カムラン半島を開放した翌日、音無は執務室にある知らせが届いているのを見た。
この日の秘書官は着任して間もない比叡だったこともあり、大淀も一緒にそれを読む。
「『近々特別任務が発令される予定のため、本日より1週間、海域解放のための出撃を禁止とし、演習及び警戒、遠征にのみ艦隊を使用することとする』か……大淀、特別任務ってどういうものなんだ?」
「はい。期間限定で出没する、強力な深海棲艦との戦いに身を投じる任務のことです」
「それ、ウチの鎮守府でできるのか?」
「一応一番低い難易度であれば南西諸島防衛線を突破した提督であれば問題ないと言われていますが……この鎮守府には正面戦闘ではなく、別の任務が来るとのことです」
実際、この鎮守府の艦娘は音無の用心深さもあって進んだ海域の割には練度が高いため、低難易度の特別任務であれば十分にこなせるのだが、まだ開設間もない鎮守府ということもあって正面戦闘からは外されたらしい。
「そうか……じゃ、俺たちの場合は後方支援が中心になるかな?」
一方、比叡は最前線に出撃できないことが不満らしい。
「私としては金剛お姉さまと共に出撃して活躍し、お姉さまの雄姿を目に焼き付けたかったのですが……」
「……お前も金剛も着任したばかりで、演習しているとはいえ練度15になるかならないかなんだ。無理して轟沈したら目も当てられないだろ?」
「ひえ~!」
比叡が駄洒落と共に悲鳴を上げるが、音無もそんな彼女たちに慣れつつあり、この程度ではもはやツッコミを入れることすらなくなった。
「だとすると、他の艦娘たちの練度を追いつかせるつもりで、演習を中心に頑張らせた方がいいかな……まぁ、警戒と掃討と遠征は引き続きやってもらわなけりゃだが」
「はい。それは間違いありませんね」
「よし、じゃあその特別任務に向けて資源の備蓄に入る。特に燃料と弾薬は、激しい戦闘になればあっという間に消費量が増えるだろう。しっかり補充しておくよう手配してくれ」
「はい、かしこまりました」
この日はもう夕方で、多くの艦娘も演習や寮の修繕のお手伝いを終えて戻っている最中であった。
この日も警戒・掃討艦隊が5名の艦娘を見つけて帰ってきた。磯波、朧、荒潮、そして……
「素敵な提督で嬉しいの!伊19なの」
「おぉ‼潜水艦か‼」
初めての艦種なこともあって、音無も驚いていた。見つけたのは、直井の対潜哨戒艦隊(いわゆる1ー5)である。
「いかがですか音無さん!他の連中がなしえなかったことをやって見せました‼」
「あぁ、流石直井だな!」
だが、これにはカラクリがあり、そもそも鎮守府近辺の海域どころか、もっと先へ進むまで本来潜水艦は出てこないのだ。
Ⅰー5は対潜哨戒任務ということで潜水艦のドロップがある、ということらしい。
改めて音無は伊19を見る。
「……どうでもいいけど、なんでスク水?」
「それは分かりかねますが……海に潜る時間が長い潜水艦だから、ではないでしょうか?」
「あぁ~、水の抵抗を少しでも少なくするように、ってか?」
恐らくそれで正解である。艦橋の形を流線形にするなどの試みは、潜水艦の能力がアメリカと並んで『雑音だらけだった』と酷評されている日本海軍潜水艦の数少ない高ポイントだったと言われている。
「じゃあ、イク。ウチの潜水艦は君が初めてだから、色々演習を重ねて、強くなってもらいたい。頼んだぞ?」
「了解なの~」
間延びした言い方に『ユルい娘だなぁ……』と思うのだが、後にチャーから『海のスナイパー』と言われるほどの大活躍をしたことがあると聞き、仰天するのは別の話。
それはさておき。
夕食を終えた音無は、千歳と共に海辺にいた。
音無が『食前に酒を飲むのはあまりよくない』と言ったため、夕食後にこうして浜辺で少し飲むようにしているのである。
「ふぅ……ビールとかも悪くないけど、日本酒のこの香りはいいなぁ」
「提督は珈琲がお好きですから、てっきり洋酒を好むかと思っておりましたが……」
「ん、まぁ嫌いじゃないけど、日本酒の香りっていうのかな、米の香りが好きなんだよなぁ」
こうして飲んでいる姿は、まさに似合いの夫婦といった様相である。
そして、そんな2人をこっそりと見る影が、ポツンと1つ。
「……このような気持ちを抱くのは、如何なものかと分かっているのに……」
そう、大淀である。
彼女は千歳と同じく、かつて深海棲艦だった過去を持つ。
かつてこの鎮守府にいた航空母艦『加賀』の言葉を受けて立ち直った……ように自分では思っていた。
だが、実際には自分も気付かぬほどの心の奥底で、『そのことを誰かに受け止めてほしい』と、思っていた。
前任の提督はとても優秀な人物だったが、残念なことに人の心に寄り添えるようなタイプの人ではなかった。
決して人に気遣いができないとか、思いやりがないというような薄情な人物ではなかったのだが、大所帯の艦娘の中で、大淀『だけ』の心に寄り添える人物ではなかったのだ。
そして先の大戦後に、次の指揮官はどんな人物なのかと大淀が不安を抱く中、新たな提督として現れたのが、音無であった。
音無は艦娘1人1人にできる限り深く接しているので、戦艦から駆逐艦まで多くの艦娘が心を許している。
そして、千歳が深海棲艦であった過去を知りながらも、『千歳は千歳だ』と言って抱き留め、女性としても受け入れた。大淀はそんな2人の姿を見ていると、少し前の千歳とのやり取りを思い出す。
音無が千歳を抱いた数日後、大淀が不意に音無との関係について千歳に尋ねると、千歳は言った。
「提督に自分だけを見て欲しい?思ってるわよ、それくらい。でも……提督はきっと私以外にも目が行っちゃうと思うの」
「どうして、そう思うんですか?」
「それはね、提督が……『お兄ちゃん』だから」
その時の千歳の言葉を思い出すと、大淀は今でも開いた口が塞がらなくなる。
「提督はここに来る前、やりたいことが分からなかったけど妹さんのためなら頑張れたって言ってた。今この鎮守府にいる艦娘は、弐番艦以降の艦娘と私みたいに提督に心配をかけるのがいっぱいいる。提督は今まで、そんな私たちと精一杯向き合ってくれた。私の気持ちを受け取ってくれたのなら、他の娘たちの気持ちを割り切って考えられるとは思えないの」
「それが、提督が兄だからという理由、ですか?」
大淀が恐る恐る訪ねてみると、千歳は頷いていた。
「それとね、どうせなら、私は提督に遠慮しないで色んな娘に手を出して欲しいの」
「どうしてそんなに割り切れるんですか?提督の想いを一身に受けても、皆イヤとは……」
「だって、提督が一番好きな人とは、ここにいる限りもう会えないのよ?」
そう言われて、大淀も思い出した。音無たちがここに来た経緯を、音無が愛した女性の話を……本当は傍にいて欲しい人が、一番手の届かないところにいる。苦しいことは分かる。大淀も今は、人間の体と心を持っているからだ。そして、心を持っているからこそ、音無の苦しさがどれほどのものか逆に推し量れない。
「いくら私を好きになってくれても、本当に抱きしめたかった人はここに来れない。私たちを好きだと言えば言うほど、提督の心の穴は小さくてもハッキリと残る。もしも、私1人で埋められないのなら……皆で埋めるしかないじゃない」
千歳は微笑みながら言っているが、その顔は大淀から見れば悲しんでいる顔だ。
「だから提督には、好きって言った娘たちを拒まないであげてって言ったの。だから、大淀さんもそうなら、遠慮しないでね」
一番の想い人のことを憂いながらも、他の人に対する思いやりも忘れない。大淀は千歳の懐の広さに恐れ入っていた。
千歳と一夜を共にした後の2人をしっかりと目に焼き付けてしまって以来、大淀の心中で音無に対する想いは募る一方。2人が肩を並べて、酒を酌み交わしている後ろ姿を見ているとつい思ってしまう。あそこに自分が座っていいのか……と。
そんな大淀を余所に、音無と千歳の雰囲気はさらに良くなり、大淀が空気の甘みで胸焼けを起こしそうになる。音無と千歳は見つめ合い、そっと唇を合わせようとする。
2人の唇があと少しで触れ合う……その時だった。
「あれぇ、提督じゃーん!」
夜なのにものすごく元気な声が海から聞こえて、2人は反射的に身を翻し背中を向ける。声の主は……
「な~にぃ?2人も夜のお散歩~?やっぱり散歩と戦闘は夜に限るよね~っ!」
満面の笑みで音無たちを見るのは、鎮守府でそのバカさ加減を知らぬ者はない。夜戦バカで通ってしまう艦娘、川内型軽巡洋艦の1番艦、川内である。音無が声を荒げそうになったその時……。
「人のいい雰囲気をなにぶち壊してらっしゃるんですかこの夜戦バカああぁぁぁっ!」
「お前どっから出てきた大淀おおぉぉっ!」
自分の代わりにビシッとツッコミを入れた大淀がどこから出てきたのか分からず、音無は大淀にツッコミを入れてしまった。音無に言われて自分が隠れていたことを思い出した大淀は、今更ながら口を紡いだ。
大淀は隠れていたことがバレて、音無と千歳は一部始終を見られていて恥ずかしくなり、3人はそれぞれ目を背けてしまった。
「どうしたの、3人とも?」
「「自分の胸に聞いてみろおぉっ!」」
今度は音無と大淀が息の合ったツッコミを披露した。
「な、なになに?」
「というか川内、その艤装、使用許可申請書は出したのか?」
音無がジトっとした目で睨むと、川内が急に冷や汗を流す。
艤装は提督の作戦発令や決まった時間の演習以外、自主練習などに使用する際は使用許可申請書を提出することになっている。これは使用すれば当然補給と整備が必要になるので、申請書を出すことで備蓄の管理をしようという音無の考えであった。
しかし、川内はその筋ではよく知られた夜戦バカである。夜の興奮を抑えきれず勝手に海へ出ることは十分に考えられる。そして、指摘した途端に冷や汗を流していることが事実を物語っている。
「ただでさえ任務に向けて備蓄をするって言った矢先に……」
いたことには驚いたが、大淀と足並みを揃えて海にいる川内に詰め寄る。すると、暗がりで最初は見えなかったが、川内がなにか背中にコンテナを背負っていることに気付いた。
「おい、それどうしたんだ?」
「ん?ああこれ?ちょっとその辺の海を散策してたら、プカプカ漂ってたんだよ。工廠長に見せて使えそうならラッキーだなぁって思って持ってきた」
川内を追求しようと思ったが、話を聞いた途端にコンテナの中身が気になり出したので、音無はそれ以上厳しいことは言わなかった。
「分かった。取り敢えず中身が気になるから、開けられそうならここで開けてみよう」
音無の言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろした川内は、浜に上がって艤装を外し、コンテナを下ろした。
「あ、これここにハッチがあるな……よっと」
開けてみると、中に入っていたのは主砲と格納庫らしい物体だった。
「これって……艤装、か?」
「そのようですね……あれ?これって……」
千歳は見覚えがあるようで、まじまじと見つめていた。
そして、2人以上に見つめているのは、大淀であった。
「そんな……これって……」
「大淀?」
「これは……私の艤装です!」
「え!?」
「15.5cm三連装砲に、水上機用の大型格納庫、そして魚雷発射管はない……やっぱり、これは最上型ではなく私の……大淀型の艤装です!」
「マジか!」
なんとびっくり、コンテナの中身は大淀の艤装だったのだ。
「じゃあ、これがあれば大淀は艦娘として戦える、そういうことなのか?」
「はい!これで私も前線に立つことができます!」
大淀は前の鎮守府でも時折前線に立って駆逐艦隊を指揮していたことがあった。
その頃を思い出したのか、懐かしいという顔を見せた。
「やった、やりました提督!」
余程嬉しかったらしい。大淀は涙を目尻に溜めながら、満面の笑みで音無に抱き着いた。
「お、おい大淀っ⁉」
今まで音無とやり取りをする時に冷静に接してきた大淀が、涙を浮かべながらも文句なしの笑顔を見せたことに、音無は戸惑いつつも喜んでいた。とびっきりの笑顔を見せる大淀を、音無は抱き返し、そっと頭を撫でた。
「良かった。お前の心からの笑顔がやっと見れて、本当に良かった」
音無の胸から頭を放した大淀が、涙目のまま音無の顔を見上げる。
「提督……」
「じゃあ、あとで工廠に持って行ってチャーに調整してもらおう」
「はい!」
大淀の顔を見てボーっとしている音無の顔を見て、逆に大淀もキョトンとした。
「提督?」
「いや、普段も笑顔ならもっと良いのになぁって思って」
「へっ?」
不意にそんなことを言われて、大淀の顔は真っ赤になり、頭の上から煙突のように蒸気が上がった……ように千歳には見えた。
「これからはさ、仕事中もそれくらい笑っていいと思うぞ」
「ひゃい……」
「ほら、行こう」
「……はい」
「川内、めっけもの見つけたから、今回は大目に見てやる」
「えっ!いいのぉ!やったぁ!」
川内はお咎めなしになって喜んでいるが……
「ただし、今度夜戦絡みでなにかやったらひん剥いてグラウンドに一晩放置だからな」
「そんなこと言ってぇ、いくら口で言っても提督がそんな酷いことする訳……」
人はこれを、フラグという。
「千歳、足首掴んで逆さ吊り」
「は~い」
千歳は戸惑う素振りも見せず、川内の両足首を掴んでグイと引っ張り上げる。
「うわわわわっ⁉」
軽空母に改装されただけの艦体と推力は伊達ではなく、軽巡洋艦の川内を軽々と吊るす。川内の腕がだらりと伸びた瞬間を逃さず、音無は彼女の制服を引き下ろして腕に絡める。
「ちょっ、提督、腕が動かせないっ⁉」
「動かされたら面倒だから、こうしてるんだろうが」
音無は立ち上がり、自分の胸ほどの高さにある川内の腰を見る。逆さ吊りにされたことでスカートは引力によって地面に向かって下がり、川内の足の付け根周りは剝き出しになり、無地の白い下着が丸見えになる。
音無はスカートを持ち上げると、ファスナーを開いてパッと脱がせる。音無はスカートを軽くたたみ、川内の腕に絡めていた制服の上着も脱がせた。上下白の下着にニーソックスと靴だけという格好は、なかなかに扇情的だと大淀は思った。
音無が砂浜に落ちた上着も取ってたたみ目配せをすると、千歳がパッと手を放した。
「うわぁっ!んぎゅ⁉」
千歳が手を放すと、川内は背中から砂浜に落下した。川内が背中を打った衝撃に悶えていると、その間に音無が千歳に川内の制服一式を預けた。
「反省の色が見えねえから、そのまんま寮まで戻ってもらおうか?」
「ちょ、あんた鬼ぃっ⁉」
「鬼でも悪魔でもねぇ。俺はお前たちの提督だ。お前がやったことは、間違いなく職務上の怠慢だ。それをチャラにするって言ったのにいきなりそんな態度を取られたままじゃ、皆に示しがつかねぇ」
「そ、そんなぁ」
「じゃあ、なにか言うことはあるか?」
音無の顔を恨めしそうに見ながらも、川内は土下座をしながら言った。
「勝手に艤装を使ってすみませんでした。今後は申告忘れの無いように心がけます」
川内が謝罪を述べると、それまで睨むようだった音無の目つきが温和になり、川内に服を渡した。
「よろしい。末っ子の那珂も着任したんだから、あんまり羽目を外すんじゃないぞ」
「は~い」
唇を尖らせながらも受け取った制服を素早く来た川内が、外した自分の艤装を抱えて立ち上がる。
「よし、今度こそ戻るぞ、大淀……大淀?」
「えっ?ああ、はい!」
何故か呆けてみていた大淀に声をかけると、音無は千歳と川内と先に歩き出した。音無の背中を見ている大淀は、胸の高鳴りを感じた。
「(そうか。今まで周りに言われながら任務に努めていた提督が……千歳さんの怪我を見て、覚悟を改めて持ったから、背中がさらに頼もしく見えるんだ。だから、そのお心の逞しさに惹かれてるんだ)」
大淀は言葉にしたい思いを胸に秘めて、音無たちの後を追う。
「(今はまだ駄目。私はまだ、提督に胸を張って言えることが、なにもできていないんだから)」
艤装を再び装着し、海で結果を出せたら、自分に自信を持てるかもしれない。大淀は出撃できるようになるまではと自分に誓い、一夜を過ごした。
翌朝、朝食を終えた音無は、気になって仕方がないことを確認しに工廠へ向かった。工廠ではひと汗かいたらしいチャーが首にかけていたタオルで顔をぬぐっているところだった。
「チャー、おはよう」
「おう、おはようさん」
「チャー、首尾はどう?」
音無についてきたゆりが尋ねると、チャーはニヤリとしながら工廠の奥に親指を向ける。奥の扉は、これまで艦娘たちが改装する時に入っている部屋だ。
「さっき終わったところだ。今、フィッティングをしてるよ」
すると、電子レンジのように『チーン!』と音が鳴り、ゆっくりと扉が開いた。そこから姿を見せたのは……
「提督、やっとこの姿を見せられました」
昨晩回収し修理を終えた艤装を装着した大淀が、嬉しそうな顔で出てきた。
「ああ、俺もやっと見られて嬉しいよ」
「そんな、もったいないです……改めまして、軽巡大淀、戦列に加わりました。艦隊指揮、運営はどうぞお任せください」
「ああ、改めてよろしくな」
音無が右手を出すと、大淀は恥ずかしそうに右手を出して、握手を交わした。すると……
「提督、失礼いたします!」
大きい声で工廠に入ってきたのは、週替わりの秘書艦をしている妙高型重巡洋艦の四番艦・羽黒だ。
「どうした、羽黒?」
「大本営より、特別任務の通知を入電いたしました」
「分かった。羽黒、すまないが着任済みの艦娘を大体育館に集めてくれ。作戦内容を全員に通達する」
「了解」
羽黒は音無に敬礼をすると、回れ右してその場を去った。
「ゆり、そういうことだから一緒に来てくれ。大淀、お前もだ」
「オッケー」
「かしこまりました」
即答したゆりと大淀は、キリっと顔を引き締めた音無の後に付いて行った。
艦種ごとに艦娘が整列すると、音無が壇上に上がり、マイクを口元に近付ける。
「総員、着座」
音無が号令をかけると、艦娘たちは体育館の床に座る。ちなみに、音無がわざわざ壇上に上がったのは、この方が皆の顔を見やすいというのもあるが、艦娘たちが体育座りをするので、スカートの中が見えてしまい集中できないからだ。
「朝早くから迅速に集合してくれて感謝する。一部の者は聞いているかもしれないが、先刻、大本営より予告をされていた特別任務の詳細が通知された。羽黒、頼む」
「はい。本鎮守府が課せられた任務は、敵輸送艦隊の撃滅です」
羽黒が任務について言うと、館内がざわつく。
「では、本作戦の内容を通達します。本作戦の目的は、他の鎮守府が正面攻撃を行う間、敵の輸送部隊を撃滅することによる、敵正面戦力の減少です。そのため、本作戦に参加できるのは『速力』が『高速』の艦娘です。また、航空母艦に関しては『機数60機以下』という制限がありますが、それ以外に制限はありません」
羽黒が資料をめくりながら続ける。
「なお、本作戦は輸送艦『輸送ワ級』を撃沈することによって敵戦力を弱体化させることが可能なため、輸送ワ級を撃沈した数によって、大本営から褒賞が出ます」
これは、いわゆる開発不可能な装備である。もっとも、この鎮守府ではチャーが作り出してしまうのでそれほど問題でないのだが。
「では、提督より出撃する艦娘について発表します」
前へ出た音無が続ける。
「まず、航空母艦は『千歳』、『千代田』、『Graf Zeppelin』に交代で出撃してもらう」
千歳と千代田は軽空母である『航』を改装したことで、50機以上の航空機を搭載できる。また、Graf Zeppelinも43機と正規空母としては搭載数が少ないため、この作戦に投入が可能であった。
しかも、千歳と千代田より速いため、高速艦隊でも十分ついていける。
搭載機さえ工夫すれば、大きく活躍してくれるだろう。
「次に駆逐艦を1隻。これは持ち回りで動いてもらう。ただし、できるだけ新しく着任した艦娘に担当してもらいたい。今回のワ級を倒すことで実戦経験を積んでもらう」
駆逐艦娘は旧式の睦月型から特型までいるが、まだ新鋭駆逐艦と言える朝潮型などは練度が低いため、今回の出撃で練度を上げさせるつもりだ。
「軽巡と重巡は固定で交代してもらう。軽巡は大淀とSidney、そして重巡はインディに出撃してもらう」
つまり、軽巡は着任して間もない彼らの練度上げをやろうということらしい。
Indianapolisは練度15を超えているが、元々雷装値が低いため、こういった任務の方が向いているのだ。
「提督、私もよろしいのですか?」
着席していた大淀が立ち上がり、思わず音無に尋ねた。
「せっかく艤装が戻ってきたんだ。動かない的よりもいい肩慣らしになるだろう」
大淀も初期の雷装値は0だが、合計12機という豊富な水上機運用能力による弾着観測射撃は十分に強力だ。Indianapolis共々、昼の戦いでは十分活躍してくれるだろう。
いきなり実戦に出してもらえるのが嬉しいらしい。大淀は頬を赤くしながら笑みを零す。
「了解いたしました!」
「それから、戦艦はシャルに任せる。輸送ワ級、つまり輸送艦が相手だ。そうなると……」
「通商破壊を主としていた第三帝国の俺様が適任、ってことだな。よっしゃ、任せときな!」
Scharnhorstも立ち上がり、意気揚々と声を上げる。戦艦同士の殴り合いにも憧れてはいるが、かつての本領発揮ともなるとそれはそれで燃えるらしい。
「なお、最初の艦隊に入る駆逐艦は、朝潮とする。出航は明後日、〇六:〇〇。2回目以降に出撃する駆逐艦は、追って通達する。内容は以上だ。皆からなにか質問はあるか?」
作戦内容と艦隊編成について詳しい説明を受けたので、艦娘たちから質問は出ない。
「よろしい。では、出撃予定の艦娘は艤装の最終点検の後、明日は休息に努めよ。それでは、これにて解散とする。起立!」
音無が号令をかけると、艦娘が一気に立ち上がり、背筋を伸ばす。
「分かれ!」
号令で全員が音無に体を向けて敬礼をすると、音無も敬礼を返す。音無が腕を下ろすと、皆も腕を下ろして正面に向き直し、解散した。
その夜、音無は露天風呂に入りながら思案していた。
「初めての特別任務……一応後方支援ということらしいから、手強い敵は出てこないと思うが……皆に油断しないように改めて……いや、これ以上は過干渉か」
考え事をしていると、つい独り言が多くなってしまう。逆に言えば、それだけ皆のことを心配しているともいうことだが、ようやく音無も『心配し過ぎはよくない』とある程度ではあるが思えるようになってきた。
そして、その隣には千歳の姿がある。
「大丈夫ですよ、提督。きっと、皆も大きな戦果を挙げてくれると思います」
「まぁな。そうだとは思っているんだが……やっぱ、どうしても心配でな」
「ふふっ、そんな提督だから、皆が付いてくるんですよ」
千歳の悪戯っぽい笑顔に、顔を赤らめながらも彼女の腰を抱き寄せた。
「そう思ってくれると嬉しいな。俺も、皆に想ってもらえるのは……とても嬉しい」
恥ずかしそうに、しかしはっきりと言った音無に、千歳も顔を赤らめつつ微笑む。
すると、千歳は傍らに置かれていた猪口と徳利を引き寄せる。
「さて、月見酒と参りましょう」
「あぁ」
千歳が猪口に酒を注ぐと、音無がそれをゆっくりと傾ける。
「うぅん……こういうのも乙だな、って言うべきなのかな?」
「ふふふっ、素直に思ったことでよろしいと思いますよ」
音無も千歳に酒を注いでやる。
千歳は可愛らしく『コクッ』と喉を鳴らして猪口一杯の酒をあっという間に飲んでしまう。
「あぁ……美味しい」
そんな彼女の姿は艶っぽく、思わず音無も理性のタガが外れそうになってしまう。
だが、明日は大事な特別任務の初出撃があるため、今夜は無理をさせてはいけないと音無は自制していたのだ。
もっとも、そう言いつつ千歳の豊かな肉付きの尻を撫でてはいるのだが。
「もう、提督ったら……お尻だけでいいんですか?」
ちょっと挑発するかのような千歳の言葉に、思わずその手を胸に伸ばしてしまう。
湯船の中で『ムニュン』と乳房が歪み、千歳がくすぐったそうな顔を見せる。
「もぅ、提督の意気地なし……」
「いや、だって……明日は大事な特別任務の初出撃だ。無理させて任務に支障が出たらって思うと……つい、な」
「仕方ない人」
そういうと、千歳は自分の手で音無の主砲をしごき始めた。
「うぅっ、千歳っ……」
音無は自分の分身に伝わってくる快楽に抗えず、あっという間に達しそうになってしまう。
すると、千歳はいきなり頭を湯船の中に突っ込み、音無の主砲を咥え込んだ。
「あうっ、出るっ!」
――ビュウッ!ビュビュウッ!
量自体は大したものではなかったが、砲身の中に残った分も吸い出した千歳は、ゆっくりと湯船から顔を上げた。
「お、お前なぁ……」
「うふふっ、気持ちいい」
悪びれる様子もない千歳だが、そんな姿すらも『かわいい』と思ってしまうあたり、すっかり千歳にベタ惚れしてしまっていると自覚する音無であった。
「気遣ってくださるのは嬉しいのですが、大事の前だからこそ、できることをしておきたいんです。ダメ、ですか……?」
上目遣いでそう言われて、『ダメ』と言えるわけもない音無であった。
結局、この後千歳をベッドに連れ込んで滅茶苦茶夜戦するのだった。
大淀とのフラグ改修はもうちょっと後になりますねー。
お楽しみに……