そこは忘れられた街。
政府肝いりでつくられた巨大なはこもの「東京キングダム・シティ」。
海上に浮かぶ第二の都心となることを期待されたが企業誘致に失敗し、 住居施設や住人をターゲットにした商業施設も東京湾地下鉄の工事の大幅な遅れから交通の不便な海上の孤島と成り果て、ついに10年前に開発の全面中止、事実上捨てられた幻の都市となった。
その後は本州とを結ぶ唯一の出入り口、全長10キロに及ぶ東京キングダム大橋を伝って渡ってきた密入国者や犯罪者、無政府主義者、魔界から流れたきた住人たちの住処と化し、海上都市は世界有数の危険な街となった。
だが、いくら捨てられた街、危険な住人の巣窟とはいえ、そこにも秩序がある。市も立てば、アジア最大の娼窟ができ、中心部には繁華街もある。生き抜くだけの強さか、或いは強者への媚を忘れなければそこでは生きていけた。
サク、サク、サク
そんな魑魅魍魎が住まう都市の一角、瓦礫とひび割れた建物だけが並び立ち、血に飢えたハイエナのような荒くれ者達が日夜闇を彷徨う。その地の名をアミダハラと言った。
サク、サク、サク
そのアミダハラを歩く長身の男が一人。
淡く光る金髪、全てを呑み込むような黄金の瞳、人体の黄金比を兼ね備えた容姿は黒の道士服に包まれている。それだけならば、女を魅了するただの美丈夫と呼べるが、それが人の形を為し、存在していることが、常人から見れば違和感の塊でしかなく、それがより男の異様さを際立たせた。
その男に人睨みされれば、瞬き一つせず人は塩の柱と化し、生きているのか死んでいるのかさえ認識できず、呼吸すらも忘れてその場に佇んでしまうだろう。
「………」
アミダハラは所謂無法地帯だ。だが、幾つかのルールが存在する。
表側では一つの前提として、この地では力こそがモノを言う。弱い存在は蹂躙され、強い者たちの食い物にされる。
次には金。実に単純なものだ。少なくともここに住まう俗物達にとっては金はあればあるほど困ることは無い。此処には傭兵も居る。護衛として雇えばそれが力となる。例え見せかけだとしてもだ。
だが、アミダハラにはもう一つの顔がある。魔術師連合という陰で支配する組織が存在しており、秩序を乱す魔女、魔物を人知れず闇に葬ることが主な仕事だ。そういった組織の存在を知る人間はごくわずかしかいない。
では、この男はその魔術師連合の人間か?―――
サク、サク……
男は歩みを止め、虚空を見つめた。
「………」
すると男は何を思ったのか、目の前の空間をまるで摘まむかのように指を動かし、そして振り降ろした。
「ギッ!?」
次いで響いたのは、ぐちゃりと肉の袋が破裂し、倒れ伏す音が複数と、遠ざかっていく悲鳴と逃げようとする小物の足音が一つ。
「………」
男は音のする方へ視線を移し、目を細めたが、それだけだった。
―――答えは否だ。
アミダハラでのルール、三つめは決して逆らってはいけない化け物がいること。これは表でも裏でもこの男を限定にしてそれは通用する。
魔術師連合であろうとも、この東京キングダムを作った有数の権力者であろうとも、その地下に巣食う数あるアリーナの頂点であろうとも、この男には好き好んで牙を剥こうとする者はいない。
数年前、男はフラッと突然現れた。当然、よそ者に対してアミダハラは牙を剥く。だが、それは一夜にして牙どころか顎を砕かれた。
それ以降、好き好んで男にはむかおうとする者はいない。
法律は無いが、これら三つが暗黙の了解として結果的に秩序を形成させていた。時折、そのルールを知らない何者かが殺気を向けてくるが、いつものことだ。
そういう時は、決まってこの男が暇を持て余して散歩をするときだけだ。
そうして、先ほどのように、自分が死んだことさえ気づかずに死ぬ。まるで電気のスイッチのONとOFFのように、対象となった生命体の命は地獄へと落とされる。
「退屈だ」
静かに呟いたその声は、何百という名工達が力を合わせたかのような楽器だけが奏でられる音色を思わせた。老若男女種族さえ問わず、その声は全てを魅了させんと響き渡った。
そして、その不気味さが、よりこの男の異様さとただの強者で決して表すことのできぬ雰囲気を醸し出させていた。
「ご主人様」
ふわ、と音もなく男の背後に跪く女が一人。その素顔は目元を隠すような仮面に隠されていた。男と同じく黒の道士服に身を包み、背中には二本の刀が背負われている。闇夜を照らすようにレッドブロンドの長髪がアミダハラを吹き抜ける風によって妖しく揺れている。
「シェンフーか、どうした?あっちで何かあったか?」
「いいえ、特には、ですが最近吸血鬼どもの動きが活発化しており、時折我が軍との衝突が……いかがなさいましょう?」
「いつも通りだ。仕掛けてきたら応戦。それから、常に中の方にも、目を向けることも怠るなと伝えておけ」
「はっ」
「『草』のほうはどうだ?」
「……ほとんどが……吸血鬼どもに狩られた模様。何度もご主人様に煮え湯を飲まされた所為で、連中もかなり神経質になっているようです」
「そうか……遺体を回収後、丁重に葬ってやれ。無理にとは言わん」
「御意」
そうして、再び音もなく消えていく仮面の女性。
「………」
それを振り返らずに見送った後、男は再び歩を進めるのであった。
◆◆◆
“―――ッ!!――――――――!!”
“~~!?――――ッ!―――!!―――――――――――ッ!!!”
アミダハラ某所にあるその店は、近隣でも有名な店であった。あえて特徴を上げるとしたらその客層だ。古傷を持ったもの、身体のあちこちに入れ墨を彫ったもの、強面、屈強な見た目をした男たち。一目見て、その『テ』の人間であることが分かる。客層というよりも人種。
“――――ッ!ッ!―――――!!”
店内は常に喧噪であふれ一触即発の空気に満ち溢れていた。
―――カタッ―――
“!!??”
そんな店が、彼が入った瞬間どうだ?
「店主、今日のお勧めを頼む」
誰もが静まり返った。静寂に包まれた。無言でうなずいた店主の衣擦れの音と調理器具の金属音。それだけがこの狭くも濃密な世界を支配した。
ただそこに存在するだけで否が応にもその存在を主張させる特徴的な服装、柔らかい雲を思わせる黒の道士服から浮かび上がる適度に鍛えられた肉体。黄金の瞳と毛髪。前述したアミダハラの三つ目のルール。その該当者の一人がこの店の暖簾を潜ったのである。
男たちが取った行動はただ一つ、それだけを決死の思い出果たそうとした。それは実に簡単で、一般人であれば普通の物。周りに迷惑をかけないことである。
この場で五月蠅くすることはそれすなわち、死を意味するからである。
死に対する恐怖、異常ともいえるほどの存在感を持ったこの男に対し、腹に一物を抱えて隠し通すことなど、誰もできなかった。
「くっ――――――」
男が笑みを零した。この状況をどう例えればいいのかの戸惑いゆえか、それとも隠し切れない恐怖心を見せられて滑稽と思ったのか、それともその姿を見て五月蠅かったことに対する溜飲を下げたのか。
それは定かではない。
「………」
男は何も言わない。必要を感じなかったからだ。態々それを気に掛けるほど、この男がお人好しでないことを彼らは知っているからだ。彼に牙を剥こうと考えた者たちの末路を知っているからだ。
五分か、それとも十分か、それよりも長かったかもしれない。固唾を呑んで自分に災厄が降りかからぬよう細心の注意を払っていた彼らの空気を和らげるかのように、終始無言を貫いていた店主が男のテーブルに料理を置いた。
「ふぅむ」
男の唇が弧を描いた。美味そうな料理に機嫌を良くしたのだと考えずともわかった。男だというのに、まるで絶世の美女のそれを思わせる魔貌に男たちは知らず知らず唾を飲み込んだ。
男の食事が始まった。それらの作法一つ一つが教育の行き渡った貴族を思わせる行儀の良い食べ方だった。
“―――――――――――――――――――――”
辺りはまるで禅寺のような静けさだった。男の時折立てるフォーク、スプーン、ナイフの音と店主の調理する音だけが響いており、気が付けば、その店には店主と男だけだった。
―――キィ―――
男の食事が終わると同時に、木造の扉が音を立てた。
「あら、暇つぶしに顔を出したつもりだったけど、まさか貴方が居るなんて。明日は雪でも降るのかしら?」
「?」
ここ座るわね、と相手の合意すら得ずに持っていた重そうなトランクを横に置いて向かい側に座る一人の女性。黒曜石のように黒い長髪、全身のボディラインを強調させるボディースーツを身に纏っている美女。
「久しぶりだな。運び屋」
「ええ、お久しぶり」
名をアンネローゼ・ヴァジュラと呼んだ。
「今日はあの恋人はいないの?」
「恋人じゃない。ただの仲間だ」
「へぇ?以前はあんなに仲睦まじいところ見せつけて?最後はホテルにも行ってたじゃない?」
「見てたのか………。それは、取引をする相手が居てだな、あくまでビジネスの為であって……」
「まぁ、そういうことにしておくわ」
「貴様……」
アンネローゼの言う恋人とはシェンフーのことだ。アンネローゼとの出会いはその昔、アジトに賊が入り、その賊が奪った宝を取り返そうとした時だ。賊を経由してアンネローゼに渡って居た時、シェンフーがそれを発見、死闘を繰り広げた。それ以降、アンネローゼは時折暇つぶしと称してシェンフーを挑発し殺し合いをしている。
「戦いを楽しむのは大変結構だが、あまり彼女を挑発してくれるな。心労を増やすのはこちらとしても好ましいものではない」
「それなら、貴方は?」
「うん?戦らんぞ?」
「それは残念ね」
「だが、お前に会えたのは丁度いい。ここに40年物の良い酒がある」
そういって男は袖の中から一升瓶を取り出す。明らかに入りきれるようなものではないが、アンネローゼが疑問を抱くことは無かった。
テーブルに置かれた酒を見て彼女の眼の色が変わった。欲しいというオーラがありありと出ていた。
「何が望み?」
「相も変わらず酒に目が無いのだな。実は運んでもらいたいものがある。これは前払いだ。成功すれば酒蔵から何本かやろう」
「お金は?」
「欲張りめ、酒蔵にある酒はどれも異界にある名酒だが、持ってこない限りこの世界に一本しか存在しないものになる。酒のマニアにでも売れば一千万は下らん。そいつを売ればいい」
「ぐっ………」
アンネローゼが顎に手を当て、考えるような仕草を取る。金を取るか酒を取るかで悩んでいるのだろう。
「こ、この私に物だけで釣ろうなんてひゃくねんはやいわよ」
「声が震えてるぞ。因みに付け足すが、俺が渡す酒はどれも冷やしたのと常温の状態では香りも味も全く違う。更に言うと太陽の日差し、月の満ち欠けによっても影響を受ける世にも不思議な酒だ。しかもどれもが一級品の味。あっち側の王族がこれを求めて戦争を起こしたくらい価値がある」
「ぐぬぬ」
「……仕方がない。この話は無かったことに「分かったわよ!やってやろうじゃない!」その言葉が聞きたかった。おまけだ。もう一本持ってけ」
ずる~りと袖から現れるもう一本の一升瓶を見てアンネローゼが男を睨み付ける。
「アンタ………最初からそのつもりだったでしょ?」
「ああ、堪能させてもらった」
何がとはあえて言わない。こうやった付き合いは既に何度か繰り返している。能面のようにほとんど表情を変えないこの男は、時折こうやった人を弄ぶことをする。といってもどれも人生のどん底に突き落とすような悪質なものではないので、アンネローゼはそれすらも楽しんでいる。
「まぁいいわ。でも“異界の支配者”が何でこっち側に来てるのよ?エドウィン・ブラックのようにこの世界も支配するつもり?」
「少し違うな。治めるだけだ。いや、俺の場合、支配の方が正しいのか?」
「どっち?」
「そっちかもしれん」
「え!?こっち!?」
「いやあっちだ!」
「まさかそんな!?あそこだったなんて!」
「違う!それだ!」
「そこ!?」
「あそこ!」
「なにコントやってんのよ!?」
二人のやり取りを見かねてトランクが一変メイド服を着た美女が現れた。短く切りそろえられた緑色の髪、服の上からでもわかるメリハリのある女性的肢体。何よりも目を引いたのは、明るそうな外見とは裏腹に醸し出す禍々しい気配。紛れもなくその女性は悪魔だった。
名をミチコ・フルーレティ。アンネローゼと契約する位の高い大悪魔である。
「ようやくツッコミ役がきたな」
「遅いわよミチコ」
「私の所為!?私の所為なの!?」
「大悪魔!お前がやらずして誰がやるのだ!?」
ブンッ!ガキィン!
「アンタ終いにはぶっ殺すわよ!?」
激高したミチコがそう言いながらオリハルコン製の斧が既に振り降ろす。それを二本の指で男は特に動揺した様子もなく白羽取りをして止めており、押そうが引こうがピクリとも動かず、それがこの男の強さがよくわかる。
「既に殺そうとしていることに俺は一言物申したい。ツッコミは手刀でやるべきだ」
「相変わらず良い空気吸ってるじゃない。異界の支配者……。まだ吸血鬼どもの攻撃にアクセクしてるんですって?支配者が聞いてあきれるわ。あ、ゴメンナサイ、支配者(笑)だったわね」
「ふん、短気な奴め。ノイから聞いたか?まぁ、否定はせん」
「そういえば異界の吸血鬼ってどれくらい強いのかしら?あのエドウィン・ブラック並?」
そんな一触即発の状況に我関せずと質問をするアンネローゼ。なんだかんだで彼女も良い空気を吸っている。
「さぁな。だが、強いのが二人、一人はようやくこちら側に引き込めたがな」
「そっちの世界も随分楽しそうだわ」
「送らんぞ?」
「まだ何も言ってないじゃない」
「どうせ異界に行きたいと考えたのだろう?」
「良いじゃない。減るもんじゃないでしょ?」
「駄目だ」
不貞腐れたかのように頬杖をついてそっぽを向くアンネローゼ。その視線の先には、何か見えないロープで逆海老反りになって縛られているメイドが一人。
「んんんーーーーッ!」
「………」
ふー、と溜息を一つ。アンネローゼは目元を解しつつ男に向き直った。
「それで?どこに届ければいいの?」
◆◆◆
アンネローゼとの話を終え、一度アジトへ赴く。夜は始まったばかりであり、魑魅魍魎と外道に堕ちた者たちの宴もまた然り。
廃棄都市とも呼ばれるアミダハラは名を表す通り、小汚いどころか、戦争跡地のようにボロボロの建物が視界いっぱいに広がる。その中の一つ、なんの変哲もないそこの地下に、男のアジトが存在する。階段を下りていった先にある扉を抜ければ、そこには別世界が広がっていた。
見るからに高級さを醸し出す装飾品の数々とそれを収める棚の数々、絵画、骨董品、絨毯に至るまで、五指に入る芸術家のみが作り出した家具の数々がアジトを彩っている。
そして窓枠には夜の闇が支配する西洋の街が見える。
これをコーディネイトしたのは男自身だが、どこか呆れたような表情に思える。
「自分でやったとはいえ、無いな」
訂正。そのようだった。男が指を鳴らす。同時に家具の全てがどこから現れたのか、何枚もの巨大な布に包まれていき、床下に設けられた倉庫へと吸い込まれていき、代わりにどこの住居でもありそうな平凡な家具たちが置かれた。
地下だというのに窓から景色が見える理由は実に単純な理由だ。男の居るアジトは扉を隔ててあちら側とこちら側を繋げており、それはこの男の力によって世界観の移動を可能としていた。
「あら勿体ない。良い家具だったじゃない。そういうのは客人に見せてこそよ」
「それはそうだが、少なくともお前に対して見せるべきものではないな。勝手に家に押し入る人間を客人とは言わん」
一陣の風と共に後ろから声がかけられる。全身をゾクゾクと甘い痺れを走る錯覚するほどに蠱惑的で妖艶な声、風に乗って鼻腔をくすぐるのは香水では決して再現できない女性特有の甘い男の欲情を誘うような香り。声を掛けられた瞬間その場に跪き、忠誠を誓い、己の全てを捧げてしまいたくなるような強烈な魅力。
そんな存在を男は知っていた。
「家?隠れ家の間違いじゃなくて?みすぼらしいとは言わないけれど、城ぐらい建てたらどうかしら?」
「期待に反するようで大変恐縮なことだが、敵を無駄に作る趣味は無い」
そう言いながら彼はグラスを二つ手に取り、袖口からワインの瓶を取り出した。
「いっそのこと、邪魔な奴ら全部やっつけちゃいましょうよ」
「また今度にしてくれ。お前が暴れるとブラックが流石に黙っちゃいない」
男は血のように赤いワインを手に取り、グラス二つに注いでいく。
「勿論片方は私のよね。もらうわよ」
ふてぶてしくも女性はその雪のように綺麗な白い手で注ぎ終わった方のグラスを優しく手に取った。
「まだ飲むなよ。今日は満月だ。どうせだったら月見酒と洒落込もう」
「あらあら、紳士のかけらも見られない誘い文句だわ」
「生憎だが、遠慮のかけらもない貴様にはこれで十分だ。ブラッドロード」
男が振り返る。月明かりによって反射した黄金の瞳がその女性を映し出した。波打つ銀色の髪、男に負けず劣らず、異性を引き付ける魔貌と宝石のルビーのように輝く瞳。
露出の激しい黒いボンテージに身を包みメリハリのあるその肉体を惜しげもなく晒す女性の名は、カーラ・クロムウェル。男が以前居た異界を支配していた吸血鬼の二大勢力、その片翼の頂に立ち、ブラッドロードの異名を持った最強の吸血鬼の一角。
強大な吸血鬼のみが着ることを許されるマントに身を包んだ、この最強の吸血鬼が、今この男の下に現れていた。
「こういっては何だが、吸血女王がこれほど気さくな奴だとは思わなかったな」
言わずもがな。彼女は今いるこの世界とは別の世界、『異界』と呼ばれる世界に住んでいる。限られた条件下でのみ世界の境目を超え、別世界への来訪を可能としていた。
世界と世界が隣り合わせとなり、その瞬間をとらえ、壁にトンネルを作ったのは何を隠そう、今残ったグラスにワインを注いでいるこの男の所業だ。
「失礼ね。女王をやるときはちゃんとやるわ。公私混同はしない主義なの。今はただのカーラ・クロムウェルよ」
「………一応建前とはいえ、お前は俺の軍門に下ったことになってるんだぞ?お前の不在を狙って『吸血女帝』が来るぞ?」
「細かいことに気にしすぎだわ。禿げるわよ?」
「ヌカシオル」
「そもそも、そうならない様にあなたがいつもあいつを牽制してるじゃない。なら安心よ」
「そこまで信用されるとはな」
「くくくく、仮にも私を下したのは貴様だぞ支配者。このブラッドロードを屈服させた貴様がその程度のことも出来ぬはずがなかろう?それとも、私の前で吐いた言葉はその場しのぎの虚言か?」
「見縊るな吸血鬼。俺に下った奴は全て俺の物だ。身も心も全部屈服させてやる。逃がすものかよ。逃げようものなら、その身にたっぷり『俺』を刻み込んでやる」
“…………ふっ”
張りつめた空気から一変、二人の間に笑みが生まれた。
「外に出ましょ?今宵は良い月夜だわ」
「そうだな………ん?」
男の目の前に突き出される白い手。それをいぶかしげに見ていると、呆れたような溜息と共にカーラは言う。
「エスコートしていただけるかしら?」
「どこまでだ?」
「綺麗な月夜が見えるところに」
「ならアミダハラだ。廃棄都市なだけに街灯もほとんどない。星も良く見えるだろう」
◆◆◆
無法者と魑魅魍魎が住まう街、アミダハラ。鈴なりに立ち並ぶ朽ちた摩天楼の中で最も高いビルの屋上へと場所は移る。
そこに腰かけた二人を満点の月明かりが照らす。妖艶に、禍々しく、地上に住む者たちを平等に照らす魔の象徴。
「乾杯は何に対して?」
「君の瞳に、とでも言っておくか?」
「あはは!ヌカシオル!」
似合わない!と腹を抱えて笑うカーラに特に気にした風もなく鼻を鳴らす。
「全くだ。……あの満月に向けて」
「そうね。あの満月に」
“乾杯”
軽口を叩き合いながら、二人はグラスを煽る。口内を踊る芳醇な香りと熟成された旨みが彼らを楽しませる。
「相変わらず美味しいわ」
「それは何よりだ」
「地上は最悪だけど、空だけは世界が違っても同じね」
「そうだな。俺もこの空は嫌いじゃない」
それ以降、二人の会話は途切れる。風が吹きすさぶ音。人の喧騒、生き物の声さえ届かないこの場では、二人の息遣いとワインを注ぐ音、飲み干す音だけ。
しばし、本当にしばしの間、ありのままの自分を月に見せることが出来る時間を二人は楽しんでいた。そして気づくと。ワインは既に空になっていた。
「終わっちゃったわね」
「ああ、そうだな」
静かな夜は終わりだ。男はカーラを抱き寄せ、自分の膝の上に乗せた。
「んっ……強引ね」
「嫌なら止める」
「ん~……どうしようかしら。今宵は満月、月が綺麗すぎて目が離せないわ」
「そうか、なら、俺だけを見れるようにしてやる」
「きゃんっ!もう、ムードが台無しだわ」
「ムードなら十分だろう?」
「あ、もう。ひどいことんんっ、するわ。ふあ」
嫌そうなのは口だけであり、男の触れる手に優しく重ねるだけで、引きはがそうとはしなかった。
「くぅん あふ、貴方の手、あったかいわ」
男の掌の中でグニュグニュと形を変える豊満な胸。固くしこった乳首を指の腹で撫でるだけでカーラの身体は厭らしく揺れ、もっともっととせがむように突き出してくる。
ちゅ、ちゅ、と小鳥が啄むように、首筋を吸われる。ぞくぞくと尾てい骨に走る痺れに、腰の奥が疼く。思わず股を閉じて擦り合せるだけで、きゅうん、と気持ち良さが胎を突き抜けた。
「はぁ……ん」
次いでカーラを包んだのは膨大な多幸感だった。乳房を包む手から送られる温もりが、痛いほど鼓動を高鳴らせ、自然と顔が紅潮していく。瞳は潤み胎が雄を求めていることを否応に教えてくれる。
ちゅるるる
「ふあっ」
男の唇は徐々に昇っていき、カーラの耳元へ、息遣いと、口づけと、舌のピチャピチャとした音が脳髄をしびれさせた。
生物が持つ一時的欲求の一つである性的欲求の他に魔族としての魂が満たされるような感覚がどうしようもなく心地いい。
気持ちいい
キモチイイ
きもちいい……。
ほじくるような舌の動きにカーラの背が仰け反った。足のつま先がピンと張りつめパリッと脳の中で何かが弾ける。
長い時を生きる中で交わったことは片手の指程度しかないが、この男と過ごす一夜はまるで自分が生娘に戻ってしまったかのように主導権を握られてしまう。
ゆっくりと心を侵略してくるようなこの快楽は女の身で逃げようがなかった。
「あっ、あっ、イク、イクわ、イ――――――」
優しく包み込むように絶頂へと押し上げる感覚は、多幸感と共に一気に魂を満たした。
ピク、ピクビクビクビクッ!
「クゥ………!あぁ、あ、あ、あはっ」
身に着けていた服が夜の闇に溶け込むように消えていく。そして次に見えたのは、興奮で尖った乳首と滴るほどに淫液を垂らすアソコ。
「はぁぷ」
唇が塞がれる。ぬるりと入り込んできた男の舌を、カーラは巻き込むように吸った。ちゅ、ちゅ、と互いの唇が音を立てる。下になっていたカーラは、次々に流れ込んでくる彼の唾液を、音を鳴らして飲んだ。
「ぁ、ん、んむぅ、んん、んんん……」
するりと当たり前のように唇を開き、彼の舌を招き入れる。優しく、激しく、男の口内に溜まっていた唾を全て啜り取っていく。ちゅる、と絡み合っていた舌が離れたとき、もうカーラはダメになっていた。
「ねぇ……お願い」
カーラのじっとりと汗で滑った肢体をくねらせながら股を開いた。ちょうど、片手が入る分だけの幅。ぬちゃ、と閉じられていた彼女の女の部分が糸を引く。
片方の手がカーラの股座へ滑り込ませる。
グチュグチュとねっとりとした水音が響くたびに、カーラは、は♡は♡と犬のような息遣いでリズムを刻んでいく。
「あ」
再び、カーラと男の唇が重なる。
「じゅるる、じゅぶ、れる……れろれろれろ、はむ、はぷ、れぉ」
舌を差し込み絡み合い、今度は貪るように水音を立てていく。
「んん、ん、はぷ、くちゅ、れぷ」
尖った肉豆を刺激され、やがてカーラの腰がガクガクと震え、つま先が弧を描いた。絶頂の兆しを目聡く感じ取った男が。
指を秘唇の中へとそっと差し入れ、クリトリスの裏側を擦り上げた。
「んんんッ!」
ビクンッ!
指を痛いほどに締め付ける感触にカーラが絶頂したことを教えた。
「じゅく、ふむぅ、はぷ、れろれろ、じゅろぉ~」
達したというのにカーラは口づけを止めるどころか、より情熱的に男を求める。上気した頬、潤んだ瞳、全身が男に触れることに歓喜し、これ以上ないほど発情していた。絶頂へと達した快感のオルガズムは、そのまま上昇を続け、軽い絶頂が途切れずに体中を走るようになる。
「んお!はぷ、ちゅく、じゅるうむん、んんっ!じゅろろろろろぉぉぉ!」
腰を突き出し、男の指が膣内を暴れるがままに任せ、まるでプログラミングされた動きに欠陥が起こった機械のようにビクビクと震える。
「じゅるるるん!ぱはっ、あはっ!もう、ダメ、またイクウウウウウウウウウッ!!」
最後の止めとばかりに、胸を鷲掴みながら乳首を摘まみ上げ、クリトリス、Gスポットを強く押し上げた。
「ンハアアアアアぁ!!」
カーラの身体がガクガクと震えながら背を仰け反らせ、快感の逃げ道を作ろうとして舌を突きだす。男はその舌に吸い付き、口内に迎え入れる。
「んは、はぷぅ、ちゅるるる、れろ、ん、んん………はぁ……凄く、深イキ……しちゃった」
「これで満足するなよ?俺がまだなんだからな」
男の肉棒がカーラの秘唇を擦りつけると、それだけでどろりと膣穴から粘性のある液体が溢れだす。
「これだけ濡れてたら問題なさそうだな」
そういって男の視線がカーラと交差する。
「はぁ、はぁ、待って貴方の、顔が、見えないわ」
そういって対面に座り、男の首に手を回す。
「私はカーラ・クロムウェルよ。やられっぱなしは、性に合わないのよ」
「ほれ」
ドチュンッ!
そういってカーラの腰を掴み己の肉棒を突き入れた。
「くひっ!?~~んッ!ふっ……ぅ!」
「う……ぉ、締まる」
ぎゅぅうう♡♡と膣内が締め付ける。危うく出そうになったモノを男は歯をくいしばって耐える。対しカーラは自らの失態を呪った。全身を襲う快感が幾度となく電撃となって彼女の身体を暴れまわった。
それを悟られまいと彼女は男の胸元へ顔を埋めているが、それは殆ど無駄な努力だった。
「いひぅ…あ…くひゃぁ、ひきょうものぉ………じゅるいぃ……ひきょうものぉ。わら、ひの中……イキまくってるぅ」
目の焦点が合わない彼女の視界はパチパチと光が埋め尽くしていた。
「ぅぅ、あううぅう 」
痙攣する身体に力が入らない。ただ襲い来る快楽と幸福感に
「悪いな。今回も、俺の独断場、だ!」
カーミラはただ受け入れるしかなかった。
ゴリュッ!ズチュッ!ドチュッドチュッドチュン!
「はぉおっ!?くひぃぃぃいい!?ぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!ぉぉぉぉんんんん!!!!」
間髪入れず始まる律動がカーラの喘ぎ声に知性が感じなかった。
気持ちいい気持ちいい
キモチイイキモチイイキモチイイ
きもちいい
とにかく気持ちが良くて、幸せだった。
「はんしょくぅぅ!はんしょくよこんにゃのぉぉぉお!!おなかいっぱい満たされてぇ!わらひがきえひゃうううううううう!!終わらないのぉ!子宮がびきゅんびきゅん震えてぇ気持ちいいのが終わらないのぉ!」
ギュルギュルと締まりだす膣壁が肉棒を絞り、早く出せとせがむように子宮口が吸いつく。
ぐぅ、と男が呻くと切羽詰まったように腰を動かし、スパートを掛ける。更に膨張する肉竿にカーラが歓喜の悲鳴を上げる。
「――っ!?あ、ああ!出すのね!?出すんでしょ!?」
「っ!ああ、どこが良い!?」
「なかぁ!なかじゃないと許さないんだからぁああ!」
恥も外聞もなくカーラが叫ぶ。彼女の手と足が背と腰に回され、逃がさないとばかりにガッシリとホールドする。彼女の欲望に応えるかのように男がトドメを刺した。
「あは、あっ、あっ、あ、あ、イグ!イグゥ!」
「ぐぉお!」
どびゅるるるるるるううぅぅぅごびゅっごびゅっごびゅぅうぅうぅうぅ!
「でひゃあああ!なかだひぃぃぃいい!しきゅうしぇいふくなかだひしゃれてぇぇええ!いぎゅうううううううううううううううううううう!」
びゅぐびゅぐごびゅるるるるるるるびゅくっびゅくっどくっどくっどくっ!
男の本能が一匹の雄として雌を孕ませようと脈動する。子宮の中を満たしていく白濁とした粘液がギュルギュルと胎の中を暴れまわる。カーラの子宮もまた一滴も余さず迎え入れようと子宮口を目一杯広げてパクリと亀頭を咥える。
「ぁ、ぁ、は、は■■■、■■■……しゅきぃ……あ、またイク、いっ…………クゥ………!」
うわ言のように呟くカーラ。熱のこもった息遣いで■■■の首筋を舐め挙げゆっくりと牙を突き立てる。余すことなく男を体内に取り込み、一つになっていく感覚が更なる絶頂を呼び、やがてカーラは、意識を闇に堕としていくのだった。
某戦艦の擬人化が流行っている中、書いたら出るという迷信に従い、書いてみた。
カーラはカッコカワイイ(至言)
11/26 地の文を微修正