※この作品はR-18です。

奪われた果実   作:悪の組織ふぁいあむーん(調教師)

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北大路さつきと11回のパイタッチ

1. 奪われたファーストタッチ

 

 北大路さつきは、放課後の通学路を歩いていた。夕陽がゆっくりと沈み、茜色の光が道路に反射する。部活帰りの生徒たちの笑い声が遠くに聞こえる中、さつきの心は沈んでいた。

 

 ――目撃してしまったのだ。

 

 体育館の裏で、淳平が東城さんの胸を揉んでいるところを。

 

 今まで何度も東城のことは意識していた。彼女が真中にとって特別な存在だということも、薄々感じていた。でも、実際に目の当たりにすると、胸が苦しくてたまらなかった。

 

(どうして、私の胸じゃダメなのよ……淳平!)

 

 涙を堪えながら、無意識に歩いていると、不意に声をかけられた。

 

 「お? なんだなんだ、そんな顔しちゃって」

 

 軽い口調が頭上から降ってくる。見上げると、耳にピアスをし、制服のネクタイをだらしなく締めた男がいた。

 

 「……あんた、誰よ?」

 

 「俺? まぁただの通りすがりのイケメンってとこかな? てか、お前めっちゃ可愛いじゃん」

 

 軽薄な笑みを浮かべたその男は、気づけばさつきの肩に手を置いていた。そして、自然な動作で胸元へと指先を伸ばす。

 

 「っ!? ちょ、何してんの!」

 

 驚いて身を引こうとしたが、男はニヤリと笑ったまま手を引かない。

 

 「いやいや、落ち込んでるみたいだから、ちょっと元気出してもらおうと思ってさw」

 

 そのまま柔らかい膨らみを軽く揉むように触れられ、さつきは心臓が跳ね上がるのを感じた。

 

 「やめろっ……!!」

 

 ドンッ!

 

 強く突き飛ばし、逃げるようにその場を離れるさつき。後ろの方からは、軽薄そうな男の声が聞こえていたが、無視をして走り続けた。

 

 (最悪! 真中にもまだ触ってもらってないのに……マジでふざけんな!)

 

 

2. 軽薄なセカンドタッチ

 

 翌日、さつきは一日中ぼんやりしていた。昨日の光景が頭から離れない。

 

 ――真中が東城の胸を揉んでいたこと。

 ――そして、あのチャラい男に胸を触られたこと。

 

 どっちも最悪なはずなのに、なぜか後者のほうが頭にこびりついて離れない。

 

 放課後、誰にも会いたくなくて、また通学路を一人で歩いていると、前から見覚えのある男がやってきた。

 

 「お、また会ったな」

 

 「……なんでいるのよ」

 

 「いやー、お前にまた会えるかなって思って?」

 

 胡散臭い笑みを浮かべていたのは、昨日の会った男だった。

 

 「ちょっと俺とお茶しない?」

 

 「するわけないでしょ!」

 

 きっぱりと拒絶する。だが、男は気にする様子もなく、言葉を続けた。

 

 「ツレないなぁ。まぁ、そういうとこも可愛いんだけどねw」

 

 「……は?」

 

 冷たく睨みつけると、男は軽く笑うだけだった。

 

 さつきは無視して歩き出す。しかし、その瞬間――。

 

 「おっと」

 

 また、男の手が制服の胸元に触れた。

 

 「っ……!!」

 

 反射的にさつきの手を握りしめる。

 

 「ふざけんなっ!!」

 

 思い切り拳を振るう。しかし――。

 

 「おっと、怖い怖い」

 

 ひょいっと軽く避けられてしまった。まるでさつきの動きを見透かしていたかのように、余裕たっぷりの態度だった。

 

 「……!」

 

 男は笑いながら、さつきの顔をじっと見つめると、ポケットに手を突っ込んで歩き出す。

 

 「やっぱりお前の胸、大きくてやわらかいなー」

 

 そう言い残して、さつきを置いて去っていった。

 

 「……っ!!」

 

 さつきは怒りと羞恥心で顔を赤くしながら、拳を握りしめた。

 

 (サイテー……! もう二度と会いたくない……!)

 

 

3. 受け止められた彼女の拳

 

 次の日の放課後、さつきは、足早に通学路を歩いていた。あんな男に会わないためだ。

 

 そう、昨日から、あの男のことが頭から離れないのだ。

 

 ――あの男、一体何なの……?

 

 「おっ、また会ったな」

 

 だが、またしてもあの男に会ってしまった。

 

 「……なんで毎回いるのよ」

 

 仏頂面で、言葉を投げかけるさつき。

 

 「いやー、お前がまた通るかなって思って」

 

 「キモ……」

 

 ハハハッと、軽く流してくる男。

 

 (なんなのよコイツ…!)

 

 「そういや、まだ名前教えてなかったな。俺、翔っていうんだ、よろしくな!」

 

 「……ふーん、だから?」

 

 「いや、リアクションうっすw 名前を教えたら、ちょっとは距離が縮まるかなーって思ったんだけどなぁw」

 

 「そんなわけないでしょ!」

 

 冷たく言い放つ。

 

 だが、翔は気にも留めずに笑っていた。

 

 「なぁ、今日もさ……おっぱい触っていい?」

 

 「は? ふざけんな!」

 

 反射的に翔を突き飛ばそうとするが、彼はスッと腕を回してさつきの動きを封じる。

 

 「いやいや、昨日、結構ノリよかったじゃん? すぐ殴ろうとするくらいには元気あったし」

 

 「……っ!」

 

 思い出してしまった。昨日、あいつを殴ろうとして、軽く避けられたことを。

 

 「……だからって、勝手に触っていいわけないでしょ……」

 

 「まぁまぁ、ほら、リラックス」

 

 そう言って、翔はさつきの肩を抱くように腕を回し、そのまま自然な流れで胸に手を添えた。

 

 「っ……!」

 

 「やっぱ、柔らけぇなぁ……可愛い子はやっぱ違うわ」

 

 瞬間、怒りがこみ上げる。

 

 「ふざけんな!」

 

 思い切り拳を振るう。しかし――。

 

 「おっと」

 

 翔は片手を軽く上げて、さつきの拳をピタリと受け止めた。

 

 「えっ……!」

 

 「お前、昨日も思ったけど、結構短気だよな?」

 

 握りしめた拳が動かない。力いっぱい振るったはずなのに、翔の手は余裕そうにそれを押さえていた。

 

 「でも、そういうのもまた可愛いな~」

 

 「……っ!」

 

 怒りが収まらない。でも、翔はどこ吹く風で、軽く肩をすくめながら手を離した。

 

 「んじゃ、今日はこのへんで。お前、また明日も通るよな?」

 

 ニヤッと笑いながら、翔は手を振ると、ポケットに手を突っ込んで歩き去っていった。

 

 「……」

 

 さつきは拳を握りしめたまま、翔の背中を睨みつける。

 

 (なんなのコイツ……!? マジで意味わかんない……!)

 

 

4. 気づき始めた心

 

 朝、さつきは通学路を歩いていた。

 

 ――昨日も結局、あいつと会ってしまった。

 

 翔という男は、馴れ馴れしくて、軽くて、勝手に触ってくる。本当に最悪な男。

 

 なのに、また今日もいるんじゃないかと意識してしまっている自分がいるのが、余計にムカつく。

 

 「……バカみたい」

 

 小さく呟きながら、なるべく考えないように学校へ向かった。

 

 そして、放課後――。

 

 「お、今日もちゃんと通ってんじゃん」

 

 「……っ!?」

 

 またいた。

 

 「なんで毎回いるのよ……!」

 

 「いやー、お前が通るの分かってるし?」

 

 「も、もしかして、私のストーカー!?」

 

 「おいおい、人聞き悪いな。ただの偶然だってw」

 

 「どこがよ!」

 

 怒りを込めて睨みつけても、翔はまるで気にした様子もなく、気楽そうに笑っていた。

 

 「まぁまぁ、そんな怒んなって。なぁ、そういえばお前って彼氏いるの?」

 

 「は?」

 

 あまりにも突然の質問に、さつきは思わず足を止める。

 

 「い、いないわよ……!」

 

 「へぇ~、じゃあ好きなやつとかは?」

 

 「……っ!」

 

 一瞬、真中の顔が浮かんだ。

 

 でも、思い出すだけで胸が痛い。

 

 「……そんなの、いないわよ」

 

 弱々しい言葉で否定する。しかし、翔は「そっか」と軽く流しただけだった。

 

 「ならよかったw」

 

 「……何が?」

 

 「んー、なんとなく?w」

 

 そういって、適当なことを言いながら、翔はポケットに手を突っ込む。

 

 そして、何の前触れもなく、彼女に近づき――また、胸を揉んだ。

 

 「っ!!?」

 

 「やっぱ、でけぇな」

 

 「……っ、いい加減にしなさいよ!」

 

 思い切り拳を振るう。しかし、またしても翔はそれを軽く手で受け止めた。

 

 「はいはい、今日も元気だなw」

 

 「ふざけんなっ!」

 

 強く睨みつけるが、翔はまったく動じることもなく、ひょうひょうとした様子で手を離した。

 

 「まぁまぁ、そんなに怒るなって。俺、そろそろお前に好かれる自信あるし」

 

 「……は?」

 

 「ほら、結局また俺と話してんじゃんw」

 

 「っ……!」

 

 その言葉に、さつきは、ぐっと言葉を詰まらせる。確かに、昨日も今日も、なんだかんだ翔と話してしまっている。それが偶然なのか、自分が無意識に引き寄せられてしまっているのか――分からない。

 

 「ま、ゆっくり考えとけよw」

 

 翔は軽く手を振ると、そのままポケットに手を突っ込んで歩き去っていった。

 

 「……」

 

 さつきは、その背中を見つめながら、胸の内に不思議な感情が芽生えるのを感じていた。

 

 (どうしちゃったんだろう……私)

 

 

5. 揺れる指先

 

 夜、さつきは自分の部屋のベッドに横たわっていた。

 

 カーテンの隙間から月明かりが差し込み、薄暗い部屋の中に淡い光を落としている。

 

 ――今日も、またアイツと話してしまった。

 

 翔。

 

 馴れ馴れしくて、適当で、勝手に触ってくる最悪な男。

 

 でも、今日は不意に『彼氏いるの?』なんて聞いてきた――。

 

 一瞬浮かんだ真中の顔を、慌てて振り払う。

 

 「……もう、考えるのやめよ」

 

 そう呟いて、ゴロンと寝返りを打つ。

 

 しかし、目を閉じても翔の手の感触が消えない。

 

 ――あいつ、また触ってきた。

 

 制服越しなのに、妙に生々しい手つき。

 

 「……っ」

 

 さつきは、胸の上にそっと自分の手を置いた。

 

 ――やっぱり、ちょっと……大きいのかな。

 

 翔に言われたことを思い出しながら、指先が無意識に動く。制服の上からゆっくりと撫でると、ゾワっと変な感覚が走った。

 

 「……なにやってんの、私……」

 

 慌てて手を引っ込め、強く目を閉じる。

 

 布団をギュッと握りしめる。

 

 (あいつ、本当は何考えてるの……? ただ遊んでるだけ? それとも……)

 

 

6. 乱されるペース

 

 翌朝、さつきはいつも通り通学路を歩いていた。

 

 でも、頭の中はいつも通りじゃなかった。

 

 ――昨日の夜、何考えてたんだろ、私……。

 

 布団の中で、何度も翔のことを思い出してしまった。彼氏がいるかなんて聞かれて、胸を触られて、何がしたいのか分からなくて。

 

 (……バカみたい)

 

 強くそう思いながら、無理やり頭から追い出す。

 

 しかし、放課後――

 

 「おっ、今日もちゃんと帰るんだな」

 

 呆れながらも、結局足を止めてしまう。翔はいつものように軽く笑いながら、当たり前のように隣に並んでくる。

 

 「昨日、俺のこと考えてた?」

 

 「は!? 考えるわけないでしょ!!」

 

 「へぇ、即答?」

 

 「はっ……!」

 

 図星をつかれ、ハッとさせられてしまったさつき。

 

 そんな彼女に、ニヤッとした表情を向けてくる翔。やっぱり、ムカつくこの男。

 

 「本当に最低……あんたなんか、なんで私が考えなきゃいけないのよ!」

 

 「でも、お前、ちゃんと俺のこと覚えてるじゃんw」

 

 言葉に詰まる。そんなの、覚えたくて覚えてるわけじゃない。

 

 ――だけど、たしかに翔のことを考えてしまったのは事実だった。

 

 「まぁ、深く考えなくていいけどなw」

 

 翔はそう言うと、不意に制服の胸元に触れてきた。

 

 「っ!?」

 

 「ハハッ、今日も柔らかいな~w」

 

 「っ、やめ――!」

 

 拳を振るおうとした瞬間、翔はサッと軽く後ろへ下がった。

 

 「おっと、今日は殴られないようにしとこw」

 

 「……っ!!」

 

 「ふふ、また明日も会おうね、さつきちゃんw」

 

 そういって、翔は軽く手を振ると、ポケットに手を突っ込んで歩き去っていった。

 

 (なんで、こうも、私のペースを崩してくるのよ……!)

 

 

7. 近づく距離

 

 放課後、翔と並んで歩いていた。

 

 ――いつの間にか、「また会う」のが当たり前になっている。

 

 あれだけ嫌っていたはずなのに、もう翔が現れても驚かなくなっていた。

 

 ふと前を見ると、駅前のゲーセンが目に入る。

 

 「お、ゲーセンあるじゃん。ちょっと寄ってこうぜw」

 

 「は? なんでよ」

 

 「別にいいじゃん。お前も暇だろ?」

 

 「……別に暇じゃないけど」

 

 そう言いながらも、翔は勝手にゲーセンの入口へ向かっていく。ついていく気はなかったのに、なぜか自然と足が向いていた。

 

 店頭には太鼓のゲームが置いてあり、派手な音を響かせていた。

 

 「お、太鼓ゲームあるじゃん。勝負しねぇ?」

 

 「しないわよ」

 

 「へぇ~、負けるのが怖いんだ?w」

 

 「……っ!?」

 

 カチンときた。

 

 「やってやろーじゃない!」

 

 「よし、決まり!」

 

 翔はニヤッと笑いながら、さつきにバチを渡した。

 

 ゲームがスタートし、最初は互角だった。しかし、途中から翔の動きがどんどん速くなり、最終的には完敗だった。

 

 「お前、結構やるじゃん。でも、俺の勝ちだな」

 

 「……っ、もう一回!」

 

 「いやいや、今のは俺の勝ちだろ。次は別ので勝負しようぜ」

 

 そう言って翔が向かったのは、レーシングゲームの筐体だった。

 

 「今度はこっちで対決なw」

 

 「……望むところよ!」

 

 今度こそ負けられない。

 

 ゲームが始まり、さつきは必死にハンドルを操作する。序盤こそ、翔にリードされたものの、ゴール直前でアイテムを使い、一気に抜き去った。

 

 「よっしゃあ!! 勝った!!」

 

 「マジかよ!? いや、最後のはズルくね?」

 

 「ズルくないし! これも実力!!」

 

 悔しがる翔を見て、さつきは思わず笑ってしまった。

 

 ――あれ? 私、普通に楽しんでる……?

 

 いつの間にか、翔と遊ぶことが楽しいと感じ始めていた。

 

 「……ってことは、一勝一敗ってことで引き分けか」

 

 「まぁ、そうなるわね」

 

 「じゃあ、記念にプリクラ撮ろうぜw」

 

 「は!? なんでそうなるのよ!?」

 

 「勝負の記念に決まってんじゃんw」

 

 「そんなのいらない!」

 

 とはいって拒否したもののの、彼に強引に、プリクラ機の中へと押しこまれてしまった。

 

 「狭っ……!」

 

 肩が触れ合うほどの距離に翔がいる。彼の顔が近くて、思わず息を呑む。

 

 「ほら、撮るぞw」

 

 「やだ、撮らない!」

 

 拒絶しようとしたが、その瞬間――

 

 ぽにゅっ♡

 

 翔に、また胸を揉まれてしまった。

 

 「っ……!?」

 

 驚いて腕を振り払おうとしたが――

 

 「ほら、シャッター」

 

 声をかけられ、反射的にカメラの方を向く。そして、彼は、私の腰を抱き寄せた。

 

 パシャッ。

 

 「……っ!?」

 

 カメラの音とともに、2人の姿が撮影される。

 

 ――出来上がった写真を見て、思わず顔を赤らめてしまった。

 

 (……なんて写真を撮っているのよ、私……///)

 

 

8. 小さな証

 

 ゲーセンを出て、駅へ向かって歩く帰り道。隣で歩く翔は、プリクラを見ながら、ニヤついた顔をしていた。

 

 「ほら、これさつきの分」

 

 「は?」

 

 翔がプリクラのシートを二つに分け、そのうちの一枚を差し出してきた。

 

 「別にいらないし」

 

 「せっかく撮ったんだから、持っとけってw」

 

 「……っ」

 

 そう言われても、正直、受け取るのがなんとなく気恥ずかしかった。でも、断るのも妙に負けた気がして――

 

 「……わ、わかったわよ」

 

 しぶしぶ受け取る。

 

 翔はニヤッと笑うと、自分のプリクラを携帯の裏にペタッと貼った。

 

 「ちょっ……!? なんで貼るのよ!?」

 

 「なんでって? 記念だし?」

 

 「はぁ!? そんなの貼る意味ないでしょ!!」

 

 「いいじゃねーか、俺たちの記念ってことでw ほら、さつきも貼っとけよ!」

 

 「貼るわけないでしょ!!」

 

 「そっか……まぁ好きにしたらいいよw」

 

 そういって翔は、軽く手を振って駅の改札へ向かっていく。

 

 「じゃあな、また明日」

 

 「……!」

 

 当然のように、また会う前提で言ってくる翔に、何も言い返せなかった。

 

 「……バカじゃないの」

 

 そう呟いて、さつきは渡されたプリクラをじっと見つめる。

 

 少しの間、そのまま眺めてから――ふっとため息をつくように、小さく折りたたみ、携帯のバッテリーパックの裏に滑り込ませた。

 

 (……どうしちゃったんだろう、私……)

 

 

9. 響き合う声

 

 翌日、放課後の通学路。

 

 「今日はカラオケ行くぞw」

 

 「は? なんでよ」

 

 「いや、この前はゲーセンだったし? 今日はカラオケで勝負だろ?」

 

 「勝負って……」

 

 当然のように誘ってくる翔に、呆れながらも、さつきは結局断れなかった。

 

 気づけば、二人でカラオケの個室に入っていた。

 

 「まずは俺からなw」

 

 翔は迷いなく曲を選び、歌い始める。

 

 ――思ってた以上に、上手い。

 

 軽いノリで適当に歌うのかと思ったら、しっかり歌い込んでいて、気づけば聴き入ってしまっていた。

 

 「っと、こんなもんかなw って、おい、そんな見つめられると照れるぜw」

 

 「は!? 別に見つめてないし……///」

 

 慌てて視線を逸らすが、翔はニヤニヤしながら採点画面を確認する。

 

 95点。

 

 「よっしゃ、やっぱ俺うめぇなw」

 

 「べ、別に普通じゃない?」

 

 「ほーん? じゃあお前も歌ってみろよ」

 

 「……まぁ、いいけど」

 

 仕方なく選曲し、マイクを持つ。翔に負けたくない気持ちもあって、自然と本気になっていた。歌っている途中で、「めっちゃうまいじゃんw」と翔が褒めてきた。彼の言葉に、身体が高揚するのを感じた。

 

 歌い終わると、採点が表示された。結果は――

 

 95点。

 

 「……えっ!?」

 

 素直に驚いた。自分でも出したことが無い高得点だったからだ。

 

 「おぉ、引き分けか! これはハイレベルな戦いだ!」

 

 ニヤッと笑いながら、リモコンを操作する翔。

 

 「じゃあ、最後はデュエットで勝負だ!」

 

 「は!? なんでそうなるのよ」

 

 「いいじゃんせっかくだし! ほら、始まるぞ!」

 

 そう言われて、結局一緒に歌い始めた。

 

 出だしから、翔の声が、気持ちよく自分の歌声に重なるの感じた。途中からは、ハモリまで入れてきて、胸の奥がぞわっとするような感覚が走った。

 

 (何これ、不思議な感じ……)

 

 歌い終わったあと、妙な気持ちのまま、マイクを置いた。

 

 「さて、結果は……w」

 

 画面に表示された数字を見て、私たちは同時に声を上げた。

 

 98点。

 

 「マジか!?」

 「……うそでしょ!?」

 

 さっきに続いての高得点に、私は、胸の高鳴りを強く感じた。

 

 「な? 俺たち、相性ぴったりだよな?」

 

 「べ、別にそんなことはないわよ……///」

 

 翔の言葉に、くすぐったい気持ちになる。

 

 (そういうこと、ストレートに言わないでよ……もう)

 

 そんな私の態度の変化を察知してか、翔は私の隣に座ってきた。そして、さも当たり前のように、胸に手を伸ばしてきた。

 

 「ちょっ……!」

 

 彼の行動に、感情が動く。だが、なぜか、すぐに抵抗する気にはなれなかった。

 

 「お、今日はあんま抵抗しねぇな?」

 

 「……バ、バカ!!」

 

 翔の言葉に、さすがに手を振り払おうとした瞬間――。

 

 「この後、ホテル行かね?」

 

 と翔は、さらっとすごいことを言ってきた。

 

 (……ななな、何言ってんの、コイツ……!?)

 

 

10. カラオケの後

 

 カラオケを出て、夜の街を歩く。

 

 翔といっしょに歩きながら、さっきの言葉が頭の中を反芻していた。

 

 『この後、ホテル行かね?』

 

 普通なら即座に拒否して、その場で終わる話。でも、さつきは言葉を詰まらせ、翔の手を振り払うのがほんの一瞬、遅れてしまった。

 

 ――私は、何を迷ってるの?

 

 そういうことを考えていると、ふと、翔が口を開く。

 

 「なんか、考え込んでるな」

 

 翔の真面目なトーンに少しドキリとしてしまう。

 

 (だめ、ちゃんと真意を確かめなきゃ)

 

 そう思った私は、歩きながら、彼に言葉を投げかけた。

 

 「……さっきの話、本気なの?」

 

 「本気だよ」

 

 迷いなく答える翔。その言葉に、胸がドクンと跳ねた。

 

 「……なんで?」

 

 「なんでって、お前のことが好きだから。」

 

 「……っ!」

 

 予想外の直球な言葉に、息が詰まる。

 

 「正直言うと、最初から、さつきのこと狙ってたんだ。」

 

 翔はポケットに手を突っ込みながら、いつもの調子で言葉を続ける。

 

 「でもさ、さつき、真中のことが好きじゃん?」

 

 「……!!」

 

 ドクン――と心臓が大きく跳ねる。

 

 「だから、諦めようかなって思ってた。でも、あの日、さつきが落ち込んでるのを見て、なんか事情を察してさ……」

 

 翔は私を見ずに、ゆっくりと話す。

 

 「でも、言葉をかけるのも違う気がした。だから――その、胸を揉んだw」

 

 「……は?」

 

 私は思わず足を止めた。

 

 「いや、ちょっとでも元気出りゃいいかなって思ってさ。ホント純粋な心でw」

 

 「……っ!」

 

 呆れたような、怒りのような感情が混ざる。でも、それ以上に、翔の言葉の中に見え隠れする優しさが心を締め付けた。

 

 「そしたらさ、なんかさつきと話す機会が増えてさ。」

 

 「ゲームしたり、プリクラ撮ったり、今日なんて歌まで一緒に歌ってさ。」

 

 「なんか、どんどん楽しくなっていったんだわw」

 

 翔はふっと息を吐くように笑う。

 

 「で、改めて思った。やっぱお前のこと、好きだわって……」

 

 「……!!」

 

 胸が、ぎゅっと締め付けられる。

 

 今までの翔の軽い態度とは違う、本音のこもった声。

 

 真中に言われたことのない言葉が、耳に心地よく響く。

 

 「……だから、ホテル行こうって言ったの?」

 

 「……まぁ、そうだなw」

 

 「……バカじゃないの?」

 

 呆れたように呟きながらも、私の心臓はずっと高鳴っていた。

 

 そして、いつの間にか、ホテルの前に立っていた。

 

 (真中……私、どうすればいいんだろう……?)

 

 

11. 彼女の選択

 

 目の前に立つホテルのネオンが、やけに眩しく感じた。

 

 私はじっと入り口を見つめたまま、足が動かなかった。

 

 翔はいつもの軽い調子で「行くか?w」と促してくる。

 

 「……」

 

 返事ができない。

 

 翔のことは嫌いじゃない。むしろ、今まで一緒に遊んでいて楽しかったし、彼の言葉に救われた部分もある。

 

 ――でも、それとこれとは違う。

 

 「……やっぱ、無理」

 

 小さな声でそう言った。

 

 翔は驚いた顔をしたが、すぐに「そっか」と返してきた。

 

 だが、諦めた様子は一切なく、彼は言葉を続けていく。

 

 「まぁ、無理なら無理でいいけどさ……さつきは、本当にそれでいいの?」

 

 「……ど、どういう意味よ」

 

 「お前さ、結局ずっと迷ってるよな?w」

 

 翔の言葉に、心臓がズキンと痛んだ。

 

 「俺のこと、好きじゃないならそれでいい。でも、少しでも迷ってるなら……もうちょっと考えてみてほしいんだ」

 

 「……っ!」

 

 私は、視線を落としたまま、拳をぎゅっと握りしめる。

 

 (考えてみてほしいって言われても……そんな、私は……)

 

 結論を出せないでいる私を見かね、翔は私の方へ手を伸ばしてきた。

 

 そして、もぎゅっと胸を揉んできた。

 

 「あんっ……!」

 

 自分でもびっくりするほどの声が出た。そして、翔は服の上から私の乳首を探し当て、指で愛撫してきた。

 

 「んっ……! んっ……!」

 

 指の動きに合わせて、ついつい声を漏らしてしまう。私の反応を確認しながら、翔を言葉を紡いでいく。

 

 「さつきが真中のことを好きなことは知ってるよ。でもさ、あいつがこんなふうにしてくれるか?」

 

 翔の声は低く、どこか甘い響きを帯びていた。

 

 「さつきが苦しい時に、一緒にいてくれるか? 一緒に遊びに行ってくれるか?」

 

 その言葉に、心が揺れる。

 

 「……そ、そんなこと……んっ!」

 

 どうにか抵抗を試みようとする。だが、彼の言葉が、一々私の心を揺さぶってくるのだ。それに加え、彼がもたらす快感によって、徐々に思考も鈍っていった。

 

 そして、そんな私の状況を読み取ったかのように、翔は、私に顔を近づけてきた。

 

 呼吸が浅くなっていくのを感じる。

 

 「なぁ、さつき。もう苦しまないでくれ。俺が全部受け止めるから……な?」

 

 翔の言葉に、真剣な眼差しに、私は心を大きく揺さぶられた。そして――

 

 チュッ♡

 

 最終的に、私は、彼からのキスを受け入れてしまった。

 

 彼の唇が触れた瞬間、私の中で、何かがハジけたような音がした。

 

 (あっ……♡ これダメかも……♡)

 

 心臓の鼓動が耳の奥で激しく響く。目の前がピンク色に染まっていくのを感じた。

 

 やがて、翔がゆっくりと唇を離すと、私の方を見つめてきた。

 

 「……いいよな、さつき?」

 

 翔の言葉に、顔が赤くなるのを感じた。そして、私は静かにうんと頷いて、彼と一緒にホテルの中へと入っていた。

 

 その日――私は翔に、自分の『初めて』を捧げた。

 

(ごめん、淳平……私、もう戻れないや……❤)




今回は、北大路さつきのSSを書いてみましたが、いかがだったでしょうか?

リアルが忙しくて、なかなか投稿までたどり着けないのですが、がんばって書いていきたいと思います。次はおそらく、「東城あや、向井こずえ、外村美鈴」の誰かになると思っていますので、楽しみにしていてください。

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