※この作品はR-18です。

音無提督の艦娘救済道~ハーレム仕立て   作:笠三和大

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この回ではついに、音無君のお相手が人の枠すら超えることになります……


休め‼……のはずが……

 扶桑たちと濃密な夜を過ごした翌日、音無はゆりから思わぬことを言われた。

「音無君、いきなりだけど……あなた少し執務を休みなさい」

「……へ?」

 本当に思わぬ言葉に呆けた言葉を発する音無だが、隣に立つ秘書艦の初月も、秘書艦でこそないもののよく一緒にいる大淀も『うんうん』と頷いていた。

「なんで急に?」

「なんでもへったくれもないわよ。あなた、今の自分の顔を鏡で見た?」

「……いや、ここんところあまりしっかり見てないな。洗顔はするけど……」

「じゃあ、よく見なさい」

 ゆりが手鏡を出して音無に手渡す。音無は開いて自分の顔をよく見た。

「……え」

 そこには、濃いクマが目立つ男の顔が写っていた。

「……あれぇ?化粧した覚えはないんだけどな」

「こんな苦しそうな化粧をされてたまるかぁ‼……あなたね、色々頑張り過ぎなのよ。執務に出撃、遠征や掃討、それに加えて艦娘たちとの夜戦まで……そんな日々を過ごしていて、補給があると言っても体が持つわけないでしょうが」

「う……それを言われると返す言葉もない……」

 相変わらず見事なツッコミを入れられるあたり流石はゆりといったところだが、それだけに音無も自分で言う通り返す言葉がないようだ。

「ゆりさんの言う通りだ。提督は働き過ぎなんだ。僕が言うのもあれだが、少し休息を取った方がいい」

 防空駆逐艦としてなんだかんだ出撃もする古参の初月に言われてしまうと、さらに返す言葉がない音無であった。

「という訳だから、しばらく……南方海域の攻略は私がやるわ」

「え、ゆりが?」

「あら、こう見えてもあなたの指揮をずっと見てきたのよ。それに、チャーに助言ももらうつもりだから、無理な指揮はしないつもりよ」

 確かに、ゆりはこれまでも掃討ではあるが実戦の指揮も経験している上に元々指揮官の素養は持っているのは間違いない。

「せめて鬼門と言われるサーモン海域(第一次サーモン海戦のこと)まではなんとか解放して見せるわ。だから、それまでは安心して休みなさい。悪魔のゆりっぺ様だって、少しは頼りにしていいのよ?」

 そう言われては音無としても無理を押し通す訳にはいかない。

「そう、だな。分かったよ。その言葉に甘えることにしようか」

「そうよ。その代わりと言っちゃなんだけど……しばらくしたら、また私の相手もしてよ、ね?」

 そんな甘えた声を出されては断るに断れない。

「もちろんさ。頑張ってくれる奴に報いないほど冷たい男じゃないつもりだぜ」

「よろしいっ」

 という訳で、音無は急遽休みをもらうことになったのだった。

 

 

 こうして、音無は初月と摩耶と共に浜辺を散歩しながら……漂着物を拾っていた。

「お、こんな所に金属が……これアルミっぽいな。こうして見ると、結構色々なモノが漂着しているんだな」

「うむ。深海棲艦が跋扈している影響もあってか、沈められた船から流れ出たモノもあったらしいからな。おぉ、このブイなんかも使えそうだな」

 すっかりリーダー妖精を始めとする一同の影響を受けているらしく、『使えそうなものは拾ってでも使う』という感覚がすっかり染み付いているのだ。

 というか、あのメンツの『農家兼漁師兼職人兼アイドル』というネタじみた肩書に負けず劣らずという時点ですっかり毒されていると言えるだろう。

「ふふふ。こうして提督と共にゆったり過ごす時間があるというのも乙なものだな」

「だな。こんなのんびりした時間も悪くねぇや」

「はははっ。そう言ってもらえれば嬉しいよ。あ、この流木妖精さんたちに頼んで加工してもらおうか……ん?」

 音無の視線の先に、なにか大きな物体が目に入る。

「なんだ、あれ……」

 3人が近付いてみると、初月と摩耶が一瞬で顔を険しくしながら音無の前に出た。

「提督下がれっ‼」

「テメェ、動くなっ‼」

 3人の視線の先には、波打ち際に倒れている真っ白な肌の……まるで死んだような雰囲気の女性がいた。

 

 

 そう、音無たちが戦っている敵、深海棲艦であった。

 

 

 見たところ空母系のタイプらしく、大破している上に艦載機も尽きているようだ。艤装も動くことがないことから、死んでいるようにすら見える。

だが深海棲艦である以上なにをしでかすか分からないということもあってか摩耶も初月もすっかり警戒している。

 だが、音無は悠然とその深海棲艦に近付いていく。

「ちょ、提督‼」

「バカヤロウ、死ぬ気かっ‼」

「落ち着け。見た感じだけどこいつは既に大破して……轟沈寸前だ。高角砲や機銃すら破壊されているらしい。恐らくだけど、どこかの鎮守府の艦隊と戦闘して沈みそうになりながらギリギリでここまで辿り着いて砂浜に無理矢理擱座したんだろうな。これじゃあ余程奇跡でもない限りはもう戦えないだろう」

 そう言うと、音無はなんとその深海棲艦を背負って立ち上がったではないか。

「こいつをドックに連れて行って入渠させるぞ」

「提督、深海棲艦を助けるなんて正気か!?」

「そんなこと許される訳ねーだろーが‼」

 初月も摩耶も猛反対するが、音無も理論的に反論することにした。

「確かにただ深海棲艦を助けるなんてことは間違いなく裏切り行為だろう。しかし、撃沈していない深海棲艦を回収して、それを調べることができたとなれば……どうだ?」

「……あっ」

 摩耶がなにかに気付いたような声を上げると、音無もニヤリと笑う。

「元々深海棲艦は艦娘と表裏一体の存在だって言うじゃないか。なら、彼女を調べることでそのプロセスも多少なりとも判明するかもしれないだろう?そういう意味じゃ、生きたまま調べることはとても重要なはずだ」

「ま、まぁ、そりゃそうだけど……」

「それに」

 音無はここで、先程までの表情から一転、寂しそうな顔を見せた。

「例え深海棲艦だろうとも、怪我人を放っておくなんてことは元医学生候補としてはしたくないんだ。安心しろ、艤装は引っぺがして明石に預けるから。な?」

 そこまで言われてしまうと、2人に反論の余地はなかった。

「ったく、しゃーねーな」

「だが、せめて僕たちの側から離れないでくれ。幸い相手は空母系だ。僕たちなら対処がしやすいからな。それと、おなじ空母系を傍にいさせた方がいい」

 初月の言葉ももっともである。音無も『了解』と快諾したため、ひとまず3人がかりでその深海棲艦をドックに運ぶことになったのだった。

 

 

 その結果、鎮守府は大騒ぎであった。

「まーたエラいの拾ってきましたねぇ提督。生きたままの深海棲艦を手に入れたなんて前代未聞ですよ?」

「そう言うな明石。その代わりと言っちゃなんだけど、こいつの艤装はお前が修復ついでに好きに調べていいからな」

「やったぁっ!流石提督、話が分かりますぅ♡」

 明石は嬉しさを表現したいのか音無に全身で抱き着いて頬ずりするが、音無も慣れたモノで当たるおっぱいの感触を快く思いつつ『よしよし』と頭を撫でてあげるのだった。

 すると、たまたま工廠で九九式艦上爆撃機の改修をしていた瑞鳳にげしげしと足をけられるのだった。

「瑞鳳痛い、痛いって」

「ふーんだ。提督のおっぱい星人っ」

 当然チャーも来ており、その深海棲艦の姿を確認しておおよその予測をつけた。

「CVー11……なるほどな。恐らくだが、こいつは『空母棲姫Ⅱ』だな」

「空母棲姫Ⅱ?空母棲姫の改良型ってことか?」

「あぁ。元々ゲームでは『血戦!異聞坊ノ岬沖海戦』で登場した空母型深海棲艦だ。ただ……本来の空母棲姫とは随分異なる姿をしているのが特徴なんだ。果たしてこいつが今後どうなるのか、修復ついでに調べてみねぇとなんとも言えねぇけどな」

 どうやらこの世界では『血戦!異聞坊ノ岬沖海戦』が発生していないらしく、艦娘たちは首を傾げていた。

 だが、そんなことは音無にとっては関係ない。

「すまないが頼むよ。なにかあったら……その時は『処分』して構わないから」

 いざという時にはすぐ処分させるという強い意志。それを受けたチャーは『フッ』とニヒルに笑って頭をポリポリと掻いた。

「ったく、そんなこと言われちゃやらねーわけにいかねぇじゃねぇか。ま、そういうことなら任せておけ」

 万が一暴れ出した時のことを考えて、音無の指示でScharnhorstと加賀がそばにつくことになった。

 Scharnhorstは空母特効を持っているため、万が一暴れ出してもすぐに鎮圧できるということ、加賀は搭載量が多いため万が一こいつの艦載機が復活しても加賀の艦載機ですぐに対応できるようにするためであった。

「すまない2人とも、悪いが頼むよ」

「おぅ、ここは引き受けたぞAdmiral」

「ここは譲れません」

 加賀もやる気らしく、『むふー』と鼻息を荒くしている。

 やる気十分な2人に任せておけば問題ないだろうと思い、音無は昼食をとることにしたのだった。

 

 

 それから3日間、音無は夜に艦娘たちの相手をする以外は大変のんびりとした日々を過ごすことになったのだった。

 

 

 そして3日後、運命が動き出す。

 音無が千歳、Atlantaと共に朝食後のコーヒーを飲んでいた時、工廠にいることが多い夕張が駆け込んできたのだった。

「提督‼例の深海棲艦が目を覚ましました‼」

 その言葉を聞くや否や、音無も千歳もすぐにカップを置いて走り出した……音無の動きに慣れていないAtlantaだけは『えっ、ちょっ、待っ』とあわあわしながら慌ててついて行くのだった。

 ドックに到着すると、既にScharnhorstと加賀が音無たちを待っていた。

「おぅ、来たかAdmiral」

「こちらです」

 音無と千歳、若干遅れてAtlantaが入ると、そこには病衣を着た青白い顔色の空母棲姫Ⅱが座っていた。

「彼女からコミュニケーションは?」

「今のところありません。起きたのはいいのですが、ずっと黙ったままなのです」

 音無はそれを聞くとゆっくり彼女に近付いた。

「提督、危険です」

「危険は百も承知だ。だが……なにかあればお前たちがどうにかしてくれると信じている。それに昔から言うだろう。『虎穴に入らずんば虎子を得ず』ってさ」

 時には危険な環境に身を置かなければ成果は得られない。音無はそう言いたかったのである。

 もっとも、見ている艦娘たちはハラハラしっぱなしであるが。

「目が覚めたみたいだな。俺の質問に答えられるか?」

 すると、空母棲姫Ⅱがゆっくりと口を開いた。

『Ad……mi,ral?』

 発音はドイツ語のそれよりも英語に近い。既に多数の艦娘と接している音無は聞いただけでそれを判断できるようになっていたのだった。

「そうだ。俺はここの提督の音無結弦だ。君は……」

 その時、空母棲姫Ⅱのお腹から『きゅるるる~』と可愛らしい虫の声が聞こえた。

「……ははっ。そりゃずっと飲まず食わずじゃ腹も減るよな。よし、鳳翔さんたちに頼んでお腹に優しいものでも作ってもらおうな」

「そもそも深海棲艦が食事をするのかどうか不明なのですが……」

 だが、音無は振り返って笑った。

「なに言ってんだよ。伊勢たちは補給液をおっぱいから分泌していただろう?恐らくだけど、深海棲艦も補給には経口摂取を中心にしている。でなけりゃ、わざわざおっぱいを改造するなんて手間をかける必要性がないからな」

「あっ、それはそうですね……」

 Atlantaは自分の巨乳を『むにむに』と揉む。

「なるほど。提督さんの言うことはとても説得力があるね。私もMilk出ればいいのになぁ……」

 とりあえずAtlantaは放っておいて、音無は空母棲姫Ⅱをヒョイと抱き上げた。

「まだ歩くのも大変だろう?俺が連れて行ってやるよ」

 すると、空母棲姫Ⅱが雪のように白い肌を『ぽっ』とほんのり赤らめるのだった。

 もっとも、見せられている面々は若干頬を膨らませていた。

「むぅ、俺はああいうのが似合わないと分かってはいるが、それでもなんとなく憧れるものだな……」

「シャルさんだけではありません。本当ならば、あの腕の中は身内以外に譲りたくありませんから」

「……うん。あたしも提督さんに抱っこしてもらいたい……」

 Scharnhorstや加賀もだが、まだ入って間もないAtlantaにまでそのように思われている辺り流石一級フラグ建築士といったところだろうか。

 ドックの外の脱衣所に備え付けてある電話で、厨房の鳳翔、間宮たちに連絡を取る。

「そう、その通りだ。悪いけど頼むよ。あぁ」……ガチャ……「鳳翔さんたちが野菜のコンソメスープを中心に色々作ってくれるってさ。さぁ、行こうぜ」

 空母棲姫Ⅱは頬を赤らめてはいるようだが、それでも音無にされるがままになっていた。

 そして食堂へ到着すると、事前に連絡しておいたからか手伝いをしていた萩風が背もたれ付きの椅子を設置してくれていた。

「司令、こちらへどうぞ。これで楽に座れると思いますよ」

「ありがとう萩風。流石によく気が付いてくれるな。よくやった」

 空母棲姫Ⅱを座らせてから萩風の頭をナデナデすると、萩風は『はぁ~……♡』と色っぽくも嬉しそうな吐息を漏らすのだった。

 しかも『むふふ~♡』と笑いながらもっと撫でてとせがむので余計可愛いのである。

 そして、目ざとい千歳は空母棲姫Ⅱの反応の変化に気付いていた。

「(彼女……頬を膨らませている?もしかしてだけど、萩風さんに嫉妬している、ということかしら?)」

 調べてくれた明石とチャー曰く、『普通に沈没していてもおかしくない損傷だった』ということらしいので、もしかしたら深海棲艦としては既に『轟沈』していて、意識のそれは既に艦娘になっているのかもしれない、と千歳は思い始めていた。

 だが、まだ確証がないので言葉には出せないが。

「提督、お待たせしました。野菜をたっぷり煮込んだコンソメスープです。敢えてたんぱく質を取り入れるためにお豆腐を入れてみたんですよ」

「おぉ、面白い発想じゃないか。コンソメと豆腐……意外と合うかもしれないな」

 それまでの常識では考えられないようなことにも挑戦する。料理だけでなく様々な物事をそうすることによって、新しい可能性が拓けるのである。

「それと消化のいいものということでうどんを用意しました。うどんは魚介ベースの出汁で食べるようにしてあるので優しい味わいになっているはずですよ」

「うん、ありがとう鳳翔さん。間宮たちも、いつもながら見事な腕前だな」

「うふふ」

「お褒めに預かり光栄です、提督っ」

 音無は料理の乗ったトレーを空母棲姫Ⅱの前に置いてあげた。

 空母棲姫Ⅱはそれをまじまじと見つめていたが、音無が『食べていいよ』と言葉をかけて許可がもらえたと理解したのか、フォークで器用に食べ始めた。

『……Deli,cious♪』

 すると空母棲姫Ⅱはふんわりとした笑顔を見せ、美味しそうにうどんを頬張るのだった。

「ほら、皆も食べようぜって加賀さん早いな‼」

 見れば、加賀は既に席についててんこ盛りとも言うべき程にうず高く積まれた山盛りうどんを啜り始めていたのだった。

「ふぉいふぃふぉもはふぉいふぃふひにふぁふぇふぁふぇれふぁ」

「……なんつったの?」

「美味しいものは美味しいうちに食べないと、だそうです」

 『暴食の赤城』、『ボーキサイトの女王』とも言われる、そして加賀の相棒でもある赤城は聞き取れたらしい。

 流石は第一航空戦隊のコンビといったところか。

「ま、それに関しては賛成だけどな。確かに食事は美味しい内に食べるのが礼儀ってもんだ。さ、皆も食べようぜ」

 音無の言葉を聞いた他の艦娘たちも続々と席について食事を始めているが、皆空母棲姫Ⅱを怖がっているのかたまにこちらの方を見てくる。

 もっとも、空母棲姫Ⅱは気にすることもないのか黙々と食べ進めていたが。

 結局、空母棲姫Ⅱは赤城どころか鹵獲改装されて悪燃費化した加賀と同じくらいの量をいともたやすく平らげて見せたのだった。

「うわぁ……すごい食欲ねぇ……あんなに食べたモノがいったいどこに行っているのかしら……」

「ゆりっぺの気持ち、今だけはすごーくわかる気がするぜ……っつーか、マジで普通の人間じゃないって思わされる瞬間だよな、これ」

 ゆりと藤巻の言葉に他のメンツもうんうんと頷いている。

 もっとも、音無はと言えばやはり慣れたモノで『よく食べたな』と優しく頭を撫でている辺りが流石と言うべきか。

 

 

 食後、執務室に移った音無は自分の周囲で守りを固める艦娘たちを背にしながら空母棲姫Ⅱとの対話を改めて試みた。

「改めて、俺はこの鎮守府を預かる音無だ。君のことを聞かせてもらえるかい?」

 空母棲姫Ⅱは『コクリ』と頷くとゆっくりと口を開いた。

『ワ、ワタシ、ハ……ワタシハ、ダレ?』

「……」

『ワタシ……ワタシ、ハ……』

 すると、空母棲姫Ⅱはポロポロと涙を流し始めてしまった。

 どうやら、彼女には自分が何者なのかという記憶がないようだ。

 まさか急に泣き出すとは思っていなかった音無以外の面々は『えっ!?』と思わず慌てるが、音無は動じることなく彼女を抱きしめた。

「分からないならそれでもいいさ。ただ、これだけは聞きたい」

 音無は改めて彼女と真正面から向き合う。その瞳を真っ直ぐ見つめて、自分の聞きたいことを聞いた。

「君は、俺たちと戦うつもりがあるのか?」

 彼女が深海棲艦の魂を持ったままなのであれば、どこかで戦闘本能が顔を覗かせるはず。音無は彼女の深層心理に問いかけるつもりで強い意志を込めて問いかけた。

 そして空母棲姫Ⅱは……首を横に振った。

『チ、チガ、ウ……ワタ、シ、アナタトタタカワナイ……タタカイタクナイ……』

 『戦いたくない』というはっきりした意思を聞いた音無は、柔らかく微笑みながら彼女をまた抱き締めた。

「そうか、それならいいんだ。自分のことを思い出せないのは大変だろうけど……しばらくうちにいるといい。もしかしたら、自分のことを思い出すかもしれないからな」

「でも提督、工廠長は彼女の正体についてなにか知っているみたいですが……」

「あぁ。チャーは恐らく彼女についても知っているんだろう。でもそれで俺に余計な先入観を与える方が良くないと思ったんじゃないかな。俺に、自然体で彼女と接した方がいいと思ったんだろう」

 果たして、音無の推測通りであった。チャーは彼女の正体について心当たりがあるのだが、それを言うことで音無に余計な先入観を与えてはいけないという考えだったのである。

「だから、俺はこの子としばらく一緒に過ごすことにする。その中で、なにかを思い出すかもしれないからな。どうだ?」

 空母棲姫Ⅱは笑顔を見せると、音無の腕に想いきり抱き着いた。

 それを見た鈴谷や摩耶が『あー‼』と羨ましそうな声を上げ、迅鯨が据わった目で腰に差していた包丁を引き抜こうとして側にいた翔鶴と瑞鶴に取り押さえられるという場面もあったが……。

 

 

 こうして、空母棲姫Ⅱは多くの時間を音無及びその秘書艦たちと共に過ごすようになるのだった。

 

 

 そして同居を始めたのだが、結果として空母棲姫Ⅱはとにかく大人しく、刃向かおうという雰囲気は一切見せなかった。

 最初こそ一部の艦娘(霞や磯風など真面目なタイプ)がかなり警戒心を見せたものの、3日もしないうちに鎮守府になんとなく溶け込むようになったのだった。

 ただ、なにをするにも彼女の方が音無の側から離れようとしないこともあって多くの艦娘がそんな空母棲姫Ⅱに嫉妬していた。

 だが、千歳や大淀などの古参組が『深海棲艦の観察のため』となんとか説得している状態であった。

 一方、以前鹵獲改装組のことを内緒にしていたことが銭形提督を始めとする大本営の関係者にも知られていたことから、今回は予め大本営を始めとする周辺関係者には通達しておいたのだ。

 その日も定時報告ということで海パン刑事こと汚野提督と動画電話で話をしていた。

『そうか。では特に動きはないのか』

「はい。艤装については明石及びうちの工廠長に調べさせていますが、艦娘のそれと大変酷似しているとのことです。艦載機については全滅していたらしくて所有していませんでした。修復して補給しても復活しませんね」

『それについてだが、酷似した敵艦と交戦した情報があった。トラック諸島で銭形提督が交戦した艦隊を撮影した写真にそれと酷似した姿の深海棲艦が写っていた』

 変態極まりない汚野だが、やはり仕事は真面目にするタイプのようである。

その日の秘書艦であるPennsylvaniaが『Japanese,Henntai・Guy……』と心底げんなりした顔をしているが、それでも真面目に会話している姿を見て少しは見直したらしい。

「銭形提督もすごいですね。事前情報にない存在と不意に会敵して交戦して、しかも大破まで追い詰めるなんて……」

『まぁ、あの方は元々提督としての技量も高い。艦娘たちもそれに伴って高い練度を常に維持しているからな。もっとも、君のところも負けていないとは思うがな』

 ニヤリと笑う汚野に音無は『そんなことありませんよ』と謙遜した。

『まぁそれも大事だが、ひとまず異常がないのならばそれに越したことはないな。深海棲艦側の動きも同様か?』

「はい。彼女を取り戻すために動いている気配はないようです。念のため鎮守府周辺の索敵を強化していますが、はぐれと思しき敵艦に出会うばかりで異常はないそうです。もっとも、油断しないようにと言い聞かせてはありますが」

 『異常がない』ように見せて思わぬところで奇襲をかける。深海棲艦の戦略が人間と同様であれば、そのような作戦を取るくらいのことはするだろう。

 ただ、仮にそのために囮にするのだとしたら空母棲姫Ⅱはあまりに強大過ぎる戦力なので、その可能性は低いとも思ってはいるが。

『では、引き続き経過観察は君に任せる。急を要することが起こればすぐに連絡してくれ。即応戦力ですぐに駆け付けられるようにする。恐らく月光刑事の航空隊が向かうことになるだろうがな』

「はい。よろしくお願いいたします」

 通信を切ると、Pennsylvaniaが心配そうに音無に話しかけた。

「Admiral、大丈夫でしょうか?」

「さぁな。もしかしたら……寝込みを襲って俺の命を奪おうとするかもしれない」

「でしたら、もっと周囲に艦娘を配置しておくべきです。私……Admiralのことがとても心配でっ……」

 Pennsylvaniaが思わず音無の腕に抱き着くと、戦艦ならではの大きさを持つ彼女の巨乳が『むぎゅう』と歪む。

 その感触を堪能しつつ、音無は安心させるように彼女を抱きしめて背中を撫でた。

「大丈夫だ。よく分からないけど……なんとなくそんな気がする」

 音無にもよく分からないが、本当に『なんとなく』そんな気がしたのだ。

 

 

 それからさらに3日が過ぎた。

 空母棲姫Ⅱは言葉こそ発しないもののどうやら自分のことを艦娘と思っているのか、とにかく音無にベタベタしているのだ。

 もっとも、夜だけは音無が鹵獲改装組の相手をする都合上別で寝るようにしていたので夜は別々にしていた。

 空母棲姫Ⅱは音無が諭すと不承不承ながら了解してくれるのだが、音無と夜も一緒にいられないことにかなり不服そうであった。

 その夜もSaratogaと夜を共にしていたのだが、Saratogaがその巨乳と精液でパンパンに膨れた腹を押し付けながら音無に問いかけた。

「提督。あの空母棲姫Ⅱですが……その……」

「ん、どうした?」

 Saratogaを始めとするアメリ艦娘はどうやら彼女の正体を知っているようなのだが、音無自身が口止めさせていた。

 チャーが正体を教えなかったということは、それ相応の理由があるのだと思っているのである。

 恐らくだが、『CVー11』という番号がアメリカ空母のそれと同じなのでアメリカ系の艦娘なのではないかと思ってはいる。

 だが、彼女の正体を自分で把握するまではとあえて口止めさせているのだ。

「彼女ですけど、いっそのこと夜も一緒にいてはどうでしょうか?」

「え?なにか根拠でも?」

 音無に問われたSaratogaは、少し顔を曇らせつつ意を決して答えることにした。

「……提督は私に深海棲艦の力が残っていることは覚えてらっしゃいますよね?」

「あぁ。大淀に淫紋を刻んだのは今でも記憶に残ってるよ」

 隷属願望を持っていた大淀に深海棲艦の力が残っていたSaratogaが精神に作用するための『淫紋』を刻んだことである。

「私はその力で彼女に共鳴を試みました。でも、私の中に残っている深海棲艦の力が、彼女はもう深海棲艦ではないと語っているんです。きっと、もう危険はありません」

 Saratogaは他の鹵獲改装組と違い、深海棲艦の力が残っている。どうやらそれで彼女と共鳴を試みたようだ。

 しかしSaratogaの共鳴が通じなかったということならば、精神的には既に艦娘になっている可能性は確かに高い。

「でもそうなると、彼女が未だに艦娘になっていないのはなにか理由があるってことだよな?」

「はい。轟沈せずに擱座したこと、それと……恐らくですが、記憶を失っていることに大きな要因があるのではないかと思います」

「……記憶、か」

「Yes。記憶というのは、本人を形作る重要な存在と言ってもいいです。それを何かの形で思い出せなくなっていることこそが、彼女がまだ深海棲艦の『形』を保っている理由なのではないかと思います」

「かつて記憶喪失で死後の世界に送り込まれた挙句、周囲に色々迷惑をかけた人間としては耳の痛い話だぜ」

 音無は死後に心臓をかなでに移植した影響なのか、それともなんらかの力が働いたのかは不明だが死後の世界に『落ちた』際に記憶を失っていた。

 結局その多くは直井の催眠術で、そして最も重要な部分はかなでの胸の上で、彼女に移植された自分の心臓の音を聞いたことで全ての記憶を取り戻していた。

 そんな音無としては、記憶を失っている、自分というものを失っている彼女に関して思うところがあるらしい。

「分かった。サラがそう言うんなら、明日の夜は彼女と過ごしてみるか。でも、彼女が求めているとはいえ、深海棲艦とセックスってできるのかな?」

「たぶん、大丈夫だと思います。艦娘と深海棲艦が表裏一体だということであれば、恐らくですが……提督と体を交えることで彼女自身になにかしらの変化が起きるのではないかと思います」

「……なるほどな。よし、じゃあ明日の夜は空母棲姫Ⅱと過ごしてみるか」

「でも、補給担当と生贄はちゃんと用意した方がいいですよ。たぶん、今の提督では1人だけを相手する訳にはいかないと思いますから」

「だからお前たちは自分たちのことをなんだと思ってるんだ……まぁ、考えておくよ」

 こうして、音無は恐らく提督という存在としては初めて、深海棲艦と体を交えることを決めたのだった。




まぁ、提督の皆さんなら彼女の正体が何者なのか、分かっちゃいましたよねぇ……

次回からは空母棲姫Ⅱとの夜戦も込み、のお話です!
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