貞操逆転世界でAV男優始めました〜100年に1人の逸材 現役男子大学生Debut〜 作:たんばりん
ぼんやりとした意識の中で、タクミは天井を見つめていた。
さっきまでの喧騒が嘘のように、部屋の中は静寂に包まれている。外の街灯がカーテンの隙間から差し込み、薄暗い室内に揺れる影を落としていた。
柔らかい寝息が左右から聞こえる。
視線を横に向けると、ユイナとさやかが彼の両側に身を横たえていた。
——信じられない。
心の中で、そう呟く。
前世でただ憧れるだけだったさやか先輩が、今こうして自分のすぐ隣にいる。それどころか、水泳サークルの会長であるユイナまで。彼女たちはすっかり出来上がり、タクミの肩を借りるようにして帰宅。そのまま流れでこうなった。
さやかは無防備な寝顔を晒していた。長い睫毛が微かに揺れ、唇はうっすらと開いている。普段は明るく、積極的な彼女も、今は静かに眠っていた。
反対側のユイナは、整った顔立ちをより引き立てるように、穏やかな表情で寝息を立てている。彼女はサークルの会長で、さやかよりもさらに包容力のある雰囲気を持っていた。普段は余裕のある笑みを浮かべ、場をリードする存在。しかし、今はまるで少女のように、無防備な姿を晒している。
タクミはそっと息をついた。
「……俺、本当にやり直してるんだよな」
誰に言うでもなく呟く。しかし、返ってくるのは静かな寝息だけ。
男女比の違う世界。男が少なく、女が多い。男の立場は現実とは大きく異なり、彼はそのルールに翻弄されている。それを理解したつもりでいた。だが、こうして実際に経験してみると、思った以上に衝撃が大きい。
前世では考えられなかった展開。
当時の自分は、さやか先輩に一目惚れし、それがきっかけで水泳サークルに入った。しかし、飲み会の激しさに圧倒され、結局数回顔を出しただけでフェードアウトしてしまった。それでも、彼女のことはずっと覚えていた。憧れの存在として、遠くから見ているだけだった。
しかし今、さやかは隣にいる。ユイナも。
これは……本当に自分が望んでいたものなのか?
今の自分は、前世の自分とは違う世界のルールの中にいる。男としての価値が、前とはまるで違う。そして、それはあまりにも容易く、急激に手に入りすぎている。
こんなにもあっさりと、いいのか?
胸の奥がざわついた。
ふと、さやかが寝返りを打ち、タクミの方へと寄ってくる。腕に感じる柔らかな感触。酔いの残る寝息が、微かに肌をくすぐる。
同時に、反対側ではユイナが小さく寝息を立てながら、無意識に距離を詰めてきていた。
——挟まれている。
だが、嫌な気分ではなかった。むしろ、心地よささえ感じる。
こんなこと、前世ではあり得なかった。
しかし、そんな状況でも、タクミの心は浮かれることなく、どこか冷静だった。
新しい世界。新しい立場。新しい自分。
その全てを受け入れられるようになるには、まだ時間が必要なのかもしれない。
夜はまだ、長い。
――――――――
午前中の授業は、タクミにとって退屈なものだった。
単調な教授の声が講堂に響く中、彼はスマホを手に取り、そっと画面を覗く。
——金を稼がなきゃならない。
この世界に転生してからの生活は、前世と比べて劇的に変わった。しかし、それでも施設育ちという境遇は変わらないし、奨学金返済の現実もある。
遊ぶ金なんて、当然ない。
何かいいバイトはないか——そう思いながら、求人アプリを開いた。
**ホスト:時給10,000円+出来高払い**
**セクキャバ:時給30,000円+出来高**
**ソープ:完全出来高制、今なら面接だけで100,000円支給**
タクミの指が一瞬止まる。
……この世界、どこか狂ってないか?
前世でも夜の仕事は高収入だったが、それでもここまでの金額はあり得なかった。特に「ソープの面接だけで十万」というのは、もはや意味がわからないレベルだ。
——男が少ないから、ってことか。
この世界に来てからずっと感じていた違和感が、また一つ目の前に突きつけられた。
男というだけで金になる。
それを理屈では理解していたが、こうして求人情報を目の当たりにすると、その異常さを改めて実感する。
指先が無意識に画面をスクロールする。延々と続く高額求人のリスト。
そのとき——
**ピコン!**
突如、画面全体にポップアップが浮かび上がった。
**《AV男優 募集!いまなら契約金最低800万円〜》**
タクミの目が、その一文に釘付けになる。
画面の中央には、モデルのように整った顔立ちの男性が写っていた。カジュアルな服装で、まるで芸能人のようにカッコよく決めている。
「……これだ」
胸の奥で何かが閃く。
なぜかはわからない。だが、これが自分の行くべき道のような気がした。
閃いた瞬間、タクミの行動は早かった。
授業の内容など、もはや頭に入ってこない。指が画面の上を滑り、迷いなくポップアップをタップする。
瞬時に求人ページが開き、エントリーフォームが表示された。
**《AV男優 応募フォーム》**
淡々としたデザインのページに、必要事項が羅列されている。
タクミは迷うことなく入力を始めた。
**・年齢 → 19歳**
**・職業 → 大学生**
**・住所 → ○○市△△区□□マンション102号室**
**・連絡先 → 携帯番号&メールアドレス**
特に変わった項目はない。一般的なアルバイトの応募フォームと大差なかった。
「……簡単だな」
拍子抜けするほどシンプルな内容だった。
しかし——
タクミの指が、ある項目の前で止まった。
**・女性経験の有無。並びにその人数。**
「……」
思わず眉をひそめる。
前世のタクミは、付き合った女性は一人だけだった。プロポーズに失敗し、破局した元彼女。
だからこそ、昨日までは「1」と答えるのが正解だった。
だが——
昨晩のことを思い出す。
**ユイナとさやか。**
酔いに身を任せた二人の先輩たち。
それは間違いなく「経験」に含まれる出来事だった。
——ってことは、今の俺は……「3」か。
一瞬だけ迷った後、彼は軽く息を吐き、数字を入力する。
**「3名」**
続いて、最終応募確認のボタンへと指を滑らせる。
**——タップ。**
画面が切り替わり、送信完了の文字が表示された。
**《エントリーが完了しました。担当者からのご連絡をお待ちください。》**
タクミはスマホの画面を見つめながら、小さく呟く。
「……よし」
授業はすっかり頭の外だった。
彼の新たな人生が、今まさに動き出そうとしていた。