なぜ本作のヒロインがこうしたことを出来るようになったのか、その経緯を本作の締めくくりに書いたという感じです。蛇足と言ってしまえばそれまでですが、現状では本当に問題しかないトレーニングジムですからね。
次回は健全なセックスです。本作で唯一のまともな性行為かもしれません。
このジムの管理運営を任されて何年が経つだろうか。そこそこ良い立地も相まって、俺はそれなりに充実した仕事と生活をつい最近まで送っていた。
「あ、お疲れさまです。」
「ああ、お疲れ。ん?今日はお客さんが少なめだな。」
深夜勤務のスタッフとトレーニングルームで挨拶を交わし、お客様が疎らな室内を見渡す。夕方から夜が客入りのピークであり、さすがにこの時間帯になると閑散としているといった具合だった。
「ほら、今日は坂下さんが……アレですから。」
「くぅぅ……そうか。アレの日だったか。」
複雑な面持ちで俺の質問に答えてくれる男性スタッフ。それに対して俺も些か苦い表情となって、彼が口にした名前を聞き納得をする。
「後片付けが手間だから、あまり派手にやらないでくれとは言っているんだが……」
「まぁ……無理でしょうね。」
今度はスタッフが苦笑いを浮かべて、俺の悩みを察してくれる。俺も彼も、きっとこのジムに関わる人間のほとんどは理解をしている事柄。そんな悩みの種であり、つい最近までは平穏だった生活を狂い始めた元凶へと会いに行くべく、俺はレッスンスタジオへ向かってその扉を開くのであった。
◇
「んぐぅぅぅ……!あっ、あぁぁっ……!!!坂下さん……もう、やめっ……!」
「ほらぁ……いいんですよ?オチンポをまたおっきくさせちゃっても。」
俺がレッスンスタジオに入ってすぐに広がる光景。裸となった多くの利用者が倒れ込み、股間をぶら下げている姿と、同じく裸の女性スタッフが利用者の一人のペニスを乱暴に扱く姿であった。
「あっ……管理人さん……!?」
「あ、あのっ……こ、これはその……!」
「あー……大丈夫です。お客様たちの事情はこちらも理解していますので。」
とんでもない醜態を晒したのだと思い、咄嗟に起き上がって狼狽える利用者の男性たち。俺はそんな彼らに気遣う言葉を投げかけつつ、この惨状を作り上げた女性スタッフに声を上げる。
「坂下さん、本日の業務は済みましたか。」
「あ、管理人さん。ちょっと待っててください……このオチンポがまた勃起しそうなので……んぅぅっ!!!」
「あがぁっ……あぁっ!た、勃たない!絶対にもう勃起なんてしませんからぁっ……!!!」
坂下未希。このジムに勤務している数少ない女性スタッフの一人。そして、その仕事ぶりは極めて優秀な人間であった。こうした状況を定期的に作り出す以外は。
襲われているのは大体20代前半ほどの男性客。ちょうど坂下さんと同い年か、少し上くらいの青年であった。年頃が近いと言うこともあるのか、利用客とも思えないぞんざいな扱い方をしてしまっていた。
「あまりお客様には失礼のないように。健康を害するようなことがあれば、トレーニングジムの信頼信用に関わるので。」
「はい。やり過ぎないように気を付けますね。」
「はぁ……もう十分にやり過ぎだからね。」
この男臭かったジムに咲いた、一輪の花とも言うべき存在だった坂下さん。利用者は増え、継続して通ってくれる人も目に見えて増えていた。しかし、俺はその代償ともいうべき存在を今、この瞬間も払い続けているのであった。
◇
彼女が採用面接に訪れたのは、およそ1年前のことだった。掲載した求人情報には性別を問う文言を書いていなかったものの、まさか女性の応募者が来たのは予想外であった。
「一応言っておきますと、当施設は主に男性向けのトレーニングジムですので、利用者は女性よりも男性が多いですけど……大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です。」
事務所内のテーブルに俺と向かい合って座る応募者。長い髪を一本に結び、メイクは薄め、あるいはほぼしておらず、それでいて整った顔立ちの女性。そして何よりも、俺はその履歴書に書かれていた名前に自分の目を疑っていた。
「あの……本当にウチでいいんですよね?」
「はい。施設もキレイですし、前に少し前に使わせていただきましたから。」
「それは……どうも。で、坂下さん……その……坂下さんは……あの、坂下さん……ですよね?」
彼女の名前は坂下未希。一時はアイドルとしてトップレベルにまで上り詰めていたものの、少し前に引退を宣言して世間から姿を消した元アイドル。
ファンというわけではなかったものの、顔と名前くらいは俺でも知っている程度あり、そのアイドルとは思えないほど引き締まった褐色肌の身体が印象に残っている女であった。
「はい、あの坂下さん……ですよ?」
嬉しいなどという感情が込み上げる前に、俺はただひたすらに困惑をしていた。突如として目の前に現れて、正式な手続きを経て採用募集へと訪れた元アイドル。なんかこう……もっと運命的な出会いとかがあって遭遇したいという贅沢な願望が芽生えていた。
「そのー……何か履歴書に不手際とかありました?」
「いやっ……そんなことはないですよ!むしろ……齢の割には落ち着いている雰囲気があるかなぁ、とか思ってしまった。」
「えっ?そうですか?うーん……結構、年上の人と一緒にお仕事をすることが多かったかもしれないですね。」
煌びやか世界にいたとは思えない気さくな人柄。現役の頃から割と温厚な性格であるとは聞いていたものの、実際に出会った身としては想像以上に人当たりがいいと感じていた。
「もしかして……もっとキツい性格の女かもとかって考えていました?」
「そんなことは……!まぁ、そうですね。アイドルって言われると、とんでもなく勝気だったり、負けず嫌いなのかなぁ……ってイメージがありますから。」
「ふふっ!そういう争ったりしちゃうのは、あまり得意じゃなかったんですよ。」
一人の女性として魅力的であり、施設を運営する身としては間違いなく客寄せになるだろうという邪な感情も大いにあった。俺はこの場で即採用などと言いたかったものの、正式な手続きを踏んで応募をしてくれた坂下さんに報いるべく、後日連絡すると伝えるに留めるのであった。
◇
坂下さんが働き始めてから1か月ほどが経った頃。仕事ぶりに問題はなく、むしろ手際の良さは新人とは思えないほどに素晴らしいものであり、他のスタッフたちからも評価は上々であった。
「へぇ……引退した後にスポーツの勉強を始めたんだ。」
「はい。友人がまだ陸上をやっていたりもするので、その子に影響を受けていたりしますね。」
「坂下さんはもう、本格的な競技スポーツをするつもりはないの?」
「私はもう無理ですよ。高校を卒業してから5、6年は経っているんですから。」
歓迎会を兼ねた飲み会の場で、男のスタッフたちから質問攻めを受ける坂下さん。男だらけのむさ苦しい飲み会を敬遠するスタッフも、坂下さんが入ってくれたことで彩りが出てくれていた。
そして何よりも、スタッフたちが彼女に気を使って身嗜みに気を遣うという、施設内の雰囲気も良好なものへとなっていた。
「でも、アイドルの時だって今だって、かなりスタイルがいいわけだし……」
「おい、酔ってるからって言っていいことと悪いことがあるぞ。」
「うぅぅ……!申し訳ない。でも、まだ酔っていませんよ。」
上司として節操のないスタッフを窘める手間は発生していたものの、坂下さんが働くことで大きな不都合というものは存在しなかった。彼女自身が真面目で努力を惜しまない性格であるため、スタッフ全員が円滑なコミュニケーションを取ることも出来るようになっていた。
「何か問題があったら、すぐに言ってくださいね。まぁ俺も男ですから、あまり言いにくいこともあるかもしれないですけど。」
「ふふっ!大丈夫ですよ。それに……前のお仕事をしている時から、そういうことには慣れっこですから。」
「まぁ……そう言うんだったらいいんですけど。それともあまり、こういう飲み会とかは好きじゃなかったりしたとか?」
坂下さんも酒を飲んでいたものの、他の男性スタッフに比べればその飲み方は非常に慎ましいものであった。それでも彼女は自らが持つグラスの中身を飲みながら、俺の質問に答えてくれる。
「そうですね、お付き合いで飲むこと以外は滅多にありません。別にお酒が嫌いとか苦手というわけじゃないんですよ?」
「ふーん……付き合う程度には、か。」
顔が少し赤くなっていたので、酔いが回っているのは確かだった。それでも、気が大きくなったり性格が変わったりなど、彼女が明確に変化を見せることはなかった。
正直に言ってしまえば、よくここまで大人しい性格でトップアイドルにまで上り詰めることが出来たのだと、俺は不思議でならないのであった。
「管理人さんは、ご結婚されているんですか?」
「えっ!俺?いや……まだ、だけど。でもスタッフの中には既婚者もいるし、俺も付き合っている相手がいたこともあるよ。」
唐突に人のプライベートに踏み込んでくる坂下さん。あまりにも自然かつ突然の問いかけに、俺は必要以上にはっきりと答えてしまっていた。
「そうですか……されていないんですね。」
「うっ……!あの、ちなみに坂下さんは……その……」
「え?私ですか?付き合っている彼氏ならいますよ。高校時代からずっとですけど。」
「なぁっ……!?」
さらっと衝撃的な告白をする坂下さん。元アイドルという肩書きを持ち合わせていながら、ずっと付き合っている相手がいることを彼女は平気で言い放っていた。
「そ、そんな……あの坂下未希が彼氏持ちだったなんて……」
「あ、アイドルって、恋愛禁止とかじゃないの!?」
「そんなことあるわけないじゃないですか。でも向こうは、私とは別れたって周りには伝えていたみたいですよ。あまり意味はなかったと思いますけどね。」
現在進行形で交際中であることが発覚し、些か重い空気が漂う宴席の場。特に彼女へ少なからず下心を持っていた男は、意気消沈といった雰囲気を隠せずにいた。
「そりゃまぁ坂下さんだって、アイドルをやめていれば普通の女の子だからねぇ。」
「そうですよ……私はもうアイドルじゃない……普通の女ですから。」
気を取り直して和気藹々といった空気が戻る中、俺の隣に座っていた彼女は、おもむろにテーブルの下で手を太股へと乗せてくる。
「んんっ……!?さ、坂下さん……?」
「管理人さんはどうなんですか?私が彼氏持ちだって聞いて、ショックを受けちゃったんですか?」
「い、いや……俺は別に、坂下さんのファンというわけではなかったから。」
酔いが回った影響ではなく、それでいて彼女の様子がどことなく変わっていた。そして、俺の膝上辺りに乗せられていた手は、そのままゆっくりと付根のほうへと撫でるように上がっていき、明らかに何かを伝えてくる感触をもたらす。
「えー、私のファンじゃなかったのに、採用しちゃってたんですか?」
「そんな個人的な理由で採用を出来るがわけないでしょ。一応は坂下さんの人となりを見て、しっかり働いてもらえると判断したんだから……んんぅっ!!!」
そうして俺が声を上げる中、彼女が太股を撫で回す手は俺の股間へと近付いてくる。そして、履いていたズボンの生地越しに指先が僅かに当たる。
「それじゃあ……管理人さんが本当に人を見る目があったのか、私が確かめちゃっていいですよね?」
何かの冗談と思いたかった。あるいは、相当危険なことに巻き込まれているではないかと感じていた。しかし、そんな困惑も危機意識も、太ももを撫で回してくる彼女を前ではまともに感じること出来ず、その誘うような手つき俺の理性は崩れていくのであった。