ついててお得なウルリカくんちゃん 作:情緒不安定ゾンビ
――どうしてもモングレルさんに相談したいことがある。
ある日えらく真剣な表情のウルリカにそう請われ、何事かと訊けば返ってきたのは『ここでは話せない』。
ギルドの個室でも借りるかと尋ねても、『そこでも、ちょっと……』と、どこまでも深刻そうに首を振られてしまった。
おまけにそんな重要そうなことの相談相手は本当に俺で良いのかと確認してみたものの、『モングレルさんが良いの』と言われてしまい……。
俺は観念して、話を聞くことにした。
いったいどんな話なのか。
まさかこいつまで何かに勘づいたのかと内心バックバクに焦りながら、ウルリカの先導に従ってたどり着いたのは、レゴールでも上等な部類の宿。俺の定宿と比べてしまうと一泊当たりで一桁上の金額を取るような所だ。
予約をしていたらしくスムーズに受付をしたウルリカは、迷いなく一室へと向かって行く。
ドア一つとってもやたらに重厚そうで、壁も厚いのか廊下を歩いても部屋からの音もあまり聞こえなかった。
まだ戸惑ったままの俺は、なんだかより強く居心地の悪さを感じてしまう。
「入って」
気が付いたら着いていたらしい一番奥の部屋、鍵とドアを開け放ち、ウルリカは端的に言った。
「お、おじゃましまーす……?」
そろりと入った部屋の中には、ドンとやたら大きなベッドが鎮座している。
パ……、タン、静かに、けれどふわりと部屋全体の空気が動く重厚感を伴って、扉が閉まった。
ガチャリと、すぐに鍵が閉められる。
「おいウルリカ、なんだってんだよ、こんなところまで連れて来て。……アルテミスのみんなにも聞かれたくないようなこと、ってことか?」
ようやく話が聞けるのか、と後ろを振り返って尋ねれば。
「あのね、モングレルさん、……わ、私のお尻を! 見て! 欲しいのっ!!」
真っ赤な顔をしたウルリカが、ずいっとこちらに迫りながらそんな事を叫……は?
「……は?」
今なんつったこいつ?
尻を、見ろ?
……は?
つい三日前の、そうあれはもはや第何回なのか誰も数えちゃいない猥談バトルでのことだった。
既にすっかり酒の入った状態でそれに巻き込まれた俺は、他の参加者たちがかなりえっぐい暴露話をしていたのもあって、ついつい言ってしまったのだ。
「尻の穴は頻繁に使い込むと……縦に割れる! 一流の熟練者であることは、もう見た目でわかるようになっているのだ……!」
「なっ――! ――モングレル、貴様なぜ夜風の誘いのローズ嬢の尻の形状を知っている!?」
誰だよそれ。
俺は『あ、またケツの話をしてしまった。もっとノーマルな猥談をしたかったんだが』と後悔しているんだが。
困惑と後悔に苛まれている俺を置き去りにして、驚愕に目を見開いているようなのだが変化がわかりづらいディックバルトに、チャックがいぶかし気な視線を向ける。
「夜風の誘いっていやぁ、超がつく高級娼館じゃねぇか。噂では貴族の若様も通うっていう、金だけじゃなくて身元の確認もうるさいって噂の。ローズ嬢ってのは……?」
「――尻一つでその頂点に上り詰めたレディだ。ローズ嬢は胸がいまひとつでな。元はそれほど人気のある方ではなかったんだが、ある日黒靄市場で運命の出会いをしたのだそうだ。そこから、――彼女は躍進した――」
黒靄市場……? まさか、モングレルスティックの話じゃねぇよな……?
「――
ディックバルトの熱い語りに、周囲の皆はごくりとツバを飲み込んだ。馬鹿じゃないのか。
あとやっぱモングレルスティックな気がしてきたな、その相棒とやら。シリーズのうちのどれかじゃないのか。
それか、娼婦に買われたっぽいって話があったが、まさかそのコンプリートした奴がローズ嬢なのか……?
そんな怪物を目覚めさせるなんて……、俺は……なんてことを……。
「――そして! 彼女のそれとは信じられない程にふわふわとやわらかくなったそこは……、確かに、縦に割れていたのだ――!!」
お前は売れっ子娼婦のローズ嬢と対戦したんだな。そしてそのアナルを目に焼き付けてきたんだな、ディックバルト。
ディックバルトは、無駄にキリリとした表情で俺に問う。
「――モングレル……貴様どうやってローズ嬢の予約を……? その状態になった時の彼女は既に、――二年先まで予約が埋まっていたはずだが……?」
「スケベ伝道師だよ。俺も聞いた話だから詳しくは知らんが、そこがやわらかくなるとこう、丸くふっくらと育つらしいな。それでこう、ケツってのは横からキュッとしまるもんだから、結果縦型になる……とかって理屈を聞いたことがあるんだよ」
「……――筋は通っている!!」
ディックバルトの開眼、珍しいけどすげぇどうでもいいところで見ちゃったな……。
「そ、それでね? いや、そんな頻繁って程じゃないんだよ? その、ちょっと、どうなのかなー? って試したことがあってね? その、それで、この前のアレ聞いて、ほ、本当に縦? に、なるのかな? って? いやそんな見てわかるほどの状態? なわけないよね? って、不安になっちゃって……」
要するに、ウルリカはお尻で一人遊びを頻繁にしており、縦割れアナルになってしまっていないか不安らしい。
そして、縦に割れてしまっていないかを俺に確認して欲しいらしい。
アホくさ。そらこんな所以外じゃ言えないしどうにもできないわってのはわかったけども。
一気にアホくさくなった俺は、投げやりに言ってやる。
「頻繁にしてないんなら平気だろ。なんか、尻の穴ってけっこうすぐに戻るものらしいし」
「……それもスケベ伝道師が言ってたの?」
「そうそう。つか、縦になってりゃもう自分でも違う状態になっているってわかるだろ。感触というか。それこそ自分で触って確認したらどうだ?」
「い、いやその……っ! ……けっこう、やわらかく、なっていて。縦って程、じゃない、よね……? って感じでして……」
「ばっ……かじゃねえの触った感じだともう割と縦ってくらいになってるのかよ! どんだけ遊んでんだ……」
「ちがうちがうちがう! そんなじゃないもん! そこまでじゃないもん! モングレルさんが確認してよそこまでじゃないって言ってよぉおおお!」
「嫌だよ! なんで俺がそんな事……、……待てウルリカ、それは?」
俺は断って早々に部屋を出て行くつもりだったのだが、いつの間にやらウルリカが取り出していたソレを見て、その場に留まり訊かずにはいられなかった。
「これ? そう、これがその……私がお世話になっているモノ、なんだけど。このくらいなら平気だよね? こ、このくらいで、縦になったりしないよね!?」
そういってウルリカがずずいとこちらに見せてきたのは、モングレルスティックと究極完全体グレートモングレルとビーズだったのだ!
全部買い占めた“女”ってウルリカかよぉ……。そうだね見た目はちょっとエッチなお姉さんでしかないね。男だけど。
じゃあローズ嬢とやらは違ったのかという話になるが、まあそれはそれとして。
……それこそ、ローズ嬢とやらの、顔も知らない縁遠い誰かが買った、であれば、無視できたのだが。
思いきり知り合い、それも半分身内ってくらいに親しくしているウルリカが……となると、【製造者責任】という単語が重くのしかかって来る。気がする。
「……壊れるような使い方は、とりあえずしていないんだな。綺麗なもんだ。あとは衛生面か……、ちゃんと清潔に使っているか?」
「えっ? あ、うん。体の中に入れる物だからね。うちはお風呂もあるし、お湯は割と自由に使えるから、都度……その、前後に、しつこいぐらいに洗って、ます。はい。ジェリースライムの浄化潤滑液も、ちゃんと使ってる」
入れているのか、体の中に。とは、言うまい。
おーけーおーけー。とりあえず、使用法は問題なさそうだな。
あとは頻度、と、それに伴う形状変化か。形状変化、ケツの穴の。
【製造者責任】とは、そこまで重たい物か? 本当に? と思う自分も、いる。
だがしかし。
そもそも、猥談バトルに勝ちたいがために皆に知識を与えてしまった俺が悪い部分もなくはないだろう。三英傑だって、ああもあのバトルが盛り上がらねば、出現しなかったに違いない。
それに、お尻で遊んでいるなんてことを人に明かすのはとんでもない恥だろうに、ウルリカはそれを乗り越えた。
そこまで必死に、正に恥を捨てて、俺に助けを求めている。
ならば、俺は、それに応えよう。
製造者としての責任を、果たそう……!
ローズ嬢とやらとそれにハマったあまたの紳士たちまではさすがに責任は取れないが、今目の前のこいつくらいは……!
まあそういうわけで、俺は、ウルリカの尻の穴を確認する決意を、固めた。