図書館で出会った浮世離れした銀髪の先輩が元肉便器だった話 作:黒糖バス
翌日、出席予定だった授業をサボって図書館を訪れる。ティーネ先輩に会いに行くのに足取りが重くなるのは初めてだった。
受付以外に誰もいない図書館の中を奥へと進む。
彼女はいつもと変わらず本棚に隠れた小さな聖域で本を読んでいた。俺にとってもお気に入りとなっていたその空間だが、先輩が男達に犯された場所だと知った今ではあまり良いイメージは湧かなかった。
「──あら。久しぶりね、秋介。元気にしていたかしら」
俺に気付いた先輩が声を掛けてくる。まるでしばらく会っていなかったみたいな挨拶だが、おととい勉強を見てもらったばかりである。
彼女と三ヶ月も付き合っている俺はそれが「何故昨日は来なかったのか」という遠回しな質問だと理解出来た。別に毎日会う約束をしているわけではないのだが、彼女が一日会わなかった事を気にしてくれているのが嬉しかった。
「二日ぶりですね、先輩。何の本を読んでるんですか?」
俺は先輩の疑問に気付かないふりをして話題を変える。彼女はそれに少し違和感を抱いたようだったが、何かを言う事はなく、読んでいた難しそうな専門書の説明をしてくれた。だが、その内容が俺の頭の中に入ってくる事はない。
俺は心なしか楽しそうに話す彼女の姿を複雑な思いで見つめていた。
先輩の自慢の銀髪。それが男達の白い液体で汚されたのを知っている。美しい声を出す小さな口は男性器を咥えさせられて道具のように使われた。俺が何度も妄想したブレザーの下の肌も余すとこなくネットに晒されていたし、そこに男達の手が触れる様子だって目に焼き付いている。豊かな胸は握り潰され、中心の突起も弄ばれ、そしてスカートの奥の最も大切な場所を犯された。
──その光景がどうしても思い出されてしまう。
「…………ッ」
前回会った時と何も変わっていない先輩を見て"穢れた"と少しでも思いそうになる自分が許せなかった。後ろめたさから先輩の顔を見る事が出来なくなる。いつも通り振る舞おうという気持ちはあるのに、どうしても上手くいかなかった。
「──秋介。体調でも悪いの? 酷い顔をしているわ」
先輩も俺の異変に気付き、心配そうな目を向けてくる。初めて会った時と比べると随分と柔らかくなった。それだけ俺の事を受け入れてくれたのだと思う。そんな彼女を傷付けたくはなかったが、黙ったままでいる罪悪感に耐えられなくなった俺は、重い口を開いた。
「……先輩。俺、先輩の過去の話を聞いたんです。それからネットにある動画も、悪いとは思いましたが見てしまいました……」
すみません、と頭を下げる。………しばらく待っても先輩からの返答はなかった。
恐る恐る顔を上げて彼女の表情を伺う。俺の予想とは違い、先輩は傷付いた様子は見せておらず、少しだけ寂しそうな顔をしているだけだった。
「──そう。とうとう知ってしまったのね。もしかしたら卒業まで隠し通せるかと期待したのだけれど、そんなわけがなかったわね」
「……思ったより、冷静ですね」
「そのうち誰かから聞くだろうとは思っていたわ。有名な話だもの。三ヶ月は予想より随分と遅かったわね────貴方、もしかして友達いないの?」
なぜか俺の方が心配される。揶揄うように言う彼女に「先輩と違ってちゃんと居ますから」と返す。その境遇を考えれば割と最悪な返答だったと、言ってから後悔した。
先輩は自然体を装っていたがやはり動揺があるようで、俺から目を逸らし手元の本に視線を落とした。
「動画も見たと言ったわね。それを本人に伝えてどうしたいのかしら。完全にセクハラよ?」
「それは、すいません。 俺なりに誠意を示すつもりだったんですが……」
顔を上げずに注意してくる先輩に、俺は自己嫌悪しながらそう答える。自分の心のモヤモヤを解消する為に動画を見ておいて誠意なんて言葉よく使えた物である。俺は今更ながら自分と先輩、どちらの為にカミングアウトしたのかが分からなくなった。
「ふうん。てっきり、デジタルタトゥーの残った女とはもう会いたくないから、お別れでも言いに来たのかと思ったわ」
「そんなわけないって分かってるでしょう。意地悪言わないで下さいよ」
先輩は自らを蔑めるような発言をする。まるで俺の口からネガティブな言葉を聞きたくないから先んじて自分で言ってしまっているような、そんな印象を受けた。
彼女は「それはごめんなさいね」と軽く謝ると、微笑みながら俺を見上げてくる。
「それで、どうだった? 私の動画は。楽しめたかしら」
「胸糞悪くなりましたよ。正直、見なければ良かったと後悔してます」
「そう。貴方は私に随分と幻想を抱いてそうだから、失望したでしょうね」
「ッ……、まさか、失望なんてしてないですよ。だって先輩は完全に被害者じゃないですか。あんな酷いことされて、まともに授業も受けられなくなって……っ」
「あら、同情なら不要よ? 強がりに聞こえるでしょうけど、私は彼らにされた事を全く気にしていないもの。犬に噛まれた程度の認識ね。教室に行かないのは下卑た目で見てくる人達の中に居たくないから。もし、私が心に傷を負っている、なんて勝手に決めつけて同情しているのならやめて頂戴」
先輩は強い口調でそう言った。彼女が指摘した通り、俺は同情に違い感情を抱いていた。彼女がそういったものを嫌う事は分かっていたのだが、表に出してしまっていたようだ。
先輩はひとつ溜息を吐いて言う。
「まあ、でも。もう会う事はないかもしれないし、関係ないかしらね」
「……俺は今まで通り先輩に会いにくるつもりですよ」
「そう。でも私の方がお断りだわ。あの動画を見た人とはあまり関わりたくないの。どんな顔をしたらいいのか分からないもの」
それは今日話した中でもっとも実感のこもった言葉な気がした。大山崎達からの仕打ちを何とも思っていないという言葉が本当だとしても、今もなおネット上に公開されている動画は彼女を苦しめているに違いない。
「同情するなと言うならもうしませんよ。俺はこれまでと何も変わらないと約束します。だから、先輩も今まで通り俺と会ってくれませんか?」
「……嫌よ。貴方が私に好意を持ってくれている事には気付いているわ、秋介。正直に言うと悪くない気分よ。私の過去を知らない人から下心なく接してもらえるなんてあまりないもの。────だから簡単な要求なら一つだけ聞いてあげる。楽しい時間をくれたお礼よ。それで納得しなさい」
「要求っすか…?」
「ええ。キスくらいで良ければしてあげるわ。もし、穢れた女の唇なんて興味ないと言うのなら、手や口を使って抜いてあげてもいいわよ。──その代わり、二度と私の前に姿を見せないで」
言われた内容がすぐには理解出来なかった。それだけ突拍子のない言葉だったのだ。彼女の口から、自分の女を売るような発言がされるなんて信じたくなかった。彼女はもっと気高い人だった筈だ。
俺は少し怒りさえ感じながら先輩に迫った。
「なに、言ってんですか、先輩。貴方らしくないですよ! もっと自分を大切にして下さい……!」
「それだけ貴方を気に入っていたという事よ。それにこんな身体を今更大切にしたところで遅いでしょ。きっと、貴方が思う何倍も穢れているもの」
「そんな事……っ」
「そんな事あるの。……そうだ、貴方を失望させる良い方法を思いついたわ」
そう言うと先輩はスマホを取り出して操作する。そして「見なさい」と言ってスマホの画面を向けてきた。そこには幾つもの動画が並んでおり、タッチするだけで再生出来る状態になっている。
「……なんですか、これ」
俺は嫌悪感を抱きながら訊ねる。その動画のサムネに裸の女性が写っているのが分かったからだ。
「分かっているでしょ? 私が味わった屈辱の記録よ。ネットに残っている物以外にも沢山撮られているの。アレよりももっと無様で人に見せられない姿をね」
「何でそんな物保存してるんですか……」
「さあ、何でかしらね。……自分でもよく分からないわ」
先輩は自嘲するような薄笑いを浮かべる。
「これを見れば私がどれだけ卑しい人間か理解する筈よ。少なくとも貴方の中のクリスティーネ・ラーネリードのイメージは完全に崩れるでしょうね」
俺は先輩の考えている事が理解出来なかった。彼女の過去を知った俺を遠ざけようとするのは分かる。だが、その為に自分を安売りし、敢えて失望させる為に別の動画を見せる理由が分からなかった。
先輩は俺に座るよう促すと、動画を再生させる。
──写ったのは全裸で土下座のような格好をするティーネ先輩の姿だった。涙を流し『ゆるしてください……っ』と懇願する彼女。男達はそんな彼女の剥き出しのお尻の穴に、男性器を模した性玩具を挿入し、笑いながら犯していた。ズボズボと肛門が押し広げられる音と、プチュプチュッという腸液が鳴る音がしている。
「お尻を犯されるとね、痛さよりもその屈辱に耐えられなくなるのよ。女として劣情をぶつけられてるんじゃなくて、玩具として弄ばれてるのが分かるの。それが情けなくて、悔しくて。もうやめて下さいって泣いてお願いするのだけれど、逆に面白がって延々と続けようとするのよ、あの人達」
先輩がその時のことを抑揚のない声で淡々と語る。俺には言葉を発するたびに彼女が心をすり減らしていっているように見えた。
先輩が画面をスワイプし、別の動画に切り替える。
──そこには壁に片手を着いてカメラの方に臀部を突き出す先輩が写っていた。スカートは完全に捲れ上がり、ショーツとストッキングは太ももの位置まで下ろしてある。白いお尻と女性器が丸出しになっている状態だ。先輩はその体勢のまま自慰をしていた。女性器の中に二本の指を突っ込み、激しく出し入れしている。ぬちゃ♡ぬちゃっ♡と卑猥な音を響かせ、マン汁を床にばら撒きながら快感を貪るその姿は、幻想的な先輩の雰囲気とは掛け離れていた。
「どう? 興奮するかしら。私、自慰の仕方まで彼等に教え込まれたのよ。あの男達は色んな場所で私にこれをさせて見世物にしていたわ。最初は死にたくなるくらい恥ずかしかったのだけど、何度もしていると慣れるものでね。ひと月もすれば、見ての通りプライドも何もかも捨てた卑しい雌豚の出来上がりよ」
「貴方が見たいと言うのなら、この場で披露してあげてもいいわよ」と先輩は微笑む。俺が苛立ちながら断れば「冗談よ。そんなに怒らないで」と言ってまた画面をスワイプした。
──『お"お"おぉぉ……♡お"ほおおっっ……♡イグっ……♡イグゥぅ……♡♡』と、先輩の情けない声がスマホから流れる。動画の中の先輩は正常位で犯され、顔を仰け反らせて喘いでいた。大きな乳房をぶるんぶるん♡と跳ねさせる彼女は、必死にシーツを掴み、快感を耐えようとしているようだったが、時折見える顔は完全に蕩けており、目は半分イってしまっている。どう見ても快楽に屈した彼女の姿がそこにはあった。
「笑っちゃうでしょ? 本当に気持ちいいと女は"オホォ"って言っちゃうの。憎い男達に無理やり犯されて、大喜びで喘ぐような女なのよ、私。ネットにある動画だけだと可哀想な性被害者に見えたでしょうけど、本当は簡単にハメ堕とされてしまった無様な雑魚マンコなの」
この動画を見て、何故先輩がこれほど自分を卑下していたのかが理解出来た。快楽に呑まれた自分が許せないのだろう。身体だけでなく心まで屈した自分を、彼女は責めているのだ。
彼女が言う通り、動画の中の先輩はレイプの被害者には見えず、これだけ見ると同意の下での性行為だと思うかもしれない。その自覚があるのだろう。
──先輩が次に再生させた動画には、舌を出して涎を垂らし、白目を剥いてピースをする彼女の姿があった。仰向けになった彼女は、意識が朦朧としているようで、言われるままに屈辱的なポーズを取っている。大胆に広げられた脚の間には白濁液を溢れさせるヴァギナが。胸の先には乳輪ごと膨らんだ乳首が見えている。撮影者が剥き出しの陰核を弄ると、彼女は口元を緩め気持ち良さそうに鳴き始めた。
「アヘ顔ダブルピースと呼ぶそうね。秋介は知ってるかしら。これをすると彼等が喜ぶからよく分からずにしていたのだけど、後で調べて凄く情けないポーズだと知ったわ。二年前はこの画像もネット上に流出したのよ。これを見て泣く母の姿は目に焼き付いているわ……。一番死にたいと思ったのはあの瞬間でしょうね」
先輩が弱々しい声でそう話す。
娘が犯罪に巻き込まれたのだから、当然保護者にも連絡はいく。そして、詳しい説明の為に動画を確認する事もあっただろう。これを見た先輩の親はどれだけ辛い思いをし、先輩自身もどれだけ傷付いたのだろうか。先輩は学校生活だけではなく家族との関係まで滅茶苦茶にされたのだ。
その後も先輩は幾つもの動画を再生させ、聞きたくもない解説を続けた。如何に自分が卑しい存在かを必死にプレゼンするその姿は正直見ていられなかったが、俺は何も声をかける事が出来なかった。野外で全裸にされて放尿させられる姿や、ハメ倒されベッドの上で大の字になりピクピクと痙攣する姿、胸で男の肉棒を挟み必死に奉仕する姿なんかが流れていく。
俺が彼女の立場ならおそらく立ち直れない。そんなレベルの屈辱的な動画が数え切れないほどあった。いくら先輩と言えども、これらの動画を見た俺と今後も顔を合わせられるほどメンタルは強くはないだろう。彼女は完全に俺との関係を終わらせるつもりのようだった。
何故そこまでするのか理解は出来ないが、先輩にとっては「屈辱的な動画を見られる事」よりも「動画を見た人と会う事」の方が辛いのだろう。自尊心の強い人だから、誰かに同情され、見下され、蔑まれる事に耐えられないのかもしれない。この二年の間にそういう経験を何度もしたに違いない。
先輩の限界が近いのを察した俺は「もういいです」と言って彼女のスマホの電源を切る。
話をやめて此方を向いた先輩は感情を隠していたが、俺には泣く寸前のように見えた。
「分かったでしょう。私は貴方が期待するような人間ではないわ。何人もの男の棒を舐めたし、精液だって飲まされた。前も後ろも数え切れないくらい犯されたし、時には自分から腰を振ったわ。膣の中に射精された事も一度や二度ではないわ。そんな穢れた女と知って、今まで通り接する自信があるかしら?」
「……無理でしょうね。俺は先輩の事が変わらず好きだし、過去の事だって別に気にはしませんけど、これまでと同じようにとはいかないと思います」
「フフッ。正直ね。そういうところ結構好きよ。最後に口先だけの綺麗事を言われなくて安心したわ」
優しく微笑む先輩はやはり綺麗で魅力的だった。あれだけの動画を見せられても俺の気持ちに変化はない。変わらず先輩が誰よりも美しいと思うし、叶うことなら卒業まで一緒に居たいとも思う。だが、先輩の強い拒絶を受けてまで俺の希望を通そうとはしたくなかった。
彼女がこれだけ苦しみながら"会いたくない"と訴えるのだから、俺に出来ることは何もないのだろう。あの動画を見た瞬間から、俺は先輩を救うヒーローではなく、彼女を苦しめる敵になったのだとようやく理解した。
「──ティーネ先輩。一つ希望を聞いてくれるって話、まだ有効ですか?」
先輩の目を見て訊ねる。彼女は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに頷いた。
「ええ、有効よ。して欲しいことでもできたのかしら?」
「少し違いますね。俺が先輩にしてあげたい事が出来たんです」
俺はそう言って立ち上がると、先輩に希望を伝えた。