1.奪われたファーストキス
「……嘘でしょ……?」
夕焼けに染まる公園の片隅で、私は立ち尽くしていた。目の前には、淳平くんと東城さんが抱き合いながらキスをする姿。何も言えなかった。声を出すと涙が溢れそうで、ただその場から逃げ出した。
必死に走った先で、知らない男が声をかけてきた。
「あれ、つかさちゃん? 何泣いてんの?」
軽い調子のその声に、私は顔を背ける。
「……あっち行って」
「冷たいなあ。でも、そんな顔してたら、俺、放っておけないよ?」
馴れ馴れしい。関わりたくない。だけど、彼は引き下がらなかった。
そして、不意に──
「んっ……!」
唇に、熱。
私は咄嗟に男を蹴り飛ばしていた。
「ふざけないでっ!」
涙混じりの怒声をあげ、逃げるようにその場を後にした。
(最低……ファーストキスだったのに……!)
2. セカンドキスの悪夢
翌日、街角でまたあの男に出くわした。
「おー、つかさちゃん。また会えたね」
「……知らない」
そっぽを向くが、しつこくついてくる。
「また、キスしちゃおうかな?」
「……!」
ついに我慢の限界にきて、男を睨みつける。だが──
「ちゅっ♪」
「なっ……!」
スキを突かれて、またキスされてしまった。
「はい、つかさちゃんのセカンドキッス❤ ゲット!」
その瞬間、私はカバンを振り上げ、彼の顔を思い切り殴った。
「……ふざけないで!!」
再び走り去る。心臓が、うるさい。
(……なんなの、この人は……)
3. 逃げられないキス
数日後、またもや男が現れた。目が合った瞬間、嫌な予感がして私は反射的に駆け出した。
「おっ、今日は逃げるのかい? なら、俺も本気で追いかけちゃうよ?」
私は、できるだけ遠くへ、できるだけ速く走った。しかし、後ろから響く足音がどんどん近づいてくる。
「待ってよ、つかさちゃん! そんなに逃げられると、俺、燃えちゃうじゃん!」
男の声が背後で弾む。振り返る余裕もない。ただ、必死に前へ走る。しかし──
「はぁ、はぁ……つ、捕まえた……!」
追いつかれた。
「逃げなくてもいいじゃん……ただちょっと、話したかっただけなんだし……」
息を切らしながらそう言う男の姿に、私は戸惑う。
「……話って何よ?」
「キス、強引にしちゃったから……謝りたくて」
彼の言葉に、一瞬、胸がざわつく。
「……謝るなら、もうしないで」
そう言ったはずなのに、心の奥底で、自分でも分からない感情が渦巻いている。
「うーん、それは無理かな?」
「は?」
「だって、つかさちゃんとキスするの、好きなんだもん♪」
呆れ果てる私に、彼は急に表情を変えた。
「……あ、汗でブラ透けてる。」
「えっ!?」
咄嗟に服を確認しようとした瞬間──
「ちゅっ♪」
「……!」
また、やられてしまった。
「透けてるの、嘘ぴょーん!」
「……っ!!」
私は、思い切り平手打ちして、すぐにその場から駆け出した。
(……バカじゃないの!)
4. 雨の日のキス
小雨の中、私はいつもと違う道を選んだ。あの男に会わないために。
(今日は絶対に会わない……)
そう思っていたのに、角を曲がった先で──
「よっ、つかさちゃん♪」
傘を差したあの男に出会ってしまった。
「……なんでここにいるのよ!」
「雨の日って、偶然が多いんだよねぇ」
最悪。どうしてこうなるの?
「ちょっと待ってよ。濡れちゃってるじゃん。俺の傘、入る?」
「入らないわよ!」
そう言って避けようとしたが、男がさっと傘を差し出す。そして──
「ちゅっ♪」
「……っ!」
また、唇を奪われてしまった。
「つかさちゃんの唇って、本当にマシュマロみたいに柔らかいね」
「なっ……!」
雨に濡れた頬が、今度は熱くなった。
「この傘はあげるよ。じゃ、またね♪」
軽やかに去っていく男。
私は、何も言えずにその場に立ち尽くしていた。
(……なんなのよ、もう!)
5. 届かぬ想いと男の唇
部屋のベッドの上で、私は天井を見つめていた。
思えば、あの男にファーストキスを奪われてから、もう四回目……。
「淳平くんとは、まだ一度キスもしてないのに……」
別れているとはいえ、淳平くんとは、まだ気持ちが通じ合ってると思っている。でも、まだキスしてくれない……。
「やっぱり、私に魅力がないのかな?それとも、淳平くんは東城さんの方が……」
そんなことを考えていたら、ふと、あの男の言葉を思い出した。
『つかさちゃんの唇って、マシュマロみたいに柔らかいね』
思い出しながら、私は、無意識に自分の唇を指で触っていた。
(……あれが、男の人の唇……)
指先が触れた部分が、なぜか熱を持っていた。
ゆっくり目を閉じる。
(淳平くん……早くしないと、私……誰かのものになっちゃうかも……)
6. 甘いキスの味
昨夜は、なかなか眠れなかった。
ベッドの上で何度も寝返りを打ったけれど、頭の中にはあの男のことがちらついて離れなかった。
寝不足のまま、ぼんやりと歩いていたら──
「あれ? つかさちゃん、また会っちゃったね」
……間違えた。
いつもの道を避けようとしていたはずなのに、無意識に足がそちらへ向いていた。
「きっと、これは運命だ♪」
軽くウインクして笑う男を見て、私はなぜか心臓が跳ねた。
(な、なに意識してるの私……!)
改めて見てみると、彼は意外と整った顔をしていた。
(いや、何を考えているのよ私……!)
「はい、これ。お詫びの気持ち」
「……え?」
彼が差し出したのは、小さな包み。
「チョコレート?」
「うん。つかさちゃんが好きそうなのを見つけちゃってね」
包装紙には、有名なスイーツ専門店のロゴが見えた。
(これ……食べてみたいと思ってたやつ……!)
いらない、と言おうとしたけれど。なぜか、不思議と手が出てしまった。
「……なら、一口だけ」
口に入れた瞬間、チョコレートの甘さが舌の上を広がっていく。
「……おいしい……!」
思わず笑顔が出た。
「ふふふ。つかさちゃんの笑顔っていいね。まるで天使みたいだ。」
「っ……!」
男の言葉に、不意を突かれた。
(……なにこれ、恥ずかしい……)
顔が熱くなって、反射的に視線をそらした、その瞬間──
「ちゅっ♪」
「……!」
またしても、男に唇を奪われてしまった。
「ふふふ、今日はチョコの味だね♪」
耐えきれず、彼を突き飛ばす。
「もう……!」
その場から駆け出す私。
走りながら私は、指で自分の唇に触れていた。
(……なんで、こんなに熱いの……?)
7. 無邪気な彼とズルいキス
休日、なんとなく公園へ足を運んだ。
そこにいたのは──
「あれ……?」
あの男だった。
けれど、彼は子どもたちと一緒に遊んでいた。
鬼ごっこでもしているのだろうか。無邪気な笑顔で、子どもたちと駆け回っている。
(……意外)
いつも私をからかってばかりの彼が、こんな風に純粋な笑顔を見せるなんて。
でも──
(だからって、アイツは強引にキスしてきた最低な男)
その事実は変わらない。
私は踵を返し、その場を立ち去ろうとした。だが──
「あれ? つかさちゃん、どうしたの?」
不意に、声をかけられたしまった。
「べ、別に。ただ通りがかっただけよ」
「そっか。じゃあ、一緒に遊ぶ?」
親しい友達に声をかけるように、彼は、私に話しかけてきた。
「あ、遊ばないわよ!」
「そっか、じゃあまたね」
あっけなく引き下がる彼。
私はその背中を見つめたまま、心の奥に違和感を覚えた。
(……あれ? キスは……?)
その瞬間、思考が凍りついたのを感じた。
(えっ……私、今、なにを考えて……!?)
顔が熱くなる。逃げるようにその場を立ち去ろうとした。だが──
「ごめん、忘れてた」
「えっ?」
「ちゅっ♪」
「……!」
気がつけば、また、彼に唇を奪われていた。
「今日の分ね。それじゃ。」
そう言って、彼は何事もなかったかのように子どもたちの元へ戻っていった。
私は、その場で呆然と立ち尽くす。
(もう、本当に……私……どうにかなっちゃいそうだよ、淳平くん……)
8. 大人のキスと揺れる想い
どの道を選んでも、結局彼と出くわす。
もう無駄だと悟り、私はいつもの道を歩いた。
「おー、つかさちゃん♪ 今日も可愛いね」
案の定、彼は道の先で待ち構えていた。
「……」
「どうしたの、そんな怖い顔して。あ、そうだ! この前の公園、楽しかったよね?」
彼はニコニコしながら、無邪気に話しかけてくる。まるで普通の友達みたいに。
「……知らないわよ」
「えー? つれないなあ。じゃあ、いつものやつさせてもらうね。」
「えっ?」
彼が顔を近づけてくる。
私は、反射的に目をつぶってしまう。
(また今日も……)
そう思っていたが、待っても待っても、唇には何も感じなかった。
おそるおそる目を開けると、目の前に男の顔があった。
「……ふふ、キスされると思った?」
「えっ……!?」
彼はいたずらっぽく答えた。まるで、私の反応を楽しむように。
(まさか……私……)
知らず知らずのうちに、キスされることを待っていたの?
胸がざわつく。顔が熱い。
「……っ!」
恥ずかしさに耐えきれず、私は後ずさった。
けれど──
「逃がさないよ」
壁ドン!
彼の両手によって、行き場を無くされてしまった。
「やっぱり……つかさちゃんは可愛いな。」
間近に迫る彼の顔に、無意識に鼓動が早くなる。
「ば、バカ……!」
強く睨みつけるつもりだったのに、彼の顔が近づくと、声が震える。
そして──
「ん…っ!」
深く、強く、彼に唇を奪われてしまった。
それは、今までのとは違う、大人のキスだった。
──熱が伝わるほどに密着し、舌が絡まる。
「……っ!」
思考が追いつかない。
初めての感覚に、私は、ただ震えるだけだった。
キスは長く、終わらない。
(苦しい……でも、不思議と、いやじゃない……?)
気づけば、私はされるがままだった。
20秒ほど経った頃、ようやく唇が離れた。ふたりの間には、細い唾液の橋が架かっていた。
「……っ!」
正気に戻った私は、勢いよく彼を突き飛ばす。
「ばっ……バカ!!!」
精一杯の力でその場から駆け出した。
(何これ……なんなの……!)
走りながら、自分の顔が真っ赤になっているのがわかった。
心臓が壊れそうなほど高鳴っている。
(ダメ……こんなの……おかしいよ……!)
9. 境界線を越えて
いつもの道を歩くと、また彼がいた。
「よっ、つかさちゃん。昨日のキス、どうだった?」
「……っ!」
思わず足が止まる。
「感想聞かせてよ。ドキドキした?」
「そ、そんなわけないでしょ!」
顔が熱い。目を逸らしながら反論する。
「へえ? じゃあ、なんでそんなに顔赤いの?」
彼が私の腕を掴む。
「ちょっと……!」
振り払おうとするが、強くはできない。
(どうして……前ならすぐに振り払うのに……)
「……もう、俺のこと拒めないんじゃない?」
不意に、彼の顔が近づく。
心臓が跳ねる。
(ダメ……なのに……)
キス寸前で、彼は止まる。
「ねえ、今日はつかさちゃんからしてよ?」
「え……?」
彼の瞳が、私をまっすぐ捉えている。
……逃げられない。
数秒の沈黙の後ーー
私は引き寄せられるように、彼と唇を重ねた。
「……いただきます❤」
そういって、彼は深く口づけ、舌を絡めてきた。
私も、押し寄せてくる快感に抗うことができず、彼の動きに合わせ、舌を絡めていった。
(もう……戻れない)
自分からキスをしたことで、何かが決定的に変わってしまったのだ。
「これで、つかさちゃんは、俺のキスフレンドだね❤」
彼を拒む気持ちが、消えていくのを感じた。
(……ごめんなさい、淳平くん。私、もう……)
10. 変わってしまった私
最近、西野と話せていない。
そんなことを考えながら、真中は彼女のバイト先であるケーキ屋を覗いた。
店内は相変わらず忙しそうで、西野もテキパキと働いていた。だが、どこか違和感がある。以前の彼女よりも、大人っぽくなったように感じる。
(……なんだろう、この感じ)
もしや、日暮さんと付き合い出したのか!?
気になった俺は、店のおばあちゃんにそれとなく尋ねてみた。
「最近、西野は、その…どうですか?」
「ああ、西野ちゃんね。頑張ってるわよ。でも、孫はフランスに戻っちゃったから寂しいわ。」
「……え?」
じゃあ、違う? でも、前とは雰囲気が変わっているのは確かだ。
気になった俺は、彼女のバイト終わりを待つことにした。
店を出てきた西野を見つけ、声をかけようとした。しかし──
彼女は俺に気づくことなく、すぐにどこかへ向かっていった。
(……どこへ行くんだ?)
俺は彼女の後を追った。
数分後、ある場所で足を止める西野。そこには、一人の男が立っていた。
(あいつ……誰だ?)
遠目から見ていると、彼女は男と楽しそうに話しながら歩き出す。距離が妙に近い。
まさか……。
そして、二人はある建物の前で立ち止まり、周囲を気にしながら、軽く唇を重ねた。
俺の心臓が、冷たく沈んでいく。
(嘘だろ……?)
西野は、そのまま男と肩を寄せ合いながら、ラブホテルの中へと消えていった。
思わず、足がすくむ。
(……なんで……?)
目の前で起こったことが信じられなかった。
****
ぱちゅん! ぱちゅん! ぱちゅん! ぱちゅん!
「これでつかさも、俺の女だ。もう、真中と連絡取ったりするなよ。」
「うん、わかった……❤ もう連絡はとらない……❤
だからお願い……❤ もっとつかさを気持ちよくして……❤」
「よし、いい子だ。オラァァァ!!!」
「イ、イクゥゥゥゥゥゥゥ……ッ❤❤❤」
ぷっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
(ごめんなさい、淳平くん……私、もうこの人のモノになっちゃった❤)
今回、短編形式で作成してみましたが、いかがだったでしょうか?
好評であれば、次も書いていきたいと思っています。おそらく「東城あや、北大路さつき、外村美鈴」の誰かになるかと思いますが。
ぜひ、コメントを頂けると嬉しいです。