この日、建太はいつも以上に身だしなみに気を遣っていた。
スーツはクリーニングしたばかりのものを着用、そのうえ着る前に一度アイロンをかけ、さらにローラーでホコリを取っておくほど念を入れていた。歯をいつも以上に丁寧に磨き、ニンニクが使われた料理を食べたわけでもないのに口臭ケアもするなど、早起きしていつもの倍以上の時間をかけて支度し、出社する。
会社に到着した時間はいつもとほぼ同じだ。AZKiもクロヱも既に出社している。違うことといえば、普段はもっと遅くに出社してくるかなたが既にデスクにいることだろう。
「おはよう、金屋くん」
「おはようございます」
かなたの口調にはいつもと違い、どこか硬さがあった。彼女のスーツは一見するといつも通りに見えるがピカピカだ。今日のためにわざわざ新品を購入してきたことは事前に聞いている。
「今日は気合い、入ってますね」
当たり前じゃん、とかなたは語気を強める。
「今日はかなけんの今後を占うであろう大事な日だよ? じゃなきゃまだまだ使えるスーツをわざわざ新調したりしないから、勿体無いし」
珍しく、というと失礼だろうが今日のかなたはれっきとした社長の顔をしていた。
普段はクロヱから弄られたりトンチンカンな発言をしてAZKiから呆れられたりしているかなた。そのためどこか頼りない印象があるのは事実だし、建太もそう感じている。
しかし、今見せている凛とした表情は間違いなく『かなた建設代表取締役社長・天音かなた』である。いざとなれば会社を、社員を守るために自ら最前線に立つことすら厭わない。
後光が差していると錯覚しそうなくらい堂々としたその姿に、社員二人も頼もしく思っているようだ。
「頑張ってね、かなたん」
「かなた先輩ならやれますって!」
「勿論!」
かなたは力強く応え、ガッツポーズも見せる。
それから建太の顔を見て、
「で、金屋くんの方も準備はできてる?」
「できてます。家出てくる前に何度も身だしなみ整えて、持っていく物も確認してきましたから」
「よろしい。それじゃ、今日はお供としてよろしく頼むよ」
「はい!」
建太は力強い返事をする。うんうん、とかなたは腕組みしながら頷く。
「それじゃ、行ってくるわ」
かなたは身を翻した。建太もその後ろにつき従う。
「いってらっしゃい!」
「気をつけてね〜」
二人に見送られ、かなたと建太は会社を後にする。じっとりと汗ばむ晴れ模様の下、ビルの外で予め待たせていたタクシーに乗り込むと、かなたは運転手に目的地を告げる。タクシーは静かなモーター音を立てて走り始めた。
「どう? 緊張する?」
助手席に座るかなたがこちらを振り向く。
「そうですね……初めて行く場所ですし、いろんな所からたくさん来るわけですからね」
「けど、絶対に勝ち取る……じゃないと、かなけんの未来はないかもしれない。経験はまだ浅いけれども金屋くんは優秀だからね、期待してるよっ」
「……はい!」
建太は力強く返事をする。かなたは頼もしそうに目を細めると顔を進行方向へと戻した。
タクシーは都心へと入っていく。飲食店や雑居ビルといったものは姿を消していき、代わりに様々な高さのオフィスビルが林立し始める。歩道を行き交うのもスーツ姿の男女ばかりで、街全体を引き締まったような硬い空気が満たしている。
その中を走るタクシーの窓からやがて一つの建造物が見えてくる。
他とは違って高層建築物ではなく、高さはおよそ四階建てくらい。しかし面積はかなり広く、他のビルの三倍くらいあるだろう。外周は一階から三階に相当する部分の殆どがガラス張りで、そこから透けて見える内部にもスーツ姿の人々が確認できる。屋根の中心辺りには設計者が手がけたドーム状の意匠がある。どういう意図があるのか建太には分からないが、そのドームは著名な建築家が設計したことで知られるこの建造物のシンボルとして知られている。
その正体は会議場だ。大小三つのホールを持つこの施設は各種説明会や展示会、時にはコンサートなども開催できる多目的施設となっており、建太も大学時代に就活で何度か足を運んだことがある。ニート化する前に勤めていた企業もここでの説明会で興味を持って応募したことを思い出す。過去の話とはいえ、つい苦い表情になってしまった。
タクシーは敷地内に整備されたロータリーの降車スペースで停車。かなたは電子マネーで二人分の乗車賃を支払った。
「さてと、それじゃ行こうか」
下車後、建太はかなたにつき従うように会議場へと入っていった。
◇
かなた達は会議場内の最も大きなホールへと通された。
内部には出席者の人数分の椅子がズラリと並んでいる。隙間なくギチギチに、というわけではなくある程度の余裕を持って間隔を空けられている。
その光景を見ただけで、出席者が相当多いことがよく分かる。大ホールを使わなければ収まりきらないのは明白だ。
そして、既に多くの出席者がこの場にいる。デザインの差異こそあるが全員が例外なくスーツ姿であり、自分の椅子で資料の確認をしている者や、見知った顔の相手との挨拶や世間話、なかには社交辞令の皮を被った言葉の鍔迫り合いをしている者もいる。
「こ、こんなにたくさん来てるんですね……」
「そりゃあ、こんな大型案件そうそうないからさ。みんな欲しがるって」
人の多さに尻込みする建太に対して、慣れた口調で飄々と言うかなた。
「ここまで大勢集まるのってあんまりないけど、説明会って大体こんな感じね。会場も普段ならもっと小さい、オフィスビルの会議室みたいな場所使うんだけどさ……まあ、あれかなぁ〜、施主の見栄? 箔つけたいんじゃない? 大型案件にはそれに相応しい会場を、ってことでさ」
「そうなんですね……覚えておきます」
建太はメモ帳を取り出してかなたの言ったことを書き留める。見栄のくだりは書く必要はないのだろうが、何が役に立つのか分からないのでとりあえずメモしておく。それを覗き込んだかなたが「いや見栄がどうこうのところはメモらなくていいから」とツッコミを入れてきた。
かなたと建太がこの会議場へ来たのは、これから行われる説明会に参加するためだ。主要ターミナル駅の駅前再開発事業、という大型案件の入札に関する説明会であり、かなたも前々からこの案件だけは取りたいと意気込んでいた。かなけんの今後を占う、というのは決して誇張などではないのである。
メモ帳をしまい、ペンを胸ポケットに差し、それからまた空間を一瞥する。これだけ多くの企業が出席するのだな、というぼんやりとした感想を抱く。
そうしていて建太は、ふと思ったことをかなたに訊いた。
「そういえば社長の知り合いの方もここにいたりするんですか?」
「え? あー、そういえば今んとこ見てないかな……」
かなたがそう言って周囲を見回そうとしたその時、
「ここにいるよぉ〜〜」
突然、背後から間延びした声をかけられ、二人は思わずビクッ、としてしまう。
振り向くと、そこにはスーツ姿の女性が二人立っていた。
片方は屋内にも関わらず丸いレンズのサングラスをかけた紫髪の小柄な女性だ。スーツは若干だぶついているようにも見え、雰囲気もどことなく道楽者のような感じがする。
もう片方はくすんだピンク色の髪をした女性で、サングラスの女性よりも身長が十センチほど高い。ハイヒールを履きこなし、スーツもしっかりと着こなし、ボディラインがくっきりと出ている。こちらはしっかり者の秘書といった様相だ。
「お、おかゆ社長!? ビックリしたぁ〜、いつから後ろに!?」
「さっきだよ〜、たまたま見かけたからちょっと驚かせようかと思ってね〜」
おかゆ社長と呼ばれた女性はあっはっは、と笑う。その後建太の方を見て、
「ところで彼は? 見たことのない顔だけど」
「ああ、この子はウチの新人くん。結構優秀でね〜、今回経験積ませようと思って連れてきたんだよ」
かなたに紹介され、建太は慌てて頭を下げて挨拶する。
「は、初めまして! かなた建設の金屋建太と申します!」
「初めまして〜、泥棒建設社長の猫又おかゆです〜もっと肩の力抜きなよ〜」
マイペースでふんわりとしたおかゆ。その緩い口調と態度が醸し出す空気が建太の緊張をほぐしていく。
「それじゃあルイのことも紹介しとかないとだね〜」
おかゆが促すと、秘書風の女性が名刺を取り出す。
「それでは
恭しく一礼し、名刺を差し出してくる。非の打ち所がないビジネスマナーの完成度だ。そういった経験の乏しい建太はそれだけで気圧されてしまう。
「ルイ〜、硬い硬い。もっと緩〜くいきなよ〜、金屋くん困ってるじゃ〜ん」
「社長が緩すぎるんですよ。大体なんで屋内なのにサングラスしてるんですか」
「こっちの方が威厳ありそうに見えるじゃな〜い」
「見えません。バカっぽそうにしか思えません」
ぴしゃり、と言いきるルイ。「え〜」とおかゆは漏らすが機嫌を損ねているようには見えない。むしろこれが通常運転なのだろう。
そんな漫才みたいなやり取りをする二人だが、建太の目線は自然とルイの美しい肢体に引き寄せられる。二つの果実はたわわに実り、ヒップラインも見事な曲線を描いている。
気づけば中心に血流が集まってきてしまっているのを感じる。こんなところで勃起させるわけにもいかず、慌てて建太はおかゆの方へと逸らす。
だが、建太は気づく。
だぶついているので見づらいが、おかゆの方にも確かな膨らみがある。身体の輪郭が出にくい状態ですら目視可能な大きさであり、おそらく彼女も相応のサイズの持ち主なのだろう。
はっきりと分からないのが却って想像力を刺激し、愚息が起き始め、硬さを持ち始める。
建太は二人を視界から外そうと明後日の方向を向いた。その時、
「あれ〜? よく知った顔がいる〜!」
さらに大きな果実を伴った褐色肌で長い金髪の女性がこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
「あ、フレア〜」
それに気づいたおかゆが手を振る。褐色肌の女性も手を振り返す。
「やっぱり来てたんだ〜。まあそりゃそうだよね、これだけの大型案件なんてそうそうないんだしみんな集まってくるのも当然かぁ」
「来るに決まってんじゃ〜ん、これでもちゃ〜んと社長だからね〜」
「今回ボクのとこは社運かけてるようなもんだからね」
おかゆ、かなたも混ざって談笑する。その流れで、
「あ、そうだフレア社長、この子ウチの新人君。かなけんの次期エース候補なんだよね〜」
建太は腕を掴まれ、談笑の中心に文字通り引っ張り出される。
「あら、そうなの? へぇ〜」
フレアと呼ばれた女性は顔を覗き込んでくる。豊満なバストがすぐそばに迫り、建太は焦りながらもどうにか平静を装おうとする。それでも勃起の進行は止まらない。
「は、初めまして、金屋建太といいますっ」
「どうも初めまして、不知火建設社長の不知火フレアです」
その社名を聞いて建太は思わず目を見張った。
不知火建設といえば業界大手の建設会社だ。当然建太も名前は聞いたことがあるし、大学時代には合同説明会に参加したこともある。結局エントリーしなかったので企業研究もしなかったが、まさか社長がこんな美女だとは知らなかった。
よろしくね、とフレアが手を差し出してきた。建太はしどろもどろになりつつ、テントの存在を隠しつつ不審に思われないように上体を曲げて握手を交わした。
「けど今回の案件、一体どこが取るのかしらね」
フレアが誰ともなく言った。不埒な生理現象をどうにか隠しきったことに建太は内心安堵する。
「ホントそれなんだよね、めっちゃくちゃデカい案件だもん」
「泥建も頑張らないとね〜。ルイがいるとはいえ、泥建みたいな新興勢が簡単に選ばれるような案件じゃないだろうし」
「
気づけば、談笑していた他社の社長や関係者達が続々と着席し始めている。ホール外にいた人々もぞろぞろと入り始めていた。
「それじゃあ、また」
「またね〜」
「また〜」
不知火建設、泥棒建設、かなた建設。この三社の社長達も所定の席へと散っていく。
「ボク達はこっちだね」
建太はかなたと隣同士で着席する。
説明会が始まったのはその約十分後だった。
説明会で詳細が明かされた大型案件とは次の通り。
この地域に鉄道網を広げる大手私鉄『んな電鉄』。その主要ターミナル駅とその周辺の再開発事業が計画されている。
その大きな柱となっているのが二つの事業。一つは広々とした駅前広場の新設による賑わいの創出。
そしてもう一つが駅前に建設される大型商業施設だ。
この大型商業施設が再開発事業最大の目玉となっており、その理由はテナントの一つとして入居することが決定しているカジノ『ラムベガス』だ。
各地方、さらには海外にもその手を広げている有名カジノブランドであり、それが入居することは既に各メディアで大きな話題となっている。
ラムベガスを抜きにしても非常に大きな案件であり、各建設会社が喉から手が出るほど欲しい仕事であることは言うまでもない。
だから、かなたはこの案件の獲得に社運をかけるとまで言っているのである。
◇
説明会が終わった正午過ぎ。
建太とかなたは会議場近くの駅から地下鉄で移動し、途中の繁華街で一旦下車。かなたが一度行ってみたかった、というカフェで昼食を摂る。
「いや〜、もう噂通りだね! いつもは行列必至らしいけど今日はあまり並ばずに済んだわ〜」
目の前に出されたチーズケーキの欠片をまた口に運び、かなたは頬が落ちそうなくらい幸せそうな表情を見せる。
「けど、こんなところで油売ってていいんですか? ライバル社はきっともうそれぞれの社に帰って会議や計画書の作成を始めてるんじゃ……」
「わかってるって、これ食べたら会社に戻るから。それにしても美味し~!」
一口一口、じっくりと味わうように食べる姿を見て、まだかかりそうだな、と建太はため息をついた。
結局、かなたが食べ終わるまでに四十分以上も待たされてしまった。ようやくカフェを出ると、午前中には晴れていた空が陰り、厚くて無数のコブのようになった黒雲に覆われていた。
「うわ、なんか降りだしそう……傘持ってきてないや……」
「急げば降る前に駅に着きますかね……?」
建太は身体の前に腕を伸ばし、手のひらを上に向ける。
――ぴちょんっ。
中心に小さなモノが落下した感触があった。
間もなく、ザアアアァァッ、と辺り一帯を打ちつける音が響きだす。
「ヤッバ、降ってきた!」
「急ぎましょう!」
二人は弾かれたように、突然のゲリラ豪雨の中を駆けだした。
歩道のタイルも車道のアスファルトも瞬く間に濡れていき、各所に水溜まりが作られていく。天気予報をちゃんと確認していたであろう傘を差して問題なく歩く人々と、傘を持っておらず手やバッグを頭上に掲げるなどして駆ける人々とで見事な対比ができてしまっている。勿論、建太とかなたは後者である。
「これじゃ駅着く前にびっしょびしょだよ!!」
容赦なく大きな雨粒を落としてくる空に向かって毒づくかなた。駅まではまだ五百メートルほどある。そして現在走り抜けている通りには雨を凌そうな場所はない。
このままだと風邪を引いてしまう。体温が奪われていくのを感じる。
どこでもいいから雨を凌そうな場所を探そうと建太はあちこちに視線を飛ばす。とにかくこれ以上濡れるのを防ぎたかった。
その時、通りから左に入った路地に庇があるのが見えた。
「社長! こっちです! 一旦雨を凌ぎましょう!!」
雨音にかき消されないよう大声で叫ぶ。無事に声はかなたに届き、彼女は数メートル引き返して建太の後を追う。
左折してから三十メートルほどのところにその庇はあった。二人は飛び込むようにそこに身を寄せる。
全力疾走で息は上がり、肩は上下する。少しずつ呼吸を整えていき、それからびしょ濡れになった互いの顔を見合わせる。
「もー……こんな時にゲリラ豪雨に降られるなんてついてなさすぎるよ……」
「随分濡れちゃいましたね……暫くここで雨宿りしますか」
「そうだね、ゲリラ豪雨だったら三十分もすればあがるだろうしさ」
かなたは音を立てて降りしきる空を恨めしそうに見上げた。降り止むまではまだかかりそうだ。
「それにしてもここってなんの建物なん…………」
かなたの言葉が、まるで電池が切れた人形のように唐突に途切れる。
「あれ、どうしたんですか社長?」
かなたを見ると、建物の壁に視線を向けたところで固まっている。その先を手繰ってみると壁に設置された看板に行き着く。
「あ…………」
そして建太はかなたが固まった理由に気がついた。
HOTEL Fallen Angel
Rest 4000yen〜
Stay 7500yen〜
建太もそれを見て固まり、それから再びかなたと顔を見合わせる。
勿論、そういうつもりでここへ飛び込んだわけではない。突発的な集中豪雨に見舞われ、緊急避難できそうな場所に駆け込んだらそこが偶然ラブホだっただけだ。
なのに、建太の身体は期待するかのように勃ち始めてしまう。それを抑え込む暇などなく、あっという間にバッキバキになってしまった。
それだけではない。
かなたの小さな手が握ってきたのだ。いつもの馬鹿力ではなく、そっと。
もう一度顔を見返す。
目を伏せつつも頬を染めるずぶ濡れの雇用主の姿がそこにあった
建太はもう、邪な感情に抗うことができなかった。
◇
ベッド、カーテン、絨毯──このホテルのテーマは蒼色のようで、調度品一式の色がそれで統一されている。
冷房と除湿機をフル稼働させた室内で濡れたスーツやその下のワイシャツ、下着、靴下はハンガーで干され、建太とかなたはシャワーを浴びるために浴室に入る。
当然、二人とも生まれたままの姿だ。そして、この狭い空間でこの二人が、この格好で一緒になって何事もなく終わるはずがなかった。
「んんっ、んふぅっ……!」
「あはぁ、はぁっ……んんんっ、んんっ……!」
後ろから建太に抱かれ、左の乳房を愛撫され、ぬるめの温水を放つシャワーベッドを恥部にあてがわれて喘ぐかなたの痴態がそこにはあった。
細くてほどほどの温度の温水で絶えず肉芽は狙い撃たれ、起伏はなくとも感度の上がった胸部は抗い難い快感に痺れ続ける。秘部を洗われ、タイルの床には愛液混じりの温水が絶えず落ちている。
「どう、気持ちいい?」
性交時のみ許されたタメ口で訊くと、かなたは頭をカクカク、と上下に揺らして肯定した。
「シャワー当てられるの、気持ちいいよぉ……それに、触り方もやらしすぎ……」
「こう?」
建太は乳首を摘んで捏ねてやる。ビクンッ! とかなたの身体が弓なりに反り、下腹部と股を前に突き出す形になった。
「あっ、きもちっ、捏ねっ、なっ、あぁっ! 乳首とクリっ、一緒に弄られたらぁっ……!」
その弓なりポーズのまま、ぴくんっ、ぴくんっ、と身体を震わせている。快感を逃しきれていないのが建太にはよくわかる。このまま苛み続けたらどうなるのかも予想がついた。
「ああぁぁっ、きちゃうっ! こんなに弄られてっ、きちゃうっ、きちゃうっ、我慢できなくなるぅっ!」
「ほら、たくさん撒き散らしちゃえ」
「ああぁぁくるっ! もうでちゃうっ! でちゃうでちゃうでちゃうでっ、あああぁぁぁぁぁ…………!!」
昇り詰めるかなたの反応を見てタイミングよくシャワーヘッドを離す。重力で滴り落ちる水滴、そして斜め前方向へと放たれる女潮。まるで失禁のように腰を前後に細かく震わせて二度、三度と噴き出していく。
潮噴きが収まり、身体を抱く腕をそっと離すとかなたはその場にへたり込む。
「はぁ……ああぁぁ…………」
その余韻を感じながら、しかしかなたは雄々しき肉棒に目を奪われる。
「あは……建太くん、こんなにおっきくして……」
「かなたがエロいんだから仕方がない」
「バッキバキになってて苦しそう……ボクが楽にシてあげるね」
かなたは建太の両脚を掴んで蹲踞立ちになり、バネのように上下する肉棒にしゃぶりつく。拒否感も抵抗感もなく根元まで咥え、頭を前後に動かしつつ、じゅぶっ、じゅぶっ、と音も立てる。
下半身にしがみついて濃厚なフェラチオを披露するかなたに建太の興奮度合いは一気に跳ね上がる。
「いつの間に、そんなエロい顔でフェラするように……」
「あのあと、ボクだって自分で学んだんだよ……? 建太くんにも気持ちよくなってもらいたいし……んぶっ、んじゅるっ、んふぅぅん……!」
まだ二回目だというのに、かなたは積極性と貪欲さを見せつける。
「んふっ、んぶっ、じゅるっ、じゅるっじゅぶぶっじゅぽっじゅぽっじゅぽっ!」
「おおぉ、スッゲェ……!」
建太は仁王立ちして踏ん張る。しかしそれでも湧き上がるモノは抑え込めず、明確な射精欲求が生まれる。
「かなた、口に
「んっ、んっ」
明瞭な声にはなっていないが、僅かに首肯しているのが分かった。
そのまま口淫を受け止め、グツグツ、と遡ってくる快感を我慢も抑制もしない。だんだんと尿道を昇ってくる感覚を感じる。
建太は遠慮なくかなたの口の中に吐精した。頭を両手で掴んで離れないようにし、濃く粘ついた遺伝子を喉に直接流し込む。
「んぶっ!? んんっ、ぐうぅ、んふぅうぅぅ、うふぅぅぅぅぅ……!!」
呻き声を上げ、鼻を鳴らし、目を見開く。しかしすぐにうっとりするかのように細まり、ごくんっ、ごくんっ、と喉を鳴らして
口を離すと様々な太さの精液の糸が幾本も引き出され、途切れていく。
「んべっ……」
精液が溜まって栗の花臭くなった口の中にも細い縦糸が伸びていた。
「全部飲んだのか」
「うん」
そう答えるかなた。頬は赤い。その理由はシャワーのぬるま湯のせいではなさそうだ。
「ねぇ、こっちにも建太くんのが欲しい……」
かなたは蹲踞立ちのまま秘部に手をあてがい、自らの指で弄って見せる。
「自分でシたって満足できないんだ……軽くイって潮を少し噴くくらいで、指の太さじゃ足りない……この太さのが、欲しい……」
雄々しく勃ち上がったままの肉棒を優しく握り、そっと扱いてくる。鈴口から垂れるカウパー液がかなたの手を汚していく。
「……続きはベッドでしようか」
建太はそう言った。
二人は浴室を出るとロクに身体も拭かず、ベッドに移る。脚を開いて仰向けになったかなたの淫裂を潮が噴かない程度にクンニし、欲しくて欲しくてたまらない状態にしてからベッドに上がり亀頭の先っぽを当てる。
そのまま腰を前に進め、その名器を貫いた。
「ああぁぁぁ…………!!」
かなたはそれだけで一気に切羽詰まった表情になる。きゅぅんっ、きゅぅんっ、と三点俵締めの肉壺が喰らいついてくる。
「初っ端から、凄い締まりだっ……! かなたの、ドスケベマンコっ……!!」
たった一往復の抽送で、AZKiやクロヱとのそれの三往復分の快感を得られるかなたの膣。他の女と比べるのは失礼なのは分かっているが、それでもやはりかなたのは別格であるのは紛れもない事実だ。
肉傘で膣肉を引っ掻き回し、そして膣肉はそれを搾り取ろうとしてくる。剛直に与えられる快感は脳に届き、理性と思考を削り取って建太をケダモノにしていく。
しかし、先に音を上げたのはかなた──正確に言えばかなたの尿道だった。
「でちゃうっ……でちゃうでちゃうでちゃうぅぅっ!!」
腰が跳ね上がり、その勢いでペニスも抜け、その直後に透明な女潮を高々と噴き上げる。ベッドシーツやマット敷きの床、建太の胸部や腹部に二回、三回と降りかかり、収まった後のかなたは放潮の快感で呼吸を大きく乱して膣口もヒクついている。
建太はそこへ再び挿入し、さらに上から覆い被さる。さっきより深々と刺し込まれた剛直にかなたが絶叫する。それは苦痛でも拒絶でもなく、性の悦びに起因する悩ましいものだった。
「んあああぁぁぁぁぁっ!!! しゅごいっ、こんなっ、こんなのっ、耐えられないっ、気持ちよしゅぎてっ! おかひくなりゅっ! おかひくなっひゃうのおおぉぉぉぉっ!!!」
気づけばかなたは建太の身体に両腕両脚を絡ませて抱きついていた。がっちりとホールドして離れない、離そうとしない。
膣肉もうねり、三箇所でムラなく締めつける名器は肉棒だけでなく建太の繁殖本能を十二分に刺激し、
「
「欲しいのっ、建太くんの濃厚ザーメンっ、全部ボクの一番奥に注いで欲しいのっ……!!」
濃密でねっとりとしたキスを繰り返し、唾液を何度も何度も交換する。その姿は野生動物の交尾のように下品であり、そして情熱的でもあった。
「おおぉっ、おおぉぉぉっ! 全部っ、受け止めろぉっ……!!」
ずぶんっ! と根元まで突き下ろしたのと同時に建太の精液が堰を切ったかのように放出されていく。体重をかけ、最奥の子宮口に鈴口を密着させ、作りたてほやほやの濃厚ザーメンを欲望のままに放流する。
「ああっああっああぁぁっ……!! あつぅいっ、建太くんのがいっぱい
射精が止まっても、膣壁から生えた肉ヒダの一本一本に精液を塗りつけるように数回ピストンする。
「ふぅっ……ふぅっ…………」
「はぁっ……はぁっ…………」
建太もかなたも肩で息をしている。しかしまだまだ性欲の火は消えない。
だが、そろそろホテルを出る支度をしなければならない。なぜなら受付では休憩二時間分の料金しか払っておらず、それ以前に説明会の内容を会社に持ち帰ってAZKiとクロヱにも共有し、今後の計画を話し合わなければならない。そもそもの話、急に雨に降られなければこのラブホに入っていないのだ。
シャワールームに再び入ってセックスでかいた汗や他のモノを洗い流し、ボディソープを泡立てて身体を洗う。お互い手の届かない背中をそれぞれ洗い合う。
しかし、だんだんと手が普通に届くはずの場所も洗い合うようになっていく。特に乳首と性器に手が伸び、お互いぬるついた透明な我慢汁や愛液が出てしまう。
かなたが何も言わずに立ち上がり、壁に両手を突いて尻を向けてくる。湯で洗い流してもすぐに覆われるほど内側から溢れ出る蜜で濡れ、穴の入口は小刻みにヒクついている。
そこに引き込まれるかのように、建太は触られてまた滾ってしまった剛直を挿し込む。かなたの上体を抱き、その上体を捻ったかなたとキスを繰り広げ、時間がないのに再びかなたと本番行為に走ってしまう。シャワーの音ではかき消せない喘ぎ声と呻き声が響く。
生殖本能と下卑た性欲に突き動かされてひたすら腰を振り、ドロドロとした接吻を繰り返す。明瞭な言葉がなくともナニをして欲しいかが伝わってくる。
マグマのように湧き上がる感覚に逆らわず
全身に滲んだ汗と精液、愛液を洗い流し、八割ほど乾いた肌着やスーツを着直し、二時間近く雨宿りしたラブホを出る。とっくに雨は上がっており、水溜りもなく、アスファルトも日陰を除いて乾いていた。
当初向かっていた地下鉄駅から二時間遅れで乗り込み、乗り換えを一回挟んで社の最寄駅で下車。遅くなったのもあって二人ともやや早歩きだった。
「ごめ〜ん! 遅くなった!!」
帰社してオフィスルームのドアを開けたかなたは開口一番、声を張り上げる。
「おかえり〜、だいぶ遅かったね」
「ちょっと遅すぎっスよ〜、何してたんスか〜」
AZKiはいつも通り、クロヱはやや頬を膨らませて出迎える。急な豪雨に見舞われたことを伝えるとクロヱも納得し、ようやく説明会の内容を全体で共有する。
「やっぱ簡単にはいかなそうだね……まあ、これだけ大きな案件だからね」
「てか泥建もいるのかよ〜……鷹嶺がいるとこじゃん。アイツ口も頭も回るからな〜手強そう……」
「まあ、全力で頑張るしかないよ。……かなけんだって小さいけど負けちゃいないってこと、しら建や泥建にも思い知らせてやろうよ!」
かなたは気合いが入っている。それを見た建太たち社員も頷く。
「それじゃ、早速計画を立てていこうか。まずは──」
案件を勝ち取るための作戦会議が始まろうとしていた。
……すん、すん。
ふと、鼻を鳴らすような音がする。
建太が振り返ってみると、AZKiが建太の髪の匂いを嗅いでいる。
「何してるんですか、AZKi先輩?」
問いかけてみるもAZKiは答えず、さらに鼻を近づけて匂いを嗅いでくる。それから今度はかなたに近寄って同じ行為を繰り返す。
「あ、あずちゃん……?」
「何してんスか?」
かなたとクロヱもその行動の意図が分からず困惑している。
それから何かを確信したかのように頷き、AZKiは建太とかなたを交互に見遣る。
「二人共、シャンプーの匂いがする。しかも、全く同じ匂いが」
建太は内心ギクリ、とする。横目でかなたを見ると彼女もどこか焦っているように目を泳がせている。
「雨に降られたのにシャンプーの匂いがするってことは、どこかでシャワーでも浴びたってことかな? それも、二人して、一緒の場所で」
建太のこめかみから冷や汗が垂れる。
「ねぇ、どういうこと? まさか、説明会の帰りに……二人で、ナニかしてたのかな?」
普段の穏やかさから一転、AZKiからの強大な圧を感じる。
建太とかなたは思わず顔を見合わせる。建太はまだしもかなたは「バレた!?」とでも言わんばかりの表情が顔に現れてしまっていた。
二人の肩に、AZKiの手が置かれた。
「どういうことなのか、一から説明してくれるよね?」
見た者を震え上がらせる黒い笑みを見せつけられ、二人は壁際に追い詰められたネズミのように縮込まることしかできなかった。