ぼんやりとした意識が徐々に覚醒していくのを感じる。僕は何もない空間でふわふわと浮かんでいる。
「ここは…。」
何故こんな場所にいるのか。そもそも僕は何をしていたのか思い出せない。一つ確かなのは碌でもない事になっていることか。
「どうも。」
不意に声を掛けられた。声の主を探すと今まで何もなかった所に突然、白髮の少女が現れた。気だるげな声色と瞳でこちらを見ている。
「どちら様?」
意を決して声をかけてみた。少女は唇に人差し指を当てて何かを考えた後、口を開く。
「私が何者かと問われれば【世界】と答えます。」
「世界?」
僕が復唱すると少女はこくりと頷いた。続けて手のひらから何かを生み出した。水晶玉のような透き通る球体だった。
「証拠を…と言われてしまうと証明方法がありません。
【造物主】とは違い【全能】ではなく【模倣】が限界なので。」
そう言って生み出した球体をクルクルと回す。手持ち無沙汰で遊んでいるのか意味があっての事なのか。
「仮に、貴女が【世界】として。僕に何のご用で?」
そう、そこがわからない。記憶している限り、そんな超常の存在に目をつけられることはないはず。
「そうですね。まず、貴方は此処に来るまでの事を覚えていますか?」
「いいえ。」
「予想通り、魂に【傷】が入っているみたいですね。
それならばそれで問題はありません。」
「あの、要領を得ないんですが。」
何処か遠回しで自己解釈をしている目の前の少女に困惑してしまう。
「ああ、すいません。人と話すのは初めてで。
そうですね。時間はあるのでゆっくりと話しましょう。貴方への【依頼】について。」
そう言うと少女の蒼い瞳が薄っすらと輝き目の前にテーブルが現れた。しかもいつの間にか席につかされている。
「【造物主】はとても飽き性なので【世界】を造っては放置を繰り返す困った方なのです。」
テーブル上の紅茶を飲みながらやれやれと首を振る少女。口をつけても大丈夫なのかと警戒していると無表情のままだった少女の口が僅かにへの字に変わった。
「大丈夫ですよ。害はないので。【ヨモツヘグイ】を心配する必要もありません。貴方は既に【生きてはいない】。」
…まぁそうだろうなと思ってはいた。妙な浮遊感も肉体の重みがないのなら頷ける。
「【死因】は聞かないほうがいいでしょう。憶えていないと言うなら其方此方としても有難いので。」
「何か不都合でも?」
「いえ、単純に【容量】が増えるんです。」
「容量?」
「そこは追々に。【依頼】の内容についての話が終わってから、と言うことで。」
そこはかとなく怪しいが拒否は出来なさそうだ。既に肉体はない筈なのに頭痛がしてきた気がする。