15年前に死んだ幼馴染が水の精霊になって帰ってきた 作:我島甲太郎
晴れ渡った冬の寒空の下、息を切らして道路を走る俺を見守るのは無数の巨大な雪像。
頭に雪を被っていたり、日光を受けて原型が崩れたものばかりだが、道路を進むほどにその雪像は新しいものへと置き換わっていた。
『あともうちょっとだよ! ファイト、ケンちゃん!』
大晦日の真っ昼間からランニングをしている俺に纏わりついているのは、半透明な幽霊のような姿をした蒼髪の美少女――ウンディーネのユーリだ。
「はっ、はっ、分かってる……!」
家には物置から引っ張り出してきたランニングマシンもある。
しかし最近の俺は、晴れた日は必ずと言っていいほど外を走っていた。
それは雪像作りにハマった悠里が勝手に廃村内の道路を雪かきしているおかげで走る場所が出来たという単純な理由だが、家に籠もりがちな冬の季節に外で行うランニングはいい気分転換にもなっていた。
『ゴール!』
道路を塞ぐ雪の壁の前で立ち止まった俺は、両膝に手を当てて息を整えた。
天候と悠里の気分次第で延長されるランニングコースは、既に片道だけで十分にキツく感じるほどの距離に到達している。
「はぁ、はぁ、ふぅ……。今日も結構、走ったな……」
『ケンちゃん、まだ半分だけど?』
「それは、言わんでいい……」
小休憩がてら辺りを見渡してみると、遠目に巨大な馬の雪像が目に入った。
俺はなんとなくスマホを取り出して悠里のSNSアカウントを見てみる。
一番最新の投稿には「グッバイ
「なあ、悠里。コスプレよりも雪像の方がいいね付いてないか?」
『なんでだろうねー。ボクとしては、自撮り風の合成いらないって言われるのが一番ムカつくんだけど』
製作過程もろくに見せていないというのに、こっちは全然生成AIだとは思われていないようだ。
日々の投稿で、中の人が北国のポツンと一軒家暮らしな暇人なのがバレているからだろうか。
「さてと、休憩終わり」
スマホをポケットに仕舞った俺は、くるりとUターンして後半戦に移った。
今日は特筆してやるべきこともないし、帰ったら風呂に入ってビールでも一杯やりながらだらだら過ごすとするかな。
『ねえねえ、ケンちゃん』
白い息を切らして走る、俺の目の前をふよふよと飛んでいる精霊状態の悠里。
「なんだ?」
『明日さ、いつもの神社に初詣行かない? ボク、久しぶりに美味しい甘酒が飲みたいなー』
水の依り代を纏い実体化した悠里は、くるりと回ってサラサラの黒髪をショートヘアにした中性的な少年の姿に変身した。
着ているコートの胸の辺りが僅かに膨らんでいるようにも見えるから、JKの方かもしれない。
「その姿で、人ごみに突っ込んで、大丈夫か?」
「やってみないと分かんない!」
「不安だ……」
俺はふと、思い出したことがあって立ち止まる。
走っていた俺の速度に合わせてスーッと空中をスライドするように飛んでいた悠里はそのままの勢いで離れていったが、すぐに俺のところに戻ってきた。
「なになに、急にどうしたの?」
「いや、明日から大雪が降るって話じゃなかったか?」
スマホで天気予報を確認するが、確かに俺の記憶は正しかった。
腕を組んでうーんと考え込んだ悠里は、ポンと手を叩いて代案を提出した。
「じゃあさ、今日行こうよ。それならいいでしょ?」
「別に急ぐ話でもないし、少し間を空けてからでもいいんじゃないか」
「思い立ったが吉日ってよく言うじゃん。よーし、年末詣だー!」
「まぁ、悠里がいいってんならそれでいいけどな……」
午後のおやつ時になっているにも関わらず外出の予定が決まった俺達は急いで家に帰って支度をして、それからガレージで冬眠していた軽トラに乗り込んだ。
冬眠といっても、定期的に動かしてはいたからバッテリーが上がったりはしていない。
「出発しんこー!」
助手席でシートベルトを身に着けた悠里は元気よく腕を振り上げた。
シートベルトが不自然に服の中にめり込んでいるように見えるのは……きっと気のせいだろう。
悠里の手で雪かきのされた廃村内の道路はともかく、麓に繋がる山道は降り積もった雪で道も分からない状態になっている。
このままだとにっちもさっちもいかないので、悠里に邪魔な雪をどけて貰うことにした。
「それじゃあよろしく、言い出しっぺさん」
「ふっふーん、ボクの本気を見せてあげる!」
悠里が指先をすいすいと動かすと、大量の雪はモーセの如く綺麗に二つに分かれた。
「確かに凄いな……」
「どやぁ……」
絶対に他人には見せられないような奇跡だ。
俺は雪の下から現れた片道一車線の道路を慎重に進む。
「もっとスピード出しても大丈夫だよ?」
「いや、なんか怖くて……」
半ば自動生成のような勢いで雪中に現れる道路を走ること一時間、俺達はようやく国道の近くまでやってきた。
誰かに決定的場面を見られないよう注意しつつ、雪にタイヤの跡を残して国道に入る。
「悠里、明日が大雪で助かったな」
「それは言えてるかもね」
不自然すぎるほどに雪かきがされた山道の存在に気付かれないことを祈るばかりである。
三十分ほど麓の町を移動した俺達は、神社近くの駐車場で軽トラを止めて車から降りた。
年の暮れに参拝しようなんて数奇な人間はそうそういないから駐車場も貸し切り状態だ。
「そういえば悠里、どうして急に初詣に行きたいなんて言い出したんだ?」
大きな鳥居を潜り、長い石階段を
「んーと、今日雪像作った辺りに神社の跡地があったでしょ? それでお礼言わなきゃなーって思っちゃったの」
確か、うちの村にあったのはここの神社の分社だったな。
俺達が生まれるよりも前に後継者不足で神主がいなくなって、ご神体を返したって話のはず。
「転生する時に会ったことでもあるのか?」
「別にそういうわけじゃないんだけど……昔から、生まれ変わったら女の子になりたいってお願いしてたからさ。それに日本に帰ってきた時もあの神社の本殿があった場所に出てきたし、運命感じちゃう的な?」
典型的な無神論者だった俺も、悠里という霊的存在を知ってからは考え方を改めていた。
こんなのがいるくらいなんだから、
「それなら、しっかりお礼をしないとバチが当たっちゃうかもしれないな」
「うん、もしボクが神様なら絶対にそうする」
「なんて性格の悪い水神様だ」
軽口を交わしながら、俺達は冷たい風の吹き抜ける無人の神社までやってきた。
参拝の前に、まずは手水で心身を清める。
柄杓ですくったかけ流しの水は非常に冷たいが、我慢我慢だ。
「浄水器を通した薄いカルキの味がする……」
「手水を飲むな」
ウォーターソムリエの舌によってこの神社が実は井戸水ではなく水道水を手水に使っていることが看破されてしまったが、割とどうでもいいことだった。
俺達は作法に従い、本殿の賽銭箱の前に立つ。
「見て見てケンちゃん、キャッシュレスになってるよ」
ポケットから財布を取り出した俺の袖を引いた悠里に言われて目を向けると、確かに電子マネーのQRコードが印刷された厚紙が賽銭箱の近くに置かれていた。
「本当だ。15年も経てば変わるもんだな」
「せっかくだし、ここはどーんと10万円くらい突っ込んじゃおうよ!」
まぁ、悠里の稼いだ金だし好きに使わせるか。
ちょちょいとスマホを使って大胆なお布施をした俺達は、鈴を鳴らして二拝二拍手一拝をした。
やるべきこともやったので、そのまま本殿を背にして帰路につく。
「ねえねえ、ケンちゃんは何をお願いしたの?」
「無病息災」
「ふーん、つまんない」
「悠里には分からないだろうが、人間は30を越えるとあちこちにガタが来るようになるんだ。いやホント、20代に無理をしたツケがね」
「またおっさんみたいなこと言って。こっちの方はまだまだ若いじゃん」
「薬に頼る若さに何の意味があるんだ……」
せっかく麓の町までやってきたので、俺達は行きつけのスーパーに寄ってから帰ることにした。
年越しそばに、お雑煮の材料、それと悠里が大好きな期間限定の飲料類などを購入。
今年の年末年始はいつになく贅沢なものになりそうだ。
のんびり買い物をしているうちにすっかり日は落ち、外は真っ暗な闇に染まっていた。
空は分厚い雪雲に覆われ、月はまるで見えていない。
ヘッドランプの明かりを頼りに国道を軽トラで走っていると、助手席でスマホを弄っていた悠里がハッとした表情を浮かべる。
「あ、甘酒買うの忘れてた」
「今からUターンするか?」
「うーん、あそこのコンビニとかに売ってないかな?」
「缶詰のやつならあるかもしれないが……」
「今日はそれでいいや。ちょっと寄ってこうよ」
我が家の神様のワガママは今に始まったことではないから、ここは大人しく従っておく。
俺は国道沿いにあったコンビニの駐車場にバックで軽トラを止め、車から降りた。
「すぐに戻ってくるから、大人しく待っててくれ」
「行ってらー」
聞き慣れた音とともに入店した俺は、ざっと店内を見渡した。
きっとレジの近くに……あったあった。
ホットドリンクコーナーの隅に並んでいた小さなスチール缶を手に取った俺は、カタコトの日本語を話す外国人の店員にレジを通して貰って会計を済ませた。
この間およそ1分強。
アツアツのスチール缶の縁を指先でつまみつつ、コンビニの外に出た俺の目に映ったもの。
それは、何故か軽トラの外で見知らぬプリン頭の若者に絡まれている悠里の姿だった。
「カワイイ顔してんじゃん。てか、どこ高?」
「えぇ~? もしかして、ボクのことナンパしてるのぉ~?」
なに満更でもなさそうな顔をしているんだ。
俺は無言で、背を向けていた若者の首筋に持っていた甘酒の缶を当てた。
「あっつ!?」
「うちのツレに何か用か?」
振り返った若者は首筋を確認するように擦りながら、俺にガンを付けた。
「うわ、ヤケドしたかも。これショーガイっすよショーガイ! ケーサツ呼びますよ!」
微かにアルコールの匂いがする。
宅飲みの最中にツマミでも切らしてパシられたってところか。
俺は甘酒の缶を彼にもよく見えるように揺らした。
「楽しい忘年会が台無しになってもいいなら、好きにしろ」
図星だったのか、彼はチッと舌打ちをしてそのままコンビニの中に消えていった。
「ケンちゃん、よく未成年だって分かったね」
「そりゃ、通ってる高校の名前聞くやつなんて同年代しかいないだろ」
甘酒の缶を悠里に手渡した俺は、そのまま軽トラに乗り込んでエンジンを掛けた。
再び夜の国道を走り出した車中で、悠里はぶんぶんと振った缶のプルタブをプシュッと開ける。
「んぐ、んぐ、んぐ……ぷはーっ! まあまあだ……」
「満足したか?」
「まあね。それにしても……あの時のケンちゃん、カッコよかったなぁー」
チラリと横目に見た悠里の頬は、心なしか赤くなっているように見えた。
「それほどか?」
「『ツレに何か用か?』だって、普通言わなくない?」
「俺は、お前が何かするんじゃないかと思って気が気じゃなかったんだよ」
スーパーで買い物をした時も周囲に細心の注意を払ったくらいにはアクシデントを恐れていた。
何しろ、不注意で子供とぶつかっただけで人外バレする可能性がある。
「
「悠里、そういうとこだぞ」
ウィンカーを出して右折した軽トラは廃村へ続く山道に入る。
俺達以外に誰かが通った痕跡は見つからなかったから、まずは一安心か。
「ケンちゃんケンちゃん」
「今度はなんだ?」
「なんかさ、ムラムラしてきちゃった」
「家まで我慢しろ」
「誰も見てないんだし、いいでしょ?」
悠里はそう言って、俺のズボンに手を伸ばしてまさぐり始める。
こうなってしまっては仕方がない。
俺はハザードを焚いた軽トラを道路脇の雪スレスレの場所に止めた。
「やるならやるで、さっさと済ませてくれ」
既に悠里はチャックの間から頭を出した息子をしゃぶっていた。
前世の姿そのもの……に見える彼女の頬の中は、普段よりも心なしか熱く感じる。
「んー。
硬くなった肉棒から口を離した悠里は、鈴口を指先で弄りながらにへらと笑った。
「おちんちんは正直だね。お外でするのがそんなに興奮するの?」
本音のところを言えば、エッチな女子高生にカーセックスをねだられるというシチュエーションは……思いのほか興奮する。
変態煽りされたら
「寒いから、早くしてくれ」
「もう、素直じゃないんだから」
悠里はそのまま俺の上に跨った。
着衣で体面座位とは、よく分かっているじゃないか。
「んっ……♡」
ぬるりとした温かな感触が、彼女と深く繋がったことを伝えてくる。
男根の根元をきゅうきゅうと締め付けるアナル特有の快感、そして抽挿のたびに亀頭が固いしこりに擦れて……。
「おい、これ――」
じろりと睨み付けて文句を言おうと開いた俺の口を、悠里の唇が塞いだ。
甘酒の味がする舌で好き放題に口内を蹂躙した後、口を離してイタズラっぽい笑みを浮かべる。
「えへ、間違えちゃったみたい♡」
キスをしている間に、肉棒に伝わる感覚は覚えのある膣内のものへと変化していた。
「本当に、それだけは勘弁してくれ……」
「大して変わらないのに、なんでそんなに嫌がるかなー」
唇をとがらせて不満を露わにしつつも、悠里は抽挿を再開した。
真っ暗な夜の道端で、ギシギシと微かに揺れる軽トラック。
「んっ、んっ、あんっ……」
アイドリングの音に紛れて車内に響く、堪えるような嬌声がより興奮の度合いを高めていく。
「悠里、そろそろ……」
「いいよ、出して……膣内に……」
「くっ……!」
目を閉じ、彼女の胎内に精を放つ。
寄りかかるように抱き着いた悠里の身体が、静かな絶頂にぶるりと震えた。
それからしばらくして、俺は運転を再開した。
ラジオのスピーカーからは、地方局の年末特番が流れ続けている。
悠里は助手席で膝を抱えてボーっとしながら情交の余韻を噛み締めていたが、ふとした拍子に尋ねてくる。
「ケンちゃん、もし……もしだよ。ボクが前世で告白したら、受け入れてくれた?」
「さあな、時と場合によるんじゃないか」
「もっと真剣に考えてよ!」
「真剣だ。10代の俺だったらまず受けなかっただろうし、ブラックな会社で働いていた頃の俺なら受けただろうな」
「ワンチャンあったんだ……!」
やけに嬉しそうな悠里の姿を見て、俺は盛大な溜め息を吐いた。
「あの頃の俺はそれだけ疲れていたんだ。爺ちゃんの後追い自殺をしなかったのが、奇跡だったくらいにはな」
「……なんで、しなかったの?」
「病床の爺ちゃんに生きてくれって言われたからに決まってるだろ」
だから俺は仕事を辞めて実家に帰り、今のような生活を送っている。
誰かの下に付いたりなんて、もう二度とするものか。
「そっか。じゃあ、もっと長生きしないとね」
「よろしく頼むよ、守護霊さん」
「任せて! ケンちゃんに手を出そうとする悪者はみーんなボクがやっつけてあげるから!」
「うん、人命第一でお願い……」
すぐ暴力に走ろうとする悠里にそこはかとない不安を感じながら、俺は軽トラを走らせていた。