前回のあらすじ
主人公「天華!君に決めた!」
≪200万です!ほかには居りませんか?居りませんね!?ではこの奴隷は17番の方が買い取りました!続いての奴隷です!≫
薬漬けにされて使い物にならなくなった女、嘗ては有名な女優だった女、屈強な若者、小柄な美少年少女、美人揃いの一家、双子の姉妹、権力者が道楽で作った肉体改造された訳の分からない化け物。オークションが始まってから一時間。ざっとこれらの奴隷たちが出品された。
「よおし、こいつは儂がもらったぞ!」
「早く弄りたいわ!受け取り場所に案内して頂戴!」
「金なら払う!早く使わせろ!」
奴隷を手に入れて沸き立つ者、早く試したいと捲し立てるようにして受け取り所に向かう者。どれもこれもが腐った魂を匂わせ、肥え太った醜い身体を揺らしている。
「ホホホ、これは中々良い代物」
「これを見て!なんて素敵な飾りの乗ったケーキ何でしょう!しかもブランデーケーキだわ!」
「これを作った料理人は誰だ!?パティシエでも良い!今買った奴隷を使って女体盛りをしたい!幾らだ?いくらでやってくれる?」
≪これは素晴らしい!1000万です!1000万が入りました!≫
「どうぞ、お客様も一つ」
「………いらん」
サービスとして出されるワインやつまみは、彼らから見ればどれも一級品に見えるだろうが、男にとってはどれもこれも、蛆の沸いた腐った食い物と幼虫と蟲の卵が浮いた飲み物にしか見えない。
≪他には居りませんね!?11番!これにて落札!≫
「ふん」
男は一口も、手すら一切触れない。ただ、その時が来るのを待つ。
≪お待たせいたしました!本日最後の奴隷です!一か月前まではヨミハラを騒がせた女スパイ!さまざまな暴力団組織の情報をばら撒き、我々の尊い金を奪い取っていった極悪な狐の魔族!『天華』です!≫
ステージから盛り上がる様に天華が現れる。ライトアップされ、彼女の痴態が白日の下に晒された。
個室で見た時と変わらない、ほとんど裸同然のスケスケな水着を着て、柱に括りつけられるようにして後ろ手に縛られている。その結果、同年代の少女と比べても豊満な肢体が強調される形となった。
―――うおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!
とたんに湧き上がる歓声、閉鎖された空間によって声が反響して非常に喧しい。物理的に黙らせてやりたいが、ここは我慢。
「………」
一方、天華は涼しそうな顔だ。そして、男の存在に気が付くと、僅かに目を見開いたが、すぐにいつもの無感動な表情へと戻っていった。
◆◆◆
今回のメインイベントの最後には、自分がオークションの品として売り出される。このイベントには数ある腐った権力者たちが金をたんまりと集めて爛れた日常に新たな刺激を求めて集まるのだ。
権利者たちは醜く贅肉をこれでもかと付けながら下卑た笑みを浮かべる。そんな中、ここからでも黄金がその存在感を主張し、場違いさを際立たせた。
それは、ライトに照らされたこちら側でも容易に認識できた。腕を組み、ただその時を待っていたかのように男はこちらを見ていた。
「っ――――――!」
あの人が居た。
天華の視線が自分に向けられたと分かり、僅かに男の口元が吊り上がった。ようやく現れたな。と言外に伝えてくる。
突然現れて自分のモノになれと言った黄金の男。欲望に塗れた醜い男たちは共通してかなりの金持ちだ。そんな彼らと金の量で競争して勝てるのだろうか。もし、それで足りなかったとしたら………?
あの人は自分の為に力で強引に自分を奪い取るのだろうか?自分の浮かび上がった考えを天華は内心鼻で笑った。不思議とそんなことをするとは思えない。やるとしたら、堂々と、相手がぐうの音も出ない状況にして自分を攫うだろう。
根拠などない。が、確かな確信があった。人の本質を見る訓練された特別な目は、黄金の男に対しても効果を発揮させた。
≪一口100万以上!さぁ、それではまず500万から参りましょう!≫
金ズルたちから高い金を巻き上げるために司会進行の声も張り切っている。自分を絶対に手に入れる言ったあの言葉。それが本当かどうか、確かめさせてもらおう。
◆◆◆
「1000万」
「1100万!」
全員が躍起になって天華を買い取ろうと値段を見極めながら金を積み上げていく。
「2500万!」
「2800万!」
「3000万!」
≪3000万入りました!あとは居ないでしょうか!?これ以上いませんか!?≫
最初の値段の6倍まで跳ね上がった。男たちの欲望も大したものだ。金の為にどこまでも汚くなって、さぞやその魂は魔族にとっては極上の餌となるだろう。元々この奴隷オークションも人間が考えたことだ。魔族も人間も関係なく売りつけるこいつらは、本当の本当に最低の畜生どもだ。
『4000万』
(貴方はどうなの?あいつらと同じなの?)
とても響き渡るような声だった。特に力を入れたわけでもない。溢れんばかりの熱気に溢れていた部屋が一気に北極のような世界へと一変した。男の存在がまるでその声によって今気づいたかのように、オークションの参加者全員が男を見、そして息を呑んだ。
闇に溶け込むようにして黒い道士服に身を包んでいるが、暗い部屋に居て尚、その男の黄金の髪と瞳が、僅かに差し込んだ光さえ集め、乱反射しているかのように、妖しく輝いていた。
周りから注がれる視線に意を返さず、黄金の瞳は天華だけを映していた。
≪よ、4000万が入りました!ほかには!?他に誰かおりませんか!?≫
「よ、4100!」
「4200!」
「4500!」
『1億』
―――ッ!?―――
周りがどよめき立った。
「1億5千!」
「くそっ!2億だ!2億なら出すぞ!」
「こっちは2億5千だ!」
『5億』
果てには言葉すら出なくなる。
≪~~~っ!?≫
司会さえ絶句し、男を見ていた。
『他には………居ないか?』
次のコールを待つ司会の代わりを務めた男は、己の勝利を確信するかのように、ただ不敵な笑みを浮かべていた。
◆◆◆
「ご来店ありがとうございました!今後とも御贔屓に!」
「ああ」
深々と頭を下げる商人たちを背に、男は天華を連れてその場を後にする。その手には天華の首輪から繋がる鎖。奴隷の所有者としての証
「………」
あっという間のオークションだった。顎が外れるほどの大金を躊躇いもなく出して、本当に、この男はやり遂げてしまった。自分を買い取ってしまった。
「あの」
「なんだ?」
天華の呼び掛けに、男は立ち止まって振り返った。その黄金の瞳からは感情が読み取れない。構わず彼女は続けた。
「これから、どうするの?……ですか?」
「アジトに戻る。それから今後のことについて話し合う。後は服だな」
「服?」
「お前の服だ。俺の奴隷になった以上、そんなみすぼらしい格好は俺が許さん」
そういって男は天華の全身を見渡した。オークションで出されていた時と変わらずほとんど布の役割を果たしていないスケスケの水着。上も下もほとんど丸見えで、裸同然の状態だ。
「でも、お金返せない」
天華の言葉に男は僅かに片眉を持ち上げた。
「?………何故貴様がそんなことを気にする?貴様は俺が買った奴隷だろう?つまり俺の所有物だ。俺の所有物をどう扱おうが、この俺の勝手だ。俺が決める」
「………」
違うか?と問いかける男。一見傍若無人な物言いにしか聞こえないが、不思議と嫌悪が湧かなかった。それは事前に男と会い、知ったからか。それとも既に自身の心が知らず知らずに男に屈服しているのか。
未だに初めて会った時の衝撃は忘れない。長らく氷のように心を凍りつかせていた自分が、いとも容易く男を受け入れ始めている。組み敷かれ、犯されても、この人ならば、と安心できてしまう、こう考えると、自分は後者なのかもしれない。
無言で頷く天華を見て、男は再び歩むが、不意に落ちて来た水滴を感じた。
「雨か。………近くのホテルで雨宿りするぞ。お前も濡れたくはあるまい」
「ん………」
本格的に振る前に宿を向かわねばならないと考え、男と天華は歩調を早めていく。そんな彼らの後ろ姿を、遠くから複数の眼がジッと見つめていた。黒いマントに身を包み、腰には細剣を携え、甲冑のようなものに身を包まれている様は、まさしく騎士を思わせた。
「イングリッド様にお伝えしろ。目標がホテルへ向かったと」
「了解」
◆◆◆
「代金だ。部屋のカギをくれ」
「ツ、ツクモ様……ですね。どうぞ、903号室………です」
手早く手続きを終わらせ、二人は部屋へと向かう。エレベーターで昇っていき、それなりに清潔感がある絨毯とブラウンの灯りに照らされた穏やかな雰囲気のある廊下へと出る。それなりに金に見合ったホテルのようだ。
「あの……」
「なんだ?」
「ご主人様……ツクモ様っていう名前……ですか?」
「ただの偽名だ」
「そう………ですか」
「………天華」
「は、はい………!」
「敬語は苦手か?」
「………」
天華は答えない。肩越しにしばし彼女を見つめた後、それ以上の追及はせず、歩を進めることにする。既に903号室は目の前だった。
中に入ると、洋風の部屋が彼らを出迎えた。ベッドが二つにテレビ、ソファ、バスルームにトイレも完備と二人で一泊するには十分な広さと設備がある。
「まずは風呂に入って身体を洗ってこい。それが終わったらこれに着替えろ。何時までも裸同然じゃ落ち着かんだろう?」
そういって手渡されたのはバスタオルと男と同じ黒の道士服。いつの間にか男の手にあったこれを、いったいどこから出したのか疑問に思ったが、天華はなにも言えなかった。
「はい」
汚れなんて一つないバスルーム。シャワーを浴びながら身体に付いた汚れを丁寧に落としていく天華。その一方で、男はカーテンを開けて、雨が降りしきる街を見下ろしていた。
「………」
太陽は既に沈み、闇が街を支配する。その中で蠢く悪意の凶刃を男はこれから起こる近い未来を考えながら天華を待つ。
しばらくして、天華が男の持ってきた道士服を着て出てきた。
「上がったか、色々と整理はついたか?」
「はい………」
力なく頷く天華。まるで借りて来た猫のように彼女は大人しい。生きたいという意思は感じられるが、何処か諦めにも似た雰囲気だ。それは追々回復させていくとして男は天華にベッドに座れと命令し、対面に座る形で男ももう一つ隣のベッドに腰掛ける。天華と男の視線が交わる。
「………」
見れば見るほどに怖い瞳だと天華は思う。自分を中から作り変えられそうになって、自分が自分でなくなりそうになった。会ってからまだ一日にも満たない短い時間。男の性格をまだ把握しきれていない現状、もし出過ぎた真似をすれば何が起こるかもわからない。最悪殺されることだってありえる。
「お前の懸念は分かるが、今考えたこと全て、俺はしないぞ?」
「っ!?」
息が止まった。極自然に人の心を読むこの男。その表情は変わらず無。
「それに言ったはずだ。俺はお前の全てが欲しい。力も技術も心も身体も文字通り全部だ」
「………?」
意味がわからなかった。男は高い金をそれこそ、5つのアタッシュケース一杯に詰め込んだものを出してまで苦労して買った自分を欲しいという。だが自分は奴隷だ。その男が買った奴隷。彼のモノになったというのに、これ以上彼は自分に何を求めるのだろうか?
疑問符を浮かべる天華に男は分からんか。と僅かに苦笑を漏らす。
「ならこれなら分かるか?」
そういって男はある言葉を呟いた。
「リリース(解放)」
瞬間、彼女の首輪、そしてそれに繋がれた鎖が砕け、虚空へと消えていった。
「!………っ!?う………そ……」
天華は限界まで目を見開き、消え去っていく奴隷の証を呆然と見つめた。当然だ。5億もの価値があった奴隷は、一夜にして普通の魔族に戻ってしまったのだから。
しかもそれを行った張本人は、涼しい顔で彼女を見つめていた。
「奴隷であるお前に興味は無い。だが、今この瞬間から、俺とお前は主人とその奴隷ではなく、正しく対等だ」
男が立ち上がり、天華の後頭部に刻まれた紋様、奴隷を殺す呪いを指先で触れ、それを苦も無く打ち消した。これで天華は、正真正銘自由を得たのだ。
「どう……して?なんで私を……こんな」
戸惑う天華に、男はクク、と笑みを漏らす。
「俺は奴隷としてのお前ではなく、ヨミハラを騒がせた女スパイであるお前が欲しい。だから自由にした。その状態のお前の全てが、俺は欲しい」
「………」
全くの予想外、今まで見たことのない謎の心理的行動パターン。天華にとって全くの未知なる存在。この男の先が読めない。
「………」
紋様も消え、魔族としての力を取り戻した今ならば、逃げようとすることも、殺人を冒すことも全てが自由。
「まぁ、今なら逃げるのも容易だ」
「………」
さぁ、どうする?そんな試すような意図を含んだ視線に、天華は、しばし考え込む。
(目に生気が宿ってきたな。最初は死んだような眼をしてて簡単に手に入りそうだったが、良い目だ。やはり俺の眼に狂いはなかった)
「一つ確認したいんだけど、もう私と貴方は対等なのよね?」
「ああ、そうだ」
言質は取ったとばかりに、天華はいつもの調子を取り戻していく。
「それじゃあ、しばらくお世話になるっていうのはどうかしら?」
「ふむ、それで?」
「私と貴方が協力関係を結んで、貴方が欲しい情報は全部持ってきてあげる。奴隷から解放してくれたし、それなりの恩は返す。望めば夜の相手だって何度でもしてあげるわ。ギブアンドテイクの関係よ、どう?悪くないでしょう?」
天華の現状目的は、自分を騙した連中に対しての復讐。そのためにも味方になれる相手が欲しかった。それに、これほどの男だ。妖狐として得られる精気も絶大だろう。そうすれば自分は魔族として更なる力も得られる。力が強くなれば得られる情報も多くなる。
「確かに、お前の言う通り協力関係を結んでお互いの利益の為にやるのも悪くは無いな」
「でしょう?なら、交渉は成立?」
「………」
下、正確にはホテルの入り口前に複数の気配を感じた。意外と遅かったな。と男は内心で呟く。
「だが、お前はまだヨミハラ、正確には東京キングダムを分かっていない」
「は?」
「俺がお前を買ったのは二つの理由によるものだ」
「理由?」
「そうだ。一つはお前を手に入れるため、これはさっき話したな」
下に居る気配の一つが一気に真上へと駆け上がる。背中にひしひしと感じる殺気に男の眼が外を向いた。それに吊られる形で天華の視線が窓の方へ移った瞬間。
「っ!?」
息を呑んだ。人が居た。いや、正確には魔族。漆黒の騎士甲冑、その上にはマントを羽織り、雨に濡れて尚その艶やかな桃色の髪が舞う。暗い闇の中に居て尚、その濃いオレンジの瞳が宿る魔力に呼応するように光り輝いている。ブラックの側近、魔界騎士、名をイングリッド。
その美しさに一瞬目を奪われた。
「もう一つは―――」
「あっ!?」
男が天華の身を引き寄せる。同時に、イングリッドの腰に携えられた剣に手が掛けられ、銀閃が迸った。刃に纏う焔がガラスを溶かし、壁を破壊し、爆炎を上げた。
【魔剣ダークフレイム】イングリッドの放った業火は発生した熱は降ってきた雨を蒸発させ、眠らぬ街に紅蓮の華を咲かせた。
――――轟ッ!!――――
「っ!」
だが、突如その業火の中心から突風が吹き荒れ、一瞬でイングリッドの炎はかき消された。
「………え?」
来る熱と衝撃、そして激痛に備え、目を瞑っていた天華が呆けたように呟いた。あれほど吹き荒れた熱も、轟音も、既に形を潜めていた。
「もう一つは、お前の命を奴らに渡さないようにするためだ」
天華を抱く手とは反対に、その手には剣が握られていた。それも、ただの剣ではない。男の存在そのものを表現するような刀身、鍔、柄に至るまで黄金で出来た片刃の剣。彼女の方からは、男の手に握られているのは片刃の剣だと見えるが、イングリッドからは違った。
「………ナギナタ?」
剣の刃がある反対側にも同じ黄金の片刃の剣が付いていた。まるで剣と剣の柄尻を連結させたようだ。剣の構造からして両手で持つことを目的としているが、その胸に天華を抱いていることから、片手で薙ぎ払っただけで、上級魔族ですら消し炭に出来るイングリッドの強力な炎を掻き消したのだ。
「………」
無言でイングリッドが男の前に降り立つ。
「随分とユニークな挨拶をするじゃないか。魔界騎士」
男の言葉にイングリッドが頭を下げる。
「先ほどのご無礼、お許しください。ですが、我々も主から命令された身、その魔族を引き渡してもらえればすぐにでもここを去りましょう」
「どういうこと?なんで………?!」
意味がわからない。魔界騎士イングリッドが自分の命を狙っている。突然の急展開に思考が止まりそうになった。
「お前が過去にリークした情報の中には、ノマドに損害を与えるものが紛れ込んでいた」
「え………!?」
男の言葉に今知った。というかのように天華が目を見開いた。
「その通りです。ごく小規模といえど、そこの魔族はノマドに牙を剥いた。そのような存在を生かしておけば、ノマドはその程度だと見縊られるのです。そう………我が主の目的のためには、ただの一つたりとも、損なわせてはならないのです」
「っ………」
イングリッドの殺気の籠った視線が天華を穿つ。まるでナイフを頭に刺されたような感触を覚えた。自分が死ぬ姿を見せられた気分に吐き気がする。
「お前の言いたいことは分かったが、残念ながら、こいつはやれんな」
そういって天華をイングリッドから隠すように男の陰に改めて抱き寄せる。
「それは、我々と敵対するということでよろしいでしょうか?」
「ハハハハ!言うのが千年程遅いぞ小娘。俺とブラックは昔から殺し合いをしてる。逆に訊くが」
―――貴様は死体でブラックの下に帰りたいか?それとも無傷でブラックの下に帰りたいか?―――
「………っ」
イングリッドの眼が細められる。男の表情は変わらずイングリッドを見据えるだけ。両者から放たれる方や覇気、片や殺気が二人の間で混ざりあい、そして霧散した。
動いたのはイングリッド。彼女は踵を返し、ホテルから跳躍した。彼女の打った手は退避することだった。冷静に、現状を把握し、これ以上の敵対行為は自分の死につながると思った彼女の最善の手。
「流石ブラック様のご友人、歯も立たないか」
傷を負わせるにしてもそれこそ全力で挑まなければならない。そのことを再確認した彼女は騎士を引き連れ、その場を後にするのだった。
◆◆◆
「いったい……なんだったの?!どうして私が彼奴らに狙われて!?」
「分からん奴だ。お前はブラックの顔に泥を塗ったんだ」
男がありのままのことを簡潔に天華に伝える。ブラック本人は気にしていないだろうが、彼に狂信的に忠誠を誓っている者たちは違うだろう。イングリッドがその良い例だ。
「そんな、ようやく、中華連合から逃げてこれたのに、ようやく自由になれたのに………。また私、居場所がなくなっちゃうの?あいつらに狙われて、生きてられるわけがないわ!」
少々錯乱気味に天華が自分の身を掻き抱く。狐の耳は恐怖で力なく折れ曲がり、彼女の感情を大いに代弁していた。
「戯けが………勝手に決めつけてくれる。この俺を前にして良くもそんなことが言えたものだ」
「え……?」
「話の途中だったな。天華。見た通り、お前はイングリッドに狙われている。紛れもない事実だ」
「!」
「どうする?ただの協力関係だけではこの俺とて貴様をサポートしきれん。いずれ貴様を手に入れるつもりでいるのに死なれては困る。生き返らせるのも面倒だ」
「………」
天華の表情は固い。自分の置かれている状況を覚り、必死に糸口を探しているのだろう。このまま何もしないまま死ぬのは嫌だ。だが、この男のモノになるのもリスクが高すぎる。見極める時間すらないこの状況で少ない選択肢。絶望的だ。あまりにも絶望的すぎる。
「天華、俺の目を見ろ。魅了もせん。操ることもせん。まずは俺の目を見ろ」
「?」
男が膝をつき、天華の両ほほに手を添え、こちらを見るように誘導する。怖くなるくらい美しい満月のような黄金の瞳、だが、その中には威圧するものはなく、代わりに穏やかな感情がうかがえた。
「大丈夫だ。俺が守ってやる」
「………」
「だから、俺のモノになれ。俺にはお前が必要だ。天華」
「………………」
初めて会ったときと同じく、暖かな手。あれだけ恐怖の対象にしかならないくらいの迫力があったというのに、その手は優しく、天華の顔を包んでいた。そのギャップがなんだかおかしくなって、誤魔化すように彼女は眼を瞑る。
「口説き文句にしては、全然だめだね。お兄さん」
「………」
「でも……うん。わかった。守ってくれるなら………まだ私のことを必要だって思ってくれるなら………。わたし、お兄さんのモノになるよ」
「!………なってくれるか」
「だけど、大切にしてくれないと拗ねちゃうからね。あることないこと言いふらしちゃうかもしれないから」
「それは怖いな。だが、許そう。そして許してもらうようお前を愛してやる」
「あはは……なんだかお兄さんの魅力が少しわかった気がするよ……あ、ご主人様って言ったほうがいい?」
「構わん。好きに呼べ」
男は立ち上がり、夜のヨミハラを見下ろす。そろそろ下が騒がしくなってきた。目撃者が少ないうちに、ここを去ったほうが良さそうだ。
「行くぞ天華。これから忙しくなる」
そういって男は天華のもとに再び歩み、彼女を抱き上げる。
「ちょ、ちょっとお兄さん!強引だよ!私ちゃんと立てるから!」
「悪いが貴様に拒否権はない。早々にここを離れる。しっかりつかまっておけ」
「もう……強引すぎ」
もはや観念したのか、天華の手は男の首に回される。それを確認し、男はホテルから跳躍した。
「ねぇ、お兄さん」
「なんだ?」
「お兄さんの名前、教えてもらってもいい?」
上下に揺られながら、天華は問う。月明かりを背にしながら、それでも妖しく光る男と視線が交わる。ああ、やはり何度見ても綺麗だと、彼女は内心呟く。
「…………ああ、良いだろう」
---俺の名は………---
◆◆◆
「面白い。この男は、面白い……!」
なんだあれは、なんだその力は、なんだその身体は、調べたい。知りたい。嗚呼、なんて素敵なんだろう。頬が紅潮し、性的な興奮が際限なく高まっている。こんな自分は知らない。だが、それ以上に、この男に釘付けになってしまった。
「嗚呼、素敵よぉ……いけないわぁ……なんていけない存在なのぉ!」
知りたくて知りたくて仕方がない!モニターを見つめながら女性は艶のある黒い長髪振り乱しながら身悶える。彼女はこの時、男の動向を余すことなくモニタリングしていた。ブラックとはまた別のカリスマ性、魔族の頂点たる者しか持たぬ魔力、全てが己の予想をはるかに超えている。
確かな自信があったこの頭脳がどうしようもなく理解不能のエラーを無限に吐き出している。こんな感覚は初めてだった。
「うふふ、まだよ。まだ調べなきゃ駄目、行動に映すのはそれからなんだから」
その髪も瞳も唇も腕も足も肉も臓器も骨も、日常の生活から戦闘に至るまで朝昼晩関係なくすべて余すことなく調べつくさなければならない。これはもう恋だ!愛だ!執着だ!欲望だ!
「うふ、うふふふ、待っていろ。黄金の男、お前の全ては、この私が手に入れてみせる!待っているがいい!」
モニター以外の明かりが存在しない世界で、若い女性の哄笑がいつまでも響き渡るのだった。
病気が進行した結果、主人公のステータスをカード化してみた。
閲覧注意:勢いで書いてます。
◆【覇道を往く者】◆
★★★★★★ 属性:魔族
攻12000 防12000 コスト50
スキル:覇気放出
Rのカードスキル発動を50%の確率で封じる
↓
100%封じる
↓
HRのカードスキル発動を50%の確率で封じる
↓
100%封じる
↓
HR以下のカードスキル発動を100%封じる
台詞
・ふうまの若造か、世界を越えるまでに至るとは大したものだ。良いだろう。余興だ。一時戯れてやろう。
ブラックもステータスとしてこれくらいだと予想しておく。しかも二人ともあと二回変身を残してる。
アイタタタタタタ!呪われ右腕が云々カンヌン!これは書いててキツイ!しかも台詞まで書くとか、ばっかじゃねーの!?俺ってばっかじゃねーの!?今更中二病とかないわ!
エロシーン!?知るかバーカ!女体化に決まってんだろ!SAN値が直葬された!マジでキツイ!