世界最強の魔女、無様敗北の末に敵国に捕まって魔女裁判で有罪になる。残りの人生は苗床として一生子宮を使われ続けるようです。 作:破戒僧
マリーが帝国に捕まってから……半年が過ぎた。
当初、『盟主』という絶対の存在を失ったことで空中分解すら予想されていた『スカイクラッド』だが、迅速に新たな『盟主』が擁立され、組織としては全く問題なく運営を続け、同盟国との共闘や帝国への対応を続けていた。
瓦解やゆらぎどころか、少しその場で足踏みすることすらなく、何事もなかったかのように戦いを続ける魔女達に、味方として戦う者達は頼もしく思い、敵対する者達は歯噛みした。
その中心に立って辣腕を振るう、新盟主・クレアは、マリーから受け継いだ『執務室』の机の上で、厳しい表情で書類を眺めていた。
部下から提出された、今回のマリーの件について調査させた結果が記されている資料だ。
(マリー様すら欺いた、魔法による毒物の隠蔽……その毒物そのものも、マリー様の耐性を貫いて力をそぎ落とすレベルだった……いかに帝国が魔女について長いこと研究を進めているとはいえ、奴らだけの力でそんなものを作れるとは考えづらい。そう思って調べさせたが……)
「やはり、裏切った大馬鹿者がいたか……」
「はっ。保身に走って帝国にすり寄った愚か者のようです。この『スカイクラッド』や、同盟組織の魔女ではなかったのは、幸いでしたが……」
裏切ったのは……『スカイクラッド』とも関わりのある、ある小規模な『魔女の連盟』だった。
個人ではなく、その組織が丸ごと裏切って、帝国についていた。
武力による抵抗が難しくなったか、はたまた他に何かの弱みを握られたか……詳細はもうわからないが、帝国と内通して魔法薬や魔法に関する情報提供を行い、研究を進めた。
そして、魔法で探知できず、摂取すれば高位の魔女にすら効力を発する薬品を作り上げ……それが今回、マリーに使われたのだ。
「大方、帝国で甘い汁をすすらせてやるとでもうそぶかれたのでしょうが……愚かなことです」
「まったくだ。自分達に待ち受けている結末の予想すら、できなかったのだからな」
そしてその組織は、今もうすでにない。
魔法や魔法薬を研究するノウハウを全て吸い上げられた後は、密約など知らないとばかりに帝国によって組織まるごと全て拿捕されたという。
今頃は、全員仲良く、うわさに聞く『牧場』に入れられていることだろう。
(帝国の連中には、そもそも『魔女』を人間扱いする発想がない。たとえ協力関係にあった者だろうと同じだ……そんなこともわからずに……愚か者どもめ。こっちはいい迷惑だ)
「すでに対抗策は用意したのだな?」
「はい。従来の魔法で探知できない薬物を探知するための、改良した魔法が完成しています。実験を行い、問題がなければ、連盟の全員に公開して習得を義務付けます」
「よろしい、迅速にな」
その時、こんこん、と執務室の扉がノックされる。
そして、クレアが何か言うよりも先に……許可も待たずに、そのノックをした誰かがドアを開けて入ってきた。
そういうことをするのは1人しかいないので、クレアには、来たのが誰だかすぐに分かった。
「何か御用ですか……マリアンヌ殿」
「そりゃあ、用があるから来たんだよ、現盟主殿」
入ってきたのは、妙齢の(少なくとも見た目は)黒髪の魔女だった。
薄手のガウンのようなローブに身を包み、ゆったりとした服であるにも関わらず、体の線がかなりはっきりとわかる、煽情的な装い。
背は高く、スタイルもいい。マリーやクレアほど、凹凸が豊かさではないものの、出るところはでて、しまるところはしまったメリハリのある若々しい体だった。
うっすらしているとわかる程度の薄化粧を施した、自然体の美しさが光る顔に、どこか退廃的、ないし蟲惑的にも見える笑みを浮かべている。
彼女の名は、マリアンヌ。
現盟主であるクレアの『相談役』……というより、先代のマリーの頃からその地位にいる。
年齢は1000歳を超えており、『スカイクラッド』最年長。はるか昔の時代を知る生き字引にして……マリー、クレアと同様に、『不老不死』の領域に至っている、大魔女である。
戦闘の力量であればともかく、魔法に関する技術力や知識量においては、マリーやクレア、さらにその道のプロフェッショナル達すら遠く及ばないほどの実力者であり、さらには政治方面にも明るいという、組織を支える柱といっていい人材だった。
ただ、年齢故か、あるいはそもそもこういう性格なのか……どことなくいつも気だるげで、かつやや傲慢さが鼻に突くようなふるまいをするのが玉に瑕であり、『盟主』に対してもこんな感じなので、部下の中には、尊敬はすれどもあまりよくは思っていない者も多かった。
実のところクレアも、毎度この調子のマリアンヌにはため息をついているのだが――ちなみに、先代のマリーは特に気にしていなかった――言っても直らないのはわかり切っているので、今日もため息をつくだけにして、何もうるさく追及することはなかった。
そんなマリアンヌが、何の用でやってきたのか尋ねると、
「王国にやっている連絡員から知らせが入ったぞ。現在帝国に捕まっているクリスハート王子が、近々解放・返還される見通しが建ったそうだ」
「何だと……? 随分と唐突だな。今まで、王国側が外交ルートで表裏から交渉を試みても、ほとんどなしのつぶてか、法外どころではない要求を突き付けられるだけだったというのに……」
「何か裏、ないしたくらみがあるのではないかと、王国もいぶかしんでいるようだ。警戒のために、こちらにも協力を要請してくる可能性大、だとさ」
「……原因は王国内部にいた裏切り者だとはいえ、それを見ぬけなかった分の負い目もある。こちらも力にならぬわけにはいくまい。情報が入り次第、幹部を集めて対応を協議する。準備しろ」
「「はっ!」」
部下達は元気よく返事をして、すぐさまその命令を実行するために部屋を後にする。
執務室には、クレアとマリアンヌの2人だけが残され……
「……マリアンヌ殿」
「何だ?」
「クリスハート王子についてはわかりました。……して、マリー様については?」
「そちらは相変わらず、情報も進展もなしだ。帝国内部に潜らせた密偵も、ほとんど死んだし、生き残ってる奴も何もつかめていない。あくまで予想だが、うわさに聞いている、魔女を『苗床』として管理する施設にでも幽閉されて、『使われて』いるんじゃないか?」
マリーの安否に関する話で、しれっとひどい予想を口にするマリアンヌに、さすがにクレアも顔をしかめる。
それが、確かにありそうな予想だとわかっていても……そんな風に、天気の話でもするかのように気楽に語られてしまうと、いい気分はしない。
そのマリー……マリーローズと、目の前のマリアンヌの関係を思えば、なおさら不愉快だった。
「よくそんなひどい予想をさらっと口にできますね……実の娘の話でしょう」
「だから何だ? 親の言うことも聞かず、隠れ里を出奔した親不孝者のロクデナシだ、縁なんて今更あってないようなものさ。……ま、損得勘定でこうして同じ組織に属することを選んだ私が、偉そうに言えた話でもないがね」
つまらなそうに言いながら、マリーの母・マリアンヌは、だるそうに立ち上がって、すたすたと部屋の入口に歩いていく。用事は終わったから帰る、とでも言わんばかりだ。
ドアノブに手をかけて、開く直前、ふと思いついたように動きを止めて、振り返る。
「もしあの子が『苗床』になっているなら警戒が必要だぞ。数年後には、あの子の胎(はら)から生まれた『魔法兵士』や『軍用魔獣』が、私らの前に立ちはだかるかもしれない。私やあの子の血を受け継いで生まれたとなれば、それなりに驚異だろう。対策を考えておかないとな」
「……あなたにとっては、孫やひ孫にあたるわけですが」
「今更だと言ってるだろ。身内同士での殺し合いくらい、700年も歴史をさかのぼればあちこちの魔女の隠れ里で行われていたことさ。躊躇なんてしてたらこっちが危ない……割り切らんとな」
そう言ってマリアンヌは、ドアの向こうに消えた。
残されたクレアは、今日何度目かのため息をついて……しかし、マリアンヌの言う通り、決して無視もできない。嫌な未来予想について、どうしたものかと頭を抱えていた。
☆☆☆
一方その頃、帝都の『牧場』にいるマリーは……分娩台に乗り、今まさに何度目かの出産を……新たな『魔法兵士』を産み落としている最中だった。
「んあぁっ、あっ、おっ……う、産ま゛れる……またっ、赤ちゃん、出てくるっ……んおぉぉおほおぉぉおおおっ!? 出る、でる゛ぅううぅっ!?」
その様子は、およそ5か月前に経験した、初めての出産とは……だいぶ変わっていた。
陣痛から始まり、子宮口をこじ開け、肉壺を押し広げて通り、膣口から出てくるまでの一連の流れを……マリーはずっと、苦痛を上回る快感にあえぎながら過ごし、出産に至っていた。
最初こそ、苦痛の中に快感が滲み出す、程度の認識だったが……この半年間に何度も妊娠(種付け)と出産を繰り返すたびに、どうやらマリーの頭と体が、妙な形で順応してしまったらしい。
出産の際の苦痛を快楽に変え、出産そのものに対する忌避感や恐怖感を著しく薄れさせ……快感により大きく意識が向くように、マリー自身の体を騙して作り変えていた。
今もこうして……赤ん坊をひりだすと同時に、豪快に絶頂して潮を吹き、赤ん坊も、取り上げるために彼女の股間の前にいた職員達に豪快に降りかかっていた。
マリーの股間から飛び散った汁にまみれて、不快感をあらわにする職員達。苛立った目でマリーをにらみつつも、さっさと仕事を終わらせるために手を動かす。
「はひぃ……はひぃ……」
大股開きで、大きく広がってしまった膣穴をさらしながらひっくり返っているマリー。
しかしすぐに、その出産で広がった膣穴が回復をはじめ、もとのぴったりととじた形に戻っていく。
この『回復』も……出産を経験するごとに、徐々に早くなっていっているように見えた。
最近では、出産した翌日にはもう次の『種付け』が始まっており、種付けと出産を休みなく繰り返し、まさしく苗床、あるいは子供を産むための装置として、マリーの子宮は酷使されていた。
そして、そんな扱われ方をしてもなお、マリーの体は何の異常もなく回復している。
「検査の準備をしろ。まあ、今回もどうせ問題なしだろうがな」
「明日の種付けの準備も同時進行で進めさせるか?」
「いや、それは待て。今回は検査が終わったら、種付けは行わずに一時待機だそうだ。ちょっとした目的があって、コイツを使うらしい」
「目的? 何だそりゃ?」
「さあな、聞かされてないからわからん。ただ、『胎(はら)は空けておけ』とだけ言われてる。魔法兵士じゃない……軍用魔獣の仕込みでも行うのかもな」
「それはもっと後じゃなかったか?」
職員達の会話は、すぐそこでマリーが聞いているにも関わらず、何の遠慮も注意もせずにかわされていた。聞かれたところで何もできない、と考えてのことだろう。
実際、ここを脱出することも、外部と連絡を取ることもマリーにはできない。聞かれたところで何もできず、誰も困らない。
そもそも、この有様……出産の快感で白目をむいて舌を出して、潰れたカエルのように仰向けにひっくり返っているこのざまで、まともに自分達の話を聞けているのかすら疑わしい。
職員達の目には、今のマリーはもうすでに、恐ろしい『黒の女王』ではなく、虐げられて喜び、痛みを快楽に変え、出産の瞬間も赤ん坊に絶頂させられる、無様で、汚らわしく、あさましい女としてだけ映っていた。
(種付け、じゃない……別な仕事……? 何、かしら……?)
そして、実際はきちんとそれを聞いていたマリー。
頭が冷え、徐々に快感から抜け出して冷静に戻っていくが、それでも、次に自分が『種付け』以外の、何の目的に使われることになるのか……考えても、答えは出なかった。
(……まあ、待っていればそのうち、答えは出るでしょう……とにかく今は、少し休んで、体力を回復させなきゃ……)
もう、ここの職員達に、どんな姿を見られて、どんな風に扱われようが、もう慣れた。気にならない……わけではないが、気にしてももう仕方ないとわかっている。
開き直って諦めて、マリーはどっと襲ってきた疲れと眠気に身を任せ、抵抗せず……かくん、と眠りに落ちた。寝ている間に、体は最低限清められ、部屋に運ばれているだろう、と。
☆☆☆
その翌日。
昨日うっすら聞いていた通り……朝食を終えても、『種付け』の時間にはならなかった。
食後、マリーは粗末な囚人服の上下を着せられて、部屋から連れ出された。
『牧場』に来てからは常に裸であり、服を着たのは実に半年ぶりだったため、マリーは肌に布が触れる感覚に逆に違和感を覚えており……それを内心で呆れて笑っていた。
(半年の間に裸族にでもなったのか、私は……しかし、わざわざ服を着せられて、一体どこへ連れていかれるのかしら……?)
見覚えのない、通ったことのない通路を通って、たどり着いた先は……座敷牢だった。
内部の作りは、清楚だが上品で清潔。まるで高級な宿屋のような、上質な部屋だ。同じ『牧場』の中にあるとは思えない……『畜舎』や独房とは雲泥の差、いや、それどころですらない差だ、とマリーは思った。
外に出られないことを除けば、ここで暮らすこと自体には、何のストレスも感じないだろう。
そして、その部屋でマリーを待っていたのは……
「クリスハート殿下……!?」
「マリーローズ殿! よかった、無事……では、ないのだったな……」
部屋の中心にあるソファに座って待っていたのは、記憶の中にある姿よりも少しやせてしまったように見える、しかししっかりとした体躯で、整った顔つきも健在の青年。
半年前、自分と一緒に帝国の襲撃を受けて拉致された、王国の第三王子、クリスハートだった。
自分と違って、粗末な服ではなく……清潔感のある、きちんとした服を身に着けている。王族クラスの貴人が身に着ける者としては『質素』かもしれないが、十分に上質な品だとわかった。
実に半年ぶりの再会となる2人は、お互いの無事を喜んだが……直後にクリスハートの顔に陰りが見えた。
恐らくは、マリーが今までどういう目に遭っていたかは聞いているのだろう。
心配させてしまった、落ち込ませてしまったことに心を痛めつつも、マリーはいぶかしんだ。
服を着せられた理由はわかったが、なぜ今になって、自分と王子を面会させたのかと。何か狙いがあるのかと。
しかしそれも気にはなったが、同時にマリーには、王子に会えたらやるべきだと思っていたことがあった。この半年間、ずっと頭の片隅に残っていたことが。
「殿下……半年前、お守りできず申し訳ありませんでした。殿下だけではない、他の、特使の方々も……我々『スカイクラッド』が、同盟者としてお守りしなければならない立場にいたというのに……このような虜囚の辱めを……。不甲斐なく……心よりお詫び申し上げます」
そう言ってマリーは、深々と頭を下げる。
それを見て王子は、頭を横に振って言った。
「謝らないでくれ、マリー殿。あなたが悪いわけではないし……私は何も気にしてなどいない」
その顔には、むしろマリーのことを心配し、いたわるような優しい、しかしどこか悲し気な笑みが浮かんでいた。
今言葉にした通り、王子はマリー達に対して、責任を問うつもりは欠片もなかったし、ましてや恨みなどの悪感情も全く抱いていなかった。
「むしろ、我らの方こそ詫びなければならん……聞いたよ、そなたらが負けたのは、王国軍に裏切者がいたせいだとな」
「帝国軍の者が、そう言ったのですか?」
「それもあるが……定期的に外部と手紙のやり取りを許可されている。その中で、王国にいる私の部下達が教えてくれたのだ。そのほかの色々な、昨今の国際情勢を含む情報も、検閲もされずに届けられたよ……助かるのはそうだが、帝国は何のつもりなのだろうな」
貴人とはいえ、随分と自由度の高い虜囚だな、とマリーは思った。
そして、その後に続けて聞かされた内容にも驚いた。
近々王子は、釈放され王国に戻ることができる見込みだというのだ。王国と帝国が外交交渉を行った結果として、そういった結論になったと。
王族の身柄を手にして、てっきり帝国は、それを外交交渉に利用するだろうと思っていた。
王子の命が惜しければ、要求を呑め……といった形で。
さすがに、今行っている戦争の降伏は、王子1人の身柄と引き換えでも条件が重すぎるため、断腸の思いで王子を見捨てる選択肢を取る可能性が高い。しかし、一定地域からの撤退や、高額な身代金程度であれば十分にあり得ると思った。
しかし聞く限りだと、全くそういった交換条件がないわけではないようだが……あまりにも、条件が軽い。
相互不干渉地域の設定や、多少の額の身代金、そして、現在王国で捕虜になっている帝国の要人達との交換。提示され、まとまりつつある条件はせいぜいそのくらいだという。
もちろん、高度に政治的な判断が要求されるものも多いし、身代金の額自体はかなりのものだ。
それでも、王国の王子……それも、特に国民に人気がある第三王子の身柄と引き換えにするには、不自然に条件が軽かった。
それを指摘すると、王子もこくりとうなずいて、
「おそらく……それ自体が帝国の狙いなのだろう。不自然に軽い条件で私を返却し、それを逆に、疑心暗鬼の種として利用する。例えば……この半年の間に私が帝国に篭絡されており、返却されると同時に、帝国のスパイとして野に放たれるのではないか……とかな」
「まさか!? しかし、なるほど……疑われたら厄介そうな話、ですね」
「この半年間、私は特に拷問も何もされず、ただ飼い殺しにされていただけだった。多少の取り調べこそされたが……機密情報を聞き出そうとする素振りすらなかったよ。王国を、民を裏切るようなやましい事実は誓って何もない。だが……」
「それを、王国側が信じるかどうかは別……あなたを返すことで疑心暗鬼をあおり、王国の瓦解……まではいかなくとも、結束を弱めて動きを鈍らせ、足の引っ張り合いをさせるのが目的ですか」
「恐らくな。そう考えると、この半年間という時間も絶妙だ。ただの人質として、何事もなく過ぎたと思うには長すぎる……この半年の間に何かされた、吹き込まれた、と勘繰る輩は絶対に出る。今から頭が痛いよ」
はぁ、とため息をつく王子。
しかしすぐに顔を上げて、その空気を強引に振り切り、笑顔を作って見せた。
「だが心配は無用だ。苦労はするだろうが、王国には私の味方が大勢いる。なんだったら、真偽を判別する魔法を使ってもいいしな。時間はかかるかもしれないが、それらの疑念は払拭できるだろう……だが」
「?」
「それでも……今回の条件の中に、そなた達の解放を盛り込むことはできなかった」
再び……いや、先ほどよりも重苦しく、辛そうな、申し訳なさそうな空気になる王子。
「帝国は、そなた達を手放すつもりはないようだ。すまない……先に私一人、ここを去ることになってしまう。……今もつらい目に合っていると聞いている、そなた達を残して……本当に、心苦しく思う」
本当に心からそう思っているとわかる声音で、王子は言った。
それを聞いて、マリーはふっと笑って返す。
「そのお気持ちだけで十分です。私達は大丈夫ですから……あなたは国に戻り、あなたにできることをしてください、殿下」
「……情けない話だが、そなたならそう言ってくれるだろうと思っていた。ああ、そのつもりだとも……ここを出ることができたら、私は私にできることを全てやって、現状の改善に尽くすつもりだ。もちろん、そなた達の解放も含めて」
顔を上げた王子は、精悍な中にも幼さの残る顔を、真剣な表情にして……マリーの目を正面から見据えて、一言一言、はっきりと言葉にする。
「だから、どうか諦めず、耐えて、待っていてくれ。いつかきっとそなた達をここから助け出して見せる。今日は……それを伝えるために、この面会を申し込んだのだ」
伝えるべきことを全て伝えた王子は、マリーがこくりとうなずくのを見て、自身も満足げに頷くと……壁の近くで見張りをしていた帝国兵に『面会は終わった』と告げる。
そしてマリーは、また彼らに連れ出されて、独房へ戻される……と、思っていたのだが。
「あら、いけませんわクリスハート殿下。まだ、大切な用事が終わっておりませんもの」
「「!?」」
突如聞こえてきた、女の声。
その声は、マリーはもちろん……王子にとっても、聞き覚えのある声だった。
半年前に聞いた、忘れようと思っても忘れられない……辛く苦しい思い出と紐づいた声だ。
その声の主は、入り口のドアのところに、いつの間にか立っていた。
「っ……帝国の女将軍・エリザベート……!」
「……また出た。今日は何の用よ……?」
視線をエリザベートに向けつつも、王子は、隣から聞こえたマリーの言葉に、『また?』といぶかしんでいた。
彼がエリザベートの姿を目にするのは、ここに連れてこられて以来、実に半年ぶりである。しかし、どうやらマリーの方はそうではないようだと悟った。拘束され、『苗床』として耐えがたい恥辱を受けている間も、何度か会っていたのだろうかと。
一方のマリーは、わざわざこの、王子との面会の場にエリザベートが姿を見せたことは……単なる気まぐれや偶然では絶対にない、確実に何か狙いがあってのことだと読んでいた。
特に、
とっさに、ちらりと王子の方をマリーは見たが、それをエリザベートは見逃さなかった。ある程度自分の意図、あるいは、自分がここに姿を見せた意味にマリーが気付いたのだろうと察し、
「心配しなくても大丈夫だよ。王子様に危害を加えようってんじゃない。むしろ彼にはきちんと、傷一つない綺麗な体で国におかえりいただかないといけないからね」
「それが何を狙ってのことなのかは知らんが……ならば何用で来た? 今言った通り、話ならもう終わったが」
キッと力強い目でエリザベートを睨みながら王子は言うが、エリザベートは涼しい顔でその睨みを受け流し、すたすたと近づいてくる。
そして、王子の目の前に立ったままの――ソファが一つしかないため――マリーの隣まで来て、なれなれしく肩を抱いて体を寄せる。すり寄ってくる怨敵に、当然ながらマリーは不快感を隠そうともしない。
その直後、肩に回されていたエリザベートの腕から高熱が送り込まれ……一瞬にしてマリーの体を炎が包んだ。
「っ、熱っ……!?」
「なっ……何を!?」
「ふふっ、大丈夫だよ王子様……こいつはこのくらいじゃ火傷一つしないさ、ほら」
燃え上がっていたのはほんの数秒だった。
すぐに火は消えて、無傷のマリーの姿がその下から現れるが……その体を包んでいた、粗末な囚人服は、燃えてなくなってしまっていた。
炎で燃えることのなかった、マリー自身の裸体のみが、座敷牢の中であらわになっている。
マリーが無事だったことにはほっとしたものの、今度は目の前にさらされているオールヌードのマリーを――耐熱性の首輪と手錠は残っているが――直視するのがまずいと思ったのか、目を泳がせる王子。
一方でマリーは、焼かれようが剥かれようが見られようが、全く気にした様子はない。ただ、隣にいるエリザベートにだけ注意を払っている。
横を見ると、同じようにこちらを見たエリザベートと目が合った。にやにやと笑っている。いつもの……マリーを虐げ、痛めつけ、あざ笑う時に見せる、嗜虐的な笑みだ。
おかげでマリーは、これから何かろくでもないことが起こる、と、確信が持ててしまった。
「うん、やっぱり今のあんたは、その格好がよく似合ってるね。さて……ちょいとお待ちくださいねえ、王子様。これから面白いものをお見せしますんで」
もちろん王子にも、これから見せられるものが『ろくでもないもの』だというのは、すぐに分かった。