ARIA A SECRET SCHOOL DAYS 作:真夜中のミネルヴァ
荒木マユミはその日もサンマルコ広場の奥、行政庁舎一階の柱の影からチョコレート売りを密かに監視していて仕掛けた罠に“
ここ数日は広場にチョコレート売りの青年が現れるや、客が列を作る前に店に行き、ワゴンの下にスキャナーを押し込み、昼休みが終わる頃にまた店に行ってデバイスを回収する、ということを繰り返していたが、ついに目をつけていた獲物が現れたのだ!
店の前に立ったアリシアは願ってもない形でやってきた、丸裸にされることを待つ哀れな獲物だった。
狙い通り、目論見通りの絶好のスキャンポイントを得て、マユミは久しく待ち望んでいた好機の到来に興奮に震える指で、遠隔操作でスキャナーを起動させると気づかれることのないように静かに、デバイス本体からスキャンアームを伸ばしてアリシアの足許の方へと寄せていく。
スキャナーを入れたバッグ自体は光学迷彩が施されていて、パッと見には気づかれにくくしてあったのだが、用心にも用心を重ねて、間違っても不審な物音を立てないようにして。
この時のためにリモートによるデバイス操作のトレーニングは十分に行っていて、手際よく作業が進められるように何度も演習を繰り返していた。
チャンスさえあればイッパツで完璧に仕留められるように――。
スキャンの有効半径を一メートル以下にまで絞り込むことで画像の精度を上げるとともに、余計なものまでスキャンをしてデータ量が膨らみ、記憶容量を圧迫するのを抑えることにする。
スキャン開始、まずは一回目。
透過時間は通常モードの六十分の一秒にセットする。
カシャッ――。
完了!
やったわ! ついにあのオンナを仕留めてやったわ! ザマーみろよっ!
マユミは胸の中で快哉を叫んでいた。
ターゲットの女はまだ店主の青年を話をしていて、マユミはほくそ笑む。
あんたがそこに居てくれれば居てくれるほど、こっちのオシゴトが捗るんだから、ザマーないわねぇ、アリシアさんっ。
次はさらにスキャン時間を伸ばして数ポーズを連続して撮影することにした。アリシアがあまり動かずに居てくれることがとてもありがたかった。
だからちょっとした賭けだったが、最長の二分の一秒の超長時間スキャンでの透過にも挑んでみることにしたのだ。
ブレずに上手く撮影できると、レイディ・クラッシャーの異名通りに淑女のプライバシーをどこまでもさらけ出すことになる外法、禁断の超高精細フルヌードスキャンを。
これで身を落とすことになった女が過去に一体どれほどいたことかしら。
おまえもそのお仲間になりなさい、アリシア――。
カッシャッリ……。
長いスキャン音の後、リモコンを兼ねたスマホ画面に撮影終了のグリーンランプが点灯して歓喜する。
引き続き、動画モードに移行させてからも三十分の一秒のスキャン条件で、ブレない範囲にギリギリまでスキャン時間を伸ばしての必殺の連続撮影を行った。
こちらも大成功!
怖いくらいに上手く事が運んで、マユミの顔は満面の笑顔になっていた。だが、他人に見られて不審がられないようにキャップを目深に被って顔を伏せ、手にしたスマホ画面に夢中になっているフリをして撮影を続ける。
そうこうするうちに、今度は子供がおおぜい押しかけてきて邪魔だと思ったが、なんということ!
神さまは幸運を運んできてくれたようなのだった。
アリシアは身を屈めるどころか、しゃがんでくれたのだっ!
このポーズなら、お股の隅々までバッチリ撮れるのは間違いなかった。
スキャン時間も思いっきり伸ばして、動画と静止画で最高度の映像の撮影に挑みかかる。
カッシャッリ……。
カッシャッリ……。
ビュワワワワーン……。
いただきましたっ、おしっこウンチをする時のしゃがみポーズっ!
あらまぁなんて大胆なんでしょうっ、はしたないわっ、アリシアさんっ。
しゃがんだりなんかして、これじゃあ、お股の何もかもがすっかり丸見えになってしまうじゃないですかぁ。
この画像を使って、ヴァーチャルで騎乗位や顔騎をしたがるヘンタイどもがさぞ喜ぶことでしょうね、おいたわしや、おいたわしや。
あたし、たとえ画像でも、そんなことされてると思ったら死にたくなるわ。
だから死になさい、アリシア――。
ビュワワワワーン……ビュワワワワーン……。
カッシャッリ……カッシャッリ……。
なーにが生きた女神さまよっ、これからはあんたがただの牝だってことをみんなが知ることになるのよっ。
あー面白い。
画像を見た男どもは、きっと狂喜してアンタのケツの穴の3D画像をいっぱいに引き伸ばして、シワの数やおケケの本数も念入りに勘定してくれるに違いないわねっ。
いいキミ――。
ビュワワワワーン……ビュワワワワーン……カッシャッリ……カッシャッリ……。
ここまで少なくとも超高精細を含む十四ポーズの撮影に成功して、データ残量は動画であと一回分、通常レベルの静止画で約二十カットほど。
予想を遥かに上回る戦果を得てすっかり満足していたマユミは、あとはどうするか迷ったが、一杯一杯になるまで動画を撮影することにしたのだった。
結果的にそれは失敗だったと思うのだが、それというのも、あのいけすかないウンディーネの小娘の三人組が後から現れたので、静止画であれば一緒に葬ってやれたかも知れなかったからだ。
だが、本命のアリシアをとことん辱められるデータを得て満足だった。
面白いわー、これだからジャーナリストって仕事はやめられないのよねぇ、どんな有名人だって虚飾の一切を剥ぎ取って真実を白日の元に暴いて晒し者にしてやれるんだからっ。
アリシア、あんたは女神なんかじゃない、ただのうす汚い牝よっ、それを思い知りなさいっ。
あとは機器を無事に回収できればミッションは完了。
スキャナーを一刻も早く手に入れたいのを我慢して、いつも通りに昼休みの終わりに近づくまで待つことにする。
十二時五十五分――。
荒木マユミはまたチョコレートを買い求めに店の前に立った。
「毎度どうも、さっき差し上げた分、もうみんなお召し上がりになられたのですか? そんなに一度に食べてしまうと体に悪くはありませんか?」
青年は言うが、
「心配には及ばないわ、でもそれももう今日で最後になりそう」
「そうですか、それは残念、お名残惜しいですが、今度はなにを差し上げますか?」
「何でもいいわ――」
「じゃあ、またアラカルトをお出ししますね」
青年の態度は慇懃だが、アリシアに対していたような親しみのある中にも敬意を窺わせる顔とは違って、事務的で職業的な笑顔に終始していた。
これだけ毎日通い詰めても、たった一度、訪れた客に対するものとは違うなんてこの差はなんなのよ、と、いつもなら口惜しさに不機嫌な顔をするところだったが、足元に置いたトランクの中に自動的にデバイスが収納されていくのを見届けながら、マユミは大満足で店を離れるのだった。
あとはこの画像を誰でもいつでも見られるようにすれば、もうあの女はオシマイ、二度と人前に立とうだなんて思わなくなるのだと思うと、自然に頬が緩みっぱなしになっていく。
この世界の誰もが、あんたが知らないような恥ずかしいところまで、よーく知ることになるの、ねぇ素敵でしょ。
会う人会う人がみんな、あなたのカラダの隅々まで知り尽くしているなんて!
そう思ったら人と会うことさえ怖くてできなくなる。
それどころか、外にも出てこられなくなる。
普通の世界ではもう二度と生きられなくなるのよ。
ああ、いいきみ――。
やったわ、あたしついにやったわ!
とうとう、あのオンナを引き摺り下ろしてやった!
ざまーみなさい、おまえはもうオシマイよ、オワッタのっ!
あとは吉本からデータの解凍パスを聞き出せれば、それで全ては計画通りに進む。あの男が何を考えているにしても、こっちの思い通りに進むのは間違いなかった。
吉本さんにはアリシア潰しの手駒になってもらうだけだから――。
お金なんてどうでもいいの。そりゃ、お金になるのならそれでもいいけど、アリシア、おまえさえ潰せればあたしは満足なのよ。
あたしね、おまえがいっつも余裕ぶっこいて笑顔でいるのが大っ嫌いだった。だから、これからは少しは好きになれるかも知れないわ、おまえはこれからいつでも苦痛と悔恨に顔を歪めて悶絶することになるんだから。
お会いする時が楽しみよ、ねぇ、アリシア・フローレンスっ。
人それぞれ、こめられた想いにはいろいろあるようで…