歪んだ心を溶かす者 作:原作が勝手に言ってただけ
熱が冷めると途端に恥ずかしくなってくる。
もう何度も回数を重ねているというのに……でもこんな思いは――。
世界はもう私たちが体を張って守る必要のない世界になった。
何度か死にかけもしたけれど、今となっては思い出のひとつでしかない。
そんな平和な世界では力というものは持て余すばかり。
戦いに明け暮れた日々とは違い、こんな私にも愛する人ができた。
今も隣で柔らかな表情をしている彼は、向こうでの経験から荒みきっていた私の心を時間をかけて溶かしてくれた。
そんな彼と過ごす時間は……幸せだ。
「……ヒナタ?」
「あら、起こしたかしら?」
私の声に彼はゆっくりと体を起こす。
かすかに見えた首筋の赤い跡に少しだけ申し訳なさを覚えた。
「いや、大丈夫。それよりなにか考え事?」
でも彼は気にする素振りもなく、私を気にかけてくれる。
こんなちょっとしたことが心に染みる。
「……ええ。でも、なんでもないわ」
今までの私にとって、誰かと二人で過ごすこの時間でさえ、目的のための手段に過ぎなかった。
この身体ひとつで厄介な者達を懐柔できるのならば、安いものだとそう思っていた。
でも今は、こんな無駄でしかない時間でさえ愛おしく感じる。
「なぁ……気を悪くするかもしれないけど、聞いていいか?」
「いいけど……なに?」
こんな前置きをされたら身構えてしまう。
そんな私をみてイタズラに笑いながら彼は言い放った。
「どういう風にされるのが好み?」
「なっ……いきなりなにを……」
この男はいきなり何を……いや、ちょっと待って。
確かにいきなりこんなことを聞いてきたら、気を悪くする人もいるかもしれない。
私だって、こんな状況じゃなかったら言葉の前に剣が出ただろう。
でも、この男のことだ。
そんな私の性格を分かっていないはずがない。
では……
「あぁいや、そんなに考え込まなくてもいいんだけど……」
考え込んでいると少し焦ったようにする彼。
やっぱり、別の意図があるわね。
「そう?あなたらしくない質問だと思ったのだけど」
「うぐ……さすが鋭いな」
誤魔化されるかと思ったけど、あっさり認めたわね。
じゃあ私も素直に。
「本意は?」
こうやって聞けるようになったのも、きっと彼のおかげなのだろう。
「え?」
「本意はなんだったのかって聞いてるのよ」
「……怒らない?」
「それはあなた次第ね」
「……」
「分かったわよ。怒らないから言ってみなさい」
「ほんとに?」
「いい加減にしないと――」
「ああ、待って待って、言うから……ヒナタってさ、され慣れてるよね」
私がいつでも剣を出せるように手を伸ばすとようやく観念したのか、彼は大きくためを作りそんなことを宣う。
「され慣れてるって……あなたねえ」
なんて失礼な男だろうか……と思うけど、私にも覚えがあった。
自分から思い返そうとは思わないけれど、思い返しても別に気分が悪くなったりはしないその記憶。
よかったとかそういうことも一切ない、そんなこともしたという程度のそれが彼にそう感じさせているのかもしれない。
まだ私が、聖騎士団長であり法王直属近衛師団筆頭騎士だった頃、枢機卿ニコラウスと私の間には確かに関係があった。
面倒で厄介な関係がそれだけで片付くのなら、自分の欲求の解消にもなるしと思ってされるがままになっていた。
「確かに……それはあるかもしれないわね」
「別に誰と――とか、どんな――とかを聞くつもりはないからね?ただ、ヒナタってなんでも受け入れてくれるから、どんなのが好きなのか気になったってだけで」
極めてこの男らしい気の遣い方だと思う。
そんなこといちいち気にしなくてもいいと思う反面、この気遣いがたまらなく嬉しく感じる私もいる。
「……優しく……抱きしめて……ほしい」
思わず漏れ出た言葉だった。
でも、体は恥じらいを感じているのか途切れ途切れで、声もしりすぼみに小さくなっていく。
感情を素直に表現するのは今でもまだ怖い。
取り繕わないままの感情は反応が読めないから。
人の関係とはたった一言で壊れる脆いものだ。なにかひとつ間違えただけで、ガラガラと音を立てて崩れ去ってしまう。
それでも、本当の繋がりを求めるためには、本当の意味で満たされるためにはそれを乗り越えなければならない。
そうは思っても、自分から出た言葉に感情が追いつき、顔があげられない。
バッと布団を払い除けるような音がすると心地よい熱に包まれた。
「……ちょっと、強い」
「ごめん」
口では謝るも私を抱きしめる力が一向に弱まる気配がない。
自分がされたいことを聞いてきた癖に……。
でもそれがまた幸せだった。