※この作品はR-18です。

二人暮らしなら妹とするのも当たり前だよね。   作:月見ハク

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※ちょいエロ回です


第35話 資料室の妹

「んっ……」

 

 薄暗い資料室に、夕月の甘い声が響く。

 

 俺は体感ではもう分からないほどの時間、作務衣姿の妹を抱き締めていた。

 

(こんなに柔らかかったか……?)

 

 一週間ぶりにハグをしたからか、細くて柔らかい感触がダイレクトに伝わってくる。

 

 胸の中にすっぽり収まる妹が愛おしい。心臓が破裂するほどドキドキするのに、眠ってしまいそうなくらい落ち着く。

 

 禁欲していた反動なのか、夕月のすべてを摂取しようと感覚が研ぎ澄まされている気がする。

 

 少し汗ばんだ妹の、甘くて馴染みのある香りがたまらない。

 

 というか、夕月ってこんなにいい匂いしたっけ。

 

「夕月」

「ん……なに?」

「なんかつけてるか? 香水とか」

 

 匂いのもとを探すように首筋をくんくんと嗅いでみる。

 

「ぁッ……だめ」

 

 夕月がセックスのときみたいな声を漏らした。

 

「すまん、妙にいい匂いするから」

「んぅっ……ぅ、つけてない、なにも」

 

 やっぱり俺の五感が鋭敏になっているだけのようだ。

 

 首のところに鼻先をつけるだけで妹が震え、顔を上向ける。

 

「……感じてるのか?」

「なんか、うん……なんかそこだめ」

 

 一週間の禁欲で敏感になっているのは夕月もらしい。

 

(ああ、マズいな)

 

 抱き締めているだけでたまらないのに、そんな反応をされたらもっと責めたくなる。嗜虐心めいたものが湧き上がってきてしまう。

 

「あっ、んぅッ——」

 

 細い首筋に吸い付くと夕月の体がビクンと跳ねた。まるで挿入したときみたいな嬌声が、俺の股間を熱くする。

 

 キスマークがつかないように優しく吸うと、甘い匂いと塩っぽい味が口内に広がった。

 

 汗も、一週間前に味わったときより美味しい。

 

 まずい。思考がすごく変態っぽい。

 

 でもそんなのどうでもよくなるくらい、もっと吸いたくなってしまう。

 

「んッ、お兄ちゃんっ……それ、気持ちよくなっちゃう」

「やめとくか?」

「……ううん、慣れるから。もっとしてみて」

 

 結局は俺のやることを拒否しない。そんな妹が可愛くて、今度は強めに吸い付く。

 

「あッ、ぅ……んぁっ——」

 

 上半身をよじらせる夕月を逃がさないように固く抱き締める。逃げるわけがないのに、逃がしたくないと思ってしまう。

 

 きめ細かい肌に舌先を当て、れろと舐め上げる。

 

「あぁんっ……ん゛ッ、ん゛ん」

 

 甘い声を上げた妹が慌てて口を閉じた。

 

 学校でさすがに喘ぎ声を出すわけにはいかないと思ったのだろう。俺もそれはまずいと分かっている。なのに目を閉じて耐えている様子がいじらしくて、もっと感じさせたくなってしまう。

 

「んッ——ぁぅっ、ンッ、んぅッ……」

 

 ちろちろと舌先で喉元を舐めるだけで、夕月が感じ入った声で鳴いた。

 

 耐えようとすればするほど快感とこそばゆさが増してしまうらしい。慣れるなんて豪語しておいてよわよわだ。だけど俺も今、妹に同じことをされたら情けない声を漏らす自信がある。

 

 抱き締めている小さい体に熱がこもっていく。甘い香りも濃くなった。ごわごわした作務衣越しに夕月が発汗しているのが分かる。

 

 俺もいつの間にか汗をかいていた。

 

「……お兄ちゃん」

「慣れたか?」

「むり」

「そうっぽいな」

「お兄ちゃん」

「ん?」

 

 何かを言いたそうなので、首筋から顔を離す。

 

「唇、貸して」

 

 泣きそうな顔で夕月が言った。今までで一番物欲しそうな声だ。

 

 瞳を潤ませ、まるで「いかないで」と訴えているようだった。

 

 胸がぎゅっと締め付けられる。こういう妹の懇願に、俺はめっぽう弱い。

 

「貸してって、俺はパソコンか?」

「お兄ちゃんだよ」

 

 少しふざけた俺に、夕月がまっすぐ答える。

 

「ああ、そうだな」

 

 優しく言ってやると、妹は安心したように微笑み、まぶたを閉じた。

 

 相変わらず息をのむほど綺麗な顔だ。長いまつ毛が静かに閉じられ、口づけを待っている。

 

 なんでこんなに疑いもせず待てるのだろう。俺のことを信じ切っている妹を、どうしてこんなに可愛いと感じるのだろう。

 

「夕月」

 

 つぶやくように呼びかけると、夕月がふっと鼻から息をつく。

 

 呼応するように俺も鼻から息を吐いた。これからキスをするよという合図だ。

 

 顔を近づけるだけで無性にドキドキする。初めて好きな女の子にキスをするみたいな心地だ。妹とはなんども唇を重ねているのに、わけがわからない。禁欲で脳がバグったのだろうか。

 

 多分この口づけをしたらもう後戻りができない。そんな予感がする。だけど考えてみれば、とっくに俺たちは後戻りのできないところまできている。

 

 今までで一番時間を掛けて、俺は夕月にキスをした。

 

「っ……」

 

 唇の先が触れ、全身に甘い痺れが広がる。

 

 触れ合う面積が多くなっていき、妹のしっとりとした唇とくっつく。

 

 お互い唇を動かさない。くっつけているだけで気持ちがいい。

 

 夕月の唇の感触で脳が埋めつくされる。この柔らかさも初めて知ったような気がする。

 

「ん……」

 

 唇をつけたまま徐々に押し広げていくと、妹のぷるんとした上唇がわずかにめくれた。

 

 唇の裏側がつるりとして柔らかい。さらにくっつけていくと口内に温かい吐息がこもりだす。

 

「んっ……はぁ、ぇ……ぁ」

 

 俺の舌先が、おそるおそる近づいてきた妹の舌先と触れる。そのまま滑るように舐め合う。熱くて溶けそうな夕月の舌が気持ちいい。これも初めて味わうみたいだ。

 

 わずかなキス音さえしない、静かで甘ったるい口づけ。

 

 挨拶でもない、当たり前でもない、まるでドラマの恋人同士みたいな初めての口づけだった。

 

 およそ兄妹でしていいようなキスじゃない。

 

 一瞬、窓の外から文化祭の喧騒が聞こえた気がした。でもすぐに舌の絡まる音と唾液の混ざる音だけが脳内に響き出す。

 

「んっ、ぇぁ、れ……ぁ……」

 

 妹の舌先が俺の舌の裏側を舐める。

 

 応えるように小さい舌を舐め回すと、妹もそれに合わせて舌を回してきた。夕月の舌が気持ちよすぎて脳が(とろ)けそうだ。

 

 なるほど彼女はこうやってさくらんぼのヘタを結んだのかと合点がいく。

 

 さっき飲んだ練乳ジュースの甘みが口の中に広がる。音を立てないように妹の舌を吸い、唾液を吸引する。

 

「んぁっ……ぁ」

 

 いつしか俺は彼女の後頭部をつかんで固定していた。

 

 空いたもう片方の手で夕月の火照った頬を撫で、細い肩へと滑らせ、汗ばんだ背中に這わせる。華奢な背中をきつく抱き寄せると、妹の心臓の鼓動が伝わってきた。

 

「ぁッ……ん、んぅっ」

 

 くびれた腰つきを撫でるだけで妹の喉奥から可愛い声が漏れる。曲線に沿って手を下ろしていき、弾力のあるお尻に触れた瞬間、きゅっと引き締まった。

 

「ん゛んっ……」

 

 小尻を鷲掴みにしてぐっと引き寄せる。下半身の密着が増し、勃起した股間が妹のお腹に押し付けられた。その心地いい圧迫感だけで射精しそうになる。

 

「ん゛ッ——」

 

 夕月も快感に耐えられないのか、健気に動かしていた舌が止まる。舌の裏側を舐めるとピンと強張っているのが分かった。

 

 もっと妹を堪能したい。もっと感じさせたい。そんな衝動に駆られるまま、俺は後頭部をつかんでいた手を滑らせ、細い首筋をつーっと撫で、ちょっぴり硬い鎖骨をなぞった。

 

 彼女が察したように熱い吐息を漏らし、胸元をわずかに引く。おっぱいを触っていいよという合図だ。

 

 抱き合っている二人のあいだに、胸を愛撫できるだけの空間ができる。

 

「ん……」

 

 俺の背中に回されていた夕月の手に力がこもる。俺のジャケットをぎゅっとつかみ、心の準備ができたと伝えてくる。

 

 舌の絡まりがねっとりとしたものになっていく。張りの増した桃尻をつかみながら、俺は妹の胸元に触れた。

 

「あっ……んぁ」

 

 作務衣の上からふんわり揉んだだけなのに、夕月は我慢できないとばかりにキスを深めてきた。

 

 ふくらみを軽く撫でるだけで、お椀型のおっぱいの形がはっきり分かる。

 

 他の誰にも触らせたくない。覆い隠すには作務衣くらいでは心もとないと思ってしまう。

 

 形のいい乳房の輪郭を確かめるように揉むと、妹が「んッ」と舌を強張らせた。それをほぐすように優しく舌をほぐしながら、手に力を込めておっぱいを包んでみる。

 

「はぁっ……あんっ……おにいちゃ――」

「刺激、強すぎるか?」

「うん、やばいかも」

「なら、もっと優しくするな」

「……うん」

 

 困ったように眉をハの字にしてうなずく妹が可愛い。

 

「ほら」と舌を絡め取り、約束どおりふくらみを優しく揉む。夕月の胸は張りがあるのにびっくりするほど柔らかいので、指がどんどん埋まってしまう。

 

 手触りで、作務衣とTシャツの下に繊細なデザインのブラジャーを付けているのが分かった。

 

 前に勝負下着か? なんて言ってからかったやつだ。今日で禁欲が明けると思って付けたのだろうか。だとしたら可愛すぎる。

 

「ぁっ……ンっ」

 

 作務衣に少しシワが寄る程度におっぱいを揉んでみる。ブラジャーの中に瑞々しい柔肉が詰まっているのを感じる。やっぱり初めて乳房を揉んだときみたいに興奮する。

 

 作務衣越しに柔乳を揉み込んでいると、ブラジャーの奥に突起を感じた。布地の下で可愛らしい乳首がピンと立っているのが分かる。それをブラジャーの布地でこするように撫で回す。

 

「あんッ……んッ、ぁぁっ……」

 

 布の摩擦で余計に感じてしまうのだろう。妹の唇がまた離れた。

 

「もしかして、イきそうか?」

「うん、イきそ」

 

 震えながら肩を上下させる夕月がとんでもなくエロい。激しいセックスで絶頂寸前のときみたいだ。

 

 再び顔を近づけると、遅れて妹が唇を開く。

 

 舌を絡ませて喘ぎ声を封じ、じれったい愛撫を再開する。

 

 むにゅ、とおっぱいをすくい布地の下の柔肉を寄せ集める。作務衣の布が水風船のようなふくらみを形作る。そのまま円を描くように揉み回し、真ん中の乳首のあたりを指で押した。

 

「ん゛ぅっ、んんッ……!」

 

 寄せ集めたからか、布のすぐ下にコリとした乳首が浮き出ている。それを指ですりすり擦ると、夕月が「んっんっ」と喉奥から切なげな声を漏らした。抱き締めている細い体がどんどん強張っていく。

 

 彼女の体温が上がり、俺も体の芯が熱くなった。

 

(夕月)

 

 心の中で呼びかけながら、布越しに乳首を左右に弾く。

 

「ん゛んッ、んうぅっ——ッ」

 

 妹がくぐもった嬌声を上げ、ビクビクと痙攣した。口内に彼女の苦しそうな吐息がこもる。

 

 夕月がイった。

 

 学校の資料室で妹をイかせている。その背徳感でゾクゾクする。服の上から乳首をこすっただけで簡単にイってしまう妹がたまらない。

 

 俺の胸の中で快感に震えている夕月がただ愛おしい。

 

「ん゛っ」「んッ」という可愛い喘ぎ声を堪能しながら、俺はしつこく妹の敏感なところを愛撫し続けた。

 

 

 ◇

 

 

 癒着したように絡まっていた舌を解き、少しだけハグをゆるめる。

 

 互いの隙間にひやりとした空気が入り込んだ。お互い相当に体温が上がっていたらしい。

 

 呼吸の落ち着いてきた夕月が、俺の胸元にトンとおでこを当てた。

 

「お兄ちゃん、私やばいかも」

 

 夕月が声を震わせながらつぶやく。

 

「まだイってるのか?」

「ん……おっぱい、触られただけなのに」

「だな」

「お兄ちゃんも、ヌく?」

 

 それは魅力的すぎる提案だ。

 

 ズボンの中ではペニスが痛いほど勃起している。股間がジンジンと痺れ、妹のお腹にぐっと押し当てていただけなのに射精寸前だ。

 

 一週間の禁欲の反動がヤバい。正直今すぐヌいてほしい。

 

 だけど駄目だ。こんな状態で夕月に股間を触られたりフェラをされたりしたら、射精するだけでは絶対済まない。

 

 そのまま押し倒して猿みたいに抱き潰してしまう。万が一そんなことになったら、マズいなんてレベルじゃない。

 

「いや…………いいわ。学校だし」

「そ?」

 

 なけなしの理性を総動員して、ゆっくり体を離そうとする。

 

 だけどまるで引き合う磁石みたいに、なかなか夕月の体が離せない。

 

 仕方がないので首から上だけでもクールな兄を装う。

 

「一人で立ってられそうか?」

「うん、でも、パンツぐっしょり」

「すまん」

「いいよ。もっと前から濡れっこだったし」

「なんだそれ」

「餅っこ、みたいな」

 

 前髪を汗でおでこに張り付けた夕月が小首をかしげる。

 

 妹がこんなアホの子みたいなジョークを言うとは珍しい。絶頂の余韻でまだ頭が働いていないのだろうか。

 

 いや、多分彼女もくだらないやり取りで火照りを冷まそうとしているのだろう。

 

「しょうもないな」

「カチコチ棒よりマシでしょ」

「同レベルな。てか、いつから濡れてたんだ?」

「んー……廊下歩いてるときくらい?」

 

 いつのときの廊下だとツッコみたくなるが止めておく。

 

 資料室に向かっているときの廊下ならまあ分かるが、もしマユちゃんと三人で廊下を歩いているときから濡れていたのだとしたらヤバい。

 

 あんな澄ました顔しながらアソコを濡らしていたのだとするとエロすぎる。今度こそ夕月を押し倒してしまいそうだ。

 

(クールになれ、俺)

 

 何か気の紛れることを考えよう。……というかこの妹は、廊下を歩きながら「あー今の私濡れっこだー」なんて思っていたのだろうか。だとしたら面白すぎる。

 

 そんな夕月もエロくて可愛いが、よし……猿みたいな衝動はおさまってきた。

 

「お兄ちゃん、なんでニヤニヤしてるの。ちょっとキモいよ」

「いや、ちょっと思い出し笑い。つーか下着濡れて大丈夫なのか」

「うん、拭くからトイレ寄りたい」

「あいよ」

 

 他にも汗を拭いたりとか女の子だからいろいろあるのだろう。

 

 やっと支えのいらなくなった妹の手を引き、俺はなんとか資料室を出た。

 

 

 

 

「お兄ちゃんお待たせ」

「おかえり夕月」

 

 涼しい顔をした妹がトイレから出てくる。

 

 前髪もさらさらになり、俺がつかんだせいで乱れてしまったポニーテールの結び目も直っていた。

 

 作務衣のシワも整えられ、凛とした和風美少女に戻っている。

 

「ん。よし」

 

 夕月が俺の頭から足のつま先までを一瞥して、納得したようにつぶやく。どうやら妹の身だしなみチェックに合格したらしい。

 

 ギンギンに勃起していた股間も、トイレの個室でいまいちなお笑いコントを思い出すことでなんとか鎮めた。

 

「なにがよしなんだ?」

「ただのお兄ちゃんだなーと」

「なんだそりゃ」

「あ、お兄ちゃん、まだ時間あるから音楽室いく?」

「音楽室って、軽音部がライブやってんだっけ」

「うん」

「いいけど、お前バンドとか興味あったんだな」

「ないけど、私ライブって見たことないから」

「ライブなー……まあアマチュアバンドでもライブっちゃライブか」

「お兄ちゃんエラそー。楽器弾けないくせに」

「カスタネットとタンバリンならいけるぞ」

「あとお腹ポンポンも得意だよね」

「あーこれな」

 

 お腹を太鼓みたいにポンポンと叩く。まだ妹が小さい頃、これをやるとキャッキャと笑ってくれた。すぐに飽きたっぽいから封印したが。

 

 というかよく覚えてるな。

 

「しょーもな」

 

 夕月が小馬鹿にするように笑う。自分で振ってきたくせになんだコイツと思うが、そんな小生意気なところも可愛く思えてしまうから兄というのは不幸な生き物だ。

 

 俺たちはいつもの軽口を叩き合いながら、校舎の三階にある音楽室へと向かった。

 

 

 

 

「おぉ~、けっこう盛り上がってんな」

「音すごいね」

 

 二人して、音楽室に充満する熱気と爆音に圧倒されていた。

 

 窓は暗幕で閉じられ、前の方ではカラフルなライトに照らされた学生バンドが懐かしいポップソングを演奏している。

 

 これでは音量がでかすぎて顔を近づけないとお互い声が届かなそうだ。

 

 室内はお客さんでぎゅうぎゅう詰めになっていて、後方にいる俺たちからはバンドの姿がほとんど見えない。俺はぎりぎり見えなくもないが、意外に小柄な妹はお客の後頭部しか視界に入らないだろう。

 

 そういえば昔、近所の公園で大道芸イベントが開催されたとき、俺は小さい夕月をずっと肩車していた。

 

 それを思い出し、冗談めかして言う。

 

「夕月、肩車してや——」

「お兄ちゃん肩ぐる——」

 

 二人同時に顔を近づけ、同じ冗談を言いかける。

 

 俺がつい笑ってしまうと妹もつられて笑い、すぐに苦虫を噛み潰したような顔をした。兄のジョークと同レベルだったことを悔いているのだろう。

 

 夕月は前を向くと、気を取り直したのか頭を左右に揺らし始めた。

 

 流れているのは俺たちが生まれる前に流行った曲だが、妹は聞いたことがあるらしい。ふんふんと的外れな音程で口ずさんでいるのが、なんとなく分かる。

 

 横顔が、ずいぶん楽しそうだ。

 

 俺も夕月に合わせ、下を向いて演奏だけを楽しむことにした。

 

 ボーカルの男子がコールアンドレスポンスを呼びかけ、お客たちがタイミングを合わせて手を上げる。俺と夕月は見事に乗り遅れてしまった。

 

 二人で顔を見合わせ、アイコンタクトをする。

 

 次のコールに合わせて俺たちも拳を上げた。けっこう気恥ずかしい。夕月の上げた腕も控えめだ。

 

 俺たち兄妹は生でライブを観るのが初めてだ。ライブの作法なんて知らないし、二人ともこういうノリは苦手だったりする。だからといってこの場でノらないなんて無粋な真似はしたくない。

 

 俺は次のタイミングで他のお客さんに負けないくらい拳を突き上げた。

 

 それをちらりとうかがっていた夕月も、次のコールで同じように手を上げる。いい手本になれたようだ。

 

 ノリノリな曲が終わり、ボーカルの男の子がお客への感謝を述べ始めた。

 

 よく見ればお客のほとんどは制服を着た生徒だった。

 

 ふと、MCに耳をすましている夕月の横顔を眺める。

 

 やっぱり楽しそうだ。だけどこういうのは普通、仲のいい友だちやクラスメイトと盛り上がるものなんだろうなと思う。

 

 妹に顔を近づけると、彼女も「ん?」と片眉を上げてこちらを向いた。

 

「夕月、文化祭でライブ観るの初めてだよな?」

「初めてだよ」

「相手が俺でよかったのか?」

 

 すると夕月が眉間にシワを寄せて口を開きかける。だが他の人に聞こえてしまうと思ったのか、口元に手を添える仕草をする。

 

 耳を近づけてやると、妹がチュと耳の内側に口をくっつけた。一週間ぶりに聞くキス音だ。

 

「私はお兄ちゃんがいい」

 

 怒ったような低い声が、鼓膜に響く。

 

 耳を離すと、妹はさも当たり前のことを言っただけというように眉間を寄せていた。

 

 ちょっと不服そうな横顔をしばらく眺める。

 

 いつの間にか次の曲が始まっている。

 

 だけど俺の心臓は演奏に負けないくらいバクバクと鳴っていた。

 

 まったくこの妹は、どこまで俺を堕とすつもりなのだろう。

 

 

 

 

「——じゃ、お兄ちゃんまたあとでね」

 

 正門前で、作務衣姿の夕月が控えめに手を上げる。

 

「おう。てか休憩時間ずいぶん長かったな」

「クラスの当番はもうないし。これからは実行委員の仕事、後夜祭の準備」

「あー後夜祭かー。じゃー帰るのは7時過ぎくらいか」

「多分そのくらい」

「おーけー。夕飯いるよな?」

「うん、打ち上げは出ないから。私が帰ったらお兄ちゃん起きてね」

「寝てる前提かよ」

「眠いでしょ?」

「ぜんぜんまったく」

「なら起きて待っててね」

「最初からそのつもりだよ」

「帰ったらするよね?」

「……まあ、するな」

「ん」

 

 妹がナチュラルにセックスの話をぶっこんでくるが、動揺はしない。俺もそのつもりだからだ。

 

 作務衣を着た姿に魂を持っていかれ、さくらんぼのヘタを結ぶというテクニックを披露され、資料室で恋人みたいなキスをして、腕の中でたやすくイってしまう様子を見せられて……正直、我慢の限界だ。

 

 というか文化祭の思い出がほとんど夕月で占められている。

 

 相変わらず俺は妹しか見ていない。だけどもう、一生それでいいと思った。

 

 人としての常識を捨て去る心地でため息をつき、それから普通の兄っぽい表情を作る。

 

「後夜祭、楽しんでこいよ」

「ん」

 

 俺も控えめに手を上げると、ゆっくり家路についた。

 




※次話、妹視点です
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