※この作品はR-18です。

アリウスクソボケオオカミ   作:カブライニキ

5 / 10
彼女はずっと消えない傷を負った。

彼は戻ることのないものを失った。


どちらも、お前が奪った


おはよう、せんぱい

 

 

 

そう呟いて、彼女はベッドより体を起こす。

寝ていた自分の顔の隣に置いていた、銀色のプログライズキー。

 

正面には狼の遺沢がこされている。

 

砂狼シロコはキーを大事そうに抱え、頬を綻ばせる。

そして________________

 

 

 

 

 

 

「う“え“っ......っ......あ“ぁ......せん......っ......ぱい......」

 

 

 

 

吐き気を堪えながら、嗚咽を漏らす。目の前で散った血飛沫が、どうしても記憶から離れてくれない。

 

 

「......っ......すぅー........はぁーー......」

 

 

アルトが最期に着ていたコートを鼻梁に押し付ける。当然、左胸には穴が空いている。

そうして彼の血と、シロコの涙の匂いが鼻腔を通る。

 

「っ......ん......先輩......」

 

 

ようやく落ち着きを取り戻し、吐き気を忘れる。

まるで自分と想い人が混ざったような香りに、シロコは少し陶酔する。

 

「ふーっ......顔洗おう......」

 

涙と血片で汚れた顔をシロコは水で洗い流す。

もちろんスキンケアは欠かさない。肌が荒れてしまっては、スキンケアを教えてくれた先輩に申し訳ない

 

 

「......今日もよろしくね、先輩」

 

 

血がこびり付いた厚手のコートを、シロコは羽織る。

黒色のドレスのど真ん中に開いている胸の露出が一気になくなり、一気にシックさが醸し出される。

サイズは少し合わないが、身長が高くなってくれたお陰で若干は見えるようにはなった。

 

銃は持たない。

 

シロコは銃を仕舞った箱を見ないようにする。

絶対に視界にすら入れない。彼の命を奪う原因を作ったあの銃を。

 

その代わりに、シロコはハンドガンを装備する。

 

グロックのような、装飾も何もない無骨なハンドガン。

 

いつの日か先生に向けて、原本の方のシッテムの箱を破壊したハンドガン。

でも、先輩と違って今先生とアロナは生きている。

 

 

「......その分は、まだマシかな」

 

弾倉を取り出し、スライドを動かす。

異常なし。問題なく今日も使えるだろう。

 

まぁ、方舟の中じゃ使わないだろうけど

 

 

 

シロコは今日も部屋に閉じ籠る。

 

「メイクは......いいか。」

 

見せる人も居ない。する理由もないだろう。

 

 

そのまま再びベッドに横になる。結局準備したのに、今回も使わなかった。

 

閉じこもって、何もできない自分に嫌気が刺す。

先輩がたくさん教えてくれた料理も、結局しなかった。

 

 

「......すん......すん......はぁぁ.........」

 

 

また、コートを嗅ぐ。鉄の匂いの奥に、ほのかに香る純粋な先輩の匂い。

 

「ふっ......ん.....っ..........せんぱい.........っ......」

 

 

 

いつの間にかコートの腕部分を噛んでいた。口の中いっぱいに鉄の味が広まり、不明の多幸感がシロコを包む。

 

 

 

「_____っ.........ぁ.........ん.........ふっ.......はぁ.......はぁっ.........」

 

 

ビクっ、とシロコの体が震えた。

グッタリと脱力し、息を荒げるシロコは虚な目で自分ごとコートを抱きしめる。

 

 

「.........先輩.........」

 

 

そのままシロコは昨日と同じように眠りに着く。

 

 

 

 

 

2度と埋まらない、心を慰めながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女は、正しくは奪った側ではない。

 

 

彼女もまた、奪われた『子供』の一人である。




そのコート捨てた方がいいんじゃない?汚いよ。
ほら、なんか濡れてるもん。お母さん捨てとくからね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。