試しに画面をタッチしてみる。画面に水色の波紋が広がる。
「……むにゃ。もっとぉ……♡」
特にこれといった変化が無いので、スマホゲームよろしく少女の寝ている辺りを連打してみる。
「わひゃ!? え!? な、なに??」
瞬間飛び起きた少女がキョロキョロと周囲を見回す。やがて不思議そうに首を傾げる彼女が顔を上げると、画面の外の先生と目が合った。
’……やあ’
「…………!?」
一拍遅れて少女の顔がぼっ!と赤くなる。次いで表情はふにゃんとした笑顔に変わり、両手を頬にあてるとくねくねと身をよじり始めた。
「わっ、わぁ……! さ、さっきの……えと、その……きゃ~~♡♡♡♡」
照れ照れとしながら恥ずかしそうに黄色い悲鳴を上げる少女。何が何やらいまだに状況を飲み込み切れない先生は、どうしたものかと画面を見つめている。
「そっ、その……もしかして、もしかしてですけど! あなたは、先生なんですか……?」
’あ、うん。……たぶん?’
「そうですか! やっぱりそうですよね!! なんでか予定とはちょっと違うけど……うん! お待ちしてました!! 先生!!」
突然お待ちしてましたと言われても、先生としては彼女が誰かも分からないので
’えっと、その……君は?’
「あわわ! ごめんなさい!! 自己紹介がまだでした!! 私はアロナ! この【シッテムの箱】に常駐しているシステム管理者で……?」
バタバタと自己紹介を始めた彼女だったが、突然言葉に詰まり眉を
「ん……?? ありゃ? ありゃりゃ!? な、なにこれ!? シッテムの箱の中身が滅茶苦茶になってる!?!?」
「な、なんで!? 演算性能も下がってるし、事象干渉システムも……!? なんだかよくわからない機能が追加されてるし……ど、どうして!? どうすればいいのぉ!?」
’えっと、……大丈夫?’
「全然大丈夫じゃありません!! これじゃせっかく先生が来てくれたのに……って、なんで裸なんですか~~~~!?!?」
ようやく自分の姿に気付いたのか、アロナと名乗る少女が叫び声を上げた。
「とりあえず服を……出せない!? うぅぅ! なんなのもうっ!!」
「ふぅ……ふぅ……もう、出せないものは仕方ないです! そ、そんなことより自己紹介の途中でした!!」
「……こほん。わ、私はアロナ! この【シッテムの箱】に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書です!」
’OS? 秘書?’
「そうです! 先生とこうしてお会いできる日をずっと、ずーっと待っていました!」
’俺を……?’
「はい! シッテムの箱を使用できるのは先生だけですから! 私は先生のために生まれたと言ってもいいんですよ!!」
「ずっと楽しみでしたが、まさか、先生と触れ合うことがあんなに気持ちいいだなんて……♡♡」
にへらと笑う少女は頬を染めると再びくねくねと踊りだす。その様子に先生はふと疑問を感じ、未だに寝ている少女へ視線を移す。
’え、それって……さっきの?’
「もちろんです! 先生? 不思議そうな顔を……」
そう言いながら先生の視線を追った少女がぽかんと口を開く。
「……え? えええ!? わ、私がいる!? なんで!?」
ソファの上のアロナは先程から変わった様子もなく、すよすよと規則正しい寝息を立てていた。本来自分がいるはずのない場所に自分ではない自分がいるのを知った少女は、画面?に顔を押し付けてもう一人の自分を凝視する。
「どういうことですか……!? さっきから色々予定と違いすぎます!! もうどうすればいいの~~!!」
’アロナちゃん……気持ちは分かるけど一旦落ち着こう’
「はっ! そうですね……! さっきから先生にお恥ずかしいところばかり……。こんなんじゃスーパーアロナちゃんの名が
「えっとえっと、そうだ! 生体認証!! ……え、機能ごと無くなってる……くすん。いったい私が何したって言うんですか……ぐすぐす」
またしても予定通りにいかない現状に少女が暗いオーラを漂わせ始める。正直その辺の理由に心当たりがないこともない先生なのだが、まずはどうにか彼女を慰めようと声をかける。
’大丈夫だよ、たまたま調子が悪いだけで、きっとアロナちゃんが本気を出せばそんな些細な事なんて気にならないんじゃないかな!’
「ぐす……でもぉ……」
’そうそう! 先生、スーパーアロナちゃんにやって欲しいことがあったんだよね! サンクトゥムタワーの行政制御権のことなんだけど……’
「サンクトゥムタワー、ですか……?」
’うんうん、連邦生徒会長が行方不明になっちゃってさー! キヴォトス中が大混乱なんだよね! アロナちゃんだったら今の状況を何とかしてくれるかもな~~!!’
「確かに……それならなんとかなるかも……?」
するとアロナが虚空を見つめてむむむっ、という表情で集中し始める。
「うう……サンクトゥムタワーにアクセスできない…………あーあ!! もう無理ですねこれ!! 役立たずのポンコツアロナのくせに偉そうなこと言ってごめんなさいでした!!」
そのままアロナは水浸しの床に身体を投げ出し大の字になると、ぷいっとそっぽを向いてしまった……
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「ぐす……ぐす……」
彼女がすすり泣く声が聞こえる。
(シッテムの箱さえ起動させればどうにかなるんじゃなかったのかよ……)
アロナが散々でかい声で喚いていたのが聞こえていたので状況はなんとなく分かる。本来シッテムの箱であればできることができなくなっている。そして恐らくその原因は……
――【笛吹き】。
(でも、だからこそアロナには何かができるはずなんだ)
奴がシッテムの箱を消さずに、わざわざ
(……そういえば)
’えっと、アロナちゃん……? シッテムの箱の充電って今どれくらいなのか分かる?’
「ぐす…………じゅうでん……? そんなもの、シッテムの箱には……」
「…………ある。79%……なんなのこれ」
(79%がどれくらい持つのか分からないけど……ひとまず今言えることとして)
’アロナちゃん。確かに今のシッテムの箱にはできなくなってしまったことが多いのかもしれない。でもね、例えばその充電システムがあるように、できなかったことができるようになったこともあるのかもしれない’
「……?」
’アロナちゃんは新しくなったシッテムの箱に慣れてないだけなんじゃないかな? 使い慣れた道具を買い換えたら、たとえ前より性能が高いものであっても最初は使い
「……! で、でも」
’だから大丈夫! きっと時間をかければ新しいシッテムの箱も使いこなせるようになるよ! だって君はスーパーアロナ!! とても優秀な俺の秘書なんだから!!’
「!! ……ぐす。うう、そうですね!! 先生の秘書であるこのアロナが、たったこれだけのことで後ろ向きになるなんて! ごめんなさい先生!! 私目が覚めました!!」
「おおおおお!! やってやります!! やってやりますよーーーー!!!!」
To Be Continued…