運営は金を稼ぐことだけじゃなくてユーザーから気持ちの良いコメントを貰いたいとは思わないのだろうか・・・。
まぁ、それはそれとして、さあ~巻いていきましょ~う
前回のあらすじ
篠原まり「きゃーーー!助けて―――」
主人公「わっはっはっはっは!俺の名はツクモマン!今日からお前は俺のカキタレになるのだ!」
「ゲーム、ですかぁ?」
「そうだ。先にも言ったように、貴様が勝てばこれ以上貴様らに干渉もせん、諦めて別の人材を探すとしよう。しかし、お前が負ければ俺のモノになる。ハイリスク・ハイリターンだが、どうだ?受けるか?」
「………」
篠原まりは一考する。男の実力は未知数だが、ブラックと正面を切って戦えるこの男に実力で勝てるかどうかは望み薄なのが正直なところだ。だが、彼女に選ぶ権利などあって無いようなものだ。桃子はあちらに留まる気でいる。男が納得する勝ち方でなければ、ずっとこのままだ。
「確認をしても良いですか?」
「なんだ?」
「そのゲームはちゃんと公平なルールでしょうか?」
「当然だ。自分に有利なルールなぞこの俺が許さん」
出来るとしたら少しでも有利に運べるよう、細心の注意を払うことしかできない。
「………わかりました。貴方のゲーム、受けましょう」
篠原まりは腹を括った。男の顔に笑みの表情が浮かぶ。
「良く言った。ならばルールを説明しよう。お前はいついかなる時でもどんな手を使っても良い。お前が俺に傷の一つでもつければお前の勝ちだ。しかし、一度も傷を付けることが出来ず、お前が諦めて負けを認めれば、ゲームは終了。お前は俺のモノとなる。裏を返せば諦めずに何度もチャレンジをすれば負けは無い。実に簡単だろう?」
「貴方の実力を考えればこれでもまだ不利だと思いますけど」
「まぁ、当然だな。だからこそ、いついかなる時であろうとあらゆる手を使って俺に傷を付けろと言ったのだ。他の女と一緒であろうと、寝ている時であろうとな。篠原まり、貴様の知恵の見せ所ぞ?」
男は一度間を置き、続ける。
「しかしだ。これだけではとても味気ない。こちらばかりがやられっぱなしというのは性に合わん、闇討ちに失敗した場合、貴様にはペナルティを与える」
「ッ!」
いったいどんなことを強いられるのか、身構えるまりに男はニヤリと唇の端を吊り上げる。端正な顔立ちなためかその様が実に似合っているのが逆に腹立たしい。
「闇討ちに失敗した場合、俺と一晩付き合え」
「ッ!?」
ボッ!と爆発させたかのように一気に顔を紅潮させるまりに、男はクックック、と唸るような笑みを零す。
「生娘には少々刺激が強かったか?安心しろ。褥を共にするとはいえ処女を奪うつもりはない。お前が負けを認めない限りはな。回数は失敗した日を1とし、失敗した日にちごとに付き合う回数は一つずつ増えていく。俺が夜自室に呼んだ場合は、そういうことがあるということを覚えておけ」
「る、ルールはこれだけですか?」
「いや、まだある」
「ま、まだあるんですかぁ?」
「お前に有利なルールだ。先も言ったように俺は自分だけに有利なルールにしたりはせん。そこでだ。お前は俺に対し条件を提示することが出来る。ゲームをしている間 “~~をしてはいけない” 逆に “~~をする” “~~を禁ずる” などと言ったものを俺に命令することが出来る。ただし、夜を共にすることを禁止するのは無しだ。ペナルティそのものを消されては叶わん」
「………条件は何個まで可能なんですか?」
「一つ、と言いたいところだが特別に二つにしてやろう」
二つ、ですか………。そう呟くまりは一度思考を巡らせる。桃子が言っていた勝負と同じく、何かしら男に対して制約を課して出来る限り有利な方へと状況を傾かせる。桃子の場合は一つだったが、今回は二つ。選択の幅が広がっただけありがたいことだった。
「良く考えることだ」
余裕綽々、自分がどのような条件を提示しようとも絶対に勝てるという自信が表情となって表れていた。しかもそれを隠そうともしない。
片足を組み、頬杖を着いて、さながら玉座に座る王のようだ。後ろから椅子を引いて転ばしてやりたい衝動に駆られる。忍術を使ってやろうか。
「………条件を増や」
「駄目だ」
「アハハ、ですよね」
光の速さで拒否された。分かっていたとはいえ、対応の早さからしてこういう質問は何度かあったのだろうか。
「えっと………決まりました」
「む、早いな。もう少し寛ぎながら考えても悪いことにはなるまいて」
「大丈夫です。これで私の勝利は確信しましたから」
「嫌な予感しかしないんだが」
―――フフフ、余裕で居られるのも今のうちです。
篠原まりはドヤ顔で腕を組み、人差し指を男に突きつける。
「まず条件一つ目!魔力、並びにそれに類する不思議な力を使わないことです!」
「ふむ、魔力は分かったが、それに『類する』とは?」
「おぼろげではありますが、私が操られていた時、貴方は透明な何かを使って私を捕まえていましたよね?」
「………ふんむ」
噛みしめるように男は頷く。操られていた時のことについての記憶が少し残っていたのだろう。別に珍しいことではない。しかし、それが魔力とは違う別の力によってもたらせていると分かったのは少し意外だった。
「何故そう思った?」
「私の術を忘れていませんか?地形、フィールドの構成を変化させるということは、その中に含まれる微弱な力も感じ取れるんです。つまり、アジトに充満している貴方が普段使っている力と、ドラゴンと戦ったときに使った魔力、その違いが自然と分かってしまうんです」
「………なるほど、盲点だった。空気中に充満している『俺の力』と『魔力』には確かな違いがある。お前の前ではあえて魔力を使って魔族であることを教えようとしたが、こうした形で仇になるとはな」
眼鏡の割には良い目をしている。
別にメガネだからと言って良い悪いという話ではない。
「悪くない着眼点だ。大したものだ。驚かされたぞ」
「ふふ~ん」
男の中で篠原まりに対する評価が上方へ修正される。伊達に土遁衆を率いることが出来る実力者ではないということだろう。
「それで、二つ目の条件はなんだ?」
余裕の笑みは期待へと変わり、男は続きを促した。
「二つ目の条件は、貴方は私に対し、いついかなる時であろうとも暗殺の機会を与えることです」
「これはまた大雑把な条件だな。何故だ?」
「これまでの情報を収集した結果、貴方は此処とは違うさまざま異界を旅する方だと聞きました。ですから、異界へ出る際は必ず貴方は私を引き連れなければならないということです」
「なるほどなぁ、即興で考えたにしてはよく考えられている。だが二三聞かせろ。俺にはシェンフーやティアのような忠実な部下がいる。こいつらを使って護衛の命令を言い渡すとは思わかったか?」
「思いませんよぉ。だって、貴方プライド高いじゃないですかぁ。自分で公平なルールにするのに、第三者に自分を守らせるのですか?いえ、ありえません!」
態々反語を使ってまで豪語する篠原まり。身を反らし、その巨大な胸を揺らしてドヤ顔をする彼女に男は冷静に頷く。
「よく勉強してるではないか。桃子からの入れ知恵か?」
「それもあります。でも見るからに貴方そうじゃないですか。曲がったことは嫌いそうですし、余程のことじゃない限り人を後ろから切ろうとか騙し討ちとかしそうにないですから。………違いますか?」
「いや、違わん。だが良く気付いたな………俺ってそんなに分かりやすかったか?」
「う~ん、貴方に対しては何となくですが、分かってしまうんです。根拠は無いんですけど、『こう』だって………。なんででしょう?」
まりの問いに男は困ったような、まさしくやれやれといったように頭を振った。
「………俺に訊かれても困る。女の勘ということで納得しておけ。さて、確認だが、条件の一つは魔力、そしてそれらにかかわる俺の力の使用を禁ずる。条件その二は俺はいついかなる時でもお前を傍ら、或いは同じ場所に立たせ、暗殺の機会を与え続けられるよう義務を設ける。これで良いな?」
「はい。大丈夫です」
「そうか。ならば、ゲームス―――」
「ハッ!」
間髪入れず篠原まりが高速で何かを投げる。
―――ヂッッ………ィィィィイン!
篠原まりが投げたものの正体は食卓用のナイフ。先ほどの甲高い音は男はそれを二本の指で挟み込み受け止めた音だった。
「せっかちな奴め。言いきらぬうちにとはな」
「やっぱり当たりませんか」
「ククク、元気なことだ。まず“一回”失敗だな」
開戦の狼煙は必要なさそうだ。今この時よりゲームは始まった。
のは、良いが。
「篠原、後ろ後ろ」
「ふえ?」
〇〇フのコントよろしく男の指差す方向に篠原まりが視線を動かす。
「まりさん。話は聞かせてもらいました。ですが―――」
そこには―――
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「不意打ちとはいえ食卓用のナイフは武器ではありませんので、使用はお控え願いますように………ね♡」
修羅、いやシェンフーが居た。口元は笑っているが、その身体に漲らせた魔力は烈火のごとく荒ぶっている。料理に携わるものとして、台所の支配者として、まりがナイフを武器にするという所業は、彼女にとって腹に据えかねることだった。
「は、はひ!」
紆余曲折はあれど、二人の様々な異界を跨いだ小さな長い戦いが今始まったのである。
◆◆◆
篠原まりからの宣戦布告を受けてから少し時間が経った頃、未だ殺伐とした空気が立ち込まっている。力の無いものは新たな隠れ家を求めて、そして、力のある者たちは、より一層の己が地位を盤石なものとするために商売に勤しむ。
「………」
大抵は傭兵を雇っての戦力の増強。傭兵もまた、羽振りのいい依頼人を探してキングダム内を歩く。それは彼女も同じことだ。
「………」
奴隷娼館“アンダーエデン”ヨミハラの数ある娼館の一つであり、そのオーナーからの依頼で護衛として彼女は雇われている。まだ日も高い今は娼館も閉まっており、敵対組織から狙われる機会も少ない。それゆえ、そんな時間は自室に籠り、自慢の大業物の黒刀の手入れか、或いは精神統一に勤しむのが彼女の日課だ。
後頭部に纏められた長い白髪が、彼女の動きに連動して揺れ、特徴的な簪に付いた鈴が小気味良い音を鳴らした。白髪から覗く特徴的な尖った耳が、彼女が魔族の一人であることを証明した。露出の高い服装から否でも見える健康的な小麦色の肌は年頃の青少年の目には毒でしかないだろう。
そしてその鉄面皮は、どんな状況に陥ろうとも決して動揺しないというある種の決意すら感じさせる凛とした表情であり、彼女を武人であることを教えた。窓に差し込む陽光を反射して金色に輝く人外の瞳。左目の下にあるアザのようなものは、決して彼女の美しさを損なわせるファクターではなく、美女の泣き黒子のような、アクセントにしかならない。
彼女の名はキシリア・オズワルド。ただ強者と戦い、刀一本で果てなき高みを求めて日々研鑽を積む剣豪である。
彼女は慣れた手つきで刀の柄と鎺外し、口に咥えていた拭い紙で刃に付いた汚れを拭い、刃にムラなく打ち粉を掛けていく。
「………」
次に二枚目の拭い紙で刃を拭い、錆びや傷が無いかをしっかりと確かめる。
「………情けないものだな」
油塗紙を使い、刀に油を塗りながらキシリアは一人呟く。彼女の口元には好戦的な笑みが浮かんでいた。
「昨夜の戦い、私も参加したかった」
思い出されるのはヨミハラで巻き起こった支配階級の魔族同士の戦い。遠目ながら見ていたが、ぶつかり合う剣戟と剣戟、ぶつかり合う魔力と魔力。あの光景は、研鑽を積む一武人として見事としか言いようがなく、心を動かされない筈がなかった。
魔族としての血が滾り、本能が戦いを求めている。今日で一体何回刀の手入れを行っただろうか。そうでもしていなければ今すぐにでも自分は刀を手に何処かの戦場へ赴きたくなる。己の自慢の戦いで存分に戦いたい。
流れ弾よろしく剣閃が飛んできた時は依頼主の制止の言葉すら待たず真正面から叩き斬ってしまった。だが、結果的には良かったのだろう。そのおかげで依頼主の経営する娼館が真っ二つにならずに済んだのだから。
シャーーーーー…………チンッ
刀の手入れを終え、キシリアは刀を鞘に納める。
「ふぅ………」
一度溜息を吐いて彼女は自室を後にしようとする。これ以上は此処に居ても何もならない。気分転換に娼館を歩き回ることにする。その手のものを商売にしているだけに雰囲気を醸し出すようなピンク色の壁紙、午前中は換気も清掃もされているとはいえ、微かに残った栗の花の匂いは未だ尾を引いている。
慣れたとはいえ、毎夜女の嬌声、男の切羽詰まった息遣い、規則的な軋みの音は気が滅入りそうになる。娼婦として働かせる奴隷女は夜中まで相手をさせられた分午前中は寝ており、店の中はほとんど静かだ。
だが、ある一室だけ時間関係なく女の嬌声が響く場所がある。場所は店の地下。ほとんど使われる機会は無く、事実上廃棄された所であり、人が出入りすることなど滅多にない場所。
「く………ぁ……ふぅぅ……んぁ………ああ……っ!」
「………」
扉の向こうから微かに聞こえる女の嬌声が、扉を開けた先にある光景を想像させ、キシリア・オズワルドは僅かに顔を顰めさせる。
意を決して扉を開けると、最初に目についたのは、手術台のようなものに寝かされた裸の女性。
「ひぃぃ!あっ!ひああああああああッッ!」
両手足を拘束された妙齢の女性だ。全身が汗と誰のモノともわからぬ体液に塗れており、乳首やクリトリスには微細に振動する機械で出来た触手を押し付けられ、ヴァギナとアナルには専用のバイブが忙しなく前後して、休みなく突きこまれていた。
「まってぇぇ!もう、イッた!イきましたからああああああ!んひぃあああああああ!!」
怒涛の如く襲い掛かる快楽から逃げ道を作ろうと腰を突き出し、あられもない嬌声を上げる黒髪の女性。人間としての尊厳など考えられていない。とにかく快楽を与えようとする。ある種の拷問とも呼べる所業に足を組んでほくそ笑む男が二人。
「相も変わらず、見ていて飽きないのだな」
壁に背を預けながら彼女は二人の男に語り掛ける。
「………傭兵風情が、ここに入ることを許した覚えはないはずだが?」
肩越しにこちらを睨むのは銀髪の男。小太りな体型をしているが、ガタイはがっしりとしているのが遠目からでもわかるが、戦闘能力をほとんど持たない人間の眼光を受けても痛くも痒くもない。
「それはすまないな。午前中は暇で仕方がないんだ。歩き回るくらいの自由はくれてもいいだろう?」
キシリアは肩を竦めながら言う。小太りの男はフン、と鼻息を一つ漏らすと、隣の男と一緒に立ち上がり、部屋を後にしようとする。
「その女を連れていけ。後で使いの者を寄越す。くれぐれも逃げるような行動を起こさせるなよ?」
「………はぁ、了解したよ」
ギラリと刺すような眼光に対しても、キシリアは暖簾に腕押し。特に動揺を起こさせるような力は感じられなかった。だが、依頼主の手前、命令には従わなければならなかった。
依頼主、リーアルは、もう一人の男と共に部屋を後にする。その直前、彼女はもう一人の男と視線を一瞬だけ合わせたが、すぐに視線を逸らした。
階段を上って地下室から遠ざかっていく音を耳にしながら、キシリアは思考を巡らせる。
(今の男は、確か日本の政治家の……それも幹部じゃなかったか?)
剣だけの道を生きる彼女とはいえ世俗に疎い訳ではなく、最低限の知識は有している。それゆえに、彼女の記憶に触れるものがあの男にはあった。
(魔族が蔓延っているのだ。今更どう言おうと関係ないが、世も末だな。真っ当な政治家なぞ今の世にはもういないのかもしれんな)
憂いは無い。ただ淡々と現状を再確認しただけのこと。傭兵をやっている身で何をと思う反面、そこから見えてくるものがある。
もっとも、それらに共通していることは悪いことばかりだ。
先ほどの凌辱劇で気絶した女性の拘束を解き、キシリアは彼女を抱き上げる。肉付きの良い体格をしているが、程よく筋肉もついており、ただの女ではないことは触れただけで分かった。
(この筋肉の付き方は………武器は長物か?恐らく槍の類か………ふむ、臀部の骨格の変形からして子を産んだ経験があるようだな)
「子の下へ帰れぬとはな。哀れなものだ」
同情しようがどうにもならない。闇の世界に囚われた以上、力の無いものは文字通り骨すら残さず喰い尽される。それがこの世界に生きる者の鉄則であり、法律もなかった古の時代からあったものだ。力が全てを決めた。
今となっては小奇麗な御託を並べて聞こえの良いように表現しているが、実際のところ、あらゆる面において力は必要だった。財力であれ、政治における発言力であれ、結局は力だ。闇の世界では、そんなオブラートさが消えただけに過ぎない。剣の道を往く自分にとってはある意味では生き易い世界であり、破滅しやすい世界だ。
「もぅ……………ぃ…………ゃ」
「!………………。」
ふと、消え入るような呟きを耳にしたキシリアの脚が、一瞬止まった。
―――この世界で優しさを見せた奴はその優しさに付け込まれ、髪の毛一本すら魔獣の餌として消える。―――
「………」
再びキシリアは歩を進める。
「女………恨むなら無力な自分を恨め」
同情はせども、女を助けるつもりはない。何故なら依頼主の邪魔をするようなことがあれば、護衛としての報酬はなくなるのは当然のこと、今後の傭兵稼業としての信用も失う。最終的にわが身が可愛かった。つまるところ傭兵と言うのはそういうことであり、『ロクデナシ』の集まりなのだ。
キシリアの呟きは、そんなロクデナシ共の心情の縮図を表していた。
◆◆◆
夜になった。
娼館のオーナーリーアルは、護衛のキシリアを連れて東京キングダムのカジノ区画へと来ていた。その中でもノマドとの関係性が深い巨大なカジノへと車で向かっていた。
「娼館の方は良いのか?」
「傭兵である貴様には関係の無い話だ。黙って俺に着いてこい」
「これはこれは、嫌われたものだな」
「フン」
憎まれ口を叩くキシリアに、素っ気なくリーアルは言い放つ。視線を受けることですら忌々しく思えるほど不快気に表情が歪んでいる。
たかが傭兵、と切り捨てるには実力もあり、数々の護衛をこなした実績があり、何よりも『強すぎる』のだ。リーアルが知る雇われの中でも指折りの実力者。金さえやればどうとでもなると思いきや、知られたくないものを知られそうになりと実に危うい性格をしているのだ。このキシリア・オズワルドは・・・。忌々しくもなろう。
「………チッ」
これ以上考えても仕方がない。彼は思考を切り替える。リーアルの目的はノマドとのより太いパイプを得るためにである。昨夜の一件から、ノマドは表面上は通常通りの営業を続けているが、未だ工事は難航しているという情報がリーアルの耳には入っていた。
それに乗じて資金援助、人員の融通を行い、ノマドに少なからず恩を売る算段だったのだ。
いずれはこの女の手を借りずとも良い、自分に忠実な実力者を手に入れて見せる。その時が来ればこの女など、袋にしてじっくりと時間をかけて娼婦にしてやる。今までの借りも全てそっくりそのまま返してやる。
表情を一切変えることなくリーアルは心の中で自分の足下で跪くキシリアを夢想しほくそ笑む。
「リーアル様、着きました。降りる準備を」
「ああ、分かっている」
運転手の言葉にリーアルは頷く。窓から覗く件のカジノの外装はイルミネーションのように綺麗な光を灯しており、金に目がくらんだ金持ちたちはこぞってカジノの入り口付近へと集まり、盛況を見せている。
入り口付近へ泊ると、スーツを着たカジノのスタッフが出迎えに来た。
「ようこそお越しくださいましたリーアル様。どうぞこちらへ、主様がお待ちです」
「ああ、ありがとう」
にこやかにスタッフに応対するリーアルの姿は、先ほどの不愛想な様から一転して気立ての良い男性にしか見えない。
(凄い変わりようだな。演劇でも通用しそうだ)
キシリアはこれ以上クライアントの機嫌を損ねないためにも口には出さないでおく。
「………」
カジノに入ろうとするリーアルの後ろに付きながら彼女はカジノを見上げる。
「これは、一波乱ありそうだな」
「?………何か言ったか?」
「いや、なにも、随分羽振りがよさそうなところだと思ってね」
「ふん。貴様如きでは一生入れんようなところだ。感謝するがいい」
「エエ、アリガトウゴザイマス。りーあるサマ」
チリチリと総毛だつような圧迫感を感じた。此処に来た時から感じるのは凄まじい存在感を放つ何かだ。果たしてこれは人か、魔族か、それともまた別の化け物か。
「フフ、フフフフフ………」
いずれにせよ、キシリア・オズワルドは予感していた。今宵は楽しい戦いが出来そうだ。
一歩近づくたびに感じるビリビリと来る強大な気配に、口元が思わず裂けるほどの笑みが浮かんでしまうほどだ。
「フフフ………アハ」
それに、これだけの存在感を放っているというのに、他の人間や、弱い魔族、それどころか護衛として雇われている他の上級魔族でさえ全然反応していない。一定の実力者にしか感じられない様にしているのか、それとも『自分』にしか感じられない様にしているようにしているのか。
「なんてイケずな奴だ」
果たしてそれは自惚れだろうか。嗚呼、なんて奴だ。
触れられそうなくらいそこに、すぐ目の前に在る筈なのに、触れようとするとまるで幽鬼のように実態を掴ませてくれない。
焦らしている。自分は今、焦らされている。こんな素晴らしい存在感を放っている相手が近くにいるというのに、こんな生殺しは無い。傭兵として今雇われている手前、依頼主を置いてそこに行くなんて許されない。目の前で餌をぶら下げられている動物とはこんな気分なのだろうか。
カタカタと震える左手は鞘を力一杯握っている。それは武者震いでも、恐怖におののいているわけでもない。必死に刀を抜きたくなる自分を自制するためのものだ。
「こちらでは武器の携帯は禁止されていますので、こちらでお預かりいたします」
「…………」
「………お客様?」
「え?あ………ぁ、ああ。頼む」
いけない。自分の世界に入り込みすぎていた。
スタッフに武器を手渡し、中へと進んでいく。
勝った!負けた!畜生!イカサマだ!と様々な声が入り混じり、騒々しいことこの上ない賑わいを見せるカジノを抜け、 staff only と書かれたプレートを潜り、豪勢な装飾で彩られた壁とレッドカーペットが敷き詰められた廊下へと出る。そして、一際大きな扉がある一室の前までリーアルとキシリアの二人は案内された。
「オーナー、リーアル様が来ました」
『ええ、通して頂戴』
扉越しに聞こえた女性の声。その女性こそがカジノを取り仕切るオーナーなのだろう。入っていくリーアルと、それを追うキシリア。
「いらっしゃいませ。よく来てくれたましたわ。Mr.リーアル」
その先に居たのは、豪華な椅子に座った女性だ。特徴的な長い耳が覗く銀色の長い髪、宝石を散りばめた首飾り、羽毛を飾り付けたドレスには深いスリットが入り、太ももにあるガーターベルトが妖艶さを際立たせている。
「このシュヴァリエが、貴方たちを歓迎いたしますわ」
まるで女王のような気品とそれに足る威圧感を兼ね備えていた女は、ルビーさながらの吸い込まれるような瞳を向けて優しく微笑んだ。
◆◆◆
「す、凄い」
「なんという男だ」
「これで10回連続だぞ?イカサマじゃないのか?」
「馬鹿言え、ディーラーだって五回も変えたんだぞ?こんなのぜってぇあり得ねぇって」
賑やかな様相を呈していたカジノの一角、そこはギャンブルの中でもメジャーな部類に位置するルーレットの場所だが、人、魔を問わず大勢の人混みがその場を囲っていた。誰もが楽しめる賭け事であり、刹那の享楽を楽しむ場所でありながら、そこだけはシンと静まり返っていた。
彼らが視線を向ける場所には、山ほどのチップが積みあがっていた。そしてそのチップの全ては、ある男が有していた。
「あわわわわ………人が、人がいっぱい集まってるぅぅ………」
「ふえぇぇ………どうなってるんですかぁ………?」
「流石ご主人様です」
「これはひどい、お兄さんやりすぎ」
そして、彼の傍らには四人の女性が居た。誰もが見目麗しい美女美少女だ。美しいドレスに身を包み、どれほど世の男性を魅了しようとも、それを台無しにしてしまうほど、その中心に座る男の存在感があった。
「さぁ、ディーラー、次のゲームだ」
その男の服装は白のワイシャツに紺色のネクタイをし、その上に黒のスーツを着ていた。目利きのある人物であれば、その服が最高級のモノであることが分かるだろう。言ってしまえば、このカジノに参加する者が着るどこにでもあるような服装だ。
しかし、彼らが最も目を引いたのは、その存在感、“中肉中背の黒い髪の何処にでもいるような若い男の人間のはずだ。自分たちと同じ人の形をしているとてつもなくツイている人間。”そのはずだ。
だというのに、だというのにだ。
「早くしろギャラリーが待っているではないか」
なぜこんなにもこの男の前で跪かなければならない衝動に駆られるのだろうか。あまりにも異常な光景、あまりにも異常な人物。
怒涛の如く押し寄せる『あまりにも』に、傍目から見ていたギャンブラーたちは、一様に男の強運に魅入られていく。
男は顔を真っ青にさせているディーラーに向けて、笑みの表情を向けるのだった。
○月×日
怒涛のような騒動から一日が経った。未だに外は騒々しく魔族があの男を探し回っている。まぁ、到底見つけられるとは思えんがな。
この桐生美琴が保障しよう、貴様ら生殖猿共では彼奴は見付けられんとな。
さて、今日も今日とて楽しい実験だ。と言いたいところだが、まずは掃除をしなければならない。人手が足りない状況だが、まぁ、仕方がないだろう。移動した研究室は長年使ってなかった古い機材しかないし、汚れもかなり溜まっている。新しい機材は持ってきている。当分は出す訳にはいかないだろう。
さぁ、私の忠実な部下たちよ。私と一緒に掃除の時間だ。当然給料は出すぞ!
大好きな実験がやりたかったら早めに終わらせるぞ。荷物も保管庫に置くとしよう傷はつけるなよ、貴重なサンプルが入ってるのだからな。