ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
十五日、午前七時、ネオ・トウキョウ――。
アリシア・フローレンスが優雅にゴンドラを操る姿と共に、彼女の婚約についての詳細を各紙が一斉に報じていた。
有力紙の殆どが一面を飾り、人々の関心の高さを窺わせている。三面ではアリシアの人となり、経歴、キャリアなどを詳しく伝える一方で未だ謎のフィアンセなる人物についても、各社がそれぞれのルートで集められた情報から分析を加えプロフィールを想像していた。もっともそれはあくまでも憶測で、勝手に男性像を作り上げて読者の関心を引こうとしているに過ぎなかった。
また中にはフィアンセ自体、存在しないのではないか、との希望的な観測を唱えるメディアもあって、アリシアを協会の中に取り込みを計りたいゴンドラ協会側の意向に対して、婚約発表は彼女の抵抗の意思の表れだとする解説がなされていた。
こうして昨日のアリシア婚約の第一報を受けた後の報道は、当初は落ち着いた中、懸念された混乱もなく静かに流布されていた。
しかし、午前九時を回ったあたりから徐々に潮目が変わっていく。
地球圏を中心としたネットメディア等が独自に鉤括弧付きの調査報道を順次展開しはじめ、そのニュースの中で繰り返し水無灯里のインタビュー映像が使われるようになったのである。
そこでは灯里の心理分析が競って行われていて、各サイトが執拗に分析を重ねた結果、アリシアが標準暦で一年以上も前から男性と密会を繰り返していたとの結論が得られ、男のプロフィールも表のメディアよりもはるかに具体的に示されていた。
それによると相手の男は、当初、想定されていたものよりもずっと若く、年齢は十代~二十代の学生もしくは社会人、健康的に日焼けした肌の、身長は百六十センチから百七十センチぐらいのやや小柄で痩せ型の人物であるとの結果が得られ、またこのような男性像から推定される身体的特徴や性的嗜好から、現在、アリシアが既にどれほどの経験を遂げているかについても微に入り細に入り詳解されるようになっていったのだった。
ある尖った芸能ニュースサイトなどでは、アリシアが性的魅力に溢れていることから、小道具の使用はもとよりアナルセックスも既にしっかり経験済みなのではないかとしていて、肛門の荒廃の程度について丁寧な画像付きで解説するものまであり、地球圏を中心にこのAQUAに降臨した絶世の美女、女神を穢すことに狂おしいほどの情熱が傾けられていた。
扇情的な文言が踊り、安易に低劣な刺戟を求める大衆の欲望が猥褻な情報の伝達と拡散を連鎖反応的に加速していた。
情報もまた悪貨によって良貨が駆逐されていた。
事実であろうとなかろうと、悪事は千里どころか万里、億里を走り、太陽系を一周してネオ・ヴェネチアに戻ってきた時には、下品なポルノグラフィーの形になって消費された後の、汚らしく食い散らかされたような無惨なものとなっていた。
心無い言葉は容易に人を殺める――。
それは多くの純朴な青少年の心を酷く掻き乱し、癒かけた傷口を再び深く抉ってトドメを指すような影響をもたらしたのだった。
SSです