※この作品はR-18です。

幼女に勃つ奴なんているわけない   作:笹にとろん

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1 不老領主のシュオ(前編)

 書物の積み上がった領主の執務室。豪華な誂えの窓からは夕陽と、広い街並みが見える。

 狭い部屋には二人きりだ。それぞれ向かい合ったソファーに座っているのは、部屋の主人である()()と、つい先日、偉業を成し遂げた青年だ。 

 

「──では改めて、英雄殿。妾からの個人的な呼び出しに応えていただき感謝致す。対龍城街ベルレギオンの領主、シュオから、これまでの行いをお詫びするとともに……邪龍討伐について、感謝を贈りたいのじゃ」

 

 たった()()()()()()()()()()()──シュオが頭を下げ、長い黒髪が肩を滑り落ちていく。

 装いは中華風で、髪と同色の黒々とした生地が、首元から足先までぴったりと肌に張り付くいている。

 布に浮かぶ体の起伏はきわめてなだらかだ。

 

「いえいえ、シュオさん含む皆さんがよそ者を警戒されていたのは当然のことですし。自分がアレを退治したのも、当然のことです」

「ありがたく、寛大なお言葉じゃ。しかし当然の行いであっても、大いなる災いから救われたとあれば、礼を贈らぬというわけにはいかぬのじゃ」

 

 年頃は十ばかりだろう少女に対し、二十歳は過ぎた青年が(本人にとっては)丁寧な対応をとる。

 この街の領主が、一介の流れ者である青年に大げさな感謝を示す。 

 いささか珍妙な光景だが、本人らはまともである。

 

「お主への感謝は、ただこの街を救ってくれた、ということに収まらん」

「はあ、何かしましたっけ」

 

 少女が顔を上げると、切長の瞼に藤紫色の淡い瞳が収まっていた。

 黒き装いも相まって、一つの工芸品のような美しさを醸している。

 

「このシュオ、かの邪龍を滅ぼすため我が身に不老不死の呪いをかけ、人を集め、田を耕し、石を手で積み、防衛線たるこの城街を築き上げて遂に三百年……」

「前に聞いた『不老不死の領主』って話、最初は嘘だと思ってたなあ……」

「おほん。……このような幼子の躰で成長を留めた故、成人になっても嫁の貰い手が付かぬ。さらに信と能に足る後継者も見つからぬ苦悩の日々……!」

 

 シュオの口元にしわが寄る。

 怒っても可愛げのある少女にしか見えないと、青年はのんきに考えている。

 

「それがまさか、このような平和な祝日が、こんな……こんなに、()()()()()

 

 声は徐々に震え。

 つう、と少女のまなじりから、か細く涙が伝う。

 しかし悲壮さはなく、穏やかな幸せで頬が濡れている。

 満面の、まるで幼気な子供のような笑みを浮かべていた。

 

 青年は両手を上げ、あえておどけた口調で言った。

 

「ええっ、もしかして俺余計なことしちゃいました?」

「……くははっ。いや、本当によくやってくれた。改めて、()()()を贈りたい」

「はあ、礼と労い」

 

 声色を戻した少女がハンカチで涙をぬぐう。青年は佇まいを直した。

 

「まず礼を」

 

 少女が黒い袖口に腕を突っ込み、からこれまた黒い袋を取り出す。

 ちょこんと摘ままれた袋は、揺れるとカラカラと音を鳴らしていた。

 

 英雄と呼ばれていた青年はそれを受け取る。ずしり、と重みを感じた。

 

「邪龍を滅ぼすため、妾が三百年の間蓄えていた純粋魔法結晶じゃ。独力で邪竜狩りを成し遂げたお主には無用の長物じゃろうが、主要都市で売り捌けば十分な金子になろう」

「ありがとうございます! でも、独力ってのは言い過ぎですよ」

 

 厚意はありがたく、それが感謝の証なら──青年はありあまる戦闘能力(所謂チート)をそのように施しに替えながら、世界中をブラつく生活を送っていた。

 そんな旅の途中、この街の善からぬ気配を感じ取り、それからしばらくしてかの邪龍と相まみえた。

 

 ところが、想定より邪龍が強かった。

 

「──この街の皆さんが回復する時間を稼いでくれた。礼を言うのはこっちです、ほんとうにありがとう」

「それこそ、わらわたちの元よりの務め。礼を言うことはあれど言われることではあらぬよ」

 

 準備不足で危機に陥りかけたところを、シュオの号令でベルレギオンの民が助けに入ったのだ。

 

 めでたし、力を取り戻した(雑にレベルを上げた)青年が、この街が封じ続けた邪龍を討ちたおしたのだ。

 

 世界すら滅ぼしかねない邪龍の討伐戦は、奇跡ともいうべき被害者ゼロ人で終了した。

 

「あなたたちが、邪竜を押し留めてくれてなきゃ、本当にマズいことが起きてたかも……。それに」

「?」

 

 青年は立ち上がり、窓の外から街を見渡す。

 夕焼けに照らされ、連なる家屋が赤く光り、遠くの城壁は真っ黒に浮かび上がっている。

 厚く塗られた対龍炎塗装が光を吸い込み、まるでこの街が暗闇に浮かんでいるようだ。

 真下の街並みは、邪竜討伐の賑わいを残していた。南北に横断する通りでは、祭りの後片付けをする大人たちの額には汗とともに幸せがみてとれ、子供たちは一層無邪気に走り回っている。

 公園にいる子供たちが、英雄を楽しげに演じていた。

 

「──この街が、あのどでかい壁が後ろにあったから。その中にいる人たちを守るために、頑張らなきゃ、戦わなくちゃって、あの邪竜を前に思えたんだ」

「……なんと、お主は。……我らは邪龍撃滅をのみ掲げていた討伐機構。武器、壁、薬、技術、そして人手。それら何れかの戦力を供与することがこの街に入る条件。だが、戴いた武具を我らは上手く扱えず……」

「あ゛っ忘れてたッ。あの、変なの渡しちゃってすんません……! 手助け以上にコレおもろいかなーって……魔力擬似融合超⭐︎爆裂ロケットランチャー……」

「ろけ……??? まあとにかく、コレも返却させて頂きたい。我らには扱えぬが、お主なら別なのじゃろう」

 

 シュオのほっそりとした袖から無造作に魔力擬似融合超⭐︎爆裂ロケットランチャー(チート装備)が取り出される。容積を無視しながら現れたそれに頬を引き攣らせながら、青年は丁寧に受け取った。

 

(後でバラしとこう)

 

 モノ言わぬ鉄筒に、冷ややかな視線を浴びせた。

 

「すみません責任持って管理させて頂きます」

「? とにかく、お主に対しては疎外的な態度をとっていた我らに対し、そのような慈悲を抱いていたこと、まこと英雄殿は素晴らしいお人じゃ。このシュオ、改めて感服致した」

「へへ、ありがとうございにゃす」

「なんじゃその言葉遣いは」

 

 く、とお互い見合って、朗らかな青年とシュオの鈴の音が鳴るような笑い声が重なる。

 

「おほん。さて、では()()だが……。この町には実に様々な人種、人材がおる。戦士も技師も、老いも若いも、男も……()も」

「パレードのこと思い出すなあ……! 大勢に祝ったりホメられるのなんて初めてで、すっげえ楽しかったです! 角生えてる人とか耳生えてる人とかもいて、なんかやたら綺麗めな人が多かったけど」

「うむ。で、どうじゃった?」

「どう、とは?」

 

 シュオが目を細め、口元に手の甲を立てながら顔を寄せてくる。

 にやにやとこちらを見つめてくるが、青年は不可解気に首をかしげる。

 

「よき女子はおらんかったか?」

「はっ?」

「む? ……事前に街の住人全員には、お主を乗せた車列が通る道と時間帯が通達してあっての。あの時お主に顔を見せた女は全員、()()()()()()()()()()()()()()()()じゃよ」

「へぇっ!?!」

 

 目を見開き、椅子から飛び上がらんばかりの驚愕に固まる青年。

 それをみて、今度はシュオがいぶかし気に首をかしげる。

 

「もしかしておぬしには伝わっておらんかったかの?」

「初耳だ!!」

「おお、なんという……。そのために二日にかけて街を練り回らせたのに」

「そのために!?」

「事前に伝え損ねては、選びようもないか」

「ていうか男少なかったのそのせい!??」

 

 小さくため息一つ。深いスリットにそって組んだ脚が揺れ、透けない生地に包まれた下肢は肌地を露出していない。

 

「先日、お主はもうじき出立すると聞いておったが、すまぬがもうしばし滞在してくれんかの?」

 

 シュオが手を合わせて、眉尻を下げる。

 

「明日にでも懇親会に参加してもらって構わんかの? 町の女子を集めておくのでな」

「しなくていいですって! なんで他人のシモを貢ぐことにノリノリなんですか!」

「え、いや。……そんなに嫌がるものか? この領主館にも結構美人どもがおるじゃろ? 彼女らはどうじゃ?」

「うーん、エイリさんとか美人ですけどもぉ……」

 

 青年の脳裏にエイリという行政官の顔が思い浮かぶ。

 切れ長の瞳に整った輪郭、長い金髪。非常にグラマラスな体型の美人であった。

 

 一歩のたびに爆乳がぶるんと揺れ、怖い意味でスゲえなと思った記憶がある。

 

「ふふふ。あれはあれで仕事が出来過ぎて、男が寄り付かんのじゃ。良ければ貰ってくれんかの」

「……ちょっと急すぎて……。あと、パレードで見かけた人で惹かれる人はいなかったと思います。覚えてないくらいだし」

「むむ」

「お礼はありがたく頂戴するけど、労いはちょっと……飯とかで大丈夫っす!」

「む。むむむ……本当に誰もおらんかったか? なんならパレードにおらん女でもいいぞ? ──いっそ主婦や修道女との禁断の行為でもかまわんぞ? 一晩ならわらわの声掛けでどうにでもなるが……?」

 

 その容貌に使わぬ、あくどい笑みを浮かべたシュオ。

 おどろおどろしい老獪な話題が出始めたところで、ふと青年が顎に手を当てる。

 

「…………あの。なんか俺……にセックスさせる、ことに拘ってます?」

「…………」

 

 シュオの表情が濁る。

 

「俺バカなんですよ。なんで、どうして赤の他人である俺をこーんなに祝ってくれるのかも、まだちょっと納得いってないんですよ」

「じゃから、お主の行いは我らの悲願で……」

「それは領主としての悲願でしょう? 街で情報収集した限り、()()()()()()()()()()()()()()()()らしい。『邪龍と戦うための、武器や兵糧』より、『邪龍の逸話をもてはやす芸能』に関わる人たちの方が印象深かったです」

「む……。既に実体感を持たれていたか」

 

 シュオが儚げに顔を伏せる。

 

「バカな俺でも分かるよう、直接言ってください、シュオさん。あなたたちのことを嫌ったりはしないんで!」

「……邪龍が人を脅かしていたのはまさに三百年も前のことじゃ。そのものの実在はわらわという生き証人のおかげで広く信じられているものの、もはやベルレギオンの民は邪龍討伐のための備えには……飽きていた」

 

 少女の目線が窓枠を越え、どこか遠くを見つめる。

 

「目先の生活と、自分たちの先祖があつらえた城街を保全し、あるいは邪龍伝説をもとに投資を行うもの、『邪龍興し』という娯楽を生み出すものばかり。わらわの街が日に日に力を増しても、豊かな生活を送ることだけに経済を回し……わらわの悲願は、むしろ遠のくばかり」

「……やっぱり、俺邪龍を倒せてよかったです。こんなちっちゃい子に、こんな顔ばっかさせるドラゴンなんて退治するに限る」

「なにをっ。わらわはお主の十倍も長生きじゃぞ」

 

 シュオがむくれた顔でこちらを睨むが、青年の目線では小柄な子供が癇癪を起しているようにしかみえなかった。

 なんだか微笑ましくなって、頭を軽く撫でてみる。

 

「よしよし」

「む、むぅ……。なぜわらわが労われておるのじゃ。……話を戻すぞ。もう頭を撫でるのはやめい」

「はい」

「おほん。ともかくそのような鬱屈とした時代はお主が吹き飛ばしてくれたが、今度は『邪龍興し』で生活していた街の一部に影響が出てしまう恐れがあるのじゃ。しばらくは大丈夫じゃが……おそらく、あと一年せずにの」

「あ! もう伝説の邪龍は倒せない、()()()()()()()()から!」

「うむ。それ自体はまこと有難きことだが……その『伝説』で生活していた民のために、わらわは()を与えねばならぬ。わらわが邪龍を滅するために呼び寄せた人々、その役目を継いだ子孫のために」

 

 いたいけな少女の風貌である。

 同時に、歴戦の場数を踏んできた、一人の不老不死の影が垣間見える。

 真剣なまなざしのシュオには一つの街を造りあげ、伝説に立ち向かおうとした豪傑らしさがある。

 

「彼ら自身の都合で選んだ人生でもあろうが、わらわには領主として、龍を打ち滅ぼすために万事を投じさせた者として、領民の生活を守る義務と責任がある」

「お、おお。なんかすげえ……全然子供っぽくない」

「のう、わらわが三百年生きとる話したであろう?」

「あっはい。シュオさ……シュオ様?」

「……ぷっ。よいよい、シュオさんでも様、呼び捨てでもな。恩人にどう見られようが気にせぬわ」

「ほっ」

 

 からかっただけじゃよ、と手を振りながら、シュオが浮かべる笑みは、やはり老成した雰囲気を備えている。

 

「で、お主には英雄の子孫を作って欲しいんじゃな」

「うああ話がグロい方に戻ってきた」

「お主が作る英雄像は既に街の多くの劇や歌に引用されており、いずれこの城壁の外へと拡がっていく。その時、『確かに英雄がこの街で過ごし、歓待を受けた』事実が欲しいのじゃ」

「なんかその、それで望まぬ人や子供が……大丈夫なの? イロイロ」

「なあに気にすることはあるまい。もとより幼女一人と数多の人材を礎とした都市じゃ、多少の悪事はどうとでもなるのじゃよ」

「こっわ」

 

 少女(老婆)の目が悪しく光る。

 青年は突然目の前の幼子が底知れぬ老人のように思えて、背筋が凍った。

 

「しかし参ったの。お主の方から街の女たちを求めてくれた方がカバーストーリーが作りやすかったんじゃが……そういうことにしてくれんかのお?」

 

 シュオが、悩まし気に流し目でこちらを見つめてくる。

 青年は、一度深く椅子に座り直し、少女の顔を正面から見つめ直した。

 

 しばし、沈黙。

 青年が、覚悟を決める。

 

「……ええまあ、そういうことですか。なら構わないですよ、シュオさん」

「まことか!」

 

 シュオが気色を蓄えながら立ち上がる。

 遅れて青年も立ち上がり、指を一本立てた。

 

「でも条件が一つ、相手は全部自分で選ばせてください。その人とは絶対性交しますんで」

「かまわぬ。いかなる事情が立ちふさがろうと、わらわが上手く話を落として見せよう」

 

 青年が頷くと、手のひらを広げて差し出す。

 シュオも応えて手を差し出し、互いに歩み寄り、硬く握手した。

 

「ではまず、どの女子にするかの? それとももう決まっておるのか?」

「おまえ」

「は?」

 

 シュオの口から不可解が漏れ出る。

 間髪、青年はぽっかりと開いたシュオの口に自らの唇をねじ込んだ。

 

「!?!? むちゅっ、ふぐぎゅ、んぎゅんぐじゅちゅぢゅ、ぱっッ……はっ、んむぅ~~~~!!!????」

「んん、ちゅうーっ」

「ふぎゅっふんぐっ!?!?!?」

 

 シュオは実に小柄だ。

 身長差があるために、顔面を押さえつけられると喉元が上に向けて曲がり、呼吸がままならなくなる。

 

「んんん~~~ッッ!!!??? む、んむ、ぷはっ! な、にをっ」

「いや~自分()()()()なんすよ。あんまり聴き馴染みのない言葉かもしれないですけど、こっちだと。──つまり俺はシュオさんが好きっす」

「はっ、へっ? ♡」

 

 真っ白な肌の顔を真っ赤に染め、少女の肉体で過ごし続けた女性の心が開きはじめる。

 顎は震え、指先は緊張でこわばる。

 ……そして、瞳には困惑と()()への恐怖が浮かびあがる。

 

 シュオの数世紀ぶんの生涯にて、自分が男性に求められたことは──。

 いや、それどころか()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ……? どう、いうこと、なんじゃ」

 

 シュオが混乱のるつぼに陥っていることを確かめ、青年は白く血色の失せた手を手繰り寄せ、その小柄な体を胸のうちに抱いた。

 

「簡単に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。まあ正確にはそういう外観というか……」

「!?」

 

 シュオの眼に、明確な恐怖が籠る。

 この青年から飛びのこうにも、体が思うように動かない。恐れに縛られることも、シュオにとっては久しぶりの感覚だった。

 青年の腕がシュオの体に回される。もう逃れることはできない。

 

「お、おぬしっ、はなれっ」

「シュオさん、大丈夫ですかー?」

「頭おかし、()()()()()()じゃっ??」

「……毎回カミングアウトするとこうなんだよなあ。別に子どもが好きなだけだし、()()()()()()()()()なんですけど」

「それがっ、それあたまおかしっ」

 

 齢三百の不老不死が、ある種の狂人の胸にの内では動けなくなる。

 じわりと涙を浮かべ、理解不能の恐怖に怯えている。

 

 この世界の人類において、社会的に認められない()()()に欲情することは()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 ──()()()()()()

 

「ん──。まあでもシュオさんは怯えててもかわいいな。もっかいちゅーしよ?」

「ひ、い、いやじゃっ! こわいっ」

「ひでえ! 禁断の行為でもいいって言ってたのに」

「お主のそれは、それはっ……()()じゃっ! ()()じゃっ!」

 

 シュオが必死にもがこうとして、青年に抑え込まれる。

 二人には、身長・体格差だけによらない、絶対的な身体能力の差があった。

 

 青年が、そっとシュオにささやく。

 

「じゃあそれに溺れてみましょう」

「はぁ……ッ?」

 

「俺なら抱けますよ、シュオさんのこと」

「な……」

 

 邪龍を打ち滅ぼせる男が、一心に幼女の──自分の体を求めてくる。

 共感を拒絶する恐怖を、青年の言葉が、体温が毒のようにじわじわと溶かしていく。

 

「俺としてもずっと苦悩してたんですよ? 子供との性行為は、性欲を目的とした行いをすることは──どうあれ、良いことじゃない。それは俺も分かってます」

「お主は……」

「本当に好きな子供と付き合えないなら、生涯独身でいようと思ってたぐらいなんですよ? この世界が滅びでもしない限り。でも……」

「ひっ」

「一応、()()ですよね。俺が愛しても、問題はない──」

 

 青年は、なるべく柔らかく微笑んだ。

 胸の内で青年(怪物)に見下ろされたシュオは、身を縮こまらせる。

 

「シュオさんは」

「な、んじゃ」

「『嫁の貰い手が付かないこと』、当時どう感じていたんです? それで当然? ……いや。()()()()()を感じたと思います」

「な、にを」

()()()()()()()()()()()()()()

「な、にを。バカな……」

「シュオさんがまだ成長しきる前、不老になったばかり、きっとまだ()()があったと思うんです」

「わらわは……」

「三百年前の偉人の考えを推測するなんて、おこがましいことですけど」

 

 シュオの顔に、わずかな戸惑いが産まれる。恐怖は薄れていた。

 自らの心中に向き合い、闇の中に沈むシュオを、青年の柔らかい手つきが引き留める。

 

 その恐ろしい男の誘いが、なぜか光のようで。

 

「俺たち、運命ですよ。この世界じゃ、もう俺たちはお互いを向き合うしかないんです」

「……」

「シュオさん、もう俺は貴女を求めました。今度は、俺を求めてください」

 

 青年はシュオを優しく押さえつけていた手を放し、少女の体が解き放たれる。

 よろよろと、シュオは後ろのソファに倒れこんだ。

 

「わ、わらわは……、ッ」

「俺は、この世でただ一人の貴女が求めても諦める必要のない男ですよ?」

「あ……──」

「三百年を耐えたひとが、()()()()異常や理外を理由に、運命を手放すんですか?」

「──………………────」

「シュオさん。好きです」

 

 シュオの髪が揺れる。

 視点は真下に固定され、力の宿らぬ手足は動かず、何か返事をすることもなく、ひたすら思案する。

 

「……」

「……」

 

 沈黙。

 徐々に日の傾く速さが増し、間もなく街には夜のとばりが下りる。

 

 やがて。

 

「……」

「……!」

 

 肘掛の細い腕が、しずしずと持ち上がる。

 青年は、歩み寄ってその手を取る。

 うつむいたままのシュオを、上から眺める。

 

「お主は、普通の年頃の女にも情欲を抱けるのか?」

「……まあ一応。シコれはするけどなんかこう、コメ食ってきたのにパンで過ごすみたいな?」

「その例えはよう、わからん。が……」

「──」

 

 シュオが決断したように青年を見つめ返す。

 

「お、おぬしの事情にとっては……()()()()()()()()()()()()()……ほうが、都合は、よいからの?」

「……マジ、か。嬉しい……!」

「わ、わらわの元に来てくだされ、英雄殿」

「じゃあ、改めて」

 

 青年が少女に手を引かれるまま、隣に腰掛けた。

 そのまま身をかがめ、今度は優しく口づける。

 

「シュオさん。──」

「ふ……んちゅっ……。……♡」

「あっま……」

「んむっ……ん………………」

 


 

 がちゃり、と窓が締め切られる。

 執務室の扉には「立ち入り禁止」の看板。

 部屋中を閉め切る鍵は堅く、シュオ自身の手によって施された──。

 

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