裏アカ快楽責め系ハメ撮り系連作(仮) 作:ふりーじ屋/家庭内禁書
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アメリカの歴史研究者レイチェル・メインズは、裁縫や編み物に関わる史料を探して十九世紀の女性誌を調べているうち、近代史のこのほとんど忘れ去られた一章に偶然行き当たった。「バイブレーションは命」といったキャッチコピーの入った、「活力と美」を促進するという奇妙な形をした器具の広告が頻繁に掲載されていることが彼女の目を引いた。セックスという言葉さえタブーだった時代の健全な婦人雑誌に、どうしてこんな「わいせつな」大人のオモチャの広告が載っているのだろう、と。
最初、メインズはこの宣伝文句の明白な内容が信じられなかった。しかし、医療に関わる史料を丹念に調べるうちに、想像を絶する奇怪な医療行為が明らかになってきた。たとえば、一九〇三年にサミュエル・モネルという医師が、バイブレーターを使った「下半身マッサージ」をヒステリーの「承認された治療法」と呼んでいる。やがて、こうした器具が治療用として古くから使用されてきたことがわかってきた。
――ロルフ・デーゲン著、赤根洋子訳『オルガスムスのウソ』第五章
※
「事務所の若い子のあいだで陰口が多すぎる」
「……俺と同年代ですよね、林檎さんって」
「誰と誰がヤッたとか、彼氏のカード使いこんだとか……あながちウソじゃないのがますますひどい」
「むしろ性と金銭感覚の乱れでは」
裏アカ男性、ハメ撮り配信者である〝梨〟は――(林檎さんと比べてもひどいんですか)――と言いかけて噛み殺した。都内某所の道路を行く車中にて、彼がハンドルを握り、林檎が後部座席に座っていた。
「……私はマシなほうです~」
「はい、はい、きょうも林檎さんはお仕事の下見でしたね。きれいで気持ちいいところでした」
「お楽しみだったようで」
バックミラーごしに噛み殺した名残を勘づかれたのか、カマかけか。少し迷って、梨はサンバイザーを下ろした。そうしてもおかしくない西日が注ぐ晩夏の夕方だった。
「林檎さんのお得意さん、ああいうお高めのスーパー銭湯なんか行きそうですか」
「スーパー銭湯とはまたお手ごろそうな言い方……たぶん先方が聞いたら嫌がる」
「俺の案件だったらまずかったですね」
林檎の〝お仕事の下見〟とは、11月26日のいい風呂の日に絡めた企業コラボの準備として、都心の日帰り温泉施設を、先方からの招待に先んじて見ておくことだった。
そのついでに、また温泉をおごってあげる、と林檎が持ちかけてきて――「レストランや遊技場もありますね。それに24時間営業、ほとんどホテルみたいです」「一人じゃ見て回るには広すぎるしつまらないし、男湯が見られないし」「湯河原から毎日わざわざここまでローリーでお湯運んで……」――施設の入館料はすべて林檎が払った――「この領収書は、私のほうが接待費で落としやすいでしょう?」――それを梨がやや気にしてしまい、林檎もどことなく自慢気になる金額だった。
「不肖の後輩たちにも何かあったら投げ銭あげないといけない」
「お笑い芸人さんが後輩におごるみたいなものですか」
「リアルにおごってあげる場面は芸人さんよりたぶん少ないけど……もっと身も蓋もないことなら……さりげなくやってほかの人が投げ銭するハードル下げるためとか」
「投げ銭って勘定科目は何になるんですか、接待交際費とか会議費とか」
「広告宣伝費にしてる」
入館してから男湯・女湯に分かれているあいだは林檎の目が気にならなかったので、結局それなりに梨は日帰り温泉を満喫した。
一人でやってきたかのような気分で温泉に浸かりつつ東京湾のパノラマを堪能した。施設の宣伝では夜景が売りらしかったがすぐどうでもよくなった。林立する高層ビルや湾岸部で忙しく動く乗用車や鉄道車両を眺めると、素面のまま酔いに似た愉悦に浸れた。林檎が「こういう都合をつけられるのが自営業の役得」と下見を平日昼間にして、館内が空いていたのも幸いだった。
そうしてストレスを洗い落としてきた梨と反対に、林檎は温泉施設を出てから妙に愚痴っぽくなっていた。
「大手事務所だってちょっとだけ取り繕ってるけど、一皮むけば成金のようなものよ」
「どうだ明るくなったろう、みたいなものですか」
「下品で、幼稚で、チャラくて、大げさで、滑稽」
「たまってるんですね、ストレス」
「前職もかなりハードだったと思ってるけど、感情労働の面ではいまのほうが」
「ストレス解消に付きあってくれる友達がいるといいんですけど、大人になるとなかなか」
林檎はVtuberの事務所としては大手に所属する専業の「中の人」である――前にそう言ったのは真っ赤なウソ、と梨に抗弁することもあるが――前職時代から磨いていた話術などを活かし、上位の登録者・収入を得ている。
一方、仕事で溜めこんでしまったストレスと好奇心により、裏アカ配信者の男性とのハメ撮りを繰り返している。そのきっかけが梨である。〝林檎〟という呼び名もハメ撮りの際に適当につけたもので、彼女の本名や活動名と無関係である。現状では、梨が配信するハメ撮り動画に繰り返し登場する女性の一人、と認知されているものの、Vtuberとしてのつながりは表沙汰になっていない。
「なぁに、私に友達が少ないから梨さんとこうなっているって言いたいんですか~?」
「失礼、俺の話ですよ」
「いてもね、なかなかみんな忙しくてね」
梨は林檎の愚痴に同調を続けてあげるか迷って、口をつぐんだ。
林檎は、話していてさほど苦痛ではない知人であるし、非常にゆるくくくれば同業者であるし、何よりハメ撮りしていて映える女である。自他ともに認めるすらりとしたモデル体型が快楽に震え躍る姿に対して、梨の登録者から称賛や羨望のコメントが毎回のように集まる。梨の収入にそれなりに寄与してもいる。
その義理もあって、梨は林檎の〝お仕事の下見〟に付きあってやっている。顔を合わせたついでに、このあと林檎をハメ撮りしてやる予定でもある。
「……だからぁ、寂しくって、梨さんにハメられるのにズブズブ溺れちゃうんです~っ」
「あなたさっきなんて言ってましたっけ、事務所の若い子がどうのこうのって」
容姿にすぐれ、賢しげな割に肉欲・快楽に従順。自慢たらしさ相応に金払いもよい。確かにそれら面では梨が林檎を買っている。逆にそれ以外をあまり見ないようにしていた。
かつて梨は、林檎の吐露を確かめるため配信を見てみた。百合営業で男を小馬鹿にするキャラは中身とのギャップで笑わされた。それ以外は視聴しててげっそりした。悲劇も喜劇も繰り返せば茶番というように、動画としてすべてがあまりにも冗長で内容も何もあったものではないと感じた。
こちらはオナニーのためだけに極力無駄を省いた動画を撮影・編集する立場であり、同じ動画配信でも真逆の世界であって、そのギャップを感じている。何か得るものがあるかもと仕事の目で分析していたが途中で諦めた。
「あんまり私の愚痴に付きあってくれて、梨さんのお仕事を手伝う時間が減っちゃってるかしら」
「そこでオナニーしてて濡らしておいてくれると、時短になりそうです」
「梨さんがすぐそばにいるのにわざわざオナニー?」
「車内は濡らさないでくださいね」
「この近くに、気になってるホテルがあるの」
「ご参考までに」
梨はナビゲーションから、林檎があまり好まなそうなホテルを優先してハメ撮りの場所候補を選び直した。ホテル代は梨の経費に落とすので黙ってそうした。ハメ撮りが少しでも関係するなら、林檎の不興をあえて買ってでもこちらの意図を通すべきだ、と自身にあらためて言い聞かせた。
「明るいですね~、もうちょっと照明しぼったほうがいい雰囲気に」
「明るいのを暗く撮るのはともかく、暗いのを明るく撮るのは無理なんです。それに林檎さんは目隠しするでしょう」
ハメ撮りのためのホテルを決めて、梨は林檎を部屋に連れこんだ。林檎が車内より言葉で口うるさく、声音ではねっとりしている。顔隠しも兼ねたアイマスクを着けてやるついでにギャグボールもはめたくなった。
「カメラとマイク準備してるんで脱いでおいてください」
「脱がせてください~、目隠しされてて見えませんから~」
「俺は着エロもいいですけど、林檎さんはスタイル見せびらかしたいでしょう」
「……こういうわがままな女があとでひぃひぃ言わされる需要、あるでしょう」
「迫真の演技力のせいで、本気で言ってるのかと思ってしまいます」
バイブを手にとって膣肉をほぐしにかかる。
「うぅくっ! はうっあ……い、いきなり奥……というかバイブで……!」
「本当に準備してくれていたようでしたので」
「……あとでちゃんと抱いてくれる?」
「カメラ、音声がちゃんと録れてるか気を使いながらってたいへんなんですよ」
ベッドの上で腰を揺らして刺激から逃げようとする林檎を押し倒して膣奥を小突きまわす。こんどは上半身で抵抗するように顔を枕に埋めたり手で口を抑えて声を殺す。
「……ちょっと甘やかしてくれたかと思ったのに……ぇふ、ぇう、あ、うっ……!」
「ご存じでしょうが、お為ごかしってありますよね」
「たまには甘やかし路線やったらいいのに、新規開拓できるかも……ふふ、僭越ながら同業からのアドバイスです~」
「動画のジャンルぜんぜん違いますけどね」
「視聴者の快楽を金に変えるからこっちもポルノよ、18禁じゃないだけ」
林檎の口ぶりよりうるさい器具が使いたくなって、バイブを挿したまま電動マッサージ器に持ち替える。威嚇のように、ブブブと重い羽音のような駆動音を耳元で鳴らしてやる。林檎のデコルテがびくりと緊張するのを間近で見てわずかに溜飲が下がる。
「……あれだけお風呂でゆっくりして、お疲れでもないでしょうに」
「ええ、肉体的には」
「これ刺激が強すぎて……くっ、ふぅぅう……っ!」
クリトリスや陰唇を避けてあえて恥丘に電動マッサージ器を押し当てる。性器に比べると性感から遠いものの的が大きく、太ももを閉じたり腰を揺らしても逃れにくい。刺激が振動なので、クリトリスにもバイブをねじこまれたままの膣肉までも鈍く波及する。
「っくぅ……だめ、だめそれぇっ、また……い……っく、い、い、い……ッ!」
ベッドで腰や尻をくねらせ、ヒザやつま先でシーツをずりずり乱して、林檎は実に口惜しそうに絶頂に達する。それはそれで梨の望みを、つまり性的快楽に無様に屈するよう女性を導きたい性癖をくすぐる。
けれど林檎は絶頂嬌声でもつれた舌のまま、あなたの性癖はわかってるから、などと理解者ぶるに違いなかった。訳知り顔ならホテルを出てから見せてほしかった。
あえて息を整えさせず追撃する。
「ひっ……ま、まだぁ……うゔっく、く……お、ねが……やすま……うううっ、ぐっ……う、ふううっ……!」
じたばた抵抗する弾みで膣肉からバイブが抜ける。思ったより白っぽく濁った本気汁にまみれている。
「準備運動終わりです、クリトリスに直で行きますよ」
林檎のノドか気管支あたりから、悲鳴とも驚愕とも取れそうな、ひゅっ、と奇妙な音が漏れる。
林檎の手足のバタつきが激しくなってきたので、梨は彼女のウエスト部分にのしかかって彼女の下腹部に注意も愛撫も集中する。肩や背中を使って、彼女が叩いてきたり引っ掻いてきたりする抵抗を跳ね返す。
「あぃっ、ひ、ぁ、おぉぉ……っ……っは……っくいっくゔゔっ!」
ベッドの上で快楽から必死に逃げようとする2本の脚がよく見える。走って逃げ出せるものならすぐ逃げ出したいであろう勢いでバタつく。しかし梨にウエストを抑えられていては、ベッドの上を水揚げされた魚のようにのたうつばかり。
刺激を重ねられるうちに痙攣の間隔が短くなり、やがてのたうちも叶わずピンとまっすぐになる。
「林檎さんの脚だと引き立つなぁ、ありがたいです」
「だったら、そ、の……! ぅはああっ、うあっ、あ……あッいぐ、いっぐぅ……っ!!」
撮れ高を見込んで入念に絶頂を重ねる。
「ここらで潮噴いてくれるといいですね。おしっこでもいいですよ」
「ぜぇっは、ひ、はっ……あっう……そんな、の……ひっぎゅっ」
林檎も出来上がってきたのか、膣口をぴくぴくさせながら白く泡立った愛液をどろどろ垂らしている。その白が、秘所の粘膜や内ももなど皮膚が薄いところ、つまりいま充血のあまり紫がかった紅色に染まっているところと絡むと、白と紅や赤紫がお互いを引き立てて梨の興をそそる。
ところがこの痴態は、肉眼で見られる梨ならともかく、性器モザイク処理後の映像で見る視聴者に届かない。
「あ゙っ、かはっ……あ゙、ああ゙!! や゙ッ……い゙や゙ぁいや゙ああ゙っ……!」
さらに絶頂を重ねさせる。林檎の腰が激しくもだえ狂って、押さえつける梨の肩や腕の筋肉が盛り上がる。ふと、林檎のヘソ周りに腹筋が力むあまり溝がくっきり浮かぶさまが彼の目にとまる。彼自身も鍛えているだけに、ここまでウエストをしぼるため林檎が重ねた節制が思われる。見せびらかさなければもったいないだろう、と追加のカメラを手に接写でも撮影してやる。
「か、はっ……んぐ……うっ、あおあお゙おおっ!?」
梨が追加のカメラを取りに離れて責めを中断する。それで林檎が電動マッサージ器責めが終わったと勝手に思っていたらしく、偶然にも油断を誘っていた。
「まっまだァッ……ぉお゙イグ……ぅ……っ!」
緩んだ意識へ再来した責めに、ひしゃげたくちびるから濁った喘ぎと泡立ったよだれを垂らす。呼吸もできない深刻さの割に情けなく響く。
「お風呂上がりにちゃんと水分摂りました?」
「んぐうッ、あお゙……ぉお゙ォ……ふ……ぅ……っ!」
梨の危惧がやがて的中し、林檎は潮吹きも失禁もできないまま絶頂にたっぷりもだえたあと、おまけに足のこむら返りにまで苦しむこととなった。
「……ごめんしてよ」
「そうですね、謝ります、撮影の不手際ですね」
「夢中になっちゃってた?」
それから林檎の膣内に梨のペニスを挿入するか、しないかで悶着した。痛む太ももやふくらはぎをさすりながら挿入を求めてくる林檎のようすは、仮に傍観者であったなら笑えもしたが、その場で言われる梨にとってはうんざりが勝った。
※
『メーカーさんのモニターにこんど行ってくるんですけど、ご興味あります?』
『……あの手袋の?』
『今回は初心者にも扱える製品と聞いています。守秘義務とかありますがそのあたりむしろ俺よりご存じでしょう、ご協力いただけるなら謝礼も出ます。詳しくはこちらを』
温浴施設に行った日から少し経っていた。
ビデオ通話ソフトごしに話を切り出して資料を送りつけた時点で、梨はもう林檎が釣れるだろうと確信していた。彼女がうんうん考えている素振りを微笑ましいとさえ思った。
『……まぁ、あるわよ、ありますよ、しょうじき、興味は。梨さん御用達ですし』
『こういうモニタリングの案件、ほかにもあちらこちらに』
資料には当然、梨がモニターをする製品の概要も記されている。
『じゃあ聞いてもいい? ……ポルチオ開発用バイブ、って』
『初心者が力任せにやっても子宮口を傷つけないよう、機構を改良……さてどのくらいの出来でしょうか』
『あと……アナル専用媚薬?』
『何をどうしたらアナル専用になるのかよくわからないんで、当日は担当さんに話を聞いてみようかと思います』
梨が林檎に伝えた情報は事実のみである。梨は確かに〝オモチャ〟のメーカーに協力していて、その謝礼を収入源の一つとしている。
『よろしければ見学されます? お試しも言っておけばたぶんできますよ』
『……まぁ、おぜぜしだいかなぁ』
それを林檎が興味を持ちそうな言い方にしただけだった。
「……ふつうのオフィスビルと見分けがつきませんね」
「製造拠点だったら印象が違ったかも」
モニタリングを行うメーカーの拠点が、都内の某オフィス街の住所だと林檎は資料で知った。周りに溶けこみやすいよういつもよりかっちりさせたオフィススタイルに身を包んでおいた。
現地集合で見た梨は林檎よりもう少しカジュアルで、彼から一歩開けた隣に20代半ばと思しき小柄な女性が立っていた――「きょう助手さんをやってくださる方です」――紹介された瞬間に林檎は一瞬目を丸くしてしまった。
「見た目ではわからない、とよく言われます……わかっちゃう感じだったら、私もさすがに恥ずかしいかもです」
助手の女性は、むしろ親しみやすい第一印象だった。顔の輪郭やパーツが丸っこく髪がやや暗くふわふわした茶髪で、動物に例えるならタヌキだと林檎に思わせる。ただ手足が細く胴の起伏も控えめで、体つきがタヌキ感をいくぶん打ち消している。パンツスーツの立ち姿など、インターンシップか面接に来ている就活生のようにも見えた。
「林檎さんです。配信周りでお世話になっているんですよ、あの手袋の件など」
「よろしくお願いいたします。あれには梨さんからも率直なご意見をいただきまして」
「あれ、あなたは自分で試しましたか?」
「まぁ上級者向けなので」
それが〝オモチャ〟メーカー担当者として梨と顔見知りらしく話していた――(私がこの話をスルーしていたら、この子が梨さんにあんなことやこんなことを……まさかね)――妄想をどうにか押さえつけ視線を顔に戻す。
「林檎さん?」
「ちょっと緊張してしまってるかもです」
Vtuberが板につくとリアルのリアクションもうっかり大げさになって困る、と林檎は梨にもたまに漏らす。
「今回はどちらも初心者向けですから、梨さんも気楽に構えていただければ、と。もちろん林檎さんも」
いよいよ淫具研究開発の現場か、と林檎は身構えた。が、助手について歩いていくあいだにチラチラうかがった通路の光景やすれ違う人に、特に注意を引くものがなかった――(前の会社だと、あぁこの人クリエーター系か、この人は営業だな、あっちは外注の……とか一目でわかりやすかったんだけど)――きょう主に使う部屋、として案内されたところも見回す。
「なんだか学校の保健室みたいですね」
「バイブを見なかったことにすれば、林檎さんと同意見です」
白く糊のきいたシーツのベッドはキャスターつきで、休憩には十分だが激しい行為には心許なかった。周りからベッドへの視線を遮ってくれるであろうパーティションや、資料らしきファイルが所狭しと並ぶラックもあった。林檎が見たことのある部屋のうちでは保健室に近い雰囲気だった。
テーブルの上に置かれているバイブレータを除けば。
「資料を見たときから思っていたんですが、初心者向けと銘打つ割にものものしいですね」
「拘束具みたい。SMプレイかな?」
「拘束具でもあり安全装置でもあります、バイブの土台は小さいスプレッダーバーを兼ねていて、これに太もも用と腰回り用と3つのベルトで連結して足の閉じすぎを防止します、つまり閉じすぎで誘発されがちな膣痙攣でバイブが抜けなくなるのを防ぎます、バイブのほうはマイナーチェンジで済ませてこちらは従来のバイブに後付けするオプションとしての製品化を目指してます、そうできたら営業面はありがたいのですがそのせいで開発が苦戦を……」
就活を控えた女子大生のような助手が、バイブを手にとって梨と林檎へ示しながらいきなり饒舌になった。一呼吸置いても続きを話したくて仕方がなさそうな表情のタヌキ風な顔と、持っている品物がエナメルのようにてらてらしたベルト状の拘束具つきバイブというギャップが再び林檎を襲う。
梨にちらりと視線を送る――(聞いてあげなさいよ)――横目で視線を投げ返される――(担当さん、ふだんはともかくいったん勢いづくと……)――林檎がかがんでバイブを近くで見ながら口を開く。
「……開発秘話、聞きますよ。少しだけなら」
「バイブの形や動きによるポルチオ開発の効果は好評なんですが、パートナーさんに使ってもらうにしても自分に使うにしても、やっているうちに加減をどんどん強くどんどん奥まで刺激して病院行きになってしまうユーザーさんが……という課題がありました」
「男が前立腺オナニーでやりすぎて肛門科送りになるようなものですか」
「そこで安全装置を使って行き過ぎを防ぐとともに、骨盤や肛門周りにもバイブレーションをうまく波及させて従来に劣らぬ満足度を確保するわけです」
「下半身引き締めとか、ダイエット効果があるかもしれませんね」
「そういう売り込み方も検討しています、セックス好きな女性はきれいでありたいという欲求も強いことが多い、やりすぎると筋肉痛にはなりますが」
「……腰や下腹部の筋肉だと、ただの筋肉痛でも治るまでは寝たきり同然ですよね」
林檎は、助手がこのものものしい拘束具つきバイブで自らポルチオを責めて、細い手足を震わせながら丸顔を真っ赤に汗だくにしているさまを妄想してしまった。
「ああ、すみません能書きが長くて、では書類と、あと問診も」
それでいて、助手から体調や持病について事務的に聞かれ書類を書かされていると、健康診断や予防接種のような気分にもなる。バイブの姿形が何かの間違いだった気がしてくる。
「林檎さんはポルチオ初心者扱い……で、いいんでしょうかね」
「いい加減ですね~、これ梨さんの案件でしょう」
「俺はあくまで突っこむ側からの意見を言えば結構って話なので」
開始後も助手が同室することとなっていた。
「お邪魔かもしれませんが、急な不具合などに備える都合上、ご容赦ください」
「……助手さんみたいにかわいらしい方の前で、というと恥ずかしさが増す気がしますね」
梨が笑いを噛み殺したふうに見えた。厭味ったらしい、このあと梨にどれだけ無遠慮に振る舞って報復してやろうかと、林檎はほぞを固めた。
「くああああああっ、ッあああぁ……お、おくっ……ああはっ、ぅぅううう……っ!」
林檎はベッドで四つん這いにさせられ、がくがくと腰や手足を震わせている。すでに肌は汗だくで、ここまで林檎がベッドに突っ伏したところがじっとり濡れて跡になってしまっている。
「確かに、もう一歩奥まで責めきれない感じはありますね」
「奥まで責めちゃ危ないんですって」
林檎はバイブが初心者向け、と言われて気楽に、悪く言えばなめてかかっていた。太ももや腰が固定されるとさすがに緊張したが、ローションをまぶされ入ってくるバイブの感触は平凡で、温泉で味わった手袋と比べれば〝オモチャ〟らしかった。これならいかに梨の手練手管であっても、マンネリ防止にちょうどいい体験で済むだろうと思っていた。
「男側からすると、自分のものを入れる下準備と考えれば結構ですが、女性がオナニーで使うときはどうでしょうかね」
「その視点からのご意見もいただきたく、林檎さんにご協力いただけるとありがたいのですが……林檎さん?」
梨の手でバイブが動かされ始めると事前の楽観が1分で揺らいだ。「これ、連続使用時間の制限もつけるので」と助手がタイムキーパーのように時間を教えてくれたせいでたった1分とわかってしまった。5分後には肌に汗を浮かべながらどうしても漏れる嬌声を冗談でごまかしていた。
「あっ……ああ、はぁっ……まぁ、確かに……バイブっていうか、ディルドっていうか、そんな感じの……ぉっ……」
謝礼つきモニターを引き受けたからには、と舌を噛まないよう気をつけながら感想をひねり出す。
振動が、林檎の引き締まったウエストを、外側から内臓まで震わせるほど響く。それでいて〝安全装置〟が効いてか、梨の力加減のせいか、膣奥の熱源をくすぐるにとどまってしまう。下腹部の筋肉がピクピクと勝手に焦れる。
「林檎さん?」
「ま、まぁ……じわじわってほぐされて……開発されてる、って気分は、味わえるかしらぁ……」
バイブ先端が子宮口手前で緩慢なきり揉み回転を続けている。深くも生温い刺激で、快感以上に焦燥感が募った。全身をめぐる痺れと快感の波は浅瀬を行ったり来たりして、林檎の望むピークがまだまだ遠い。
「ぉ、ぉ……っく、ん、ぅ、あっ……は、あっ……!」
ただ快楽を無視しきれず反応してしまう。
細身の体が痙攣し、背中から汗が流れ落ちる。丸い尻がぷるぷると震える。バイブから逃げようとするのかもっと深く迎え入れたいのか、彼女自身にもあやふやなほど腰がぎこちなく揺れ、ベルトがきしきし微かにきしむ。髪が頬に張りついてうざったい。
「これ焦らし専用と銘打ったほうが購買意欲をそそるのでは」
「梨さんのスタイルには合わないかもしれません」
「もうちょっと使いこんでみます」
梨がまるで彼自身もスタッフであるかのようなコメントを寄せている。もっと自分に合わせて興奮してほしい、という不満を押し殺しつつ、林檎は小休止しようと首と肩とを下げる。乳首にびりりとした刺激が走ってはっとする。きょう刺激されていない乳頭がシーツにこすれただけで感じてしまっている。乳首も性感帯ではあるが、いつの間にかここまで興奮していた具合に彼女自身が驚いてしまう。指で触らずとも、硬くしこり起立しているのがわかる。おそらく梨や助手にも見て取られている。
「あ、くうっ……!? も、もう、ちょっと……あぁう、そんな、弱いの……」
この程度で、という奇妙な悔しさと羞恥が湧き上がって止まらない。淫具の有償モニターであれば興奮させられていても当然で、焦れったくさせられることも事前説明から理解していた。
林檎は覚悟していた。現実がそれを上回っているだけである。
「うううう……ふぅうぅ……んううううう……っ!」
バイブが内部で控えめに震える。絶頂には足らないが無視もできない快楽に、林檎のくびれの肌が力んでしかめっ面のように歪む。子宮が火照って熱が下腹部全体へとじわじわ広がっている。
「林檎さんは、これオナニー用に買ってみようと思います?」
「くぅっ……そこじゃな……あっあ、ええと……これ、自分では……動かしにくくて……ぇうっ……!」
「バイブだかディルドだか使い方が曖昧なのも、宣伝に工夫が必要そうですね」
梨が操作するバイブの先端はポルチオに触れたり触れなかったりにとどまる。林檎の本能がもっと深い刺激を求めているのに、自分以外の2人がひどく冷静なせいで羞恥が興奮だけ盛り上げて快楽を押し留める。同じ試用に立ち会っているのに1人で発情していたらまるで自分だけだらしない淫乱ではないか。その葛藤が肉体をより敏感にし、わずかな刺激で感じて、被虐のループが再開される。
林檎のポルチオがじわりじわりと温もりを増していく。呼吸は浅く速くなっていく。子宮口周辺の粘膜がバイブにすがるように蠢いているのが自分でもわかる。
「……こんだけ動きを縛られると、これでイカせられるかどうか、って試されてる気もします」
「んっ、んっうぁ……こ、こらっ、人の体をゲームみたいに……はぅ、んぅっ……!」
梨の手で片足を勝手に持ち上げさせられ、両ヒジと片方のヒザでベッドに体重を預ける体勢にされる。まるでイヌが小便をするかのような格好にされても抵抗できない。梨の腕はいつものとおりがっしりしており振り払えない。むしろ自由を奪ってくる梨の腕力に、かつて刻みつけられた強制絶頂への期待が呼び起こされる。
「あっ、だっ……お、お、く、ぃ、ぃい……ぁ、あ、い、イク……ぅ……!」
「ほら、閉じさせないならむしろ開かせて……ここまで開けば奥に……」
「あの、梨さん、そういう器具では……この体勢だと林檎さんの腰に負担が」
「だいじょうぶ、林檎さん体が柔らかいし」
「んくぅっ、んんんっ、んあっ……た、しか、に……いっ、っうぅーっ! あ、ァア、あ゙……っ!」
「いやいやいや」
イヌが小便をするかのような姿勢のままでさらなる責めを受ける。腰が砕けそうなほどの恥ずかしさに脂汗が滲む。それでもバイブがやや深くみしりと子宮口に当たり、鈍く重い振動を伝えてくる。歓喜のあまり、膣口までぎゅうとバイブを締めつけ愛液がぶじゅぶじゅと鳴ってしまう。
「足を下ろしましょうよ、これはやっぱり腰への負担きついですよ」
「林檎さんは慣れてるから」
「慣れとかそういうんじゃありませんから」
自分がこんな痴態を晒している一方で、こちらを真っ当に気遣ってくる助手の口ぶりがさらに羞恥心を煽る。
梨が助手の言葉に従ったのか、片方のヒザがゆっくりベッドに降ろされる。姿勢が楽になる一方、バイブから膣奥への刺激がぬるくなってしまう。林檎の本能がそれに憤ってか、腰が勝手にバイブを貪るような律動を始めてしまう。四つん這いのガニ股だけでヘコヘコした上下運動を重ねてしまう。
「ぁ、あぅ……確かに、ずっとやられたら、きつい、かも……」
「ほら、まだだいじょうぶ」
「痛みを認識してからじゃ手遅れです。セックスで興奮してると痛みに鈍くなるんですよ」
不意打ちじみた言い方で助手から興奮を指摘されてますます恥ずかしくなるが、あと一歩不足な刺激に対する膣肉のイライラは止めようがなかった。
※
「腸は、膣とか口腔と違って水とか栄養素とか吸収するための粘膜です。つまりデリケートで開発が難しいんです」
「ワカメ酒とかすぐ吸収されてものすごく悪酔いするからやめろ、って言われますけど、それよりも?」
拘束具を外されてベッドで息を整えていた林檎だが、興奮は冷めやらない。次のアナル専用媚薬はゴムに塗布して使用するものとのことで梨も脱衣しているらしい。林檎はそれに背を向けていたが、衣擦れが聞こえるだけで下腹部が引き攣ってしまい、震えるのを手でさすってごまかす。
「お尻は……未経験ですけれども」
「未経験者向けなのでむしろありがたいですっ」
その合間に助手から甲斐甲斐しく汗を拭ってもらったり水分を飲ませてもらって、林檎は本心よりも平気なふりをする。
アナルセックスでもいいから梨の肉棒で生殺しをどうにかしてほしい。梨が求めたり強いたりしてくるから応じているのだ、という名分のもと手練手管を存分に振るわれて絶頂させられたい。性欲だけの単純なセックスやオナニーにふける顔も知らぬネットごしの相手に見せびらかしたい。
担当が立ち会ってくれるなら梨も無体はしないだろう。けれど担当がいるので身も世もなくセックスをせがむのが恥ずかしすぎる。それらをどうにか押し隠す。
「林檎さん、塗りますよ」
「塗り……ってっ、ふぁ、えうっ!?」
「アナルセックスにローションが絶対に必要なので、媚薬と兼用にしてます」
「……そんなに景気よくべちゃべちゃと」
「洗浄、拡張も兼ねてますから。べちゃべちゃを気にするところでアナルセックスなんぞするな、という話でもあります」
林檎はいったんシャワーなどのある別室に連れて下準備をされるのだろう、と高をくくっていた。温浴施設ではこっそり自身でできる範囲で準備をしてきた。
「っく、く……ひぅ、っくう……」
「こぼしてもだいじょうぶですよ、こう見えてシーツ以外防水なんで」
指を入れられてすぐは違和感ばかりが直腸から伝わってきた。尻穴をうがってくる助手の手つきが小憎らしいほど滑らかで、林檎は放屁のような音をさせてしまわないかばかり気になった。
けれど指を何度も抜き差しされて塗りこまれ、こぼれた媚薬兼ローションが太ももに失禁したようなあとを作るころには、林檎の意識も反応も変わってくる。
「んあっ、あっ……ああ、あっ、う、うう……」
尻穴粘膜が少しずつ敏感になってきている。助手がはめているらしきゴム手袋の滑らかさが、さっきまでの物足りないバイブを何となく連想させる。
異物感と警戒心が抜けきらぬまま、じっくり浸透してきた媚薬の効果で、ちょっとした助手の指の動きに腸壁が反応する。手マンに反応する膣壁のようにぴくぴくと痙攣してしまう。
「あっぅううっ……さすがに、ちょっと、恥ずかしくなってきましたね~……」
「入れられそうですか?」
「いやいや、まだ私の指ですよ。梨さんのそれを入れるには、もう少し」
恥じらう態度と乖離して、下腹部では羞恥より性感が渦巻き、膣口からは新たな蜜が糸を引いてローションとぬちゃぬちゃ混ざっている。打ち消すようにさっき閉じきれなかった足を閉じてヒザをすり合わせるが、肛門は助手の処置に晒したまま。括約筋に連動して尻穴がきゅっと締まって、動きで指先が強く擦れとますますびくりと力んでしまう。
「あんまり時間がかかると焦れて冷めちゃいますよ」
「梨さんのそれは準備できているようですが」
梨はすでに勃起しているのか。アナル専用媚薬を仕込んだゴムを着けて助手のそばで待機しているのか。他人事のように大人しく、滑稽で、憎たらしい。早く入れてほしいが入れられたら困る。
「んんっく……はぁ、っう、あ……あふゅっ……ううあ……っ!」
助手が仕上げのように2本指を抜き差ししはじめる。そのたびに腸壁が蠕動する。排泄でもないのに排泄に似た羞恥と、排泄にあるまじき快楽に意識を侵食される。すっかり粘膜が熱を帯びている。
こんなところで、と理性が拒む一方で、子宮が共鳴のように収縮してしまう。愛液があふれてベッドシーツに新しい染みを作っている。止めようにも助手の指の一擦りでかき乱され、か細く震えながらますます汗と愛液を垂らしてしまう。
「よし、十分かと思いますっ」
「……林檎さん?」
「……ぐ、くっ……は、っ……あ、ああ、はい」
もちろん知識はあった。しかし実際に体内で味わう感覚は想像を超えている。肛門というトイレや浴室で意識を向けるのがせいぜいだった部分が今や火口のごとく熱く、括約筋の弛緩と収縮が交互に起こり、林檎の意志を無視して性器のような器官に変えられつつある。
「背面座位で行きますから、こっち体重かけてもいいですよ」
「……入り、ます、かね……お尻に……」
梨に体を起こされ背中側から支えられ、理由もわからず視界が曇った。羞恥心が鋭い刃となって胸を刺し、その刃の傷で流れるのは快楽への期待だった。梨の肉棒を待ちわびる膣道が疼き、子宮口が降りかけているようにさえ感じる。膣口と肛門の間にある薄い筋肉が痙攣し、双方の快楽中枢が同期してしまっている気もした。
「力を抜くよう心がけてさえいただければ、だいじょうぶでしょうっ」
助手が林檎にかけてくる声と表情が朗らかすぎて、林檎をかえって不安にする。このありさまを〝だいじょうぶ〟と判定するのか。林檎は後ろから梨に抱きかかえられていなければとっく逃げ出していた。
「はひっ、んはあ、は……お、おぉ゙っ、はっ、お゙……!」
梨のペニスは助手の指2本などより太く長い。入れられた瞬間、林檎の主観では明らかに苦しさが勝った。
「……あのぐらい簡単な下準備で、もう入るもんですねぇ」
「ええ、手軽さ重視です、そのご感想、開発が聞いたら喜びますよ」
一方で、膣奥がどうしようもなく痙攣する。腸壁越しに子宮底を圧迫される。さんざん焦れたポルチオをいきなり裏から責められ驚きながら絶頂する。
「いったん、お顔とか拭ってきたらどうでしょう」
「いまそれ言います? 梨さんもちょっと無遠慮ですよね」
意味がわからず、星のような小さな光がちらつく視界で助手の声が聞こえるほうをうかがう。どうやら、膣口から勢いよく潮が噴き出し、ベッドどころか助手まで汚してしまったらしい。
「どうぞ、お構いなく」
「っく、く…………くううう、うゔぅっ……!」
後孔を埋め尽くす圧迫感が、快楽に飢えていた子宮へ及んでいる。梨の剛直が腸壁を撫でるたびに、膣内は空っぽなのにペニスをしぼるよう緊張する。尻穴を犯されているはずが膣が悦んでいる。快楽で尻穴が緊張すると子宮への刺激がかえって薄らいでしまってもどかしい。
「な……に……? お尻で……こんな……んんっぐっ……!」
「これ、林檎さんにはいいクスリですよ、きっと」
「このっ……はぅ、ほぁっ、っふ、ぐぅうゔうっ!」
素面であったならヒジ打ちの一つもかましていた嫌みを梨にささやかれる。林檎も感情では怒っているが体がついていかない。梨が林檎の尻穴をうがちながら、手を彼女の秘所にまわしてきてクリトリスをくすぐったり、ヘソ下に手のひらを押しつけてポルチオを鈍くこねて外からも責める。
「はぐうっ、ゔっ……ちょ、ちょっと、そこまで……お゙、ふうっ、はぁあおおおお゙……っ!」
「俺は、こうやって泣いて苦しんでよがってるときの林檎さんが好きですよ」
後ろから梨のモノが容赦なく出入りする。直腸が擦られるたびに、膣口がぱくぱく痙攣し愛液を噴き散らかす。梨の指先が腹側から恥骨に沿って滑り込み、子宮底を外側から圧迫しながら微妙に円を描く。もう片方の手はクリトリス包皮を剥いて直に刺激する。
「あぃっ、ひ、ぁ、おぉぉ……っはっ……ッあぁああっ!!」
「これ直腸側からポルチオに効いちゃってるんじゃないでしょうか」
「初心者なら尻穴だけではきついかと」
「お尻だけでとろけちゃうっ♥ ってなれば完璧なんです」
「それは無茶でしょう……」
林檎にとってはいまでもじゅうぶん無茶である。腸壁が梨の肉棒を苦痛が混じるほどきつく締めつける。同時にクリトリスが充血しきり皮の隙間からピンク色の小さな亀頭のように腫れあがっている。ぷっくりした肉芽を梨の親指が的確に捉え軽く捻る。
「へひゅっ!? く、んひぃっ、やぁ、あァ……」
腰がガクンと跳ね上がり秘所から透明な体液がちょろちょろとしたたる。
「ハッ、ハッ、はっ、ハッ、はぁっ……! う、うそ……私、お尻……入れられて、こんな……」
「簡単じゃありませんよ、がんばってやってますよ」
「ちょっと休憩を入れませんか?」
「……助手さんがおっしゃるなら」
助手が林檎のつま先とふくらはぎをあちこちさすってくる。しなやかだった曲線がいまは石のようにこわばり、つま先が空中をバタバタもがいている。あまりの強張りにストップをかけたようだ。
応じてか、梨が動くのを止める。だがそのあいだにも尻穴がますます媚薬に毒され、意思とは裏腹に痙攣しペニスをにちにち愛撫する。肉棒が止まると、自分の腸内が脈打つ感触がかえって意識される。再来するであろう尻穴蹂躙に恐怖と期待を催してしまう。
「っうぅー……た、確かに……あちこち、されちゃって、もう、何が何やらって……」
「気になりますね、女性からするとどんな感じなんですか」
「なんでそんな……?」
「林檎さんもモニターなんですから」
「ご無理はなさらないでくださいね」
助手が水をなめさせてくれたりおしぼりで顔を拭いてくれたりする。まるで子供か病人扱いだがされるがままに甘んじる。
これまでのセックスと次元が違う。挿入された瞬間に、自分の全存在に彼がのしかかってきて、抜き差し一往復ごとにその彼がこちらの肉体を作り変えてしまうという無力感に襲われた、そんな林檎が初めて梨に抱かれた日のトラウマにも近い感動が、いまアナルセックスでもう一度、しかしかつてと違って他人の観察下で引きずり出されている。
「はっ、はぅ、ぐ……しっ、しびれて……気、抜いたら、一瞬でも、もぅ……、でも、なんだか……へん……」
「いつもとズレてますからね」
林檎の理性が倒錯的過ぎる尻穴快楽を怖れて、無意識に芯を外そうとする。梨から下腹部を一撫でされて元の位置に引きずりこまれるように戻ってしまう。
「ズレるだけでいろいろ変わるから、マンネリ防止にはいいらしいです」
梨が後ろから手を伸ばし、またも林檎のクリトリスをつまんでくる。微かだが快楽を上積みされて、林檎は悲鳴とも吐息ともつかない声をあげる。
「おぅ……あ……ぃっ、イクッ……っ!」
「クリトリス一つとっても違うでしょう。俺としては手軽で楽しくできていいと思いますが、林檎さんはどうかな」
林檎は違いを味わったり教えてやったりどころではない。歯を食いしばり、目や頬の筋肉を歪め、涙や鼻水までこぼしている。
「ねえ、林檎さん」
梨がいつになくしつこく聞いてくる。これまでのような甘えならお断り、とのポーズか。羞恥で燃え上がるような心境の林檎に追い打ちをかける。
「聞かせてくださいよ。いつもとどこが違うんですか」
梨が尻穴に入れたままのペニスをわずかに動かす。ほんの数ミリ動かされても腸壁が数倍も引き攣って子宮底が引っ張られる。林檎の陰唇からまた涎がしたたる。
「あぐっ! う……うご……うごかさな……はっ、はぁっ! ふぎゅぅあっ!」
梨が腰を揺らすたびに林檎の膣肉も下腹部も手足もビクビク痙攣する。後ろから動かされて操り人形さながらである。
「ほら、どういう感じですか?」
「っぉ、お……その……奥まで、ずしずしって……重くて、苦しくて、でも……」
「こうしたほうがいいですか」
「ん、ッんうんん゙んッ……!?」
梨が優しく耳元に声をかけてくるが、それと裏腹に直腸内で剛直をぐりぐりと動かしてくる。林檎はノドの奥からようやく返事を絞り出す。言葉を紡ぐたびに認めてはいけない快楽を認めさせられ、梨の肉棒を感じる形状や硬度、太さに脳がますますしみる。
抜き差しに合わせて膣内の虚空がしゃくりあげて、にちにちとすすり泣きのような音を立てている。すぐそこの尻穴と子宮に突きつけられた鈍くも深い快感と真逆で弱々しい。
「お尻なんて……私……いや、そこは、だめ……っ! ひっ、いひっ、ふわあああああ……っ!」
どうにか気を張って返事するも、すぐに女体の制御を奪われる。林檎の細身が弓なりにしなり、助手がいることも忘れて足が宙を蹴る。
「う……くっ……お゛っ、ほぉぉおっ……お尻、壊れちゃいそう……おなか、全部おかしく……」
「このぐらいにしておきますか?」
梨がまた抜き差しを止める。しかし林檎の女体はもう止まらず、引き締まっているウエストから透けて見えてしまいそうなほど膣肉も子宮もひくんひくんと脈打つ。
「それとも、こうしますか」
梨の手が優しげに、しかし確実な制服の意志をもって手のひらを当てて緩やかに圧迫する。
「ッあああああああっ、だめぇっ、いくいくイグッッああああぁぁあ゛ッ……!!」
それだけで壮絶なエクスタシーに襲われ、大波に林檎の体が激しく跳ねる。足首まで引き攣らせて爪先まで伸びきったかと思うと次の瞬間に足指が折れんばかりに握りこまれる。
「あっはぁっっ……! イッてる! イッてますぅぅ!」
林檎の絶叫ととも大量の愛液があふれ、助手の着衣をまた濡らした。しかもそれが一度ではなく二度三度と続いて止まらない。
「きょうはちゃんと水分を採ってきてくださったようで」
「あっ、だっ……お、お、く、や、め……ぁ、あ、んぐうッ、あお゛……ぉお゛イグ……ぅ……っ!」
「きょうは?」
「林檎さん漏らすのが恥ずかしいらしくって、わざと水分控えることがあるんです」
「ぃ、や……っくイ、グイ……! あ゛あっイグ……ま、またっ、あ゛、あ゛っ」
「それは林檎さんが普通ですよ、梨さんがいじわるなだけで」
「林檎さんは俺のいじわるをよく知ってくれているはずです」
林檎の頭の中が真っ白になり、梨の太く硬い肉棒によって腸壁全体を押し広げられる感覚だけが焼きつけられる。休みない絶頂に、括約筋が収縮してペニスを締めつけ、自ら快楽地獄を掘り進める羽目になる。尻穴はここでは彼女のものではなく、梨によって征服された器官となった。絶頂のたびにその事実を教えこまれる。奪われた敗北感と与えられる官能がないまぜになって林檎を溶かす。
「もう少しいきますよ」
「は、ぁ……あ゛うっ……お゛ッ……!? おォおお゛……ッ!! ふかいっ、ふかい゛いィイっ!!」
林檎の意識は何度か飛んでいる。尻穴でこんなにも達してしまうことに愕然としながら、抗えず身を任せてしまう。屈辱も、それ以上の快楽も予感だけですでにいっぱいになる。
「うわぁ、こんなにびくびくして……」
林檎の全身から汗が吹き出し、乱れ髪が頬に張り付き、瞳は焦点を失って虚ろに天井を彷徨う。やがて全身の筋肉が硬直しっぱなしになる。
それでも梨は林檎の奥底を徹底的に抉り続けた。その何度目かで、屈辱が強烈に反転して多幸感がふくらみだす。
「あお゛……ぉお゛ッ、い、いっ……っ……っひぃ゛ぃい゛ぃッ!!」
結局、林檎は実験の途中ですっかり意識を失って、梨の抜き差しに体液と締めつけだけで応える肉孔に成り果てた。
「まったく、梨さんはこうだから」
失神中に別室に運ばれていて、そこで助手に手伝ってもらいながら火照りを冷まし、汗を流し、髪を乾かした。
「できれば、楽にしててくださいね」
残存媚薬を洗い流すため肛門にカテーテルを挿入された。細く柔らかい行き来の感触で、膣口が未練たらしく少量の愛液を垂らした。林檎は歯を食いしばったが止めようがなかった。むしろ変に気張ったせいか、尻穴の奥から叫ぶような痙攣に襲われた。
「っ……っうぅー……ぅ……!」
愛液を汗や水や涙と同じふうに事務的に拭ってくれる助手の気遣いでも、打ちのめされた気分がどうにもならなかった。
※
「甘えが過ぎてたわ、ごめん」
エレベーターのすぐ外まで見送ってくれた助手に、林檎と梨は並んで頭を下げた。
扉が閉じたあと、唐突に林檎が謝罪を口にした。
「いざそう聞くと、微妙に薄気味悪いですね。効きすぎたか」
「こら」
梨は、曲がりなりにも本心から林檎がそう言ったのか、尻穴快楽に溺れすぎて施設を出るまで挙動不審だったのをごまかすため奇言を弄したのか、判断に迷った。
エレベーターの操作盤の前に立つ林檎の後ろ姿を眺めた。グレーで地味めのパンツスタイルを着こなす見た目が、モニタリング前と変わらない。あの尻穴、ポルチオ絶頂の名残は、ハスキーになった声ぐらいだった。
モニタリング中の痴態を、林檎がすっかり知らんぷりしている。その尻肉をパンツスーツ越しにこの手でつかんでやったらどんな反応をするか、エレベーターがエントランスのフロアに着くまで妄想した。怒るか、甘い声を隠しながらたしなめるか、梨がその気ならと延長戦をせがんでくるか、それともアナル処女喪失からの連続絶頂がぶり返して腰砕けになるか。
エレベーターが停止して人が乗りこんでくる。かご内が混みあってきて、梨は林檎のすぐ背後に立ち位置を変える。
「きょうは俺の商売にお付きあいくださり、ありがとうございました」
「あなたの商売って、ほとんど趣味ですよね」
「仕事もできるだけ楽しめるほうが得です」
梨はつい手を伸ばしかける。もし今、指先で尻の谷間をなぞったら、林檎は膝を折るだろうか。
「……またどこかの温泉とか、仕事にかこつけて遊びたい!」
いっぽう、ポルチオ・尻穴快楽を自分の肉体に思い出させないためか、しばらくのあいだ林檎は梨との接触を控えた。
(おしまい)