全体的に赤色の布地に黄色の模様が彩られた衣装。
生地は薄く、太股が出るほど丈は短い。
ぴったりと肌に吸い付いているようなサイズで、それがチャイナ服だとすぐにわかった。
「どうしたんだ、それ」
「えっ、あの、その……夜斗くん、喜んでくれたらいいなって」
いきなりだから驚いた。
ただこの反応は、彼女の求めていたものとは違っただろう。
顔を真っ赤にして恥ずかしそうにする雨奈は引かれたと思ったのか、夜斗から視線を背ける。
「似合っ、てる……ああ」
と、言うしかなかった。
恥ずかしいのを我慢して、夜斗に喜んでもらいたくて着てくれたのだから。
それに似合っているのは事実だ。
ただ、素直に似合っていると言うのがなぜか照れ臭かった。
いつもはこういうのを照れずに言えるタイプなのだが。
「ほんと? 良かった……。夜斗くんがどういうの好きかわからないから、他にも買ったんだよ」
「そうなのか」
「うん。夜斗くんはどういうの好き?」
他には絶対に存在しないであろうミニスカートの巫女や、童貞を殺すで有名なセーターなんかがあった。
巫女のコスプレはよく見るが、童貞を殺すセーターはコスプレと呼べるのだろうか?
と、思ったがこれを街中で着ている者を見たことがない。
「夜斗くんはミニスカート系が好きかなって。太股、好きでしょ?」
「否定は、しないが……」
「やっぱり! だからミニスカート系で揃えてみたの。ナース服も候補としてはあったんだけど、夜斗くんSっぽいから好きじゃないかなって」
「いや、SだろうとMだろうとナース服は好きだろ」
「え?」
「あ?」
好きか嫌いかで聞かれてナース服を嫌いと答える男はいないだろう。
そもそも雨奈はナース=ドSナースを想像したのだろうが、全員が全員ナースは攻めとは限らない。
雨奈は残念そうに「それならナース服も買ってくれば良かったかなあ」と言いながら夜斗を見つめる。
「こういうサプライズ、好き?」
「まあ、男だからな。それにこういう格好、雨奈に似合ってると思うぞ」
「良かった。……って、今もしかして雨奈って呼んでくれた?」
「あ? ああ」
「珍しい。わたしのこと、いつも『お前』って呼ぶのに」
そういえば、名前で呼ぶよりもお前って呼ぶことの方が多い気がした。
誰に対してもお前呼びが癖になっているから、あまり気にしたことはなかった。
「お前って呼ばれるの嫌だったのか?」
「ううん、夜斗くんにお前って呼ばれるの好き」
「好きなのかよ」
「うん、好きだよ。たぶんわたし、Мなんだと思う。えへへ、夜斗くんに女だってわからされるとき興奮するもん」
雨奈は気分がいいのか、聞いてもいないことを教えてくれた。
「でも、たまにさっきみたいに名前で呼ばれたいな? ねえ、もう一回呼んで?」
「雨奈。これでいいか?」
「うーん、なんか気持ち込もってないなあ」
「さっきのも別に気持ち込めてねえよ」
「残念。……ねえ、夜斗くん」
手を握られ、見つめられる。
無言で、ここから先は男が口にしろと言わんばかりの表情だ。
夜斗は雨奈の体を持ち上げる。
「わわっ、お姫様抱っこ……」
軽々と持ち上げると、そのまま雨奈の部屋──ベッドまで運ぶ。
運ばれる雨奈は目をキラキラさせていた。まるでチャイナ服を着た少女のようだった。
「こういうの昔から憧れてたんだあ。もしかして知ってたの?」
「知るわけないだろ。運ぶのにこれが一番楽なんだよ」
「もう、わたしのときめき返して」
頬を膨らませた雨奈をベッドに寝かせる。
チャイナ服が捲れて肉付きのいい太股が露わになり、前後を結ぶ紐の隙間から艶がかった肌が見える。
普段と衣装が違えば、別の興奮が得られる。
また一つ賢くなった気がする。……これからの人生にはあまり役立つとは言えないが。
雨奈は壁に掛けられた時計に視線を向ける。
「22時かあ。果たして、わたしは何時に寝れるのでしょうか」
「楽しそうに言うな。寝たいなら、このまま寝るか?」
「あー、ダメダメ! 今日は寝かせないぜって、耳元で囁かれるの夢だったんだから!」
「なんだそれ」
夜斗にそんな気取ったセリフを期待するのは間違っている。
なにせ夜斗は、絵に描いたイケメン男子というより野獣のような男なのだから。
言葉で表すより行動で示すタイプだ。
「まあ、せっかく買ってくれたんだから全部着るまでは寝れないだろうな」
「じゃあ、もっと買ってくれば良かったかな。そしたら、一生してくれたのに」
「寝る前に俺が枯れちまうだろ」
「枯れちゃったら、いくらでも復活させるよ? えへへ♡」
そこでふと、部屋の中の音が消えた。
どっちかが言うわけでもなく、お互いに口を閉じた。
まるで会話はもういいと、お互いにそう通じ合ったかのように。