15年前に死んだ幼馴染が水の精霊になって帰ってきた 作:我島甲太郎
たわわに実った真っ赤な果実を手で掴み、茎をハサミでパチンと切り離す。
潰れないようそっと転がしたプラスチックのカゴの中には熟れたトマトが小山を作っている。
「暑い……」
一通りの収穫作業を終えた俺は曲げていた背筋を伸ばし、カンカンに照り付ける日差しを麦わら帽子の陰から仰いだ。
首に掛けたタオルは水分を吸ってずっしりと重たく、ヨレヨレのTシャツもまた汗でびっしょりと濡れていた。
昨日、愛用していた空調服が故障してしまったんだ。
1日くらいは大丈夫だろう、と炎天下の農作業に挑んだのは無謀だったか。
1時間も経たずにこれでは、熱中症で倒れてしまう。
「悠里ー、水筒取ってくれー!」
頬を伝う汗を絞ったタオルで拭った俺は、家庭菜園の中から自宅に向かって呼び掛けた。
「ちょっと待って! 今大事なとこー!」
剣と魔法の世界ピスピリットからやってきた水の精霊――ウンディーネのユーリは家の縁側で腹ばいになり、最新型携帯ゲーム機の大人気レースゲームに熱中していた。
彼女の操る精霊魔法のおかげで畑の水やりの為に井戸から水を汲み上げる手間が省けたのは大いに助かっているが、もう少しくらい主人の仕事を手伝ってくれても罰は当たらないと思う。
「仕方ない、少し休憩するか。……よいしょっと」
悠里を呼びつけることを諦めた俺は、トマトの満載された重たいカゴを抱え上げた。
これは後で煮詰めて、トマトソースの瓶詰に変えるつもりだ。
物価のインフレが社会問題になっている昨今、できる限り食費は節約したい。
何しろ、制限しなければ際限なく娯楽に貯蓄を注ぎ込むような同居人が増えてしまった。
知らない間にクレカを使い込まれて人生設計が破綻したらと思うと、怖くて夜しか眠れない。
「だぁー、負けたー! チートだチート、許せなーい!」
手に持っていた携帯ゲーム機――公式の抽選で当たって買ったはいいがロクに起動せず押し入れの中で埃を被っていた――を座布団の上に放り出した悠里は、縁側の上で寝転がり駄々をこねた。
「不眠不休で四六時中遊んでも疲労しないくせに、どっちがチートだよ」
「じゃあ回線が悪い! ケンちゃん、もっといい衛星通信プランに乗り換えてよ!」
「お前の娯楽費を削っていいならな……」
「それは困るからやめとく!」
俺は持っていたカゴを適当な日影に置きその上に麦わら帽子とタオルを被せると、悠里に向かって右手を差し出した。
「真っ昼間から働いて喉が渇いた。そこの水筒取ってくれ」
「やだ、めんどくさい」
「わがまま言うな、俺が熱中症で倒れたらお前も困るだろう」
こんな廃村では救急車もやってきてくれないから、そうなったら一巻の終わりだ。
前世の記憶を持って異世界転生した特別な悠里と違って、適性とやらがない俺はそのまま輪廻に乗ってまっさらな赤ん坊にクラスチェンジである。
「しょうがないなー。はい、あーん」
冷えた麦茶の入った水筒を遠くに蹴飛ばした悠里は、起き上がって大きく口を開いた。
「おい」
「ハゲたおっさんの麦茶なんかより、こっちの方が美味しいよ~♡」
増量の神に対して何という物言いだ、というツッコミを入れたい。
しかしながら、この貼り付くような喉の渇きには勝てない。
俺は黙して、目の前にいる美しい水の精霊と口付けを交わした。
「んっ……」
繋がった唇から口の中に注ぎ込まれた甘露をごくり、ごくりと飲み下す。
カラカラに乾いた大地に撒いた水のように、肉体の隅々まで水分が染み渡っていく……。
「ぷはっ、どう? 美味しいでしょ」
「……ああ、美味しいよ」
俺は嘘が嫌いだ。
嘘まみれの会社も、社会も……何もかも、大嫌いだ。
「ケンちゃん、汗びっしょり。そうだ、ボクが洗ってあげる!」
返事も聞かずどろりと下半身を液状化させた悠里は、俺の首に腕を回すように抱き着いてきた。
ひんやりとした冷たい感触が服の隙間から内側に潜り込んで、火照った全身を舐め回してくる。
「うへへ、ケンちゃんの味がするぅ……」
身体は水風呂に入ったかのようなさっぱりとした爽快感に溢れているというのに、心の中から湧き出るこの不快感はなんだ。
いや、原因は分かっている。
それは俺の股間を執拗にねぶってくる悠里の存在だ。
「朝も、したじゃないか」
こいつはゲームとセックスをすることしか頭にないのか。
「ご主人様にご奉仕するのがボクの仕事だもん。それとも、もうボクのことは嫌いになっちゃったの?」
しゅるりと俺から離れた悠里は液状化した下半身を人型に戻すと、縁側の上でぺたんと座り上目遣いでこちらを見つめてきた。
「嫌とは言っていない。節度の問題だ」
「節度ってどんな意味?」
「ほどほどでやり過ぎない程度という意味だ。お前も、ずっと薄いままじゃ嫌だろう」
「じゃあ問題ないね!」
悠里はにんまりと笑みを浮かべて、俺のズボンのベルトをカチャカチャと外し始めた。
なにかがおかしい。
もしかして、さっきの水……。
「まさか、盛ったのか」
「せいかーい!」
ズボンの中から姿を現した剛直にスリスリと頬ずりをした悠里は、ひんやりとした指先で玉袋を揉みしだいた。
「んー、いい感じ。ケンちゃん、今日はおっぱいでしてあげるね♡」
透き通るような薄い羽衣が身体に吸収されるように消え、白く美しい肢体が露わになった。
ヨダレのように口からだらりと零れ落ちた粘液が硬く反り返った肉棒をしとどに濡らし、その両脇を二つの豊かな山脈が包み込む。
ぬちっ、ぬちゃっ、ぬちゅ……。
木々に止まったセミの求愛の声に隠れて、重なった二つの影から厭らしい水音が響き渡った。
「えいっ、えいっ、それっ♡」
人間離れした容姿を持つ美少女の献身的とも言える奉仕。
しかしながら、心地よい性感に包まれている息子とは裏腹に俺の心は段々と冷めていった。
「……悠里、どうして奉仕する側の方が
両手で持ち上げた双丘をすり合わせる悠里の表情は、溢れんばかりの快楽で蕩け切っていた。
貴重な二十代を二次元に費やしてきた俺には良く分かる。
これは生成AIで出力に失敗した時によく見る、アヘ顔パイズリだ。
「だって、思ったよりも気持ちよくないんだもん」
「だからってな……」
元来精神体の悠里は、水で構成された依り代の肉体を好きなように改変できる。
今まさに、自らの胸を性感帯に変えたように。
「たまには真面目に奉仕して見せろよ」
「ぶー」
唇を尖らせて不満を露わにしつつも、悠里は奉仕作業を再開した。
双丘と半ば融合しつつある両手をゆっさゆっさと揺すって肉棒に擦りつける。
「ケンちゃん、どう、気持ちいい?」
「ああ、そうだ。いいぞ……」
中身が元男だろうと、黙っていればただの美少女だ。
落ち込んでいた気分も少しずつ高まってきた。
もうちょっとでイケそう……。
「じれったいなぁ……えいっ」
「!?」
ベロンと飛び出した悠里の舌先が細く尖ったかと思うと、粘液で満たされた谷間に潜り込んだ。
その直後に感じたのは、ずるずると鈴口から入り込んでくる異物の存在……。
「や、やめ……」
「だーめっ♡ わがままなケンちゃんにおしおきだよー♡」
思わず引けた腰が、悠里の足から生えた水の触手で固く縛り付けられる。
突き放そうと前に突き出した両手は、ゼリーのような感触とともに彼女の頭の中をすり抜けて空中に飛び出した。
「何をする気だ……!」
「んふふー、ケンちゃんを女の子にシてあげる♡」
悠里が蠱惑的な笑みを浮かべると、前立腺まで到達した異物がぐりんと蠢き頭の中が弾けて真っ白になった。
「あああああ!!!」
止めようもなく噴き出した大量の精液が悠里の美しい顔を白く染め上げた。
生まれて初めて体験する、腰が抜けそうになるほどの快感に膝がガクガクと震える。
「すっごい量、これだけでお腹いっぱいになっちゃいそう。それっ、もっと♡」
俺の中に潜り込んだ異物は悠里の意思に従って暴れ続けた。
何度も何度も搾り取られ……何も出なくなってから、ようやく俺は解放された。
「し、死ぬかと思った……」
雑に縁側の上に転がされた俺は、座布団を枕代わりにしてぼんやりと軒先に吊り下げられた風鈴が風に揺れる様を眺めていた。
もはや剥き出しになった下半身をズボンに仕舞うことすら億劫だった。
「ケンちゃん見て見て、こんなに溜まったよ! 凄いでしょ!」
俺はイき地獄を味わって生死の境を彷徨っているというのに、呑気に自分の中に取り込んだ精液を見せつけてくるし。
「うん……凄いね……」
透過した皮膚の中に浮かぶ透明な子宮の中でたぷたぷと揺れる白濁液。
悠里は俺のスマホを勝手に使ってパシャパシャと自撮りを始める始末だ。
またぞろアダルトサイトでCG集でも売って小遣い稼ぎをするつもりなのだろうが、放漫な契約精霊を毛ほども制御できていない無力な俺には止めようもない。
せいぜい勘の鋭いネット民に住居を特定されないよう祈るばかりだ。
「なんかもう、疲れたな……」
この体たらくじゃもう仕事にならないし、少し昼寝でもしよう。
俺はずっしりと重たく感じる右腕を動かして目元を隠すと、ぎゅっと強く瞼を閉じた。