果たして、どうなるのか……
銭形たちと会談した翌日、音無は新たに改二になる艦娘たちを見ていた。
今回改装可能な艦娘は以下となる。
○ 扶桑、陸奥、由良、五十鈴、長門、山城、最上、比叡、金剛、夕張、霧島、那珂、朝潮、球磨、加古、川内、潮、Sidney、敷波、夕立、霞、Deytschland
そして、改二ではないが浦風が『丁』になる。
この中でまず、Sidneyの改二の能力値はほぼ同じ能力を持つ阿賀野型の矢矧改二と同じになる。
これと同じで4スロットになり、さらに大発動艇や甲標的系列の運用が可能となる。
だが、それに伴って初期装備は一切なくなるのも同じだ。
「これで私……もっと戦えますっ」
「あぁ。よろしく頼むよ、シドニー」
また、DeytschlandはZweiとなることで改名し、『Lutzow(リュッツオウ)』となる。
艦娘としてのIf改装ということで、様々な改装が施されている。
まずは対空能力の向上として、主砲の仰角を深くとれるようにし、口径をScharnhorstと同じまでに延長する。これによって、超長射程を得ることになった。
また、副砲である15cm砲を日本との交流で得た高角砲の技術を流用し、10cm単装高角砲に換装することで対空能力と速射力を向上させている。
そして、魚雷発射管を日本の物と同じ61cm四連装酸素魚雷発射管へ換装している。
「すごいな……通商破壊のためのポケット戦艦としちゃ破格の能力だぞ」
また、機関をワグナー式ボイラーのタービンエンジンに換装することによって、速力も『高速』の32ノットまで向上させている。
これにより、一部の高速戦艦を除けば彼女に追いつける戦艦はほぼいない。
「えぇと、数値も大分パワーアップしているな」
「すごいわね。これなら艦隊決戦だって十分にこなせるわよ」
○ 耐久 54
○ 装甲 44
○ 回避 32
○ 搭載×2
○ 速力 高速
○ 射程 超長
○ 火力 60
○ 雷装 28
○ 対空 40
○ 索敵 18
○ 運 20
装備は以下となる。
○ 28cm三連装砲Zwei(火力+17・命中+4・対空+7・射程超長)
○ 10cm単装高角砲(火力+1・命中+3・対空+6)(×1)
○ 61cm四連装(酸素)魚雷発射管(×1)
○ 新型高温高圧缶(Wagner・Type)(速力+5ノット・回避+18)
○ 無装備
Zweiとなったことによってスロットも5に増えており、汎用性がこれまで以上に高まっている。
また、彼女が持参する『新型高温高圧缶(Wagner・Type)』によって、大幅に速力と回避力が向上する。
また、ドイツ式対空電探(Fumo 25レーダー)を組み合わせることで、彼女専用の対空カットインも発動するようになっている。
「これはかなり強そうだな……ドイ……いや、リュッツオウ。これからもよろしく頼むぞ」
「お任せください、Admiral」
すると、コーヒーを飲みに来たらしい鷹山と大下がLutzowを見て『ヒュウ』と口笛を吹いていた。
「こいつは驚いた。第三帝国のポケット戦艦が、こんな風に強化されるなんてな」
「驚き桃の木山椒の木ってね」
Lutzowは照れ臭いような、満更でもないような顔をしており、なんとなく胸を張っているように見えた。
もう少しすれば他にも改二になる艦娘は増える。
そうすれば、新たな戦い方も閃くだろうと音無は考えていた。
だが、今は黒野提督のことであった。
「はぁ~……どうやって相手取るかなぁ……」
音無は今日の秘書艦である瑞鶴と一緒に、桟橋で佇んで悩んでいた。瑞鶴も音無のそんな様子を見てかなり心配している。
「提督さん、大丈夫?疲れてる?」
「うぅ~ん……そうだなぁ……行き詰っているのは間違いないかなぁ……」
すると、瑞鶴がいきなり音無の頭を胸元に抱きしめた。なお、今胸当ては着けていないので、柔らかい感触が音無の顔面に押し付けられる。
「……翔鶴姉や加賀さんほどじゃないけど……ちょっとは、緊張解れるかな、って思って……」
瑞鶴は割とツンデレなことが多いキャラなのだが、この鎮守府の瑞鶴は音無に対する好感度がかなり高いこともあり、かなりデレ度が強い。
音無もそんな瑞鶴の心配りに感謝しようと思った……その時。
「ん、なんだあれ?」
「えっ?」
2人が視線を受けた海面には……潜望鏡が覗いていた。
「これは、まさか……」
直後、黄色いボディの小型潜水艦が浮上すると、ハッチが開いて太っちょおじさんが『とうっ』と飛び出してきた。
「お茶目なヤシの木カットは伊達じゃない!海を愛し、正義を守る‼誰が呼んだかポセイドン!タンスに入れるはタンスにゴン!ボルネオ提督三羽烏の1人、海野土座エ門、ただいま参上‼」
口上を言い切るまで、ご丁寧にお供のイルカが探照灯で彼を照らし出していた……昼間なので意味があるかどうか不明だが。
「やっぱりあんたでしたかっ‼」
「ハハハハハハ。また会ったな、音無君」
「今日はなんの御用です?」
音無は呆れ顔だが、海野は真剣だった。
「先日、銭形さんたちが入ったと聞いてな。今、いるのだろう?」
「えぇ」
元々彼らにアポ取りを依頼したので、知っていて当然と言えば当然だ。
「君はまだ人間相手の駆け引きになれていなさそうだから、黒野提督とどのように相対するか悩んでいるのではないかと思ってな」
「察しが良すぎますよ」
海野は『大したことではない』と謙遜する。
「そこでだ。『我々』が少しでも知恵を貸せればと思って来たのだ」
「我々って……まさか……‼」
その時、海の彼方から水飛沫があがり始める。
その中心には、水上バイクに跨る海パン一丁の男がいた。
男は桟橋に乗り付けるや否や、『とぅっ!』と跳躍して桟橋に降り立つ。
「股間のモッコリ伊達じゃない!深海棲艦現るならば、海パン1つで全て撃退!ボルネオ提督三羽烏、汚野武‼ただいま参上!」
「普通に登場できないのかアンタらはっ!」
音無は思わずツッコミを入れるが、隣では瑞鶴もすっかりげんなりした顔である。
彼女からすれば、『せっかく提督さんとイチャイチャできると思ってたのにぃ……』という思いもあるのだろう。
「まぁそう邪見にしないでくれたまえ、音無君。我々とて黒野は放っておけんのだ」
「気持ちは嬉しいですけど、提督さんのことも少しは考えてくださいよぉ~……」
「待て瑞鶴。この2人が来たということはあの2人も……」
ハッと空を見ると、太陽を背に飛行機のエンジン音が聞こえてくる……。
「どうでもいいけど、ここまで合わせられるってある意味すごいな」
「感心するところそこ?」
呆れる2人を余所に、双発飛行機から2人のおっさんが立ち上がる。
「ムーンライトパワー‼」
叫びと共に幕が展開し、おっさんが着替え始める。
瑞鶴は遂に堪忍袋の緒が切れたのか、飛行機に対して持っていた矢を素早く放っていた。
矢は狙い通りに幕を切り裂き、着替え中のおっさんを露わにする。
「こ、こらっ!まだ変身中だぞっ‼美茄子、なにか代わりのモノを‼」
「あっはい!じゃあ書き割りで!」
書き割りの月で覆い隠している間に着替え終えたようだ。『メイクアップ‼』の声が響くが、瑞鶴は懲りない変態に『チッ』と舌打ちしている。
「華麗な変身伊達じゃない‼月のエナジー背中に浴びて、正義のスティック闇を裂く‼空の戦は任せてもらおう!月よりの使者!月光提督、ただいま参上‼」
「同じくアシスタントの美茄子提督もヨロシクぅ‼」
「よろしくしないから短く喋ってよむぐぅ!」
思わず瑞鶴が声を上げてしまうと、音無が彼女の口を手で塞いで『まあまあ』と諫めるのであった。
「その、いつも迅速に来ていただいてありがとうございます」
「だから、気にするなと言っただろう」
「三人寄れば文殊の知恵と言う。ならば、六人いればより多くの意見が集まる。元々、この件で君に協力を依頼したのは我々だ。だからこそ、君が困るのであれば遠慮なく言ってくれたまえ」
確かに彼らは変態だが、間違いなく優秀ではある。
まごうことなき変態だが。大事なことなので2回言いました。
実際に彼らがいなければ、先日の奇襲を乗り切ることはできなかっただろう。
「ありがとうございます。では、コーヒーでも出しますのでこちらへ」
音無が4人を連れて行くと、応接室には既に銭形たちが集まっていた。
「おぅ汚野君。皆も久しぶりだな」
「お久しぶりです、銭形さん。その節はお世話になりました」
「気にすることはない。今は皆、同じ提督じゃないか。腹を割って話し合おう」
「いえ裸になって」
「「「「「「それはいい」」」」」」
汚野の提案は、美茄子を含めた6人の提督によって却下された。少し残念そうな顔をする汚野を見ながら、音無は眉間に皺を寄せた。
とはいえ、こうして男たちが腰かけると、中々に壮観である。
音無も座って話し始めることにした。
「やはりと言いますか、黒野提督の情報は中々上がってこないですね。我ら元特殊刑事課の情報収集能力でも、そう簡単にはいかないものです……」
「我々も『変身』して何度か潜入を試みましたが……中々」
『そもそもこの人たち顔バレしているから変身もへったくれもないんじゃ……』と思う音無だったが、一応2人の名誉に関わると思って言わないことにした。
実際のところは不明だからである。
「実は私も潜水艦で近付いて少しでも調査しようと試みたのだが、やはり簡単にはいかんな。優秀な聴音機を配置しているらしく、すぐに哨戒の艦娘が向かって来た。それも1人や2人ではない。多数が一気に集まってきた」
半ば要塞と化しているらしい黒野提督の鎮守府の様子に、歴戦の強者である銭形も顎に手を当てて『うーむ』と唸る。
「やはり、音無君の言うように黒野をおびき出してその隙に鎮守府に潜入し、物証を集めるしかないか……」
「非合法だが、相手が姑息な手を使っている以上、こちらも手段は選んでいられないな」
「証拠集めに卑怯もラッキョウもないからな」
彼らの言葉に頷く音無だが、一番の問題は……
「問題は、ウチの鎮守府に来た黒野提督の気を惹くにはどうすれば、ってところなんですよね……」
「それに、できれば確実な物証も欲しい」
そこは特殊な者ばかりとはいえ元警察官らしく、証拠集めは重視しているようだ。
すると、扉がいきなり『バタン!』と大きな音を立てて開いた。
「話は聞かせてもらったわ‼」
扉の前に仁王立ちしていたのは、ゆりを始めとする戦線メンバーだった。
「ゆり、それに皆も?」
「音無君、悪いけど……提督の椅子、借りるわよ?」
この時音無は、ゆりがベレー帽を被っていることに気が付いた。つまり……
「……あぁ。頼むよ」
「ん?どういうことだ音無君?」
ゆりは『ごめんあそばせ』と言うと、ドカッと椅子に腰を落とし、腕と足を組んで偉そうに座った。
千歳やWarspite、汚野たちは『ポカン』と見ているが、一緒に入ってきた戦線メンバーは誰も動じない。
なぜなら、この姿こそ『かつての戦線』そのものだったのだから。
「おっ、なんか久しぶりだねぇ~」
「うむ。ゆりっぺはやはりこうでなくてはな」
「まさに悪魔のごとき姿でしょう」
最後の高松の言葉に一瞬眉を『ピクリ』と動かしたゆりだったが、それ以外にほとんど反応はせずに話し出す。
「皆さん大分お困りのようね。及ばずながら、私たちが力を貸すわ」
「ゆり……すまない」
「なに言ってんのよ。こういう無茶とアホは私たちの専売特許でしょ?やるっきゃないでしょう、この死んだ世界戦線元リーダー、仲村ゆり様がね」
ゆりが悪戯っぽく笑うと、音無も『違いない』と笑い返した。
「さて。まず私たちがここ数日で調べた結果から報告するわね。竹山君」
呼ばれたのは、戦線の電子機器担当、竹山だった。ここまでほとんど出番がなかったが、遂に彼が本領を発揮する時が来たらしい。
「既に調査済みです。あと、僕のことはクライストと……」
「スクリーンオープン!」
毎度おなじみの割愛にもめげず、提督机の後ろに大きな垂れ幕が降りてくる。
「いつの間にこんな仕掛け作ったんだよっ‼」
「ギルドの野郎どもが一晩でやってくれたわ」
「ギルドすげぇっ‼」
そんなツッコみを入れつつ、音無はなんとも懐かしい感覚を覚えていた。
「(あぁ……そうだった。皆とこうやって、いつもバカ騒ぎしてたっけ……)」
天使と神に対抗する、と言って様々なアホと大バカをやってきた死んだ世界戦線。
彼らの神に対する抗議活動にはなんの意味もなかったことが最終的には分かったが、あれはあれでいい青春だったのかもしれないと音無は思っていた。
あの時の、ある意味青春時代のような感覚が、すっかり蘇った音無だった。
そんなことを考えていると、竹山のパソコンと接続されたプロジェクターから映像が映し出される。
そこには、様々な映像や写真データに加えて、資源の備蓄量や艦娘の生活リズムなどを克明に記録したデータが映し出されていた。
「これは……黒野提督のパソコンの情報か!?」
「こんなものをどうやって……」
「ウチの竹山君は、かつて天才ハッカーと呼ばれた男だったのよ。ネット環境さえ繋がっていれば、こんなのちょちょいのちょいなんだから」
どうやらインターネット回線は生きているようで、今でもネットであれば世界に繋げることができるようになっているらしい。
そんな中、どちらかと言えば世代的に電子機器には疎いらしいおっさんたちは『おぉ~』と驚くばかりだ。
「あ、これよこれ。これを見てちょうだい」
そのデータには、多数の艦娘の映像や写真が保存されていた。
「むっ。どういうことだ?」
「なぜ、艦娘に艦娘が全裸で絡み合っている?それも、特別仲がいいとは言えないような子ばかりだが……」
音無も映像と写真を見ていたが、それを見てある共通点を見つけた。
「……押し倒されているのは豊満な艦娘で、押し倒しているのはどちらかと言うとつるペタ系の子ばっかりだな……」
「言われてみれば確かに」
「押し倒しているのはドイツのZ3(マックス・シュルツ)、イタリアのマエストラーレ……た、確かにそうだな」
「押し倒されているのは飛鷹や天龍、それに高雄など……うむ。音無君の言う通りムチムチ系の艦娘ばかりだ」
まるで、ロリ系とお姉ちゃん系の絡みを見ているかのような構図ばかりである。
「どういうことだ?黒野提督が自分で艦娘を手籠めにしているものとばかり思っていたのだが……」
すると、音無があることに気付いた。
「竹山!そのドイツの子の局部、そこだけ拡大できるか!?」
「できます。あと僕のことはクライストと……」
「なら頼むっ‼」
竹山が無言で拡大すると、そこには衝撃的なものが映っていた。
「これはっ……‼」
その映像や写真を見た後、音無たちは作戦を煮詰めることにした。
「では、黒野提督をこの鎮守府におびき出したうえで彼の鎮守府に乗り込み、証拠を集めることについてはこれで問題なくなった」
「異議なし。それが一番手っ取り早いだろうな」
銭形の言葉に他のメンバーも頷く。
「問題は……この鎮守府にいる間、どうやって黒野提督の気を惹き、そのうえで黒野提督の鎮守府に潜入するメンバーを選出するかだ。彼の周りには常にボディーガードが付いている。彼らを押しのけてまで気を惹けるかどうかだが……」
「それについても考えがあるわ」
ゆりの言葉に全員が視線を向ける。
「既に作戦として考えてあるの。その名も……オペレーション『シルバー・ミラージュ』よ」
「オペレーション?なんのこっちゃ?」
「気にしないで下さい銭形さん。いつものことです」
音無がなにも言わないので銭形も『そうか。若い子は大変だな』と言って控えた。
「それは……初めて聞く作戦名ですが、どのようにする気ですか?」
「簡単なことよ。黒野提督がこちらに来ている時に、彼の好みそうな接待をして気を惹くのよ。そう……」
ゆりが堂々と胸を張りながらニヤリと笑う。
「水戸黄門の『陽炎お銀』のごとく色気でだまくらかして隙を作る‼」
「シルバーとミラージュってそのまんまの意味かよっ‼」
あまりにもそのまますぎてツッコミを入れざるを得ない音無だった。
流石の元刑事のうち4人も唖然としている。
月光・美茄子だけは『メイクアップ‼』と言って『陽炎お銀刑事』に変身していたが、誰も衝撃過ぎるのかツッコミを入れてなかった。
「でも他にもちゃんと考えているのよ?黒野提督とお付きの人たちがウチに来ている間、向こうの鎮守府の守りは手薄になるわ。だから……」
ゆりが部屋の隅の方に視線をやる。そこには、かつてと同じく目立たないように椎名が立っていた。
「音無君。悪いけど川内と綾波、夕立、鳥海を借りるわ。夜間に椎名さんと一緒に潜入してもらうのよ。途中までは高松君にボートを操縦して近づいてもらうけど」
今選出したのも、夜戦に強いメンバーばかりであった。
「なるほど。小型ボートで島影とかに隠れれば見つかりにくくはなるか」
「そういうこと。島影を利用して小型船で近付いて相手に不意打ちっていう戦法、中々いいと思わないかしら?」
すると、日本軍の艦であった千歳や天龍が苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「確かに有効ですね……かつて旧軍もそれで大きな被害を受けましたから」
「えっ、そうなのか?」
そこは勉強しているのか、詳しい汚野が補足した。
「米軍には小型の魚雷艇の1つとして『PTボート』という船があった。重機関銃や機関砲を装備し、駆逐艦よりも早く、小回りの利く機動性で動き回る。それによって武装のなかった大発動艇の集団を痛めつけた実績があるのだ」
「あぁ、そういう話でしたか」
日本軍はこれに対抗するための手段を持つことができずに終わっているが、対抗手段の1つとして艦これに実装されている『装甲艇(AB艇)』という兵器がある。名前が残っているものは日本とソビエトだけが作り出したもので、日本のは『八九式中戦車』の砲塔を、ソビエトのは『Tー34』の砲塔を据え付けた船であった。
日本の場合は河川用の砲艇として中国軍との戦いに『陸軍が』投入し、ソビエトもドイツ軍の輸送船団などにこれで攻撃を仕掛けて甚大な被害をもたらしたことがある。
速力はともかく、対戦車用の長砲身砲を搭載した装甲艇があれば、こういった存在にも対処しやすくなるのである。
閑話休題。
「まぁそういうことね。椎名さん、あなたの得意技、久しぶりに見せてちょうだい」
「任せておけ」
相変わらず返事は短く不愛想にも見える椎名だが、音無は彼女が長門と共に睦月型や神風型などの小柄な子たちとよく遊んであげていることを知っている。
根っこの可愛いもの好きは全く変わっていないようだ。
「悪いな、椎名。頼むよ」
「あぁ。可愛いものを傷つける輩は……絶対に許さない」
だからこそ、黒野のようなことをする輩は絶対に許せないのだ。
椎名の瞳は一見冷静そうに見えるが、その奥には怒りの炎が燃えていた。
「厄介な相手だ。だからこそ、全力で潰す必要がある」
「音無君、大丈夫なのか?」
銭形は女の子に任せるというのが不安らしいが、音無は彼女の能力の高さを知っている。
「そして音無君。今回はちょっとあなたに不快な思いをさせることになるわ」
「どういう意味だ?」
ゆりも言いたくはないらしく、苦々しげな顔をしながら音無の顔を見た。
「鹵獲改装組の誰かに、黒野提督の接待を任せる」
「なっ!」
つまり、場合によってはベッドインする、ということである。
だが、ゆりは音無が反論しようとするのを封殺した。
「あとでいっぱい怒っていいし、どうしてもって言うなら……あたしのこと、好きに嬲ってくれていいわ。でも……きっとこれが正しいの」
「ゆり……お前、そこまで」
「こういう理不尽なことをする汚い奴らが嫌で、私たちは戦ってきた。そういう連中を好き勝手させないように、確実に黙らせるネタが必要なのよ。だから、お願い」
音無もゆりから伝わってくる覚悟が分からないほど曇った眼ではなかった。ゆりが真剣に、これならいけると思ってのことだというのは伝わってきた。
ならば、自分もそれに応える必要がある。音無はそう思った。
「分かった。だがそれは提督である俺が彼女たちに頼み込む。それが筋ってもんだ」
しかし、ゆりは首を横に振った。
「ダメよ。あなたと艦娘の信頼関係を、こんなことで壊させるわけにはいかない。なら、別の提督権限を持つ者が憎まれてでもやるしかない。そしてそれは……女で提督権限を持ち、皆を率いたことのあるアタシがやらないといけないの」
「ゆり……」
ゆりは音無に近付くと、頬を『ギュッ』と手で挟み込んだ。
「あなたはいつも通りに、あの子たちと接してあげなさい。提督さん」
ここまで言われては、音無も返す言葉がない。
「分かった。それは……ゆりに任せるよ」
「決まりね」
さらにゆりは銭形たちの方に向き直った。
「皆さん。皆さんには、黒野提督がこの鎮守府に来てから行動してもらいます。黒野提督をどっぷりと罠に嵌めたところで、私たちと皆さんでおつきのボディーガードを排除し、彼の周囲を崩す。そして最後は……憲兵でもある皆さんに手錠をかけていただくことになります」
ここまでのやり取りを見ていれば、銭形たちも分かる。目の前の少女が、自分たちの想像以上の修羅場をくぐってきた傑物であることを。
「分かった。だが他にもできることがあれば遠慮なく言ってくれ。それが、ワシら大人の役目だからな」
「銭形さんの言う通りだ。このモッコリでよければいくらでも……」
全員から速攻で『それは結構です!』とツッコまれてしまう。
だが、こうやって皆が協力してくれる。それだけは確かである。
「皆さん。よろしくお願いします」
全員が『了解』と言い、この日の会談は終了した。
それぞれが宿泊のための施設へ戻る中、千歳は1人、鹵獲改装組の5人を集めていた。
「どうしたの、千歳さん?」
「なにかありましたか?」
「やはり水上機母艦に戻って瑞雲を積みたくなったのか?」
教祖様(日向師匠)は少々黙っていてください。
千歳は意を決すると、先ほどの話をすることにした。当然、音無もゆりも知らないことである。
提督である音無やゆりではなく、鎮守府最古参の自分が言うことこそが重要だと判断したのである。
「実はね、今回黒野提督と対峙するにあたって、黒野提督をこの鎮守府に招いて、接待する必要があるの。そこで……彼が興味を抱いている、鹵獲改装組の皆さんに協力していただきたいんです」
伊勢たちも音無が危険人物である黒野提督の検挙について三提督から協力を要請されたことは知っていた。
だが、相手が鹵獲改装組に興味を持っていることまでは知らなかったため、流石に驚いている。
Saratogaが千歳に問いかけた。
「それは……提督のご意思ですか?」
千歳は『いいえ』ときっぱり否定した。
「提督はこのことを、ゆりさんに提案された時に真っ先に反対しました。しかし、ゆりさんは終わった後で自分のことを好きにして構わないと断言してまで強行させようとしました」
自分を差し出すという選択を提案したことに、加賀たちはまた驚いた。
「ゆりさんは提督に、これを言わせる気はなかったようです。自分が憎まれ役になるつもりです」
鹵獲改装組の面々はゆりと話をすることも多いからか、なんとなく彼女の人柄は理解していた。だからか伊勢も、『あの人らしいな』と言って納得していた。
だが、加賀はそれだけに疑問が生まれたらしい。
「ですが、それでなぜ千歳さんが私たちに?」
千歳は『簡単なことです』と続けた。
「そのようなことで、提督とゆりさんの仲にひびが入るようなことがあってはいけないと思っただけです」
「それだけ?」
伊勢の言葉に千歳は一瞬顔を背けた。
「違います。できれば、その……皆さんに提督やゆりさんを嫌いになって欲しくない……そう思ってるからむぎゅっ!?」
すると、Saratogaがいきなり千歳の顔を豊満な胸元に埋めた。強烈すぎる乳圧に呼吸ができなくなってジタバタする千歳だったが、すぐに解放された。
「な、なにするんですかサラトガさん!?」
「千歳。私は今、猛烈に怒っているのですよ」
Saratogaは顔を真っ赤にしている。恥ずかしさではなく、怒りによる興奮でだ。
「私たちはあの提督のためであれば、この体を使うことになんら抵抗はありません!提督が気にされるというのであれば、その罰は甘んじて受けましょう」
翔鶴もコクリと頷く。
「私たちは既に深海棲艦に穢された身です。今更矮小な輩に多少汚されたところで、どうということはありません」
伊勢と日向も続ける。
「っていうか、むしろそれなら後で『汚されたから上書きして~』って甘えることだってできるしっ」
「まぁ、そうなるな」
「皆さん……」
「それに、むしろ罰という名目で強姦されるのであれば望むところです」
加賀が鼻息荒く『むふーっ』と唸るが、他の4人は流石にそこまでの性癖は持っていないようで冷や汗を流しながら加賀から若干距離を取る。
だが、そこまで言われれば千歳も心を決める。
「分かりました。では、どなたかよろしくお願いします」
5人は『了解』と言うと、誰が担当になるか話し始めるのだった。
だが、その後に音無に抱いてもらうということになるからか、『自分が、自分が』と逆に主張し合うことになり、しばらくは小田原評定になるのだった。
はい、というわけであぶない連中とアホ共の作戦会議でした。
死んだ世界戦線の会議っぽいネタも書きたかったんだぁ……
また来週!