制服姿の夕月と電車に乗るのは、いつぶりだろうか。
一つ乗り継いで馴染みのあるローカル線に乗り、ドアの近くに立つ。土曜の夕方前だからか、車内はけっこう混んでいる。
二人でドアに肩を寄りかからせながら、俺たちはくだらない兄妹トークに花を咲かせる――こともなく、ポツポツと話したり、車窓の外を流れる風景を眺めたりしていた。
兄妹だからか、沈黙も苦にならないのがありがたい。
「そーいや夕月、バスケ部入れば? どうせ誘われてんだろ」
「えーいいよ、家事当番あるし」
「別に平日は俺が全部……いや、やっぱめんどいわ」
「え、なら聞かないでよ」
まったくこの兄は、と顔に書いてある。
実際、妹の代わりに家事を受け持つくらい苦じゃないのだが、なんとなくためらってしまった。
電車が停まり、ホームから人が流れ込んでくる。激混みというほどではないが、揺れると他の人と肩がぶつかりそうなくらいには密度が増していた。
「夕月、混んできたからこっち」
細腕を引っ張り、自分とドアの間のスペースに入れる。
「うん、ありがと」
「てかお前、試合の時と髪型ちがくないか」
シンプルなポニーテールだったのが、今は結び目がねじれたりしている。同じ髪型でも多分おしゃれなほうのやつだ。
「気づくのおっそー。マユにアレンジしてもらったんだけど、どう?」
「ん~、花とかさしたらいい生け花になりそう」
「は、お兄ちゃんケンカ売ってる? ――うわっと」
電車に急ブレーキが掛かり、反射的に夕月の肩をつかんで引き寄せた。
ガタンガタンと車体が何回か揺れ、止まる。「停止信号です」という車掌のアナウンスがあり、ほっと胸を撫でおろす。
「大丈夫か?」
胸元におでこを埋める妹に声をかける。
「うん、だいじょぶ……てかお兄ちゃん汗くさ」
「うるせーな、電車の中あちーんだよ」
「確かに暑いね」
俺を見上げながら、手のひらでパタパタと顔をあおいでいる。汗混じりの甘い匂いがふわりと上がってきて、思わずドキリとしてした。夕月とセックスしているときの匂いだ。さっきから柔らかい胸の感触が当たっていて股間が反応してしまう。
(やば、話題変えないと)
「なあ、夕月って今も学校でモテてんのか」
「へ……? 普通そんなの妹に聞く?」
「いや、普通かどうかは分からん」
「まあ、うん、だよね」
「で、どうなん」
「うーん、たまに告白されたりはする……くらい」
「するくらいって、普通は一年に二度も三度も告白されないからな」
話題が話題なので二人ともどんどん小声になっていく。急停車で静まり返った車内で、どうしてこんなセンシティブな話題を振ってしまったのか。
自然と顔が近づき、互いの吐息が混ざり合う。
多分、これは兄妹の距離感ではない。強いて言うならキス直前の距離だ。はたから見たら間違いなくカップルだと思われるだろう。
ガタン、と車内が揺れ、電車が進み始める。
なのに夕月は鼻先が触れる距離のまま、困ったような表情を向けてきた。
「さっきさ、お兄ちゃんの友だちの、ジョーさんだっけ……に、告白されたよ」
夕月がじいっと見つめてくる。それはどこか俺の反応をうかがっているような気がした。
「マジか。で、なんて返事したんだ」
結果はすでに聞いているが、あえて知らないフリをする。
「……お兄ちゃん当ててみて」
ほぼ吐息のような声が妙に色っぽい。
「ずいぶんなクイズだな。まあ、普通に振ったんだろ。じゃなきゃ今ごろジョーと手つないで帰ってるだろうし」
「正解です。私まだ恋愛とかしてるヒマないし」
「ちなみになんて言って断ったんだ?」
「んー……普通に、タイプじゃないですごめんなさいって」
それは一度目と二度目の断り文句のミックスだ。なんでだか、夕月は嘘をついた。
「そうか。こんな妹に振られてジョーも気の毒に……」
「こんな妹って、どんな妹?」
夕月が俺を睨みつけながら口角を上げる。かなり好戦的な笑みだ。
「守ってやった兄を汗くさいとか言う妹」
「違うでしょ」
そう言うと夕月はますます口角を上げ、自分の前髪をつまんでふいっと持ち上げた。
「朝に寝ぐせがすごい妹、だよね」
「あ、すまん」
俺は即座に謝った。
試合前ジョーに言った悪口を、こともあろうに夕月へ伝えていたらしい。なんてやつだ。
「のほほんとしたド天然の家ではテンション低い妹、だっけ」
「テンション低いとは言ってないぞ。でもまあ、すまん」
「ジョーさんが笑いながら教えてくれたよ。妹の悪口言うとか、最低の兄じゃん」
「だからすまん、ついな」
「ついじゃないし。勘弁してよね」
声のトーン的に夕月は怒っていないようだ。三回もすまんと謝ったおかげか、元からそんなに怒っていなかったのかは分からないが。
「ああ、もう絶対言わないわ」
「お詫びにお兄ちゃんなんか買って」
「なにがいい?」
「アイスでいい。帰りにコンビニ寄ろ、ゴムも買いたいし」
「……それもおごるわ」
「当たり前でしょ、お兄ちゃんが付けるんだし」
不意打ちでぶち込んできたゴム発言をなんとか受け流し、俺は夕月から体を離した。
「ありゃっしぁー」
店員の気の抜けた声に押されながら、俺はコンビニを出た。紙袋には一番高いアイスが2つと、12個入りのコンドームの箱が2つ入っている。
駐車場のところで待っていた夕月に声をかけ、二人で家路を歩く。
空はすっかり赤みを増し、あと一時間もすれば日が沈んでしまうだろう。夕陽に染まりかけの空をぼけっと眺めていると、隣を歩く夕月がふふと笑った。
「なんかの思い出し笑いか?」
「ん? うん……さっきの店員さんの挨拶、面白かったなって」
「お前、外であんま人様の陰口いうなよ、ぶっ飛ばされるぞ」
「もぉ、いいじゃん。別に陰口じゃないし、お兄ちゃんの前だけだし」
「てかそんなに面白かったか?」
「いや、なんか嵐山~って聞こえちゃって」
「それは確かにおもろいわ」
思わず俺もぷっと吹き出す。
素の夕月はこんなにひょうきんな性格なのに、俺の前でだけなのがもったいない。だが、こんな姿を見せたら惚れる奴を増やしてしまうだけなので、やっぱり今のままでいいとも思う。まったくもって勝手な兄心だ。
「嵐山~」
「ぷふ、お兄ちゃん、不意打ちはだめっ……嵐山~」
「あらしゃんまや~」
「私ちょっと他人のフリするね」
「うそだろ」
冷たく言い放った妹が五歩くらい前を歩き出す。こういうくだらないやり取りも、なんだか懐かしい。
夕月の後ろ姿を見つめる。
ピンと伸びた背中。ブラウスの上からでも分かる見事なくびれ。大人びた腰つき。丸みを帯びたお尻は色っぽく、つい股間をぶつけたくなる。スカートからすらりと伸びる白い太ももなんて、目の毒を通り越してもはや凶器だ。
なのに、曲がり角のたびに横目でチラリと俺が付いてきているかを確認する仕草は、昔と変わらない。
思わず襲いたくなるほど女の色香を漂わせているのに、紛れもなく可愛い妹のままなのだ。それが不思議でたまらない。
6階建ての分譲マンションが近づいてくる。その5階の端が俺たちの家だ。
エントランスを通り抜けると、すでにエレベーター待ちをしている夕月に呼びかける。
「ちょいと郵便受け見てくるわ」
「んー」
どうでもいいチラシなんかを取り出してエレベーターへ向かうと、目の前でドアが閉まった。
「おい、こんにゃろ」
中でふふんと口角を上げた夕月が、すーっと上にスライドしていく。
(かくなる上は)
俺は階段を全力ダッシュすることにした。二段飛ばしで駆けあがり、3階、4階と走り抜けていく。5階に到達すると、ちょうどエレベーターが上がってくるところだった。
間に合った。俺の勝ちだ。
上昇してくるエレベーターの中を覗くと、夕月は寂しそうに眉尻を下げていた。そんな顔をするくらいなら、変なイタズラなんかしなければいいのに。
待っている俺を見つけると、妹は安心したように頬をほころばせた。
「……ったく」
出てきた妹に恨めしげな視線を送る。
「お兄ちゃん、めっちゃ汗だく。汗くさ」
「久々に全力疾走したんだよ」
「よく先に着いたね」
「これでも体力には自信があるからな。万年帰宅部なめんな」
「まあそっか、いつも私が先にバテちゃうしね」
ほんと、不意にこういう股間にくること言うんだよなこいつ。
なぜか勝ち誇ったように夕月が前を歩く。外廊下の一番奥、家の扉の前で立ち止まると、俺のほうを振り返った。
「ん、それ持ってる」
「へいへい」
持っていたコンビニ袋を手渡し、俺は扉の鍵を開けた。
妹はこういうとき、いつも俺を先に入れる。誰もいない家に帰るのが嫌なのだろう。
「おかえり、夕月」
扉が閉まる。薄暗い玄関で、視線が交差した。
「お兄ちゃん、ただいま」
誘うような上目遣いが、ゆっくり近づいてくる。
「んっ……」
ごく当たり前のように、夕月が唇を重ねてきた。
ん、ん、と久しぶりの感触を確認し合ってから、唇の内側まで密着していく。
こいつ、帰ったら俺のほうからお願いしろって言ってたくせに。
「んむっ……ぁ、ぁ、んッ……ちゅ」
数日越しのキスが、痺れるくらい気持ちがいい。はむ、あむと頬張るように顎を動かし互いを味わう。舌先が触れ合うと、夕月はれろっと俺の舌を舐め上げてから唇を離した。
「お兄ちゃんの唇、やっぱカサついてる」
「お前、さっき俺からお願いしろって言わなかったか?」
「うん、お兄ちゃんから、言って」
「はぁ……まあいいよ。夕月、唇貸して」
「……いいけど?」
どこか挑発的な笑みを浮かべる夕月に、鼓動が高鳴る。
俺は彼女の後頭部を優しく押さえると、固定された唇にキスをした。夕月のおかげで唇もしっとりしたから、もう文句を言われないはずだ。
「んぁッ……ぇ、ぁっ、んぅっ、ふ……あ、れぁ……」
全身からこみ上げてくる熱をぶつけるようなキスをする。夕月の口内に舌を差し入れ、彼女の舌を根元から舐める。夕月も負けじと舌を絡ませてきた。懸命に俺のキスに応えようとする舌の動きが、健気で可愛い。
小さい舌を弄ぶように左右に舐め、唾液ごと吸ってから、呼吸をするために舌を解く。
「ぷぁ……っ」
解放された妹の口から溜まっていた吐息が漏れた。
これまでしたことのない濃厚で激しいキスだ。夕月の反応をうかがうと、肩を上下させながらも意外に淡々としていた。
「こんなキス、初めてじゃない?」
「そうか?」
なんとなくすっとぼけてみる。
「お兄ちゃん、たまってる? 大丈夫そ?」
多分純粋に聞いてきているだけなのだが、俺にはその小首をかしげる顔がやけに挑発的に見えた。
「夕月こそ、ここすごい濡れてるぞ。大丈夫か?」
スカートをめくってパンツに触れると、ぐっしょりと湿っていた。布越しに愛液が染み出しているほどに。
「あッ……んんっ、ぁっ……お兄ちゃん、んぅッ……」
張り付いた布の上から割れ目をなぞり、浮き出たクリトリスをいじる。つーっと指を上げていき布と肌の境界線までくると、徐々にパンツの中へ手を滑り込ませていった。
「大事なとこ、
「うん……お兄ちゃん、指、貸して?」
指でイかせてほしいと素直に言えばいいものを、ずいぶん回りくどい言い方だ。別に膣を愛撫するのなんて初めてじゃないのに。
今日の夕月は素直に甘えてきたり、かと思えばツンとした態度を取ってみたりと、情緒がやや忙しい。
なめらかな鼠径部を撫で、こんもりとした恥丘をくすぐり、濡れそぼった割れ目に指を埋める。
「あぅっ、んっ……はぁ……ッ」
脳を蕩かすような夕月の色っぽい声が、玄関に響く。
ほぐれきった膣口に二本の指を侵入させると、妹は快楽から逃れたいのか半歩下がった。俺も指を入れたまま半歩近寄る。するとまた夕月が半歩下がり、背中が玄関の壁に当たった。俺がさらに半歩近づくと、妹の柔らかい胸と密着した。
クチュクチュと音を立てて膣内をいじると、夕月が俺のシャツにしがみつき胸板に顔を埋めてきた。小刻みに鼻呼吸をして匂いを嗅いでいるようだ。
「汗くさいんじゃなかったのか」
「別に、イヤとは言ってないよ。お兄ちゃんの匂い、安心するし」
「そうか」
これまで何百回と夕月は俺の胸で眠っている。だから、そんなことは最初から分かっていた。
俺も夕月の甘い匂いはドキドキするけど、なにより落ち着く。きっと兄妹だからだろう。
「ンッ……お兄ちゃ、っ……これ、やばい」
「イきそうか?」
返事の代わりに夕月が胸元でコクコクとうなずく。
そういえば、こんなにしつこく膣を愛撫したのは初めてだ。いつもは濡れると夕月が早々に挿れてとねだってくるから。
夕月の手からコンビニ袋が落ちそうになったので、指から外して靴棚の上にガサリと乗せる。すると彼女が空いた手を俺の背中に回してきた。
「お兄ちゃん、唇……」
「ああ、わかってるよ」
求めるように開いた唇へ吸い付く。呼吸と交互にキスをしながら、指での愛撫も続ける。
「ん゛ぅっ……」
膣内にある夕月のいいところを指の腹で小刻みにたたくと、彼女の喉奥から苦しげな声が漏れた。亀頭でこするときと要領は一緒らしい。力加減を調節し、夕月の震えや息づかいから一番気持ちの愛撫を探っていく。
相当に感じているのだろう。パンツの中は愛液であふれ、布地の隙間からポタポタと床に垂れていた。夕月がこんなに蜜を出すのは初めてだ。
「お兄ちゃんっ、アッ、だめっ……」
「だめ?」
嫌がるような言葉を漏らすのも初めてだ。だけどその声色に拒絶感は一切ない。
「だめ、かもっ……」
「いいよ、イって」
再びトントンとおでこを胸板に当ててきた夕月が、俺のシャツを握り締めた。
「んンッ……あっ、はぅ……くッ、ぅぅ……ッ――!」
思いきり体を強張らせて、小さい体が絶頂に震える。
俺は夕月を初めて指でイかせたことに興奮していた。小生意気でクールぶっている彼女をこうまで快感に悶えさせた満足感に、屈服させたのだという歪んだ高揚感。同時に、俺の胸の中で力無く震える妹への愛おしさがこみ上げてくる。
このぐちゃぐちゃに入り混じった感情は妹に向けていいものではないはずだ。やっぱり俺は兄貴失格なのだろう。
「――っ、はぁっ……ぁッ、お兄ちゃん……」
「夕月、大丈夫か?」
「どこで、こんな……指の、これ」
「どこでもなにも、お前が初めてだよ」
「……知ってる、けど……こんな、気持ちいいの……知らない」
ガクンと夕月の腰が落ちたので、慌てて抱き締めた。
すると、夕月が両手でぐいっと俺を引き離そうとしてくる。
「はなれて……制服、シワになっちゃうから……」
こんなときでも制服の心配をするらしい。確かにここでセックスを始めたら制服はしわくちゃになってしまう。
「俺のベッド行くか?」
「うん……その前に、お風呂入りたいかも」
「お前、ほんと風呂好きだよな」
「だって汗びしょになっちゃったんだもん」
「ああ、あの電車、ぜったい設定温度まちがえたよな」
「ちがう、今ので」
眉間を寄せて抗議をしてくる夕月に、ぐっと股間が硬くなる。火照った体、朱く染まった頬、潤んだ涙目。そのすべてが俺の男としての獣欲を刺激する。
危うくおっぱじめそうになる本能を抑え、ゆっくりと体を離す。
「じゃあ風呂入ってきな。俺もそのあと入るわ」
「え、お兄ちゃんも一緒に入ろうよ」
「一緒ってお前」
「……もしや、恥ずかしかったりする?」
それはどっちかというと俺のいう台詞ではないだろうか。
「お前こそ恥ずかしいんじゃ……」
「別に、兄妹だし今さら……それに私たち、二人暮らしなんだし」
今日の夕月はやはり不思議だ。
今まで何度体を重ねても、夕月は胸を見せるのもNG、一緒にお風呂なんて絶対に言語道断といった感じだった。一度運悪く洗面所で裸の妹と出くわしたときには、エロ兄最低と猛抗議を受けた。
それが、どんな心境の変化だろうか。
まあ俺としては願ったり叶ったりだ。正直一刻も早く汗を洗い流したい。今日は変な汗を死ぬほどかいた。
それに、決壊ぎりぎりの性欲が今にも暴発しそうだったから。
「お兄ちゃん、どうする?」
「じゃあ入るかな」
「そ……じゃあアイス冷蔵庫入れてくるね」
「ああ、それ俺がやっとくよ」
「ありがと」
コンビニ袋を持ってキッチンへ向かう。
「あ、待って」
「ん?」
妹が後を追ってきてコンビニ袋を漁り出す。中から取り出したのは12個入りのコンドームの箱だった。
「これ持ってくね。1箱で足りるかな」
「お前……風呂でどんだけするつもりだよ」
「あ、そっか……だよね」
気まずそうな顔をして夕月が洗面所へと去っていく。
絶頂の余韻でまだ頭がぼけているのだろうか。それとも、本当に風呂場での長時間セックスにしけこむつもりだったのか。
冷蔵庫を閉め、ため息をつく。クールダウンをするつもりが吐く息が熱い。
俺は