「生はしねえって」
「きょ、今日はね、安全日だから……。夜斗くんが、その……もし生でしたいなら」
「だから、別にしたくねえって」
はっきりと拒絶すると、雨奈は悲しそうな表情を浮かべて「ごめんね」と謝った。
別に雨奈だから生でしたくないというわけじゃない。
優枝にだって今まで一度も生でしたことはない。
これは単純に、夜斗が避妊具無しでセックスしたくないだけだ。
ただこうもはっきり否定されると、雨奈からしたら夜斗が『お前がもし妊娠しても責任持ちたくねえから』と思っているんじゃないかと勘繰ってしまったのかもしれない。
別にそういうわけではないのだが。
「怒ってないからな」
しょんぼりする雨奈の頭を撫でながら伝える。
「うん。わたしも、変なこと言ってごめんね」
「別に気にすんな」
「一応、その……わたし、今まで生でしたこと一度もないからね」
「ん? ああ、そうか」
「本当に。夜斗くんだから、わたし……う、ううん、なんでもない」
どうせ信じてもらえないだろうと思ったからか、雨奈は言いかけた言葉を途中で飲み込んだ。
「別に疑ってねえよ。お前は意外とそういうとこしっかりしているのわかってっから」
「……もー、意外とって?」
「ふっ」
「じゃあ、その……キスは? キスは、いい?」
聞かなくても何度もしているのだから自分からすればいいと思ったが、一度なにかを拒絶されたから気持ちが臆病になっているのかもしれない。
二人は唇を重ねる。
「はあむっ、ちゅ……れろっ、ちゅ、ちゅ……ぱあ♡」
キスしたら安心したのか、雨奈は微笑む。
「夜斗くんって、見た目によらず意外と真面目だよね」
「意外とは余計だ」
「えへへ、お返し♡」
「はっ、なんだそれ。まあ、真面目な奴はセックスばっかしてねえって」
「言われてみたらそうかも。そういえば前に言ってたけど、やりたいこと何か見つかった?」
以前、雨奈に都会へ引っ越した目的を話した。
田舎でできないこと、自分のやりたいことを見つける為に都会へ来たと。
きっとそのことを聞いているのだろう。
「残念ながら、何もねえな」
高校生になってからセックスしかしていない。
それは雨奈相手だけでなく、優枝相手でもそうだ。
他にすることがないから、時間の使い方が自然と”何も考えないで気持ちよくなれる方”になってしまう。
「毎日毎日、意味があるのかわからん学校の行き来だけだな」
優枝のように将来の夢がある者が羨ましいと思う。
とはいえ、何も行動を起こさないくせにやりたいことが見つかるほど人生甘くない。
今はただ怠惰な人生を送っている。
変わるきっかけがどこかから降ってこないかと、他人任せの我が儘なガキだと自分でも思う。
それはわかっているのだが、今までやりたいことが一度もできたことがないから、どう探せばいいのかすらわからないでいる。
結果、毎日毎日、ただ時間だけを浪費して生きてしまっていた。
「じゃあ、その。夏休み、一緒にどこか行かない……?」
「夏休み?」
そういえば、来月の7月末から夏休みだった。
学校が休めるとはいえやりたいこともなかったので、そこまで待ち望んでいたわけではなかった。
だから忘れていた。
「夏休みか。ああ、いいぞ」
「えっ、ほんと!?」
勢いよく振り返った雨奈。
湯船のお湯が勢いよく横揺れして流れてしまった。
「なんでそんなに驚くんだよ」
「だ、だって、断られると思ったから……」
「なんで断るんだよ。お前、俺に夏休みの予定があると思ってんのか?」
「それは、うーん」
「おい、愛想笑いは傷付くぞ」
「えへへ、ごめんね。だけど、わたしなんかと遊んでくれると思わなかったから」
自分に自信が無いのだろう。
わたしなんか、わたしなんかと、雨奈はよく口にする。
そんな彼女を不安にさせないように強く抱きしめる。
「お前が思っているより、俺はお前との時間を楽しんでんだ。だからあんま、そうやって自分自身を蔑むんじゃねえよ」
「夜斗くん……。うん、ありがと」
抱きしめられた夜斗の手を触れながら、嬉しそうに雨奈が微笑む。
「それに、なんといってもお前とのセックスは気持ちいいしな」
「あー! 結局そこなの!?」
頬を膨らませた雨奈。
これはこれで嫌がっているようには見えないので満更でもないようだ。
「駄目か?」
「ダメ、じゃ……ない。少し複雑だけど、気持ちいいって言ってくれるのは嬉しい!」
「ちょろいな」
「もう!」
雨奈は「そうですよ、少し褒められただけで喜んじゃうちょろい女の子ですよーだ!」と文句を言う。
「んじゃ、風呂から上がって続きするか」
「あ、うん、するっ」
二人は湯船を出て行く。
お互いにお風呂場から出ると、雨奈は体を拭きながら、
「でもね、ちょろい女の子は褒められるのが好きなの。褒めてくれたら喜ぶの。だからね」
何が言いたいかわからず首を傾げると、雨奈は「ちょっと待ってて」と先に洗面所を出る。
しかも裸のまま。
夜斗は言われた通り待っていると「来ていいよ!」と声がした。
リビングに戻ると、雨奈はもじもじと体をくねらせていた。
「ほお」
「ど、どう、かな……。夜斗くん、こういう格好、好き?」