※この作品はR-18です。

暇を持て余した男の話   作:カッコカリ

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待たせたな

作者「出張ですか!?」
部長「うん、ちょっと東京まで三日間」
作者「他のひ「うん、それ無理(にっこり)」」

  ↓一週間後↓

作者「話が……違うっすよ」

と言う諸々の事情で手が離せなかった。すまぬ・・・すまぬ・・・。


イベントのSR報酬イーオ・オライオンだけど、彼女の名前が一瞬 イイヨコイヨ に見えてワロタ。

前回のあらすじ

主人公・まり「「アッシェンテ!」」


暇を持て余した男が戯れるお話その2

「桃子、天華、篠原の三人は俺達と一緒に来い。ヨミハラに行くぞ」

 

 突然男がシェンフーを引き連れて言った。まりと桃子、そして天華が楽しくリビングで談笑していた時であった。

 

 以前として東京キングダムに立ち込めている空気は尋常ではない殺気が入り乱れている。桃子は彼の意図が分からなかったが、天華は男があえてそこに行こうとしていることが分かった。

 

「ちょちょ、お兄さん?いくらなんでもノマドを舐めすぎてない?あれだけのダメージを与えたからと言ってそのままで大丈夫なの?」

 

 戦術的面から考えて昨夜のあれだけ大きな動きを見せたのならば一度様子を見るなりなんなりをして情報を集めてから行動するべきだ。ましてや圧倒的に数が少ないこちらは、大人数に囲まれるだけで事態は急激に悪化するのだ。

 

 男はそんな状況であえて外を出ようとしている。寧ろ、それを楽しもうとしている節すらある。

 

「心配には及びませんよ天華、私がサポートします。そもそもご主人様が無策でヨミハラを歩き回るわけがありません」

 

 不意に彼女が前に出て安心させるように笑んだ。

 

「あ、そっか。シェンフーさんなら、全然問題ないもんね」

 

「何を勘違いしているんです?貴方は自分で何とかしなさい」

 

「…………………へ?」

 

「仮にも九尾。その力を十全に扱えるようにしなさい。化かすのは狐の本分。今日中には上級魔族を騙せる程度にはなりなさい」

 

「あ、あははは、最初からきつくないですか?」

 

 シェンフーの言葉に一度は安堵するが、次の刀のようなバッサリとした言い様に、滝のような冷汗を流す天華。愛想笑いを浮かべる彼女にシェンフーはウフフ、と意味深に笑うだけ。

 

「桃子、貴様もだ。リハビリも兼ねて着いてこい。術を行使しながらな」

 

「は、はい。………そういえば、ティアさんはどうしたんですか?」

 

「彼奴は別件での仕事がある。『奴』の動きに変化が有ったらしい」

 

 『奴』話を聞いていたまりは何のことを言っているのか知らないので疑問符を浮かべているが、桃子はソレを誰のことを指して言っているのか、桃子には分かっていた。

 

 一人で大丈夫なのだろうか。

 

 一抹の不安がよぎったが、すぐに思考を切り替えた。

 

「そうだったんですか………。あの、ご主人様、私なんかが着いていって大丈夫なのでしょうか?その、足手まといになりませんか?」

 

「貴様の考えももっともだな」

 

 男は袖口に手を差し入れて桃子に歩み寄ると、彼女にクナイを手渡す。

 

「論より証拠ともいう。試しに術を行使してみろ」

 

「え?ここでですか?」

 

 そもそもなぜクナイを?と疑問符を浮かべる彼女に男は頷く。

 

 

―――ああ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――でないと死ぬぞ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザワッ!風邪が吹き抜けたかのような殺気が全身に襲い掛かった。

 

「なッ………!?」

 

『殺ッッッ!!』

 

 ごく自然な口調で放たれた言葉には僅かな殺意と警告の意思が込められていた。突如として男の背後の虚空から『草』の一人が飛び出し、装備された熊手で桃子へと襲い掛かってきたのだ。

 

「――――――」

 

 だが、男の警告、それが功を奏した。

 

 振り降ろされた熊手の切っ先は、桃子の額へ食い込み、そのまま肉と骨を切り裂いたが、それは幻影となって消えた。

 

『ッ!?』

 

 『草』から僅かに動揺の吐息が零れた。気配も、匂いも、切り裂いた感触も全てが本物のはずだった。『草』は確かに桃子を殺したと確信していた。

 

 しかしその実『草』が絶ったのはその傍を素通りしただけであった。桃子自身は立っていた場所から少しも移動していない。『草』自身が勝手に間違えただけなのだ。

 

 『草』と桃子の視線が交わる。温和な表情は消え失せ、戦闘者のそれとなった彼女の対応は早かった。その証拠として、クナイの切っ先が自身に向けられている。突進してくればその切っ先は容易に衣服を貫き自身の命を脅かすだろう。

 

『シィィッッッ!!』

 

「ッ!?」

 

 だが、フットワークは『草』に部類があった。『草』が、下からの振り上げで今度こそ彼女の命を絶とうとしたその瞬間、ガッッッ!!という鈍い音と、『草』のうめき声が部屋に響いた。

 

『グゥッ!?』

 

 その腕は男の足が踏みつけることで止められた。

 

「『草』そこまでだ」

 

『………御意』

 

「ご苦労だった」

 

『いえ、お気になさらず』

 

 男の淡々とした命令を受け入れ、力を抜く『草』。それを見計らって男も足を退けた。

 

「―――――――――」

 

 行き成りの事態の変化に目を白黒させる桃子だったが、

 

「………桃子、大事ないか?」

 

「は、はい………っていうかご主人様!幾らなんでも行き成りはあんまりじゃありませんか?!死ぬかと思いました!死ぬかと思いましたよぉ!?」

 

「落ち着け、泣くことは無かろう?」

 

 ポカポカと胸を頻りに叩く桃子に男は何とかしろとシェンフーへ視線を移すが、彼女は我関せずを決め込んでいた。

 

 おい、主のピンチだぞ、護れよ。

 

「だって、凄く怖かったんです!」

 

 対魔忍が弱音を吐くな。そういって突き飛ばすのならば容易。だが、古今より、男は泣く子には勝てぬと言う法則が暗黙として存在する。つまり―――

 

「………すまなんだ。桃子、少々強引な手を取らせてもらった。お前の才能を分かりやすく教えるためだ。あの『草』には本気でお前を殺すように命令していたが、お前が無意識に発動させた『潜在誘導』が、『草』を仕損じさせた」

 

 男が折れる形となった。

 

「………もし、私が術を使えてなかったらどうしたんですか?」

 

「その時は俺が止めていた。だが、少々早すぎたかもしれんな。………許せ。こういう咄嗟の状況でこそ、忍びの才能は発揮されるのだ」

 

「うう~………」

 

 男の言い分にも一理ある。感情的に言わせてもらうならば理不尽だと叫びたくなる。いきなり命の危険に晒されたことに怒りを覚えない訳ではない。しかも、相も変わらず男は上から目線で、こっちの事情など少しくらいしか考えない。

 

 男のように常識外れを持った力の持ち主からすれば、自分のような1人間に対して才能を伸ばすためにやってくれてるのだろうが、男の感性は自分と比べて違いすぎる。

 

「事情は分かりました。ビックリはしましたけど、もう大丈夫です」

 

「?」

 

 男は疑問符を浮かべる。怨み言の一つや二つ言われるのを想定していたが、中々どうして、妙な立ち直りの速さだ。

 

「意外だな。ヒステリックになるなとは言わんが、命を狙われて平然としていられるとは思わなかったぞ?どういう心境の変化だ?」

 

「開き直っただけです!」

 

「お、おう」

 

 コホン、と一つ咳払いすると、男は指を鳴らす。

 

「さて、ヨミハラに向かうにはそれなりの身なりにならねばなるまい。貴様らにとってはそれなりに良い経験にもなろう」

 

 ザザッ!と10数人程の『草』たちが現れ、男の後ろで跪く。蜃気楼を身に纏うかのような朧気な見た目から反して、『草』たちの手には、裁縫道具があった。

 

「あの、ご主人様、一体何をなさるのですか?」

 

 心無しか、現れた時から自分たちに視線を向けている『草』たちに不安を覚える。彼ら?から発せられる物々しい雰囲気に恐る恐ると言った感じで問いかけると、男はニヤリと、歯を見せて笑んだ。これから起こることを想像してか、その愉悦の笑みがある意味では彼女の問いに対する答えであろう。

 

「ほんの戯れよ、ファッションショーと洒落込もうではないか」

 

(ああ、やっぱり)

 

 天井を仰ぎ見る桃子には諦めきった表情が宿っていた。

 

「安心しろ『草』は全員女だ」

 

「そういう意味じゃねぇですよ!?」

 

「フッハッハッハッハ!!」

 

 思わず言葉遣いが荒くなった自分は絶対に悪くないはずだ。

 

 

 

◆◆◆

 

桃子、まり、天華の三人が

 

『草』たちにもみくちゃにされる

 

場面を想像しつつ

 

閑話休題

 

◆◆◆

 

 

 

 前園桃子……そして篠原まり

 

 この中では実質最年少である二人だ。どちらも童顔で幼さの残る顔立ちでありながら、そのプロポーションには目を見張るものがある。対魔忍として鍛えられたことで程よい脂肪が乗り、その下にある筋肉は戦闘に特化した作りになっている。キュッとしまった括れから上へと視線を上げれば、鍛えられた筋肉によって持ち上げられた形の良いお椀型の胸が突き出ている。下を見やれば、プリンとした思わずむしゃぶりつきたくなるような真っ白い桃のような尻が見れるだろう。女性であればうらやむシミ一つない肌、薄く塗られた化粧をアクセントにして仄かな大人っぽさをうかがわせている。そんな二人の身体が、レースとフリルをあしらったイブニングドレスを纏っている。桃子は青、まりは赤と言った具合だ。二人とも甲乙つけがたい美貌を惜しみなく発揮させている。

 

 天華

 

 男を誑かして精気を喰らう妖狐の血を先祖に持つ故か、何気ない所作やどの方向から見ても魅力的に見えてしまう。臀部から伸びる9つの尾、頭部についていた狐特有の獣耳は消え失せているが、人型が持たぬであろう身体の一部から放たれる存在感が消えたことで、彼女本来の魅力が浮き彫りになってくる。胸元を大きく開いた白いチャイナドレスを着こみ、歩くたびに揺れるムチムチとした巨乳と切れ込みが入ったスリットによってチラッと見える太腿が眩しく見えてしまう。食べ物で例えるならば、桃子やまりのような若々しい僅かな渋みの残る果実とは違い、まさしく食べごろの極上の果実。その雰囲気はまるで妖艶と言う言葉をそのまま形にしたかのような容姿である。羽毛の付いた扇子を開いて流し目で見られればそれだけで世の男はノックアウトされてしまうだろう。

 

 これらの衣装をプロデュースしたのは、男とシェンフー、そして『草』たちの協同によるものである。

 

「おお………おおーーっ………善いではないか!うむ!綺麗になったではないか!」

 

 心なしか興奮気味に頷く男。その後ろではヒャッホー!とシェンフーと『草』たちがハイタッチを交わしあっている。

 

「桃子ちゃん綺麗になったじゃん!」

 

「天華さんも、すっごく綺麗です!」

 

「えへへ~ありがと!」

 

 なんだかんだで楽しんでいる二人。殺伐とした世界とはいえ、着飾ることに興味がない訳ではない証拠だ。

 

「……………わぁ~………」

 

 一方、篠原まりは姿見の鏡で自分の姿を見て感嘆の息を漏らしていた。申し訳程度に着いた小さなビーズのような宝石は、部屋の電気に反射して、小さくきらめいている。ガラスで模した作り物ではない。正真正銘本物の宝石が付けられている。

 

 テレビでしか見たことのない高級なドレスだった。自分のような平凡な家庭で生まれた人間が着るには、少々畏れ多く感じた。

 

「良く似合っているではないか。篠原まり」

 

「ひゃわっ!?」

 

 自分の姿の変わりように圧倒されていた彼女に声が掛かる。振り返るとそこにはいつものようにシェンフーを引き連れている男の姿が有った。

 

「ッ!」

 

 男の姿は普段の姿とは大きく違っていた。見慣れた道士服ではなく、上下ともに黒のビジネススーツを着て、金色の髪は自然に任せたものではなく、ワックスでオールバックに纏められている。

 

「………」

 

 常に尊大な態度を取り、上から目線なところを除いてみれば、まさしくワイルドな金髪の貴公子。老若男女問わず見る者に溜息を吐かせ、視線を釘付けにさせてしまう完璧な容姿には不覚にもまりを魅了させた。

 

「ん?」

 

 ジッと自分を見つめるまりに男は疑問符を浮かべる。まるで時が止まったかのように自分を見つめる彼女。だが、すぐその理由に思い至ると男は笑みを浮かべた。

 

「はは~ん、貴様アレだな?さてはこの俺の姿に見惚れたのであろう?」

 

「ッ!?」

 

「善い善い、この身は文字通り神が夢想し、終ぞとして手に入れらなかった天上天下においてただ一つの肉体。貴様の考えることはもっともな話よ。好きなだけ賛美するがよい。さぁ!賛美せよ!」

 

 男の言葉に顔を真っ赤にさせて激昂するまり。

 

「は、は~~!!??ば、馬ッッッ鹿じゃないですかぁ!?やるわけないじゃないです、か!」

 

 ヒュンッ!

 

 傍から見れば図星を指摘されてムキになって居るようにしか見えない。まりは返答と同時に、服に仕込んでいた針のような武器【千本】を男に投げ飛ばす。

 

 パッチチチンッ!

 

 最初に投げられた先頭の一本目をキャッチし、次に来る数本の千本を全て弾くという神業で、男に難なく迎撃されてしまう。

 

「クハハハ………今のは良かったぞ?次は場所を選ばずに奇襲してくることだ」

 

 グヌヌ、と悔しげに拳を握るまりを背に男は歩み出す。

 

「さて貴様ら、そろそろ行くぞ。社会勉強の時間だ」

 

 そういって男は扉に手を掛けるのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

 

 ヨミハラのとあるカジノ。支配階級魔族の一人であるシュヴァリエが治める区画にある場所であり、他の区画と比べて治安が良く、イングリッドの私兵部隊である魔界騎士たちと同様に独自の治安部隊が存在する。

 

「黒の18番おめでとうございます」

 

 それによってこの区画に置いての荒事のほとんどはその治安部隊によって速やかな鎮圧が行われる。魔が蔓延る街ヨミハラの中では一際珍しい区画として、情報が出回っている。

 

「コール エースの4カード」

 

 そこは高いレートでやり取りがされているギャンブルが主軸の区画。骨の一本すら残さない程金を毟り取られるか、莫大な富を得るか、死と生の瀬戸際に立たされる究極のスリルが味わえる場所。

 

「チッ……バーストしやがった」

 

 その店の名は『クロンボーキャッスル』世界中のギャンブラーがこぞって集まる場所、ギャンブルの魅力に絡め取られ、逃げたくても出来なくなってしまった筋金入りのジャンキー共が行き着く果て。

 

「では、お客様もう一戦いたしましょう」

 

 誰かがその店をこう呼んだ。

 

「ああ、当然だ!」

 

 『ギャンブラーたちのヴァルハラ』と。

 

 そんな普通の人間では扉を潜ることすらできない最低で最高なギャンブル場に、桃子達は来ていた。内外ともに高額な飾りが施されたカジノを見上げながら、内心で冷汗を流す。テレビで高価なリゾートホテルを紹介される番組や、映画のヒロインと主人公が潜入任務などで入る店そのまんまの外見だ。腰が引けてしまうのは仕方のないことだ。

 

「何をしている?早く入るぞ」

 

 知ってか知らずか、男はお構いなしだ。慌ててまりと共に男の隣に並び立つが、こういうとき大丈夫か、とか手を握ってやるとかそういう優しさは無いのだろうか、この男は。桃子の非難めいた視線など暖簾に腕押し。涼しい顔で男は受け流している。

 

「いやぁ~、凄いねお兄さん。こういうところに入るのは何度もあったけど、これほど豪華なのは中々お目にかかれないよ。工作員やってた頃を思い出すわ~」

 

 懐かしむように喋る天華。

 

「昔に戻りたくなったか?」

 

「意地悪だねぇ~滅相もないよ。私はもうお兄さんのモノだからね」

 

 そういって男の片腕を抱いて、子供のようにニカッと笑う天華に男は僅かに鼻を鳴らす。そういえば、と天華が一つ間を置いてシェンフーへ視線を向ける。

 

「シェンフーさんはドレスとか着ないんですか?」

 

 そう、天華の言う通り、シェンフーの姿は口元を覗かせた仮面にいつもの黒い道士服だ。他の客は煌びやかなドレスやビシッとしたスーツに身を包んでいるが、その中で厚ぼったい服を着ていると目立ってしまうのは明白だ。

 

「ええ、私はあくまでご主人様の従者。それに、ドレスを着ると仮面も取らなければならないではありませんか」

 

「そこまで意固地になる必要もなかろう。そもそも、もう桃子には見せているのだ。いっそのことここで仮面を取っても良いではないか」

 

「いやです」

 

「まったく、頑固者め」

 

「でも、その服装じゃ目立っちゃいませんか?」

 

 やりとりを静観していた桃子が思った疑問を口にする。

 

「大丈夫です。他の人間からは着飾った人間にしか見えませんから」

 

 そういってにっこりとほほ笑むシェンフー。すると、黒目に長い黒髪の女性へと姿を変化させた。何処かミステリアスな雰囲気を感じさせる女性だ。

 

「この世界の大和撫子をイメージして変化させたのですが、どうですか桃子?中々良い姿だとは思いませんか?」

 

 そういっていたずらっぽくウインクするシェンフー。流石の正体が妖狐なだけに化かすのが上手い。こうしてみるとただの日本人の女性だ。黒いドレス、黒い瞳、黒い長髪、全部が真っ黒だが、その黒が実に似合っている。口調が丁寧なのも相まって、本当に〝これこそ大和撫子!”という容姿だ。

 

「流石ですね。すごく綺麗です」

 

 仮面を外した時の顔とは全然違うが、これはこれでまた違う美人だ。

 

 こうして話をしていると、男たちの前に受付の人間が現れた。

 

「お待たせいたしました。どうぞお楽しみください」

 

 そういって手で進行を促す。彼の視点から見れば、男たちは実際とは異なる姿をしているように見えるだろう。だから、彼ら、いや彼が昨日の騒動の中心人物だったとは毛ほどにも思うはずがなかった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

――ゴォッ!

 

 扉をくぐった瞬間、物理的な力があると錯覚するほどの大勢の人々の喧騒が全身を襲い、鼓膜を震わせた。

 

「ぅ………わ」

 

 桃子は、天井から照らされるライトを反射する煌びやかな装飾に思わず目を細める。

 

「眩しいですぅ……」

 

 同じく目をシパシパさせて眼鏡のブリッジを押し上げるまり。まるで宝石で出来ているかのようだ。床は大理石で埋め尽くされ、壁は分厚い強化ガラスで囲まれており、その先には大小さまざまな種類の魚類が入った巨大な水槽がある。天井は一枚の絵画のように幻想的な絵が描かれており、これほどの内装を作り上げるのにどれほどの金と人員、手間があったのか、想像するだけでめまいがしそうになる。

 

「中々のものですね」

 

「シュヴァリエは中に金を掛けるタイプであったか」

 

 店内を見渡しながら男は一言そう付ける。金に糸目を付けていないだけに内装は見事だし、店内に置いて無粋な人間はいない。監視カメラの位置も四隅を基点にして一切の死角が無いように設置されている。だが、言ってしまえばそれだけだ。強いて言うならば、何故こんなところを拠点にシュヴァリエは居るのだろうか。

 

「ねぇねぇ、お兄さん、これからどうするの?」

 

 不意に天華に問い掛けられる

 

「うむ。とりあえず勝ちまくるぞ。お前たちには金払いの良い俺に媚を売る女を演じてもらう。ただ横に控えるだけでも良い。治安が良い区画とはいえここはヨミハラだ。離れるなよ?」

 

 そう言いながら男はひとまず、10万ほどを100枚のチップに替え、手近なところに歩を進めることにする。広いテーブルが置かれたルーレット、人垣が出来ているが、まるで誂えられたかのように席が一つ空いている。

 

「此処、座らせてもらうぞ」

 

 あいている席に男が座ると、新しくゲームに参加する人物を迎えるために視線を寄越した瞬間、その場にいた者たちの全てが凍り付いた。

 

「ん?」

 

 なんてことは無い。男は何処にでもいる“中肉中背の実に平凡な男性”だ。特に目立った容姿ではない。だが、それでも尚全身から溢れ出るオーラのようなものが湧き上がっていた。熱気か、それとも脳内麻薬で興奮しすぎて幻覚を見ているのか、男の周りだけ景色が歪んで見えるように思えてならなかった。その存在感、圧力、どれをとっても容姿から正反対すぎて、あまりにも異常過ぎた。それを問い詰めようものなら、一睨みで黙殺されてしまうだろう。

 

「おい、ディーラー。後がつっかえてる。ゲームを始めてくれ」

 

「ッ!?は、はい! Place your bets ! 」

 

 男の言葉で現実に戻されたディーラーがゲームを再開させる。円盤にボールが回され、客たちは次々にボールが落とされるであろう番号を予想して複数の枠にチップを置いて行く。

 

 さて、男は一体何処にチップを置くのか、記念すべき第一回目のゲームに桃子達は固唾を呑んで見守る。

 

 ボールがグルグルと回り続けるのを男はただジッと見つめると、おもむろにチップを盤上に置いた。その場所は黒の28番のみ。

 

「―――――?」

 

 ぇ………、という桃子の小さな呟き。男が置いたチップは10枚。先ほど10万を100枚のチップに替えたのだから10枚で一万の価値を賭けたことになる。

 

 だが、いきなり一万も、しかもたった一つだけの番号に賭けて大丈夫なのだろうか。

 

「………」

 

 不思議と桃子に不安はなかった、男の存在感、力、全身から発せられる覇気を知っているだけに、それがある種の信頼を生んでいた。

 

 それ以降、男は黙して結果を待つようにして腕を組んで玉を見つめている。他のギャンブラーたちは、まるで素人のような男の選択に心の中だけで嘲笑していた。男の表情は特に変化はないが、その瞳に宿っている自身に満ちた光は、周りのギャンブラーに負けず劣らずでギラギラとしている。

 

 

 あの時感じた威圧感、物理的な壁すら形成していたのではないかと思わせた覇気はもう感じられない。脳内麻薬の過剰分泌で本能的に圧倒的な敵が出てきてほしいというスリルに対する欲求が幻視させたのか、そんな疑問は既にギャンブルに対する意識で塗りつぶされている。

 

 この番号に来い、この番号に落ちろ、というギャンブラーたちの執念の宿った視線が白い球へ注がれる。

 

「No more bets」

 

ディーラーがこれ以上のチップを賭けることが出来ない合図を出す。後は玉がどの番号に落ちるか、結果を固唾を呑んで彼らは見守る。

 

 少しずつ勢いを無くしていく玉がやがてカラカラと音を立てて備え付けられた枠に落ちていく。果たしてその番号は・・・。

 

 

 

 カラカラカラ………コトン

 

 

 

「ッ!」

 

 ディーラーの息を呑む声が嫌に大きく聞こえた。

 

「黒の28番。おめでとうございます」

 

 “ッ!?”

 

 ギャンブラーたちの視線が一斉に男に向けられるのと、ゲームを観戦していたギャラリーの感嘆の声が漏れるのはほぼ同時だった。

 

「くっ――――――」

 

 男の唇の端が吊り上がった。周りの喧騒に隠れるように笑みがこぼれる。同時に、彼らを襲ったのは、全身を押すようないや、引っ張られているのだろうか。身体が見えない何かで後ろに押しやられる感覚だ。そして次に全身から流れる嫌な汗。熱い訳ではない。寧ろ寒い。

 

 寒気だ。それもとびっきりの、一世一代の大博打をした時のような緊張感に似た寒気。

 

「流石です。ご主人様」

 

「クク、次のゲームだ」

 

 男の周囲の女性の一人が何かを言っているが耳に入らない。

 

 ギャンブラーたちは努めて冷静に盤上を見つめる。

 

 落ち着け、あんなものはマグレだ。そうに決まっている。

 

 ざらついた心を落ち着かせ、落ちると予想するであろう番号に再びチップを置いていく。

 

「ふむ」

 

 男の声に彼らの方が僅かに揺れる。それとともにコトッと置かれた一万分のチップ、その場所は・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

” 黒 の 2 8 番 ”

 

 

 

 

 

 

 ウソだろ、誰かが呟いた。

 

「 No more bets 」

 

 少しずつ勢いを失っていく白い球このゲームの全てを裁定するコレに彼らの運命はゆだねられた。

 

 カラカラと音を立てて備え付けられた枠に落ちていく。果たしてその番号は・・・。

 

 

 

 カラカラカラ………コトン

 

「………」

 

 男の目が細められる。

 

「………」

 

 ギャンブラーたちの唇が真一文字に結ばれる。

 

「………っ」

 

 ディーラーの瞳が揺れた。

 

「黒の………28番」

 

 同じ数字、二回連続。黒の28番をストレートで勝ち取った男には賭け金の36倍が懐に戻る。つまり、先ほどの勝利と合わせれば賭けた代金を差し引いて70万儲けたことになる。

 

 二回連続同じ数字が出ることは別に大したことではない。長年こういう業界にいればそういうことの10や20発生することはさほど珍しいことではない。

 

 当の本人は、まるで当然とばかりに余裕の笑みを浮かべている。自信に満ちた表情、物怖じなど無縁のようなその態度。

 

 イカサマか?いや、そもそもルーレットとはそもそもイカサマをしにくいゲームだ。慣れれば特定の場所に落とすくらいの技術は身に着けることができるがそれはディーラーの領分。それこそディーラーが男と繋がってでもしない限りは不可能だ。

 

「お見事でございます。お客様」

 

 ディーラーが男に賞賛の言葉を送るが、だが一瞬、一瞬だけ、ディーラーは店内の警備スタッフに目配せをした。その意図を察知した警備スタッフがほかの警備スタッフに呼びかけ、フロアの天井に設置された極小の隠しカメラを男のほうへと向けるよう命令させた。

 

 このカジノを仕切っているボスは何を隠そう支配階級である魔族の一人、シュヴァリエだ。彼女はこのカジノにおいて不正を許さず、秩序の乱れを嫌う魔族だ。それゆえ、彼女が支配する区画はヨミハラにおいても三指に入る治安の良さだ。もっとも、それでも人の目がつかぬところで気を抜けば一瞬で命を落とすところではある。

 

 これでも治安が良いと言えるとは世も末である。 

 

 カメラ越しに見つめるモニター室のスタッフは、この幸運すぎる男のマークを開始する。それを見計らって、ディーラーの後ろから同じ役職を担うディーラーが彼の耳元で何事かを囁くと、

 

「申し訳ありません、お客様がた。一身上の都合より、今後は彼がディーラーを務めます。それでは、今後もこのカジノをお楽しみくださいませ」

 

 そういってディーラーは深々と一礼して後ろの新しいディーラーと替わる。

 

「お目汚しを失礼いたしました。それでは、ゲームを再開いたしましょう」

 

 イカサマか、それとも本当に幸運な男か。彼らにとって、短くも長い夜が始まった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 そして時間は、リーアルがシュヴァリエとの会談へと進む。

 

 

 

「とても有意義な話ができましたわ、ミスターリーアル。あなたの資金援助があれば、東京キングダム復興がより良い方向へと進むでしょう」

 

「いえいえ、我々の成功はここ東京キングダムがあってこそ。その地盤を固めてくださったのは他でもないブラック様方魔族たちのお蔭。ならば少しでも恩を返してこそが筋というもの。こちらこそありがとうございます。シュヴァリエ様」

 

 商談は滞りなく完了した。リーアルにとって己が地位を固める第一歩として良いスタートダッシュであることを確信して心の中でほくそ笑む。

 

「いやはや、貴重な時間を使わせてしまいましたな。それでは、我々はこれで失礼いたします」

 

 これ以上この場に留まる必要はない。愛想笑いを浮かべながら社交辞令でもって締めとするリーアル。

 

「仕事熱心で大変宜しいことではありますが、当店で少し遊ばれてはいかが?なんでしたら、食事もご用意いたしましょう」

 

 そういって柔らかい笑みを浮かべるシュヴァリエ。折角の誘いに、リーアルは一考する。

 

「そうですね。では、せっかくですから少しやらせていただきましょう」

 

 最初は断ろうとしたが、社交辞令だ。損にならない程度にやるとしよう。スタッフに案内され、プレイフロアに足を踏み入れる。

 

 ドッ!! 突如として音にも似た大勢の客の黄色い声が沸き上がった。いきなりの騒々しさに顔を顰めながら、リーアルは騒ぎの中心に視線を向ける。 

 

「凄い人気だな」

 

「ええ、ルーレットは当店一番の人気ですから」

 

「……ふむ、なら、ルーレットをやろう。案内してくれるかね?」

 

「かしこまりました」

 

 後ろに控えていたスタッフがにこやかに応対し、先導を始める。それについていくリーアルとスタッフと同じく後ろに控えていたキシリアが続く。

 

「ふざけるな!」

 

 すると、切り裂くような怒号が響いた。それは先ほど凄まじい程喧しかったルーレットの台からだった。

 

「貴様、イカサマをしているだろう!」

 

 泡を飛ばしながら初老の男性が席から立ち上がって近くの男に指を指して言う。指を指された男の両側には山積みになったチップが数多くあり、どれほどの回数勝ったのかは想像に難くない。

 

「イカサマ?それは勘違いだ。今日の俺はツいているだけだ」

 

 指を指された男は、テーブルに両肘を着け、両手の指を交差させてその上に顎を乗せた状態で特に動揺した様子はない。

 

「ふざけるな!貴様が来てから一度も負けていない!イカサマに決まっている!」

 

「短絡的だなご老人。そもそも此処がどう言うところであるかは知っていよう?あのシュヴァリエが仕切っているカジノだ。そのシュヴァリエがイカサマを許すはずがない」

 

「ぬ………グッ………!」

 

 冷静な男の指摘に老人はグウの音も出なくなる。事実、男がイカサマをした証拠は無い。周りから見れば、老人は勝てないことにイラついてイチャモンをつけている面倒な人間にしか見えない。

 

 立証する術もなく、自身に対する評価が降下していっている今この状況は、老人にとって何物にも代えがたい恥辱。頭に血が上った老人はこの生意気な若造にどんな復讐を与えてやるか考えを巡らせた瞬間。

 

「やめておけ。貴様では俺を殺せん」

 

 タイミングを見計らったかのように男が言った。

 

 ヒュッ―――と老人の息が詰まった。ただの生意気な口調の小僧の言葉に突然威厳が宿ったのだ。いや、このゲームを始めてから只者ではないという迫力は持っていた。しかし、この平凡としか言えぬ見た目の男が持つにはあまりにも不自然すぎた。

 

 老人は男の存在自体に疑念を持ち始めた。

 

 こいつは誰だ。何者だ。見たことが無い。聞いたことも無い。

 

 “自分たちが今見ているこの男は、果たして本当に見た通りのただの人間なのか?”

 

 中肉中背の平凡な黒髪の男性の姿が一瞬、長身の男性とダブった。自分よりも巨大で、はるか上から見下ろす大いなる存在へとすり替わった。

 

「~~~~~~~~~ッ!!??」

 

 一瞬、全身をまるで巨大な手に握られていると錯覚した。強い力で握りしめられた身体は雑巾のように絞られたかのように汗が流れ出て、足元が急激に覚束なくなった。

 

「はっ!?」

 

 それも一瞬のこと。男性は再び男を見る。先ほどと変わらぬ平凡な黒髪の男。だが、もうその男が普通の人間として見ることはできなかった。男の存在自体が偽物であるという疑念が確信に変わった瞬間、老人は自分の置かれている状況が命に係わる重大な選択を迫られていることに至った。

 

 突拍子が無い?否

 

 荒唐無稽?否

 

 本当の姿を見た自分だけが理解できた。

 

 驚愕し、理解し、純粋な恐怖へと変化した。

 

 緊急時に置いて、着飾った言葉は必要が無い。

 

「っ………失礼する!」

 

 逃げなければならない。

 

 顔を真っ青にさせ、その場を後にする老人の背中を見送ると、やれやれ、と首を振る。

 

「さて、次のゲームをやろう。この際だ。此処に在るチップ全部を賭ける。そして宣言しよう。次も当ててやる」

 

 男の言葉に男女問わず歓声が上がった。最初は大胆にも二回連続でストレートに当て、賭け事を楽しむ客の目線を集めた。その後は慎重になったかと思いきや、一気にチップを持って行く男は、かれこれ小一時間の間全て負けなし。

 

 異常な程勝ち続けているこの男の情報が見せ中を駆け巡るのにそう時間はかからなかった。今となっては賭け事を行っているのは、男の座るルーレット盤のみ。誰もが男との一騎打ちで勝負をし、持ち手のチップを持ってかれていく。

 

 イカサマの証拠は無し。魔力の気配や、何らかの細工がされているわけでもない。残念ながら、店のスタッフは、勝ち続けているこの男は、完全な運によるものでしかないと認めるしかなかった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「凄いですねご主人様。次々と勝っていきますよ」

 

「そうだね。っていうか、ここまで勝つと異常だよね。何かイカサマとかしてるの?」

 

 桃子の言葉に天華が相槌を打つ。今彼女たちの周りには包みこむようにして防音の結界が張られているので、これらの会話は他人には聞こえない状態である。

 

「いいえ、ご主人様は元々イカサマをするような方ではありません。必要がありませんから」

 

「へえ……やっぱりお兄さんってすごいんだね。もしかして負けるのも勝つのも自由自在とか?」

 

「中々良い着眼点です。恐らくご主人様はある程度勝ったら最後に負けるでしょう」

 

「それはどうして、ですか?」

 

「そうですね。ヒントとして、篠原まりを見なさい」

 

「?」

 

 シェンフーの言葉に言われるままに視線を動かす。

 

「………ぅぅ~」

 

 するとそこには少しだけ顔色が悪いまりの姿があった。自分の身を掻き抱いて、少しだけ身を強張らせているように見える。

 

「せ、先輩?大丈夫ですか?何処か気分でも悪いんですか?」

 

「す、凄いね桃子ちゃん。も、桃子ちゃんはこここの威圧感が平気なの?」

 

「え、い、威圧感?」

 

 少しだけ涙目になっているまりに疑問符を浮かべる桃子。彼女が怯えるほどの威圧感。だというのに自分は愚か、天華でさえ、それを感じ取る様子は無い。

 

「篠原まりには感じるようですね。さて、天華、貴方ならばこれらの状況を見て大体はわかる筈です。答えは分かりましたか?」

 

「ん~………今お兄さんは一定レベル以上の実力者にしかわからない威圧感を放っている?」

 

「ふむ、それから?」

 

「ここに留まっている、つまりお兄さんの目的は、お兄さんの覇気に気付ける実力者を集めて勧誘すること?」

 

「正解です。良くできました。花丸を上げましょう」

 

 シェンフーはニコッと笑みを浮かべると、魔力で作った光で花丸の軌跡を描く。無駄に凝ったやり方に天華は苦笑いを返すだけである。

 

「それでは、何故私だけいつもの服装でありながら貴方たちはただの一般人としてここに入れたと思います?」

 

「え………ぁ~………それって………マジでお兄さんヤるつもりなの?」

 

「はい」

 

 語尾にハートが付きそうなほど楽しそうにシェンフーは笑みを浮かべる。すると、天華は一転して、強張った表情になり、桃子に詰め寄った。

 

「桃子ちゃん!」

 

「は、ひゃい!?」

 

「逃げる準備するよ!」

 

「え、ええ!?ど、どういうことですかぁ!?」

 

 情報を整理し終え、豹変する天華に戸惑うことしかできない桃子。

 

「早くしないと死人が出るよ!良いから準備する!」

 

「ええええ!?」

 

「桃子の先輩さん!アンタも早く気を引き締めて!」 

 

「ふええええ!?い、いきなりなんですか~~!?」 

 

「ほら、来ましたよ」

 

「うげっ!?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「これは面白いことが起こっていますな。………ミス・シュヴァリエ。貴方の客ですかな?」

 

「いいえ、リピーターではないようですが中々、凄まじい豪運の持ち主のようですね」

 

「………」

 

 一人を除き、男の覇気を感じ取ったのは二人の魔族。

 

「ふふ、面白い殿方だわ」

 

 カジノのオーナーシュヴァリエ

 

「なるほど。お前か、私を誘っていたのは」

 

 そしてもう一人は傭兵、キシリア・オズワルド。

 

 傭兵、支配階級の魔族、そして、男。三人が初めて顔を合わせた瞬間であった。




○月×日

 さて、掃除も終わり、いざ実験と行きたいところだが、昨日の騒動で部下が何人か減った。一人は例の対魔忍に斬られて両足が使い物にならないし、他の何人かは崩落に巻き込まれて死んだ。

 金で雇うには手持ちが心もとない。幸いヨミハラには幾つかコネがあるからそれを頼るとしよう。

 そういえば、昔ブラック様の臣下に目を付けられて焼かれた研究員が居た。後学の為に色々と話をした程度だが、大丈夫だろうか?確か彼女は植物に関する研究をしていたはずだ。

 あれから音沙汰が無いから死んだか?

 まぁ、それならそれで構わんさ。こんな世界だ。突然ぽっくり逝ってても不思議な話じゃない。

 こうして書いていると本当に日記染みたことになってきたな。真面目に研究者らしくやるか。

 例のサンプルを使った実験は少しずつではあるが、進展が見え始めている。成長した肉塊を使って様々な薬物を投与して反応を窺っているのだが、肉塊のもつ反応には驚くほど人間と似通った部分が存在する。薬物を投与されたときに中心部から発せられる電磁波。これは人間でいう脳波であり、大凡感情に近いものを持っている可能性が出てきた。

 CTスキャンを取ってみたところ、ただのたんぱく質の塊だった肉塊の中心部に、小さくではあるが、脳と同質の実に繊細な細胞の増殖が見られた。これは、肉塊が一種の新たな生命体として芽生えた証拠でもある。

 防衛本能か、急激な成長を始めている。ただの液体だったものが個体となって指先ほどまで成長し、今となっては拳大にまで成長している。

 今後様々な薬液を投与して反応を窺うことにする。

 そういえばアマハラに合成魔薬を使っている連中が居たな。そこをあたってみるか。
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