前回のあらすじ
主人公 がおー>(「・ω・)「
し====U
(♯^ω^)ビキビキ
カリヤ Σ(・ω・ノ)ノ
「ぐがああぁぁあああ!?」
男が沢木恭介を切り捨てた時より少し時間を遡り、場所は変わる。
夜の闇が支配する暴力と堕落の歓楽街で、悲鳴と怒号、銃声が響き渡る。路地裏、道路、歩道、建物の屋上、そこかしこに魔族の死体が積みあがっていた。大凡百や二百では収まらないその数の中、未だ戦争さながらの戦いは続いていた。その間、『草』が受けていた損傷は極めて軽微だったが、一人の『草』の悲鳴が響き渡ったのを皮切りに、事態は大きく変わる。
「!?」
尋常ならざる悲鳴。『草』たちの視線がその悲鳴へと集まる。纏わりつく様に黒い何かが『草』の一人を串刺しにしていた。
「闇!?闇を使役しているのか!?」
『草』を串刺しにしたのはブラックと同様、闇を造り出し、物理的な概念を込める高位の魔族、それも限られた存在にしか許されぬ稀有な能力だ。
「まさか、この力は!?」
そんな力を使える魔族を彼らは知っていた。
There is a tide in the affairs of men.
人の成すことには潮時というものがある。
静かとはいえない月夜の中―――
Which, taken at the flood, leads on to fortune; Omitted,
うまく満ち潮に乗れば成功するが、その期をのがすと
―――鈴のように透き通るような女の声が木霊した。
all the voyage of their life.Is bound in shallows and in miseries.
一生の航海が不幸災厄ばかりの浅瀬につかまってしまう。
例えるならばそれは―――
「今の貴方たちを例えるなら、これかしら?」
―――声だけで人を魅了させる魔性を秘めていた。
「!?」
いつの間にか、周りに居た魔族の雑兵たちは消え失せており、『草』たちの視線は声のした上へと向けられる。
「――――――――」
月を背にして、椅子に座っている女が居た。その女は宙に浮かんでいた。
その女は片足を組んで本を片手に『草』へと語り掛けていた。
宝石を散りばめた首飾り、羽毛を飾り付けたドレスには深いスリットが入り、太ももにあるガーターベルトが妖艶さを際立たせている。だが、決して娼婦のような下品さは無く、女王を思わせる気品とそれに足る威圧感を兼ね備えていた。
「シュヴァ………リエ………!?」
不覚にも『草』たちはそれに魅入られた。
特徴的な長い耳が覗く銀髪が夜風に揺れる。女はそれを優しく手で抑えながら、ルビーさながらの吸い込まれるような瞳が『草』たちを一瞥しながら優しく微笑んだ。
「そう、私がシュヴァリエよ。つまらない命令が来たから早めに終わらせようと思ったけど、中々面白い魂達が見れたわ」
「………は、班長」
「まだ動くな。だが、用意はしておけ」
班長と呼ばれた『草』の一人はあくまで平静そのものだった。部下の不安とも取れる口調に対し、士気を落とさないために班長は率先して前に出ていた。
「まるで熟成された芳醇な高級ワインのようだわ。そこまで行くのには相当な年月が必要になるのだけれど、貴方たちはどこからどう見ても人間。輪廻転生を繰り返し、その都度魂は真新しいものに変わるのだから、そんな魂を持てるのは本来ありえない。………けど、貴方たちは違う」
「ッ!(この女)」
―――一目見ただけで『我ら』を識ったというのか!?
傍目から聞いても決して理解できぬ会話。だが、シュヴァリエと『草』のみがソレを理解していた。それ故に、一瞬だが『草』の意識が逸れた。
「皆そんな面白い魂の持ち主なのかしら。貴方たちを集めた存在、少し興味が出たわ」
「ッ………全員退避!第二班班長は一班に伝達!すぐに主様に報告しろ!」
「了解ッッ!」
『草』の決断は早かった。此処で戦闘を行うのではなく、自軍の損害を最小限に抑えることを第一に考え、行動に移した。
指揮棒を振る指揮者のように、シュヴァリエのしなやかな指が振るわれた。
「夜の闇は私のテリトリー。貴方たちは既に私の腹の中よ」
光の届かない闇が触手のようなものになって『草』へと襲い掛かる。
「闇ならば光だ!聖光手榴弾!投擲せよ!」
状況を正確に把握できる冷静さを持った『草』の班長。その一人の命令と共に、丸い金属製の玉を一斉に投擲した。
―――カッ!
破砕音。玉が割れると同時に溢れだす真っ白な光は、シュヴァリエの出した槍のように鋭い闇を砕いた。
「まぁ、祝福儀礼が施された光ね?………ふふ、でも、私だけだと思わない方が良いわ」
「なに!?」
―――殺気
『草』の一人が感じ取った確かな気配。宵闇に紛れ込んだ凶刃を持っていた忍者刀で遮り、身を翻した。
―――ガッ!
「ッ!」
背中が熱い。痛みと共に背中に走った傷に『草』が顔を顰める。視界の端で捉えたのは異形の爪、数個の関節が付いた細長い虫の脚と、鋭い爪、先には『草』の身に纏った服が引っかかっていた。
『草』はすぐさま次の行動へと移る。
小太刀を手に取り、忍者刀と二刀流で襲い来る敵に対して構える。
予想に反して敵は早かった。金色に光る瞳が目の前にあった。
「………クスッ」
虚空に消え入るようなほくそ笑むような声と共に、『草』の背中に腕が回された。優しく、包み込むような、愛情さえ籠ってそうな愛おしさを感じさせる動きだった。
「~~ッ!くっ!」
見た目に反してその殺気は濃密。惑わされず『草』は小太刀を振り降ろそうとした。
―――ガブゥッ!
「ガッ!?………ぁ!?」
だが、遅かった。草の首元に少女の牙が突き立てられた。瞬く間にその身の水分が吸い取られ、干物のようにやせ細り、呆気なくその命を吸い尽くされた。
「ッ!!」
それを見ていた『草』の一人が方向転換しようとし―――
「止まるな!走れェ!」
「~~~ッ!くそ!」
班長が呼び止めた。
再び駆け出し、とにかく戦線から離脱することだけを最優先に『草』たちは動く。
「主様と渡り合えるだけはある。我々の動きも見通していたか」
「班長、あれは吸血鬼では?」
部下の一人が問いかけに班長はいや、と頭を振る。
幼い少女の見た目をしており、服装は白いベビードールの上からマントを羽織っていた。流れるような銀色の髪、額に見えた四つの複眼に褐色の肌。そして、背中から生えていた蜘蛛の脚。
「アレは、蜘蛛姫アネモネだ」
班長は答える。
蜘蛛姫アネモネ。二つ名の通り、蜘蛛の魔族、アラクネ族の中でも王族に位置する彼女は幼い見た目ながら、その実力は他のアラクネ族の追随を許さない。アラクネ族特有の糸を操る能力を持つが、背中から蜘蛛の脚を生やして接近戦を行えるなど、近中遠と隙を見せない。
一人であれば対策の仕様はあったが、シュヴァリエが居る。幸いにも、『草』の移動スピードは彼女たちでは追いつけない。
だからこそ、逃げる。自分たちは陽動だ。逆に考えれば、これほどの実力者の気を引けただけ、儲け物と言えよう。
闇を避け、霧を払いのけ、建物の屋上から、別の建物の屋上へ、壁を伝い、光の差す場所に前へ前へと突き進む。
「良い判断をしているわ」
シュヴァリエは素直に『草』の班長の判断に賞賛の声を零した。
自身との力の差を理解し、早急に戦線を離脱して戦力の温存を図る。使い古された名将の戦術だが、使い古されるということはそれだけ役に立ったということだ。
「だからこそ読みやすい手だわ」
同時に、シュヴァリエの言う通り、使い古されるということは過去に幾つも対策が為されたということ。
―――ズオッ!!
蠢く音が大きく響いた。『草』の前方に闇が集い、膨れ上がっていく。やがて、月明かりに照らされた巨大な物の全容が明らかになっていった。
一言で表すならば黒い巨人。
全高は見上げるほどに高く、その表面は黒く光沢を持った騎士を思わせる鎧を身に纏っていた。片手に禍々しい黄金の剣を携え、『草』たちの逃走を邪魔していた。
「突破する!」
『草』たちは有無を言わさず聖光手榴弾を投擲。上位魔族の中でも最上級の魔族、あのブラックに匹敵しかねないと言わしめたシュヴァリエの扱う闇でさえ払った聖なる光で闇の巨人を浄化、消滅させようと試みるが。
「ッ!?ばかな!?」
消えない。聖なる光は巨人の表面を削り取るだけに終わった。巨人の持っている剣が横に薙いだ。ゆっくりに思えるがそれは巨大故にそう見えるだけで、迫り来る壁は『草』全員の命を刈り取る凶器。
跳躍し、一時後退する。だが、『草』の脚は止まった。
そんな彼らを囲むように三人分の足音が耳に入った。
一人はシュヴァリエ、もう一人はアネモネ、そして最後は
「あら、私が最後?」
ふわふわとカールがかかった金髪、特徴的な金属製のカチューシャに、髑髏のネックレス、露出の激しいボディスーツを身に纏った妙齢の女性。
「まぁ、どうでもいいけど」
名を魅龍と言った。
◆◆◆
「きっさまあああああああああああああああああああああああ!!!!」
「お姉ちゃん!」
忍者刀を抜き放ち、鬼気迫る形相で咆哮、跳躍する。恋人を殺された怒りは自身のスペックを限界まで引き上げられていた。
「ウオオオオオオオオッ!!」
カリヤが呼び出したオーク達魔族を斬り捨てながら、まっすぐ男の下へと駆け抜ける。
「………」
しかし、男は動かない、ジッと沢木恭介だった肉の塊を見つめているだけだった。相手が無防備を晒しているからと言って、アサギに容赦の二文字は無かった。
「行かせないわ!」
主へと襲い掛かる刃を止めたのはティア。腕に魔力を纏い、アサギの忍者刀を受け止めたことによって、二人の間に火花が散った。
「どけぇ!」
「聞きなさい!ご主人様にはまだ考えが」
「五月蠅い!」
「ぐぅっ!?」
強引な力技で、忍者刀を振り抜き、ティアを吹き飛ばすアサギ。間髪入れず彼女は印を組み、術を行使する。
「忍法・殺陣華ぁ!」
「!」
忍法・殺陣華
アサギが得意とする分身の術であり、最大で数百体までの分身を繰り出し一度に複数の敵を葬ることができる。しかも視界の届く範囲なら、戦闘機がターゲットをロックオンしたかのように分身をどこでも一瞬で繰り出すことができる。戦闘系の忍術では最強に近い術。
男の懐から5人のアサギが現れ、すれ違いざまに切り裂く。同時に、新たな5人のアサギが現れ、男の身体に忍者刀を突き立てる。
「死ねえええええええええ!!」
憎悪と憤怒が混ざり合った渾身の兜割り。男の身体を逆八文字に切り裂いてやろうとした。
だが―――
ギャギィィンッ!
男のナギナタが受け止める。
「クッ!?」
「気は済んだか?」
ドンッッッ!!
「ぐああああっ!?」
爆発したかのような魔力の放出で分身のアサギは消し飛び、アサギは吹き飛ばされるが、見えない何かがアサギを引き寄せる。
「それよりも手伝え。お前は雑魚を殺せ。俺はブラックを殺す」
「黙れ!よくもぬけぬけと………!よくも恭介を殺してくれたな!」
「少々惜しいが、アレの魂はもうだめだ。ブラックとカリヤが弄繰り回してくれた所為で原形をとどめておらん。出来るとしたら、少しだけ寿命を延ばしてやることくらいだ。どうせならいっそ、殺してやった方が身のためだ」
「ふざけるなぁ!貴様の所為で」
怒りに身を任せて詰め寄るアサギが男の胸倉を掴み上げる。
「よそ見はいけないなぁ友よぉぉぉ!!」
下半身を霧状にして高速で低空飛行するブラックが男に襲い掛かる。咄嗟に男はアサギを突き飛ばすが、自身の回避行動にまでは時間が無かった。
「ッ!」
ブラックの手が男の顔面を鷲掴み、高く飛びあがる。
「ふはっはっはっはっはっはっはぁぁ!」
アリーナの端、固い壁に男の頭部を叩きこみ、押し付けたままアリーナを一周させる。普通であれば、おろし金ですりおろされる野菜のようになってしまうだろう。
「………!」
だが、指の間から見える男の眼光は変わらず鋭さを宿らせていた。ブラックの腕を掴み、力任せに握りつぶしたあと、強引に腕を引きちぎった。
お返しとばかりに、男はブラックの首元を握りつぶすほどの握力で掴み上げ、ヘリコプターのプロペラのように全身を回転させながらアリーナ中央に叩きつけた。
倒れ伏したブラックはすぐさま霧状に身体を変化させ、男から距離を取った。
「しつこい男だ。いい加減に死ね」
「ククク、まだだ。我らの戦いは永遠に終わらん」
「そんな貴様では、一生リリアには届かんさ」
男は一度ブラックから視線を外す。
「………くっ!」
男の施した術が切れたことにより、アサギは対魔忍としての力を十全には発揮できなくなっていた。先ほどの殺陣華で限界が来てしまったらしい。うつ伏せになって必死に身体を抑え込もうと震えているが、その瞳に宿しているのは怒りと、そして悲しみ、しかし、何が何でも生き抜き、男を倒すための考えを巡らせていることが分かった。
「そう見つめてくれるな。穴が空いてしまいそうになる」
「ふざけるな・・・!貴様は、私が絶対に殺してやる」
「こうなる原因を作ったのはブラックだ。恨むなら奴を恨め」
「当然だ。だが、お前も絶対に殺してやる。恭介を殺した貴様を・・・!」
「五月蠅い女だ。助け出せなかった役立たずが喚くな」
「ぐぅっ!?」
男の脚がアサギの頭部を踏みつける。憤怒の炎を燃やすアサギとは違い、男は冷ややかだった。
「お前は恋人を助け出せる力がなかった。動かせる人材も、コネもなかった。挙句の果てには責任すら果たせなかった。それはお前のミスだ」
「ッ!!」
男の言葉に僅かにアサギの目に動揺が生まれた。男は続ける。
「女としての井河アサギ、対魔忍としての井河アサギ、今のお前はどっちだ?」
既に男の脚はアサギの顔から離れていた。
「あまり、俺を失望させるな」
「………」
―――返せる言葉すらない、か。少々いじめすぎたか。
男は消え入るような短い溜息を吐く。
「仕方あるまい、そろそろ、ネタ晴らしと行こうではないか」
「?」
身を起こしたアサギが見上げた男の表情は薄い笑み。意味深なソレは、何らかの策があることを彼女に予感させた。
男の視線の先には、恭介の遺体を背後に魔族を引き連れたブラックの姿。
「平気?ご主人様?」
ティアが男の傍に降り立つ。その反対側にはシェンフーも居た。
「申し訳ありません。お待たせいたしました。ご主人様」
「善い。して、準備は?」
「万事滞りなく」
そいつは重畳。
男の笑みは深みを増した。
◆◆◆
―――暗い………。いや、真っ黒なのかな………。
―――なにもかもが真っ黒で、夜よりも暗い。
「………ぉぃ」
―――………何も見えない。何も………
―――そもそも、俺は………僕は誰だっけ?
―――それに………なんか、眠い
「おぃ………」
―――このまま………融けてしまいそう
「おい」
ゲシッ!
「ごふぅ!?」
視界が幾度となく反転して、逆さまになった状態で止まった。
「少々ショック療法ではあったが、効果はあったな。さて、ようやく気が付いたか。気分はどうだ」
「あ、貴方は?」
人体の黄金比を兼ね備えた容姿、黄金の瞳、黄金の毛髪、神が自らふるいにかけて厳選したパーツで組み上げたかのような端正な顔立ち。この時彼、沢木恭介は―――
「ツクモと呼べ」
目の前の男は、まさしく神の使いのように思えた。
「一応聞こう。貴様の名前は?」
「ぇ、ぁ、さ、沢木恭介と言います」
高圧的な口調に対して尻すぼみになりそうな心を奮い立たせて恭介は自身の名前を口にする。
「………意外だな。名前を覚えていられる程自身を保っていられるか………ただの人間にしては徳の高い魂だ」
「?」
男の呟きは恭介には聞こえなかった。
「今の状況、これまでの経緯を覚えているか?」
「経緯………ッッ!」
男の言葉によって、途端に表情を苦痛で歪め、苦虫を噛み潰したようなソレになる。
「僕は………そうだ………!」
思い出した。思い出してしまった。
「あの、化け物たちに………」
肉体を改造されたときの激痛、苦しみ、理不尽に対する怒り。それらがない交ぜになった心が辺りをざわつかせたが、ふと、恭介は自身の今いる場所がどういうところなのかが気になった。辺りは真っ暗だが、彼の心象を表すかのように頻りに水面を踊る波紋のようなものが発生していた。
「あの、ツクモさん」
「うん?」
「ここは一体?」
「貴様の魂があった場所だ」
「魂が『あった』?」
「うむ。貴様の肉、精神、霊体、魂魄に至るまで、貴様と言う存在は化け物どもに改造された。此処に居る貴様は、その残滓、俺が集めてひとまとめにした後、隔離して一時的に意思疎通が出来るまで戻してやった」
「そんなことが出来るのですか?」
「俺に不可能は無い」
「………」
唖然としてしまうが、不思議と彼の言うことに納得できてしまう自分が居た。絶対の自身に満ちた表情、雰囲気、どれもこれもが、普通の人間には無い巨大な何かを秘めている。
凡俗な考えながら沢木恭介が男、ツクモに対するイメージが定着した瞬間だった。
話を戻そう。
ここは自分の魂があった場所。そして、今の自分はその残滓を集めて形作られた味噌っかすともいえる状態。周りの真っ暗な世界は、恐らく、もともとあった魂になり替わった何かの魂なのだろう。
沢木恭介は学のある人間だが、オカルトというジャンルに置いては自慢できるほど造詣は深くない。ましてや、いきなり非常識的な状況に放り込まれて、身体を好きに弄られたのだ。劇的に変わる状況についていけるわけがない。
挙句の果てにこの状況である。だが、一つ分かったことがある。
「僕は、死んだんですね」
「―――――――――」
数巡の考えの後に導き出した問いは、男の表情に呆気という色を叩きつけた。
「自分で回復させたのもなんだが、貴様本当にただの残滓か?この俺がよもや見誤ったというのか?」
「良く分かりませんけど、少し考えたらそう行き着きませんか?」
恭介の問いに男は頭を振った。
「違うそうではない。普通の人間は知らず知らずのうちに死んだ己を認められんものだ。ましてや、死に場所を決められず勝手に殺されたのだ。怒りを覚えこそすれ、そんな達観した考えなど浮かぶまい?」
「それは、勿論怒りますよ。でも、それよりも僕は知りたいことを思い出したんです」
「ほぅ?」
無言で男は続きを促す。
「僕の恋人、井河アサギに付いてです。きっと、彼女は戦ってるんですよね?」
「聡い男よ、その通りだ。井河アサギは貴様を助けるために戦っている」
「でも、僕は」
「その通りだ。貴様はもう助からん。そして、井河アサギはその事実を知らん。今も貴様を助けるために必死になって戦っている」
面と向かって事実を言われる恭介。気落ちはするが、暈して言われるよりは良かった。
「………」
少しだけ、恭介は俯きがちになったが、次に顔を上げる時には悲しみは形を潜め、人を助けるための『男』の顔つきになっていた。
今目を向けるべきは今後のこと。この状況から見てただ戯れに自分を残滓を集めて話をするために来たわけではないのは明白だった。
「僕は何をすればいいんですか?」
「……く」
男の口元に笑みが浮かぶ。
「ふっはははははは!ハーッハッハッハッハッハッハ!」
次いで哄笑。意外や意外。助からないと見るや、残り僅かの命を恋人の為に燃やし尽くそうとしている。風前の灯火が、まるで地獄の業火に匹敵しているではないか。
「愛か。これだから人間は度し難く、見飽きんのだ」
―――見事だ。実に見事だ人間。お前は正しく、『人間』を貫き通した。
「沢木恭介、俺と取引をせんか?」
男はある提案を、沢木恭介に問うことにした。
◆◆◆
「ティア、井河さくらを連れて来い」
「ええ」
「え、え?」
突然名を呼ばれたさくらが戸惑いの声を零す。先ほどまで蚊帳の外だった彼女にとってはある意味では不意打ちだった。有無を言わさずティアが彼女を抱え上げると、再び男の傍らに降り立った。
「ブラック」
「?」
「悪いが今日はここまでだ」
「馬鹿な、まだまだ終わらんぞ」
「戯け。俺が終わりと言ったら終わりだ」
その時、事態は一変した。ブラックのすぐ背後、沢木恭介の指がピクリと動き出し、ゆっくりと立ち上がった。この時、ブラックは自身の玩具がただ傷を癒し復活をしたのだと思った。自分たちの闘争に終わりはない。配下を次々と向かわせ、殺し合わせ、さながら終わりのないチェスのように。
―――俺が出すのはお前とアサギとの最後の逢瀬の時間
駒は所詮駒。自身の目的を達成させるための道具でしかないと。そのためなら、自信を想い慕う騎士であろうと、自身が作り出した忠実な人間≪クローン≫であろうと。犠牲を厭わなかった。
そう、この時彼は知らず知らずのうちに軽んじてしまったのだ。
彼らにも心があり、場合によってはここぞというところで離反することもあるということを忘れていたのだ。力の差を抜きにして、向かってくる存在を。
―――お前が出すのは俺に従う忠誠心と………
その名は………
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
―――俺にブラックの驚いた顔を見せることだ
ドゴォォオオオオッッッッッ!
「ゴハァッ!?」
沢木恭介のような人間だ!
日記形式ではありますが、SCPの二次創作を試験的に投稿しました。良かったら見てってください。