ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
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悩ましくもひたむきな二人の姿に感動してすっかり心を奪われていた少女は、背にした通路の先に人が立ち入ったことにも気がつかなかった。
もとよりそこは、図書委員ですら滅多に立ち入らないエアポケットのようなところ。
にもかかわらず足早に、書棚の間の通路のひとつひとつに油断なく目をやりながら近づいてくる、
人影――。
異様な気配に気づいて振り返った時には、すぐ後ろにまで迫っていて、とっさに少女は前を遮ってかろうじて奥への立ち入りを阻んだ。まさに間一髪。
「はひっ、びっくりしたぁっ」
わざと大声をあげて、棚の向こう側の二人に急を知らせる。
灯里にしては上出来の機転。
が、袋小路にいる熱愛中のカップルを守るには、足止めするだけでは十分とは言えなかった。どうしよう? と、考える間もなく、
「はひぃ、愛澤くぅん、良かったぁ、会えてぇ」
鼻にかかった甘い声が紡がれていた。
意外にもそこにいたのは顔見知りの下級生。図書館にあるパソコンの端末をよく利用するので名前を覚えていた。
控えめな笑顔が魅力の、ちょっと内気そうな感じのする小柄な男の子。
が、灯里だとわかると、逆に相手はあきらかにたじろいだ顔をする。
「みっ、水無先輩!」
お義理の会釈を交わして、そのまま奥へ行こうとする相手に、灯里は、
「ダメだよぉ、無届けのまま延滞しちゃ」
後になって、自分でもよく知恵が回ったと感心するくらい、この場面でこれ以上ない言葉が口をついて出ていた。
「届け出さないと」
さりげなく手首をとると、そのまま入り口のカウンターの方へと促した。二人のいるところから引き離そうと。
すると少年の笑顔の口許がこわばり、かすかにイラだちの滲む不服そうな声をだしたのだ。
「いま、ですか?」
おとなしそうな顔の下にかくれて不寛容な性格がチラリ。
灯里はそれまで抱いていた印象とのギャップに、
おや――?
と、思う。
それに、さっきのあの感覚――。
肌がざわっとするような、なんだかとてもイヤな感じだった……。
それで寸前に気がついたのだ、人が来たことに。
なんだったんだろう……?
灯里は小柄な少年の顔を見おろしながら不思議に思った。
眼鏡の優等生タイプ、イケメンとは違うが、ちょっと可愛い弟くん系の顔を。
でも――。
無垢そうな笑顔を向けているが、その下にある感情を懸命に抑えている、今の少年にはそんな危うい雰囲気がただよっていた。
やっぱり、ちょっと変だ……この子……。
それに、どうしてこんなところに?
「何か探しもの?」
訊くと、少年は一瞬、返事に詰まった顔をして、本を探していたのではないと確信する。
それなら、何故――?
すぐに脳裏を掠めたのは、奥の二人のこと。
アリシアさんたちのことを探していた!?
まさか――。
さすがにそれは無いと思う。
一緒に暮らしている自分でさえ気がつかなかったのだ。二人の関係がこんなにも進んでいたことに……。
でも、もしもそのことで、この子が何か勘づいていたとしたら……。
ほんのわずかの間に、少年への好意的な気持ちが反転していることに驚きながら、灯里は用心深く言葉を選んだ。
「だって二年生は五冊まで二週間っていうルールがあるから、無届けだともう一冊も借りられないよ」
先輩としての威儀を正して伝える。
「でも、僕……」
「まだベルが鳴るまでちょっとあるし、次の休み時間には追加の二冊が借りられるように今のうちに書類つくっておこうよ」
提案すると、少年は仕方がない、というように頷くのだった。