※この作品はR-18です。

彼女には秘密の彼女たちとのイケナイ関係   作:柊咲

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第23話 この感じが好き

 

 ここはキャバクラでもガールズバーでもなく、スナックだ。

 そもそもキャバクラにカウンター席はなく、ガールズバーにはテーブル席がない。

 年齢は20代前半といった感じの色気ある服装のキャストが3名。

 そんな彼女たちとは異なったオーラのあるのが、サヤがオネエと呼んだ人物だった。

 ドレスでも肌を露出した服でもなく、高身長の者しか着れないレザージャケットにジーンズ。

 

 一目で男性だとわかったが、男性にしては綺麗すぎた。

 

 その人物は丸イスから立ちあがると、ゆっくりと夜斗へと近付き、足の先から頭の天辺までを吟味するようにじっくり観察する。

 

 

「いくつ?」

「え……」

「君、いくつなの?」

「……15、ですけど」

 

 

 客引きやホストにはタメ口を使ったが、目の前の男性には敬語になった。

 

 

「へえ、その年でもう完成されてるのね」

 

 

 真剣な表情のまま夜斗の腰や腕を触る男性。

 身長は夜斗も大きい方だが、目の前の男性は同じくらい大きい。

 鍛えた感じのがちムチ系ではなく細身で、顔は薄く化粧をしているものの男でも羨むほどのイケメンだ。

 想像しやすいオネエ像というよりは、ファッション的なオネエに見える。

 

 

「うん、いいわね。合格よ」

「は、合格?」

「そっ、合格。サヤ、いい男見つけてきたじゃない」

 

 

 男性はサヤに向かって軽くウインクする。

 

 

「でしょー。って、そういう意味の紹介じゃないから」

「あらそうなの? 今まで一度も男を連れて来ないあんたがお店に来て『紹介したい人がいる』なんて言うから、てっきりあんたの男だと思ったんだけど」

「残念でした。ヨルっちはお友達ですー。いこっ、ヨルっち」

 

 

 サヤに空いたテーブル席へと引っ張って連れて行かれる。

 

 

「あれれ、サヤちゃんがお店に男を連れ込むなんて珍しいね!」

「違いますー」

 

 

 他のキャストの女性が、サヤと夜斗を見てニヤニヤする。

 

 

「え、サヤちゃんが、おじさんのサヤちゃんが男を!? 彼氏、ってコト……ッ!」

「お客さんのサヤじゃないです!」

「わあ、サヤちゃんいい男見つけたね!」

「だから違うってばあ!」

 

 

 既に飲んでいた客のサラリーマンらしき中年男性と若い女性たちが謎の盛り上がりをみせる。

 そして店中の注目を集めながら、テーブル席のソファーに腰掛ける。

 サヤから「はい」とおしぼりを渡され、置いてあったコップにトングで氷を突っ込む。

 

 

「なに飲む?」

「え、ああ、水で」

「お冷? こういうお店でお冷だけ注文すんの?」

「じゃあ、コーラで」

「はーい」

 

 

 状況が掴めなくて困惑している夜斗を置いて、サヤはコップにコーラを注いでいく。

 

 

「じゃあ、乾杯しよっか」

「あ、ああ」

「かんぱーい!」

 

 

 コーラを飲んで一息つく。

 キャストは女性で、どこにでもあるスナックだ。

 ただ客層は男性だけというよりは女性もいる。むしろ今の比率だけ見れば女性の方が多い。

 そして、スナック菓子を持ってきてくれた男性はサヤの隣に座る。

 

 

「サヤ、はいお菓子」

「ありがと」

「今はいいけど、団体のお客さんが来たら奥の休憩室に移動しなさいよ?」

「えー、あたしもお客さんだよ?」

「お金を落とさないがきんちょはお客さんって言わないのよ。それより」

 

 

 サヤの隣に座った男性はお酒の注がれたグラスを前に出す。

 乾杯の合図だと思い、夜斗も手に持っていたグラスを前に出し突き合わせる。

 

 

「はじめまして、わたしはこの子の兄のシュウよ。よろしくね」

「兄?」

「そう、兄。一応言っておくけど、姉じゃないわよ?」

「そうなんですね。サヤがお姉って呼んでいたので」

「この子が勝手に言っているだけで、別にそっちの人間ってわけでもないのよ」

「だってその喋り方でお兄って呼ぶのも変じゃん。だったらお姉でいいかなって」

「まったく。夜斗くん、この恰好と喋り方は職業病みたいなものだから気にしないで」

 

 

 ウインクされ、苦笑いを浮かべる夜斗。

 

 

「お姉、彼はクラスメイトのヨルっち!」

「紹介するならちゃんとフルネームでしなさい」

「え、あー、あれ。フルネームなんだっけ?」

「この子は……」

「来栖夜斗です」

「ふふ、妹が迷惑かけてごめんね。よろしく、夜斗くん」

「迷惑って失礼な。別に迷惑なんてかけてないよ。ねえ、ヨルっち」

「そうやって圧力をかけて聞く時点で迷惑かけてるのよ。まったく」

 

 

 姉妹? 兄妹?

 兄妹で合っているのだろうが、本当に仲良しなのが見て伝わる。

 それにシュウといるサヤは、学校や夜斗に見せる彼女とは少し違った、どこか幼い妹の印象を受ける。

 

 

「ここはわたしのお店だからくつろいでちょうだい。なんならカラオケ使ってもいいわよ?」

「いや、俺は」

「えー、いいじゃん歌ってよ! あっ、もし一人で歌うのが恥ずかしいとかなら一緒に歌う?」

「それは遠慮しておく。どうせ俺が知ってる曲とか歌わないだろ」

「わかんないよ? ねえねえ、いっつもどんなの歌うの?」

 

 

 デンモクを持ち隣に座るサヤ。

 歌う気はないが「ねえねえ」としつこいので、こういう曲を歌うと教えると。

 

 

「うわ、古いなー! さすがおじいちゃん」

「うるせえ、最近のは知らないんだよ」

「だからってこれ、あたしのお父さんお母さん世代のじゃん。お姉、知ってる?」

「どれどれ。あらこれ、いい曲よね。お客さんとよく一緒に歌うわよ?」

「え、そうなの?」

「でもこれ、わたしの少し上の世代の曲よね。よく知ってるわね?」

「親父によくこういうお店に連れて来られて、常連のおっさんが歌っているのを聞いていたら覚えたんです」

 

 

 田舎にも夜遅くまで開いているお店はある、それがスナックだ。

 とはいえ都会のスナックと違い、言い方は悪いがキャストの質はそこまで良くはない。

 なにせ自分に自信のある女性は客があまり来ない田舎ではなく、より稼げる都会へさっさと出て行ってしまうのだから。

 

 そんな田舎のスナックに、夜斗は毎晩のように父親に連れて行かれていた。

 

 

「へえ、ヨルっち子供の時からスナック通いしてたんだ。不良じゃん」

「不良って。ただ飯食いに行っていただけだ」

「ご飯?」

「母親がいなかったから、親父が飯作る代わりに連れて行かれてたんだよ。ガキに飯食わせつつ、自分は酒呑んでカラオケで歌える。一石二鳥だろ?」

 

 

 夜斗の父親はよく『今日もスナックに連れて行ってやる! 毎日、外食できていいだろ!』と恩着せがましく言うが、今思うと自分がただスナックに行きたかっただけなのだろう。

 

 

「なるほど、ヨルっちのお父さん頭いいね」

「どこがだよ。給料のほとんどをスナック代に溶かしていたんだぞ」

「それは、うん……」

「でもまあ、楽しかったな。仕事とかでこっちに来た知らない人と話したりすんの」

「いいよね、知らない人と喋るの。どうせ今後は関わらないから気兼ねなく話せる」

「ああ。だが常連はうっせえけどな」

「そうそう。常連はすぐデカい顔する」

「こら、サヤ。その常連さんがちらちらこっち見てるから止めなさい!」

 

 

 さっきの中年男性がチワワのように潤んだ瞳でサヤの方を見る。

 

 

「サヤちゃん、それおじさんのコト……?」

「ふふん。どうかな?」

「愛想笑い!? サヤちゃん……」

 

 

 狭い部屋。酔っぱらいの客。

 誰も気を使わず、さっきまで他人だった人と笑いながら会話する。

 この適当な感じを、夜斗は懐かしいと思った。

 

 

「もう、ヨルっちが変なこと言うから、あのちいかわおじさん泣いちゃったじゃん!」

「俺はなんも言ってねえよ。ってか、指差すなって」

「わァ……ァ……」

「もう社長! ちいかわ系おじさんは需要ないから止めましょう? ねっ?」

 

 

 連れの女性たちが笑いながら慰める。

 その様子を見ていたサヤはクスクスと笑いながら、夜斗の肩を何度も叩く。

 釣られて笑っていると、シュウと目が合った。

 彼はサヤの楽し気な表情を見て、兄とも姉とも言える優しい表情で微笑んでいた。

 

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