1. 最悪なファーストタッチ
「……嘘」
こずえの口から、その言葉がこぼれた。
塾の裏手。夕暮れの薄暗い光の中で、東城綾と真中淳平が抱き合っていた。
綾は真中の胸に顔を埋め、真中は優しく彼女の背中を撫でている。
(なんで……? なんでこんなことに……)
何も知らないふりをして、笑顔でいればよかった? でも、そんなこと、できるはずがなかった。
こずえはじわりと滲む涙をこらえ、踵を返した。
「嘘……嘘、嘘、嘘……!」
駆け出す。視界が滲む。胸が苦しくて、息が詰まる。
(私、ずっと好きだったのに……!)
塾の入り口に飛び込むと、そのまま机に突っ伏した。呼吸を整えようとするが、胸のざわめきが消えない。
「ねぇ君、大丈夫?」
突然、軽い声が耳元に落ちた。
「……っ!」
こずえの肩が跳ねる。
顔を上げると、そこには同じ塾に通っている男の人が立っていた。
確か名前は翔。耳にピアスをしていて、授業中にもかかわらず、女の子に声をかけている男の人。
(うう……ちょっとこの人怖いかも!)
反射的に距離を取る。
「いやいや、そんなに怯えなくても……俺、そこまでヤバい奴に見える?」
「……」
こずえは何も答えられなかった。
「まあ、いいけど。つーか、君、めっちゃ落ち込んでるけど、何かあった?」
「……べ、別に」
そう言うのが精一杯だった。
翔はこずえをじっと見つめ、ふいに笑った。
「落ち込んでてもつまんないよw そういう時はさ!」
パーン!
「ひゃっ!?」
「こうやって、誰かに活をいれてもらうといいんだよ! てか、めっちゃいいリアクションw」
翔は、こずえのお尻を後ろから叩き上げていた。
(な、なに、この人ぉ……っ!)
ぐっと翔を睨みつけて後、泣きながら、塾の教室を出ていく。
(ホント……男の人って最低……!)
2. お詫びのセカンドタッチ
(……行きたくないな)
こずえは、塾の入り口の前で立ち止まった。
昨日から、ずっと気が重い。
ただでさえ、真中さんのことでショックを受けてるのに、加えて、変な男にお尻を叩かれて、もう散々。
(ああ……本当に行きたくないな……)
色々と迷った挙げ句、やっぱり帰ろうかと踵を返そうとした、その時。
「あれ? 向井ちゃん?」
軽い声が耳に届いた。それと同時に、こずえの体がビクリと跳ねた。
「ひっ……!」
反射的に後ずさり、身をこわばらせる。昨日、お尻を叩いてきた男だ。
「うわ、めっちゃ警戒されてる! でも、しょうがないか……」
翔は苦笑いしながら、少し手を上げた。
「今日はなんもしないよ。ちょっと……謝らせてほしいと思って」
「え……?」
こずえは思わず顔を上げた。
「この前は、ホントにごめん」
翔は、少し気まずそうに頭を掻いている。
「あの後、君と仲のいい子に聞いたんだ。君が男性恐怖症だって……それで」
(……ああ、舞ちゃんに聞いたんだ)
正直、男性恐怖症であることを知られるのは嫌だった。でも、ちゃんと謝ってくれたことに、少し心が落ち着いた。
様子を伺っていると、翔はポケットから、小さな袋を取り出した。
「これ、お詫びの印……受け取って」
「え……?」
こずえが恐る恐る受け取ると、中には小さなフィナンシェが入っていた。
「……これって」
「家の近くのケーキ屋で買ってきたんだ。その、気持ちってことで」
翔はヘラッと笑う。
(……意外と、悪い人じゃないのかも)
こずえは、そっと袋を開けた。甘い匂いがふわりと鼻をくすぐる。
「……わぁ、美味しそう。その、ありがとうございます」
「いや、全然いいって!」
少しだけ、心がほぐれた気がした。
「ところで、せっかくだし、講義が始まるまで、少し話さない?」
「えっ……?」
少しびっくりしたが、わだかまりも解決したことだし、話してみることした。
話していく中で、彼のことを少しずつ知っていった。彼は勉強が苦手なようで、でも実は姉が厳しくて塾に無理やり通わされているらしい。
(……なんか、ちょっと面白い人かも)
そんなふうに思い始めた時だった。
「あっ、向井ちゃん、それっ……」
「え?」
翔がふいにこずえの腰に手を伸ばす。
「ひゃっ……!」
翔の指先が、スカートの上からこずえのお尻に触れた。
ゾクリと悪寒が走る。
「わっ、ごめん! めくれてたから直そうと思って……!」
言い終わる前に、こずえは思わず飛びのくように後ろへ下がった。
「っ……!」
胸がバクバクする。息が詰まる。
(……う、うう……っ)
「……あー、やっぱダメだったか。ごめん、向井ちゃん」
翔はちょっと困ったように笑いながら、手を引っ込めた。
「ホント、悪気なかったんだ。ごめん」
「……っ」
こずえはまだ少し動揺しながら、ぎゅっとフィナンシェの袋を握りしめた。
(やっぱり、この人……苦手かも……)
3. 励ましのサードタッチ
塾の教室に入ると、真中さんの姿が視界に入った。
(……っ)
こずえは、瞬間的に目を逸らし、急いで席に向かう。
(やっぱり、まだ無理……)
昨日は真中さんと目が合わないように気をつけていたけれど、彼は何も変わらない態度で、東城さんとも普通に話していた。
(私が気にしすぎなだけ……)
頭ではわかっている。でも、どうしようもなく胸が痛い。
軽く息を吐き、机に座ると、不意に隣の席が引かれた。
「よぉ、向井ちゃん」
聞き慣れた軽い声。翔だった。
「ひっ……」
こずえの肩がピクリと跳ねる。
「ああ、また驚かせちゃったか」
思わず翔から少し距離を取る。
「俺、そんな怖い? ただ、隣に座っただけなんだけどな」
翔は苦笑しながら、カバンを机に置くと、こずえの方に視線を向けてくる。
「……そういえば、向井ちゃん。さっき入口のところで、顔こわばってたけどなんかあった?」
「え……」
自分では平静を装っていたつもりだったのに、翔にはバレていたらしい。
(……やっぱり、表情に出てたのかな)
「んー、なんかよく知らないけど、もっと気楽にしてたらいいと思うよ」
翔はそういうが、気楽になんてできないと思うこずえ。
「そんな簡単になんかできないよ……」
「たしかに、簡単じゃないかもな。でも、気ぃ紛らわすくらいなら、俺、手伝うよw」
「えっ……?」
こずえが怪訝そうに首を傾げた瞬間――
ぽにゅっ♡
「ひゃっ!?」
反射的に体を跳ねた。
「な、ななな……っ!?」
翔が、こずえのお尻を軽く揉んだのだ。
「おー、今日もいいリアクションw」
「も、もうっ……! そういうのやめてくださいっ!」
翔はニヤニヤしながら肩をすくめる。
「いやいや、向井ちゃんをリラックスさせようと思ってねw」
「リラックスどころか、びっくりして心臓に悪いです……!」
「そんだけ元気なら、大丈夫だなw」
軽く笑う翔。
(……なんなんだろう、この人、いつもお尻を触ってきて)
悪い人ではない……のかもしれない。だけど、やっぱり掴みどころがない。
(でも……少しだけ、昨日より怖くなかった……?)
4. 偶然のケツタッチ
塾の休み時間。
こずえは静かに席に座り、参考書を開いていた。
(今日は、真中さんの顔を見ずにすんだ……)
それだけで、少し気持ちが楽だった。けれど、ページをめくる手はどこか落ち着かず、文字がなかなか頭に入ってこない。
「あっ、向井ちゃん、なに読んでるの!」
「ひっ……!」
急に声をかけられ、肩が跳ね上がる。声の主は翔だった。
そんなこずえをみて、翔は苦笑しながら自分のカバンをごそごそと何かを取り出した。
「これ、めっちゃわかりやすいよな?」
「え……?」
彼の手にあったのは、こずえが持っているものと同じ参考書だった。
「……翔くんも、これ使ってるんですか?」
「そだよw 姉貴が『これならお前でもわかるだろ』って勝手に買ってきて」
翔が軽く笑う。
(……翔くんも、勉強してるんだ)
なんとなく意外だった。
それに、自分が使っている参考書の良さを誰かと共有するのは、少し嬉しかった。
「あとこの本もいいよw」
そう言って、翔は別の参考書を取り出した。
「ちょっと難しいけど、例題がいい感じにまとまってて」
「へぇ……」
興味が湧いて、こずえは翔の持っている本をのぞき込もうとした。
その時――
もふっ♡
「きゃっ!?」
思いっきり飛び退くこずえ。
「ああ、ごめんごめん! 椅子に手置いてたわw」
どうやら、翔の手を、こずえが踏んづけたらしい。しかも、彼女のお尻で。
「こ、こっちこそ気づかなくて、ごめんなさい! 重かったですよね……?」
こずえは顔を真っ赤にしながら、おそるおそる尋ねた。
「いやいや、向井ちゃん軽いし、全然大丈夫! てか、俺鍛えてるしw」
「そ、そうですか……」
よくわからなかったが、一安心するこずえ。だが、翔はニヤッと笑いながら、言葉を返してきた。
「それにしても、こずえちゃんって、お尻柔らかいよねw」
「~~っ!!?」
こずえの顔が一気に赤く染まる。
頭がぐるぐるして、言葉が出ない。
「いやぁ~~っ!」
席を立ち、教室を飛び出すこずえ。
翔の「おーい、これから授業だぞw」という軽い声が背後から聞こえたが、気にせず走り続けた。
(もう、ほんとに信じられない……///)
5. 彼女のナカの妄想
部屋の中は静かだった。
机の上の参考書を前に、こずえは頬杖をつきながらぼんやりと考えていた。
(……結局、今日も真中さんと話せなかったな)
塾の休み時間、遠くにいる彼の姿を見つけたけれど、こずえは結局、自分から話しかけることができなかった。
(やっぱり、もう無理なのかな……)
顔を見ると、どうしてもあの光景を思い出してしまう。
真中さんと、東城さんが抱き合っていたあの姿。
思い出すたび、胸がぎゅっと締めつけられる。
(でも……諦めきれない)
ずっと好きだった気持ちは、そう簡単に消せるものじゃない。
それでも、今のままじゃ、前に進めない。
「……はぁ」
ため息をついた瞬間、ふと、塾で翔くんにお尻を触られたことを思い出す。
(男の人って……どうしてあんなにお尻が好きなんだろう?)
そう考えながら、無意識に自分のお尻に手を当てる。
すると、不意に過去の嫌な記憶が蘇った。
バスに乗っていた時のこと。
狭い車内でぎゅうぎゅうに押されて、動けないまま立っていた時、不意に腰のあたりを誰かに触られた。
最初は、ただの接触かと思った。でも、それは少しずつ下に移動していき、明らかに意図を持った触れ方だった。
(気のせいじゃ……ない……よね?)
怖くて、声が出せなかった。
その時は、次の停留所で、どうにか降りることができたが、それでも、心臓がバクバクして、しばらくその場から動くことができなかった。
(あの時は嫌だったな……)
気持ち悪さが蘇る。
(でも――今日のことは、あれとは違うよね……)
こずえは、お尻に回した手を股間に持ってきて、そっと指を動かす。
「そもそも、今日のは単なる事故だったし……んっ」
それに、翔くんはそんなに悪い人じゃないし、今日だって気を使って声をかけてくれたし……。
「……普通の男の人とは、ちょっと違うのかも……あんっ」
こずえは、自分の口から漏れた声に、少し驚いた。
(私、なんてはしたない声を……!)
でも、彼くんのことを考えれば考えるほど、気になってくる。
「翔くんの手って、結構大きいよね……んっ♡」
今日、お尻に触れた感触を思い出す。手のひらの厚みと温かさが脳裏に浮かぶ。
「鍛えてるって言ってたし……もしかして、胸板とかも厚いのかな……♡」
無意識に、クリトリスを弄りながら、彼女の妄想は膨らんでいく。
「あっ…あんっ♡…だめだよ…そんなとこ触っちゃ……♡」
「んっ…ああっ…ホントだめだから…あっ…ああっ…いや~んっ♡♡」
(……って、何考えてるの、私!?)
こずえはバッと顔を上げ、ぶんぶんと頭を振る。
(私の好きな人は、真中さん! 翔くんとは、そういうんじゃ……!)
無理やり、そう考え直す。
でも――
(あんなふうに、気を使ってくれる人、今までいなかったな……)
気づけば、こずえのパンツはグッチョリと濡れていた。
6. 会うたびに
塾の入り口の前で、こずえはふと立ち止まった。
(……なんか、ちょっとドキドキする)
真中さんと顔を合わせるかもしれない――そう思うと、胸が締めつけられる。
でも、それだけじゃない。
(翔くんは、今日は来てるのかな……?)
それを考えると、少し気持ちがざわついた。
「……何考えてるの、私」
自分に言い聞かせるように小さく呟いて、塾のドアを開いた。
教室に入ると、翔くんはすでに席についていた。
そして、私が入ってきたのを見つけると、軽く手を振ってきた。
「よっ、向井ちゃんw」
「……あ、うんっ」
ちょっと迷ったけど、こずえはゆっくりと彼の隣の席に座った。
(なんか、前より自然に隣に座れたかも……)
「昨日の課題、やった?」
「う、うん、やったよ……」
さっそく、翔くんから話しかけてくれた。
「俺、ヤバいんだよね! こことか、全然意味わからなくてw」
翔くんは、ノートを開いて見せてきた。
「えっと……ここはね、この公式を使えば……」
私は自分のノートを開いて、翔くんに説明を始めた。
彼は、ふんふん、と真剣な顔で聞いている。
(……意外。ちゃんと宿題するんだ!)
なんとなく、宿題なんてやってこないタイプかと思っていた。でも、こういう姿をみると、ちゃんと学ぼうとしているのがわかる。
説明を終え、私はそっと翔くんの顔を見た。
すると、彼もこっちを見てきた。そして――
「ありがとう、助かった!」
「……っ!」
彼の言葉に、心臓がどきりと跳ねた。
(あれ……私、なんだかおかしいな……)
翔くんってこんなにカッコよかったっけ。目元がスッキリしてて、はにかんだ笑顔が眩しくて、それで、それで――
(カァァァァ……///)
彼に見つめられ、急に恥ずかしくなる私。彼の視線を避けようと、反射的に椅子を引いて立ち上がろうとした。
けれど――
「きゃっ!」
勢い余ってバランスを崩し、そのまま後ろへ倒れ込んでしまう。
ガシッ!
だが、翔くんが咄嗟に腕を伸ばし、私を受け止めてくれた。
「あ、ありがとう……翔くん」
咄嗟に彼へのお礼の言葉を口から出る。しかし、それと同時に、私はこの異常事態にも気づいた。
――そう、どうやら私は、彼の股間に乗ってしまっていたのだ。
(おおお、男の人のアレが……お尻の下に!)
「きゃあああああっ……///」
と叫びながら、彼の上から飛び出す私。
顔を真赤にしながら、心臓のバクバクは止まらない。
(ななな、なんで、あんなことが起こるのをぉ!?)
頭の中がグルグルして、まともに考えられない。
走るたびに、胸の高まりがますます激しくなっていった。
(……私、もうどうにかなっちゃいそう……!)
7. バスの中の出来事
土曜日、塾へ向かう道。
こずえは、駅へと続くバス停の列に並びながら、そっとため息をついた。
(ううう、気が重いよ……)
昨日のことを思い出す。塾で翔くんと話している途中、バランスを崩して、彼の股間の上にお尻からのってしまった。
(……あれが男の人の身体なんだよね)
私を支える翔くんの手。お尻の下で感じた彼の体温。今でも鮮明に思い出すことができる。
(なんであんなことになっちゃったんだろ……///)
あの時の光景を思い出し、顔が熱くなる。心臓がバクバクして、思わず両手で頬を押さえた。
(もう、私のバカバカバカ……///)
そんなことを考えているうちに、バスが到着した。
昼の時間帯でバスは少し混んでいたが、ぎゅうぎゅう詰めというほどでもない。
こずえはそっと乗り込み、手すりの近くに立った。
(翔くんにどんな顔で会えば……)
そんなことを考えながら、ぼんやり窓の外を見つめていた。
――その時だった。背後から、違和感を感じたのだ。
最初は、気のせいかと思った。
けれど、それは少しずつ下の方に移動してきて、こずえの腰あたりに、不自然な圧力がかかった。
(……えっ?)
嫌な汗が背筋を流れる。怖くて、動けない。
(ち、違う……よね……? たまたま、近いだけで……)
そう思おうとしたけれど、それは間違いだった。
明らかに、誰かの手がこずえの尻をまさぐっているのだ。
(や、やだ……!)
泣き出しそうになった、その瞬間――
「あれ? 向井ちゃん?」
その声と同時に、翔くんがひょいっと、私と痴漢男の間に割って入ってくれた。
「えっ、翔くん?」
(私を……助けてくれた?)
こずえが驚いていると、翔はニコニコしながらごく普通に話しかけてきた。
「いや~、バスの中で会うなんて、奇遇だねw」
「あ、えっと……」
翔くんが間に入ってくれたおかげで、後ろの男との距離ができた。
その後も、翔くんはまるで何事もなかったかのように世間話を続ける。
「向井ちゃんってさ、普段バス乗る派? それとも電車派?」
「え、えっと……電車の方が多いかな……」
「やっぱり。俺も普段は電車派w たまにこうやってバスに乗るけど、めっちゃ揺れるからしんどいよね」
「そ、そうだね……」
まだ、小さく手は震えていた。でも、翔くんが何気なく話しかけてくれるおかげで、少しずつ心が落ち着いていく。
(……なんだろう、翔くんと話してると、心があったかくなる)
いつの間にか、痴漢男の気配は消えていた。
塾のあるバス停で、彼と一緒に降りる。
外の空気が、こずえの体にまとわりついていた緊張をほぐしていく。
「大丈夫だった?」
「……えっ、あ、うん。ありがとう……」
こずえは、小さな声で答える。
本当はまだ少しドキドキしている。
でも、それはさっきの恐怖だけじゃない。
「今日帰るとき、一緒にバスに乗ろうか?」
翔くんの優しい声が、胸にじんわりと染み込んでいく。
(…もう、ドキドキが止まらないよ……)
8. 高鳴る鼓動
塾が終わり、翔くんと一緒にバス停へ向かう。
「混んでるな……」
「……うん、いつもこの時間は人が多くて」
バスが到着し、乗り込むと、案の定、座席はすべて埋まっていた。仕方なく吊革をつかみ、立ったまま揺れるバスの中で翔くんと並ぶ。
「今日の講義、意味わかった? 俺、全然ついていけなくてさ」
「えっ? 翔くん、たくさんマーカーしてたと思うけど……」
「それがな、マーカー引いたところはしっかり覚えたんだけど、その周りがまったく頭に入ってなくてさ」
「あ、それって逆に意味なくない?」
「そうなんだよな~。やっぱり向井ちゃんのノート頼らせてもらおうかな」
「も、もう……翔くん、自分でちゃんと勉強しないとだめだよ!」
「ごめんごめんw」
「フフフ……w」
彼の笑顔につられて、私も笑ってしまう。翔くんと話していると、不思議と緊張がほぐれる。
だけど、どうしてだろう。
(……やっぱり、ドキドキする)
彼の顔をちらりと横目で見る。軽く笑いながら話す翔くん。昨日までなら、ただの塾の知り合いだったはずなのに。
(なんでこんなに、気になっちゃうんだろ……)
もうすぐ、私の家の近くのバス停。時間が経つのがあっという間に感じる。
(まだ、話していたいのに……)
バスがゆっくりと止まり、ドアが開く。
「……じゃあ、私ここだから」
そう言って降りようとした、その時。
「あっ、俺も降りようかなw」
「えっ……?」
驚いて振り向くと、翔くんも一緒にバスを降りていた。
「もう少し、こずえちゃんと話したくて……ダメかな?」
ふいに目が合う。整った顔に、優しい目。
(ダメなんて、言えるわけがないよぉ……///)
顔が赤くなるのを感じながら、小さく息をのむ。
「……じゃあ、近くの公園でも行く?」
私の提案に、嬉しそうに微笑む彼。そして、私たち2人は、公園までの道を並んで歩いていった。
途中、彼の手が私のお尻に触れたような気がしたが、特に気にしなかった。
(だって……彼から目が離せないんだもん♡)」
9. 夜の公園で
――ちゅ、んっ……。
静かな夜の公園に、控えめな水音が響く。
気づけば、私は、翔くんとキスを重ねていた。
どうして、こうなったんだろう。
……ほんの少し前まで、ただ並んで座っていただけだったのに。
夜の公園――
翔くんと並んでベンチに座る。
最初は、いつも通り他愛のない話をしていた。塾のこと、授業のこと、好きなお菓子のこと。笑い合いながら、楽しく話していた。
でも、そこでふと辺りを見渡してみた。すると、そこには、何組かのカップルがいた。
夜の公園で、寄り添いながら、手を繋ぐ人たち。
中には、キスを交わしているカップルもいた。
(……みんな、仲いいんだな)
そんなことを思っていたら、ふと隣の翔くんと目が合った。
彼は、ニコリと笑うと、少しずつ顔を近づいてきた。
最初は、えっ?とは思ったものの、彼に見つめられていると、胸がドキドキして、身体が動かない。そして、気が付くと、彼の唇が重なっていた。
驚いたのは一瞬。
それ以上に、翔くんの唇の温かさに意識が持っていかれる。
そっと唇を離すと、翔くんが少しはにかんだように笑った。
「……ごめん。なんか、そういう雰囲気だったから」
「……ううん、私も……」
言葉を紡ぐよりも早く、翔くんがもう一度、唇を重ねてきた。
最初は軽く触れる程度だったが、次第に深くなっていく。
そして、気づけば、彼にリードされるように、お互いの舌を絡めるような大人のキスをしていた。
ふと、彼の手が私の腰に回る。
そして、そのまま滑るようにお尻へと触れた。
「っ……♡」
少しだけ、びくんっとなったが、不思議と嫌な感じはしない。むしろ、胸の高鳴りが強くなったように思う。
彼の手が、優しく私を引き寄せる。
(こんなの初めて……なんだかぽわぽわする♡)
夜風が、ほんのり火照った肌を優しく撫でる。
どれくらい時間が経ったのかも、わからない。
気づけば、私は完全に彼の腕の中に収まっていた。
(やっぱり、翔くんの胸板って厚いんだ……♡)
10. 満たされる心
日曜日の朝。
こずえは、鏡の前でそわそわと服を選んでいた。
(こんなに悩むの、久しぶりかも……♡)
昨日の夜、別れ際に翔くんに誘われた。
「明日、遊園地行かない?」
その言葉に、少し迷った。でも、こずえの中にはもう迷いはなかった。
(……行きたい、翔くんと♡)
そうして迎えた日曜日。
待ち合わせ場所に着くと、翔くんがいた。いつもより少しラフな服装で、こずえを見つけるとニコっと笑った。
「あっ、向井ちゃん、おはよw」
「お、おはようございます……♡」
ぎこちなく返事をしながら、彼の隣に並んで歩き出す。
遊園地に着くと、二人でいろんなアトラクションを巡った。
ジェットコースターで叫び合ったり、お化け屋敷で驚いたり、観覧車では二人きりの静かな時間を過ごした。
(なんか、恋人みたい……♡)
そう思いながら翔くんの横顔を見ていた。
夕方になり、イルミネーションが輝く園内を歩く。
「楽しかったねw」
「……うん♡」
夢のような一日。だけど、時間はあっという間に過ぎる。
そして、帰る時間が近づいた頃。
翔くんがふと、足を止める。
「……ねぇ、こずえちゃん、寄り道していかない?」
「え……?」
急な名前呼びに、心臓が跳ねる。そして、顔を上げると、そこには怪しいネオンが光っていた。
「ええっ……!」
そう、そこはラブホテルの前だった。
「……こずえちゃんが嫌なら、無理にとは言わないよ。でも……俺はもっとこずえちゃんを知りたいな」
そう言って、彼は、私のお尻に触れてきた。
迷いがなかったわけじゃない。
だけど、彼に撫で回されると、公園での感覚が呼び覚まされる。
(ああっ……私……もう♡)
そして、意を決した私は、目を閉じて、彼にキスをした。承諾の口づけだ。
彼はニコっと笑うと、私の手を引いて、ホテルの中へと入っていった。
そして、その日、私は彼の女になった。
(ああっ…翔くん…翔くん…私をもっと抱きしめて❤)
今回は、向井こずえのSSを書いてみましたが、いかがだったでしょうか?
エッチな妄想が好きな女の子も、いいものですよね。
相変わらず、リアルが忙しいので、投稿についてはカメさんテンポですが、書けるところまで書いていこうと思っています。
投票・コメントを頂けると、非常に励みになります。
次回もお楽しみに。