|д゚)っ=ぽい=(次話)
|ミ シュッ (次話)
シュヴァリエはギャンブラーだ。持ち前の優れた魔力を備えておきながら、彼女は己の豪運と力の差さえ無視する強力な契約魔法で上位の魔族までのし上がった経歴を持っている。
彼女は計略にも優れ、大群同士の戦いにおいては、まるで劇場のような熾烈な争いを繰り広げた。敵軍を終始翻弄し、その手腕は、戦争を始めるための絵図を描き、敵味方問わず操っていて、元から仕組まれた戦いだったのではないかとさえ噂されていた。
その劇場の一ページのような恐ろしい力を披露した姿から、グランギニョルの魔女と呼ばれた。
彼女を知るものが語るならば、その魔女の一面を話すだろう。だが、古くから彼女を知るものならば、その者は彼女をギャンブラーだと語るだろう。
両者はその理由を言葉を同じくして述べる。
”彼女の恐ろしさを見れば、他の魔族が霞んで見えてしまう”と
もう一度言おう。シュヴァリエはギャンブラーである。
―――"OPEN THE GAME"―――
賭けられるのは人生。ゲームの内容はシンプルにポーカー。ジョーカーは一枚。レイズによる上乗せは無し。チェンジできる回数はたった一回のみ。
ゲームの内容は3本勝負。
1度目にチップ全てを失い
2度目に財産を失い
3度目にはその先の人生そのものの所有権を失う。
駆け引きが限定された特殊ルール。両者の隣に積み上げられた山のようなチップが、このゲームが尋常ならざる賭け金でもって行われていることが分かるだろう。
「ふふふふ、私の豪運と貴方の豪運、どちらが上かしら?」
玉座に座り、足を組んで男を見下ろさんとする王者の風格たる豪運と契約の魔女シュヴァリエ。
「クククク、すぐに分かるさ」
対するは暴力の体現、この世の全てを奪う黄金の簒奪者。常に不敵な笑みを浮かべ、つかみどころのない雲のような黄金の男。
このゲームに勝てば、あの男を手に入れられる。シュヴァリエは大いに魂を燃え上がらせている。地獄の炎すら生温い、刺激された悪魔の本能が欲望という熱となって彼女の目をぎらつかせていた。
混じりっ気のない、魂に根差した純粋な魔族の欲望が、男を見据えている。
「………」
ディーラーの滑らかな手さばきで配られたカード5枚を手に取り、シュヴァリエの目はカードへと注がれる。
JのツーペアとQの3カード、最初の一手でフルハウスが出来上がっていた。口角が吊り上がりそうになり、同時に己の持つ豪運に確信を抱いていた。シュヴァリエの視線が男の方へと向けられる。
「………」
男の表情は変わらず笑むだけ。常に余裕の姿勢を崩さない彼の顔、その裏にあるのは動揺か、それとも勝利への確信か。
「怖い顔ですわ、何か良い手が出たのでしょうか?」
「ふむ、悪くはない。序盤からこの役が出るとは、幸先が良い」
「まぁ、では気をつけませんと行けませんわね」
さて、このまま出して相手の出方を窺うべきか、Jを捨ててQが出ることを賭けるか。
「警戒して二枚チェンジといきましょう」
J二枚を捨てディーラーが変わりのカード二枚を渡してくる。
「ああ、そう言えばこれを訊くのを忘れていた」
カードを手に取ろうとしたとき、男がふと口を開く。それはまるで聞けと命令してくるかのような強制力を持っていて、隣に立ってディーラーを務めている部下が緊張で身体を強張らせた。
「………なにかしら?」
「このゲーム、貴様はイカサマをしなくていいのか?」
ザワ・・・と周囲がどよめいた。彼女の部下の何人かが今にも武器を取らんと殺気を出している。
“貴様「は」イカサマをしなくていいのか?”
男がイカサマをしているというとも取れる言動。シュヴァリエは身の内に燻る炎を静かに燃え上がらせ、冷静に男の動向を思い出す。ディーラーの配ったカードを受け取り、中を見た。それだけだった。取り巻きの女たちが妙な動きを見せた気配もない。
しかし、この男は”異界の支配者”だ。世界を隔ててまで轟くその異名を持った男が、なにもアクションを起こさず、魔力の気配すら感じさせずにイカサマをすることなど、容易いことだ。
普通ならば、だ。
「クス、さて、どうかしら?」
ブラフか、それとも本当にイカサマをしているのか?相手の心理を刺激する言動にに対しシュヴァリエは、ブラフで以て返す。女狐のように、尻尾を掴ませず、飄々とした態度で相手の口撃を躱す。
「……………」
男の笑みは変わらず吊り上がっている。常に余裕を崩さずにいる。ただ座る姿勢を変えるだけで強者の風格を漂わせる。
故にシュヴァリエは燃えあがる。この男を降せば、己は更なる高みへと立つことができるだろう。
そう、これだ。この緊迫感、序盤から立ち上るスリリングな空気。これがギャンブルだ……!
「さぁ、カードはどうなさいますの?まさか、ルールを知らない子供のようなそんな可愛らしい殿方だったのかしら?」
「クククク、そう焦るな。さて………」
男を虜にする魅了の瞳を笑って流す黄金の男の雰囲気が僅かに変わる。来るか……1枚か、それとも2枚チェンジか。シュヴァリエの部下たちもこの空気に固唾を飲んで見守る。やがて男の芸術のような唇が開かれ、吐きだされる吐息が言葉となって吐きだされる。
「5枚チェンジだ」
「………ぇ?」
その呟きは、ディーラーの物だった。
「どうした?速く5枚寄越せ」
「ぁ、は、はい!」
戸惑うものの、滑らかな手の動きで配られる5枚のカード。シュヴァリエは黄金の男の手札がブタだったのだと判断する。本来5枚チェンジなどというのは悪手だ。自分の運任せにしては分が悪いものになる。先ほどの男の言動はブラフだったとシュヴァリエは判断する。
「…………っ」
だが、何故だ?自分の何かが警鐘を鳴らしている。男のブラフに危機感を感じている。
「…………ふむ」
男は変わらずなにかを思案顔でカードを見ている。最初と変わらぬ思案顔、良いカードだったのか?それともブタなのか?シュヴァリエが揺さぶりを言動でもって放ったが、その揺さぶりを根底から破壊するような手を使った。
5枚チェンジ。
最初の持っていたカード全てを捨てて新しい手札に丸ごと切り替えるなど、普通のギャンブラーではやろうとはしない。
なにせ、これは特殊ルール。5枚チェンジしてしまえば、もう終わり。最初からカードをチェンジできるのはたったの一回なのだ。
「ふふふ……」
だが、まぁ良い……自分はフルハウス、相手がどのようなカードで来ようが、その勝率は安定して高い。対する相手、自分に勝つにはフォーカード以上の役で無ければならない。その確率は恐ろしく低い。
しかもこの特殊ルールを併用することでさらにその確率は低くなっていく。
文字通り、悪手だ。
「どうした?お前はチェンジをしないのか?」
「まさか、当然、チェンジいたしますわ」
ならば、念には念を入れねばなるまい。シュヴァリエは己の持つ豪運に意識を集中させて言葉を紡ぐ。
「2枚チェンジいたしますわ」
Jのツーペアを捨て、ディーラーに2枚カードを貰う。果たして来たカードは………
「ふふ、ふふふふ」
4枚目のクイーンとスペードのキングが1枚。
クイーンのフォーカード。今の己の状態を表す、素敵な役ではないか。
シュヴァリエの妖艶な口元が孤を描く。
「では、参りましょう」
勝った。
「ああ、よかろう。俺のカードは―――――」
「私のカードは―——――」
お互いのカードを見せあう。
「
………………。
………ざわざわ。
一拍遅れてのざわめき。当然だ。あれだけ自信満々な表情を”作って”おきながら、結果は、ブタ。
「ふ、ふふ……くふふふふふ!」
なんだこの茶番は、何時からここはコメディー番組と化したのか。一勝、あっけなく一勝してしまった。
「あっははははは!あれだけひきつけて置いて、ブタ?!あはははははは!」
思わず笑ってしまったシュヴァリエを誰が笑うことが出来よう。ここまで肩透かしを食らうことなど予想できるはずもない。
「それじゃあ、契約通り、その詰み上がってるチップ、全部いただきますわ」
「…………………」
勝ち誇った笑みを浮かべるシュヴァリエに対し、黄金の男、ただ無感情に――――――――
「………?」
―――――――――否
「…………くく」
微笑を浮かべていた。チップがすべてなくなっていくところを見ながら尚余裕の笑みをこぼさない。
第一回戦はシュヴァリエの勝利だったが、黄金の男はなお態度を崩さない。
「どうした?続けるぞ?」
男の表情に陰り無し!だがそうでなくては!
「ええ、次のゲームを始めましょう」
対する魔女も応じる!
二人の間で繰り広げられる不可視の攻防にディーラーの精神は潰されそうな圧迫感を感じている。しかしディーラーとしてのプライドを捨ててまで逃げ出そうとは思わない。逃げ出すわけにはいかない。
カードを回収しながらディーラーは細心の注意を払う。
「————————ぇ?」
不意にディーラーの口からそんな呟きが漏れた。それは周りの喧騒の中へと溶けて消えた。
ディーラーは新しいトランプの箱を手に取り、セキュリティーシールを剥してシャッフルを始める。
次のゲームだと顔をあげた瞬間——-
「ヒュ―――――――――」
―――息を呑んだ。
「……………………」
黄金が、無言で自分を見ていた。表情は不快に歪めたわけでも愉悦に染まっているわけでもない。ただ、無表情。仄暗いフロアの中で光沢を放つ瞳が、自身の精神を侵していく。
——-なんだ?自分は一体なにをしてしまったんだ!?——-
人知れず自身の心が叫ぶ。黄金の瞳が冷たい刃となって自分を真っ二つにしている。だが生きている。当然だ。これはタダの錯覚なのだから。
錯覚だと解っていても自身の正中線に断頭のように巨大な刃が走ってそのまま残っている気がする。真っ二つになったおかげで二つの思考が同時に出来ているのかもしれない。そんな幼稚な考えをしてしまう。
「おい」
―――なんだ、何を言う!?何を言われてしまうんだ自分は!?——-
「早くカードを配れ」
「は……ひゅぁ…ぃ」
言葉一つだけで、自分は救われた気がした。自分は
「次の手番です」
―――”NEXT GAME”——-
ディーラーは、足元に溜まる汗に気付くことなく次のゲームを始める合図を出すのだった。
◆◆◆◆◆
6千飛んで21。首を斬り飛ばした回数。そのあたりで一人目が死んだ。
そこからは数えていない。終わりの見えない頭の悪い数を相手に時間を稼ぐことにそんなリソースは割けられないのだ。
視界が朱に染まる。しかし剣を振る腕は止めない。
「がっ!く゛、そ゛ああああ゛あ゛!!」
仲間の断末魔が聴こえた。 ああ、また一人死んだ。
あと何人だったか?………いや、もう居なかったな。
そんな鈍った思考で自信の腕に鋭い痛みが走った。目を拭う暇すらないが、腕が軽くなった気がする。肘から先が無くなった。
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛!!!!」
宙を舞う剣を口で挟み、身を捻って勢いよく回転。顎に伝わる5つの手応え。
5人か、少ないな。腰にストックしてあったナイフにまだ無事な手を伸ばすが、望んでいた感触が空を切る。
単純にネタ切れのようだった。
「お゛………かっ……!」
ぞぶ、と首筋に突き立てられた牙に首を絞められた鶏のような苦悶を零す。吸血鬼が生み出したゾンビは容赦なく肉を食いちぎった。
「おぉ゛………ぶふぅ………っ゛……」
間欠泉のように噴き出る血に手を当て、無理やり焼いて止血する。
我が主も困ったお方だ。と他人事のように笑む。ただの塵芥のような自分達に、こんな重要なことを命じたのだ。
ましてや、それらをまとめる自分でさえ、この体たらく。もっと適任な人間が居ただろうに。
「ぉ゛………ああ゛ぁ゛あ゛ぁ゛!!」
踵に備え付けた隠しナイフで後ろ回し蹴り。ゾンビの頭部に突き刺す。
引き寄せ、振り回し、一瞬だけでも良い、息を整える瞬間を作り出す。
目元を拭った。目の前にくすんだ金色が見えて。
「ご……あ゛は……!?」
衝撃と共に宙を舞った。視界が反転と正転を繰り返し、自身の両脚が千切れ飛んだことを自覚する。
「かはっ…………は……っ……ひゅ……」
叩きつけられて強制的に吐き出された吐息。ごぼっ、と噴き出るどす黒い粘性のある血。息がすこし楽になった。
「あははは!凄いね君、だるまさんが転んじゃってるよ?大丈夫?その片腕も千切れちゃいそうだけど、今引っこ抜いたらバランスが取れそうだね」
片腕で身を起こし、辺りを見渡す。|まず近くに仲間の死体が武器と一緒に転がっている。《ちょうどいい》
「そろそろ死んじゃうよ?今土下座してみっともなくごめんなさい!許してください!って土下座したなら、サクラちゃんが大サービスでゾンビくらいにはしてあげるけど?」
周りにはゾンビの大軍。不死性を利用し、武器を携帯させたことで死を顧みない特攻兵と化したこいつらは、非常に厄介だった。
そしてようやく、”草”は自身を見下ろす吸血鬼を見上げた。
「むかつくなぁ……なにその眼………?君、死ぬんだよ?怖くないの?頭おかしいの?」
その瞳は不快という感情を露にしていた。
息をしても一向に呼吸が出来ている気がしない。当然だ。血を流し過ぎた。酸素が身体を巡っていない。
最後の一人となった”草”は無言でポシェットに入っていた即効性の高い増血剤を口に含み、かみ砕く。そして近くにあった太刀を二本、間隔を開けて突き立てる。
「あ、それもしかしてお墓のつもり?無駄なことするなぁ、どうせ君たちはゾンビたちのうんこになっちゃうんだからさ」
「貴様と話す舌は持たん」
ただそう一言、斬って捨てる。皮肉も無い。冗談も無い。ましてや挑発でもない明確な拒絶。対し吸血鬼サクラはただつまらないと肩を竦め。
「あっそ、じゃあ死ねば?そんな片腕しかない出来損ないの人形は、ゾンビの腹に収まるのがお似合いだよ」
―――馬鹿が。ただ両脚と片手が捥げただけだろうが。
”草”は無言で腕にエッジを浮かび上がらせ、力を籠める。
「!!」
腕を思いっきり伸ばし、身体を跳びはねさせる。
そして身を回転させ、両足を真っ直ぐ伸ばし、下半身を下に向けて着陸の姿勢を取る。
その足元の先にあるのは、先ほど突き立てた太刀。その柄尻。
「ぐ!!!!!ぎ、ぃ゛……!!」
悲鳴は出さない。深々と突き刺さった―――いや、はめ込んだ太刀を無理やり術で肉と癒着させ、足の代わりとした。
「はぁ!?」
傷口は焼いて塞いだ。義足の接合も完了。次に二の腕の代わりとして口にくわえていた剣の柄も、同じように無理やり傷口に突き入れ、同じく焼いて無理やり接合する。
痛みになど構っていられない。感情は捨てろ。自分は黄金の男の手足として見初められた”草”。その頭目がすぐさま死ぬことは許されない。
プライド?是 忠誠心?是 恩義?それも是
「ならば………」
しっかりと己の力で立つ。新しく作られた血潮が身体を巡る。シェンフーが作ってくれた薬品だ。疑う必要もない。
改めて自分の身体を見る。4つの刀剣。単純に考えて4つ同時に攻撃できる。寧ろ戦いやすくなった。
バランスは取れる。走ることも出来る。傷は塞いだ。血は止まった。
敵は動きを止めて棒立ちになっている。自分を見下ろすその眼は未だ慢心に染まっている。
「ならば」
馬鹿め!”草”未だ健在!戦い躊躇う必要なし!!
「来い吸血鬼」
すでにこの身は死兵。生の幸福は全て味わいつくした。惜しむものは全ておいてきた。
第二ラウンドだ。
”草”頭目は剣を構えて敵に向かって躍り出た。
お久しぶりです。
流石に一年も空けば忘れる人も出る筈。
さぁ!気にせず別の小説を読むんだ!多分エロはまだ先だぞ!!
こんな小説でも時々感想書いてくれてありがとう(ぼそっ