音無が新たな艦娘たちを受け入れた2日後、大本営から音無宛に情報が届いた。
音無はチャーに意見を仰ぐべく、開発工廠でその話をしていた。
「……北方海域のとある島嶼部に出現した、『姫』級の深海棲艦、『北方棲姫』か……」
「はい。以前キス島から撤退する途中の陸軍部隊がそれらしい姿を確認したそうです」
わずかな写真だけだが、その姿が写し出されており、音無は大淀、千歳と共にそれを確認していた。
そこには、肌から服、髪の色まで真っ白な少女が写っていた。
「……見た目だけなら駆逐艦の子と見間違えそうなほどに小柄だな」
通りかかった大山と藤巻、松下も覗き込む。
「うわぁ、敵にこんなこと言うの変かもだけど可愛いなぁ」
「へぇ。深海棲艦ってのも色んなのがいるんだなぁ。肌とか髪の毛を除けばほとんど普通の人間の女の子にしか見えねぇよ」
「うぅむ。見た目で判断してはならないと言うが、それでも些か攻め込むのに罪悪感を覚えさせるな……」
「かなでちゃんと何十年も戦っといて今更って気もするけどね」
ゆりも交えて男たちが口々に感想を言い合うのを尻目に、大淀もデータを補足する。
「確かに、装備している備砲も5インチの高射砲と小口径です。ただ、その代わり要塞として強大な飛行場能力を兼ね備えています」
「飛行場能力か……チャー、効果のある攻撃方法ってあるのか?」
「あぁ。まずはこいつ、『三式弾』だ」
チャーが取り出したのは、自身が開発した『三式弾』と『三式弾改』であった。
「え、三式弾って対空用の主砲弾だろう?それで対地攻撃をするのか?」
だが、チャーはニヤリと笑った。
「確かに、大日本帝国が三式弾を解発した用途は元々対空用だった。だがな、含まれている弾頭部分の炸薬・酸化マグネシウムなどが反応して猛烈な爆炎を起こすことによって強烈な焼夷弾効果があるんだ」
「えぇと、つまり?」
「そんなもんを滑走路や飛行場施設にぶっ放してみろ。爆炎とまき散らされた火炎でズタボロになるって寸法さ」
「ま、マジか……」
実際、日本軍は三式弾を搭載した金剛型戦艦でアメリカが作り出したヘンダーソン飛行場を砲撃したことで、日頃仲の悪いと言われている陸軍から『野砲千門の攻撃に匹敵する』と手放しの称賛を受けたことがある。
この攻撃で飛行場の滑走路のみならず、航空機や燃料タンクなどに多大な被害を被り、アメリカ軍は大層腰を抜かしたそうだ。
このことから三式弾と徹甲弾を搭載した艦娘(戦艦・重巡が基本)は地上型深海棲艦に対する攻撃力が上昇するのだ。
「それと、こいつだな」
それを見た大山が目を輝かせる。
「あ、ドイツの装備じゃん。えぇと、確か……」
「Wurfgerat(ウルフゲレート)42、だったよな」
「あぁ。ドイツが開発した面制圧向けのロケット弾発射機さ。こいつを装備した艦娘も地上型に対する攻撃力が上昇するんだ」
地上型深海棲艦はソフトスキンと言う扱いなのか、ロケット砲による攻撃も高い威力を発揮する。
本来は『Uー511』が持参する初期装備なのだが、そんなものを既にチャーは作ってしまっていた。
「えぇと、装備可能な艦娘は……結構多いな」
「一部の改二駆逐艦、私……つまり大淀型軽巡洋艦、航空巡洋艦、一部の水上機母艦など、選択肢は多いですね」
それを聞いた音無は考え込んでいた。
「提督、どのような編成にされますか?」
急かすつもりではなかったが、やはり気になるらしい。チャーや藤巻たちも、音無の選択を聞くつもりのようだ。
すると、音無が顔を上げた。
「よし、編成は決まった。今から言う艦娘を呼んでくれ。呼ぶのは瑞鶴、鈴谷、熊野、摩耶、利根、筑摩」
瑞鶴と摩耶以外は全て航空巡洋艦である。
先ほどチャーから聞いた話を総合し、瑞鶴と摩耶以外の艦娘は全て航巡としたのだ。
「装備は以下とする」
○ 瑞鶴改二(上3スロ震電改・最後彩雲)
○ 摩耶改二(三式弾・改・10cm高角砲(砲架)・Bofors40mm連装機関砲(集中配備)・Fumo 25レーダー)
○ 鈴谷改二(20.3cm連装砲(3号)・10cm連装高角砲(砲架)・三式弾・改・Wufgerat42)
○ 熊野改二(鈴谷と同じ)
○ 利根改二(20.3cm連装砲(3号)・8cm連装高角砲・三式弾・改・Wufgerat42)
○ 筑摩改二(利根と同じ)
少なくとも、対地装備という点ではかなり充実していると言えるだろう。
チャーから敵に随伴艦隊がいるという話を聞いていたが、そこに軽巡ツ級がいるというのだ。
ツ級には限定海域で出会ったことがあるため、空母系の艦娘は制空権を取って触接させるために連れて行くことにした。
ツ級に艦載機を撃墜されることで攻撃の効率が悪くなるということを考え、摩耶改二に敵機を撃墜してもらい、敵の艦載機を全て撃墜してから戦いを挑もうと考えたのだ。
かなり慎重な音無の考えに、思わず熊野が苦言を呈した。
「いくらなんでも慎重すぎませんこと?接敵してからでも撃墜は可能ですわ」
「確かにそうだが、摩耶から聞いた。敵機撃墜の効率が高い対空カットインは戦闘中だと1艦隊に3回しか発動できない。だったら、瑞鶴の艦載機で敵の数を減らしてもらって、その後摩耶のカットインで全て撃墜する」
いくら大量の艦載機を保有していると言っても、無限ではない。ならば、全て撃墜してしまえばその戦闘力は半減以下と言ってもいい。
「あきつ丸、熊野丸。本当ならお前たちの大発動艇を使ってやりたかったんだが……相手の攻撃をかわそうと思うと高速の艦娘で統一したいんだ」
「いいえ。いずれなにかしらの機会があると信じております‼」
「そう言ってくれると助かるよ」
「そして、いずれ戦場(いくさば)で敵弾を受け、傷を受けても打たれ強くなるように鍛えたいでありますっ‼」
「お前らただの変態かっ‼」
熊野丸はジト目で『そんなのあきつ丸だけであります』と否定した。
「変態などと失敬な!自分は仕置きこそご褒美と思っているだけであります!」
「それを変態って言うんだっ!」
加賀たち以外でここまで直球に言ってくる相手が滅多にいないので、音無はリアクションに困ってしまった。
「そんなぁ、妙高殿や加賀殿の希望は聞いておられるそうではないですかぁ。自分も欲しいでありますぅ」
「いやぁぁっ!人に言われるのは流石に恥ずかしいですぅぅっ!」
音無の傍らで聞いていた妙高が自分の性癖を暴露され、顔を真っ赤にしていた。抱いた女が顔を真っ赤にしている姿を見せられて、流石の音無もあきつ丸の頭に空手チョップを喰らわせていた。
「ありがとうごまいまぁすっ!」
「せめて妙高に謝罪しろぉっ!」
チョップをした手を握っていた音無だが、ハアアと深く息を吐いて拳を解いた。
「全く、ここまで声上げたの隠れてた大淀に叫んだ時以来だよ」
肉体関係を持った直後の千歳との逢瀬を覗いていた大淀が、川内の乱入に声を上げたことに反応した音無が叫び声をあげたのは、大淀もはっきりと覚えている。
「まあ、注文には応えられる限り応えるって言っちまってる手前、お前のだけ聞かないってのもアンフェアだしな。その内に呼んでやる。ただし、お前の願望通りになるかは期待するなよ」
「ご安心を、放置プレイも大歓迎であります!」
「安心できるかっ!不安で吐いてますっ!」
「何故そこだけ敬語っ!?」
今度は音無のリアクションにゆりがツッコミを入れる番だった。
この数分間だけで、音無は久しぶりにツッコミ疲れを感じるのだった。
「ったくよぉ、皆、悪いが出撃準備」
「「「「「は、はぁい……」」」」」」
鈴谷たちは冷や汗を垂らしながら、出撃に備えるのであった。
チャーから渡された地図を参考にルートを決めるのだが、チャーが思わぬことを教えてくれた。
「え、敵の部隊と戦うことなく北方棲姫の場所まで行くことができるのか!?」
「あぁ。まずは海域に到着し次第北へ全速力で向かえ。そうすればまず1つ目の艦隊を回避できる。で、そのまま速度を落とさずに今度は東へ向かうんだ。南にある小島を見ながら進め」
「ふむふむ」
「だが、敵艦隊2個艦隊が北部を遊弋している。その艦隊の隙間を縫うといいんだが……1隻が空母ヲ級FlagShipの艦隊だ。できればそいつの攻撃に巻き込まれないようにした方がいい」
「無駄に艦載機を消耗することもない、ってことか」
「あぁ。今回編成している艦娘は全員34ノット以上を出せる高速艦だ。艦載機以外は振り切ることも可能だ。場合によっては、艦載機が襲来するまでに逃げ切ることだって可能だぜ」
「よし、じゃあその方向性で行こう。で、北方棲姫に接近したら?」
「できる限り相手の索敵範囲に入るんだ。今度は相手の航空攻撃を誘う」
「攻撃隊が飛んで来たら瑞鶴の艦載機で制空権を取り、さらに摩耶のカットインで撃墜するってことだな。摩耶、今回の作戦にはお前の力が不可欠だ。頼んだぞ」
「応よ!怖けりゃアタシの後ろに隠れてな‼」
改二となり、さらに装備を充実させた摩耶の対空能力は現在音無の下に着任している艦娘の中でも最高クラスである。
彼女がいれば、敵を1機たりとも近付けることはないだろう。
「俺の推測が正しければ、4回ほど迎撃すれば艦載機が尽きると思う。敵から偵察機が飛んでこなくなったら、その合図だ」
「皆、戦闘開始したらまずは中距離にいると推察される随伴艦隊に副砲と魚雷を撃ちかけろ。それで敵に一定の打撃を与えている隙に北方棲姫に接近して、短距離に入ったら一斉射だ」
これは、対地装備が短距離に入らなければ効果を発動しないからである。
「今回の戦いは今までとは比べ物にならないほどに厳しい戦いになるだろう。いつも言っていることだが、絶対に油断しないこと。そして、ボス戦までに大破が1隻でも出た場合、即座に撤退すること」
今回は特別任務で邂逅した改装Saratoga以来の『姫』級が相手ということもあり、皆の顔にも緊張が走る。
「旗艦は摩耶とする。皆、摩耶の指示には絶対に従うように」
摩耶は鈴谷と並び、再古参艦娘の1人である。その経験を重んじた結果であった。
「っしゃぁ!任せろ提督‼」
摩耶も一見気性の荒いタイプだが、実は自分を攻撃し、撃沈することになった潜水艦を怖がり、改装された本来の目的である防空巡洋艦として皆を守りたかったという悔恨の念に満ちていることを音無はベッドの中のトークで知っている。
この海域に潜水艦は遊弋していないそうだが、そんな責任感の強い彼女だからこそ旗艦を任せられると思ったのだ。
「頼んだぞ、摩耶」
すると、強気な表情から一転、摩耶の顔が急に乙女のそれになった。
「な、なぁ、提督……この海域を解放できたら、さ……」
「ん?夜を一緒に、ってか?」
「そ、そうなんだけど、さ……」
「ん?」
もじもじする摩耶を見て目を丸くする音無に、千歳が耳打ちした。
「きっと、できれば2人きりで、って言いたいんですよ」
「あぁ、そう言うことか」
確かに、以前摩耶とセックスした時は千歳に加えて天龍と龍田の2名まで加わっての乱交状態だった。
なので、2人きりでしっぽりしたいということらしい。
「うふふっ、提督もまだまだですね」
それを言われては音無も頭を掻くしかない。
「あぁ~、その、摩耶……悪いんだが、2人きりは無理だ」
「えっ」
摩耶は『がーん』と言わんばかりの顔をするが、音無も頬を掻きながら苦笑しつつ答える。
「俺はお前たち艦娘を相手にしようと思うと、どうしても自分が疲労困憊になるまで頑張っちまうからさ。『補給』してくれる奴がいないとぶっ倒れちまう」
「あ……」
摩耶もそこは思い至らなかったようで、気が付いたようにハッとした。
「悪いけど、相手するならせめて2人にはなるな。その代わり、補給担当はちゃんと相談するから」
「わ、分かったよ。確かに、提督に倒れられちゃ寝覚め悪りぃしな」
「理解してくれて助かるよ」
「いや、アタシも悪かったよ」
摩耶もそれでやる気が出たらしく、『よーっしっ!頑張るかぁ‼』と声を上げていた。
鈴谷や瑞鶴は苦笑いしており、天龍も『単純なヤツ』とジト目で見ているが、龍田が『まぁまぁ、いいじゃないの~』と宥めていた。
「よし、では……出撃!」
「了解‼」
――北方諸島・某所
音無鎮守府所属の艦隊が進む。
先頭を行く摩耶は、自身の『Fumo 25レーダー』を最大出力で稼働させている。
既に近くに敵の艦隊がいることは把握していたため、音無の指示通り真北へと向かう。
「……よし、なんとか振り切れそうだな」
海域に侵入した直後に気付かれてはいたが、幸いにも敵の艦隊よりもこちらの方が速力は優速である。
「うっし、あとは北方に展開する敵艦隊だな……なんとか出くわさずに済ませたいぜ」
「なんとかなりそー?」
鈴谷の言葉に、摩耶は黙ったままだ。かなり熟考しているらしい。
「これこれ鈴谷。摩耶も考えておるのだ。邪魔するでない」
「そうですね~。考える時間も大事ですよ~」
「う~ん……ま、そっか~」
利根と筑摩の言葉もあり、鈴谷は黙った。
しばらく進んでいると、敵の艦載機が飛んでくるのが見えた。
「やべっ‼」
対空戦闘用意のため、輪形陣への変更を考える摩耶。
だが、幸い敵機はこちらに気付かずに飛び去って行った。
「……ほっ」
摩耶も一同もほっと息を吐く。
「へぇっ……見つからねぇに越したこたぁねぇからな」
「なんか摩耶、すっごい考えてるよね」
「ったりまえだろ!姫級の、やべぇ深海棲艦だぜ。そんなのが居座ったら、せっかく解放した北方海域がまた占領されちまうんだ!」
「摩耶……」
摩耶の目には、これまで以上に強い意志が宿っていた。
「絶対に失敗できねぇ!なんとしても敵を倒す‼誰も沈めずに‼提督と約束したんだ‼」
すると、鈴谷が摩耶の胸に『ドン』と、どこからか取り出したラムネを押し当てていた……当然、摩耶の豊満な胸が『ぶるん』と弾む。
だが、その衝撃に摩耶もハッとした表情に変わった。
「ちょっと、まずは摩耶が落ち着きなって」
「っ……」
鈴谷の目も真剣であった。音無のために失敗したくないという思い、それは鈴谷や利根たちも同様である。
「やれやれ。頑張っとるようだから考えさせようと思うたが、やはり一朝一夕で上手くはいかなんだか」
「ダメですよ~、頑張るのはいいことですけど~、無茶ばかりでは上手くいくものもいかないですよ~」
鈴谷から渡されたラムネを開けて、勢いよくゴクゴクと飲み、やがて『フウ……』と息を吐いた。
「悪い、頭冷やせたよ」
「気にしない」
鈴谷がウインクをすると、摩耶も『へへっ』と微笑した。
音無艦隊の中でも最古参重巡(鈴谷は現在航巡だが元は重巡なので大枠では間違ってない)ということもあり、この2人は姉妹以外ではよくいることが多い。
鈴谷が暴走しそうになれば摩耶がツッコみ、摩耶の余裕がなくなれば鈴谷が押さえ込むという力関係が出来上がっているのである。
「っしゃ、ちょっと急ぐぜ!」
再び艦隊が増速すると、大きな陸地が見えてくる。今までの離島とは比べ物にならない大きさの島だ。
すると、摩耶のレーダーに反応があった。
「敵機襲来!」
先ほどは島が影になっていたこともあって発見が遅れたが、今度は遮蔽物がなにもないため、敵が飛び立った時点ですぐに見つけることができた。
瑞鶴が弓に矢を番え、鈴谷たちもすぐに陣形変更ができるように態勢を整える。
すると、偵察機が艦隊の上空を2回旋回してから陸地の方へと戻っていった。
「敵機が来るぞ!陣形変更、輪形陣‼」
一同が陣形を変更し終えたところで、陸地から多数の敵機が襲来する。
「瑞鶴、頼んだ‼」
「任せなさいっ‼アウトレンジで……決めたいわねっ‼」
放たれた矢は『震電改』へと変化し、敵機との交戦に入る。
「どうだ……?」
敵との激しい空中戦が繰り広げられているようだが、『艦隊これくしょん』において『震電改』は未だ破られたことのない制空値を持つ最強無比の装備である。
その結果は、火を見るよりも明らかだった。
「制空権確保!損耗……1機のみ!」
その結果を聞いた鈴谷たちは口々に感想を言う。
「マジかよ、やっぱスゲェな」
「っていうか、これをあと2年……いや1年くらい早く実用化できていたら少しはなにかが変わったのかな……」
「いいや、結果は変わらなかったろうよ。じゃが、アメ公にもうちっとばかし苦虫を嚙み潰したような顔をさせられたであろうな」
「そうですね~。『変わって欲しい』とは思っても、『無理だったろうな』くらいは思いますね~」
すると、わずかに残った敵機が艦隊に向かってくる。
「おいおい……そんなんでアタシらに手ぇ出そうってか?言わせてもらうがな……2万年早いぜ‼」
直後、摩耶の体が光り出し、高角砲と機銃が敵機に向けて指向される。
「摩耶様の攻撃……食らえぇーっ‼」
摩耶から放たれた高角砲弾・機銃弾は瞬く間に敵機を絡め捕り、わずかに向かってきていた編隊を呆気なく撃墜してしまった。
「ふっふーん♪」
摩耶が得意げに胸を張ると、敵から再び偵察機が飛んでくる。
「へっ、何度やっても通じねぇってこと、見せてやるよっ‼」
「瑞鶴、直掩隊ヨロシク!」
「任せなさいっ‼」
その後、3回の襲来を受けたのだが、全て瑞鶴の艦載機が迎え撃ち、その後摩耶が迎撃するというルーティーンができあがっていた。
結果、誰も損害を受けることはなかった。
「どうじゃ、敵の様子は?」
少し近付いてみるが、敵飛行場から飛行機が飛んでくる様子がない。
「……これ、やった?」
「もう偵察機が飛んでこないってことは、そういうこったろうな」
全員で頷くと、いるという随伴艦隊の存在を警戒しつつ接触することを決めた。
「エンジン、あったまって参りましたぁ‼」
そんな鈴谷の声も、一瞬固まった。
そこには、言い表せない『なにか』がいる。
北方棲姫の見た目は、それだけならば小学生低学年くらいの、とても小さな女の子だ。だが、その女の子から放たれる覇気は、戦艦や空母のそれに匹敵するか、それ以上かもしれないほどに感じさせられる。
『ゼロ……オイテケ……』
すると、利根がハッと横を見た。
「気を抜くな‼随伴艦隊のお出ましじゃ‼」
全員がそちらを向くと、戦艦ル級FlagShipを中心とした艦隊がこちらに接近していた。
幸い、既に中距離に入っている。
「魚雷発射!その後一気に副砲斉射‼」
指示を受けた一同が魚雷を撃ち込み、その勢いに任せて副砲を撃ちかける。
――ドンドンドンドンドンッ‼ドドドドドドドドドッ‼――
5隻から放たれる副砲弾は壮絶で、敵随伴艦隊も思わず足並みを乱されていた。
そして、そう言っている間に距離を取り、逆に北方棲姫に接近した。
「距離良し、対地装備使用可能‼」
「うりゃぁ‼」
主砲弾と一緒に、飛行甲板に搭載していた『Wufgerat42』が火を噴き、北方棲姫の方へと飛んで行った。
「うふふ~、やーっておしまーい♪」
『どこで覚えたそんなセリフ‼』
「映画はなんでも教えてくれまぁす」
『それもどこで覚えたぁっ!』
音無の連続ツッコミと、『Wufgerat42』の着弾はほぼ同時だった。
――ガンガンガンガンガンガンッ‼――
猛烈な爆音と共に炎が噴き上がり、視界を悪くする。その間にも迫ってくる随伴艦隊に副砲を発射して牽制しているが、レーダーを見ていた摩耶が気付いた。
「敵中心……動いてるっ‼」
回避運動を取った直後、小口径だが多数の砲弾が近くに落ちてきた。
「っ……危なかったっ‼」
見れば、こちらの攻撃は全て周囲を浮遊している『要塞』が受け止めていたようだ。
「なるほどな。あの要塞を潰さないと本体には攻撃が届かないって寸法か」
5基あった要塞の内、1基は既に潰れて、1基が大破していた。
「やはり簡単にはいかぬな。流石は姫と言うところか」
利根の言葉に全員が警戒する。
確かに航空攻撃こそ飛んでこないが、随伴艦隊を含めて絶え間ない砲撃が飛んでくるため、気が抜けないのはもちろんだが視線を目まぐるしく動かさなければならない。
音無艦隊は今まで複数艦隊戦を経験したことがなかったため、この状態は中々に厳しい。
そして、遂に随伴艦隊のル級FlagShip2隻の攻撃が飛んできた。
「危ないっ‼」
飛び出した瑞鶴により、鈴谷に命中しそうな砲弾は庇われた。
だが、それにより瑞鶴が中破に追い込まれる。
「くっ‼」
「瑞鶴っ‼」
「だ、大丈夫っ。制空権取った時点で私の役目は終わってるからっ‼」
そう。瑞鶴は今回制空権を取って触接のために彩雲を飛ばすことが最大の役目だった。
なので、戦闘中はただ動き回ること以外には仲間を庇うことしかできないのだ。
それで実戦部隊の戦闘能力を少しでも維持しようと考えたのである。
そして、それは無駄ではなかった。
「どぉーだっ、参ったかっ‼」
摩耶を中心に放った魚雷が敵艦隊に接近し、さらに命中寸前に砲撃を行った結果、随伴の駆逐艦2隻が撃沈し、それによって動揺しているところに魚雷多数が命中した。
その結果……
「っ‼戦艦ル級FlagShip1隻中破、1隻大破‼」
「よっしゃぁっ‼」
「これで随伴はほぼ無力化したも同然じゃ‼」
再び北方棲姫の方を向くと、彼女も強い敵意を向けてきている。
「ぶっ殺されてぇか‼」
摩耶の合図で砲撃すると、再びロケットも発射される。飛翔した砲弾とロケット弾は多数着弾し、またも煙を生み出す。
「ん?様子が変じゃの」
見ると、要塞が北方棲姫を庇っていたようなのだが、北方棲姫にもダメージが通っていた。
それを見た筑摩が時折起こるという現象を思い出した。
「これは……もしかして、要塞を貫通して北方棲姫に攻撃が当たったのでしょうか~?」
「恐らくそういうことじゃろうな。これだけで結構な打撃じゃな」
見れば、北方棲姫は狼狽えているように見える。損害の具合は普通で言う小破、『混乱』と言うところか。
「どうする、摩耶?」
「副砲で混乱させろ!至近弾は出せる‼」
陸上型深海棲艦に対して砲弾による狭叉は起きないが、副砲弾による至近弾は出せる。
つまり、怯ませることができるのだ。
「よしっ、撃っちゃえ撃っちゃえ~‼」
今度は北方棲姫に副砲が放たれる。砲弾の命中で苦しむ姿はかなり罪悪感を覚えさせられるが、それでも容赦する訳にはいかない。
「ちっ、見た目があれだから妙にヤな感じだっ‼」
摩耶の言葉に利根が『同感じゃ』と苦々しげに言う。
「敵随伴、再び接近‼」
「なにっ!?」
見れば、大破状態ではあるもののル級FlagShipが鬼の形相でこちらに接近していた。自分だけでは有効打を与えられない可能性を考慮したのか、中破状態の随伴の軽巡ツ級を連れてこちらに迫っていた。
「もう~、しつこい人は嫌われますよ~?」
そう言いながら筑摩が副砲を撃ちかけると、またも敵艦隊を混乱させた。
「筑摩ぁ‼ちっこいのが撃ってきたぞぉ‼」
利根の声に筑摩が振り向くと、筑摩に向かって北方棲姫の放った5インチ砲弾が飛んできていた。
「いたっ!主砲は?……うん。まだ撃てる!」
不幸中の幸いと言うべきか、小破で済んだようだ。
「よくもやりおったな‼まだまだ、筑摩の奴には負けんぞ‼」
一斉に放たれた砲撃とロケット弾が集中し、北方棲姫に襲い掛かる。
残った要塞が庇おうとするが、既に大破状態だったこともあって脆くなっていたからか、再び砲弾が貫通し、北方棲姫に襲い掛かった。
『ギャァッ!?ウゥ……カエレッテ、イッテルノッ‼』
この時、滑走路がボロボロになっていた。つまり、中破と言える『損害』まで追い込んだのだ。
「今の内に魚雷撃ちこもう‼」
「鈴谷に賛成だ‼……ぶっ殺されてぇか‼」
放たれた魚雷は随伴の戦艦ル級FlagShipの方へと向かっていく。
ル級FlagShipは避けようとするが、大破状態で速力が上がらず、避けることができなかった。
ル級FlagShipは断末魔を上げながら海の底へ沈んで行った。
「よしっ、随伴撃破‼」
「油断するな‼まだちっこいのが生きとる‼」
再び北方棲姫の方を向くと、未だに強い敵意をこちらに向けている。
「もうっ、しつこいなぁ‼」
「だからこその深海棲艦でしょっ」
ボロボロになりながらも瑞鶴が補足する。
「そうだよねっ。でも……うりゃぁ‼」
その時、鈴谷の体が光り出す。発動した砲撃カットインにより、北方棲姫は炎の中へと消えていった……ように見えた。
「やった、のか?」
「姉さん、それは『フラグ』って言うんですよー」
筑摩の言葉に利根が思わず『なんじゃとてっ!?』と驚くが、炎が収まった後にはなにも残っていなかった。
「……これをあと3回繰り返すのか……」
「なんだか……ヤな感じだのう」
「仕方ないですよー」
そうは言うが、筑摩もイヤそうな顔をしている。誰が好き好んで幼い女の子をイジメたいと思うのか。
「ん?艦娘か?」
摩耶のレーダーに反応がある。近付いてきたのは……確かに艦娘、空母らしい艦娘だった。
だが、中々異様な雰囲気を放っていた。
なぜならば、見えるのが星条旗だったのだが、『歴戦の兵』と言ってもいいほどのオーラを放っているのだ。
その雰囲気に、思わず鈴谷たちも圧倒されていた。
「どこかのFleetですか?」
「そうだけど?」
「連れて行っていただけないでしょうか?」
「お、応、付いてきなっ」
淡々としたいい方に、摩耶もそう答えるのが精いっぱいであった。
帰投した艦隊は音無に報告を行う。
「って感じでよ。ハッキリ言って結構精神的にキツイぜ」
「そうだよな。俺もお前たちの戦場に立てればそれを感じることができるんだが……」
「バカなこと言ってんじゃねぇよ。んなことされたら安全が保障できねぇって」
「分かってる。分かってるよ。でも……思うことくらいは自由だろう」
音無の心持ちも理解できないわけではないので、摩耶も『まぁな』と返す。
「それはそうと、新しい奴を連れて来たんだけど……なんか、メッチャヤバそうなやつなんだ」
「ヤバそう?」
「なんつーか……カタギの放つ雰囲気じゃねぇっつうか……」
『お前らも正直カタギとは言えねぇだろうが』と言うツッコミは呑み込んだ音無だった。
「で、どいつだ?」
扉を開けると、そこに立っていたのはギラリと鋭い、まるでワシのような眼光を持つ女性だった。
「Nice To Meet You。YorktownClass・AircraftCareer、№1。Yorktownです」
「えっ、ヨークタウンって……ホーネットのお姉ちゃんか!?」
Yorktown
Enterprise、Hornetの3姉妹の長女である。
アメリカの機動部隊の中核を担っていた航空母艦で、『Ranger』の発展型である。飛行甲板こそ木製だが、そこから下を装甲化することによって機関部が守られるという仕組みを持っていた。
そんなYorktownは、運命のミッドウェー海戦において撃沈されている。
そのためか、運も含めてホーネットと全く同じ数値となっている。
「Really?Hornetがいるの?」
「あぁ。うちの鎮守府で頑張ってくれてるよ。会いに行ってあげるといい」
すると、先ほどまでの鋭い眼光が少し柔らかくなった。
「Thanks。早速会いに行かせてもらうわ」
そう言うと今日の秘書艦であり空母でもある蒼龍が案内して向かったのだった。
なお、声帯の妖精さんは大鳳やまるゆと同じ人で一つ。
「で、掃討艦隊はどうだった?」
「あぁ。面白い連中が来たぜ」
天龍の声に応えるように7人の艦娘が入ってきた。
いったい誰が来るのか……
と、言うわけで次の話で艦娘たちを紹介します。
中々面白い子もいると思いますよ……