「あ、夕月おはよー!」
「おう! 浅川、今日早いじゃん」
教室に入ると、私より先に来ていた男子と女子が声を掛けてきた。
「おはよ、今日から私も朝練だから」
そつなく挨拶をこなし、窓際の自分の席に座る。
スマホの時計を見れば朝の6時半。
いつもだったらお兄ちゃんとベッドの中でぬくぬくしている時間だ。
なんてことを考えながら机にカバンを掛けて、頬杖をつく。窓の外を見れば、私より遅く登校してくる人たちがのんびり校庭を歩いていた。
あの人たちもきっと朝練組だ。ちょっと早く来すぎてしまった。
「はぁ……」
口からため息がこぼれる。
(昨日のお兄ちゃん、すごかったな……)
ついお腹の下を押さえる。昨日から何度目だろう。
(風邪引いてたから、なのかな)
お兄ちゃんがあんなに激しいエッチをしてくるなんて。
いつもは私の様子をうかがって、私が気持ちよくなるように、気遣うようなセックスなのに。
あんなふうに下から、激しく……自分勝手に動かれるの、初めてだった。
びっくりして、気持ちよすぎて。なんでか嬉しくて。
まだ、あのときの火照りが消えない。
あの、お兄ちゃんの硬いので奥を突かれる感覚が、残ってる。
思い出すたびにアソコが疼いてしょうがない。
(昨日の夜、一緒に寝なかったせいだ)
お兄ちゃん成分が足りない。全然足りない。
「夕月~、おはよー、お待たせ~!」
「おはようマユ」
抱きつくみたいな勢いで近づいてくるマユに、苦笑いであいさつをする。
「夕月まーた
「え、なにそれ」
「そんなに気になるなら正々堂々声かけてみればいいのにね」
「なにを声かけるの?」
「はぁ~……夕月って頭いいのに鈍感だよね~、まぁそこも可愛いんだけど」
「マユのほうが百倍可愛いよ」
「嬉しいこというじゃーん」
事実だ。
マユの長い黒髪はさらさらだし、いつもシトラスのいい匂いがするし、顔だって可愛い系で親しみやすい感じがあるし、胸だって私より一回りは大きい。
前にお兄ちゃんのエロ動画フォルダで見つけた、巨乳のお姉さんにすごくよく似てる。あれ以来、女の子の胸に目がいってしまうヘンな癖がついてしまった。
それにマユの魅力はおっぱいだけじゃない。性格だっておっとりしているように見えて、その実しっかり者。甘ったれで優柔不断の私とは大違いだ。
きっと、お兄ちゃんはこういう子がタイプ。
「で、なにを
「ううん、なんにも。ただぼけーっとしてただけ」
「もしかして気になる人でもできた?」
「そんな人いないよ」
異性にはあまり興味を向けたことがない。
強いていうならお兄ちゃんだけど、恋愛的なあれとは違う気がするし。
「だよね~、夕月ちゃんそういうの全然興味ないもんねー」
「なんで大きい声でいうの?」
マユの思わせぶりな視線を追うと、教室の隅にいた男子たちがさっと目を逸らした。
なんかイヤな感じがしたけど、何でもない顔をしてやり過ごす。学校では波風を立てたくない。
「でも夕月はもったいないよね~、その気になれば選び放題だよきっと」
「そんな都合よくいくわけないでしょ」
「そうかなー」
選ぶだけでいいなら人間苦労はしない。
「そういうマユは気になる人でもできた?」
「およ、わかる? 気になるっていうか、ちょっと気になってるっていうか~」
「それってどう違うの?」
「ウブな夕月ちゃんには十年早いかな~」
「はいはい、そろそろ朝練行こ?」
着替えの体操服とジャージを取り出し、立ち上がる。
教室を出ると、マユも慌てて付いてきた。
「まってまってっ、夕月歩くの早い」
「待つに決まってるでしょ」
「へへ、それでさ、ちょっと気になる人のこと、聞いてくれる?」
「聞くよ」
「怒らない?」
「怒らない。私がマユに怒ったことあった?」
「ないよね、お兄ちゃん関連以外は。だから聞いたのー」
「え?」
「へ?」
思わず立ち止まる。
鈍感な私でも、マユの言わんとすることが分かってしまった。
「もしかして、うちのお兄ちゃん?」
「ヤダー、はっきり言わんで~!」
「え、ほんとに?」
「うーん、まーほんとに。っつっても、この前家に遊びに行ったとき、ちょっとカッコいいなって思っただけだよ」
マユがほんのりとほっぺたを染める。可愛い。
この子のこういう恥じらい顔を見るたびに、眩しくてうっとたじろぎそうになる。
あれ、でもマユって面食いだったはずじゃ。それもかなりの。
「お兄ちゃんって……格好いいの?」
「いやまあ、ほら、顔は夕月とそんなに似てないけどさ、なんかこう雰囲気? みたいのあるじゃない」
雰囲気?
雰囲気。
ごめん全然わからない。
「夕月んちでシャワー借りたときさ、停電しちゃったでしょ」
「あー、マユが長い時間ドライヤー使ってて、私が電子レンジで肉じゃが温めちゃったときね」
「そうそう、そん時さ、お兄さんが洗面所に顔出して、大丈夫だからちょっと待ってて、今ブレーカー上げてくるからってわざわざ言ってくれてさ~。それがカッコよくて」
「……それだけ?」
「そんなもんだよ~。あ、この人って普段から優しいんだなって。ナチュラルに頼りがい発揮する人っていいじゃん」
そんなの、しょっちゅうだけど。
なんでだろう。少しモヤモヤする。
無性にマユのほっぺたをつまんで中に何が詰まっているのか確かめたい。
「ちょ、夕月ー、なんでほっぺむにむにするの~っ」
えっと、こういうときって、妹としては兄を褒められて喜ぶべき?
それともあんな兄がって呆れるとこ?
うん。
多分後者だ。
「別に、うちのお兄ちゃんだって普通に情けないときあるよ。私に謝ってばっかだし、上からで説教くさいときあるし、たまに優しくないときもあるし、それに脱いだ服とか部屋に放りっぱなしだったりするし、風邪引くし。あとただいまに返してくれないときある」
なんでだか、お兄ちゃんの悪口が止まらない。
「夕月って、ほんとブラコンだよね~」
「いや、私ブラコンじゃないよ」
「そんなブラコンシスターから見て、私ってどうかな、脈アリそう?」
脈?
脈……。
「……多分、タイプなほうだとは思う」
「ほんと!? じゃー今度また夕月ん家に遊びにいっていい?」
「うん、いいよ」
「よっしゃ~!」
「ごめん、ちょっとトイレ寄ってから行くね」
「はいよ~」
女子トイレに入り、とりあえず洗面台の蛇口をひねる。
水の音が、このモヤモヤをかき消してくれるような気がして。
(お兄ちゃんに、彼女……彼女?)
昔から、お兄ちゃんは側にいるのが当たり前だと思ってた。当たり前のように側にいてくれた。どんなに寂しくても、お兄ちゃんがいれば平気だった。
母と、お父さんがいなくなって。
二人暮らしになって。
お兄ちゃんは私がすごく寂しがってると思ってるみたいだけど、別に私はそこまで寂しくなくて。
むしろお兄ちゃんとの距離が近くなって、嬉しかった。
だから、お兄ちゃんとキスするのもエッチするのも当たり前で。
思春期で、そういうことに興味が湧くのも当然なわけだし。
別のクラスの人に告白されて付き合ったこともあったけど、でもなんか、お兄ちゃん以外の人とキスする気にはなれなくて。
実際にお兄ちゃんとしてみたらやっぱり平気で、安心するのにすごく気持ちよくて、セックスだって――。
「あ、夕月おは~」
「これから朝練?」
ぼーっと鏡を見つめていたらクラスの女の子たちに声を掛けられた。
「うん、朝練だよ」
気さくだけど気さくすぎない表情を作って返事をする。
「夕月今度はバスケ部の助っ人なんだっけ?」
「うんそう」
「そいや私さー、男バスのキャプテンちょっといいなって思ったことある」
「おほ、それってあの金髪の人だよね。確かにイケてるわ。夕月話したことある?」
「ない、かな。バスケ部の練習出るのも今日が初めてだし」
「あ、じゃあさじゃあさ、連絡先ゲットしたらグループ作ってよ」
「その金髪の人って、格好いいの?」
「カッコいいってか、雰囲気イケメン的な?」
「雰囲気イケメン……?」
「夕月には分かんないか~、あんまり男子に興味ないもんね~」
「ね~、もったいなっ」
謎の捨て台詞を残し、二人は行ってしまった。
うん、やっぱり男女のアレコレはいまいち分からない。
でも……一つだけ思うことはある。
お兄ちゃんを格好いいとか雰囲気とか、そんな基準でくくりたくない。くくってほしくもない。
「なんだろ、この気持ち」
言葉にしたくないけど、言葉にしたら一気に氷解するような感じが、なんだかこわい。
「あー~~、もう、お兄ちゃん……」
目をつむり、文句を言うように助けを求める。
こういうモヤモヤしたときは、お兄ちゃんにぎゅうってしてもらうに限る。それでだいたいのことが解決する。
心が落ち着くまで抱き締めてもらったら、少しかさついた唇にチューして、しっとりさせられたらご褒美みたいにもう一回抱き締めてもらう。これが、いつものルーティン。
それでお兄ちゃんのトクトク鳴ってる心臓の音聞いて、落ち着く匂いに包まれて、それを鼻いっぱいに吸って。
体があったかくなってきたら深いキスしてもらって、また抱き締めてもらって、憎まれ口叩きながらお兄ちゃんの服脱がしてあげて。
唇だけじゃなくて、おでことかほっぺたとか、首とかお腹とかにもキスしてもらって、本当は体中にしてもらいたいけど、裸になったらもう抑えがきかなくなる気がして、だから上は脱ぎたくなくて……お兄ちゃんはきっとおっぱいが見たいんだろうけど、自信がないし幻滅されたら立ち直れないから下だけってお願いして、でもお兄ちゃんは全然嫌な顔しなくて、そんなところもお兄ちゃんだなって思えて。
気持ちいいとこ触ってもらって、気持ちいいことしてもらって、硬くて熱いおちんちんで気持ちいいとこ擦ってもらって、たくさんエッチなキスして体もくっつけ合って、わけわかんなくなるくらい気持ちよくなって、お兄ちゃんのいっぱいいっぱいな吐息が嬉しくて、いつもクールぶってるのにシてるときは必死な顔してるのが無性に可愛くて、ときどき立場逆転って感じになるのがざまあみろってなって楽しくて、アソコの奥きゅって締めるとビクンと震えるのも可愛くて、私もお兄ちゃんを気持ちよくしてるのが嬉しくて、お兄ちゃんのことを独り占めしてる感じもたまらなくて、でも結局私のほうが先にイっちゃって、何度も何度も、何度もイって終わったらまた抱き締めてもらって……太くて寝心地のいい腕を枕にして、寝るまでゲームの話とかくだらないこと話して、仕方なさそうによしよしって頭撫でてもらいながら眠って、起きたらまたチューして、足とか絡ませ合って、時間があったらゆっくりなセックスで温め合って、体がずっとふわふわしてて、それはすごく幸せな朝で――。
「はぁ~あ」
体が熱くなってジンジンしてきたのを、顔に水を掛けて冷ます。
「……土曜日まで、遠いな」
なんで試合が終わるまで一緒に寝ないなんて言っちゃったんだろう。
風邪気味なお兄ちゃんが欲望をぶつけるみたいなセックスしてきて。
そしたら何かが決壊しそうになって、これ以上はなんかやばいって思って。
つい、言っちゃったんだ。
「お兄ちゃん、私……」
はやく、お兄ちゃんとセックスがしたい。
昨日みたいに好き勝手、ううんもっと、ぐちゃぐちゃに、わけわかんなくなるくらいに――。
あふれそうな感情を処理できないまま、私は蛇口を閉めた。