ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
突然やってきた藍華とアリスを事務所の中へ招き入れると、灯里は厨房に向かった。
「いまお茶煎れるね――」
「お茶なんていいから、あんたも早くこっちきてすわんなさいよっ」
「はへーっ」
藍華に仕切られて灯里がオロオロする中、また電話が鳴って慌てて受話器を取り上げた。
「はい、アリアカ……あ、あの……あ、はい……アリシアさんはいまっ、外回りに出かけていて……はいっ……それは、ちょっとわからな……はい……はい……申し訳ありません……はい……」
灯里が電話機を前にペコペコ頭を下げているのを、藍華とアリスは半ばあきれた顔をして見ている。
「誰――?」
「マスコミの人、どっかのテレビ局だって言ってたけど……アリシアさんにインタビューしたいんだって云って……今日は朝からもうこんな電話ばっかりで、みんなアリシアさんから直接、話を聞きたがって……」
「アリシアさん、今、どこに居るの?」
「それは……」
灯里はちょっと躊躇ったが
「大丈夫よ、誰にも言わないから」
「でっかい、内緒ばなしデス」
二人に迫られて
「うん……アリシアさん、今日はグランマのところにご挨拶に伺うって云って、朝早くから出かけてて……」
「グランマのところかぁ……そうかぁ、そりゃそうよね……大事なことは直接、会って話したいわよね」
藍華は納得した様子だったが、
「それで――?」
すぐにまた問いを向けてくるのだった。好奇心いっぱいの顔つきになって。
「それでって……?」
「だからぁ、アリシアさんの旦那さんになるっていう人っ、ねぇ、どんな人? 名前は? 幾つぐらい? 何してる人なのっ? 式はいつっ?」
矢継ぎ早に問い詰められて、灯里は「はひっ」と、呻くばかりの困り顔になって固まった。
「藍華先輩、灯里先輩がでっかいフリーズしてしまうので、質問は一つずつゆっくりとしないといけません」
アリスに窘められて、
「そっか、じゃ、ひとつずつ……ねぇ、アリシアさんの旦那さんになるっていう人って、どんな人なのっ? あんた知ってるんでしょ?」
「はへっ、あたし知らないよっ……」
灯里は嘘をつくとすぐに顔に出てしまう。
「またぁ……あたしらにまで隠さなくったっていいじゃないっ、ねぇ、その人って、あたしらの知ってる人っ?」
「はへーっ」
灯里は痛いところを突かれて、また一段とオロオロした。
「えっ、やっぱりそうなんだっ、あたしらの知ってる人ってことになると……暁さんじゃないってのは今さっきの電話でハッキリしたしっ……ウッディーさんってのは無さそうだし……ちょっと、まさかアルくんじゃないわよねっ」
口にしてから藍華は蒼くなる。
「アリシアさん相手じゃ絶対、勝てっこないし……っていうか……それならそれで……仕方ないって諦めもつくから……って、あたしナニ云ってるのっ!」
藍華は勝手に慌てていた。
「藍華先輩っ、落ち着いてくださいっ」
アリスに再び窘められている。
「藍華ちゃん、それはないから大丈夫だよ」
「さすがにそれはありっこないよね……アリシアさんとアルくんとじゃ全然、バランス取れてないし……」
灯里はなんと反応したら良いものか分からずに、困り顔になって愛想笑いになるばかり。
「じゃあ、やっぱりゴンドラ協会の要職にある人とか……」
「それも違うと思うけど……ねぇ藍華ちゃん、そのことは直接、アリシアさんに聞いた方がいいと思うよ、あたしの口からは、やっぱり云うわけにいかないから……」
「そうよね……」
「ごめんね……隠し事をしてるわけじゃないけど、こういうことは他人が勝手に広めていいことだとは思わないから……あたしはたまたま偶然、気がついただけで……近くに居たから気がつきやすかっただけで……」
「そうだよねぇ……ごめん、灯里、困らせるつもりはなかったんだ……ただあたし、アリシアさんのことが心配になっただけで……もしも悪い男につかまっちゃったりしたら悔しいからサ」
「そういうんじゃないから大丈夫だよ……アリシアさん、その人のこと、とても愛しているし、その人もアリシアさんのことをとても大切にしているから……」
「そっか……灯里がそういうなら、まぁ安心したわ」
藍華は納得したと言いつつも、
「誰だろうなぁ……あたしの知ってる人で、アリシアさんとバランスが取れるようないい男って……」
まだ諦めきれない様子でひとりごとを呟いている。
「まぁいいか……でも、アリシアさんが結婚かぁ……なんかいろいろと変わっちゃうんだろうなぁ……みんな……晃さんだって最近、彼氏ができたみたいだし……」
ポツリと独りごちる。
「えっ、でっかい初耳です」
「はひっ、藍華ちゃん、それホントっ!? 晃さんにもって!」
思いがけない話を耳にして灯里も驚きに目をまん丸にしていた。
「あ、イケねっ……うっかり洩らしちゃった……」
藍華は苦笑いをしながら、
「まぁ、あの人のことだから、そのうち男の方がおっかながって逃げていくんだとは思うんだけどね……」
ちょっと寂しげな顔をする。
「藍華ちゃん……」
「でっかいショックです、時を同じくして三大妖精がでっかい恋の季節を迎えていたとは……」
アリスが呟いてから、自分が口を滑らせたことに気がついて、この稀代の天才美少女は
は――と、半ば口を開いたままで化石化していた。
「「アテナさんもなのっ!」」
「ねぇ、どんな人っ!」
灯里は訊いてから、ハタと気がついたように
「って訊いても答えられるわけないよね……ごめんね、アリスちゃん」
「だよね……さっきはごめん、灯里……」
「ううん、いいの」
「……あたしの場合は本当にどんな人だか知らないので……ただ、そのことでアリシアさんと晃さんに以前、相談したことがあって……」
アリスの表情にも影が差していた。
「あの人は、いつでもぽや~んとしているんですけど……でもいつもと違うぽや~んとしてる時があって……ため息を吐きながら男の人の名前を呟いたりしてたりするので……それで心配になってお二人にそのことをお話ししたら、じゃあ、俺が行ってその男の顔、見てきてやるって言われて、それにはアリシアさんも同行されて……」
灯里や藍華の全く知らないところで、友のためにアリシアと晃が動いていたということだった。
当たり前のことだったが、自分たちの知らない顔をした姉たちが居て、それぞれが女として生きていることを改めて知ると、なぜかまた気持ちが揺れてくるのだった。
「あのお二人から見ても、立派なちゃんとした方だっていうのはわかっては居るんですが……」
敬愛する姉――が、少しずつ自分たちの元から去ろうとしているのを感じて、三人の美少女は沈黙する。
最前までの噂話に盛り上がっていた時とはうってかわってしんみりしていた。
「まぁしょうがないじゃないっ、三大妖精総崩れってなると、いよいようちらがしっかりしないといけないってことで」
空元気にも見えなくはなかったが、藍華が声を張り上げて勢いよく椅子から立ち上がると
「そうだね、藍華ちゃん」
灯里も、そしてアリスも立ち上がるのだった。
「応援してあげようよ、アリシアさんも晃さんもアテナさんも」
「でっかい大賛成ですっ」
「よし、そうとキマればっ――」
「そうと決まれば……」
「三大妖精の恋が、みな幸せに成就しますようにっ!」
「「みな幸せに成就しますようにっ!」」
三人は拳を頭上に突き上げて、気勢を上げるのだった。
ちょっと短いです
Aパートですが