※この作品はR-18です。

暇を持て余した男の話   作:カッコカリ

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あ~るぅえ~おっかし~ぞ~?エロ小説の癖にバトルものになってる不具合。

助けて!原作が息してないの!

前回のあらすじ

朧「ゆっくりしていってね!」


暇を持て余した男達の闘争のお話

「………」

 

「………」

 

 緊迫した状況をピリピリとした、ビリビリとしたなどと擬音語で表現するとしよう。ブラックと黄金の男、この二人が対面した時の音は、そんなものではない。

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 あえて表現するならこんな音だろうか。まるで世界そのものが揺れているような錯覚を受ける。覚束ない。足がでは無く、その下、地面が“覚束ない”。これまで経験してきた戦いにおいて跳躍、疾走、踏み込み、これらの動きで最も肝心なのは動かす筋肉と意思だろうが、それらを可能とする足場が必要不可欠だ。だが今、自分を支えてきた大地が、これほどまでに頼りないと思ったことは無い。

 

「………」

 

 イングリッドは知らず知らずのうちに、己が魔剣の鞘を握る力を強めていた。ホテルでの一件、侮ってなどいない。そう自負していたつもりだったが、ブラックの『親友』の一人であったことの意味を久しく忘れていたことに気付かされた。

 

 こうして脚に意識を集中させていなければ、跪きそうになる。後ろで控えていた女騎士たちは、もはや立ってすらいられなかった。

 

(お前達でさえそうなってしまうのか)

 

 内心でイングリッドは己を嘲笑った。

 

(日頃修行が足りないと言ってきたのに、私もとんだ体たらくだな)

 

 否

 

(それではブラック様の側近であるこの私の存在意義は無い!)

 

 一転してイングリッドの瞳に熱い炎が宿る。既に覚束なかった足場など存在していなかった。戦闘に一切の支障はない。彼女の視線が男と交わる。

 

「惜しいな………」

 

 気丈に戦闘の意思を見せるイングリッドに男は呟く。

 

「良い部下を持ったではないか。ブラック」

 

 一瞬、ほんの一瞬だけ懐かしむような遠い目をした後、一転して男は魔力を纏い、歩を進める。

 

「ブラック様には指一本触れさせん!」

 

 ショートソードを抜き放ち、上段からの袈裟斬り。見えない何かがそれを防ぐ。

 

「っ!」

 

 左手で鞘を手に取り、来る衝撃に備えた。

 

「くっ!」

 

 経験によって培われた勘が功を奏した。鞘は正確に左から来た見えない何かによる攻撃を防ぎ切った。

 

「ほう………防いだか」

 

「でぇぇいっ!」

 

 間髪入れずイングリッドが肉薄するが、剣の間合いに入る直前、イングリッドは後ろに跳んだ。

 

「っ!」

 

 顔の前を鋭い刃のようなものが通り抜けた。

 

「これは!?」

 

 更に後ろへ跳躍し、身を仰け反らせると、真上を何かが虚空を貫いた。

 

「くっ!」

 

 身体の側面を何かが上へ過ぎ去った。すぐさま態勢を立て直すと同時に跳躍。真下を何かが通り抜けた。

 

「ここか!」

 

 何かを確信したようにショートソードを振るうと同時に、見えない何かを刃が切り裂いた。一瞬だけ見えたのは、切り裂かれた細長い何かだったが、本体と切り離されたことによって高密度な魔力となってすぐに霧散。虚空へと消えていった。

 

 イングリッドの鼓膜を叩いたのは称賛の拍手。思わぬ展開に男は目を輝かせていた。

 

「ハッハッ!ハッハッハッハッ!驚いた!見事だ!僅かな時間でこれを見破るか!ブラックは本当に良い秘書を持ったものだ!」

 

「お褒めに預かり、恐縮でございます」

 

「否、礼を言う必要など無い。寧ろ貴様を侮った俺に非があった」

 

 ガガガガガガガガガガガガガガガシュ!

 

 男が指を振るうと同時に、イングリッドの周囲を土煙が舞い、柱のような何かが彼女を囲むようにして突き刺さった。

 

「本気でやろう」

 

(またあの見えない何かか?ならば全て切り裂く!)

 

 囲んだ何かは全て剣の間合いにある。イングリッドの魔剣ダークフレイムが炎を帯びる。

 

「ハアッ!」

 

 一喝一閃による回転横薙ぎ。だが―――

 

「斬れない!?」

 

 僅かに喰い込んだが、それ以上の進行を許さなかった。一度引き抜こうとするが、抜けない。ダークフレイムの炎が柱を焼こうとするが、一向に焼ける気配が無かった。

 

「くっ!」

 

 あの男は!?

 

 彼女の視線の先には一歩も動かず彼女を静観する男の姿があり、手をイングリッドへ向けて翳していた。

 

「俺を失望させてくれるなイングリッド。全てを出し切れ」

 

「っ!言われずとも!」

 

 漆黒の炎がイングリッドを包み込む。

 

「ハアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 魔力を高めながら、彼女は胸中に少しずつ膨れ上がるものに戸惑い覚えた。

 

 なんなのだこの男は。最初は疑問。彼の表情に険は無い。黄金の男が放つ雰囲気、先に放っていた覇気を克服しきった瞬間、イングリッドの目からはそのありようがまた別のものに見えてしまっていた。

 

 一連の先頭において、攻撃に殺気はある。だが、まるで敵意が無い。まるで信を置く忠臣に対して手ほどきをする主人を思わせる気安さがあったのだ。

 

 慢心か、それとも余裕か。

 

 いや、関係ない。

 

「ブラック様のご友人といえど、容赦は致しません」

 

 圧縮された炎が周りの柱を焼き尽くす。身に着けていたものは全て灰塵と帰り、その褐色の素肌を晒している。先の状態と違うのは、己が周りを飛ぶ炎でできた黒い竜。右手に握られていたダークフレイムとは反対に、左手には黒い炎でできた西洋剣に酷似したものが握られていた。

 

「高位の邪竜か。イイモノと契約した。それに二刀か」

 

 技術よりも手数を重視してきたか。

 

 男の手にナギナタが握られる。不意打ちとはいえ、イングリッドにとって自身の技を薙ぐだけで消された苦い経験がある。

 

「魔界騎士イングリッド。推して参る!」

 

「クク、ツクモとでも呼べ」

 

 足、背中からジェットエンジンのように漆黒の炎を吹き出し、イングリッドが距離を詰める。上段から斬りつける。ナギナタの刃が受け止める。下段からの斬り上げに、男が刃を弾きながらナギナタを回転させ、軌道をそらした。

 

 ドッ!

 

 身を捻り、男のソバットがイングリッドの腹部をとらえる。いや、反射的に下がったおかげでそのダメージは微々たるものだ。

 

「行け!」

 

 イングリッドの刺突に合わせて身にまとった黒炎が竜を形作り、男に牙をむく。

 

「真っ直ぐないい魔力だ。興じさせてくれる」

 

 男はナギナタを振るわず素手による手刀で黒竜を両断した。いつの間にか移動したのか、裂けた黒竜からイングリッドが現れる。

 

「ハァァァアアアアッッ!!」

 

 両の剣による高速の連続突き。それら全てが人体に致命傷となる場所へ放たれた。

 

「フッハハハッ!真っ直ぐすぎなのも考え物だな!」

 

 剣先を遮ったのは剣先。寸分の狂いもなく男のナギナタがイングリットの剣とぶつかり合った。彼女に特別動揺はない。むしろこうなることを知っていたかのように、イングリッドがさらに畳み掛ける。

 

 両断され、霧散していた黒竜の魔力が集約、熱戦となって左右から男に襲い掛かった。

 

「ぬ!?」

 

 反射的に身を仰け反らせたことで熱戦は外れたが、ナギナタの軌道が男の意図とは違うものとなって変わった。イングリットの目がカッと見開かれる。

 

 ―――ここ……!

 

 左手の黒剣が消え、左足から剣が形成される。

 

「だっ!!」

 

 脚力は腕力の数倍ある。誰でも、一回はこんな言葉を聞いたことがあるだろう。普段重い己の体を支える重要な役割を担うのだ。自然と筋力が発達するのは当然。

 

 魔力の放出を利用して空を飛ぶことで、今その時を限定して彼女の足は己が身を支える役割を失う代わりに、新たな武器を身に着け、腕力を凌駕したパワーを身に着けた第3、第4の腕としての役割を得た。

 

“………”

 

 男の視線が、ゆっくりと宙を舞ったナギナタを追った。そのナギナタがブラックの足元に突き刺さった。

 

 ―――好機ッッッ!!

 

“―――どうやら……知らず知らずのうちに”

 

 イングリットが身に纏う漆黒の炎全てをダークフレイムに集め、巨大な黒い剣を形作った。

 

“俺は………”

 

「もらったぁぁっ!」

 

 一回転しての一閃ッ!

 

 真一文字の斬撃が男を捉えた!

 

“惰性に浸りすぎたらしい”

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「………」

 

 ブラックは足元に落ちたナギナタを一瞥する。数万年。人間では途方もない時間の中、男とともに生きた武器。それが男の手から離れた。

 

「………」

 

 それに手を伸ばすと、まるで拒絶されたかのようにブラックの手が灰になった。

 

「我よりも途方もなき幾星霜の時を経ようが、変わらぬな。友よ」

 

 目を伏せて呟くブラックの声色は穏やかなものだった。

 

「そうだ。そうだとも。そうでなくてはな。貴様はそれでこそ貴様なのだ。■■■………」

 

 不敵な笑みを浮かべて、戦いを待ちきれないとばかりに魔力を燻らせる。視線の先には驚愕の表情を浮かべるイングリッドと、彼女の黒い大剣を肘と膝で挟むようにして叩き割る男の姿。

 

「さぁ、早く来い………!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「そんな………!」

 

「許せイングリッド。舌の根が乾かぬうちに俺は貴様を侮っていた」

 

 大剣が割れたことによって姿を現すショートソード、ダークフレイムを掴み、イングリッドを引き寄せる。

 

「俺からの手向けだ。全力で防げ」

 

 男の眼光が鋭い光を宿す。ゾッ、と背筋をなぞる寒気にイングリッドは全身の魔力を攻めから守るための鎧へと変貌させる。

 

「ガッ!?」

 

 いや、守りが追いつかない程のスピードで間髪入れず男が顎を掌底で打ち上げ、両足を払い、むき出しになった胴体に拳を振り降ろした。

 

 ゴガッ!!という破砕音で二人の立っていたアリーナのフィールドが円形状の罅を造り出した。

 

「………」

 

「ゲホッ!ガハッ!グッ………うぅ」

 

 叩きつけられ、咳き込むイングリッド。

 

 殺す気で殴った。だが、事前に警告した。そのおかげか深刻と言うほどのダメージではないようだった。

 

「楽しかったぞ良い戦いだった。次は、本来のお前と戦いたいものだ」

 

「ほん……らい?」

 

 最後にそう呟き、イングリッドは気絶した。

 

「イングリッド様!」

 

「イングリッド様ぁ!」

 

 戦闘の続行が不能となった彼女の身を案じる女騎士たちの声に、男が一瞥して指を振るうと、イングリッドの身体が女騎士たちの下へ宙を舞った。

 

「受け取れ。治療でもなんでも好きにするがよい」

 

 女騎士たちがイングリッドを受け取るのを確認し、その場を後にする彼女たち。

 

「………さて」

 

 男の視線が戻る。

 

 その先には依然として自然体で立て、不敵な笑みを浮かべているブラックの姿。

 

「ようやく来たか。待ちかねたぞ友よ」

 

「ブラック………」

 

 しばしの静寂が流れた。発砲音、悲鳴、耳をすませば聞こえてくるはずのアリーナ会場内では、まるで別世界での出来事のように思わせる。  

 

「こうして向き合うのはもはや星の数では足らんな」

 

「………そうだな」

 

「こうして目を瞑っているだけで貴様との戦いは昨日のように思い出せるぞ。どれもこれも心躍る戦いだった」

 

「………」

 

 懐かしむように両手を広げるブラック。

 

「貴様は此処を悪趣味と言ったな。我が友よ。だが、我ら魔族にとっては魂が渇望するモノを満たせる最高の場所だとは思わんか?」

 

「………」

 

「なにより思い出さぬか?1000年前、我ら二人で蹂躙したあの『世界』を!似ておらんか?このアリーナは我ら二人で作り上げたものを再現したものなのだ!貴様が忘れるはずがなかろう!?」

 

「………否定はせん」

 

 歌うように男に問いを投げかけるブラックは何時にも増して饒舌だった。心底楽しそうに、やがてその言葉には熱が籠る様になっていた。

 

「そうであろう!あそこでは我らを倒そうとする強い人間に満ち溢れていた。その中でも、あの『女』は最も強かった!」

 

 白銀の女騎士

 

「我ら二人を相手にして一歩も引くことは無かったあの強い人間!アレが居た時ほど楽しい生は無かった!そうは思わんか!」

 

「………」

 

 それは二人のターニングポイント。

 

「何が言いたい?」

 

「戦いたいのだ!また再び!あの生と死を分けたあの死闘を演じたいのだ!強い人間と戦いたいのだ!だからこそ友よ!」

 

 男の問いかけにブラックが距離を詰める。もはや目と鼻の先にまで二人の間の距離がつめられたところでブラックが静かに問いかけた。

 

「あ奴の死体は何処だ?何処へやった?」

 

「………1000年経っても、その考えは変わらんのだな。友よ」

 

 男の身体から魔力が立ち昇る。彼の足元を中心にしてアリーナがひび割れた。

 

「やはりお前が持っているのだな?“リリア”の死体を!ならば今度こそ貰うぞ!」

 

 張り合うようにしてブラックの身体からも闇が吹き上がり、爪が刀のように鋭利なものへと変わる。お互いの立ち位置は互いの間合い圏内、最高の攻撃力を放てる絶好の間合い。

 

「「ッ!!」」

 

 闇が刃となり男を襲う。見えない何かがそれを阻む。見えない何かがブラックを襲う。ブラックの闇がそれを阻む。互いの魔手の間を縫うように次の魔手を互いが出し合い、互いに防ぎ合う。

 

 男を襲う、男が防ぐ、ブラックを襲う、ブラックが防ぐ。

 

 襲う、防がれる、襲われる、防ぐ、襲う、防がれる、襲われる、防ぐ

 

 襲う、護る、襲う、護る、襲う、護る

 

 襲、護、襲、護、襲、護、襲、護

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護襲護

 

 風切音と火花。男とブラックの間で行われる魔手同士の高速の斬りあいに終わりは見えない。

 

 百か、千か、それとも万か、刃が果てしない数で交わりあった時、互いの魔手が耐え切れず同時に霧散した。

 

「オ゛オ゛ッ!」

 

「カ゛ア゛ッ!」

 

 鳴り響いた甲高い魔手の砕け散る音はゴングの代わりとも呼べた。男の刃とブラックの爪がぶつかり合った。二人を中心としたクレーターが出来上がった。

 

「ッ!」

 

「チッ!」

 

 力負けしたのはブラックの方。吹き飛ばした男の手に伝わった手応えは、あまりにも微弱。男の刃が当たると同時にブラックは後方へ跳んだことが容易にわかる。

 

 男が掌をブラックに向ける。ズルリと男の袖口から現れたのは、黒く長い砲身が二本。文明の利器、銃。その中でも重機関砲と呼ばれる部類に入る代物。

 

―――ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ!

 

 重機関砲と呼ばれるだけに、重厚な機関音を立てて、マズルフラッシュと共に鉛玉がブラックの身体を引き裂く。

 

「クッ―――」

 

 穴だらけになりながらブラックが嘲笑う。彼の身体が灰色の霧となって男へと襲い掛かる。

 

 ナギナタを握り直し、ヘリコプターのプロペラのように回して霧を四方へと散らせるが、霧が男の後ろで再び集い、ブラックを形作る。

 

「フハハハッ!」

 

「ッ!」

 

 下段から振り上げられた爪は男の胸元に浅い傷を刻み込んだ。

 

「戯けが」

 

―――残像だ!

 

「ッ!?」

 

 ブラックの心臓にナギナタが真上から突き刺さる。地面ごと串刺しになったブラックが再び霧となって難を逃れる。

 

 霧の状態のまま足だけが実体化し、男の顔面にブラックの靴底がめり込む。

 

「出て来い!」

 

 実体化し脚を掴み、一喝する。直後、霧が霧散し、ブラックの身体が現れた。

 

「ぬう゛ん゛っ!!」

 

 力任せに地面へ叩きつける。間髪入れず蹴りを入れてブラックの身体が持ち上げる。

 

 ナギナタを片手から両手もちへと変える。

 

 宙を舞った彼の身体に、踊る様にナギナタが剣閃を刻む!

 

「ゴッ!………はっ!」

 

 ブラックの口からどす黒い血が吐きだされる。

 

「フンッ!」

 

 後ろ手に男が背後に刺突を放つと確かな手ごたえ。そこに居たのは、もう一人のブラック。身を反転させ、突き刺したブラックをもう一人のブラックに叩きつける。

 

―――ゾブッ!

 

「ッ!?」

 

 胸を通った冷たい感触に男は一瞬だけ呆気にとられる。闇よりも深い黒の爪が、いつの間にか男の背後から伸び、貫かれていた。

 

「三人目………!?」

 

 三人目のブラックは男の影の中に居た。

 

「どうした!?以前よりも動きが鈍くなっているぞ!?」

 

「2000年程度しか生きたことのない魔神がほざくな!」

 

 態勢を立て直した他二人のブラックが男に跳びかかる。瞬間、ナギナタが煌めいた。

 

「ぬぅ!?」

 

 ブラックの視界が二つに別たれた。いや、ずれたと言った方が正しい表現だ。男に襲い掛かった二人のブラックが、真っ二つになったのだ。己が身体を通り抜けた感触は鉄の冷たい感触。

 

 剣

 

 男の両手に握られたのは、黄金の剣が一振りずつ。ナギナタだったものが、二振りの剣となって存在していた。

 

―――ゴッ!!

 

「ッ!?」

 

 休む間もなく、影に潜んでいたブラックを剣で突き刺す。

 

「戯けが!いつまで人の身体に手を突っ込んでいる!」

 

「オぉッ!?」

 

 影から無理やり引きずり出されたブラックの心臓と脳に、剣を突き刺す。

 

「(まだだ!)オオオオオオオオオオッッッ!!」

 

 そのまま地面へ叩きつけ、さながらおろし金ですりおろすかのように、駆けだす。そして、力任せに壁へと叩きつける。

 

「何故だ!?何故そこまでリリアを求める!?」

 

 流石の不死性なだけに、脳と心臓を同時にダメージを与えても、ブラックに応えた様子は無い。二の腕でブラックの首を抑え込み、問う。

 

「知れたこと!あの甘美な闘争の為!我が欲望を満たすために!」

 

 ただの刺激だけでは己の渇望を満たせるものは存在しない。己が死ぬかもしれない、そのギリギリのスリルを味わうためには、あの白き姫騎士を手に入れるしかない。

 

 故にブラックは求める。彼女を連れ去った男に、姫騎士リリアの遺骸を掠め取ったこの男■■■に。

 

「あ奴は人間としての生を全うした!ヒトとして生き抜いたのだ!」

 

 ブラックの手が男の首元に伸びる。首を締め上げ、無理やり引き寄せた。

 

「だからどうした!?死など我らの力があれば容易に覆せよう!欲しいものは奪えば良い!何が阻もうと蹴散らし、我がものとする!それが魔族だと『俺』に教えたのは貴様であろう!?」

 

「~~~~ッ!」

 

 “嗚呼、なんと”

 

「ヅァッ!?」

 

 ブラックの身体から膨れ上がった魔力が闇となり、男の身体を刺し貫いた。

 

「グゥ!?」

 

 ブラックの身体に刺さった剣を見えない何かが抜き取り、男の手に収まる。

 

 “なんと女々しいことか”

 

「クククク………」

 

 不敵な笑みを浮かべるブラックが跳躍する。爪を研ぎ澄ませ、男の命を刈り取らんと両手を広げる。

 

「クッハハハハハハハハ!!」

 

 ブラックの哄笑が鼓膜を震わせる。

 

「チィ!」

 

 両の剣に膨大な魔力を巡らせ、斜め十字に空間を切り裂く。ブラックに向けられたそれは、決して無意味に振ったのではなく、巨大な飛ぶ斬撃と化した。

 

 もろにそれを喰らったブラックが再び地面にたたきつけられ、土煙を巻き上げた。

 

「だからこそ、俺はお前から離れたのだ」

 

「クククク、楽しいなぁ、友よ」

 

「この………!」

 

「もっと、もっとだ!もっと楽しもうではないか!」

 

「大戯けがッッッ!!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 時は少々遡る。男がスイッチを押して爆発させたことによって、混乱を極めていた。その中で、闇に紛れて動く二つの人影。

 

 井河アサギと井河さくら。

 

 二人は大事な家族とも呼べる沢木恭介を救うために逃げずにノマド本部内での捜索を行っていた。

 

「マダムからの連絡はあったか!?」

 

「まだです!一体どうなってるのやら、状況が掴み切れません!」

 

「チッ!ならまず立ち往生してる金づるどもを避難させろ!下っ端に連絡しろ!それくらいは出来るだろう!」

 

 怒号飛び交う中、二人は会話もなくノマド内部を駆け回る。恭介の居場所は既に掴めている。実験動物たちが収められている地下、その最深部に恭介が居ることが分かった。

 

「お姉ちゃん」

 

「………」

 

「恭にぃ、大丈夫かな?」

 

「………………」

 

 アサギは答えない。いつもの強気で、生気に満ちた表情はうかがえない。

 

「………」

 

 さくらとて分かっていた。この世界で、楽観視できるものは存在しえない。最悪の展開が脳裏を過る。

 

「!………着いたぞ」

 

 着いた。着いてしまった。恭介が居るフロアが記されている。

 

「ここが………」

 

 人知れずさくらが呟く。

 

「……………開けるぞ」

 

 お願い、無事でいて………!

 

 逸る気持ちを抑えながら、奇襲を警戒してゆっくりと扉を開けた。

 

「!」

 

 開けた視界。その先には―――

 

「いない………!?」

 

 誰も居ない、無人の実験フロアだった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 場所はアリーナへと戻る。

 

―――ゴガァッ!!

 

 アリーナ中心部に叩きつけられた人影から、やや離れたところ、そこにワンテンポ遅れて誰かが降り立つ。ほとんど道士服が服として機能できないほどにまでボロボロになった傷だらけの黄金の男。二刀持ちだった二振りの剣は、再び連結し、元のナギナタへと戻っている。

 

「ぐふっ!……かはっ!」

 

「………」

 

 仰向けになって倒れ伏すブラックに、男はナギナタに全魔力を集中させる。ヒィィィィイイイイ!と徐々に神々しい光を強めながら甲高い音となっていく。

 

「クク、クククク………やはり、お前との喰いあいは、堪らんなぁ。なぁ、そうであろう?」

 

「そうだな。否定はせぬ。だが、お前はやりすぎた。そして、その原因を作った者として、責任くらいは取らせろ」

 

 ナギナタを掲げ、握る手に力が籠められる。

 

「それで、俺は殺せんよ」

 

「知っている。だがもう眠れ。決着はまた今度だ」

 

「ククク、それは残念だ」

 

 まさしくとどめの一撃へと入ろうとしたとき。

 

「!」

 

 男は後方へ飛びのいた。地を割り、男の足元から間欠泉のように現れたのは、大の大人も簡単に丸呑みしてしまうほどの、巨大な緑色の蛇。

 

「あら、こんな楽しい催しがあったなんて聞いてないわ」

 

 アリーナには観客席からの出入り口と、戦う選手たちの出入り口が存在する。

 

「………」

 

 その声は、選手の出入り口から聞こえた。闇に包まれた通路の中でヒールが床を叩く音が木霊する。

 

「大急ぎで来ちゃったから、不躾な部分は許して頂戴」

 

 男の視線が声の方に向けられる。流れるように降ろされたエメラルドの髪、獰猛な金色の瞳、際どさを重点に置いたブルーの選手用のスーツとそれに合ったグラマラスな身体のライン。朧のような形容に使う蛇のような、ではなく、蛇そのものであることを観る者に痛いほど伝えた。

 

「はぁい。お久しぶりね」

 

「カリヤ………!」

 

「ここではスネークレディで通ってるの。ましてやここはアリーナなんだから、そっちの名前で呼んで頂戴」

 

 そういってスネークレディ、ナーガ族の長カリヤが男に様になるウインクする。

 

「………」

 

「まぁ、怖い瞳。素敵すぎて子宮がキュンキュンしちゃうわ」

 

「なんのようだ?」

 

「あら、分からない?私も混ぜてもらおうと思ってるのよ。少し試したいこともあるしね」

 

 それにしても、と呟き、カリヤの視線は倒れているブラックに向けられる。

 

「ブラックがやられちゃうなんて、やるじゃない。相変わらずパワフルで惚れちゃいそうだわ」

 

「今とどめを刺すところだ。これが終わったら次はお前だ」

 

「まぁ怖い。でも、随分と余裕がないじゃない?貴方らしくない」

 

「………何が言いたい?」

 

「心配しないで、私は戦わないわ。少し遊ぶだけよ。それに、私荒事は嫌いだし、痛いことよりは気持ちいいことの方が良いでしょう?」

 

 どの口がそれを言う。

 

 男の内心の呟きはカリヤには伝わらない。彼女が指を鳴らすと、アリーナ出入り口から一体の異形が現れる。

 

「紹介するわ、朧ちゃんのお気に入りだった」

 

 “沢木恭介くんよ”




○月×日

 あの男の細胞の研究をしてまだ三日しか経っていないが、私はどんどんあの男の力に魅入られてしまう。

 際限なく変異を繰り返し、優秀な遺伝情報が採取できる。一定量のストレスを与えるとより強い細胞となって昇華される。

 最高の実験材料だ。もはやただの肉塊ではない。一つの生命体として活動を始めようとしている。警戒の為にこれまでの実験結果で最も効く毒物が判明した。不死性の高い魔族のような再生能力は無いからいざとなればという備えは10通り程あるが。

 この優秀な細胞を使って一種の生態兵器を作れないだろうか。あの男に対抗しうる存在を作るという計画。

 信用できる部下を集めて会議を開いてみるか。

 
○月×日

 あの男何ということを!?ブラックに喧嘩を売るなど………!一度拠点を変えて雲隠れした方がよさそうだ。




捕捉

※姫騎士リリア
 lilith作品より。原作と違い、出身世界が修羅の国
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