いよいよ今回、この物語において重要なファクターを担うキャラが登場します。
エロ方面で、ですが……
翌日の朝5時、音無は目を覚ますと千歳を起こしてやった。
千歳は起きると素早くシャワーを浴び、昨夜の乱れた姿が嘘のようにテキパキと支度を進めていく。
音無も心配ではあるが、この鎮守府の最古参にして最高練度の、そして自分の愛した女性(ひと)を信じることにした。
2人が執務室へ向かうと、既に今日出撃する艦娘が揃っていた。
改めて彼らの装備を確認する。
○ 朝潮 10cm連装高角砲・五連装(酸素)魚雷発射管
○ Sidney 6inch連装速射砲Mk.XXI(×1)&53cm四連装魚雷発射管(×1)&15.2cm単装砲(×1)
○ 大淀 15.5cm三連装砲&10cm連装高角砲(砲架)(×6)&零式水上観測機(×6)
○ Indianapolis 8インチ三連装砲Mk.9(火力+11・対空+1・回避-1)&5インチ単装高角砲(火力+1・対空+4・回避+4)&SOC Seagull(爆装+1・対潜+1・命中+2・索敵+4・回避+1)(×1)
○ Scharnhorst 28・3cm三連装砲(火力+15・対空+5・命中+1・射程超長)&15cm連装副砲(火力+4・対空+2・命中+2・射程中)(×2)&53cm三連装魚雷発射管(雷装+4・装甲+3・回避+1)&零式水上観測機(×3)
○ 千歳航(改) 零式艦戦62型(爆戦)×24・彗星一二型甲×16・彗星一二型甲×8・15.5cm三連装砲(副砲)(×8)
千歳とScharnhorst以外の艦娘は練度が低いと言っても、十分に正面戦闘が可能な能力を持った艦隊である。
大本営の事前情報によると、今回の作戦では敵に空母がほとんどいないということが判明しているため、千歳に関しては制空権を爆戦で取ってもらい、その勢いで全航空隊に攻撃してもらうという想定だ。
さらに、多数の観測機を搭載しているため、偵察能力及び弾着観測射撃に関しても十分な能力である。
「いよいよ実戦ですね……緊張します」
「心配するな、大淀。お前だって立派な艦娘だ。胸を張って戦ってこい」
音無の激励に胸を熱くした大淀は、目を輝かせながら『はい!』と元気よく返事した。
「それではこれより特別任務『深輸送艦隊掃討作戦』を決行する。総員、出撃せよ!」
艦娘たちは『了解!』と言って執務室を退室、それぞれの艤装を装着して大海原へと飛び出していったのだった。
――特別海域 敵輸送艦隊進路上
「この付近に敵の輸送艦隊が出没するとのことですね」
今回は大淀に旗艦を任せようと音無は決めていた。というのも、『見取り稽古』でこそないが、音無が着任してからずっと、彼女は様々な形で音無の指揮を見続けていた。
その経験を活かしてもらおうという考えであった。
「それでは皆さん、偵察機を飛ばして索敵を開始してください」
各艦から偵察機が発艦していくが、中でも大淀からは一度に6機もの機体が飛び立つ。
しばらく待っていると、偵察機から大淀に報告が入る。
「偵察機より入電!『敵前衛艦隊を発見!軽巡ヘ級1、駆逐イ級2、輸送ワ級3』とのことです!」
「早速来やがったか……俺様の力を見せてやる」
「それでは千歳さん、艦載機の発艦を」
「大丈夫。私に任せて」
千歳から航空機が飛び立っていく。
あっという間に相手の上空に到達する。敵には空母がいないため、そのまま制空権の確保に成功する。
『ヒーハー!』
『ウラウラァ!』
敵の放つ対空砲火をものともせず、荒々しい声と共に急降下した航空機の爆撃が炸裂する。
その結果は……
「戦果確認!『輸送ワ級1隻轟沈、1隻中破、駆逐イ級1隻轟沈』とのことです!」
「流石に数が多いせいか、思ったほどの戦果とは言えませんね……」
千歳としても悔しかったのか、少し歯噛みしている。
「千歳さん、ここからは私たちの仕事です。あとは任せてください」
そして、わずかな時間の後に敵艦隊と接触した。
「今度こそ戦い抜いて見せます!」
Indianapolisの掛け声と共に、敵艦隊を視認する。
射程が『超長』のScharnhorstは既に砲撃可能だが、相手の射程圏内である中距離に近付いてから攻撃するつもりである。
あっという間に接近したところで、大淀が『副砲斉射!』と鋭い声を上げた。
今回の艦隊は千歳以外の全員がフィットする副砲を装備していることもあり、猛烈な砲撃が敵艦隊に雨のごとく襲い掛かる。
そんな猛攻を受けて無事でいられるわけもなく、この攻撃だけで単縦陣で先頭を行く軽巡へ級はもう中破に追い込まれてしまった。
副砲の斉射を終えた直後、全員で砲撃を見舞う。
「先手は2度と取らせません!」
Sidneyの声と共に全艦一斉砲撃を行うと、まずは最後尾を航行していたワ級に命中し、あっという間に海に引き込まれた。
さらに護衛の駆逐イ級、無傷のワ級も海に飲み込まれていく。
だが、軽巡へ級が中破状態で、駆逐イ級が小破状態なため、まだ敵戦力が残っている。
だが、一斉砲撃で乱れた敵艦隊に、今度は千歳以外の全員で魚雷を発射する。
「その荷は置いてけぇ!」
Scharnhorstの声と共に発射された魚雷は、真っ直ぐに敵艦隊に接近していく。その時、軽巡へ級が砲撃準備に入った。
「敵攻撃、来ます!」
敵が照準を定めるのと、魚雷の命中とどちらが早いかの勝負だった。
結果は……魚雷の方が早かった。
「魚雷命中!敵艦隊……全滅!」
最初の戦闘は、なんとか危なげなく終わらせることができた。大淀としては弾着観測射撃を試してみたかったところだが、まずは問題なく終わったことを喜ぶべきだと考えていた。
「敵艦隊の撃破を確認。装備の装填を終えたのち、進撃を続けます」
大淀の指示の下、艦隊は魚雷や副砲弾の再装填を済ませて再び進み出した。
偵察機の用意が整うと、大淀が艦隊に伝える。
「これより、2度目の索敵に入ります。偵察機を発艦させてください」
「よろしく頼むぜぇ!」
Scharnhorstが嬉しそうに言うと、それぞれのカタパルトから偵察機が発艦した。
しばらくして、大淀の元に通信が入る。
「偵察機より入電。『我、敵艦隊を確認。重巡リ級1,軽巡ホ級2、駆逐ロ級1、輸送ワ級2』」
「輸送量より、私たちを追い払える戦力を優先した艦隊ってことでしょうか?」
朝潮が尋ねると、Scharnhorstが『かもな』と返事をする。
「俺みたいな艦に対応できるものをって考えかもな。それでも、輸送の方が大事だから戦艦までは出せないってのがあるのかも」
「だとすると、この先に輸送艦を主とした艦隊が控えているとも考えられますね」
Sidneyの推察に、大淀も頷く。
「ですから、この先の艦隊を叩くためにも、この艦隊も確実に殲滅します。艦載機隊の発艦用意は?」
「いつでも大丈夫ですよ」
千歳の言葉を受けた大淀が頷くと、千歳は再び航空機を発進させた。
発進した攻撃隊はすぐに敵艦隊上空に到着すると、急降下を開始する。
『オンラァ!』
『ドリャーッ!』
「攻撃隊の戦果確認。これは……『重巡リ級小破、軽巡ホ級1隻、駆逐ロ級轟沈、輸送ワ級1隻中破』とのこと!」
「まぁ、十分な戦果でしょうね」
千歳の冷静な分析に、他の艦娘も頷いた。
「このまま突っ込みます!陣形は単縦陣そのまま!」
「了解!」
会敵した敵もすぐに気づいたようだが、輸送ワ級が1隻中破していることで速力も落ちて、艦隊速力はそれほど速くない。
「絶対倒します!」
インディのセリフと共に艦隊が突っ込んでいき、中距離に入ったところで副砲を斉射する。
だが、今回は至近弾が出せなかった。
そのせいか、リ級とホ級が砲撃を開始した。
「きゃぁっ!?せ、潜水艦!?」
攻撃はIndianapolisに命中し、運の悪い彼女を小破にまで追い込んだ。
だが、それ以上好きにはさせないと全員が身構える。
そして、Scharnhorstが砲撃の合図を取る。
「オラァッ!これでも食らえぇ!」
千歳以外の5隻から放たれた砲撃は、旗艦のリ級と1隻のワ級を残して轟沈させる。結果、リ級は大破し、ワ級も中破する。
さらに接近すると、一斉に魚雷を発射した。
「今度は、負けませんっ!」
Sidneyの言葉と共に発射された魚雷は、吸い込まれるように敵艦隊に向かっていく。
敵艦隊は逃げようとするが、斉射された副砲によって足並みを乱される。
そこへ魚雷が接近し、リ級とワ級に命中する。2隻はそれ以上の抵抗をすることができず、ただ水底へ沈んでいくしかなかった。
新たに着任してから演習もせずに実戦に赴き、しかも旗艦を務める大淀としては、敵主力艦隊に直撃するまでは中破以上を出したくなかった……欲を言えば、全員無傷で済めば一番良かったのだが、流石にそうは問屋が卸してくれなかった。
「曲がりなりにも特別海域……能力の高い敵がいないとはいえ、油断はできません」
この海域は『丙』『乙』『甲』の基準の中では『丙』以下の『丁』と言ってもいい難易度であるため、強化型の深海棲艦である『erite』や『flagship』は出現しない『はず』と大本営から言われている。
しかし、大淀はなんとなく嫌な予感がしていた。
それは、チャーが言っていた『パラドックス』である。本来出現しないであろう海外艦娘が多数現れたり、いきなり強力な艦隊が制海権を取り戻そうとしたりしてくるなど、普通では『ありえない』ことが頻発していたことである。
「提督や工廠長も十分注意するように言ってましたし、気を引き締めるに越したことはないですね」
「あぁ、Admiralもすごく気にしてたからな」
Scharnhorstもこの中では古株(数日しか変わらないが)ということもあり、ある程度だが音無の考えを読んでいる。
「いずれにせよ、恐らくこの今回の出撃はあと1回接敵できるかどうかでしょう。くれぐれも油断しないよう……」
「偵察機より入電!」
大淀の思考は、艦隊撃破後に上げていた偵察機の報告を受けたScharnhorstが、いきなり上げた鋭い声によって中断させられた。
「敵輸送主力艦隊と思しき艦隊を発見!内訳は『軽巡ツ級1隻、軽巡へ級1隻、軽巡ト級1隻、輸送ワ級3隻』とのこと!」
「主力輸送艦隊……ツ級がいるのが気になりますね」
そこへ音無から通信が入る。
『ちょっと待った。軽巡ツ級ってなんだ?』
「はい。簡単に言えば『対空戦闘能力の高い軽巡』というべき存在でして、深海棲艦では数少なく、対空カットインを発動してこちらの航空隊を撃墜してきます。一応無印のようなので強化型に比べれば撃墜されにくいとは思いますが……」
『そうか……だが、制空権を取れれば命中率も上がる。多少の撃墜は覚悟のうえで挑むしかないだろう』
「はい。私もそう思います」
『他になにかあったか?』
「シャルさん、他になにか不審な点はありましたか?」
「他に?あぁ、そういや……」
『どうした?』
「いや、輸送ワ級3隻がいるって話だけどよ……後方の2隻が変なんだ」
『変?』
「あぁ。動きが乱れ気味なうえ、他の艦より足がかなり遅いんだ」
『……他には?』
「……偵察機からの報告によると、後方の2隻は『肌が桃色』に見えるそうだ」
『なに!?深海棲艦って、青白い肌じゃなかったのか!?』
「そのはずなんだ。だから気になるんだよ」
Scharnhorstの報告を聞いて、無線の向こうで音無が黙っている。
『……大淀、そのワ級2隻、鹵獲することは出来るか?』
「えっ、鹵獲ですか?」
音無からの突然の提案に、大淀も戸惑っている。いきなりのことでどう返事をしようかと迷っていると、Scharnhorstが大淀に具申する。
「ワ級の装甲(重巡並みの装甲能力)を考えると、超長射程である俺1人の砲撃1回くらいなら中破か大破で済むはずだ。最後尾にいる2隻が中破以上になれば、艦隊の足はさらに遅くなると思う」
「確かに、シャルンホルストさんの主砲なら敵の射程外からも……」
大淀が思案していると、Indianapolisも続ける。
「敵の足並みを遅くしてから、私とSidneyさん、大淀さんの副砲で牽制しながら接近して、近距離で他の艦に確実に命中させられれば、上手くいくかもしれません」
「旗艦のツ級を叩いて撃沈すれば、敵艦隊をさらに乱せます」
千歳の言葉に、Sidneyと大淀も頷いた。
「提督、いけます。いえ、やります!」
IndianapolisにSidneyといった、今まで自分に自信を持てていなかった者たちも自分の分析から『やれる』と判断した。
皆の言葉を受けた音無は、改めて指示を飛ばした。
『分かった。皆、頼むぞ!』
艦隊は意を決し、敵へと接近する。その中で千歳が艦載機を飛ばして敵艦隊への先制攻撃を試みる。
「艦爆隊の皆、先頭から攻撃して敵を削ってちょうだい!」
『リョウカイ!』
『ヤッタレー!』
基本的に敵艦隊を攻撃した場合、僚艦が全て撃沈されなければどれほどのダメージを与えても大破状態になる。
だが、今回は軽巡ツ級がいるため、どのようになるか……。
少しして、攻撃隊から連絡が入る。
「敵の猛烈な対空砲火を受け、5機が撃墜、4機が損傷したとのことですが、それ以外の航空隊は攻撃に成功!『軽巡ツ級大破、軽巡へ級、軽巡ト級轟沈!』とのこと!」
「戦力はほぼ削りましたね。これなら、余裕をもって敵に当たれます」
「旗艦に戦術変更の意見具申。俺の主砲でツ級を狙って撃沈し、その後副砲を撃ちかけて先頭のワ級を狙う、でどうだ?」
Scharnhorstの提案に大淀も乗った。
「それでいきましょう。敵の能力は半減以下と言ってもいいです。残りのワ級も魚雷は使用せず、至近距離からの砲撃で確実に仕留めます!」
『あぁ、それでいこう!』
音無の承認を得られたことで、艦隊は意気を高めて増速、接敵する。
「敵艦隊見ゆ、砲戦、お願いします!」
艦隊が接敵した時、旗艦の軽巡ツ級は黒煙を上げながら航行していた。
既に旗艦としての能力はほぼ失われているようで、艦隊速力は遅く、隊列も乱れている。
しかし、だからと言って今回は全てをあっという間に撃沈するわけにもいかない。
音無の指示もあるので、後方のワ級2隻を鹵獲する必要がある。
「シャルさん、行けますか?」
「誰にモノを言ってやがる。俺は大砲屋だぜ!」
Scharnhorstは飛び立った観測機の報告を待つ。
「修正左5度、上2度……誤差修正よし、今!」
Scharnhorstが放った砲撃は、吸い込まれるように旗艦の軽巡ツ級に飛んで行った。
砲弾は狙い違わずツ級に命中し、ツ級を海の底へと引きずり込んだ。
残ったワ級の先頭は完全に狼狽している。すると、目のいい千歳が気付いた。
「待って。あの後方のワ級……曳航されてる!」
「自分の意志で動いるわけじゃなかったから動きが変だったのね」
Indianapolisの言葉に千歳が頷く。
「だとしてもやることは変わりません。正確に狙いを定めて先頭のワ級のみを撃沈します」
大淀は観測機からの報告を受けながら中距離、そして近距離まで接近した。
ワ級も自衛用の砲を発射しようとしていたため、副砲を撃ちかけて妨害した。
「後方のワ級にも命中してます!」
「落ち着いてくださいSidneyさん!副砲の攻撃では大破まで追い込めますが、撃沈はできません!」
大淀とIndianapolis、そしてScharnhorstの3隻で観測機からの報告をもとに、座標を確認して狙いを定める。
「ここまで細かい調整は初めてだけど……やってみせる!」
Indianapolisの言葉と共に放たれた連続攻撃は、少し後方のワ級に命中してしまったが、ほぼ全て先頭のワ級に命中した。
衝撃で残りの2隻と繋がっていたロープも切れたらしく、先頭のワ級のみが海の底へと沈んで行った。
「やりました!私、今度こそ活躍できました!」
そして、艦隊は残った2隻のワ級に接近する。
「動かないでください。もし攻撃動作を見せた場合、こちらも攻撃します」
接近してみると、ワ級の艦体はあちこちがボロボロであった。すると、項垂れていたワ級が頭をゆっくりと動かした。
思わず艦娘たちは武器を構える。顔全体を覆う仮面を被って顔は見えないが、偵察機の報告通り肌は桃色に見える。補給艦であるからか、人体で腹部と乳房に当たる部分は大きく肥大化しており、大淀は妊婦でも見ているような気分になる。
ワ級は視線が合った大淀と、じっと見つめ合っている。すると……
『オ、オ…オオ、ヨ、ド、サン……』
途切れ途切れではあるが、ワ級が呼んだ自分の名前を大淀は聞き逃さなかった。すると、仮面に入っていた細かいヒビが少しずつ広がり、バカッと音を立てて割れ、海面に落ちる。その顔を見た瞬間、大淀は体の中で血の気が引くのを感じた。
後ろから覗き込んだ千歳も、口元を手で覆いながら目を大きく開く。大淀は震える声で、ある艦娘の名前を呟いた。
「い……伊勢さん……」
大淀は自分の目を疑った。目の前で海の上を漂っている深海棲艦……と思っていた相手は、これまで度重なる建造でも姿を見せなかった艦娘、伊勢型戦艦の1番艦、伊勢だった。
『どうした?大淀、どうしたんだ?返事しろ!』
「か、艦娘です……」
『なに、どうしたんだ?ちゃんと説明しろ』
音無から追加説明を求める声が聞こえると、もう1隻のワ級の仮面も割れた。もう1隻の顔を見た途端、大淀は体が震え出し、千歳は涙を流している。もう1隻は伊勢によく似た顔立ちの女性、2番艦の日向(ひゅうが)だった。
「伊勢さんと、日向さんが……艦娘が深海棲艦にされています!」
『はぁ!?』
音無の狼狽を聞いて、逆に大淀は少し冷静になっていた。改めて大淀は伊勢と日向(ひゅうが)の体を観察する。
「これは……下半身がワ級に飲み込まれている?」
伊勢は『コクリ』と頷いた。
「オ、大淀……サン。テ、提督……ハ?」
長い間声を発していなかったらしく、伊勢の声は震えている。しかし、大淀は自分の顔を見て『提督』の身を案ずる態度を見て、確信を得た。
「え……?ま、まさか!あなたたちは!」
大淀と、そして千歳はなにかに気付いたようだった。
『どうした!?』
「彼女たちは、かつて『私たち』の鎮守府に所属していた、伊勢型戦艦姉妹です!前任提督の時に、轟沈したと思われていた艦娘なんですっ!」
『なにぃ!?』
すると、Scharnhorstが大淀の袖を引いた。
「おい、大淀。なんか来たぞ」
すわ新手の深海棲艦かと身構えた一同だったが、そこに現れたのは、どう見ても深海棲艦ではなく艦娘であった。
「おや、どこかの鎮守府の艦隊か?」
すると、Scharnhorstがその姿を見て反応した。どうやら顔見知りのようだ。
「お前……Thorか!?」
「Thor……雷の神様?」
「いや、違う。こいつは元貨物船の特設巡洋艦、『Thor』。第三帝国に徴用され、世界各地で通商破壊活動をした奴さ」
特設巡洋艦Thor
ドイツが貨客船を改造して送り出した特設巡洋艦の中でも第2位の戦果を挙げた存在である。各地で連合国側の船舶を拿捕、撃沈したのちに日本へ補給に訪れたが、その際に事故で失われた艦でもある。
歴戦のベテランたちが乗り込んでいたこともあり、その戦闘能力は著しく高かったともっぱらの評判でもあった。
「まさか、こんなところでScharnhorstに会えるとはな」
男勝りな口調で話すThorを見ていて、大淀は数日前に着任した時のScharnhorstの姿を思い出す。
要目は以下となる。
○ 耐久 50
○ 装甲 16
○ 回避 30
○ 搭載 1
○ 速力 低速
○ 射程 中
○ 火力 14
○ 雷装 11
○ 対空 14
○ 対潜 11
○ 運 11
まとめると、『重巡に近い体力、強化型駆逐艦に近い装甲値、戦艦並みの回避、低速、巡洋艦と同じ射程、軽巡並みの火力と雷装、低めの対空・対潜値』の、なんとも言いようのない存在であった。
だが、それもそのはず。元が貨客船なので浮力という意味での沈みにくさはあるが、装甲はないに等しい上に鈍重ゆえに回避力も低い。
少なくとも、軍艦同士の殴り合いと言える艦隊決戦に使用できるような艦娘でないことは確かである。
また、初期装備は以下となる。
○ 14cm単装砲
○ 53cm連装魚雷発射管
○ 未装備(×1)
元貨客船という存在故にある程度の容量・余裕があるということからか、初期状態で3スロットを持っているのは面白い。
だが、今の大淀はそれを気にかけるどころではなかった。正直に言って、猫の手も借りたい状態である。
「良ければ手伝っていただけませんか?このワ級に繋がれた2人を、私たちの鎮守府に曳航したいんです」
一方のThorも、今が尋常ではないということを理解していたようだった。
「ふむ……いいだろう。こんな非力でよければ力を貸そう」
こうして、艦隊は伊勢と日向(ひゅうが)を曳航して鎮守府に帰島した。
ScharnhorstとIndianapolisが伊勢を、千歳とSidney、Thorが日向を牽引して鎮守府に戻ると、音無が艦娘やゆりたちと共に港に集まっていた。大淀が先行すると、曳航された伊勢たちが桟橋に繋留される。
「大淀、彼女たちが?」
「はい、伊勢さんと日向さんです」
目の前の無残な姿をしている2人の女性が精神的にどんな状態なのか、音無には全く分からない。しかし、肩を上下させている荒い呼吸は、『なにか』に苦しんでいるということだけは分かる。
「でも、なんでだ。轟沈させれば深海棲艦になるかもしれないんだから、その方が手っ取り早いはずだ……とにかく、医務室に運ぼう。その足を覆ってるやつを剥がして……」
「無理に引き剥がさない方がいい」
音無の指示に横入りしたチャーが、桟橋から2人の体を見る。
「どういうこと、チャー?」
ゆりが尋ねると、珍しくチャーが冷や汗を流している。ギルドにいた時はいつも部下たちを冷静に指揮していたチャーが冷や汗を流しているところなど、ゆりは見たことがない。
「まさか、パラドックスの影響でこんなことまで起きるなんてな」
「心当たりがあるのか、チャー?」
今度は音無が尋ねると、チャーが小さく頷く。
「恐らく、鹵獲改装されたんだ」
「鹵獲改装?」
「本来のゲームシステムには存在しない、プレイヤーや視聴者の二次創作でこういった設定を使っていることがあるんだ。十八禁ネタの1つとしてな。敢えて艦娘のまま鹵獲して改装し、深海棲艦たちの補給艦とする。敵のエネルギー源として使われ続けるうちに精神の安定を欠き、艦娘たちは次第にその現実を受け入れて闇へ落ちていく。そんな背徳感を刺激するシナリオを考えるやつがいるのさ」
「じゃあ、彼女たちは……」
「俺たちがこの世界に介入したことで、鹵獲改装という新たな現象が盛り込まれ、深海棲艦でも艦娘でもない中間の存在としてここにいる、というわけだ」
それを聞いていた日向(ひなた)が、ゆりにアホと言われている頭で考える。
「つまり改装されたことで、この浮きみたいなやつは彼女たちの一部になってるから、下手に引っこ抜くと彼女たちの体が駄目になるって話か?」
「状況から考えて、間違いなさそうですね」
そこに高松も割り込む。音無の横で、直井もふむと息をつきながら言う。
「これをもし艤装と考えるなら、本来戦艦である彼女たちを補給艦に無理矢理改装する端末のような役目を持っているのかもしれません」
「体を変えたってことは神経組織に絡んでる可能性があるから、ただ壊すだけじゃダメか」
最後にゆりも入り、久しぶりに戦線のメンバーを交えた話が続いた。しかし、音無の表情は険しいままだ。すると、震えながらも首を上げて、日向(ひゅうが)が音無の顔を見上げる。
「あな、たは?」
その疑問に大淀が答える。
「音無結弦提督。『あの提督』が殉職されて、後任として派遣された新しい司令官です」
「そっか、やっぱり……」
曳航されている間、伊勢たちは『もしや』と思っていたらしい。その事実を聞かされて、少し俯いていた日向(ひゅうが)がもう一度音無の顔を見上げる。
「音無提督、頼みがある」
「なんだ?」
かなり憔悴している音無の思考に、彼女たちの言葉が追い打ちをかける。
「もし貴殿に慈悲があるのなら……私たちを、沈めてくれ」
日向(ひゅうが)の言葉を聞いて、千歳と千代田が絶句している。大淀も、言葉が見つからないらしい。
「私たち、何百回も、何千回も、奴らに補給していた。動けなくて、逆らえなくて、でも、そんな行為を気持ちいいとすら思わされていた……そして、ずっと……奴らの破壊の片棒を担いでた。こんな、こんな醜い姿を、もう晒したくない……」
そう語る伊勢の頬を、一筋の涙が流れる。泣いている伊勢の代わりに、日向(ひゅうが)が話を続ける。
「だから、私たちを沈めるか、解体して資源に変えて欲しい。私たちを解体した後なら、作戦成功か建造で『新しい私たち』に会える。わざわざ、こんな使い物にならない『モノ』を、残さなくていい……」
さらに伊勢が続けた。
「もしそれも無理なら……港の隅に繋留して、燃料タンク代わりに使ってください……もう……敵に使われ続けるくらいなら……いっそ……」
その時、音無が顔を上げると、『キッ』と2人を睨んだ。
「バカ野郎!」
その言葉に2人はハッ、と顔を上げた。
「最後まで諦めるな!なにか、なにかお前たちを元の艦娘に戻す方法があるかもしれないじゃないか!その可能性を模索もしないで、諦めるんじゃねぇ!」
「てい、とく……」
「だが……私たちの体は……」
「やって見なけりゃ分からない!」
音無の強い意志を宿した、燃えるようなギラギラした瞳を見た伊勢と日向(ひゅうが)は、思わず固まっていた。
「俺は……俺はかつて『前世界』で、救えたかもしれない命を救うことができなかった。だから……『この世界』では、俺の仲間は誰1人失わせないっ!」
音無は立ち上がると、鋭く声を張り上げた。
「大淀っ!戦艦と空母を全員集めろ!この2人を医務室へ‼」
「え……」
「復唱は!」
「はっ、はい!直ちにっ‼」
大淀の非常呼集を受けた戦艦、空母たちが駆け寄ってくる。その中には千代田の姿もあった。彼女も伊勢と日向(ひゅうが)のことはよく知っている。
そんな彼女たちがこのような姿で辱められていたということに、千代田はいつになく怒りの顔を見せていた。
戦艦と正規空母の最古参、榛名と蒼龍の『せーの!』という声を合図に、艦娘たちで伊勢と日向をヒョイと持ち上げた。
運ばれる2人に音無は付き添うように走る。
「てい、とく……」
「諦めるな。お前たちはまだ生きている!生きている以上、1%でも可能性があったら諦めるなっ‼」
その音無の真剣な表情を見た伊勢と日向は、胸の奥が熱くなるのを感じた。
「(本当に……助かるの……?)」
と、いうわけで一部のマニアならばご存知かもしれないワ級化艦娘です。
とある二等軍曹殿のイラストから着想を得たものですが……面白い、エロいと思っていただければ幸いです。