前半は順調だった。
と言えば、後半は順調ではなかったのかと思われるかもしれないが、後半も別に悪くはなかった。
ただ悪くはなかっただけで、素人目に見ても良かったとはいえない。
なにせ比較対象が周りにあるのだから。
「来ないな」
「だね」
今はお昼時から少し過ぎた14時なので、食事処が混まないのは当然といえば当然だ。
けれど周りの海の家では入れ替わるように客の流れが見える。
対して夜斗たちのお店には空席しかない。
いや、サヤと雨奈が座っているので一席だけ席が埋まっているか。
「呼び込みしても難しいかも。海を楽しんでるお客さん、もうご飯って空気じゃないっぽいから」
「他のお店を見る感じ、お客さんのお目当てもドリンクかかき氷て感じだもんねー」
「まあ、初日にしては上手くいったんじゃねえか?」
渚に関しては早々に呼び込みを止めて何処かへ行った。
サボりか、別の仕事か。おそらく前者だろう。
元から戦力に数えていなかった者が午前中の忙しい時間帯だけ手伝ってくれたので、まだ良かっただろう。
「とりあえず、二人とも飯食うか?」
「えっ、夜斗くんが作ってくれるの?」
「ん、まあ、簡単なものだが」
「えー、作って作って!」
「じゃあ、ちょっと待ってろ」
鉄板に油を塗って食材を炒めていく。
そこでふと思った。
なんで俺が作るって言ったんだろうか?
いつも家では優枝に作ってもらって、雨奈の家では雨奈に作ってもらい、サヤといるときはスナックでシュウに作ってもらう。
自分から誰かに料理を作るなんてことなかった。
変だな。
そう思いながらも、別に悪い気はしなかった。
「ほら、できたぞ」
「わーい! おお、お店で出てる料理みたい!」
「ここお店だからな」
「いただきます、夜斗くん」
「ああ」
朝から立ちっぱなしで働いていた夜斗も二人と共にイスに座って食事を始める。
簡単に作れる焼きそばだが、自分が食べても悪くはない。むしろ今まで食べてきた焼きそばの中では上の部類だ。
「ヨルっち、料理人とか向いてるかもね」
「……料理人?」
美味しい美味しいと、はふはふしながら頬張っていたサヤに言われた。
「そっ、料理人。鉄板前で料理してる様になってたし、何より楽しそうだった」
「あれが楽しそうに見えるか? 暑くて熱くて、足も疲れて……大変なだけだぞ?」
そう言ったが、二人はニコニコ楽し気に笑っていた。
「なんだよ」
「ううん、別にー。ただ自分では気づいてないみたいだけど、ヨルっちって意外とわかりやすいんだよ」
「なんだそれ」
「普段から笑わないタイプだから、見てるこっちには夜斗くんの表情の変化がすぐわかるの。だから料理してる夜斗くんは楽しそうにわたしたちには見えたの」
自分では大変だとしか思っていなかったが、意外にも楽しんでいたのか。
夜斗は「そうか」と短く答えて、少し考えるように自分で作った焼きそばに向く。
だが、お客さんが訪れたので慌てて立ち上がる。
再び料理を始めると、まあ、悪くはないかもと思った。
♦
「ふあ、疲れた疲れた。働くのって大変だね」
一日目の業務が追わったのは夜の19時だった。
夏本番ということもあってこの時間でも上空は夕焼け空でまだ明るい。
とはいえ、ここから暗くなるのはあっという間だ。なので片付けを進める手を早めていく。
「よし、片付け終了っと」
サヤは客席の片付けを終えると、夜斗が鉄板周りの掃除が終わるのを待った。
余った瓶ジュースの蓋を開け一口。
そして夜斗と目が合うと、はい、とそれを渡す。
「さんきゅ」
「あたしの奢り。感謝してね」
「絶対に払わないだろ」
「まあ、ご褒美みたいな」
雨奈はというと、彼女は客席の掃除の途中で先に帰った。
理由としては先に戻って三人分の夜ご飯を作って待っているというものだった。
別に夜ご飯なら三人で帰ってから作ればいい。なんならコンビニで買って帰ってもいい。
そうしないのは、客席を掃除していた二人の間で何かあったのだろう。
「そういえば、ヨルっち……朝、雨奈と隠れてえっちしてたでしょ?」
「……」
いきなり聞かれて驚いて返事が遅れた。
聞いた張本人は笑っていた。
その笑顔には、どんな感情が込められているのかわからない。
「……ああ」
「隠さないんだ」
「隠してもしょうがないだろ」
「まっ、そっか。雨奈も隠す気なさそうだったし……というより、わざとあたしにわかるようにしてたっぽいし」
「どういうことだ?」
聞くが、サヤは笑ったまま首を傾げた。
「さあね。だからまあ、こうしてあたしとヨルっちが二人で掃除してるんだけど」
「だから、何が言いたいのか俺にはわからないんだが」
「鈍いなー、もう。要するに雨奈は、抜け駆けして二人で楽しんだお詫びに、ヨルっちとあたしを二人っきりにしてくれたってわけ」
「ああ、なるほど」
「これでお互い一回ずつねーって遠回しに言われた感じ。雨奈って意外と生意気なの、いっつもウサギみたいで可愛いのに。こうなったの、ヨルっちのせいだと思う」
「なんでだよ」
「えへへ。まっ、というわけであたしが何を言いたいかって、わかるよね?」
目を見て言われた。
水着にパーカーを羽織っただけのサヤと二人っきりで、そんなこと言われて「さあ」とか「もう疲れた」とか、そんな冗談は言えなかった。