが確かに愛し合い、神々もそれを許してくれたように感じたことを。
「そう……そういうことなら仕方ないわね……でも優しい相手で良かったわね……滅多なことではそうはならないものだから……男はね、女なんかよりもずっと嫉妬深くて独占欲が強いものなのよ」
「そうなんですか?……そう、ですね……やっぱりそうなんですよね……」
「きっと、あなたのことをとても大切に思ったからよ」
アリシアはこくん、と頷く。
「やさしい人でした……すごく……」
「良かったわ……私ね、あなたが傷ついて戻ってくるかもと思うと心配でたまらなかったのよ。でもすっかり安心したわ……」
「ありがとうございます……ご心配をおかけして……」
アリシアらしい微笑みにアイリーンも安堵の笑顔を向ける。
「じゃあ、一応、規則だからローブを脱いで、そこに横になってもらえるかしら?」
「はい――」
アリシアは躊躇いがちではあったがローブのベルトを解いて、コットンのバスローブが白い肩の上を滑ると、一糸纏わぬ裸身が露わになった。
その姿を目の当たりにしてアイリーンはギョッとして息を呑む。そして大きく納得のため息を吐くのだった。
アリシアは恥ずかしげに両手で胸と股間を庇いながら、小首を少し傾げるようにしてアイリーンの顔を窺っている。
「あなた……気がついてないの?」
「何をですか?」
「やっぱり凄いわね……こっちへいらっしゃい、見ればわかるから」
先に立って歩くアイリーンに従って衝立の裏に回る。そこにある姿見の前に立って、アリシアも驚きに凝固まっていた。愛らしい顔を不安げにして
「大変……あたし……病気、
鏡の中のアイリーンは半ばあきれたようになりながら、笑顔になってまた大きなため息を吐いていた。
「その赤いのは病気なんかじゃないわ……女の勲章よ、あなたが愛されボディであることの証……」
鏡の中で二人の視線が重なる。
「キスマークね……相手の男がどんなにあなたの体に夢中になっていたかの証拠でもあるわ……」
途端にアリシアの顔が見事な薔薇を咲かせる。
「本当に綺麗な体をしているもの……もしもあたしが男だったら、きっと放ってはおかないから……」
「アイリーンさん……」
アリシアは恥ずかしげに両腕で胸を庇った。するとかえって膨らみがはち切れそうになって、ほっそりとしていながらも見事に肉感的な魅力が強調されてしまうのだった。
「それじゃあ男はメロメロになるわよ……可愛いのにエロチックだなんて……罪作りな体ね……」
「あたし……」
「でも良かったわ、あなたがスノーホワイトのままで帰ってきてくれて」
「………」
男に愛される歓びを知って、自分がすっかり変わってしまったように感じているアリシアにはアイリーンの言葉は重く響く。それを察したのか
「大丈夫よ、あなたはあなたのままだわ……それは私が受け合うから……」
「はい……」
「じゃあ、いらっしゃい、さっさと内診をやっておしまいにしましょう」
「――!?――」
「一応、規則だし、念のためよ……ね、勘弁して」
たとえ相手が同性であったとしても陰部を晒すのは抵抗があって気が進まなかったが、アリシアも覚悟を決めると診察台の上に裸身を長らえた。促されるままに突き出た左右のアームの上にそれぞれの脚を乗せる。
無防備な姿を晒して
「恥ずかしいです……」
両手で顔を覆う。
「なに言ってるの、こんなに綺麗な体をしていて……妬ましくなるわ……」
アイリーンは診察台の端に丸椅子を持ってきて座ると、アリシアの女陰と向き合った。
内腿の性器の周りの肌にはひときわ多くのキスマークが散っていて、この稀代の美少女がどのようにして愛されたのか、どんなセックスを求められたのかが手に取るように判るのだった。柔らかそうな尻たぶも、その周り円く取り囲むように愛の証が残されていて、彼女が骨抜きにされた理由が窺える。
一晩中かけて愛情たっぷりに舐られていたら、確かに自分だってどうにかなってしまうかもしれないと思うのだ。
それがましてやアリシアのように未経験の女の子だったら――。
「ごめんなさい……お邪魔するわね……」
ふっくら白い女陰を指で開いて中に隠されていた淡い桜色の粘膜を表にすると、膣口を覆う処女膜がくちゃっと丸まっているのを指で探って、本人が告白したようにどこにも傷がないのを確かめた。
アリシアの脱衣からは女の匂いしかしなくて、男のザーメンの臭いがしなかったわけも、これで納得がいくのだった。
内診の本来の目的は交接の証としての傷があるのを確かめることにあったが、この件は自分だけの肚に納めておくことにする。事を無用に荒立てる必要はなかった。
「本当に全身、満遍なくお見事ね……スノーホワイト……」
その言葉には偽りはなかった。同性の容赦ない目線で粗探しをしようにも、すっかり脱帽してお手上げなのだ。
「あまり……見ないで下さい……恥ずかしいです……」
「もう終わったわ……お疲れさま……ティッシュは使う?」
アイリーンは濡れたゴム手袋を丸めながら訊いた。
「はい――」
診察台に腰かけたまま、アリシアはティッシュボックスを受け取った。
「私はこれから他の役員の人たちと話をしてくるけど……あなたはここで少し休んでいて。次はお披露目の儀よ……でも儀式っていったってただの懇親会だから楽しいわよ、期待してて、AQUAではきっとここでしか飲めないとっておきのお酒もあるから」
アイリーンはそう言い残すと部屋を出て行った。
再び一人になったアリシアは股間のぬめりをティッシュで拭うと、また姿見の前に立って全身をとっくり眺める。白い肌には赤っぽいキスマークが良く映えていた。全身にくまなく、まるで花びらを散らしたようになって。
「これが……私……今のあたしなのね……すごい、こんなにいっぱいキスマークをつけてもらって……うふふっ」
背中や二の腕の内側にも幾つもついていて、その一つ一つにアキトの愛情が込められているのを感じるのだった。
「今度はあたしがお返しをする番よ……覚えてなさいアキトさん、あたしをこんなにして……もう絶対に許してなんかあげないんだから……」
そう決心するアリシアの顔には、どこにも曇りのないスノーホワイトの微笑みが作られているのだった。