世界最強の魔女、無様敗北の末に敵国に捕まって魔女裁判で有罪になる。残りの人生は苗床として一生子宮を使われ続けるようです。 作:破戒僧
最強の魔女『黒の女王』の敗北・捕縛。
その知らせは、瞬く間に世界中を駆け巡った。
帝国はこの大戦果を嬉々として国内外に喧伝した。
自分達に逆らえば、どんなに強大な『魔女』だろうと未来はないのだと、こうなる運命なのだと、声高に叫んで聞かせた。
帝国発行の新聞には、裸にされて吊るし上げられ、鞭で打たれて傷だらけになった『黒の女王』マリーローズの写真が大々的に掲載され、これも国内外にばらまかれた。
無敵だったはずの魔女の、恥態とも言っていいほどの無残な姿は、世界中の人々が目にするところとなった。
帝国国内がこの大戦果に沸く一方、当然ながら、帝国と敵対している国々には大きな動揺が走った。
自分達に味方してくれていた『無敵』の魔女が、負けた。絶対に負けることのない剣が折れ、絶対に崩れることのない盾は破られた。
修正なしの写真で知らしめられた、無惨にも敗北し痛めつけられた姿。さらにその報道以降、『黒の女王』も、彼女が率いているはずの『スカイクラッド』も、沈黙を保っている。フェイクニュースであるという可能性を信じていた人々も、それが真実なのだと気づかざるを得なかった。
一部の報道では、帝国が『裏切者』を利用した卑怯な策略でもって、王国と魔女達を罠にはめたのだとも報じられ、世論の一部はそれに反発する姿勢を見せた。結果として、反帝国の悪感情は、以前よりも強くなっていった。
しかし、過程がどうあれ、その敗北と捕縛は事実。
反帝国の同盟を組んでいる国々の中には、『黒の女王』や『スカイクラッド』の武力・技術力をあてにしている国も決して少なくない。
不安と絶望に襲われたそれらの国々では、もはや勝ち目はない、今のうちに帝国に降伏すべきではないかとの声すら出始めていた。
マリーの敗北に加えて、その場所で共に会談にあたっていたクリスハート王子もまた拉致されることとなり、二重の衝撃を受けた『王国』もまた、その対応に追われている。
国民からの人気も高く、これから先の『王国』になくてはならない俊英を失ってはならないと、軍部や外交が総力を挙げて、この問題の解決に動き出していた。
そして、混乱の只中にあるそれらの国々に対して、ある意味で一番の『当事者』とも言えるのが……マリーが所属する『スカイクラッド』である。
当然ながら、この世界最大の魔女の連盟にも、混乱が巻き起こっていた。
「そんな……ありえないわ! マリー様が負けるなんて!」
「王国発行の新聞には、裏切者が卑怯な手を使ったと書いてある……帝国の奴らめ! 許せない!」
「で、でもどうするの!? 卑怯な手を使われたとはいえ、マリー様やアリシア達でも勝てなかった相手なんて……それ以前に私達、これからどうしたら……!?」
これからのことへの不安や、帝国への怒り、マリーが負けたことに対する絶望。
所属する魔女達が、その心のうちを隠しきれずに吐露して戸惑う中……ここで一番の新入りであるロゼッタもまた、不安と悲しみに身を震わせていた。
「マリー様……ああっ、なんてこと……!」
かつて、同じような危機に陥った自分と、住んでいた村の人達を助けてくれたマリー。
強大な『帝国』の悪の軍勢を前に、たった数人でそれを蹴散らし、一人の犠牲も出さずに村を守り切ってくれた上、こうして自分に新たな居場所をくれた恩人。
当時のロゼッタにとって、絶望そのものだった状況を、いともたやすくひっくり返してしまった彼女が……敗北する姿など想像もできなかった彼女が……負けた。
新聞の一面を飾る、裸にされ、吊るされ、痛めつけられた……痛々しい姿のマリーの写真。
見たくもないのに、そのはずなのに……目が放せなかった。
(こんなお姿になって……ど、どうにかしてお助けしないと……で、でも、マリー様すらかなわなかったような敵を相手に、私達が何ができるというの……!?)
その時だった。
「うろたえるな、お前達! 動揺して足並みを乱しては、帝国の思うつぼだ!」
魔女達の耳に、力強い声が届いた。
ロゼッタも含め、それを聞いた魔女達がはっとして見る。
今、彼女達がいるロビーから見上げる位置。普段、フロアに集まった魔女達に対し、マリーやその側近が演説や訓示を行うための、ステージのような場所がある。
そこに、本来の主の代わりに……1人の魔女が進み出て立っていた。
年のころは、20代半ばほどに見える。もちろん魔女であるため、実際にはそれよりもはるかに……このフロアにいる魔女達の大多数より年上であるが。
豪奢ながらも気品のあるデザインのローブに身を包み、絹のように滑らかな金髪を背中まで伸ばした、色白の美女。まるでビスクドールのような、透き通る整った美を、その身に表していた。
気の強そうな切れ長の目の奥、金色の瞳が、フロアの魔女達を見据えている。
「副盟主のクレア様だわ……」
『スカイクラッド』の副盟主。すなわち、この『本拠地』において、マリーに次ぐ権力者。
魔女の誰かがそう呟いたとほぼ同時に、その大魔女・クレアは声を張った。
その手には、今まさに自分達を混乱と絶望に叩き落しているものと同じ新聞、があった。
「この件については、残念だが真実のようだ。いかなる方法を用いてマリー様を貶めたのかはわからんが、魔法や魔道具を含め、様々な方法で連絡を試みたものの、応答が一切ない。マリー様は……側近であるアリシア達共々、帝国の手に落ちたと見ていいだろう」
それを聞いて、フロアの魔女達の間にさらなる絶望が広がる……よりも早く、クレアは『だが』とさらに続ける。
「ここで立ち止まり、弱さを見せつけてしまうようでは、繰り返すが帝国の思うつぼだ! 我らはこんな時だからこそ、歩みを止めず、前に進まねばならん! よって、マリー様不在の今、副盟主である私がこの拠点の指揮を執る!」
「クレア様がこれから先、我ら『スカイクラッド』が進むべき方針を示されます。皆、傾注!」
傍らに立っていた、クレアの側近の魔女がさらに続けると、フロアの魔女達は……まだ不安そうな表情をしつつも、その通りにした。
フロアが静かになり、聞く準備が整ったことを確認して、クレアは再び口を開く。
「マリー様は私に対し、普段よりこうおっしゃっていた。自分に何かあった時は、次の『盟主』としてこの『スカイクラッド』を導けと」
本当に率直な、単刀直入すぎる物言いに、フロアにいたほぼ全ての魔女がぎょっとした。
「例えば、マリー様が亡くなられた時。例えば、マリー様が連れ去られた時。例えば、マリー様が力を失った時。その時になって、マリー様の代わりを務まる者がおらず、『スカイクラッド』の皆が路頭に迷うようなことがあってはならないと、敵に隙を見せることがあってはならないと、常日頃から私は聞かされていた。そして、いつでもその地位を受け継げるように……『盟主』として必要な技能や知識は、私は既に全て、マリー様から受け継いで、この身に修めている」
「で、では……マリー様を『盟主』の座から廃し、新たにクレア様が『盟主』となると!?」
「そうだ。この後幹部会議を開き、その場にて議題として提起。幹部たちの承認を得られれば……私はマリー様に代わって、この『スカイクラッド』の二代目『盟主』となる」
それを聞いたことによる動揺は、決して小さくはなかった。
しかし一方で、ほっとしている者も多かった。絶対の盟主であるマリーを失い、どうすればいいかわからなかったが……代わって導いてくれる者がいるならば、その不安も和らぐと思った。
加えて、クレアは『副盟主』の地位にいるだけあり、その実力は、数多の魔女達はもちろん、マリーも認めるレベルだ。彼女であるならば、確かに『盟主』の座に就くだけの資格はある。
マリーほどではないかもしれないが、それでも彼女もまた、戦場という戦場で無敗を誇る強さを持ち、さらに、マリーと同様に『不老不死』の領域に至った存在でもある。
彼女なら信じられる。彼女なら『盟主』になれる、自分達を導いてくれる。
魔女達の間に安堵が広がり、混乱や不安がおさまっていく中……
「で、ではマリー様は!? まさか、このままお見捨てになるのですかっ!?」
声を上げたのは、ロゼッタだった。
この中で一番の新入りで、まだクレアという魔女のことをよく知らないがために……まるで、マリーを見捨てる、さっさと切り捨てると言っているように聞こえてしまったのだ。
フロアに響いた高い声に、その場にいた魔女達に加え……クレアやその側近達の視線が、一斉にロゼッタに集中する。
これにはさすがにロゼッタもたじろぎ、二の句が継げなくなる。
しかし、クレアは横にいる側近達が、咎めるような目でロゼッタを見ているのを制すると、
「君は確か……新入りのロゼッタ、だったな。マリー様が少し前に保護してきた子だ」
「は、はい……」
「マリー様を心配して言ってくれたのだな……ありがとう」
クレアはそう言って、慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
気分を害したり、怒っている様子は、全くなかった。
「君の質問に答えよう。それこそまさかだ。私が、敬愛するマリー様を見捨てることなど、諦めることなど……天地がひっくり返ろうとも、ない!」
しかし、と続ける。
「残酷かもしれんが、あえてはっきり言おう。マリー様が帝国に連れていかれてしまった以上……彼女がすぐにここに戻ってくることは難しい。こちらが動いて救助するにせよ、外交交渉によって取り戻すにせよ、だ。数か月か数年か、あるいはもっと……長い目で見て取り組むべき課題になるだろう」
「数年……もっと……」
ロゼッタもまた魔女である。年齢は今、76歳。
魔女としてはまだまだ若輩だが、人間であれば……国や地域によっては平均寿命を大きく超える高齢である。
しかしそんな彼女でも、数年、十数年、数十年と言えば、十分に『長い』間だと思ってしまう。これから自分も、それだけの期間を生きていくであろうことは、もちろんわかってはいるが。
「案ずるな、我々魔女にとっては瞬く間の時間だ。ましてマリー様は不老不死……どれだけ時間がかかろうとも、取り戻す機会は必ず来る。いや……必ず作る。だがそのためにも……その間、『スカイクラッド』が盟主不在で満足に動けないままでいるわけにはいかんのだ」
いつ、どのような形で動くにせよ、その時には『スカイクラッド』が十全な形でその力を振るえる状態である必要がある。
立ち止まるったり、迷っているわけにはいかない。先頭に立って導く者が要る。
「そのために皆、私に力を貸してくれ! 全ては……マリー様が夢見た、『魔女』の明るい未来のために!」
「「「はい!!」」」
その時、クレアやその側近、フロアの魔女達……もちろんロゼッタも含めて、皆の心が一つになった。
こんなことで帝国に弱みを見せてたまるか。付け入る隙を与えるものか。
未来のために、そしていつかマリーを助けるために、自分達は戦い続けよう。
この数日後、『スカイクラッド』は現盟主である『黒の女王』マリーローズの引退を発表。
本人不在ではあるが、有事に備え、本人同意の元であらかじめ決まっていたことであるとした。
代わってその盟主の座に就いたのは、『金の淑女』の名で知られる、マリーの腹心の1人であった大魔女・クレアである。
☆☆☆
『とある場所』で捕らえられたマリーは、そのまま、エリザベート率いる部隊によって護送され……王国から帝国へ、そしてその中心である『帝都』へと運ばれてきていた。
エリザベート達は、今まで何度も帝国の邪魔をしてきた怨敵『黒の女王』を、地に引きずりおろした英雄として、帝都の民達や帝国軍の兵士達の大歓迎を受けて凱旋していた。
「きゃー、エリザベート様~~!」
「今、今こっちを見て手を振ってくれたわ!」
「なんてお美しい……! あれが『紅蓮の将軍』……救国の英雄だ!」
「大怪我から復活してその雪辱を果たしたと聞いた……不撓不屈の精神、なんてすごいお方だ!」
数十人の部下達共々、帝都の大通りをゆっくりと、人々の大歓声を受けながら進んでいく。
そして、先頭近くを行くエリザベート達からしばし遅れて……マリー達もまた、そこを通って行く。
拘束された時と同様に、『豚の丸焼き』のままで。
「あれが『黒の女王』……世界最悪の魔女だって話だが……」
「ああなっちゃおしまいだな……なんて無様な姿だ」
「惨めね。あんな恥ずかしい格好で、こうして無力に捕まってさらし者にされるなんて」
「偉大な帝国に逆らうからこうなるのよ」
その悲惨な姿を見て、向けられるのは、侮蔑と嘲笑。
飛んでくるのは、恨み節の乗った怒号や……嘲り、煽り、笑う声。
四方八方から飛んでくるそれらが、マリー、アリシア、イザベラに突き刺さる。
アリシアは、屈辱をこらえて表情に出さないように、下唇をかみしめていた。
イザベラは、嫌いな男を含めた何千何万の衆目にさらされていることを悔しがり、こらえきれず涙を流して歯を食いしばっていた。
そしてマリーは、ポーカーフェイスを保ったまま、何を言われても反応せず、涙どころか汗一つかかずに、全て聞き流して何も反応を見せずにいた。
……が、そんな様子を見て、前を歩くエリザベートは……不敵に笑っていた。
(この後の『魔女裁判』が楽しみだねぇ……)
全裸で縛られ吊るされ、恥ずかしい所を隠すこともできず、さらし者にされながら、たっぷり数時間をかけて、帝都内を大回りするように練り歩き……そして最後に、中心部にある宮殿にたどり着く。
しかし、そのまま門をくぐって中に入るのではなく、そのすぐそばにある、催し物が行われる大きな広場に、エリザベート達は入っていった。もちろん、マリー達も連れて。
そこには、広場の地面よりも一段二段高い位置に来るように、何か舞台のようなものが設営されていた。
その壇上には、聖職者らしい荘厳な法衣を着た老齢の人物が待っている。
エリザベート達はそこにたどり着くと、ようやくマリー達を『豚の丸焼き』から解放し……しかし代わりに、また別な器具でもって拘束した。
それは、1枚の板で……横並びに穴が3つ開いていた。
さらに、真ん中から上下に分解することができるようになっていた。
2つに分けると、先ほどまで3つ並んだ『穴』だったものが、3つ並んだ『溝』に代わる。
その溝に、マリー達の首と手首を1つずつはめて、板で挟み込むようにして元に戻すと……板に空いた3つの穴に、首と両手首を拘束され、身動きが取れなくなった哀れな囚人が完成した。
俗にいう『ギロチン拘束』。処刑器具である『ギロチン』に拘束される際と同じように、首と手を並べて、動かせないように固定するもの。
ろくに身動きが取れないばかりか、首が動かせないので視界も悪く、また腕が顔の横で固定されるため……手であちこちを隠したりすることができない。
今のマリーのように、裸の状態でこうして拘束されてしまえば……胸も、恥部も、手で隠すことができずに丸見えにされてしまうわけだ。
何もできずに、より一層惨めな姿になってしまった魔女達を、そこに集まった観衆達が指さして笑う。
屈辱に次ぐ屈辱。それをこらえるマリー達を、『早く上がりな』とエリザベート達が追い立てる。
まだ効いている薬のせいで、普通に動くだけでもつらい中、どうにか足を動かして階段を上り……そのステージの上に上がった。
それを待って、聖職者が声を張る。
魔法を使っているのだろう。その声は、広場の隅々まで届くほどに大きく、響いた。
「これより、罪深き『黒の女王』およびその部下達の『魔女裁判』を執り行う! 大いなる神よ、今日ここに裁かれる、罪深き魔女達の過ちが、どうか赦されますよう!」
中世ヨーロッパにおける『魔女裁判』と言えば、魔女として疑われた人々を裁判にかけ、有罪となれば残酷な方法で処刑する……という、世界史上有数の問題行為を指す。
証拠の捏造、証言の偽証、拷問による自白の強要など、およそまともな裁判とは思えないプロセスを経て、何の罪もない市民が『魔女』にされ、数多く処刑された、歴史の闇。
その実態は、当時の宗教的権威を侵害するとして敵視された異教徒を、排除するためのでっち上げだったと一説には言われており、しかしその『異教徒』ですらない、本当に無関係の市民も数多く殺害されていたという。
一方で、そうやってつるし上げられた哀れな犠牲者の末路を見せ物にすることによって、市民の悪感情を発散させるガス抜き、ないし娯楽の側面もあったとされる。統治に対する不満が自分達に向かないよう、権力者がスケープゴートとして『魔女裁判』を利用していた。
自分達が苦しいのは、社会に様々な問題があるのは、全て魔女が悪いのだ、と言って。
しかし、それはこことは異なる世界においての話であり……実際に『魔女』が確かに存在しているこの世界においては、当然その意味も変わってくる。
が、それほど大きくは変わらず……権威のために行われるみせしめないし娯楽という意味では、地球の『魔女裁判』と同じでもあった。
ここ『帝国』における『魔女裁判』は、市民向けのガス抜きの『娯楽』と、魔女を資源として利用するための前準備としての『贖罪』という2つの役割を持つ。
帝国において魔女は、『資源』。苗床として魔法兵士や軍用魔獣を生み出すための道具だ。
ゆえに、敵対した魔女であっても――むしろ帝国と敵対できるほど優秀な『苗床』だからこそ――殺さず、生け捕りにして利用することが望ましい。
しかし帝国内には、帝国軍に損害を与えた、自分達の戦友を殺した魔女を許せない、命をもって償わせるべきだと主張する者達も少なからずいる。
それらは、皇帝が決めた方針に背くことになるため、声高に叫ばれることこそないが……潜在的には確かにあるそれらの不満をため込ませるのはよくない。
そこで『魔女裁判』である。
『魔女裁判』において、裁判官の役割を担うのは、通常の裁判官ではなく、聖職者である。
その老齢の聖職者……協会から派遣された司祭は、『ギロチン拘束』の状態のまま前に進み出て跪いているマリー達の前で、彼女達の罪を1つ1つ読み上げていく。
帝国に反抗した罪。戦場でその邪悪な魔法でもって、帝国軍に損害を与えた罪。帝国に属さない者達を先導し、帝国の啓蒙を妨害した罪。その他諸々……確かに彼女達がやったものもあれば、心当たりのない完全なでっち上げも多くあった。
それに対し、マリー達は何も言わない。
否、何も言えない。『魔女裁判』では、被告人である魔女は、司祭から許可が出た時以外、一切の発言を禁じられている。
そして基本的に、そんな機会は最後まで来ない。
魔女は、最初から最後まで、異議申し立ての1つもできないまま、一方的を通り越して蚊帳の外で裁判が進み、判決まで言い渡されるのだ。
そして、『その後』になって……ようやく当事者となる。
二桁後半に登るほどの……よくもこれだけ多く罪状を考えたものだと思えるような長い読み上げの後に、ふらりと老齢の司祭がふらついた。
余りの罪の大きさに、これを犯した魔女の醜さと浅ましさにめまいを覚えた……という演技であるが、年季が入っているだけあって、そう見えないほど堂に入っていた。
こんな場でなく、劇場で役者でもやっていればいいのにと、マリーは他人事のように思いながらそれを見ていた。
わざとらしく助司祭に助けられながら立ち直ると、司祭は天を仰いで、また声を響かせる。
「おお、神よ! どうかこの醜く惨たらしい、酷罪にまみれた哀れな魔女達に救いの手を差し伸べたまえ! 縋るものなく道を外れてしまった哀れな者達に救済を! その血をもって罪を濯ぎ、今一度光ある未来へ歩む道をどうか示したまえ!」
そして、判決が言い渡される。
当然のように、全員が有罪。最初から決まっていたことだ。
そして、『魔女裁判』で有罪になった者には……その場で処刑が執行される。
司祭達が後ろに下がり……代わって前に出てきたのは、その『処刑』の執行を担う処刑人達。
手には様々な器具を持っているが、その中から……石と金属でできた、大きな桶のような物を持ち出して来て、マリー達の目の前に置く。
そこには、赤々と燃える石炭がぎっしりと入っていた。
それと一緒に、金属の棒のようなものが、石炭の中に差し込まれるように入っていた。
処刑人の一人がそれを抜きとると、その金属の棒の先端には、丸く分厚い板のようなものがついていた。板には、何やら模様のようなものが彫られている。
近くでそれを見たマリー達は、それが何であるかを察した。この後、それがどのように使われるのかも含めて。
処刑人は、石炭の中で高温になったその棒を持って、マリーの背後に回る。
マリーの体を、暴れないようにだろう、他の処刑人が2人がかりで左右から抑え込む。
そして、その『焼きごて』を……彼女の背中の、くすみ一つない白い肌に押し付けた。
―――じゅうぅぅう~~~っ!
「っ、っ……っ!」
たっぷり数秒もの間、押し付けられる。
声を殺して、その熱さに耐えるマリー。
それがマリーの背中から離れると、そこには……黒い焦げ跡のような、痛々しい『焼き印』がきれいにつけられていた。
これは、『魔女裁判』で有罪になった魔女に与えられる罰の1つであり……同時に、その身を『資源』として帝国に所有されているという、帝国の所有物であるという証明でもある。
ただの焼き印ではなく、魔法の焼き印であるため、治癒の魔法でも治すことはできない。
さらに、これを付けた者が魔法を使おうとすると、焼き印に痛みが走ってそれを妨害する上、焼き印が光って魔法を使おうとしたことがバレる。
それだけなら、精神力が強い者なら、痛みをこらえて魔法を使うことも可能だろうが……元々、魔法対策については、多数の薬品や魔道具が用いられて徹底的に行われるため、どの道魔法を用いて反抗するのは不可能と言っていい。
この焼き印は、押されたが最後、一生を帝国の『資源』として使われるのだと、自由になることはもうできないのだと突き付けて、魔女を絶望の淵に叩き落す……烙印のようなものであった。
同じ焼き印が、アリシアにも、イザベラにも刻まれる。
マリーほどの強靭な体や魔法耐性を持っていない2人にとっては、激痛を伴い、とても悲鳴をこらえることのできない……十分に『処刑』と言えるものだった。
しかし……これは、ほんの始まり。『処刑』の第一段階に過ぎない。
彼女達の『処刑』は、まだまだここからが本番なのだ。