個人的に大好きなんですよー、グラーフさん。
はやみんボイスが凛々しく美しく、堂々としていて……おっとこれ以上は
復帰初日で航空戦艦へ改装した伊勢と日向の快気祝いで盛り上がった翌日、音無は秘書艦の神通に特別任務の進捗状況を聞いていた。
「大本営が確認している輸送艦隊は、任務開始前の46%まで減少しているようです。このペースで進めていきますと……」
「最低2回、もし仕留め損ねるようなら3回は出撃しないといかないってことか」
「はい。それに、伊勢さんたちの話が事実であれば……」
神通が辛そうに口を紡ぐと、音無は伊勢と日向を励ました(大淀たちに言わせれば口説き落とした場面)時のことを思い出す。
「伊勢、翔鶴と加賀は無事に救出できた。他に、お前たちと同じ目に遭った艦娘がいたか、心当たりはないか?」
音無が尋ねると、伊勢はフルフルと首を横に振る。すると、日向が下唇に指を当ててなにかを考えている。
「日向?」
「実は、私は伊勢が鹵獲されてから、しばらく海を単艦で彷徨っていていたんだ。私が鹵獲された時には、伊勢はもう鹵獲改装されていたんだが……その時に伊勢の傍らにもう1隻の鹵獲改装艦がいた」
「本当か!?顔は?見てないか?」
「すまない。その時にはその艦娘も鹵獲改装されていて、艤装の仮面をつけていて顔までは見れなかった。ただ……」
「ただ?」
「私たちや加賀たちの例を考えると、空母かそれに類する艦だったのは間違いないと思う。それと、仮面の隙間から桃色らしい髪を見た気がする」
「ピンク色の、髪の毛……」
日向が教えてくれた手掛かりを元に、音無は朝から前任提督が残した艦娘の資料を端から読み漁っていた。
「提督、お食事を摂って時間も置いてないのですから、少し休まれては……」
「そうしたいが、頭がモヤモヤしたままじゃ仕事も進みやしない。せめて、鹵獲された艦娘の目星だけでもつけておかないと……」
すると、執務室の扉をノックする音が聞こえたので、音無は「どうぞ」と返事をする。
「Good Morning Admiral」
「あぁ、おはよう、ホーネット」
入ってきたのは、黒のパンツスーツに身を包んだ金髪の美女であった。彼女はアメリカのYorktown級航空母艦の3番艦、Hornet(ホーネット)。音無が空母を含めた大量建造をした時に着任した空母の1人である。
「どうした?」
「朝食の後のCoffee Breakでもと思ったのだけど……取り込み中だったかしら?」
音無もコーヒーは大好きだが、今はちょっとそれどころではなかった。
「悪いな、せっかくのお誘いなんだが、確認しておきたいことがあって……」
「?……Air Craft CarryerのLyst?誰か探しているの?」
「あぁ……桃色の髪を持った空母っているのかなって思ってさ。昨夜日向から聞いた話に、『桃色の髪をした艦娘が改装されていた』って聞いたんだ。日向たちの例を考えればまず空母だろうって思ったんだが……ホーネット?」
すると、Hornetは『Really?』と言いながら顔を青ざめさせていた。
「なにか心当たりがあるのか?」
「……私の知っている空母で、Cherry・Hearを持っているのは……Sister・SARAよ」
「シスター・サラ?」
Hornetは『Yes』と言いながら頷いた。
「Lexington Class Air Craft Carryer、№2。Saratoga……それが彼女の名前よ」
音無は急いでアメリカの空母リストを開いた。
「サラトガ……あった、レキシントン級航空母艦の2番艦……確かに、桃色の髪を持っているな」
音無が開いた写真には、グラマラスな美しい女性が写し出されていた。
サラトガ。1927年に竣工した、レキシントン級航空母艦の2番艦である。元々は巡洋戦艦になる予定で建造されていたが、軍縮条約の影響でこの2隻は空母へ改装されたという経緯を持つ。
同じ年代で全く同じ経緯を持つ存在として、赤城と加賀の存在がある。彼らもまた『天城型巡洋戦艦』、『加賀型戦艦』になる予定だった船が軍縮条約によって改装された空母である。
これら4隻の特徴として、まだ航空母艦という存在の運用に迷いがあったという点から、重巡洋艦と同じ20.3cm砲を多数搭載していたというものがある。
これは、当時考えられていた空母の主な役目が最前線での偵察で、万が一敵の軍艦と鉢合わせた時にある程度砲戦が可能なようにという考えであった。
もっとも、実際には太平洋戦争においてこの主砲が火を噴くことは全くなかったのだが、これに近い設計思想は、現在鎮守府に着任しているGraf Zeppelinが受け継いでいるのだが、こちらは通商破壊の際に商船に接近した際に砲戦で敵を沈黙させるという目的だったため、違うと言えば違う。
そして、Hornetについてきた大淀も思い出す。
「確かにサラトガさんは、以前この鎮守府にいらっしゃいました。優秀な空母で、一航戦や二航戦らと並んで、常に最前線で戦い続けた歴戦の強者でした。ですが……彼女についても襲撃後の消息は知れません。一応『轟沈』扱いになっていますが……」
音無は他の空母を確認したが、金髪や赤い髪は確認できたものの、紫色の髪を持つ隼鷹以外で『桃色、あるいはそれに近い色の髪』を持つ空母系艦娘は見つからなかった。
「もし仮にサラトガだとしても、こうだと決めつけるのは危険だ。だが、まだ鹵獲された艦娘がいる、という想定で動くべきだろうな」
「はい、私も賛成です」
神通に続くように大淀やHornetも頷いた。
「この特別任務の出撃……最後まで気は抜けないぞ」
その後、音無は今日出撃する艦娘たちを改めて集合させた。
出撃する艦娘は以下となる。
○ 大淀 15.5cm三連装砲改・紫雲(×6)・15.5cm三連装砲改・10cm連装高角砲(砲架)
○ Sidney 6inch連装速射砲Mk.15.2cm単装砲・零式水上観測機
○ Indianapolis 8インチ三連装砲Mk.9・5インチ単装高角砲・SOC Seagull
○ 鈴谷 15.5cm三連装砲改・10cm連装高角砲(砲架)・瑞雲12型(六三四空)熟練・熟練艦載機整備員
○ Scharnhorst 28・3cm三連装砲・15cm連装副砲・33号対水上電探・零式水上観測機
○ Graf Zeppelin 零式艦戦62型(爆戦)×20・Ju87C改二(KMX搭載機)×13・10.5cm連装砲
なお、鈴谷の『熟練艦載機整備員』は、チャーが妖精さんと共に作り出した新たな装備(という名の妖精さん)だ。
以前も熟練見張り員を作り出したことがあったが、それに匹敵するどえらいことをやらかしたため、最初見た艦娘たちが茫然としていたのは別の話。
しつこいようだが敵に空母戦力がいないことは分かっているため、制空戦闘の必要がないのでGraf Zeppelinの搭載機は『Bf109T改』から『零式艦戦62型(爆戦)』に換装済みだ。
「爆撃機のスツーカはともかく、戦闘機もルフトバッフェの精鋭の方がいいのだが……仕方ないな」
それだけは不服らしく、若干膨れている。
そんなGraf Zeppelinの肩を音無が『ポン』と叩く。
「お気に入りが使えないと、確かにテンション落ちるよな」
「あ、いや。すまない……」
「いいや、不満がある時は溜めないでくれ。不満を抱えさせたまま海に出すのは、俺も望むところじゃない」
「Admiral……」
「でも、この特別任務はただ勝てばいいだけじゃない。取り戻せるかもしれない、仲間の命がかかっている。だから、頼む」
そう言って、音無はGraf Zeppelinに頭を下げた。それまでクールに接していたGraf Zeppelinも、流石に動揺した。
「あ、頭を上げてくれ、Admiral。作戦に適応した装備を選択するのは、軍人として当然だ。あなたが下した決断は尤もだし、こんな大事な作戦に参加させてもらえるのも光栄だと思っている。だから……」
音無もGraf Zeppelinを困らせていることを感じたらしく、苦笑いしながら頭を上げる。
「すまない。お前を困らせたいわけじゃなかったんだ。確かに鹵獲艦救出もあるけど、お前が掃討戦以外で出撃するのが初めてだから、ちゃんと勝てる用意をしたかったんだ」
音無が照れ臭そうに言うと、Graf Zeppelinは自分の発言の浅はかさを痛感した。戦いに最適な装備を遣うのは、戦士として当然のこと。しかし、音無の目的がただの勝利だけでなく、自分のことに配慮してくれたと知り、その場に膝を着いた。
「お、おい、グラーフ?」
「すまなかったAdmiral。そんなことを考えてくれていたのに、私はなんと浅ましい発言を……自分の不平を真っ先に口にして、Admiralのご配慮を疎かにして……本当に申し訳ない」
音無がどのように声をかけようか悩んでいると、Graf Zeppelinは自分で立ち上がり、音無に視線を向ける。
「Admiralのお気持ち、艦載機と共に確かに格納した。艦隊の空は私が守ろう」
その堂々とした姿を見て、音無も安心する。
「ああ、その代わり、足元は安心して皆に守ってもらえ」
「そうだぜ、Graf。頼るのは罪じゃねぇよ」
先に音無のやり方を見てきたScharnhorstがニカッと笑いながら言うと、Graf Zeppelinもフッと口角を上げた。
「Danke」
こうして、この日も特別海域へ艦隊が出港する。
――特別海域 深海棲艦輸送経路
再び大淀を旗艦とした艦隊が海原を突き進む。大淀を始め、各艦からは偵察機が随時発艦して敵を捜索している。
「敵艦隊発見!『駆逐ロ級2隻、輸送ワ級4隻』とのこと!なお、ワ級は通常のワ級と考えられるとのことです!」
「護衛が駆逐艦2隻だけか……敵もなりふり構っていられなくなった、って感じかね。Graf、頼むぜ」
「あぁ。稼働機は全部出せ!」
Graf Zeppelinの合図で、零式艦戦62型(爆戦)を先頭に艦載機が発艦していく。そして、あっという間に敵艦隊上空に到着した。
『提督バンザイ!』
『我ラガ艦長ニ栄光ヲ!』
瑞雲を含めて急降下した爆撃隊の攻撃を受けた敵艦隊は、あっという間に打撃を被った。
「攻撃隊より報告!『駆逐ロ級1隻轟沈、1隻大破。輸送ワ級2隻轟沈』とのこと!」
「おぉ、大打撃じゃねぇか!」
すると、Graf Zeppelinは恍惚とした表情で言い切った。
「あっははは……痛快だな」
やはり空母として建造されたからには、艦隊決戦において艦載機による航空攻撃を見舞いたかったようだ。
これまでは掃討艦隊として出撃していたが、今回初めて主力艦隊としての出撃ということもあって、Graf Zeppelinはかなり高揚していた。
だが、それだけにScharnhorstが釘を刺した。
「Graf、気持ちは分かるがあまりはしゃぐなよ。それこそAdmiralに怒られちまうぜ」
「む……気を付けよう」
音無に怒られる、と言われてはGraf Zeppelinも深呼吸して気持ちを落ち着けることにした。
「スー、ハー……うん。もう大丈夫だ」
その姿を確認したScharnhorstはニカッと笑って見せた。
「っしゃ、んじゃ行くとすっか」
それでも次の艦隊に接敵すると、またもGraf Zeppelinは昂ぶりを抑えきれないようだった。
「敵艦隊発見か……よろしい、攻撃隊、発艦始め!蹴散らすぞ!」
「だーかーらー程々にな、って言ってんのに……」
「まぁまぁ、シャルさん」
「私も初めて実戦に出た時はあんな感じでしたから」
Indianapolisと大淀にフォローされては、Scharnhorstも『しゃあねぇな』と笑うしかない。
そして、ヨタヨタと航行する敵艦隊に接近すると、まずはセオリー通りに副砲を斉射する。なお、Graf Zeppelinも『10.5cm連装砲』を装備しているため、副砲による砲撃が可能となっている。
「オラオラオラァ!」
ここまで来るとScharnhorstも昂っており、それを自制する気配もない。
と、なればGraf Zeppelinも同じく砲を発射して、敵艦隊を混乱に陥れるのだった。
そして、敵艦隊の射程に入ったところでSidneyが叫ぶ。
「もう、惑わされませんっ!」
「一斉射‼」
艦隊による主砲の一斉射を受け、満身創痍だった敵艦隊はあっという間に海の底に引きずり込まれていった。
「よし、これでまずは1勝だな。とにかく索敵を重視しないと……」
Scharnhorstの言葉に全員が頷いた。
その後、再び偵察をしながら航行を続ける。途中でまた戦闘をし、高速修復材を拾いつつ、さらに航行していると、Scharnhorstの33号対水上電探に反応があった。
「ん?この反応は……艦娘だな。それも艦隊で行動している」
「えっ?」
ゆっくりと近付いていくと、軽空母の祥鳳を旗艦とした艦隊がゆっくりと航行していた。
「どこかの鎮守府の艦隊ですか?」
大淀が問いかけると、祥鳳が『はい』と答えた。よく見るとその後ろには、軽巡洋艦の長良、五十鈴、神通、そして重巡洋艦の古鷹と加古が従っている。
「そちらも通商破壊活動中ですか?」
「えぇ。こちらはボルネオ島鎮守府の汚野提督率いる艦隊です。先ほど、ワ級を中心とした艦隊を1つ潰したところです」
大淀が観察する限り、まだどの艦も改装されていないようだ。そのことに気付いているのか、祥鳳を始めとするボルネオ鎮守府艦隊はこちらを見て驚いていた。
なにせ、つい先日艤装が見つかったばかりの大淀と、主力艦隊へ編成されたのは初めてのGraf Zeppelin以外の4人は、度重なる演習と実戦によって練度が向上しており、改装されているのだ。
そして、祥鳳(ボルネオ)は、もう1つ驚いていた。
「(あれ……?あんな艦娘、いましたっけ?)」
それは音無艦隊のSidney、Indianapolis、Scharnhorstのことだった。
「こちらはタウ……SSS鎮守府の艦隊です」
本当は島のあるタウイタウイ泊地の名前を名乗るべきだと思ったのだが、提督(音無)を始めとする死んだ世界戦線のメンバーの濃さから、そう名乗るべきだろうと判断したのだ。
「私たちは汚野提督の指示で通商破壊をしていたのですが……そちらには見たことのない方がいらっしゃいますね?」
「はい。こちらからSidneyさん、Indianapolisさん、シャルンホルストさんです」
「Sidney……オーストラリアのPerthの妹、Indianapolis……Portland級重巡洋艦の2番艦……シャルンホルスト……ドイツのシャルンホルスト級戦艦の1番艦……?そんな艦娘がいたのですか?」
「えぇ、まぁ……色々ありまして……」
大淀としても説明が非常に困難なこともあり、そう言う外なかった。
「ここで会ったのもなにかの縁です。情報交換といきませんか?」
「はい、こちらも願ったり叶ったりです」
祥鳳の言葉に大淀も頷くと、いくつかの情報を交換していった。だが、その中に気になる情報があった。
「え……通常のワ級と異なる形態のワ級、ですか?」
「はい。私たちも遠目に見ただけでしたが、あれは明らかにワ級系列(EliteやFlagShip)でありながら、なにか異様な雰囲気を放っておりました」
「なにか特徴はありましたか?」
「特徴……その時それを見た駆逐艦の白露曰く、ワ級と同じく肥大化した腹部が見えましたが……もう1つ、頭に『桃色の髪』が見えたそうです」
「!」
もしかしたら、鹵獲改装されたSaratogaかもしれない。大淀はそう考えていた。
だが、『通常のワ級と異なる形態』というのが気になる。
なにか、これまでにない特殊な改装を施されたのだろうか。
「その艦隊は最後尾の異形ワ級以外が全て輸送ワ級のFlagShipで構成されていました。なお、旗艦は『輸送ワ級FlagShip改』です」
輸送ワ級はElite以上になると自衛砲撃をしてくるが、FlagShip以上となるとその威力はちょっとした巡洋艦並みになると言われている。
それをさらに改装した存在となると……どれほどのモノか想像ができなかった。
「印象としてですが、攻撃力はともかく、かなり打たれ強い艦隊に見えたとのことです。どうか出くわしたときはご注意を」
「ご忠告、ありがとうございます」
どうやら、彼らの提督である汚野某殿も異形ワ級のことは警戒しているようだ。
情報交換を終えた後、艦隊は離れて再び敵を求めて動き始めるのだった。
「なぁ、大淀姐さん。『異形』ってどういうこった?」
「もしかしたらですけど……Saratogaさんは深海棲艦の強化型である『鬼』か『姫』級に改装されているのかもしれません」
それを聞いた一同は固まった。
鬼級や姫級は攻防含めて全てがとても手強く、倒すには相応の練度と装備が求められると言われる強化型深海棲艦だ。
そんな敵がいるという話は、少なくとも大本営からの事前情報にはなかった。
「……提督、お聞きになられたでしょうか?」
『あぁ。サラトガがそうなっているとしたら……鹵獲は難しいかもな。無理してお前たちが沈むようなことになったら元も子もない』
「了解です。しかし、私たちはこれまで提督がなさってきたことを信じます。だから……もしその異形ワ級を鹵獲するというのであれば、私たちは全力でそれに挑みます」
大淀の頼もしい言葉に、思わず音無も『あぁ』と頷くのだった。
「では、索敵を続けます」
その後、艦隊はさらに航行すると、新たな敵艦隊を偵察機が発見した。
「敵主力艦隊と思わしき艦隊を発見!『重巡リ級Elite1隻、軽巡へ級Elite1、輸送ワ級Elite2隻、無印ワ級2隻』とのことです!」
ついに、Elite級の敵艦が多数出現するようになった。どうやら、敵艦隊も少しずつ強化されているようである。
「シャルさん、ワ級の様子は?」
Scharnhorstはさらに偵察機からの報告を受ける。
「あぁ。鹵獲艦娘はいないようだ。全員『肌は青白い』ってよ」
それを聞いた面々はホッとする。今回は容赦なく、全力で相手を叩き潰すことができるからだ。
「よし。Graf、頼んだぜ!」
「稼働機は全部出せ!」
Graf Zeppelinの合図で艦載機と瑞雲が飛び立っていく。
『イケヤオラー!』
『ウオオォォォォッ‼』
敵には空母がいないため、余裕で制空権を確保して急降下できた。
その結果は……
「攻撃隊より報告。『無印ワ級1隻轟沈、軽巡へ級Elite、無印ワ級中破』とのことです……」
「おっと……簡単にはいかないな。強化型が多いってだけはあるな」
これまでは全てが無印だったため、対空砲火もそれほど大したことがなかった。だが、改装されていることで能力が向上しており、思ったほどの戦果は出せなかったようだ。
「では、艦隊決戦で決着をつけましょう」
大淀の言葉に全員が頷く。
「エンジン、あったまってまいりましたぁ!」
接敵と同時に、Scharnhorstから観測機が飛び立っていく。つまり、弾着観測射撃の準備だ。
艦隊が最大船側で接近すると、中距離に入った瞬間にリ級Eliteとへ級Eliteが発砲してきた。
「敵艦発砲‼」
回避運動を取ろうとした時、砲弾が一気にIndianapolisに命中した。
「きゃぁっ!?ま、真っ二つになんてならないんだからっ‼」
なんと、へ級Eliteが中破しているにもかかわらず、いきなりIndianapolisが中破にまで追い込まれてしまった。
「ちっ!これでも食らえっ‼」
艦隊が一斉砲撃を行うと、残っていた無印ワ級とへ級Eliteが命中弾により瞬く間に轟沈していった。
だが、敵艦隊もお返しと言わんばかりに砲撃準備をする。
「副砲、一斉射‼」
艦隊から放たれた副砲の嵐は敵艦隊を襲い、敵の動きを大きく乱れさせる。
そして、敵に丁字有利を取ったところで魚雷を発射する。
「うわっ、キモッ!」
放たれた魚雷は進んでいき、近づいていた敵艦隊に突っ込んだ。
「当たれ!」
直後、激しい爆炎と共に輸送ワ級Elite1隻が沈んでいった。さらに、もう1隻も大破にまで追い込まれていた。
しかし、その直後再び敵艦隊が発砲する。今度の目標は、SydonyとScharnhorstだった。
「きゃ!?あ、相撃ちになってでもっ‼」
Sydonyは中破し、Scharnhorstも小破に追い込まれる。
「ちっ、想像以上にやるぞ!」
だが、そこで観測機からの報告が入った。
「誤差修正マイナス1度、下方修正1度……ここだっ‼」
改めての全艦隊による砲撃で、ワ級Eliteは轟沈、重巡リ級Eliteも小破した。
「もう1発、魚雷撃てっ!」
放たれた魚雷は勢いよく進んで行ったが、なんとリ級Eliteはこれをかわして見せた。
すると空が赤くなり、日が落ち始める。
「提督、時間的にこれから夜戦に突入します。突入の許可を」
『よし、そいつを倒せっ‼』
「了解ですっ‼」
暗くなった海域では、電探以外では探照灯や照明弾が頼りになる。だが、今回はScharnhorstの33号対水上電探以外に夜戦向けの装備がない。
命中はScharnhorst頼りとなるだろう。
敵がこちらの姿を探している間に、Scharnhorstの電探は姿を捉えた。
「見つけたぜ……艦隊、一斉射‼」
直後、Scharnhorstの体が金色に光り始めた。
「艦隊決戦望むところだ‼撃てぇーっ‼」
全員(夜戦砲撃可能なGraf Zeppelinを含めて)の砲撃が、リ級Eliteに炸裂し、リ級Eliteを撃沈することに成功した。
「考えてみれば音無提督が着任されてから初めての夜戦でしたが……うまくいきましたね」
「今までが上手くいきすぎてたんだよ。気を引き締めるにゃ十分だ」
すると、闇夜の中からなにかが姿を現した。
「電探に反応あり。艦娘だな。これは……大きさ的に戦艦か?」
そして、その艦娘と出くわしたScharnhorstは、驚愕の表情でその子を迎えることになるのだった。
「お前はっ‼」
鎮守府に帰投した艦隊は、傷を癒すべく入渠場へ向かった。Scharnhorstは先に音無のところに行きたそうな顔をしていたが、Graf Zeppelinが『私が代わりに行く』と説得したことで彼女も入渠させたのだった。
大淀は今回の出撃に関する報告書を書くため、新しい艦娘についてはGraf Zeppelinが報告することにした。
「Admiral。今日も全員無事に帰ってこれたぞ」
「あぁ、お疲れ様だったな。で、どうだ?」
「あぁ。彼女のことを紹介しないとな。入ってくれ」
執務室に入ってきたのは、かなりScharnhorstに似た雰囲気の艦娘だった。
「Guten Tag。私はScharnhorst級戦艦の2番艦、Gneisenauと申します」
「えっ、シャルの妹か!?」
Gneisenau
Scharnhorst級戦艦の2番艦で、常にScharnhorstと共に行動しており、空母Glowriasを撃沈した時や、ドーバー海峡を突破した『チャネル・ダッシュ』の際も一緒だったほどであった。
だが、その最後は……
「確か、大型艦を沈めて港湾を閉塞する作戦において、グナイゼナウは沈んだ、だったな?」
「はい。本当であれば姉と同じく戦艦との殴り合いで沈みたかったのですが……仕方ありません。こればかりは時の運と申しましょうか」
「そうか……だけど、ウチの艦隊に来たからには、失礼かもしれないが、総統閣下のように港に閉じ込めておくようなことはしない。できるところで出撃してもらうからな、頑張ってくれよ」
「はい、お任せください」
ちなみに、Gneisenauはほぼ全てがScharnhorstと同じ数値を持っているが、唯一運だけは自沈したということを踏まえてか『6』と低めである。
だが、早い足と超長射程の、それも精度の高い砲撃は大きな力となるだろう。
そんなGneisenauを、同じ戦艦の榛名が戦艦寮へ案内する。
すると、入れ替わりでDeytschlandが入ってきた。
「Admiral、ただいま帰投しましたわ」
「お疲れさん。どうだ?掃討艦隊は」
「確かに、実戦の空気を味わいつつ肩慣らし、という意味ではよい試みだと思いましたわ。弾着観測射撃、動目標への魚雷発射など、実戦でないとできないことも多数ありましたから」
「そうか、そう思ってくれたならよかったよ。で、何人見つけた?」
Deytschlandが手招きすると、7人の艦娘が入ってきた。
「白露型一番艦の白露です!はい、一番艦です!」
「陽炎型駆逐艦四番艦、親潮です。司令、第十五駆逐隊、どうぞよろしくご指導ください。お願いいたします!」
「陽炎型駆逐艦十二番艦、磯風。大丈夫。私が護ってあげる」
「陽炎型駆逐艦、十七番艦、萩風、参りました。司令、ご指示をお願いします」
「ぴゃん♪阿賀野型軽巡四番艦、酒匂です!司令、よろしくね!」
「こんにちわあ。潜水母艦大鯨です。不束者ですが、よろしくお願いいたします」
「練習巡洋艦、香取です。心配しないで……色々と優しく、指導させて頂きますから」
「指導ってなんの!?」
音無は香取が鞭を手にしながら『指導』と言ったものだから、夜戦の意味も含まれているのかと思ってしまう。
というか、今回は全体的に豊満な子が多めである。
本来幼い体躯のはずの駆逐艦でさえ、豊満な子が多い。というか、軽巡である酒匂よりも胸元だけで言えば豊かな子ばかりである。
もっとも、酒匂に関しては完成したのが大戦も末期の頃ということからか、栄養失調気味という扱いらしく他の姉3人に比べるとスレンダーな体系となっている。
だが元々、白露型及び陽炎型は体系的に高校生に近い雰囲気である。
特型駆逐艦系列までは中学生っぽい雰囲気の子ばかりなので、前回着任した天津風や秋月型のように自分たちに近い雰囲気の駆逐艦は、本能的に親しみが持てる。
それはそうと、潜水母艦と練習巡洋艦は初めての艦種であった。
「えぇと……潜水母艦は潜水艦に対する補給、乗員の休養を目的とした艦であり、艦娘としては潜水艦娘の魚雷発射までのリロード時間を短くする、だったな」
「はい。戦闘は苦手ですが、皆の補佐はできますっ」
「じゃあ、ある程度演習をしてもらってから、潜水艦と一緒に頑張ってもらおう」
そして、どうでもいいことだが胸部装甲の厚みがすごい。
恐らく、祥鳳や千歳などのように補給の役目を担っていた(祥鳳の前身は潜水母艦・剣埼である)ことから、『補給』の意味合いで豊満なバストなのだろう。
続いて、音無は香取の方を見る。
「えぇと。練習巡洋艦は、実戦は苦手だけど、艦隊演習においてその練度向上に大きな能力を発揮する、か?」
「はい。速度も遅く火力もそれほど高くないので戦いには向きませんが、そういった形で皆さんの力になれればと思います」
大人っぽい見た目と、練習巡洋艦という立場だからこそ、『女教師』っぽい雰囲気なのだろう。とはいえ、その妖しげな雰囲気は陸奥や如月に近いものがある。
「えぇと……提督の音無だ。皆には最初、演習をしてもらう。その後、掃討艦隊を経てから実戦に参加してもらうことになる。頼んだぞ」
艦娘たちは『了解!』と頷くと、それぞれの仲間に案内されて寮へ向かうのだった。
ちなみに、大鯨は潜水母艦なので潜水艦寮(と言っても、今はイクしかいないが)へ、香取は近い立場ということもあって軽巡寮へ向かうのだった。
音無は椅子に座り込むと、大淀がまとめてくれた報告書に改めて目を通す。
「……輸送ワ級の変異種、か。サラトガ……もしお前なら、できれば助けてやりたい」
すると、執務室をノックする音が響く。
「どうぞ」
すると、入ってきたのは陸奥だった。
「提督、いいかしら?」
「どうした?」
陸奥の手には、ウイスキーの瓶が握られていた。
「ねぇ、不安なのはわかるけど、一杯くらい付き合ってくれないかしら?」
音無も思考が若干硬直していたと感じたのか、その誘いに乗ることにした……のはよかったのだが、ウイスキーと日本酒とでは勝手が違ったようで、呆気なく轟沈し、そのまま陸奥によってベッドに引きずり込まれて爆睡してしまうのだった。
「あらあら♡可愛いところあるじゃない」
と、いうわけで、残っているらしい鹵獲改装組の正体が徐々に見えてきました。
あと、今回別鎮守府の艦娘が出てきたことで分かったと思いますが、同じ名前、姿の艦娘も別の鎮守府にはちゃんと存在します。
それはそうと、汚野提督っていったいどんな人物なんでしょうねー(棒読み)
名前を見ただけでその正体が誰か分かったなら……結構なマンガ好きかもしれませんね(ふひひ)
いずれ明らかになる時がきますので、それまで色々可能性を考えてください