貞操逆転世界でAV男優始めました〜100年に1人の逸材 現役男子大学生Debut〜 作:たんばりん
### **第9話 — 契約金5億円 —**
応接室に移動すると、エリカは勢いよくタクミをソファへと座らせた。
この部屋は普段、クライアントや業界関係者との商談に使うためのものだ。
落ち着いたモノトーンのインテリア、高級感のあるガラステーブル、壁際に置かれた洋酒のボトルが、企業としての格を示している。
しかし、今の空気はまるで違った。
エリカの呼吸は明らかに荒く、その目には異様な熱が宿っていた。
隣に座る監督——通称「マミさん」も腕を組み、興味深そうにタクミを見つめている。
「えっと……俺、何かやらかしました?」
控えめに尋ねるタクミに、エリカはピシャリと首を横に振った。
「違うわ。タクミくん、あなたはとんでもないことを成し遂げたの。……自覚、ある?」
「いや、よくわかんないですね。俺、いつも通りにやっただけなんで」
その言葉に、マミさんは思わず噴き出した。
「……“いつも通り”ね。あんた、面白いわね」
タクミはますます困惑した表情を見せるが、エリカはそれを無視して深く息を吸い、タクミをまっすぐ見つめた。
「タクミくん。単刀直入に言うわ。——契約を結びましょう」
「……契約?」
「ええ。あなたを、この業界で“トップ”にするための契約よ」
タクミは怪訝そうに眉をひそめたが、エリカは構わず続けた。
「契約金——5億円」
タクミの指がピクリと動いた。
「……5億?」
「そうよ。加えて、作品の売り上げの10%をあなたに支払う。この条件をのむ?」
その場の空気が、異様なほどの熱を帯びる。
マミさんは腕を組んだまま「おおっ」と呟き、タクミは思わず苦笑した。
「いやいや、さすがにおかしいでしょ。そんな金、普通ポンと出せるわけが——」
「普通ならね」
エリカは微笑んだ。
「でも、あなたは——“普通”じゃないの」
タクミは一瞬、言葉を失った。
「……」
エリカの目には確信があった。
そして、それは単なる気まぐれや衝動的な判断ではないと、タクミにも伝わっていた。
彼女は本気で、自分に5億円の価値があると信じている。
「正直に言うわ。この金額、私に決定権はない。役員会議を通して、正式に決めるべき案件よ。でも——私はあなたを逃がすつもりはない」
「……そんなに、俺に賭けるんですか?」
「ええ。あなたの映像を見れば、役員たちも私と同じ判断を下すわ。確信している。だから、私はあなたにこの場で“仮契約”を結んでほしい」
エリカは、さっと書類を取り出し、ガラスのテーブルの上に置いた。
そこには、簡単な契約の概要が記されていた。
**「契約金 5億円」**
**「売上マージン 10%」**
タクミはゴクリと喉を鳴らした。
「……冗談じゃなくて?」
「ええ。本気よ」
タクミはマミさんの方を見た。
「……これ、受けちゃっていいんですか?」
マミさんは肩をすくめる。
「お前が決めることだね」
「……5億か……」
タクミは、契約書をじっと見つめた。
人生でこんな額を目にすることがあるなんて、想像もしていなかった。
大学生のバイト感覚で応募した仕事が、まさかこんなことになるなんて——
だが、タクミは知っていた。
この世界に入ることの意味を。
そして、この契約が自分にとって“逃げ道”をなくすものであることも。
「……」
タクミは、ペンを手に取った。
エリカが息を呑む。
マミさんも無言のまま、彼を見つめていた。
ペン先が契約書に触れた瞬間——
「——ちょっと待ってください」
タクミはピタリと動きを止めた。
エリカが不安そうに眉を寄せる。
「どうしたの?」
タクミは、深く息をついた。
「俺、この契約がどれだけすごいのかは分かります。でも……一つ、確認したいことがある」
「確認?」
「この契約って——“俺に逃げ道はあるんですか?”」
エリカは、その質問を予想していなかったのか、一瞬だけ戸惑いの色を浮かべた。
そして、すぐに真剣な顔に戻る。
「……正直に言うわ。逃げ道はない」
タクミは目を細めた。
「あなたがこの契約を結べば——もう、元の生活には戻れないわ。それが、5億円という額の重みよ」
タクミはしばらく黙ったまま、その言葉を噛み締めた。
——5億円。
——逃げ道はない。
——元の生活には戻れない。
数分間の沈黙の後——
タクミは、ゆっくりとペンを書面に走らせた
そして、エリカの目を真っ直ぐに見て言った。
「……正直に答えてくれてありがとうございます。俺も、もう人生には逃げないって決めてるんで」
エリカは、一瞬驚いた表情を見せ——
やがて、微笑んだ。
「ありがとう!必ずこの契約を役員会に通すことを約束するわ。改めて……よろしくねタクミくん」
タクミは、エリカに向かってコクンと頷いた。
——彼の人生は、今まさに大きな分岐点に立たされていた。
――――エリカside
タクミくんから仮契約のサインをもらった翌々日。
私は役員会議に出席するために本社の最上階へと足を運んでいた。
普段、私のようなポジションの人間が単独で役員会議に乗り込むことはない。重要な案件ほど事前に根回しをし、慎重に話を進めるのが通例だ。
しかし——そんな悠長なことをしている場合ではない。
タクミくんという逸材を、この業界で確保できるかどうか。それが今日、ここで決まる。
私がエレベーターを降りると、すでに会議室の前には数人の幹部たちが集まっていた。
「エリカさん、随分と急な案件を持ち込んできたみたいですね」
私の顔を見るなり、副社長の柴田が冷静な声で言った。
「ええ。急ぎの案件です」
私は微笑んで答えると、会議室の扉を押し開けた。
**——重厚な木製のテーブル、役員たちの鋭い視線。**
いつものように、会長の大河内が中央に座り、右側には社長の田所、副社長の柴田。
そのほか、経営戦略、財務、人事、マーケティング、制作部門の責任者たち。
合計10名。
全員がこの業界を支える重要人物たちだ。
私は緊張を押し殺しながら、ゆっくりと席に座る。
「それでは、案件の説明を」
会長の大河内が静かに促した。
私はカバンから資料を取り出し、役員たちの前に配る。
「新たな契約案件について、ご決裁をお願いしたく、本日この場を設けていただきました」
「ほう?」
社長の田所が資料を開く。
その瞬間、会議室が凍りついた。
「……待て、これは……?」
誰かが低く呟く。
「契約金……5億?」
「売上マージン10%……?」
「これは……何かの間違いだろう?」
資料に記載された金額を目にした役員たちの表情が、一斉に険しくなる。
「エリカ君、この数字は何だ?」
財務担当役員が低い声で問い詰める。
「文字通りの意味です。私がスカウトした新人、タクミくんとの契約条件です」
“本当はスカウトではなく、単に自分が担当する求人ページから応募があったのだタクミくんだか、もちろんそこまで無防備に伝えるつもりはない“
「バカを言うな!」
突然、マーケティング担当の役員が机を叩いた。
「男優の契約金に5億? これまでどんなスター男優でも、こんな額はついていない! それに、売上マージン10%だと? 会社を潰すつもりか!」
「私も同意見だ」
制作部門の責任者も腕を組む。
「いくらなんでも異常すぎる。金額設定として破綻している」
「エリカ君、少し冷静になれ」
人事担当の役員も眉をひそめた。
「君が有能なスカウトマンであることは認めるが、これは明らかにやりすぎだ。まずは役員会議を通す前に、もう少し現実的な数字を持ってくるべきだったのではないか?」
——予想通りの反応だった。
当然だ。
この業界において、男優がここまでの契約金を得ることなど、前代未聞なのだから。
「……」
私は静かに彼らの言葉を受け止めたあと、ゆっくりと口を開いた。
「お気持ちは理解できます。でも、タクミくんは、それだけの価値がある存在です」
「何を根拠に?」
「実際に映像を見ていただければ分かります」
私はノートPCを開き、昨日の撮影映像をスクリーンに投影する。
——画面が切り替わる。
監督の指示のもと、タクミくんが登場。
その瞬間、空気が変わる。
役員たちが、思わず息を呑むのが分かった。
画面の中のタクミくんは、ただ立っているだけで圧倒的な存在感を放っていた。
やがて撮影が始まり——
**——その場にいた全員が、言葉を失った。**
「……っ」
「これは……」
「まるで……」
誰かが小さく呟いた。
タクミくんは、まるで本能そのものが具現化したかのような動きを見せる。
技術的な計算など一切ない。
だが、その荒々しさが、圧倒的なリアリティと没入感を生み出している。
それまで契約に反対していた役員たちの表情が、一変した。
「……なんだ、この新人は……」
「こんな男優……見たことがない……」
「映像なのに、彼の熱が伝わってくる……」
「……なるほどな」
会長の大河内が腕を組み、静かに呟いた。
「エリカ君、君の言いたいことが分かった」
映像が終わり、会議室が再び静寂に包まれる。
「今の映像に、加工は一切ないのか?」
「ええ。全て生の映像です」
「……ふむ」
会長はしばらく考え込んだ後、社長の田所、副社長の柴田に目を向けた。
「田所、柴田、どう思う?」
田所が深く息を吐く。
「……これは確かに、ただの新人ではないな」
「売れる」
柴田が即答した。
「こいつは確実に売れるぞ……!」
「だが、5億は……」
制作担当の役員が、まだ渋い顔をしている。
「今までの常識では考えられない金額だ」
「常識?」
私は静かに言った。
「常識なんて、たった今崩れました」
「……」
「今までの基準で判断することが、どれほど愚かなことか……皆さんにも分かるはずです」
「……」
会長の大河内はしばらく沈黙し——
「……決裁をとろう」
そう言った。
「異論は?」
「……ない」
「……私も異論はない」
「……納得した」
次々と役員たちが頷く。
「では、エリカ君。正式契約に向けて動いてくれ」
「ありがとうございます」
私は深く頭を下げた。
タクミくん——
あなたの未来は、ここから正式に動き出す。
私は確信していた。
この契約は、業界の新しい時代の幕開けとなる。