新たな艦娘が入ってきたことで、大井や北上と言った軽巡洋艦に関してはローテーションを組ませてやることができそうだと感じている音無だった。
しかも、軽巡1隻、駆逐艦4隻、そして軽空母1隻があれば、遠征任務に活かせることができるという。
大淀から教えてもらった島まで行くことで、燃料と弾薬を補給できる。このルートを確保できれば、補給は滞りなくすることもできるだろう。
4日目の朝、音無は直井を連れて工廠でチャーと会話をしている。
「だけど、もうしばらく正面海域の捜索を続けてもらった方がいいだろうな。出会える艦娘もまだいそうだし」
「あぁ、それでいいと思うぜ。今のうちにある程度数を揃えておいた方がいいだろう」
なお、チャーは相変わらず物を作りながらの会話だが、ちゃんと聞いているので恐ろしい。
「寮の修繕は?」
「なんとか、って感じだな。ひとまず駆逐艦寮と軽巡寮は修繕完了だ」
「まだ重巡洋艦の人数も少ないから、鈴谷たちには損傷の少ない軽巡寮で寝起きしてもらってたけど、軽巡の方が揃うのが早いかもしれないから先に整備してるんだよな」
「続いて今は重巡寮をやらせているが……戦艦と空母、それに潜水艦は後回しだな」
「不本意だが、仕方ないな」
「で、なにがどれだけできた?」
「そうだな……速攻で使えそうなのはこれだな」
○ 20.3cm連装砲(火力+8・対空+3)
○ 15.5cm三連装砲×3(火力+7・対空+3)
○ 試製35.6cm三連装砲(火力+18・対空+5・命中+2)
○ 15.5cm三連装砲(副砲)×3(火力+7・対空+3)
○ 10cm連装高角砲(砲架)×3(火力+1・対空+7・命中+1)
○ 四連装(酸素)魚雷発射管×3(雷装+10)
○ 五連装(酸素)魚雷発射管×2(雷装+12)
○ 33号対水上電探(索敵+7・命中+5)
○ 22号対水上電探×4(索敵+5・命中+3)
○ 94式高射装置(対空+3・回避+1)
○ 彗星×3(爆装+8・対潜+3)
○ 天山×2(雷装+7・対潜+3・索敵+1)
○ 紫電改二×2(対空+9・回避+3)
○ 大発動艇×4(ステータス上昇なし)
他にもあれこれ話をしながらこんなものを作ってしまうあたり、チャーの恐ろしさが窺えるが、隣では斎藤もなにかを作っている。
「俺っちは釣り関係のものしか作れねえが……それでもこんなのが作れたぜ」
○ 三式爆雷投射機×3(対潜+8)
○ 三式水中探信儀×5(対潜+10・命中+2)
○ 九五式爆雷
○ 探照灯×3(命中+2)
○ 照明弾×2
○ 零式水中聴音機(対潜+11・索敵+1・命中+1・回避+1)
○ 四式水中聴音機(対潜+12・命中+1)
○ 三式指揮連絡機(対潜)(対潜+7・索敵+1・命中+2)
つまり、斎藤は対潜装備及び夜戦装備特化型の技術者ということらしい。伊達にギルドで釣り竿などを作っていたわけではないというところか。
もっとも、チャーと違って4日目でこれだけ、というあたりがチャーとの実力差を物語っているようにも見えるが。
「これだけの装備が整っていれば……艦娘がもうちょっと増えても対応できそうだな」
「そうだな。今の海域捜索で見つかった艦娘たちにもこれを装備してやれば、一気に強化できるだろうな」
「その辺りは任せるよ。ところでチャー、さっきから後ろに立ってる女の人って誰だ?」
そう、チャーの後ろにはピンク色の髪の毛を持った女性が立っていたのだ。
「工作艦、明石です。やっとベッドから起き上がれるようになりましたので、工廠に復帰いたしました……けど……」
途端に明石がぶわっ、と涙を流し始めた。そして徐にチャーを指さして大声を上げる。
「なんなんですかこの人!勝手にあれこれといじくり回して、なんかすごい高性能なもの作り出して‼寮の修繕とかも資材の手配とか必要かと思ったら、自分たちで調達してきて部下の人たちが修繕してますし‼私、いらない子ですか!?」
どうやら、チャーの異常性に振り回されていたらしい。
「慣れろ明石。こいつはこういう……T○KI○みたいな奴なんだ」
「意味わかんないですよー!私はどうすればいいんですかー!」
すると、直井もさすがに同情したのか、明石の肩をポンと優しくたたきながら珍しい励ましの言葉をかけた。
「笑えば、いいと思うよ」
「笑えって言ったってなにを笑えって言うんですかー!」
「直井、今のはちょっとダメだった」
直井としては自分に考え付く一番いいセリフだったようだが、明石には通じず、音無にもダメ出しされてしまった。
「……やはり愚民を宥めるのは僕の性に合いません」
「まぁまぁ」
今度は音無が明石をゆっくりと抱きしめた。
「不要な奴なんていない。お前は今まで動けなかっただけで、これから色々できるじゃないか。チャーだってきっと全てを分かっているわけじゃない。お前の力が必要になる時が絶対に来る。そもそも人間なんだから、休まなきゃいけない時がある。そういう時にお前の力が必要になる。だから、泣かないでくれ」
「ほ、本当ですか……(グスン)」
「あぁ。きっとだ」
明石はやっと泣き止むと、改めて敬礼した。
「分かりました。艤装がないので艦娘としては出撃できませんが、工廠のお手伝いはできます。精一杯頑張らせていただきます‼」
「あぁ、よろしく頼むよ」
その姿を見た直井が『また音無さんに惚れる女が……』と呟いた。
チャーは聞こえていたらしく、『フッ』と笑って流した。
そして、改めて執務室へ移る。
そこには艦娘たちに加えて、なぜか睦月型をナデナデしている椎名の姿があった。
「可愛いなり」
大方可愛い駆逐艦に引き寄せられたのだろう。長門あたりと組めばいいコンビになるかもしれない。
「で、今回出撃しようと思っている製油所地帯沿岸には、戦艦と重巡の姿が確認されているらしい。なので、今回はこちらも重火力で行こうと思う。編成としては、大井、鈴谷、摩耶、榛名、千歳、千代田だ」
すると、千歳が手を挙げた。
「提督、間もなく私たちは練度15に達します。この戦いが終わった頃にはその練度に到達していると思いますので、帰ってきたら恐らく改装を頼むことになります」
「確か、鳳翔と同じ軽空母になるんだっけか?」
「はい。と言っても初期型の軽空母なので火力は限られますが」
「なるほど……いずれにせよ、まだ空母がここにいない以上は、千歳たちに制空権を取ってもらって確実に弾着観測射撃を決めたい。大井は既に練度10を超えてるから、本日重雷装巡洋艦に改装してから出撃してもらう。なお、その際装備は酸素魚雷から甲標的に変更だ」
重雷装巡洋艦は甲標的母艦にもなれるため、それを活かした魚雷による大火力を叩き出すことも可能なのだ。
「それに先駆けて装備をいくつか入れ替えるぞ」
こうして、編成された艦隊は以下となる。
○ 大井 甲標的・甲標的
○ 鈴谷 15.5cm三連装砲・五連装(酸素)魚雷発射管・零式水上偵察機
○ 摩耶 20.3cm連装砲・15.5cm三連装砲(副砲)・零式水上観測機
○ 榛名 試製35.6cm三連装砲・零式水上観測機・15.2cm単装砲
○ 千歳甲 瑞雲(六三四空)×12・瑞雲×6・甲標的
○ 千代田甲 瑞雲(六三四空)×12・瑞雲×6・甲標的
以上の6人だ。制空権が取れなかったとしても、雷巡と甲標的を使えば戦艦を中心とした水上打撃部隊にも大打撃を与えうる可能性を言秘めた艦隊である。
「甲標的……豆潜水艦が4つか……チャーとしてはどう思う?」
「いいと思うぜ。戦艦や重巡が相手になる以上、大打撃を与えようと思うなら主砲も大事だが……やっぱり魚雷を上手く当てることが重要になる。そして甲標的は増えることで、そもそもの発射数も増えるからな。それを利用すれば当てやすくもなるだろう」
魚雷は元々相手の動きを予測して、その未来位置へ向けて発射する……しかもできるなら横か後方から発射した方がよけにくくなるため、その方がいい。
主力艦隊の練度は既に千歳型2人以外は15を超えているため、チャーなどはこの海域も問題なく突破できるだろうと分析しているが、音無が警戒していることもあってあまり口は出さないでいる。
「よし。じゃあ主力艦隊はこの編成で出撃する。如月、捜索艦隊の指揮は任せたぞ」
如月はSSS鎮守府では初めてのドロップ艦ということもあって、練度も高い。
如月、睦月、皐月、菊月、北上、そして鳳翔の6人だ。
彼女たちは鎮守府正面海域と南西諸島沖を周回し、深海棲艦の残党狩りをしつつ艦娘探しを行うのだ。
そんな彼女たちの指揮は提督補佐のゆりが執る。
鳳翔がいることで艦隊の速度は大きく制限されてしまうところはあるものの、元々が残党狩りと艦娘捜索という任務なので、戦闘にならなければ急激な速度変化はあまり必要ないとも言える。
また、今回は艦娘捜索を重視するために如月以外の4人には22号対水上電探を装備して捜索に当たってもらう。
これで索敵範囲は大きく広がるだろう。
あとは艦娘自体の数が増えることによって、日向や直井に遠征艦隊の指揮を任せることになるだろう。
「よし。全艦、出撃せよ‼」
「「「「「「了解‼」」」」」」
――製油所地帯沿岸
出撃した艦隊は各方面に偵察機を飛ばして索敵していた。
「どうですか?」
旗艦とはいえ、大井は偵察機を搭載しても使用できない雷巡なので、索敵は僚艦に任せるしかない。
「えっとねー、今のところ入ってる情報は『軽巡ホ級1隻、駆逐ハ級3隻』の艦隊と『軽巡ヘ級1隻、駆逐ハ級3隻』の艦隊が見つかっているくらいだねー」
「どうする?ぶっ潰すか?」
「そうですね。提督のご指示上、できる限り敵艦隊を駆逐しておきたいので……見つけた敵艦隊はできる限り撃滅する方向性で行こうと思います」
まずは一番近くにいるホ級の艦隊の方へ向かう。
やがて目視で確認できるほどに近づくと、大井が甲標的を取り出した。
「さぁ、いっくわよー!」
甲標的が発信し、偵察機の指示を受けて敵艦隊に向かっていく。
更に千歳と千代田が瑞雲を発艦させる。
「大丈夫、私に任せて」
『イクゾー!』
『ブッツブセー!』
まもなく軽空母に改装可能ということもあってか、2人も妖精さんたちも、かなりやる気十分である。
「攻撃隊より報告、『駆逐ハ級2隻撃沈、ホ級中破』とのこと!」
「では、確実に片付けましょう!」
まずはホ級の艦隊に突っ込んでいく。
……結論から言えば、ホ級の艦隊もヘ級の艦隊も呆気なく倒せた。
瑞雲での攻撃のあと、甲標的と一緒に魚雷を発射して命中させた結果、攻撃を受ける前に有無を言わさず轟沈させてしまったからである。
「流石に雷巡以下の艦隊は瞬殺できるようになりましたね」
「大井さんの雷撃力と甲標的あってこそですよ」
大井の言葉に千歳が返すと、大井も『そうかしら』と、ちょっと照れ臭そうに頬を掻いた。
「!……偵察機より入電!『敵艦隊発見、重巡リ級2隻、駆逐ハ級3隻』の艦隊!」
それまで少し緩めだった艦隊に緊張感が走る。
「遂に重巡ですか……」
「戦艦の前座、と思えば大したことがないようにも思えますが……」
「そういって油断すると、また提督の雷を食らいそうですね」
大井は音無が怒った所を見ていないものの、神通や千歳たちから聞いて一応知ってはいる。
なので、慢心してはいけないと改めて自分に言い聞かせるのだった。
「提督、どうされますか?」
『重巡の攻撃力をこっちの重巡と同程度と仮定すると非常に厄介だ。まずは瑞雲で制空権を確保したのちに甲標的を展開しつつ単縦陣で突っ込み、射程に入ったら主砲で侠叉を狙え。混乱したところに魚雷を発射しながら副砲を撃ちかけろ。それで打撃を与えてから、砲撃で仕留める』
「了解です!」
艦隊は敵に向けて瑞雲と甲標的を発艦させる。
「アタシがやらないと……」
「さぁ、いっくわよー!」
甲標的が触接するかどうかというタイミングで瑞雲が敵艦隊に接触し、急降下を開始する。
『イクゼイクゼイクゼ!』
『ツラレテミル!?』
『ナケルデェ!』
『コタエハキイテナイ!』
どこぞで聞いたことのあるような叫びをあげながら突っ込んでいった瑞雲は、敵に命中弾を出す。
「攻撃隊より報告、『駆逐ハ級1隻撃沈、重巡リ級1隻中破とのこと』
「うげ、撃沈1隻だけかよ……」
「リ級1隻は無傷……苦戦するかもしれませんね」
皆が警戒する中、鈴谷がそんな緊張感に満ちた面々を励ますように朗らかに言い放つ。
「いーじゃん。鈴谷たちは艦娘なんだから、傷つくこと自体は恐れちゃダメだって」
「鈴谷さん……」
「提督から無茶はするなって言われてるけど、『できる無茶』はしないと勝てるものも勝てないし、ね?」
その言葉に皆思うところがあるのか、フッと微笑んだ。
「そうだよなぁ!この摩耶様の力、見せつけてやるぜ!」
「酸素魚雷を撃ち込まれた時の彼らの顔……見ものだわぁ」
「はい。榛名は大丈夫です」
「鈴谷さんの言う通りだわ」
「お姉と一緒ならどこまでも!」
5人がそれぞれ強い意志を見せると、鈴谷は『ニッ』と笑った。
「じゃ、いこっか!」
制空権を確保し、甲標的も触接させた状態で接敵する。
「エンジンあったまってまいりましたぁ‼」
接触した時、偵察機が発艦して敵上空へと飛んでいく。
つまり、弾着観測射撃が可能な合図だ。
艦隊は接近しつつ、中距離に入った瞬間に一斉射撃を行う。
ただし、命中弾よりは侠叉によって相手を動揺させるのが目的だ。
砲撃のあと上がった水柱を見ると、相手側も慌てているのが見える。
そこに全艦で魚雷の発射態勢に入る。
「海の藻屑となりなさいな‼」
さらにその勢いで副砲を撃ちかける5人(大井は2スロットとも甲標的なので副砲は装備していない)の猛攻に、深海棲艦側はタジタジだ。
そこに接近した魚雷多数を避けきることはできず、多数の水柱が上がるのが見えた。
水柱が消えた時、残っていた敵は既に海の藻屑と化していた。
「ふぅ……思った以上に上手くハマってくれましたね」
「へっへー。これだって実力だっての」
「こらこら摩耶、油断しちゃだめだよーって言ってんじゃん」
そう言いつつ鈴谷も相変わらず軽い口調だ。
だが、なんとなく分かる。この奥には強者が控えているのだと。
そして奥へ進んでいくと、偵察機からさらに報告が入った。
「偵察機より入電!敵主力艦隊と思しき艦隊発見とのこと!編成は『戦艦ル級1隻、雷巡チ級2隻、駆逐イ級2隻』とのことです!」
「駆逐艦はイ級2隻か……なんの慰めにもなんねー気がするけど」
「でもさ、まずはアウトレンジで叩ける奴叩いた方がよくない?」
「そうね。千歳さん、千代田さん、瑞雲を出してください」
「大丈夫、私に任せて」
2人から発艦した瑞雲が敵艦隊へ向かっていく。
『モクヒョウカクニン!』
『オトセオトセー!』
『ヤッタルデー!』
妖精さんたちは威勢のいい声を上げながら急降下していく。
今回は足の遅い戦艦ル級が旗艦となっていたこともあってか、敵艦隊の航行速度が大幅に遅くなっていた。
さらに幸いなことに敵の対空砲火はそれほど激しくないこともあって、1機が撃墜されただけで爆撃に成功した。
「攻撃隊より報告、『駆逐イ級2隻撃沈、雷巡チ級1隻中破』とのことです!」
「お、思ったより戦果出てるじゃーん」
「今回は足も遅い相手ですし、妖精さんたちも慣れてきたんでしょうね」
そして、さらに大井が甲標的を発進させる。
「さぁ、いっくわよー!」
甲標的は間もなく敵艦隊に触接し、その勢いで大井たち主力艦隊も接触した。
接触と同時に偵察機が発艦し、敵の上空で旋回を始め、それと同時に甲標的から魚雷が発射される。
「どーだ!参ったかぁー!」
『接触したばかりで参るわけあるか‼』
音無の猛烈なツッコミに他の面々は苦笑する。
だが、榛名の最大射程に入った瞬間、敵側も発砲してきた。
やはり戦艦はロングレンジで叩けるだけの射程を持っているようである。
「敵艦発砲‼」
『取舵一杯!回避だ‼』
音無の鋭い指示もあって、なんとか砲弾をかわすことができた一同だった。
その後、中距離に入ったことで全艦の主砲射程に入る。さらに幸いなことに、この時既に丁字有利状態に持ち込めていた。
さらに、甲標的の発射した魚雷が接近していた。
「海の藻屑となりなさいな‼」
大井の掛け声と共に敵の未来位置を予測してその方向に向かって魚雷を発射する。
艦隊が横腹を向けたところに魚雷は吸い込まれるように向かっていった。
中破状態のチ級は速力が大きく落ちており、そこに魚雷が命中したことで撃沈する。そして、ここからが本番であった。
「榛名、全力で参ります‼」
榛名の声を皮切りに放たれる多数の砲弾は敵艦隊へ向かう。
これにより無傷の雷巡チ級が撃沈、ル級も小破した。
だが、そこで再びル級が発砲する。
今度は避けられない。榛名への直撃コースだった。
「やだ、被弾した!?」
榛名は小破に追い込まれるが、さすがに戦艦というだけあって同じ戦艦の砲撃にもある程度は耐えられるらしい。
丁字有利状態だったのも幸いした。丁字有利状態では艦娘の受けるダメージが少なくなる傾向にあるのだ(アーケードの話)。
「副砲斉射!」
大井を除く5隻から砲弾の嵐が吹き荒れ、次々とル級に命中弾を出す。
ル級はこの副砲の猛攻だけでさらにダメージを負った。中破にこそなってはいないが、かなり打撃を与えたようだ。
ル級が多数の被弾に気を取られている隙に、全員のリロードが終わる。
そして、再度発砲しようとした時、榛名に異変が起きた。
榛名の体から金色の光が立ち上り、強いオーラとなっているのだ。
「勝手は、榛名が、許しませんっ‼」
6隻から同時に放たれた砲弾がル級に命中すると、なんとこの一撃で中破していないル級を沈めてしまったのだった。
当然ながら、MVPは榛名である。
「榛名、感激です!」
だが、それを見ていた面々は思った。
「今の……」
「カットイン、ですね」
鈴谷と大井の交わした言葉に音無が反応する。
『カットインってなんだ?』
「簡単に言えば……艦娘の秘めた力が溢れ出し、砲撃を強化してくれる現象です。この現象は1度の砲撃の威力も上がりますが、倒せなかった場合に連撃を叩きこむことができます。まるでゲームのキャラクターのキメポーズのような状態になることから『砲撃カットイン』と呼んでいます」
お前らゲームのキャラじゃねえか、というツッコミはしなかった音無だった。
「他にも『対空カットイン』というのもありまして、対空値を高めて対空装備を充実させることで発動しやすくなるものがあります。工廠長も言っていましたが、摩耶さんは改二まで改装すれば、対空番長と言われるくらいの対空装備に身を包みますので、その辺りは専門的になりますね」
『発動条件とかあるのか?』
「強いて言えば運の高さ、でしょうか。運が高い艦娘ほど、カットインの発生率が高くなる傾向にある、とは聞いたことがあります」
榛名は大破着底状態だったとはいえ、終戦まで生き延びた数少ない船の1隻であった。
その生き延びたというところが運に影響しているらしい。
『なるほどな……わかった。ひとまず警戒しつつ帰投してくれ』
「了解です……あら?」
大井が水平線を見つめると、誰かが向かってくるのが見えた。
「艦娘かしら?」
それは、灰色の服を着た背の高い女性だった。
一見すると穏やかそうに見えるが、とても強そうな意思が瞳に宿っている。
「どちらかの鎮守府の艦隊ですか?」
「えぇ。今から帰投するのだけど……一緒に来ますか?」
大井が珍しく敬語を使っている。どうやら、自分より格上の存在だと認識しているらしい。
「はい。もしよろしければ、このままご一緒させてください」
そんな彼女を連れ、艦隊は帰投した。
音無は帰ってきた艦隊に真っ先に入居するように伝えると、旗艦であった大井から報告を受けていた。
「じゃあ、戦艦も思ったよりは楽だった、と?」
「はい。甲標的と制空権確保があったおかげですね。あ、それと艦娘を連れ帰りました」
「お、誰だ?」
大井は先ほど連れてきた長身の女性を前へ出す。
「私、妙高型重巡洋艦、妙高と申します。共に頑張りましょう」
「妙高……えぇっと……ワシントン条約の中で建造された重巡、だったっけか?」
音無は執務室においてあった艦娘のレポートを読んだのだ。
「はい。ワシントン条約の制限下において建造されたこともあって、艦体の余裕はありませんが、戦闘能力に関しては一級品のつもりです。どうか、よろしくお願いいたします」
どうやらかなり礼儀正しいタイプらしい。余裕がないという点は、彼女の細い肢体に出ているようだ。確かに細いかもしれないが、音無はその分出ているところが魅力になっていると思った。
今までの重巡である鈴谷と摩耶が割と軽いノリだったせいか、音無は勝手に重巡とはそういう子ばかりなのかと思っていたが、そうではなかったようだ。
「そうか。提督の音無だ。まだ不慣れな部分も多いが、よろしく頼むよ」
「はい」
短くも明瞭な返答。とてもきっぱりとした性格らしい。
「よし、じゃあ妙高には早速演習で練度を上げてもらうとして……追撃はどうする?」
「榛名さんの修復が終わって、補給を済ませたら即出撃でいいのではないかと。なお、帰投する前に偵察機が調べたところ、編成は今回の主力艦隊と同じル級がいるらしいです」
編成としては戦艦ル級1隻、雷巡チ級2隻、駆逐イ級2隻である。
「戦艦ル級がまた現れるのか……でも、だからって怯んではいられないな」
音無の言葉に大井も『当然です』と胸を張った。
実際、雷巡である彼女と甲標的があるお陰でかなり有利に立ち回れている。
甲標的がなければ、そして音無が慎重さを見せて練度を上げさせていなかったら、巡洋艦クラスにももっと苦戦していたかもしれない。
「そうか。じゃあそれで頼む。あ、大淀。捜索艦隊の方はどうだ?」
「あ、先ほど帰投しました。艦娘も連れてきたようですが……呼びますか?」
「そうだな。連れてきてくれるか?」
音無の指示を受けて、捜索艦隊の指揮を執っていた北上がその艦娘を連れてきた。
「提督~、お待たせ~。今日は正面と南西諸島と2か所回ってきたんだよ~」
「マジか。大変だっただろう?」
「イ級ばっかだったから大したこととなかったよ~。あとね~、レベル10超えたから雷巡に改装できるんだ~。後でお願いね~?」
「あ、あぁ。分かったよ。で、この子が……」
そこにいたのは、眼帯を付けた釣り目かつ巨乳で、腰に刀を差した少女だった。体つき(特に胸元)がしっかりしているので、音無は重巡洋艦かと思っていたが……
「俺の名は天龍……フッ、怖いか?」
「天龍……天龍型軽巡洋艦の1番艦か?」
「あぁ。太平洋戦争の時には旧式化していたが、建造当初は世界水準を超えたって言われた存在だったんだぜ?古いからってバカにすんなよな」
どうやら天龍は、旧型であることにコンプレックスを抱いているのらしいと音無は感じていた。強気な口調も、そんな自分を誤魔化すためなのか、はたまたそう言い聞かせているのかは分からないが、なんとなくそう思ったのだ。
さらに、後ろには薙刀のようなものを持った女の子が控えていた。見れば、服の雰囲気が天龍によく似ている。なにより、豊満な胸元も……
「初めまして~。軽巡、龍田だよ~」
「龍田……天龍の妹か?」
「そうだよ~」
間延びした口調はどこか北上を思わせるが、北上以上になにを考えているか分かりづらい雰囲気の女の子である。
2人の初期装備を見ると、14cm単装砲と7.7mm機銃だけである。
「……チャー、フィット砲以外になにか装備してやるべきものは?」
「そうだな……軽巡だし魚雷発射管かな。元々戦闘能力に難があるから、捜索艦隊の旗艦として頑張ってもらうべきだと思うぜ。遠征にも向いてるしな」
実際天龍型は軽巡としては旧型で低燃費という点から、遠征艦隊によく使われる。
「なるほど……じゃあ、ある程度演習してもらったら早速捜索艦隊と遠征に行ってもらうか」
「あぁ、それがいいと思う」
2人の会話を見ていた天龍がツッコむ。
「ちょ、ちょっと待った。工廠の装備って、妖精が作るもんじゃねーのか?まるでこの髭のオッサンが作ってるみたいに聞こえるんだが……」
「いや、みたいもなにもそうだから」
「は!?なんだよそれ!?」
天龍はもちろんだが、龍田も『あらあら~』と驚いた顔を見せている。
「いや、なんだよと言われてもな……できちまってるんだから仕方ねーだろ」
チャーの言葉に天龍は絶句している。二の句が継げぬとはこのことかと言わんばかりだ。
すると、北上が天龍の肩をポンと叩いた。
「だいじょーぶ。アタシも15.2cm連装砲作ってもらったけど、すっごくチョーシいいしさー」
「……ソ、ソウデスカ……」
音無も天龍の肩をポンと叩いた。
「慣れろ。それがウチの鎮守府だ」
「アッ。ハイ。ソウデスカ」
本来の強気なキャラはどこへやら、完全にペースを握られてしまった天龍だった。
一方の龍田はというと、そんな呆然とする天龍を見てなにかに目覚めたらしく、『ゾクゾク』と言わんばかりに天龍を見ながら体を震わせていた……。
この鎮守府の明日はどこへやら……。
いや~ここまで一気に突っ走りましたけど……申し訳ありません。エロス回はもうちょっと先なんです……気長にお付き合いください。
その代わり、一度エロスに飛び込んだら一気にエロエロ展開も多数出てきますので、それもお楽しみに。