15年前に死んだ幼馴染が水の精霊になって帰ってきた 作:我島甲太郎
防寒着と防寒ブーツ、毛羽立ったニット帽。
吐く息は白く曇り、外の気温の低さを物語っている。
雪かきシャベルを片手に玄関扉を横に開くと、目の前には一面の雪景色が広がっていた。
「積もったね、初雪! とりゃー!」
俺と同じく冬のフル装備姿をした蒼髪美少女――ウンディーネのユーリは勢いよく玄関から飛び出すと、朝日を反射して白く輝く新雪を好き放題に踏み荒らした。
たった一晩で膝丈まで積もった雪は、今年の冬の厳しさを予感させるようだ。
「なあ、悠里。その恰好に着替える必要あったのか?」
玄関に侵入してきた雪を雪かきシャベルで外に掻き出しながら、雪に飛び込んで大の字で寝転がっている悠里に尋ねた。
「ないよー!」
「だよな……」
そもそも服を含めた姿かたちは全て水の依り代を擬態させたものに過ぎないのだから、そう返されるのも当然の帰結だった。
まぁ、普段の羽衣姿だと見ているだけで寒くなる気がするからこれでいいのかもしれない。
玄関周りに積もった雪をどかしてある程度のスペースが確保できたので、俺はその間にどこかへと旅立った悠里を探しに行くことにした。
ズボズボと雪を踏みしめながら、彼女の作った足跡を辿る。
「おーい、悠里ー! どこ行ったんだー!」
どうやら足跡はガレージ――軽トラとか家庭菜園用の小型農機などが仕舞われている場所――の方に続いているようだ。
曲がり角を曲がると、いきなり飛んできた雪玉が俺の顔面に直撃した。
「うわっ!?」
「あはは、引っ掛かった引っ掛かったー!」
ガレージのシャッターの前で腹を抱えて無邪気に笑う悠里を見て、手でパッパと雪を払い落とした俺は顔をしかめた。
「小学生かよ。お前、精神年齢が退化してないか?」
「ボクは永遠の16歳だよ? 退化するなんてありえないもーん」
「ああそう。それで、仕事はちゃんとしてくれるんだよな?」
悠里は俺の代わりに屋根の雪下ろしをやってくれると明言していた。
危険の伴う重労働であるからして、俺もその言葉には大いに期待をしている。
「仕事ってどれのこと?」
「とぼけるな。屋根の雪下ろしのことだ」
「はいはい。分かってるって」
俺がガレージの上に積もった雪を指差すと、悠里は詰まらなそうな顔をして腕を振るう。
すると、ドサドサと音を立てて落ちた雪がガレージの脇に小山を作った。
「これで終わりでいいよね。じゃあ、ボクは見たいアニメがあるから~」
雑に半端な仕事をした悠里は、ふわりと浮き上がってそのまま家へと飛んでいこうする。
当然、俺は彼女を呼び止めた。
「おい、待て」
「ダメだよケンちゃん。契約した精霊に仕事を頼む時は、もっときっちり説明しなきゃ」
悠里はふよふよと浮いたまま、指先で俺の頬をつんつんと突いた。
「それは自由意思を持たない下位精霊の話だろう。悠里みたいな高位精霊は術者の意図を汲み取ってくれると聞いているが?」
「高位精霊だって魂を持つだけの自然現象なんだから何も変わらないよ。むしろ、力があるだけ危ないくらい。だからこそ、元人間のボクは特別な存在なんだよ?」
その特別な存在は毎日毎日飽きもせず、ゲームとアニメとセックスに明け暮れているわけだが。
文句を言ったところで何も変わらないだろうから、ここは素直に従うことにする。
「えー、契約精霊に命ずる。これから毎朝、自宅とガレージの雪下ろしをした後、家の周辺の雪かきをして、集めた雪を邪魔にならない場所――隣の空き地に積み上げてくれ」
「りょうかーい!」
悠里は手に持っていたこぶし大の雪玉を下に落とすと、雪だるまを作るように転がし始めた。
すると周囲の雪がまるで磁石に吸い寄せられるかのように雪玉の周囲に集まっていき、雪上を転がる雪玉はどんどん大きく成長していく。
屋根の上に積もっていた雪も同様に雪玉へとゆっくり吸い寄せられていき、悠里がぐるりと家の周囲を一周して戻ってきた頃にはとんでもないサイズに変貌していた。
投げつけたらそのまま家が潰れるんじゃないかと思うくらいのビッグサイズだ。
巨大な雪玉はガレージのシャッター付近にへばり着くような状態で避難して様子を観察していた俺の横を通り過ぎ、小道を挟んで向かい側にある隣の空き地のど真ん中に陣取った。
「うーん、このままじゃ見栄えが悪いなぁ……。そうだ!」
悠里は巨大雪玉に両手をズボっと突っ込むと、ぐにゃぐにゃと形を弄ってあっという間に巨大な人型ロボットの雪像に作り変えてしまった。
誰しもがどこかで見た覚えがある……そんな初代機動戦士の雪像だ。
「ケンちゃん、終わったよ! 写真撮ってー!」
「分かった分かった。今行くから」
待ちきれないのか両手を振ってぴょんぴょんとジャンプしている悠里のところに向かった俺は、雪像を背景にピースする悠里の写真をスマホで何枚か撮影した。
「ありがと。早速、
半ば悠里専用になりつつあるスマホを弄ってSNSに写真を投稿した悠里は、俺にスマホを返してぐーんと伸びをした。
「ケンちゃん、今度こそバズるかな?」
「使い古されたネタだし、運よく有名垢にリポストされたらってとこじゃないか?」
始めたての頃にセンシティブな内容の写真ばかりを投稿していた悠里のアカウントはシャドウバンされている可能性が濃厚なので、それほど期待は出来そうにない。
「そんなもんかな。まぁいいや、ダメそうならまた今度別のにチャレンジしたらいいし」
「あんまり奇をてらっても炎上するだけでいいことないぞ……」
「ケンちゃんはボクを何だと思っているのさ」
「人前に出したら何をするか分からない危険人物」
「ひどーい!」
何にせよ、一時間は掛かる重労働がちょっとお願いするだけで片付くのは有り難いことだ。
しかしこうなると、冬の間は逆に運動不足になってしまうかもしれない。
となれば、何かしらの運動手段を見つける必要があるか。
俺はそんなことを心の中で考えつつ、ぶつくさと文句を言いながらふよふよと隣を飛んでいる悠里と一緒に家の敷居を跨いだ。
脱いだ防寒装備を抱えて肌寒い廊下を歩き、畳の間の障子を開くと温かな暖気が俺を出迎えた。
冬の心の友、石油ストーブ特有の香り。
燃料の続く限り、俺を助けてくれる働き者だ。
水を司る精霊の悠里は周囲の空調環境を自由自在に整えることも可能ではあるが、別のことに熱中して忘れたことが夏の間に頻繁にあった。
燃料代をケチったばかりにうっかり凍死なんてことにはなりたくない俺は、冬の間は常に自らの手で暖を取ることを心に決めている。
食糧と灯油の備蓄も十分、後は春まで耐え忍ぶだけだ。
「はー、どっこいしょ。リモコン、リモコンっと……」
防寒着を身体に吸収していつもの羽衣姿に戻った悠里は、ごろりとテレビの前で横になった。
手に取ったリモコンを操作してサブスクのアニメチャンネルを開き、だらけた姿勢のまま視聴途中だったアニメの続きを見始める。
俺はそんな彼女の姿を横目に見ながら、石油ストーブの近くに下げていた洗濯物干しに濡れた防寒装備を吊るした。
座椅子に掛けてあったどてらを羽織って座り込み、ノートパソコンを開いてマウスを動かす。
スリープが解除されたノートパソコンの画面に映ったブラウザには、SNSでリプライされたことを告げる新着通知が表示されていた。
チェックしてみたところ、どうやら過去に何度かスケブでリクエストをくれた外国人のようだ。
Flokによる翻訳:もうスケブでは描いていないんですか? 作風が変わってしまったようで、とても残念です。
SNS上の俺は、いわゆる底辺絵師と呼ばれる存在だ。
宣伝も交流も一切せず、ただ気まぐれに描いたイラストを投下するだけのアカウント。
それでも極まれに趣味に引っ掛かるような人は居て、そういう人にフォローされていた。
作品にはその人の精神状態が現れるという。
現実社会に対する絶望と深い孤独感に苛まれていた俺の描くイラストも、かつてはエロとグロが混在するどこか陰鬱としたものに成り果てていた。
それがどうだ、ある日を境に投稿されるイラストは特定の配信者のファンアートタグが付いたゲームキャラを描いた一般的なものに変わってしまった。
全ては俺に投げ銭行為を禁止されて不機嫌になった悠里を宥める代償行為に過ぎないのだが、それを知らないフォロワーには配信者にドはまりして浄化でもされたように映っているのだろうな。
これまでとは違い毎日のように増減を繰り返すフォロワー欄を見ていると、より強く感じる。
返信:生活環境が変わったので、もうスケブでは描きません
なんとなく返信したくなった俺はそれだけ返して、プロフィール欄のリンクを削除した。
もしかしたら、彼からもフォローが外されるかもしれない。
それに少しだけ物寂しさを感じながら、ブラウザを最小化してイラストソフトを立ち上げた。
背中越しに聞こえてくるロボットアニメの音声をラジオ代わりに、手にしたタッチペンを使い慣れた板タブに走らせる。
時代遅れと言われようが、俺にはこれが一番しっくりくるんだ。
時間を忘れ、ただ黙々と作業を進めること半日。
描き直しを何度も繰り返し、ようやく納得のいく一枚絵が完成した。
「ケンちゃん、終わった?」
どうやら後ろから俺の作業をこっそり眺めていたらしい。
道理でさっきからテレビの音が聞こえないわけだ。
俺は凝り固まった肩をグルグル回しながら答える。
「後はタイトルロゴを合成するくらい。で、どうよ」
「うん、やっぱりケンちゃんの絵はいいね。リクエストしてよかったー」
「喜んでくれて何よりだ。じゃ、このまま進めるから」
もうひと踏ん張りだ、と気合を入れた俺の首筋にひんやりとした感触が伝わった。
慣れ親しんだ柔らかな感触に、悠里が背後から抱き着いてきたことを悟る。
「ねえ、ごほーび欲しくない?」
「欲しくない」
「そう言わずに。ね?」
一体、どこでスイッチが入ったのやら。
悠里はにゅるりと液状化して回り込むと、あぐらの上に体面座位のような形で人型に戻った。
いたずらっぽい笑みは、まるで主人の仕事の邪魔をする猫のようである。
「悪いけど、今はそういう気分じゃないんだ」
「ボクはそういう気分なの。シてくれるまで離れないからね?」
溜め息を吐いて立ち上がろうとした俺を、瞬時に液状化したスライム状の下半身が包み込んだ。
両腕まで後ろに回すように座椅子に縛り付けられてしまい、これではまるで身動きが取れない。
「離せ」
「やだ」
こぽこぽと小さな泡を立てる透明な粘体の中に現れた透明な触手が器用に蠢き、ズボンのチャックが下ろされてトランクスの隙間から引き出された息子が顔を覗かせた。
「んふ、いただきまーす♡」
生み出された透明なオナホール状の膣が、柔らかな状態の息子を強引に刺激する。
通常であればすぐさま外に抜け落ちてしまうような不同意性交ですら、水で構成された彼女の肉体は可能にしてしまっていた。
「これの……どこがっ……ご褒美だっ……!」
「だって、雪かきの対価貰うの忘れてたから」
「別に、今じゃなくてもいいだろっ……!」
「昨日はいっぱい甘々なエッチしたじゃん。だから味変的な?」
味変で逆レイプされる側の身にもなって欲しいものだ。
これが一般家庭なら離婚も視野に入るような蛮行である。
「あ、やっと硬くなってきた。そろそろ動くよー」
肉棒の具合を確認した悠里は、下半身を若干人型に変えてリズミカルに腰を上下させ始めた。
それでいて、水の触手で座椅子に縛り付けた俺の拘束を解くつもりはないようだ。
ぱちゅん、ぱちゅんと水音が弾けるたび、望まない快楽が与えられる。
「あっ、んっ、んっ……♡」
俺の首に腕を回し、行為に夢中になる悠里。
彼女とのセックスが気持ち良くないと言えば嘘になる。
それなのに、やり方が少し違うだけでどうしてこうも心が痛むのだろうか。
「ケンちゃん……好き、好きだよ……」
向かい合った悠里の口からは、愛の言葉に混じって湿り気を帯びた吐息が漏れ出す。
人型を取った水の化身との交わりは、いついかなる時も水の匂いがした。
「ああ、俺も好きだ。お前のことを愛している」
柄にもなく、彼女に応えるように愛の言葉を囁く。
たったそれだけで、悠里は感極まってびくりと身を震わせた。
「もっと、もっとぉ……」
「もう二度と離れない。この先一生。悠里の為に生きて、悠里の為に死のう」
「んんっ♡ ケンちゃん、ボクも愛してる。ずっと、ずっと一緒だよ……」
彼女が絶頂を繰り返すたび、腰の動きは激しさを増していく。
抽挿に堪え切れなくなった俺の肉棒は透き通る胎内で跳ね上がり、白い精を放った。
昨日、あれだけ出した後だ。
精力を増す甘露も与えられないまま放たれた精液は、普段と比べて幾分か薄かった。
「~~~!!!」
それでも今の悠里にとっては十分過ぎるものだったらしい。
これまでよりも深く絶頂した悠里は、身体を緩めてだらりと俺にしなだれかかった。
拘束が外れてようやく自由の身になれた俺は痛んだ手首を擦る。
あんな強引なやり方をして、もし腕が折れたらどうしてくれるんだ。
いくら寛容な俺でも、こういうことが続くようなら流石に堪忍袋の緒が切れるぞ。
「無理矢理されるのは好きじゃない。もう、こういうことはしないでくれ」
やり過ぎたという自覚はあるのだろう。
バツの悪そうな顔をした悠里はそっと俺から目を逸らした。
そんな状態でも、彼女の口だけは正直だ。
「もうちょっとだけ、繋がってていい?」
「……邪魔、しないならな」
「うん。ケンちゃん、大好き……」
胸に頭を預けて微笑む悠里を左腕で抱き抱えながら、俺は畳の上に転がっていたタッチペンを手に取った。
ようやく、中断していた作業の続きが出来る。
俺のイラストを見た人も、まさかこんなエロ漫画みたいなことをしながら描いているとは夢にも思うまい。
そんな少しばかりの優越感に浸りながら、俺は筆を走らせた。