貞操逆転世界でAV男優始めました〜100年に1人の逸材 現役男子大学生Debut〜 作:たんばりん
タクミは、面接時にエリカから渡された名刺を頼りに、新宿にある彼女の所属するAVプロダクション本社へと足を運んでいた。
ビルの前に立ち、改めてその規模を目の当たりにする。
**——想像以上にデカい……。**
高層ビルが立ち並ぶ新宿の中でも、一際目立つガラス張りの超高層ビル。その洗練されたデザインと圧倒的な存在感は、AVプロダクションというよりも、大手金融企業かIT企業の本社にしか見えない。
まさか、AV業界がここまで巨大なビジネスだったとは——タクミは改めて、この世界の価値観の違いを実感する。
視線を移すと、ビルのエントランスにエリカの姿があった。
昨日と同じく、黒のタイトスーツに身を包み、仕事のできるキャリアウーマン然とした佇まい。手には高級そうなビジネスバッグを持ち、整えられた髪の毛が日の光に艶やかに輝いていた。
彼女がこちらに気づき、軽く手を振る。
「今日は来てくれてありがとう」
エリカは微笑みながら、タクミの前にすっと一万円札を差し出した。
「交通費のタクシー代に使って」
「え……いや、電車で来ましたし……」
突然のことに戸惑うタクミ。しかし、エリカはクスッと笑い、優しく言った。
「遠慮しないで。ウチはね、こういうところにケチケチしないの」
差し出された一万円札を見つめ、一瞬迷ったが、タクミは素直に受け取ることにした。
「ありがとうございます……」
これが、この業界のスタンダードなのか? 昨日の面接の電話が“応募してから10秒後”に来たことといい、何もかもがスピーディーで、金の動きが派手すぎる。
**——やはり、この業界は普通じゃない。**
そんなことを考えながら、エリカの後についてビルの中へと入る。
エントランスロビーは、まるで高級ホテルのようだった。
広々とした空間に、シャンデリアが煌めき、大理石の床が光を反射している。受付には数名の女性スタッフが立っており、全員がモデルのように整った顔立ちをしていた。
タクミが驚いた表情をしているのを見て、エリカが笑う。
「驚いた?」
「えぇ、ものすごく」
正直、AVプロダクションのイメージとはかけ離れすぎている。タクミの中にあった“AV業界=裏社会的な雰囲気”という固定観念は、すでに崩れ始めていた。
「エレベーターはこちら」
エリカに案内され、ガラス張りのエレベーターへと乗り込む。
行き先のボタンが押されると、エレベーターはスムーズに上昇を始めた。
**——速い。**
階下を見下ろすと、新宿の街並みがどんどん小さくなっていく。まるで遊園地のアトラクションのようなスピードだ。
「ここ、テナント料とかバカにならないんじゃ……?」
思わず呟くと、エリカは涼しい顔でこう答えた。
「AV業界の市場規模はおよそ30兆円。ウチはそのうち5兆円を叩き出す最大手なのよ」
「5兆……?」
タクミは耳を疑った。30兆円という市場規模も桁違いすぎるが、そのうち5兆円を一社で稼ぎ出しているという事実に驚愕する。
「信じられないかもしれないけど、これは事実よ。世界的に見ても、日本のAV業界はトップクラスの規模を誇るの」
確かに、前世の記憶からしても、日本のAVは世界中にファンがいた。だが、それにしてもここまでの規模とは——。
「一応、都内に関わらず全国各地に支社もあれば、スタジオもあるんだけど、ここは本社かつ、オフィス系の撮影に使うスタジオも併設されているの」
「オフィス系の撮影……?」
「まあ、色々あるのよ。とりあえず、昨日話したスタジオへ行きましょう。今、ちょうど撮影の真っ最中だから」
タクミは無言で頷くしかなかった。
やがてエレベーターは40階に到着し、扉が静かに開く。
タクミの視界に広がったのは——煌びやかなオフィスと、映画の撮影セットのような異空間だった。
**——AV業界の“最前線”が、ここにある。**
-
スタジオに足を踏み入れた瞬間、甲高い女性の嬌声がタクミの耳を突いた。
「ちょうど今、“本番”の最中みたいね」
エリカが当然のように言いながら、タクミを先導する。まるでこの音に何の感情も抱いていないかのような、淡々とした口調だった。
タクミはその背中を追いながら、無意識に喉を鳴らした。
(本番、か……)
AVの撮影がどんなものか、実際に見るのはもちろん初めてだ。エリカの後ろをついて歩くうちに、彼の目の前に一つの光景が飛び込んできた。
**——これは……。**
タクミは思わず口を開きかける。しかし、その瞬間、エリカが振り返り、口元に人差し指を立てた。
「撮影中だから、一応静かにね」
耳元で小さく囁かれる声に、タクミは軽く頷く。
そして改めて視線を戻し、目の前の光景をじっくりと見た。
そこには、オフィスのセットらしき空間が広がっていた。机の上には書類が散乱し、背景には観葉植物やパソコンが並んでいる。まるでドラマや映画で見るようなオフィスの一角……ただし、そこにいる二人を除けば。
**——デスクの上にスーツをはだけさせた男。**
**——その上に馬乗りになり、激しく腰を振る裸の女。**
その女性は魅惑的な肉体を惜しげもなく晒し、流れるような動作で男の上で動いていた。身体の肉が揺れ、汗が光る。しかし、タクミの目を引いたのはその女性ではなく、彼女を“受ける”側の男だった。
「ーーーーッ!」
撮影スタジオの隅に並ぶモニターには、その男の表情がアップで映し出されていた。
確かに、それなりに整った顔立ちだ。しかし、その目はどこか虚ろで、生気を感じない。さらに驚いたのは、男の声だった。
「うっ……ああ……すごい……」
まるで感情がこもっていない。
AVというものは、もっと激しく、情熱的なものだと思っていた。が、目の前の男はただ淡々とセリフを吐き出し、まるで機械のように腰を動かしているだけだった。
(……これが……)
タクミの眉が僅かに寄る。
(こんなのが……この世界の常識なのか?)
AV業界。それは男性の憧れとも言われる仕事の一つ。女性に求められ、金をもらいながら快楽を得る、まさに男の夢……そう思っていた。
しかし、今目の前で起きていることは、彼の想像とはかけ離れていた。
男はただ“役割”を果たすだけの存在。
彼の表情に快楽はない。ただカメラの向こう側にいる視聴者に対して、“見せるためのセックス”を演じているに過ぎなかった。
ギシギシとデスクの軋む音、大袈裟な女性の嬌声、そして全く迫力のない男のセリフが、妙にチグハグに混じり合う。
(いや、ただそういうシーンなのかも知れない)
一瞬よぎった落胆の感情を胸に秘めて彼はエリカに差し出されたイスに腰掛けて撮影を観察する。
撮影はやがて佳境へと移り行き、女性の動きがより一層激しくなる。
「クっ、あぁ、だ、だめだ。や、やめてくれぇ〜、い、イッてしまう〜」
そこら辺にいる男に演じさせた方がまだ良いのでないかと思う程の大根役者ぶりである。
「ン゛ッ!わ、私も!私も、イっ、ンーー゛!」
そして相対する女性はその男性と真逆。
迫真に迫る演技でその場で身体を痙攣させた後、その後すぐさま結合部から吹き出す潮。
「はぁ、はぁ、はぁ、気持ちよかったよ。ありがとね。ヒロシくん」
吹き出した後、そのまま男性の胸にペタリとヘタリ込んだ後、満足そうな表情で男優の頬にキスを落とす。
「カーーーーット!!」
そして室内に響く異性の良い女性の声とカチンコの衝撃音にタクミは区切りがついたことに気がついた。
「どうかしら?率直な感想は?」
いつの間にかタクミの背後に立っていたのか。彼の背後からエリカが声をかけた。
タクミはしばし黙った後、正直に口を開いた。
「なんというか……すごいです(棒読みが)」
ここではそんな設定のあるシーンなのかも知れない。故に何がすごいかまでは言わない彼にエリカはうんうんと満足そうに頷いた。
「でしょう?あそこにいるのはウチの看板男優だからね。彼一人で1年間に50億円は売り上げるウチの財産よ」
しかしながらエリカのその言葉に彼は正しく言葉を失った。
(……あれで……?)
(あの……大根役者で?あの動きの無さで?ていうか、射精シーン取らないと思ったらあの人、射精してないし)
エリカへの返す言葉を探しながら目の前の男優と女優に視線を戻すと、女性が上から降りた時、男優はコンドームをつけておりその先端は白く染まってはいなかった。
(というか、小さい……?)
射精してないのであれば、ある程度大きさはピークに近しいはずである。
しかしながらタクミの視線に映る男優の肉棒は、彼の平常時に毛が生えた程度の長さに、硬さはなさそうにダラリと頭を垂れていた。
「タクミくん、彼を見てどう思う?」
エリカがどこか期待したような顔つきでタクミの顔を見つめた。
(きっとこれは、凄いです!男優さんすごいです!…みたいに言うべきなんだろうな…)
一瞬そんなことが頭によぎるも、タクミは別の言葉を吐くことにした。
「なんか……作られてる感がすごいですね……」
「作られてる?」
エリカの笑みが一瞬にして怪訝そうな顔つきへと変わった。
「うーん。なんていうか、AVって、もっと……こう、激しいものを想像してました…。もちろん設定とかもあるのかもしれませんが、女性目線で考えた時にあの男優の受け身な体制や、棒読みなセリフは、却って作品感が強いなって…」
その言葉を聞いて、エリカは暫し沈黙の後、未だ険しい表情で言葉を返した。
「そうよ。AVはファンタジーなの。リアルな性行為じゃないの。あくまで“商品”として作られるものだから、リアルである必要はないのよ」
「いや、あの…そのような意味ではなくて……」
(きっと、俺の言いたいことは伝わったいないのだろうな。俺からすればそれこそこの間の先輩達との3Pを映像化した方がこの世界では売れると思う)
そんなこと内心考えながら言葉に詰まる彼にエリカの顔は怪訝を通り越して不満顔へと変化していく。
AV男優とは、単に女性と交わる仕事ではない。
これは一種の**演技**であり、**視聴者のための作り物**なのだ。
タクミはもう一度、モニターに映る男の顔を見た。
無機質な目をしたその男は、まるで何かに疲れ果てたような表情をしていた。
(……これが、この世界のトップ男優の姿なのか)
昨日見た求人のポップアップ広告で映っていた男性には覇気を感じた。
もちろん求人用の宣材素材ではあるだようが…。
「あの……よければ……」
不満顔のエリカに次の言葉を告げるべきか、タクミは一瞬その場で思案した。
「僕も今日、あの女優と撮影できますか……?もちろんギャラはいらないので……」
彼の提案にエリカの顔は不満顔から仰天顔へと変わり、タクミはそれをみて「百面相だな」とただ思うのであった。