その花は、誰が為に咲く 作:寝取られでしかシコれない男ッ!!
???「犠牲になったのだ。繰り返される展開…。その犠牲にな」
俺は執務室で報告書を仕上げていた。
……いや、仕上げようとしていた。
いつもならもう終わっているはずなのに、今日はやたらと手が進まない。
理由は単純だった。マンリョウがいない。
マンリョウが特別任務に出てから一週間。
最初の数日は「たまには一人も悪くない」とか強がっていたくせに、今では完全にダメだ。
彼女のようなお茶の入れ方が分からない。
どこに必要な書類があったかを忘れてしまう。
なにより、どこを見てもあいつの姿がない。
離れてみて、ようやく分かった。
俺がいかにマンリョウに頼りきっていたか。
普段の雑多な仕事だけじゃない。
任務でも、日常でも。
気がつけば、何もかもをマンリョウに任せきりになっていた。
「……会いてえな」
誰にも聞かれないよう、ぽつりと呟いた。
その日の夕方。
帰宅すると、郵便受けに見慣れない封筒が一通。
――差出人不明。
中には、不躾な内容の一枚の手紙。
『明日の朝、この時間に、この場所に来い。面白いものが見られる』
……なんだこれは。
手紙というより、挑発状か?
朝には無かったはずのこの手紙――
もちろん、無視するという選択肢はない。
仮に何も起こらなければそれでいい。
だが、何かあった時に俺がいれば――最悪でも時間は稼げる。
*
書かれていた日付通り、俺はその場所へと向かった。
あたりは静まり返っている。
街の一角、人通りは少ない。
時間になっても、誰も現れない。
どうやら、ただの悪戯だったか――そう思って帰ろうとした、その時だった。
――見知った姿が、視界の端に飛び込んできた。
「……マンリョウ!?」
ギギ……ギギギ……。
まるで油の切れた機械のように、ぎこちなく振り向いたマンリョウ。
その顔にはマスク。
普段の彼女からは想像もつかないその姿に、俺は息を呑んだ。
「……風邪か? 大丈夫か、マンリョウ?」
心配になって思わず駆け寄る。
「……っ」
呼びかけに彼女はわずかに肩を震わせると、唇をきゅっと噛みしめた。
ややあって、喉を艶かしく鳴らし――
「……ごくっ。……いえ、大丈夫です。風邪なんて……引いていません」
明らかに様子がおかしい。
顔は上気して赤く、マスクはうっすらと湿って、下から唇が透けて見えている。
なぜ濡れているのか……は分からない。
だが、どう見ても「大丈夫」には見えなかった。
「本当にか? 顔が赤いし、何かあったんじゃ――」
「……」
再び沈黙。
問いかけに答えるどころか、どこか遠くを見るような目をしている。
「……マンリョウ?」
「――あっ。はい。……すみません、大丈夫です。ちょっと、考え事をしていて……」
らしくない。
俺の知っているマンリョウじゃない。
こんなふうに言葉が遅れて、返事が曖昧で、視線が泳ぐなんて……。
何かあった? 何があった?
そう思った瞬間、ふとあの手紙のことが頭をよぎる。
『――面白いものが見られる』
いや、まさか。偶然……偶然だろう。
――その時だった。
袖口が、そっと引かれる。
驚いて見ると、マンリョウが顔を伏せたまま、か細い声でこう言った。
「……あの、団長さん。私……」
「…………私、セックスがしたいです」
思わず息を呑む。
まるで冗談のようなその言葉に、俺は言葉を失った。
そんな俺の反応を読み取ったのか、マンリョウが慌てたように続ける。
「あ……えっと、だ、団長さんと離れて一週間……私、自分でも驚くほど、その……溜まってしまっていて」
耳まで赤く染め、マスクの下で小さく唇を噛む彼女。
その必死さは、冗談ではないことを示していた。
「……分かった」
気づけば俺は頷いていた。
「けど、時間は大丈夫なのか?」
視線を彼女の手にあるカバンへと落とす。任務中か、あるいは何か用事があるはずだ。
だがマンリョウはわずかに肩を震わせ、すぐに「はい」と首を縦に振った。
……いつもの彼女らしくない。
俺の知るマンリョウは、もっと冷静で、理知的な女性だったはずだ。
だが、こういう時があってもおかしくはないのかもしれない。
なにより、俺自身も――会いたくて、抱きたくて仕方がなかったのだ。
自然と胸の奥の迷いは薄れていく。
彼女の温もりを求めて手を伸ばす自分に、もはや制御は効かなかった。
俺が先に部屋へ戻ると、そこは相変わらず散らかっていた。
報告書の山と、書きかけの書類、それに脱ぎ捨てた軍服や食器。
マンリョウがいない一週間で、すっかりだらしなくなっていたのだろう。
「……少しは片付けておくか」
彼女が戻ってくる前に。
自然とそう思ったのは、俺自身が彼女に情けない姿を見せたくなかったからだ。
部屋を整える手際は、自分でも驚くほど早かった。
……とはいえ、綺麗なのは見た目だけで、余っている収納スペースにものを押し込んだだけ。
こんな時マンリョウならと、そう思ってしまうのは、やはり普段から彼女に頼り切っていたんだからだろうと改めて思い知らされる。
――と、その時。
机の上に置かれた一通の封筒が目に留まった。
あの、例の手紙。
「面白いものが見られる」
――そんな言葉が脳裏をよぎる。
俺は鼻で笑い、苦々しく呟いた。
「面白いもの……ねぇ」
マンリョウが「面白いもの」だと?
ありえない。
俺の世界で一番大切で、誰よりも愛しい存在を……そんな風に扱うだなんて。
自分の思考にさえ反吐が出る。
一瞬でも彼女をそんな風に思ってしまったことが許せなかった。
俺はその手紙をぐしゃりと丸め、ゴミ箱に放り込む。
――ちょうどその時。
扉が静かに開き、マンリョウが戻ってきた。
「お待たせしました、団長さん」
振り返った俺の視界に、息を整えながらも微笑む彼女の姿が映る。
彼女は「ロッカーに荷物を置いてくる」と言っていた。
「俺の部屋に置けば」と言ったのに、「……大切なものなので」と答えていたのを思い出す。
大切なもの。そう、大切なもの。
俺にとって大切なものはマンリョウただ一人だけだ。
――なら、俺が守らなくては。
「やっぱり……団長さんの部屋が一番落ち着きます」
「そうか」
ベッドに腰を下ろしたマンリョウが、ふぅと安堵の息をついた。
「俺もだよ。マンリョウがいるだけで……すごく安心する」
俺も隣に腰を下ろしながら答える。
お互いの言葉に笑みがこぼれる。
久しぶりに交わす、何気ない会話。
それだけで、張り詰めていた心がゆるんでいくようだった。
ふと気づき、俺は声をかける。
「そういえば……マスク、外したんだな」
「ええ」
彼女は少し照れたように微笑んだ。
「もともと保湿のためにやっていただけですし……」
言葉を切り、そっと俺を見上げる。
「それに――マスクがあったら、キスができないですから」
その瞬間、彼女の唇が重なった。
不意を突かれた俺の口の中に、柑橘の爽やかな香りが広がる。
同時に舌の上を転がる、小さくなったレモンの飴。
「……ふふ」
そこで一旦唇を離したマンリョウが、少し悪戯っぽく笑った。
「お裾分けです」
「……マンリョウ、可愛いな」
思わず抱き寄せた俺の胸に、彼女が小さく身を震わせる。
その反応すら愛しくて、さらに腕に力を込めようとした瞬間――
ふわりと、押し返される。
「え……?」
俺が驚く間もなく、マンリョウの手が俺の胸を押し倒し、そのまま背中がベッドに沈んだ。
「マ、マンリョウ?」
「……ごめんなさい、団長さん」
彼女は俺の腰に跨がり、顔を真っ赤にして震える声で続けた。
「私……どうしても……今、したいんです」
その必死さに言葉を失う。
俺は確かに、彼女を求めていた。
けれど、今のマンリョウは――どこか追い詰められているように見えた。
「……落ち着け。時間は大丈夫なのか?」
俺は問いかけながら、さっき彼女が置いてきたカバンのことを思い出す。
だがマンリョウは小さく首を振った。
「大丈夫です。団長さんと一緒なら……それで」
そう言って、彼女は着物の前を少しだけ乱し、すぐに閉じる。
まるで、素肌を隠すように。いや、今は時間が無い中、セックスをしているのだから当たり前か。
「……今日は、私にさせてください」
ただ顔だけを寄せて、俺に口づける。
そう告げると、彼女は自ら腰を落とし、騎乗位の姿勢で俺を迎え入れた。
着物に隠された身体は見えない。
けれど、唇を噛みしめながら懸命に動く姿から、彼女の決意だけは痛いほど伝わってくる。
「……っっ!……うっ、く……」
顔を伏せたまま、マンリョウの喉から押し殺すような声が漏れる。
何かに必死で耐えているかのようで、俺の胸がざわついた。
「ど、どうした!?大丈夫か!?」
思わず体を起こそうとすると、彼女は小さく首を振り、涙をにじませながら顔を上げた。
赤く染まった頬に、潤んだ瞳。震える唇から絞り出される声。
「――ええ、大丈夫です。私……団長さんにようやく……」
「ようやく?」
続きを促すと、彼女は一瞬言葉を失い、何かを探すように視線を泳がせる。
その表情はどこか戸惑っていて、それでも無理やり微笑みに変わった。
「……すみません。実はちょっと、いやなことがあって……」
小さく息を震わせ、俺の胸に額を預ける。
「でも……こうして団長さんと繋がれて、嬉しくて……それだけなんです」
その言葉に、俺は強く抱きしめ返した。
彼女が何を抱えているのか、今の俺には分からない。
だが、涙を流しながら必死に微笑むその姿を前にして、ただ守りたいという思いだけが胸に込み上げてくる。
(もう二度と……こんな思いはさせない!)
涙を浮かべて笑うマンリョウを抱きしめながら、心の底からそう誓った。
けれど同時に、どうしても胸の奥に小さな棘のような違和感が残る。
――やっぱり、どこか様子がおかしい。
それが何なのか分からない。疲れているのか、任務で何かあったのか。
どちらにしても彼女が無理をしているような気がしてならなかった。
そんな考えを抱いた矢先、彼女の中がぎゅっと収縮する。
「くっ……!」
いつも以上に強く、まるで別の生き物のように絡みついてきて、理性が一瞬で吹き飛びそうになる。
普段から彼女の中は尋常じゃなく気持ちよくて、正直、四、五分ももたない。
……いや、それでもまだ長くなった方だ。最初の頃なんて、入れた瞬間に終わりそうになったくらいなのだから。
だが、今日は本当に危ない。
久しぶりだからか、それともマンリョウが俺に必死で応えてくれているからか。
下半身を貫く快楽が強すぎて、考えを別に逸らさなければすぐにでも果ててしまいそうになる。
「はぁ、はっ……!……マンリョウ……!」
必死に名前を呼び、堪えながらも抱き寄せる。
彼女のぬくもりと、締めつけと、涙の笑顔。
守りたい。けれど、やはり少しだけ、引っかかる。
「くっ!……おっ!……そろそろ出そうだ!……このまま出してもいいか?」
「はい……お願いします……! 奥にっ!」
マンリョウの声が震えて、切実に響く。
限界だった俺は、その願いに応じて腰を押し込み、熱を解き放った。
「っ……く、はぁ……!」
「んっ、あああっ……!」
一瞬、視界が白く弾ける。
溶け合うような一体感と、強烈な快感に支配されながら、彼女の奥に注ぎ込んだ。
「はぁ、はぁ……気持ちよかった。マンリョウの中、いつも以上に絡みついてきて……。……ごめんな、すぐに出ちゃって」
額に汗をにじませながら謝ると、マンリョウは強く首を振った。
「いいえ……いいえっ!――私も、本当に……気持ちよくて、幸せでした……!」
必死に訴えるように、涙をこぼしながら笑う彼女を見て、胸の奥が温かくなる。
ああ、良かった。
やっぱり考えすぎだったんだな、と。
その安堵を胸に、俺は彼女を優しく抱きしめた。
*
私はその日、一人で買い物に行くよう命じられた。
しかし、ただの買い物ではない。――ゲームだ。
口とアナルに大量の精液を詰め込まれたまま、それを見事バレずに帰ってこられれば、今日のところは薬によって再生した処女を奪わないでおいてやるという。思わず笑ってしまうような悪趣味なゲーム。
……今日奪われなかったからといって何なのだ。
明日には奪われるかもしれないそれを守ることに、果たして何の意味があるというのだろう。
そう思いながらも、私の足は勝手に動いていた。
とりあえず買い物は終わった。
マスクのおかげで誰にも気づかれなかった――はず。
いや、仮に気づかれたとしても、それを口にする人間などいるはずもない。
……それにしても気持ち悪い。
マスクの内側が精液で張り付き、呼吸のたびに精臭と湿り気が鼻と口にまとわりつくのが分かる。気持ち悪い。吐き気がする。
そう思っていた時だった。
――後ろから声がした。
「マンリョウ!」
……心臓が跳ね上がる。
よりにもよって、今一番会いたくない……いや、会ってはいけない人の声。
最愛の人の声だった。
ゆっくりと振り返る。どうか聞き違いであってほしいと祈るように願いながら。
だがしかし、そんな願いも虚しく団長さんが真っ直ぐに駆け寄ってくる。
「……風邪か?大丈夫か、マンリョウ?」
「……っ」
そう問いかけられ、思わず口ごもる。
何故なら、口内にはまだネトリに押し込まれた大量の精液が残っていたからだ。
喋るには飲み込まなければならない。だが、飲み込めば「ゲーム」は失敗。
しかし、団長さんが心配そうにこちらを見つめている以上、何も言わずにやり過ごすことはできない。
「……ごくっ。……いえ、大丈夫です。風邪なんて……引いていません」
生臭さに吐き気を堪えながら、それを飲み込み、脳を必死に回転させる。
――どうする?どうすればいい?
言い訳をする?……いや、無駄だろう。失敗したという事実があればあの男にとってはそれで――
それに、あの老獪な男なことだ。見張りを立てている可能性もある。
「……マンリョウ?」
「――あっ。はい。……すみません、大丈夫です。ちょっと、考え事をしていて……」
言いながらも、自分でもこの言葉が虚ろだと分かっていた。
そして――瞬間、閃く。
それは逆転の発想。むしろこれしかない、そう思ってしまうほどの考え。
しかし、それを行えば、あの男に強烈な罰を与えられることになるのは避けられない。
だが、それでも。
私は団長さんの袖をそっと引いた。
「……あの、団長さん。私………私、セックスがしたいです」
団長さんが驚いているのが伝わってくる。
それはそうだ。道端で、しかも朝のこんな時間に「セックスがしたい」だなんて。
「あ……えっと、だ、団長さんと離れて一週間……私、自分でも驚くほど、その……溜まってしまっていて……」
必死に言葉をつなぐ自分の姿が、どれほど滑稽に見えるかは分かっている。
けれど、それでも構わない。もうこれ以上、ネトリに奪われたくない。
だから、どうか――お願い。聞き入れて、団長さん。
「……分かった。けど、時間は大丈夫なのか?」
その答えに胸が熱くなる。
「はい」
良かった……。ひとまず安心だ。
あとは、準備を整えるだけ。
「――では、これをロッカーに預けてきますね」
「俺の部屋に置けば良いよ」
「いいえ……大切なものなので」
「ああ、分かった。……じゃあ、俺は先に部屋に戻って、片付けでもしてるよ」
「ふふ、では少しゆっくり目で向かいますね」
「……できるだけ早く片付ける」
団長さんの言葉に小さく笑みが零れた瞬間は確かに幸せだった。
だが、彼から離れると心はすぐに現実に引き戻される。――これから、どうするか。
まずはカバンをロッカーに預けなければならない。
中身を知られるわけにはいかない。それは、私の調教に使われるだろう、様々なアイテム。
もし団長さんに見られたらだなんて、想像するだけで恐ろしい。
「よし、次は……」
カバンを仕舞い終え、マスクを外して深呼吸した。
精液の残り香がない空気を肺いっぱいに取り込むと、頭が少しだけ軽くなる。
まずは口をゆすがなければ。それに、お尻を塞いでいるアナルビーズもどうにかしなければ。精液が逆流しないようにと押し込まれたままなのだ。
「……」
何度口を洗っても、消えない。あの男の味、臭い。
実際には残っていないのだろう。けれど、舌と脳が確かに憶えている。
このままでは、団長さんにキスを求められたとき、きっと私は応えられない。
――何か、上書きできるものを。
周囲を見回すと、朝から開いている駄菓子屋が目に入った。
吸い寄せられるように足を運び、棚に並んだレモンの飴を手に取り購入する。
そして、それを舌の上に転がした瞬間、爽やかな酸味が広がり、ようやく安堵の息が漏れた。
……そろそろ、団長さんの部屋に戻らなくては。
アナルビーズは、そのままにしておくしかない。自分で抜けば時間がかかるし、なにより素肌を見せれば全てが露呈する。ネトリに付けられた無数の痕が、彼の目に入ってしまう。
扉の前に立ち、ひとつ息を整える。
そして微笑みを浮かべて告げた。
「お待たせしました、団長さん」
よかった。ここに来るまでに誰からも声を掛けられなかったということは、やはり見張りはいなかったと見ていいだろう。
仮にいたとしたら、流石に諦めざるを得なかった。無理に突破すれば、団長さんや仲間たちに危険が及ぶかもしれないからだ。
……それだけは、絶対に避けなければならなかった。
部屋に足を踏み入れると、ほっと胸が緩む。
「やっぱり……団長さんの部屋が一番落ち着きます」
気づけば、そんな言葉が零れていた。
「そうか。俺もだよ。マンリョウがいるだけで……すごく安心する」
その返事に、胸の奥が熱くなる。
あの男の屋敷にいた間は、安心できる時間など一瞬たりともなかった。
だからこそ、今この瞬間の温かさがたまらなく愛おしい。
――けれど、安らぎに身を委ねてばかりはいられない。
私に与えられた猶予は、せいぜい三十分。時計の針は進み続けているのだから。
「そういえば……マスク、外したんだな」
団長さんがふと気づいたように声をかけてきた。
「ええ、もともと保湿のためにやっていただけですし……」
そう言って、自然な仕草で彼を見上げる。
そして小さく息を吸い込み、続けた。
「それに――マスクがあったら、キスができないですから」
言葉を口にした瞬間、自分でも驚くほど心臓が高鳴っていた。
団長さんにキスを求められたら応えられない、とあれほど心配していたのに、結局は自分から唇を重ねてしまったのだ。
……我慢などできるはずがなかった。
最愛の人の唇が、手を伸ばせば届く場所にあるのに、どうして我慢することができるのか。
彼の驚きがすぐに柔らかな受け入れに変わり、温もりが唇から全身へと伝わっていく。
その瞬間、舌の上で小さく転がしていたものが、彼の口へと滑り込んだ。
わずかに甘酸っぱい香りが混ざり、二人だけの秘密のように舌先で溶け合う。
「……ふふ、お裾分けです」
私が差し出したのは、先ほど駄菓子屋で買ったレモンの飴。
精液の残り香を消すために必死で選んだもの。
しかし、その「口移し」は皮肉にも、あの男に日々強いられていた習慣で磨かれたものだった。
毎食ごとに嫌でも覚えさせられた技巧。吐き気を堪えながら舌と舌を絡め、食べ物や酒を押し込まれるたび、抵抗する心を削られ続けた。
だが――今は違う。
今この瞬間は、私が望んで、私が選んで、最愛の人に与えた口移し。
同じ技術であっても、確かな幸福。
その皮肉さに気づきながらも、私は確かに笑みを浮かべていた。
「……マンリョウ、可愛いな」
あの男の声ではない賛美の言葉に嬉しさでいっぱいになる。けれど私は、そのまま抱きしめられることを拒むように彼の腕を押し返し、逆にその身体をベッドへと押し倒していた。
「え……?マ、マンリョウ?」
驚きに見開かれる団長さんの目。
私は喉の奥から絞り出すように震える声で答えた。
「……ごめんなさい、団長さん。私……どうしても……今、したいんです」
――彼の目に今の私はどう映っているのだろうか。
……でも、そんなことを気にしている暇はなかった。
「……落ち着け。時間は大丈夫なのか?」
「大丈夫です。団長さんと一緒なら……それで」
やはり彼は優しい。
もしすべてを委ねてしまえば、きっとただ私を抱きしめるだけで、セックスはせずに終わらせてしまうだろう。
だから私は、その優しさを押しのけるように、震える手で彼のペニスを自身の秘裂へと押し当てる。
「……今日は、私にさせてください」
そう囁きながら、そっと顔を寄せて、触れるだけのキスをした。
唇が離れると同時に、腰を沈めていく。硬く熱を帯びたそれが、私の中へ押し広げるように入り込んでくる。
「……っっ!……うっ、く……」
抑えきれない声が喉の奥から出てしまい、思わず私は顔を伏せてしまった。
薬で再生された処女を貫かれる痛みが、まるで津波のように押し寄せる。
その痛みに耐える私を見て、団長さんが慌てたように声を上げる。
「ど、どうした!?大丈夫か!?」
私は涙の滲む視界の中で必死に彼を見上げ、笑みを作りながら震える声を返した。
「――ええ、大丈夫です。私……団長さんにようやく……」
「ようやく?」
彼に続きを促されるも、私は自分がいったい何を言おうとしたのか分からずにいた。
必死に言葉を探そうとするが、頭の中が真っ白で結局出てこないまま。
「……すみません。実はちょっと、いやなことがあって……」
誤魔化すようにそう伝える。
きっと疲れているのだ。精神的にも身体的にも。
だから取り留めのないことを口走ったのだろう。団長さんの胸板に頭を預け、そう思う。
そして、そのまま彼の匂いを胸いっぱいに吸い込むと、ざわついていた心が静かに落ち着いていくのを感じる。
痛みよりも、戸惑いよりも、ただこの温もりが安心した。
「でも……こうして団長さんと繋がれて、嬉しくて……それだけなんです」
ぎゅっと、彼の両腕が私を抱きしめてくる。
苦しいほどに強く、それでいて決して放さないと言わんばかりに。
「……っ」
息が詰まりそうなのに、不思議と安心する。
その抱擁に守られていると実感しながら、私は小さく腰を動かし始めた。
痛みが少しずつ快感へと変わっていく。
それは、今までのあったことを上書きするような救いにも似ていた。
「くっ……!はぁ、はっ……!……マンリョウ……!」
団長さんの苦しそうで、それでいて気持ちよさそうな声に私は顔を上げる。
彼のペニスが私の中でびくびくと震え、射精の直前のように脈打っているのがはっきりと分かった。
――早い。
そう思った瞬間、どうしてもあの男のことが頭をよぎってしまう。
三十分以上も延々と続けてくるあの地獄のような行為に比べれば、団長さんはあまりにも早い。
けれどそれは、団長さんが劣っているからではなく……きっとあの男が異常すぎるのだ。
「くっ!おっ!……そろそろ出そうだ! ……このまま出してもいいか?」
「はい……お願いします……!奥にっ!」
その言葉を待っていたかのように、団長さんが一気に限界を超える。
どくどくと熱い奔流が私の奥深くへと注ぎ込まれる。
しかし――
いつものポルチオに向かって強烈に叩きつけるようなあの鋭い快感がなく、私の体はそれを求めるように、無意識のうちに膣壁を蠕動させ彼のモノを引き止めようとしてしまうのだった。
「っ……く、はぁ……!」
「んっ、あああっ……!」
――イけなかった。
確かに気持ちよかった。しかし、あの絶頂の波は訪れなかった。
今まではあったはずなのに。どうして。
「はぁ、はぁ……気持ちよかった。マンリョウの中、いつも以上に絡みついてきて……。……ごめんな、すぐに出ちゃって」
その謝るような声に、あの男の嘲りが脳裏によみがえる。
『俵締めを知っておるか?それもお前の中は特に珍しい三段締めじゃな。さらにヒダがうねうねと動きながら奥へ引き込んでくる。これは並の男では早漏の誹りを免がれんよ』
『どうじゃ、奴はこんなに長い間持たんじゃろう?んん?』
「……っ!」
私は強く首を振った。あの記憶を否定するように。団長さんを守るように。
「いいえ……いいえっ!――私も、本当に……気持ちよくて、幸せでした……!」
声が震えていたのは、心からそう思っていたからだ。
気持ちよかったのも、幸せなのも嘘じゃない。
――ただ。
彼の熱が届かなかったその奥が、じんじんと疼き続けている。
自分の意思ではどうしても抑えられないその疼きが、私に悔しさと深い絶望を刻みつけていた。
「団長さん、今日はありがとうございました。……ごめんなさい、急にセックスがしたいなんて言い出して」
「いや……まあ確かに急に言われた時は驚いたけど……俺もマンリョウに会えて本当に嬉しかったよ」
団長さんは少し気恥ずかしそうに頬をかいた。その姿に、胸の奥が温かいものが広がっていく。
――ああ、幸せだ。この時間が永遠に続けばいいのに。
彼の部屋に差し込む優しい光、柔らかい空気、すべてが愛しい。……でも、そろそろ現実に戻らなくては。
「――では……そろそろ行きますね」
「……ああ、またな」
振り返れば、きっとそのまま抱きしめられて動けなくなってしまう。
だから私は背を向け、歩き出す。この愛しくも平穏な日々を守るために。
しかし――。
「くく……戻ったか。……それで、どうじゃった。楽しかったか、奴との逢瀬は?」
低く、ぞっとするような声。
背筋が凍りつく。振り返ると、暗がりに立つあの男――ネトリが、笑みを浮かべてこちらを見ていた。
その眼差しにはすべてを見通すような氷のような冷たさが宿っている。
「なっ……!」
その言葉に全身がが震える。
知られていた。何もかも。
私の行動も、思惑も、すべて。
だったら、せめて。
せめて誇りだけは――
「――ええ、そうです!私の処女は団長さんに捧げてきました!」
言葉は震えていたけれど、それは恐怖ではなく覚悟から来るものだった。
私は胸を張って告げた。しかし――。
「ほぅ……そうかそうか。……くくく、ハーハッハッハッ!」
ネトリは大仰に笑い出した。
その笑い声は広間に木霊し、私の心を打ち砕くかのように響いた。
「……いやぁ、かわいいのぉ。それで儂の思惑を潰したつもりか?」
その声音には怒りはなかった。ただ、愉悦だけがあった。
まるで私の必死の抵抗すら、この男にとっては退屈しのぎの余興でしかないのだと言っているかのように。
「……っ」
胸の奥が冷え切っていく。
私の一世一代の覚悟すら、この男の手の上だということを思い知らされる。
「じゃが……まぁ確かに処女をさらに奪うのも一興だと考えておったのも事実。……そうじゃのぉ……」
彼は一歩、また一歩とこちらへ歩み寄る。そのたびに、空気が重くなる。
私は足がすくんで動けない。心臓の鼓動がうるさいほどに響く。
「どれ、では一つ……お仕置きといこうかの」
低く響いたその言葉に、全身が震えた。
――これは、私が想像していた以上に過酷な罰になる。
そう直感してしまうほどの圧が、ネトリの声音に込められていた。
次にお前は「いや、処女を奪うのネトリじゃないんかい!」と言う。(ジョセフ風
安心してください、希望はありませんよ!
……一応、弁明させてもらうなら、「ここで団長とマンリョウがセックスをしても良いし、しなくても良い」どっちに転んでもネトリとしては良かったんです。
何なら例の手紙を届けさせたのはネトリですしね。
重大なネタバレを含んでいるので、ここでは詳細は伏せますが。
良ければ感想、評価、お気に入り登録をしていただけると、モチベが爆上がりします。
次はマンリョウのお仕置きシーンになると思います。よろしくお願いいたします!