狐の面に黒い制服。この騒動の元凶と言われる生徒、ワカモがそこにいた。
「ワカモ……!! どうしてここに……!!」
「さて、どうしてでしょう……? 可愛い子犬たちともっと遊びたかったから……かもしれませんね?」
’遊ぶのはまた今度じゃダメかなぁ、なんて……’
「あら……? あなたは……」
今まで先生の存在には気付いていなかったのか、お面越しに
「先生!! 危ないですから下がっていてください!!」
「うーん、先生、ですか、これはこれは……フフ」
’な、なにかな……ハハ……’
「フフ、ウフフフフ……」
’は、ハハハ……’
「いいでしょう、今日は失礼いたします。またお会いしましょうね、先生?」
’え、うん、またね……?’
そう言うとワカモは堂々と歩いて部屋を出ていった。残された全員が無言でその背中を見送る。
一瞬の間をおいて、
「はぁ……緊張した……って先生!! あんな危険な真似をして……もし先生の身に何かあったらどうするつもりですか!!」
「はい、結果的に上手くいったようですが、一歩間違えれば……」
’はは、ごめんごめん、まあ今回は上手くいったからノーカンってことに…………なりませんかね?’
「あの状況で私たちに打てる手が無かったことも事実です。何故ワカモが大人しく引き下がったかは分かりませんが……、もしかして先生には勝算があったのでしょうか?」
’うん、まあね?’
(無いが?)
「そうなんですか? だったら、まあ」
「お待たせしました」
ふと入口の方から声がした。どうやらリンが到着したらしい。
「……? 何かありましたか?」
’ええと……’
「つい先ほど、こちらでワカモと接触しました。先生にお怪我はありませんでしたが」
「!! ……そうですか。ご無事でしたようで、なによりです」
「休む間もなく申し訳ありません。今のキヴォトスには一刻も早く先生のお力が必要です」
’うん、そのためにここまで来たからね’
「ありがとうございます、先生。ここに、連邦生徒会長の残したものが保管されています」
そう言いながらリンが壁際のデスクに近寄る。
「……幸い、傷一つなく無事ですね」
リンは何かを持ち上げると、先生に差し出した。
「……受け取ってください」
’これが……?’
「はい。これが、連邦生徒会長が先生に残した物。【シッテムの箱】です」
’シッテム? システムじゃなくて?’
「はい、とはいえ私も詳しくは知りません。普通のタブレットに見えますが、実は正体の分からない物です。製造会社も、OSも、システム構造も、動く仕組みのすべてが不明」
「連邦生徒会長は、この【シッテムの箱】は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと言っていました」
「私たちでは起動すらできなかった物ですが、先生ならこれを起動させられるのでしょうか、それとも……」
’…………’
「……」
「……では、私はここまでです。ここから先は、全て先生にかかってます」
「邪魔にならないよう、離れています」
そう言うとリンは他の生徒たちを引き連れて、部屋を出ていった。
’…………’
’……あれ、これ……どうやって起動させるんだ?’
画面の下、中央にある円形のボタン。てっきりこれを押せば電源が入る物かと思ったのだが、何度押してもうんともすんとも言わず、画面は暗いままだ。
’あ、あれ? なんで? だってこれ、え? え?’
他にスイッチが無いか探してみるものの、それらしきものは一切見当たらない。
(待ってくれよ、これが、これが動かなかったら、どうなるんだ……? リンちゃんも、ユウカちゃんも、皆このために俺をここまで連れてきてくれた。なのに、それなのに、起動すらできませんでしたって、そんなの……)
相変わらずも微動だにしないそれに、ある考えが浮かぶ。
(いや、待てよ? もしかして、コイツだけじゃ動かないのか? そうだ、きっとそう!! リンちゃんも焦ってたから伝え忘れてたんだ!!)
――でもそうじゃなかったら?
(そうだ、そうだよな? はは……早く聞きに行かないと……)
――――――
――――
――
そうして先生が事の次第をリンに説明したとき、リンが浮かべた表情は、驚愕、落胆、そして……
――見紛うことも無い、絶望だった。
To Be Continued…